説明

タイル施工構造

【課題】条数の多い目地を容易に形成でき、しかも仕上り外観もきわめて良好なタイル施工構造を提供することを目的とする。
【解決手段】タイル1の表面のうち凹条5を除く最表面が施釉されて釉7で覆われていると共に、凹条5の底面も施釉されて防水層としての釉8で覆われている。タイル1は、下地4に対し有機系接着剤3で張り付けられている。タイル1同士の間には目地間隙があいている。塗り目地を施すことにより、この目地間隙にセメント系目地材2(2a)が目地詰めされ、凹条5にセメント系目地材2(2b)が目地詰めされている。目地材2a,2bのタイル1への吸水が抑制され、両目地材が略同色となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はタイル施工構造に係り、特に表面に擬似目地と通称される凹条を有したタイルの施工構造に関する。
【背景技術】
【0002】
タイルを壁面や床面に張り付け施工する場合、タイル同士の間に所定の目地間隔をあけてタイルをモルタルや接着剤で張り付けた後、塗り目地法によって目地詰めすることが多い。
【0003】
なお、塗り目地法とはスラリー状の目地材料をタイル張り付け面の全面に塗布して塗り伸ばし、目地に充填した後、タイル表面の目地材料を拭き取るようにした目地充填方法である。
【0004】
このような方形のタイルを塗り目地法によって施工した構造にあっては、目地がタイル同士の間にのみ現われることになり、意匠のバリエーションが制限される。タイルを小さくすれば目地の条数を増やすことができるが、タイル張り付けの手間がかかり施工能率がかなり悪くなる。
【0005】
このような問題に対処するために、図4に示すように、表面に凹条5を有するタイル6を下地4に張り付けて塗り目地することが考えられる。このタイル6を用いれば、目地材2はタイル6同士の目地間隙だけでなく凹条5にも充填されるので、タイルを小形化することなく目地の条数を増やすことができ、タイル張り付けの手間も増えない。なお、図4(c)はこのタイル6の斜視図、図4(a)はこのタイル6を下地4に張り付けた(塗り目地前の)斜視断面図、図4(b)は塗り目地後の斜視断面図である。
【0006】
上記のような凹条5は擬似目地と称されることがある。このような擬似目地を有したタイルは、実開昭62−75151号等に記載されている。
【0007】
なお、タイル6を下地に張り付ける場合、有機系接着剤3を用いることがある。この有機系接着剤は、水を透過させにくい性質を有する。
【特許文献1】実開昭62−75151号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
有機系接着剤を用いて図4のようにタイル張り施工した壁又は床においては、タイル6間の目地間隙に充填されたセメント系目地材2(2a)中の水分が下地4に吸収されにくいのに対し、凹条5に充填された目地材2(2b)はタイル6に吸収され易いので、目地詰めした後、硬化する際に、目地材2a,2bで色合いに差異が生じ、外観上の違和感が生じることがある。
【0009】
本発明は、条数の多い目地を容易に形成でき、しかも仕上り外観もきわめて良好なタイル施工構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1のタイル施工構造は、表面に凹条が設けられたタイルの施工構造であって、複数枚の該タイルが相互間に目地間隙をあけて有機系接着剤で下地に張り付けられ、該凹条及び目地間隙にセメント系目地材が充填されているタイル施工構造において、該凹条の底面に防水層が設けられていることを特徴とするものである。
【0011】
請求項2のタイル施工構造は、請求項1において、さらに前記タイルの側端面に防水層が設けられていることを特徴とするものである。
【0012】
請求項3のタイル施工構造は、請求項1又は2において、前記防水層は釉よりなることを特徴とするものである。
【0013】
請求項4のタイル施工構造は、請求項1ないし3のいずれか1項において、前記凹条を挟んで隣接するタイル表面の2領域が異色であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明のタイル施工構造にあっては、凹条の底面に防水層が設けられているので、凹条に目地詰めされたセメント系目地材からタイルへの吸水が抑制され、凹条のセメント系目地材と本来のタイル間の目地間隙のセメント系目地材とで水分含有率が略々等しいものとなる。これにより、凹条と目地間隙とでセメント系目地材が略同色となり、外観が良好となる。
