説明

タイル

【課題】従来のタイルよりも下地コンクリートのひずみに、より追従するタイルを提供すること。
【解決手段】
コンクリート部材表面に配設される、外形が方形のタイルであって、前記コンクリート部材に対する取付面の、一方の幅方向の略中央に他方の幅方向に形成された第1の蟻溝と、前記第1の蟻溝と同方向に前記第1の蟻溝の底部に形成された少なくとも一つの第2の蟻溝と、を備えたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はコンクリート部材の表面に配設されるタイルに関する。
【背景技術】
【0002】
建築物のコンクリート柱やコンクリート壁にタイルを配設する場合、タイルの剥離、剥落が安全上の最大の課題であり、従来より、様々な方法が採られている。例えば、図7(a)及び(b)に示すように、タイルの取付面に略同形状の蟻足形断面を有する複数の蟻溝(以下単に蟻溝と称する)を設け、この蟻溝に張付けモルタルやコンクリートを入り込ませることによりタイルとコンクリートとを物理的に嵌合させ接着性を高める方法がある。また、非特許文献1では、タイルの側面にテーパを設け、目地部を楔型に形成することで、下地コンクリートのひずみにより追従させ、タイルを剥離、剥落しにくくする方法が挙げられている。
【0003】
特にタイルを型枠側に取り付け、コンクリートを打設することによって配設する工法は、タイル先付け、又はタイル打込みと呼ばれている。この工法でタイルが張付けられたPCa部材は、白華が発生しにくい、仕上精度がよい、剥離、剥落が極めて少ないことから、タイル張りの優れた工法として認識され、広く実施されている。
【0004】
一方、近年では、マンション等の高層建築物の超高層化により、現場打ち、PCa部材にかかわらず、RC柱に使用されるコンクリートの設計基準強度も年々高くなり、150N/mm2の超高強度コンクリートも実際に施工されるようになってきている。非特許文献2では、コンクリート柱が高強度になればなるほど、コンクリート硬化時の収縮、柱軸力による収縮、長期クリープによる収縮、或いは、地震時の収縮を含む様々な方向の変形が大きくなり、タイルが剥離、剥落する割合が高まる畏れがあることが報告されている。なお、非特許文献2では、無筋コンクリート試験体を用いて検討しているので、実際のコンクリート柱(鉄筋コンクリート柱)とは、若干異なる挙動があると推定されるが、タイルの剥離・剥落の破壊形態は、実際の柱と同様と考えられる。
【0005】
【非特許文献1】「剥離防止性能が高いタイル先付けPC工法の研究」,日本建築学会大会学術講演梗概集,2006年9月
【非特許文献2】「高強度コンクリート柱へのタイル先付け仕上げのひずみ追従性に関する研究」,コンクリート工学年次論文報告集,2006年,vol28,No1,pp.455〜460
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
非特許文献2には、圧縮強度が相対的に低いコンクリート試験体では、タイルとの接合界面部分(図7(b)で破線d1で示す、蟻溝の入口部分)においてコンクリートがせん断破壊し、また、圧縮強度が相対的に高い超高強度コンクリート試験体では、タイルの裏足(タイル裏面のうち、蟻溝の形成により残った残余部分)、特に裏足基部(図7(b)で破線d0で示す、蟻溝の底部と同一平面上に位置する部分)がせん断破壊し、タイルが剥離した実験例が記載されている。
【0007】
この記載を詳細に見ると、コンクリート強度が150N/mm2になると、従来のタイルの剥離は、図7(b)に示した、タイル端部の裏足基部d0から生じ、さらに各個撃破的に中央側に破壊が進んで、図7(b)に示した接合界面部分d1の破壊、最後には全ての裏足基部がせん断破壊することも記載されている。
【0008】
この現象は、タイルが、その蟻溝を水平方向として柱に配設された場合に顕著に表れる。蟻溝を水平方向としてタイルが柱に配設された場合には、タイル側で最大の応力が発生する部位は裏足基部、それも上下方向端部であり、一方コンクリート側では蟻溝の入口部分の接合界面部分にあることが理解される。
【0009】
