説明

タイル補強方法

【課題】本発明は建物における面上に貼付されたタイルの補強方法に関し、タイルとしての美観を損なうことなく、建物外壁や床面に貼付されたタイルの確実な補強を行いうることを目的とする。
【解決手段】矩体10の面上にモルタル下地層14によって敷き詰められたタイル12の全面をマスキングテープ18によりマスクする。ロールからのマスキングテープ18の引き出し方向に沿ったタイル12間の目地に沿ってマスキングテープ18を切断し、切断縁18´を折り曲げる。マスキングテープ18の切断縁18´の折り曲げにより露出された目地の部位に下塗塗料(プライマー)を塗工し、得られたプライマー層20にガラス繊維含有塗料を塗着し、塗料層22を形成する。塗装後にマスキングテープ18を剥離除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は建物における面上に貼付されたタイルの補強方法に関し、建物外壁からのタイルの剥落の防止に役立てることができるものである。
【背景技術】
【0002】
建物外壁や床面などにおけるタイルは矩体表面にモルタルを介して貼付されている。しかしながら、目地の部位からの経年的な雨水(特に酸性雨)の浸透によりモルタルは中性化し、モルタル表面やタイル隙間や浮きタイル部分のモルタルの粉状化が惹起され、タイルと矩体との接合状態が弱化されやすい。従って、外壁にタイルを貼り付けた建物においては、タイルの剥離や剥落は構造的かつ本来的な問題であり、従来は剥離タイルや浮きタイルに対する個々の対応であったが、個人の建物であればともかく高層建物では対応できず、根本的な補強方法として、タイル外壁全面にガラスマットやガラスクロスをあてがい、その上から不飽和ポリエステル樹脂を塗布することにより、透明のFRP樹脂層を形成し、その表面に耐光性が良好な透明塗料を塗布するものが提案されていた(特許文献1)。
【特許文献1】特公平3−80230号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
タイル外壁全面をガラスマットやガラスクロスで当てがい、樹脂を塗布することによりFRP樹脂層化することは、補強対策としては比較的強力であるが、目地が深い場合などの施工が技術的に困難であり、タイル表面に形成されたFRP樹脂層は透明とはいえタイル表面が醸し出す固有の美観を損なう恐れが大きく、施工法自体としても大きな欠陥を内方している。
【0004】
この発明は以上の問題点に鑑みてなされたものであり、タイルとしての美観を損なうことなく、建物外壁や床面に貼付されたタイルの確実な補強を行いうる新規な方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明になる、建物における面上に貼付されたタイルの補強方法にあっては、タイルの目地の部分のみに浸透性の液状樹脂強化剤を塗布し、液状樹脂強化剤を矩体に対するタイル接合面に浸透させ乾燥固化させている。
【0006】
タイルの目地部分に対する液状樹脂強化剤の塗布はタイルの表面部位をマスキング材によりマスキングしつつ行うことができる。マスキング材としては代表的にはマスキングテープを用いることができる。マスキングテープの代わり型マスキング液を使用することができる。この種のマスキング液はラテックスを含みマスク面に塗布されると膜状に固化し、膜を剥離除去させることにより除去可能なものである。
【0007】
浸透性の液状樹脂強化剤としては浸透性の下地塗装液(プライマー)とすることができる。
【0008】
マスキングテープによりマスキングした状態で目地部分に対する下地塗装液の塗布乾燥後に樹脂塗料を塗布することができる。また、樹脂塗料は、所定長さに裁断されかつ紡糸工程における結束剤を除去することにより個々に分散された強化繊維を含有したものを使用することができる。下地塗装液は透明なものが多く、紫外線を通すため劣化を受けやすいが顔料を含んだ塗料を塗布することにより非透光性となり、紫外線をブロックするため要強化面に含浸された下地塗装液の早期劣化の対策とすることができる。
【発明の効果】
【0009】
タイルの目地の部分のみに浸透性の下地塗装液(プライマー)等の浸透性の液状樹脂強化剤を塗布することにより、液状樹脂強化剤は矩体に対するタイルの接続部位まで浸透され、乾燥固化することにより矩体面に対しタイルを強固に固定化することができ、タイルの表面はそのままであるのでタイルの美観を損なうことが皆無である。
