タキサン型化学療法剤用のインジケータとしてのSER473でのAKTリン酸化反応
癌対象が、Akt-Ser473リン酸化状態に基づいてタキサン化合物での治療からの利益を受けそうであるか否かを決定するための方法、Akt-Ser473リン酸化状態を決定するためのキット、及び癌のAkt-Ser473リン酸化状態の決定を得ることを含む癌患者の治療を改善するための方法を提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本願は、セリン473部位(pAkt)でのAktリン酸化反応、pAkt-陽性ヒト腫瘍を同定するための方法及びキット、並びにかかる腫瘍を有する患者を治療する方法を改善することに関する。
【背景技術】
【0002】
関連出願の相互参照
本願は、2009年5月22日に出願された米国仮出願61/180,558の利益を請求し、参照としてその全体が本明細書に組み込まれている。
【0003】
背景
補助化学療法は、初期ステージの乳癌における疾患のない全体的な生存を顕著に改善する。"再発及び15年生存に対する初期乳癌のための化学療法及びホルモン療法の効果:ランダム化試験の概要", Lancet 2005; 365(9472): 1687-717。非-アントラサイクリン含有レジメと比べて、アントラサイクリン-含有レジメ(例えば、ドキソルビシン及びその他)は、再発及び死亡率を更に減少させることが分かっている。過去10年において、タキサン、例えばパクリタキセル及びドセタキセルはまた、乳癌及びその他の悪性腫瘍のための効果的な化学療法剤として出現している。補助乳癌設定へのタキサンの追加は、疾患なしの生存及び/又は全体的な生存のための顕著な改善をもたらした。De Laurentiis M, Cancello G, D'Agostino D,他 「初期乳癌の補助化学療法としてのタキサン型組合せ:ランダム化試験のメタ分析」 J Clin Oncol 2008; 26(1): 44-53。例えば、アメリカ外科補助乳がん結腸直腸がんプロジェクト (NSABP) 由来のB-28ランダム化臨床試験は、腋窩リンパ節陽性乳癌の患者において、パクリタキセルの、ドキソルビシンとシクロホスファミドとのレジメへの連続的な添加によって達成される治療結果と比較し、ドキソルビシンとシクロホスファミドのみと比較した。ドキソルビシンとシクロホスファミド後のパクリタキセルの添加は、生存全体ではなく、疾患のない生存を顕著に改善することが見出された。Mamounas EP, Bryant J, Lembersky B, 他 "リンパ節-陽性乳癌のための補助化学療法としてのドキソルビシン及びシクロホスファミド後のパクリタキセルNSABP B-28からの結果" J Clin Oncol 2005; 23(16): 3686-96。
【0004】
しかしながら、すべての患者がタキサンでの治療からの利益を受けていない。更に、これらの薬物での治療は広範囲に渡り、実質的な死、及びニューロパチー、好中球減少症、白血球減少症、貧血症、脱毛、筋肉痛/関節痛、悪心、嘔吐及び下痢を含む、時々の生命を脅かす毒性効果を引き起こす。他の低い頻度の重大な副作用は、知覚異常(激しい痛み、ヒリヒリする痛み)、血小板減少及び血液凝固の問題、口又は腸管での痛み、心電図での変化、及び低血圧症を含む。こられの事実を考慮すると、どの患者がタキサンでの治療からの利益を受けそうであるかを確実に予測するバイオマーカーの同定は、非常に重要である。
【0005】
近年、タキサン型化学療法を受けた患者の結果を予測するバイオマーカーが同定された。最近のメタ分析は、ホルモン受容体の状態及びHER2状態にかかわらず、タキサン型治療を受けた乳癌の女性のために顕著な疾患なしの利益を見出した (DeLaurentis, et al, supra; Pritchard KI, Messersmith H, Elavathil L, Trudeau M, O'Malley F, Dhesy-Thind B "化学療法への反応の前兆としてのHER-2及びトポイソメラーゼII" J CHn Oncol 2008; 26(5): 736-44) が、タキサンでの治療結果を予測するバイオマーカーは同定されてなかった。
【0006】