蟻溝を形成したことで形成された裏足基部、特にタイルの両端部の裏足基部には、垂直方向のせん断力と面外方向の引張力及び曲げ力が作用する。この裏足基部は周囲より幅が狭く、各種の応力が集中しやすい。コンクリート強度が高くなれば、次第にタイル側の応力がより集中する部分、すなわち裏足基部、それもタイルの両端部側の裏足基部が破壊しやすくなる。
【0010】
非特許文献2の結果よると、同文献においてF90シリーズと称されている試験体では、他のシリーズの試験体と異なり、2000μの最大ひずみで明確な剥離が生じなかったことから、F90シリーズの試験体のコンクリート強度程度で、タイル側とコンクリート側で発生する応力が各々の破壊強度に対する割合がほぼ等しくなることが推定される。すなわち、設計基準強度100N/mm2以上のコンクリートにタイルを先付けする場合には、下地コンクリートひずみにより追従するタイルを使用することが好ましいと言える。
【0011】
ところで、設計基準強度が50N/mm2のコンクリートを用いたタイル先付けPCa柱としては5年程度経過したものが実在するが、タイルの剥離、剥落は現時点では報告されていない。これは、タイルとの接合界面付近のコンクリートのクリープ変形で応力緩和されている可能性が高いと考えられ、今後も剥離・剥落する可能性は低いと考えられる。より高強度の、圧縮強度が150N/mm2クラスのコンクリートの場合でも、同様にクリープで応力緩和され、タイルの裏足が破断する可能性は低いと考えられる。しかしながら、より高軸力をかける場合等、設計の自由度を高め、更なる安全性を確保するためには、より下地コンクリートのひずみに追従するタイルを採用することが望ましい。なお、タイル先付けPCa柱の場合には、コンクリートの硬化時の収縮もタイルを収縮させること、現場で打設した高強度コンクリートに後張りする場合には、このコンクリートの硬化に伴う収縮の影響はなくなるものの接着強度が先付けに比べて低いかつ部分的に接着不良箇所が発生しやすいこと等の問題があり、何れの場合でも下地コンクリートひずみにより追従するタイルを使用することが好ましいと言える。
【0012】
従って、本発明の目的は、従来のタイルよりも下地コンクリートのひずみに、より追従するタイルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明によれば、コンクリート部材表面に配設される、外形が方形のタイルであって、前記コンクリート部材に対する取付面の、一方の幅方向の略中央に他方の幅方向に一つ形成された第1の蟻溝と、前記第1の蟻溝と同方向に前記第1の蟻溝の底部に形成された少なくとも一つの第2の蟻溝と、を備えたことを特徴とするタイルが提供される。ここで、蟻溝とはその底部及び両側部を裏面と平行に結んだ最大の幅が蟻溝の入口の幅よりも広いものを言う。すなわち、一般的に湿式法及び乾式法と称される製法で製造される外壁用タイルの蟻溝形状は本発明の蟻溝に含まれる。
【0014】
この構成によれば、前記第1の蟻溝を、前記取付面の、一方の幅方向の略中央に他方の幅方向に形成したので、コンクリートが高強度化した場合であっても、タイル側で最も破壊しやすい裏足の幅、特に裏足基部の幅を従来のものより広くすることができ、下地コンクリートのひずみ発生時に発生する応力を、より広い面積で負担し、分散することができるので、より大きなひずみに耐えることができる。一方、前記第1の蟻溝の底部には前記第2の蟻溝を形成したので、蟻溝を下地コンクリートが大きく収縮する方向と直角方向にタイルを配した場合には、タイル中央部が薄くなっているので曲がりやすく、タイル上下端部に発生する応力を低下するように働く。またタイル中央部でタイルとコンクリートが物理的に嵌合するので接着の安定性が高まる。よって、従来のタイルよりも下地コンクリートのひずみに、より追従するタイルを提供することができる。
【0015】
反対に蟻溝を下地コンクリートが大きく収縮する方向と平行にタイルを配した場合には、蟻足基部の幅が従来のタイルに比べて広くすることができるので、下地コンクリートのひずみ発生時に発生する応力をより広い面積で負担し、分散することができるので、より大きなひずみに耐えることができる。よって、従来のタイルよりも下地コンクリートのひずみに、より追従するタイルを提供することができる。
【0016】