【0010】
浸透性の液状樹脂強化剤の塗布に先立ってタイルの表面部分をマスキングテープによりマスキングすることにより、補強すべきタイル面が建物の広範な場合にあって、液状樹脂強化剤の塗布をタイルの目地の部分のみに確実にかつ迅速に行うことができ、塗布後はマスキングテープを一挙に剥離することができ、タイル補強時の作業性を著しく高めることができる。
【0011】
浸透性の液状樹脂強化剤としての下地塗装に加え、樹脂塗料を塗布することにより、矩体表面に対するタイルの接続をより強化することができ、かつ補強の効果の持続性をより高めることができる。そして、樹脂塗料として、所定長さに裁断されかつ紡糸工程における結束剤を除去することにより個々に分散された強化繊維を含有したものを使用することにより、矩体表面に対するタイルの接続強度を最大限に高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
この発明において、タイルの目地の部分に塗布される浸透性の液状樹脂強化剤としては浸透性の下地塗装液(プライマー)が好ましく、そのようなプライマーとしてはエポキシ系のプライマーが代表的であり、トルエンなどの溶剤により適当な濃度10〜20wt%)に調整して使用するのが好ましい。目地の部位に塗布されたプライマーは劣化が激しい場合矩体に対するタイルの接続部位まで浸透され、乾燥・固化することにより矩体面に対するタイルの強固な接続状態を確保することに寄与することができる。このときの、薄めの度合いが大きいほど浸透性は高いがやせる量も多くなる。
【0013】
タイルの目地の部分へのプライマーの塗布・乾燥後に樹脂塗料の塗布が行われ、得るべき塗布層の厚みとしては0.3〜0.5mm が好ましい。樹脂塗料としてはプライマーがエポキシ系のプライマーである場合は、アクリル系の塗料であることが好適である。そして、矩体に対するタイル接合部の強度を高めるため、アクリルエマルジョン系の塗料に、所定長さに裁断されかつ紡糸工程における結束剤を除去することにより個々に分散されたガラス繊維などの強化繊維を混合したものを採用することができる。ガラス繊維を混入した塗料については、この出願人と同一の出願人に係る特開2001−089265号公報に開示されている。即ち、この技術によれば、紡糸後のガラス繊維マルチフィラメント(ガラス繊維ストランド)は個々のフィラメントの太さが3〜10μmであり、3mm〜6mmの所定長さにチップに切断され、切断されたガラス繊維チップは溶剤中に浸漬されることにより紡糸工程で付与された結束剤が除去され、個々の繊維に分散される。分散された裁断ガラス繊維は塗料と混合される。塗料に対するガラス繊維の混合率としては0.3〜1.5wt%である。ばらばらにされた裁断ガラス繊維を混入された塗料により塗膜に塗膜を形成することにより、矩体に対するタイルの接続部の強度を極限まで高めることができ、タイルの最大限の補強効果を得ることができる。
【0014】
次に、この発明になる、建物壁面や床面に貼付された深目地タイルの補強工事の手法について説明すると、図1において、10は矩体コンクリート壁面、12は建物壁面(直立面)に配置されたタイル、14はモルタル接着層であり、隣接のタイル間のモルタル層14が目地16となっている。目地は隣接するタイル12間を縦方向及び横方向に設けられている。図示の実施形態の場合は目地16におけるモルタル層は薄くなっているが、タイル12の表面と面一近くまで目地におけるモルタル層が厚い場合においてもこの発明は適用可能である。
【0015】
この発明の実施形態におけるタイル補強の第1段階として、タイル12の表面及び目地16の部位を含め、補強を要する壁面の全体にマスキングテープが貼着される。図2において、マスキングテープは18にて示され、マスキングテープ18は所定の幅のものがロールに巻かれたものが市販されている。マスキングテープ18はロールから繰り出され、この実施形態では、水平方向に貼着され、上下のマスキングテープ18は隙間が生じないように密接され、必要あれば、上下に隣接するマスキングテープ18は縁部同士で重ねることにより隙間の発生を完全に排除することができる。このようにして、タイル12の表面及び目地16の部位を含めた壁面の全面がマスキングテープ18によりマスキングされる。