【0015】
請求項2のタイル施工構造にあっては、タイルの側端面からの吸水が抑制される。この側端面と目地間隙のセメント系目地材との接触面積が大きいところから、この側端面からの吸水を防水層によって抑制することにより、目地間隙のセメント系目地材と凹条のセメント系目地材との水分含有率を等しくし易くなる。
【0016】
請求項3の通り、防水層を釉とした場合、タイル表面の施釉に併せて防水層を形成することが可能である。
【0017】
請求項4のタイル施工構造にあっては、凹条(擬似目地)を挟んだ2領域が異色であるため、セメント目地材硬化後の色の違いが目立ちにくい。さらに、タイル仕上り外観は、小さいタイルを施工したように視覚され、美観が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、図面を参照して実施の形態について説明する。
【0019】
図1(a)は実施の形態に係るタイル施工構造を示す断面図、図1(b)は別の実施の形態に係るタイル施工構造を示す断面図、図2はさらに別の実施の形態に係るタイル施工構造を示す断面図である。図3(a)は異なる実施の形態に用いられるタイルの斜視図、図3(b)は同(a)のタイルを用いたタイル施工構造の斜視図である。なお、図1〜3では目地幅及び凹条幅が実際より大きく示されている。
【0020】
図1(a)において、タイル1は、表面に複数の凹条5が平行に設けられたものであり、前記図4(c)のタイル6と同様の外観のものである。このタイル1がタイル6と異なるのは、タイル1の表面のうち凹条5を除く最表面が施釉(釉掛け及び焼成)されて釉7で覆われていると共に、凹条5の底面も施釉されて防水層としての釉8で覆われている点にあり、その他はタイル1とタイル6とは同一である。
【0021】
この釉8は、釉7を形成するときに併せて形成されるのが好ましい。なお、スプレー掛けにより釉掛けするときには、釉7と一緒に釉8も釉掛けされる。
【0022】
図1では凹条5は2条設けられているが、1条又は3条以上であってもよい。
【0023】
このタイル1は、下地4に対し有機系接着剤3で張り付けられている。有機系接着剤3はアクリル系、ウレタン系、エポキシ系、変成シリコン系のものから、適宜選択して使用する。タイル1同士の間には目地間隙があいている。塗り目地を施すことにより、この目地間隙にセメント系目地材2(2a)が目地詰めされ、凹条5にもセメント系目地材2(2b)が目地詰めされている。
【0024】
このように構成されたタイル施工構造にあっては、目地間隙に目地詰めされたセメント系目地材2aから下地4への給水は、有機系接着剤3により抑制される。また、凹条5の底面に防水層として釉8が設けられているので、凹条5に目地詰めされたセメント系目地材2bからタイル1への吸水が抑制される。この結果、凹条5のセメント系目地材2bと本来のタイル間の目地間隙のセメント系目地材2aとで水分含有率が略々等しいものとなる。これにより、セメント系目地材2a,2bが略同色となり、外観が良好となる。
【0025】
図1(b)の実施の形態では、タイル1Aの側端面にも防水層として釉9が設けられている。その他の構成は、図1(a)と同一であり、同一符号は同一部分を示している。
【0026】
この図1(b)のタイル施工構造にあっては、タイル1Aの側端面からの吸水が釉9によって抑制される。この側端面と目地間隙のセメント系目地材2aとの接触面積が大きいところから、この側端面からの吸水を防水層としての釉9によって抑制することにより、目地間隙のセメント系目地材2aと凹条のセメント系目地材2bとの水分含有率を等しくし、セメント系目地材硬化後の両者を色合いを略同一とすることが容易となる。
【0027】
図2の実施の形態では、タイル1Bの凹条5’がアリ形(入口よりも奥の方が幅広となっている形状)のものとされている。このアリ形の凹条5’の両側面にも防水層として釉10が設けられている。図2のその他の構成は図1(b)と同一であり、同一符号は同一部分を示している。
【0028】