また、タイルのように窯業製品は、微視的にも巨視的にも不均一な材料であり、同一製品内の中でも部分的に強度が異なっている。その原因は製造時の内部ひずみや成分の不均一性等が考えられる。コンクリートも窯業製品と同様に不均一な材料であり、強度的にも部分的なバラツキを有している。
【0017】
従って、本発明のように、発生する応力を広い面積で負担し、分散することは、タイルに内在する微視的な欠陥による局所破壊からの破壊伝搬という現象も抑制することができる。
【0018】
本発明においては、前記タイルはその外形が正方形であり、前記第1の蟻溝は前記タイルの前記一方の幅方向の略中央に一つ形成されていてもよい。この構成によれば、前記第1の蟻溝が前記タイルの前記一方の幅方向の略中央に一つ形成されるため、前記タイルの裏足基部の幅をより大きくとれ、当該裏足基部のせん断破壊を防止できる。
【0019】
本発明において、前記タイルはその外形が長方形であり、前記第1の蟻溝は前記タイルの小口方向の略中央でかつ長手方向に一つ形成されていてもよい。この構成によれば、前記第1の蟻溝が前記タイル小口方向中央に一つ形成されるため、前記タイルの裏足基部の幅をより大きくとれ、当該裏足基部のせん断破壊を防止できる。
【0020】
また、本発明によれば、コンクリート部材表面に配設される、外形が長方形のタイルであって、前記コンクリート部材に対する取付面に小口方向に形成された複数の第1の蟻溝と、前記第1の蟻溝と同方向に、各々の前記第1の蟻溝の底部の略中央に形成された第2の蟻溝とを備え、前記第1の蟻溝は、前記タイルを、その長手方向に当該第1の蟻溝の数と同じ数だけ略均等に仮想的に分割した各分割領域の略中央部に、小口方向に形成されたことを特徴とするタイルが提供される。
【0021】
この構成によれば、前記タイルの小口方向に前記第1及び第2の蟻溝が形成されるため、裏足基部の幅を大きく取り、かつ面外方向への変形を物理的に拘束する蟻溝の数を増加させることができる。この構成によるタイルは、特に前記蟻溝の長手方向を水平方向に向けて前記タイルをコンクリート部材に配設した場合に、下地コンクリートのひずみに対する追従性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0022】
以上述べた通り、本発明によれば、従来のタイルよりも下地コンクリートのひずみに、より追従することができ、タイルがより剥離しにくくなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
<第1実施形態>
図1は、本発明の一実施形態に係るタイル10の外観斜視図、図2及び図3はタイル10の6面図であり、図2(a)はタイル10の正面図、図2(b)はタイル10の左側面図、図2(c)はタイル10の右側面図、図2(d)はタイル10の上面図、図2(e)はタイル10の下面図、図3はタイル10の背面図である。
【0024】
タイル10は、その外形が方形をなしており、本実施形態の場合、特に50二丁と呼ばれる45mm×95mmの長方形をなすタイルであり、コンクリート部材に対する取付面(裏面)となる取付面11と、コンクリート部材に対する取り付け時に表面として露出する表面12と、側面13乃至16と、の6面を有する。
【0025】
なお、本実施形態では50二丁のタイルを例示しているが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、50三丁タイルや、45角と呼ばれる45mm×45mmの外形が正方形のタイルにも適用可能である。また、タイル10の角部には適宜面取りを施すことができる。
【0026】
表面12は、コンクリート部材の外観を形成する意匠面であり、本実施形態では平坦面としているが、建物のコンセプトに応じて、凹凸形状や光沢の有無等を自由に選択できる。
【0027】
タイル10の取付面11には、蟻溝17、18が形成されている。図2(b)に示すように、蟻溝17、18はいずれも、その底部17a、18aの幅d11、d21(断面の幅)が入口の幅d12、d22よりも広くなっており、断面形状は略台形をなしている。蟻溝18は蟻溝17の底部17aに形成されており、かつ、蟻溝17と同方向に形成されている。なお、蟻溝17、18の出隅、入隅には適宜面取りを施すことができる。
【0028】