Aktは、癌の病原、及び代謝、細胞成長、増殖、細胞周期進行、生存及び分化を含む必須の細胞プロセスに関連している、セリン/スレオニンタンパク質キナーゼ(タンパク質キナーゼBとしても知られている)である。Bhaskar PT, Hay N "The two TORCs and Akt" Dev Cell 2007; 12(4): 487-502。近年の前臨床試験は、Akt-Ser473が、生存のような細胞機能(Jacinto E, Facchinetti V, Liu D, et al."SIN1/MIP1はSIN-1-リクター-mTOR複合体全体を維持し、Aktリン酸化及び基質特異性を調節する" Cell 2006; 127(1): 125-37) 及びアクチン細胞骨格認識について要求される、SIN-1-リクター-mTOR複合体によってリン酸化されることを報告した。重要なことに、パクリタキセルは、セリン473でのAktリン酸化を阻害し、癌細胞の生存を減ずる。MacKeigan JP, Taxman DJ, Hunter D, Earp HS, 第3版, Graves LM, Ting JP "タキソール及びマイトジェン-活性化タンパク質キナーゼ阻害の併用治療による、抗アポトーシス性ホスファチジルイノシトール3-キナーゼ-Akt経路の不活性化" Clin Cancer Res 2002 ;8(7): 2091-9; Asakuma J, Sumitomo M, Asano T, Asano T, Hayakawa M "低濃度のパクリタキセルによる、選択的Akt不活性化、及び腎臓癌の腫瘍ネクローシス作動-関連アポトーシス-誘導リガンド処理" Cancer Res 2003; 63(6): 1365-70。乳癌患者のセリン473 (pAkt) でのAktのリン酸化は、遠隔転移を有する腫瘍再発 (Perez-Tenorio G, Stal O "乳癌におけるAKT/PKBの活性化は、内分泌腺治療患者の間で最悪の結果を予測する" Br J Cancer 2002; 86(4): 540-5)、及びホルモン療法に対する低い効果 (Kirkegaard T, Witton CJ, McGlynn LM, et al. "AKT活性化は、タモキシフェンで治療した乳癌患者における成果を予測する" J Pathol 2005; 207(2): 139-46) と関連している。しかしながら、本明細書で報告された研究の前に、癌のpAkt状態とタキサン治療の効果との関連は評価されてこなかった。
【発明の概要】
【0007】
概要
本願は、pAkt状態がタキサン化学療法での治療のためのバイオマーカー及び兆候として使用できるという重要な発見に由来する。特に、本明細書は、癌を有する対象がタキサン化合物での治療を含む治療レジメからの利益を受ける可能性があるか否かを決定する方法であって、当該対象の癌由来の組織がpAkt陽性であるか否かの決定を得ることを含む、方法を開示する。
【0008】
癌がタキサンの投与によって治療され得る、対象における癌を治療する改善方法も提供される。これらの方法は、前記癌がpAkt陽性であるか否かの決定を得るステップ、及び癌がpAkt陽性であるとの決定の際に、当該対象がタキサン化合物での治療から利益を受ける可能性があることを示すステップを含む。
【0009】
本発明の別の実施態様は、患者がタキサン化合物での治療からの利益を受ける可能性があるか否かを決定するためのキットに関する。1つの実施態様では、かかるキットは、前記患者の癌由来の細胞がpAkt陽性であるか否かを決定するための手段、そこでは、前記組織がpAkt陽性であるとの決定は、当該患者がタキサン化合物での治療からの利益を受ける可能性があることを示す、を含む。キットの中には、pAkt特異的抗体を含む。1つの実施態様は、pAKT配列SERRPHFPQF{pセリン473}YSA-NH2から成るリン酸化ペプチドに特異的な抗-pAkt抗体を有するキットである。
【0010】
本発明の更なる実施態様は、アントラサイクリン及びシクロホスファミドでの化学療法の使用後に、タキサン化合物での治療を含む、患者の癌を治療する方法の改善に関する。特に、当該改善は、前記癌がpAkt陽性であるか否かの決定を得るステップを含む。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1A】図1Aは、パクリタキセルによる治療あり及びなしの、pAkt陽性及びpAkt陰性の患者のための疾患なし生存率を示す。