この実施の形態でも、タイル1Bの側端面に防水層として釉9が設けられているので、セメント系目地材2aからタイル1Bへの吸水が抑制される。
【0029】
この実施の形態では、凹条5’の底面と両側面にも釉8,10が設けられているので、セメント系目地材2bからタイル1Bへの吸水が一段と抑制される。これにより、目地材2a,2bの水分含有率を略等しくし、両者の色合いを略等しくすることが容易となる。
【0030】
なお、この実施の形態では、目地材2bとタイル1Bとの全ての界面に釉8,10が存在し、目地材2bのタイル1Bの素地との直接の付着はない。しかしながら、凹条5’をアリ形としているため、目地材2bが凹条5’に嵌合保持されるようになり、目地材2bが脱落することはない。
【0031】
上記実施の形態では、凹条5,5’は平行な直線状であり、目地はストライプ状に視覚されるが、本発明では図3(a)のタイル10のように格子状の凹条11を設けてもよい。
【0032】
この凹条11の底面に防水層として釉12が設けられている。なお、タイル10の側端面にも釉を設けてもよく、図示は省略するが、凹条11をアリ形とし凹条の側面にも釉を設けてもよい。
【0033】
図3(b)のように、凹条11とタイル10間の目地間隙とに連続してセメント系目地材2を目地詰めすることにより、格子状の目地が形成される。この格子状の目地は全体として略同色であり美観に優れる。
【0034】
本発明では、凹条を挟んで隣接するタイル表面領域同士を異色としてもよい。このようにすれば、小さいタイルを施工したように視覚され、美観が向上する。
【0035】
図3(b)では、A,B,Cはそれぞれ互いに異なる色を示している。この場合、正方形のモザイクタイルを多数施工したように施工され、美観が著しく向上する。色A,B,Cの組み合わせを例示すると、次の通りである。
A:白、B:グレー、C:黒
A:白、B:オレンジ、C:赤
A:白、B:青、C:紺
A:白、B:黄緑、C:緑
A:赤、B:黄、C:オレンジ
A:青、B:黄、C:黄緑
【0036】
上記実施の形態は、いずれも本発明の一例であり、本発明は図示の態様に限定されない。例えば、釉以外の材料によって防水層を形成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】図1(a)は実施の形態に係るタイル施工構造を示す断面図、図1(b)は別の実施の形態に係るタイル施工構造を示す断面図である。
【図2】さらに別の実施の形態に係るタイル施工構造を示す断面図である。
【図3】図3(a)は異なる実施の形態に用いられるタイルの斜視図、図3(b)は同(a)のタイルを用いたタイル施工構造の斜視図である。
【図4】従来例の説明図である。
【符号の説明】
【0038】
1,1A,1B,10 タイル
2,2a,2b セメント系目地材
3 有機系接着剤
5,5’,11 凹条
7,8,9,12 釉

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に凹条が設けられたタイルの施工構造であって、
複数枚の該タイルが相互間に目地間隙をあけて有機系接着剤で下地に張り付けられ、該凹条及び目地間隙にセメント系目地材が充填されているタイル施工構造において、
該凹条の底面に防水層が設けられていることを特徴とするタイル施工構造。
【請求項2】
請求項1において、さらに前記タイルの側端面に防水層が設けられていることを特徴とするタイル施工構造。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記防水層は釉よりなることを特徴とするタイル施工構造。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、前記凹条を挟んで隣接するタイル表面の2領域が異色であることを特徴とするタイル施工構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−179977(P2008−179977A)
【公開日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−13968(P2007−13968)
【出願日】平成19年1月24日(2007.1.24)
【出願人】(000000479)株式会社INAX (1,429)
【Fターム(参考)】