本実施形態の場合、蟻溝17はタイル10の一方の幅方向(小口方向)の略中央に他方の幅方向(長手方向)に形成されている。このため、タイル10側で最も破壊しやすい裏足11aの幅、特に裏足基部の幅を従来のものより広くすることができ、下地コンクリートのひずみ発生時に発生する応力を、より広い面積で負担し、分散することができるので、より大きなひずみに耐えることができる。また、タイル10の材料が不均一であることに起因して、局部的に脆弱な部分が存在しても応力レベルが従来の場合より低くなることから、局部的に脆弱な部分から破壊が進行しにくくなる。
【0029】
一方、蟻溝17の底部には蟻溝18を形成したので、タイル中央部でタイルとコンクリートが物理的に嵌合するので接着の安定性が高まる。よって、タイル10の下地コンクリートへの追従性を向上させることができる。
【0030】
本実施形態の場合、蟻溝17は一つだけ形成されている。蟻溝17は複数形成することもできるが、幅方向(小口方向)の略中央に一つ形成することで、タイル10の裏足11aの裏足基部の幅を更に大きくとれ、裏足基部でのせん断破壊を防止できる。また、取付面11における蟻溝17の形成面積が同一である場合を想定すると、蟻溝17を複数形成する場合と比べて、一つのみ形成した場合には蟻溝17が幅広となるので、コンクリートの充填性も向上し、充填不良の生じた脆弱部からタイルやコンクリートの破壊が始まることを抑制することができる。なお、蟻溝17は、その底部17aの幅(断面の幅)を、例えば、取付面11の小口方向の幅の半分から1/3程度の幅にすることが望ましい。
【0031】
また、本実施形態の場合、蟻溝18は蟻溝17の底部17aの幅方向(小口方向)の中央に一つ形成されている。蟻溝17及び18がタイル10の幅方向中央に形成されることから、タイル10の幅方向中央部分においてタイル10が面外方向に突出しようとする変形を生じようとした場合でも効果的にかつ安定的に拘束することができる。なお、蟻溝18は、底部18aの幅(断面の幅)を、例えば、底部17aの小口方向の幅の半分から1/3程度の幅にすることが望ましい。また、蟻溝18は蟻溝17の底部17aを幅方向(小口方向)に3等分するように二つ形成することもでき、少なくとも一つ形成すればよい。
【0032】
タイル10の製法には特に限定はないが、例えば、粉状の原料を高圧のプレス機で成形する方法(乾式製法)が挙げられる。乾式製法で製造することにより、土練機で原料を混練し、押し出し成形する方法(湿式製法)と比べて、薄く、寸法精度の高い製品を得ることができる。
【0033】
次に、タイル10のコンクリート部材への適用例について説明する。ここでは、コンクリート部材として、PCa部材とした鉄筋コンクリート柱への適用例について説明する。鉄筋コンクリート柱をPCa部材とする場合、タイル10は例えばタイル先付け工法により、PCa部材のコンクリートの打設と同時にPCa部材の表面に配設することができる。
【0034】
鉄筋コンクリート柱へタイル10を配設する場合、蟻溝17、18を鉄筋コンクリート柱の軸方向と同一方向に設ける場合と、直交する方向に設ける場合とがあり得る。図4は、タイル10の蟻溝17、18を鉄筋コンクリート柱の軸方向と同一方向に設けた場合の応力状態を説明するための模式図であり、鉄筋コンクリート柱の表層部分の断面を示す。また、図5は、タイル10の蟻溝17、18を鉄筋コンクリート柱の軸方向と直交する方向に設けた場合の応力状態を説明するための模式図であり、鉄筋コンクリート柱の表層部分の断面を示す。
【0035】
図4及び図5において、矢印X、Yはタイル10が受ける応力の向きを示している。矢印Xはタイル10と鉄筋コンクリート柱との間の剪断力、矢印Yはタイル10を曲げながら押し出そうとする面外方向の応力である。
【0036】
特に、剪断力は何れの配設状態でもタイル10の上下端部(鉄筋コンクリート柱の軸方向の両端部)で相対的に大きく、中央部で相対的に小さくなる。このため、タイル10の上下端部には大きな剪断力が作用する。また、面外方向に突出させようとする応力も作用する。よって、タイル10の上下端部には最大のせん断応力が発生する。タイル10の上下端部が破断すると、次に中央部側に応力が集中して蟻溝17の入口部分の下地コンクリートとの接合界面部分や蟻溝17に入り込んだコンクリート等が破断し、タイル10が全面的に剥離しやすくなる。