【図1B】図1Bは、パクリタキセルによる治療あり及びなしの、pAkt陽性及びpAkt陰性の患者のための疾患なし生存率を示す。
【図1C】図1Cは、パクリタキセルによる治療あり及びなしの、pAkt陽性及びpAkt陰性の患者のための疾患なし生存率を示す。
【図2A】図2Aは、エストロゲン受容体状態によって階層化された、pAkt陽性及びpAkt陰性の癌を有する患者の、疾患なし生存のための調整されたカプラン・マイヤー曲線を示す。
【図2B】図2Bは、エストロゲン受容体状態によって階層化された、pAkt陽性及びpAkt陰性の癌を有する患者の、疾患なし生存のための調整されたカプラン・マイヤー曲線を示す。
【図2C】図2Cは、エストロゲン受容体状態によって階層化された、pAkt陽性及びpAkt陰性の癌を有する患者の、疾患なし生存のための調整されたカプラン・マイヤー曲線を示す。
【図2D】図2Dは、エストロゲン受容体状態によって階層化された、pAkt陽性及びpAkt陰性の癌を有する患者の、疾患なし生存のための調整されたカプラン・マイヤー曲線を示す。
【図3A】図3Aは、HER2状態によって階層化された、調整された疾患なし生存曲線を示す。
【図3B】図3Bは、HER2状態によって階層化された、調整された疾患なし生存曲線を示す。
【図3C】図3Cは、HER2状態によって階層化された、調整された疾患なし生存曲線を示す。
【図3D】図3Dは、HER2状態によって階層化された、調整された疾患なし生存曲線を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
タキサンは、タキサス(イチイ)種の植物によって産生される化合物に関するジテルペン化合物である。その名前が示すように、タキサン化合物は、天然起源から最初に得られるが、その中には人工的に合成されてきたものもある。FDA-承認タキサン化合物は、パクリタキセル及びドセタキセルを含む。分裂阻害剤として機能するタキサンは、細胞機能において重要な役割を果たす微小管と呼ばれる細胞構造に影響を与えることによって、癌細胞の成長を抑制する独特な方法を有する。正常細胞の成長において、細胞の形状を支持し、細胞内の物質の移送のための「ハイウェイ」として働く、現存の微小管は、細胞が分割を始める時に紡錘と呼ばれる組織に完全に再配列される。一旦細胞が分割を停止すると、紡錘は消失し、微小管ネットワークが再現する。これらの再配列は、急速な微小管分解及び最構築を必要とする。タキサンは、微小管が壊れそして適切に再配列されるのを停止する。加えて、それらは、非常に多い微小管を引き起こすために形成できず、しかも誤った場所で形成してしまう。これらのすべては、癌が効率的な方法で成長し分割することを抑制する。
【0013】
本発明者らは、Ser473でのAktのリン酸化を示す(すなわち、「pAkt陽性である」)腫瘍を有する患者(すなわち、「pAkt陽性である」)が、pAkt陽性でない腫瘍を有する患者よりもタキサン化合物での治療を含む治療レジメからの利益をより受ける可能性がある、ことを見出した。本明細書に記載の用語「利益を受ける可能性がある」は、当該患者が疾患なしの生存の高い可能性を有し、そして、タキサン化合物での治療を受けないp-Akt陽性腫瘍を有する患者に比べて、おそらく全体的な生存での増加を有する、ことを意味する。好ましくは、疾患なしの生存の高い可能性は、少なくとも約5%、好ましくは10%、より好ましくは少なくとも約20%、更により好ましくは少なくとも約25%、なお更により好ましくは約26%である。全体的生存の高い可能性は、5%〜20%である。
【0014】
本発明の1つの実施態様は、タキサン化合物での治療からの可能性のある利益の予測的インジケータとしての、腫瘍のpAkt状態の使用に関する。したがって、かかる方法は、腫瘍組織がpAkt陽性であるか又はpAkt陰性であるかの決定を得ることを伴う。好ましい実施態様では、pAkt状態は、免疫検出(すなわち、抗体型同定)によって決定される。様々な異なった免疫検出法がpAktの検出に使用することができる。一般的に、好適な免疫検出法は、pAktを含むと疑われる標本を取得し、当該標本又は当該標本の誘導物を、pAktに特異的に結合する少なくとも1つの抗体に接触させ、そして当該標本に結合されたpAkt-特異的抗体を検出すること、を含む少なくとも3ステップを含む。