【0016】
次にマスキングテープ18の繰り出し方向(水平方向)において、目地の中心線に沿ってマスキングテープ18をカッタにより切断する。図3において、Lはそのような切断線を示している。
【0017】
次の段階は図4に示され、切断線に沿ってマスキングテープ18の切断縁18´を目地16に向けて折込む。マスキングテープ18の切断縁18´の折り込みによってタイル12間における目地16のうち水平方向(ロール2らのマスキングテープ18の繰り出し方向)の部分16´が水平方向の直線に沿って露出される。
【0018】
次の段階は図5にて示され、水平方向の目地露出部16´に浸透性液状樹脂としてのプライマーの塗布が行われる。プライマーの塗布により形成された塗膜を図5(ロ)において20にて模式的に示す。プライマーはその浸透性によって目地の部位を介して下地層14に広範に浸透され、矩体10とタイル12間における下地層14の部位にもプライマーは浸透することができる。そのため、プライマーの乾燥・固化により矩体10に対するタイル12の連結の強化を実現することができる。目地16におけるモルタル層がタイル表面近くまで厚い場合においては、目地の劣化によってタイル側面に対して隙間ができるため、この隙間を通してプライマーの浸透が行われ、矩体10とタイル12との連結強化をじ実現することができる。そして、プライマーの乾燥後に目地露出部16´へのアクリル系などの樹脂塗料の塗布が行われる。得られた塗膜を図5(ハ)においてにて示す。塗料にはガラス繊維ストランドを所定長さに切断したチップより紡糸収束剤を溶剤にて除去してばらばらにしたガラス繊維切断片が混合されているのが好ましい。ガラス繊維を混入した塗料は乾燥後に強固な塗膜を形成し、プライマー層20の浸透作用と相俟って矩体10に対するタイル12の接合強化を最大限に発揮させることができる。また、プライマーは透明なことが多く、プライマーのみの処理の場合は紫外線の透過による浸透面の早期劣化の懸念があるが、顔料を含んだ塗料の塗布により紫外線の遮断が行われ、樹脂層(プライマ浸透層)による補強効果を長期に亘って確保することができる。
【0019】
ガラス繊維混入塗料の塗布乾燥後にマスキングテープ18が剥離される。マスキングテープ18は水平方向のタイル12の面に沿って貼着されているため、マスキングテープ18を端から引っ張ってゆくことにより一挙に剥離操作を行うことができる。マスキングテープの採用によりタイル面の美観を少しも損なうことなく、目地部位に対する必要量の塗料の塗布を効率的に行うことができる。図6はマスキングテープ剥離後の状態を示しており、水平方向の目地に沿って塗膜22が延びている。縦方向の目地には塗膜は形成されていないが、ガラス繊維混入塗料による塗膜の強度は大きく、・初期のタイルの剥離防止機能を達成のためには支障はない。タイルの水平側の目地にのみ塗膜を形成していることにともなう外観上の違和感を解消するため、塗材としては目地色なものを採用することが好適である。尚、マスキングテープ18の剥離前に、垂直方向の目地についても複数の細刷毛操作によりタイル一枚一枚塗膜形成をすることは可能である。
【0020】
尚、図3において、タイル面にマスキングテープを貼付した後のカット操作としては、切断線を一本一本入れることもできるが、作業効率を高めるため、保持枠に図3のカットラインLの間隔に応じた間隔で位置する複数の切断刃を保持した切断具を設け、切断具を水平移動させることにより複数の切断ラインLを一挙に引いてしまうように工夫することが可能である。また、図3において、目地露出部16´への塗布作業の効率化のため、目地露出部16´の間隔に応じた間隔で位置する複数の塗装ガンを保持した塗装具を設け、複数の塗装ガンよりプライマーや塗料を圧力下で吐出させつつ、塗装具を水平移動させることにより複数の目地露出部16´での塗布作業を一挙に行ってしまうように工夫することが可能である。
【実施例】
【0021】