【0037】
図4の例の場合、蟻溝17及び18が、鉄筋コンクリート柱の軸方向に沿うように配設されており、矢印Xで示す剪断力を、蟻溝17及び18に入り込んだ下地コンクリートと裏足11aの長手方向の長さ分で負担して抵抗するため、図5の例よりもタイル10の破断が生じ難いにくい傾向がある。よって、より大きな剪断力、すなわちより大きな下地コンクリートのひずみに耐えることができる。
【0038】
一方、図5の例の場合、矢印Xで示す剪断力の大部分を、裏足11aの裏足基部の小口方向の長さ分で負担することになる。上述した通り、剪断力は配設状態でのタイル10の上下端部で相対的に大きく、中央部で相対的に小さくなるので、図4の例の場合よりもタイル10の破断は生じ易い傾向がある。
【0039】
しかし、本実施形態のタイル10は、上述した通り、蟻溝17(及び18)をタイル10の小口方向の略中央に、しかも一つだけ形成しており、複数形成した場合よりも、タイル10の裏足11aの幅をより大きくしている。このため、蟻溝を複数設けた従来のタイルと比べると、タイル10の上下端部、つまり、裏足11aの裏足基部が、より大きな剪断力に対して抵抗することができ、かつタイル10の中央部(蟻溝18の底部18a)が相対的に周辺より薄くなっているので、タイル10自体が突出する曲げ変形を生じやすく、タイル10に作用するせん断応力を緩和することも期待できることもあり、タイル10の下地コンクリートのひずみ追従性が高められる。
【0040】
更に、タイル10の幅方向(小口方向)の略中央に蟻溝17及び18を一つだけ設けているので、蟻溝を複数形成した場合よりも、蟻溝の幅をより大きくでき、蟻溝17及び18に入り込んだ下地コンクリートの幅も大きくなるだけでなく、タイル10の材料が不均一であることに起因して、ある確率で存在する脆弱部の影響も受けにくくなる。このため、蟻溝を複数設けた従来のタイルと比べると、タイル10の中央部、つまり、蟻溝17及び18に入り込んだ下地コンクリートが、より大きな面外方向の引張力に対して抵抗することができ、タイル10の下地コンクリートのひずみ追従性が高められる。
【0041】
<第2実施形態>
図6(a)乃至(f)は本発明の他の実施形態に係るタイル100の6面図である。タイル100は、その外形が長方形をなしており、タイル10と同様に、50二丁と呼ばれる45mm×95mmの長方形をなすタイルである。勿論、50三丁タイルのように寸法が異なる他の長方形タイルにも本発明は適用可能である。また、タイル100の角部には適宜面取りを施すことができる。
【0042】
タイル100は、コンクリート部材に対する取付面(裏面)となる取付面101と、コンクリート部材に対する取り付け時に表面として露出する表面102と、側面103乃至106と、の6面を有する。表面102は、コンクリート部材の外観を形成する意匠面であり、本実施形態では平坦面としているが、建物のコンセプトに応じて、凹凸形状や光沢の有無等を自由に選択できる。
【0043】
タイル100の取付面11には、小口方向に2本の蟻溝107、108が形成されている。蟻溝107、108は、上記の蟻溝17、18と同様に、いずれも、その底部107a、108aの幅(断面の幅)が入口の幅よりも広くなっており、断面形状は略台形をなしている。蟻溝108は蟻溝107の底部107aに形成されており、かつ、蟻溝107と同方向に形成されている。なお、蟻溝107、108の出隅、入隅には適宜面取りを施すことができる。
【0044】
本実施形態の場合、蟻溝107は、タイル100を、その長手方向に蟻溝107の数と同じ数だけ略均等に仮想的に分割した各分割領域の略中央部に、小口方向に形成する。本実施形態の場合、蟻溝107の数は2つである。従って、図6(a)において破線CLで示す、タイル100の長手方向の中央線を境界として同図の左右に仮想的に2分割した各分割領域の略中央に、各蟻溝107が形成されている。蟻溝107をこのように形成したことで、タイル100の取付面11には、長手方向の両端部に位置する裏足101aと、中央部に位置する裏足101bと、が形成され、裏足101bは裏足101aよりも幅広である。
【0045】