【0015】
当業者には明らかなように、前段落に記載されている一般的な免疫検出スキームは、様々な方法で実行される。例えば、免疫検出法、例えばウェスタンブロット、ELISA、免疫沈降法、フローサイトメトリー、免疫組織学等は、腫瘍由来の標本においてpAkt-陽性細胞を検出するために使用することができる。
【0016】
記載された免疫検出法で使用される標本は、癌を有する患者由来の任意の腫瘍組織又は腫瘍細胞から得られる。標本又は腫瘍細胞は、組織生検、血液、又は体液から得られる。
【0017】
これらの検出法を実行するために使用できる多数の抗体検出プロセスがある:
−検出は、pAkt-特異的一次抗体、次いで標識された二次抗体での検出を用いて行うことができる;
−標識されたpAkt-特異的一次抗体は、検出のために使用することができる;及び/又は
−Fab又はF(ab')2は検出のために使用することができる。
【0018】
結合された抗体の検出は、様々な方法、例えば蛍光型検出、酵素型検出又は放射性同位体標識検出で行うことができる。
【0019】
当然のことながら、他の抗原-結合タンパク質は、pAkt、例えば抗-pAkt Fab、F(ab')2等を検出するために使用することもできる。結合された抗体の検出は、様々な方法、例えば蛍光型検出、酵素型検出又は放射性同位体標識検出で行うことができる。抗体検出の他の好適な手段は、当業者によって理解されるだろう。本明細書に記載のアッセイ及び抗体型検出法の一般的な説明については、例えばC. Janeway他, Immunobiology (第5版 2001) を参照。
【0020】
本発明の更なる実施態様は、癌を有する患者を治療する改善された方法であって、当該癌がpAkt陽性であるか否かの決定を得、害癌がpAkt陽性であるとの決定の際には、患者がタキサン化合物での治療から利益を受ける可能性があることを示すことを含む、方法に関する。タキサン化合物を投与する方法は当該分野で知られている。例えば、ブリストル-マイヤースクイブ (NDA 020262) によって市販されたタキソール(登録商標)パクリタキセル注射は、乳癌及び卵巣癌の治療での使用に承認され、他の癌種の治療にために広く使用されている。ドセタキセルのタキソテレ(登録商標)注射調製物は、乳房、結腸、肺、卵巣、肝臓、腎臓、頭頸部、前立腺及び胃の癌、及び黒色腫の治療のためにSanofi-Aventis (NDA 020449) によって市販されている。投与方法及び投薬プロトコルは、これらの製品用に標識するFDA-承認パッケージに記載されている(本明細書に参考として組み込まれる)か、又は当業者に知られている。
【0021】
タキサン化合物の投与を含む治療レジメは、例えば、患者の腫瘍状態(サイズ、グレード等)又は他の危険因子(例えば、年齢、病歴、排泄リンパ節での腫瘍細胞の存在等)が化学療法の好適な候補を与えるような患者の原発腫瘍の外科的除去後に、補助化学療法の一部として適用することができる。タキサン化合物での治療レジメは、転移癌に罹患した患者において使用される。更に、タキサン化合物を用いる治療レジメは、癌が最初は外科手術には大きすぎるか、又はタキサン化合物での治療前に手術不可能である、術前補助化学療法環境で実施することができる。
【0022】
本発明の他の実施態様は、タキサン化合物での治療から利益を受けることがある患者の同定及び治療において有用であるキットに関する。かかるキットは、患者癌由来の組織(冷凍されているか、又はホルマリン固定されパラフィン包埋されている)がpAkt陽性であるか否かを決定するための手段であって、組織がpAkt陽性であるとの決定は、当該患者がタキサン化合物での治療からの利益を受ける可能性があることを示す、手段を含んでよい。癌がpAkt陽性であるか否かを決定するための好適な手段は、上記の様々な免疫検出法、及び以下に記載の実施例に使用された手段を含む。患者がタキサン化合物での治療から利益を受ける可能性があるか否かを決定するためのキットの1つの実施態様は、pAkt-特異的抗体を含む。