コンクリート矩体外壁面に大きさ4.5×9cmのタイルをモルタル下地層で貼り付けた 築2.5年の建物において、以下方法によるタイル補強を行った。即ち、タイル面の全面に市販のマスキングテープを貼り付け、水平方向の目地の中心線に沿ってマスキングテープを切断し、切断縁を内側に折り曲げることにより、水平方向の目地面を露出させ、この露出目地面にエポキシ系プライマー(“大同塗料”製の品名“含浸プライマ”)を塗装ガンを使用し5kg/cm2の圧力下で噴霧塗着させた。プライマーの乾燥後、ガラス繊維含有樹脂塗料を吐出圧力12kg/cm2の細口ノズルにより塗布し、塗膜を形成した。この際ガラス繊維含有したアクリル塗料の調整のため、単糸の太さ10μのフィラメント400本を集束剤を付しつつ紡糸し3ミリメートルに切断することによりチョップストランドとしたもの(日東紡株式会社製のチョップドストランドSMC)を準備し、チョップドストランドをトルエンに浸漬することにより集束剤を溶融し、その後アルコール中に浸漬し、個々の繊維がバラバラに分離したものを準備し、これをアクリルエマルジョン塗料(東日本塗料株式会社製の品名“ノントップ”)に10wt%にて混合したものを使用した。そして、塗膜形成後マスキングテープを除去した。強化後に引っ張り試験機による接着力試験を行った。
【比較例】
【0022】
試験コンクリート壁面に大きさ4.5×9cmの磁器タイルをモルタル下地層で貼り付ける通常の作業を行うことで、通常工法によるタイル面を得た。
【0023】
塗膜が完成後のタイルの剥離試験により剥離応力を試験したところ、本実施例の接着強度は0.8N/mm2、破断塗膜厚平均0.2mmであり、通常工法の場合のタイルの剥離応力(0.6N/mm2と比較すると、0.2mm厚で新築時の強度回復が得られ、本実施例によるタイル補強効果が明らかとなった。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】図1(イ)はこの発明の補強処理前のタイル面の正面図であり、(ロ)は(イ)のA-A線に沿った矢視断面図である。
【図2】図2(イ)はマスキング後の正面図であり、(ロ)は(イ)のA-A線に沿った矢視断面図である。
【図3】図3(イ)は目地中央線に沿った切断線を示す正面図であり、(ロ)は(イ)のA-A線に沿った矢視断面図である。
【図4】図4(イ)は目地中央線に沿った切断後の正面図であり、(ロ)は(イ)のA-A線に沿った矢視断面図である。
【図5】図5(イ)は開口した目地部位に塗着後の正面図であり、(ロ)はプライマー塗布5.のA-A線に沿った矢視断面図であり、(ハ)は塗料の塗着後の同様な断面図である。
【図6】図6(イ)はマスキングテープ除去後の強化処理完了後の正面図であり、(ロ)は(イ)のA-A線に沿った矢視断面図である。
【符号の説明】
【0025】
10…矩体コンクリート壁面
12…タイル
14…モルタル接着層
16…目地
16´…目地露出部
18…マスキングテープ
18´…マスキングテープ切断縁
20…プライマー塗布層
22…仕上塗料層







【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物における面上に貼付されたタイルの補強方法であって、タイルの目地の部分のみに浸透性の液状樹脂強化剤を塗布し、液状樹脂強化剤を矩体に対するタイル接合面に浸透させ乾燥固化させることよりなるタイル補強方法。
【請求項2】
建物における面上に貼付されたタイルの補強方法であって、タイルの表面部位をマスキング材によりマスキングしつつ浸透性の液状樹脂強化剤を目地の部位に塗布し、その後にマスキング材を除去させることを特徴とするタイル補強方法。
【請求項3】
建物における面上に貼付されたタイルの補強方法であって、タイルの目地の部分に浸透性の下地塗装液を塗布した後、下地塗装液を塗布した目地の部位に樹脂塗料塗布することよりなるタイル補強方法。
【請求項4】
建物における面上に貼付されたタイルの補強方法であって、タイルの表面部位をマスキング材によりマスキングしつつ浸透性の下地塗装液を目地の部位に塗布し、次いで下地塗装液を塗布した目地の部位に樹脂塗料を塗布し、その後マスキング材を除去させることを特徴とするタイル補強方法。
【請求項5】
請求項3若しくは4に記載の発明において、前記樹脂塗料は、所定長さに裁断されかつ紡糸工程における結束剤を除去することにより個々に分散された強化繊維を含有していることを特徴とするタイル補強方法。







【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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