本実施形態の場合、タイル100の小口方向に蟻溝107、108が形成されるため、裏足101a、101bの裏足基部、特に裏足101aの幅を大きく取り、かつ面外方向への変形を物理的に拘束する蟻溝107、108の数を増加させることができる。この構成によるタイルは、特に蟻溝107の長手方向を水平方向に向けてタイル100をコンクリート部材に配設した場合に適しており、下地コンクリートのひずみに対する追従性を向上させることができる。
【0046】
つまり、この配設態様の場合、上記の通り、タイル100の上下端部にまず応力が集中し、端部が破断すると、次に中央部側に応力が集中してタイル100の裏足やタイル界面付近のコンクリートの破断を招くことになる。本実施形態の場合、従来のタイルより、裏足の基部を含めた全体の幅も、蟻溝の幅も広くなっているので、タイルやコンクリートを破断しようとする応力が分散するので下地のコンクリートのひずみにより追従し、タイル100がより剥離し難くすることができる。
【0047】
なお、蟻溝107の数は3以上でもよく、特に、タイル100の長手方向の長さが長い場合には、各裏足の幅が相対的に広くなるので、タイル100の長手方向の長さに応じた数を設けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の一実施形態に係るタイル10の外観斜視図である。
【図2】(a)はタイル10の正面図、(b)はタイル10の左側面図、(c)はタイル10の右側面図、(d)はタイル10の上面図、(e)はタイル10の下面図である。
【図3】タイル10の背面図である。
【図4】タイル10の蟻溝17、18を鉄筋コンクリート柱の軸方向と同一方向に設けた様子を説明するための図である。
【図5】タイル10の蟻溝17、18を鉄筋コンクリート柱の軸方向と直交する方向に設けた様子を説明するための図である。
【図6】(a)乃至(f)は本発明の他の実施形態に係るタイル100の6面図であり、(a)はタイル100の正面図、(b)はタイル100の左側面図、(c)はタイル100の右側面図、(d)はタイル100の上面図、(e)はタイル100の下面図、(f)はタイル100の背面図である。
【図7】(a)は従来のタイルの裏面(取付面)を示す図、(b)は図7(a)の線A−Aに沿う断面図である。
【符号の説明】
【0049】
10、100 タイル
11、101 取付面
17、18、107、108 蟻溝
17a、18a、107a、108a 底部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート部材表面に配設される、外形が方形のタイルであって、
前記コンクリート部材に対する取付面の、一方の幅方向の略中央に他方の幅方向に形成された第1の蟻溝と、
前記第1の蟻溝と同方向に前記第1の蟻溝の底部に形成された少なくとも一つの第2の蟻溝と、
を備えたことを特徴とするタイル。
【請求項2】
前記タイルはその外形が正方形であり、
前記第1の蟻溝は前記タイルの前記一方の幅方向の略中央に一つ形成されていることを特徴とする請求項1に記載のタイル。
【請求項3】
前記タイルはその外形が長方形であり、
前記第1の蟻溝は前記タイルの小口方向の略中央でかつ長手方向に一つ形成されていることを特徴とする請求項1に記載のタイル。
【請求項4】
コンクリート部材表面に配設される、外形が長方形のタイルであって、
前記コンクリート部材に対する取付面に小口方向に形成された複数の第1の蟻溝と、
前記第1の蟻溝と同方向に、各々の前記第1の蟻溝の底部の略中央に形成された第2の蟻溝とを備え、
前記第1の蟻溝は、
前記タイルを、その長手方向に当該第1の蟻溝の数と同じ数だけ略均等に仮想的に分割した各分割領域の略中央部に、小口方向に形成されたことを特徴とするタイル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−127917(P2008−127917A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−316231(P2006−316231)
【出願日】平成18年11月22日(2006.11.22)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
【Fターム(参考)】