かかる抗体(ポリクローナル又はモノクローナルのいずれか)は、例えばCell Signaling Technology, Beverly, MAから商業的に入手できる。当該キットは、組織中のpAktへの前記抗体の結合を検出するために好適な染色、及びpAkt陽性又はpAkt陰性としてサンプルの翻訳及び「スコアリング」のためのガイドラインを更に含む。場合によっては、スコアリングは、病理学者によって利用される典型的な方法に従って行われる。場合によっては、当該キットは、組織への抗体の結合の検出及びサンプルの定量的スコアリングを促進するためのデジタル画像装置を伴う使用に適合される。キットはまた、好適な陽性及び陰性対照細胞又は組織を含むスライドを含んでよい。ガイドラインはまた、抗原賦活化及びpAkt免疫組織学的方法を実施するためのサンプルの調製を最適化するための教示を提供するために提供される。
【0023】
加えて、当該キットは、単に、タキサン化合物が利用されるFDA標識に従って癌がpAkt陽性であると決定される際に、タキサン化合物での治療が指摘され得る診断を含んでよい。
【0024】
本発明の好ましい局面は以下の実施例に記載されている。本発明を好ましい特定の実施態様に従って具体的に記載してきたが、本発明はそれに限定されない。
【実施例】
【0025】
我々は、Aktリン酸化を、アメリカ外科補助乳がん結腸直腸がんプロジェクトB-28試験由来の原発腫瘍標本から得られる臨床結果と相関させるための研究を設計し、行った。我々は、セリン473でのAktのリン酸化(「pAkt」)が、補助的なドキソルビシン及びシクロホスファミド化学療法後のパクリタキセルの連続添加から、リンパ節陽性乳癌を有する女性のための利益を予測する仮説を試験した。
【0026】
Akt由来のペプチドに対する抗体の産生
2つのペプチドを作製し、単離した:配列CSERRPHFPQF{pセリン473}YSA-NH2を有するリン-Akt (Ser473) ペプチド、及び配列CSERRPHFPQFSYSA-NH2を有する対照ペプチド。第3免疫後に、5匹のBalb/cマウス由来の試験血清は、差異を認識するリン-Akt-Ser473を示した(表1及び表2)。マウス1番及び2番由来のポリクローナル血清のウェスタンブロット分析は、pAktバンドがマウス1番由来の6O kDaにあることを示している。
【0027】
モノクローナル抗体は、クローン由来のモノクローナル抗体は、リン-Akt-Ser473ペプチドを認識するが、非-リン-Ser473は選択されない。ウェスタンブロットによる単一の60 kDaバンドを認識するクローンは、更に選択され拡張される。最後に、選択されたクローンは、発現することが知られているがpAkt-Ser473を発現するが知られていない、パラフィン包埋腫瘍断片についての免疫組織学的方法によって試験される。このことはまた、モノクローナル抗体の特異性を更に評価するためのブロッキング剤としてのリン-Akt-Ser473ペプチドの使用を含む。特徴付けられたモノクローナル抗体は、pAkt-Ser473検出キットを構築するために利用される。
【0028】
【表1】
【0029】
【表2】
【0030】
患者
アメリカ外科補助乳がん結腸直腸がんプロジェクトB-28試験への患者の適格及び登録は、本明細書に参考として組み込まれている、Mamounas EP, Bryant J, Lembersky B他, "リンパ節-陽性乳癌のための補助化学療法としてのドキソルビシン及びシクロホスファミド後のパクリタキセル:NSABP B-28からの結果" J Clin Oncol 2005; 23(16): 3686-96に記載されている。周辺部及び腋窩リンパ節郭清をしない手術を完了した、リンパ節-陽性乳癌を有する3060人の女性を、補助的なドキソルビシン (60 mg/m2) 及びシクロホスファミド (600 mg/m2) のみの4つのサイクル、又はこれに加えてパクリタキセル (225 mg/m2) 治療を追加した4つのサイクルのいずれかにランダムに割り当てた。適格のある患者は、組織採集、及び連邦及び研究所のガイドラインに適合する採集済み組織の研究的使用を含む承認されたインフォームドコンセントにサインした。この試験では、補助的なドキソルビシン及びシクロホスファミドのみ又はそれに加えてパクリタキセルのいずれかで治療されたリンパ節-陽性乳癌を有する患者における疾患なしの生存及び全体的な生存に関連する、Aktリン酸化の評価のためのバイオマーカープロトコルは、アメリカ国立癌研究所の治験審査委員会 (ベセスダ, MD) 及びアメリカ外科補助乳がん結腸直腸がんプロジェクト (ピッツバーグ, PA) によって承認された。
【0031】
乳癌標本採集、組織マイクロアッセイ構築、並びにHer2状態及びエストロゲン受容体状態の決定
組織マイクロアッセイブロックは、2つの治療アーム及び組織の特徴を表し、そしてNSABP B28試験に参加した患者から先を見越して採集された、原発腫瘍ブロックを記録した1982つの事例から構築された。マイクロアレイ部分上のHER2状態は、製造者 (Vysis, Downers Grove, IL) によるFDA承認プロトコルに従って、Path Vision蛍インサイチュハイブリダイゼーション(FISH)アッセイを用いてNSABP中央病理研究室によって決定された。データは、染色体17セントロメア当たりのHER2数として表された:≧2の比を有する腫瘍はHER2-陽性として分類され、<2の比を有する腫瘍はHER2-陰性として定義された。組織マイクロアッセイ断片のエストロゲン受容体状態はまた、DAKO (PharmDx kit; Carpinteria, CA) によって提供されたFDA承認プロトコルに従って、免疫組織学によってNSABP中央病理研究室によって決定された。ER用の陽性結果(腫瘍細胞核染色)は、≧3の総スコア(0、2〜8の範囲)として定義される。総スコアは、0〜5の比例スコアと0〜3の強度スコアの合計である。
【0032】
Ser473におけるAktリン酸化のための免疫組織学的分析
B-28試験組織マイクロアッセイセットのホルマリン固定及びパラフィン包埋原発腫瘍についてのAktリン酸化状態は、pAkt-Ser473に対するウサギポリクローナル抗体を用いる免疫組織学によって試験した (Cell Signaling Technology, Beverly, MA)。Tan AR他 "エルロチニブ、すなわち上皮細胞成長因子受容体チロシンキナーゼ阻害剤での治療後の転移性乳癌を有する患者の生物学的終点及び薬物動力学の評価" J Clin Oncol 2004; 22(15): 3080-90 (本明細書に参考として組み込まれている) に記載された方法に従ってリン酸化Aktの検出のために、抗原性賦活化方法及び抗体の濃度を最適化した。
【0033】
先に記載 (Yang et al, JCO, 2010) したようにして確立された免疫組織学によって、ホルマリン固定及びパラフィン包埋原発腫瘍についてのpAkt状態を試験した。簡単に言えば、エピトープ賦活化は、抗原賦活化バッファ (pH 10; Dako, Carpinteria, CA) 中で行い、15分間マイクロオーブン中で加熱した。断片は、pAkt-Ser473 (Cell Signaling Technology, Beverly, MA) に特異的なウサギポリクローナル抗体で、1:100希釈で、インキュベートすることになる。抗体の抗原部位への結合は、Vectastain Eliteアビジン-ビオチン-ペルオキシダーゼ複合体キット (Vector Laboratories, Burlingame, CA) 用いて増幅した。乳癌細胞株MDA-MB-468、及びpAkt発現のpレベルを確立した乳癌標本を形式的な陽性対照として利用した。陰性対照は、使用した一次抗体に好適なアイソタイプ免疫グロブリンを用いて行った (Zymed Laboratories, South San Francisco, CA)。アッセイの再現性を証明した(MDA-MB-468乳癌細胞において3つの独立したpAkt染色に関する係数の5.7%共分散を有した)(Yang et al, JCO, 2010)。
【0034】
細胞質、膜又は核染色を有するpAktシグナルは、すべての臨床情報に目隠しをされた国立がん研究所において、Automated Cellular Imaging System (ACIS III, Dako, Carpinteria, CA) によって分析した。pAktの細胞内局在は、捕獲された画像分析の時間に記録した。存在する侵襲的腫瘍細胞の<5%を有する組織コアは分析のために除いた。各コア上の染色された腫瘍細胞の強度及びパーセンテージは、デジタル画像装置によるフリーのスコアリングツールを用いて作製した。染色指標は、先に記載したように、パーセンテージに染色強度を乗じて、100で割って決定した。>2の染色指標は、pAkt B-28試験 (Yang et al, JCO, 2010) から確立されたpAkt陽性カットオフとして選択されることになる。陽性についてのこのカットオフは、1+、2+及び3+の視覚染色強度を有するpAkt染色を含む。
【0035】
断片は、室温で1時間、1〜100希釈で、一次抗体でインキュベートし、そして、当該抗体のその抗原部位への結合は、Vectastain Eliteアビジン-ビオチン-ペルオキシダーゼ複合体キット (Vector Laboratories, Burlingame, CA) を用いて増幅した。抗原-抗体反応部位は、7分間3,3-ジアミノベンジジンを用いて視覚化し、次いで、断片はマイヤーヘマトキシリンで対比染色した。pAktを発現する乳癌細胞株MDA-MB-468、及びpAktを発現することが知られている乳癌標本は、陽性対照として利用した。陰性対照は、使用した一次抗体に好適なアイソタイプ免疫グロブリンを用いて行った (Zymed Laboratories, South San Francisco, CA)。細胞質、膜又は核シグナルのいずれかを有する免疫染色組織マイクロアレイコアは、存在する侵襲的腫瘍細胞の5%未満を有する組織コアを除いた後に、すべての臨床情報に目隠しをされたAutomated Cellular Imaging System (DAKO) の助けを借りて分析した。各組織コア上の腫瘍細胞の染色強度及びパーセンテージは、デジタル画像装置によって計算した。Ser473でのAktリン酸化のレベルを報告する0〜62.8の範囲の染色指標は、腫瘍細胞において、パーセンテージに染色強度を乗じ、100で割ることによって決定した(強度 x パーセンテージ/100)。そこでは、強度は3つの正常組織コアの平均組織読み出しから差し引いた。これらのコアは、各アレイスライド用の位置マーカー及び組織陰性対照として働く。その一致は、B-28組織マイクロアレイセットに組み込まれた二つ組又は三つ組での品質精度コアを満たし;少数の不一致はあきらめた。4つのケースでは、二つ組での各々は、腫瘍異成分のために満足できず、データ分析から除いた。pAkt状態は、> 2(陽性)及び≦2(陰性)の染色指標によって分類した。>2の染色指標(範囲、0〜62.8)は、pAkt陽性についてのカットオフとして適宜選択した。臨床結果との相関は、ナショナル・サージカル・アジュバント乳腺・大腸プロジェクト事務局兼バイオスタティスティカルセンターで行った。
【0036】
統計的分析
pAkt測定を有する患者の下位群と総集団との間の患者分布及び腫瘍特性の相違は、カイ二乗検定を用いて評価した。パクリタキセルで治療した又は治療しなかったpAkt-陽性群及びpAkt-陰性群による、疾患なしの生存及び全体的な生存曲線は、カプラン・マイヤー法で見積もった。ログランク検定は、当該結果のための治療群間の相違を評価するために使用した。疾患なし生存でカウントされた事象は、乳癌再発、第2の原発癌(扁平上皮乳頭腫又は皮膚の基底細胞癌、子宮頸癌の非浸潤性腫瘍、又は乳房の非浸潤性小葉癌を除く)、及び先の再発又は第2の原発癌なしの任意の原因からの死であった。全体的生存に含まれる終点は、任意の原因からの死であった。多変量のコックス比例ハザードモデルを、調整された疾患なし生存及び全体的生存のハザード比を、pAkt及び予後変数のための95パーセントの信頼区間(CI)で計算するために使用した。ワルド統計は、調整されたハザード比及び相互作用項のためのP値を決定するために使用した。予後変数のために調整されたカプラン-マイヤー曲線は、Xie及びLiu("生存データ用の治療重み付けの逆可能性を有する、調整されたカプラン-マイヤー及びログランク検定" Stat Med 2005; 24(20): 3089-110, 本明細書に参考として組み込まれている)に記載の方法によって決定された。調整されたカプラン-マイヤー曲線上に示されたハザード比及びP値は、多変量コックスモデルから得たものであった。
【0037】
結果
成果、pAkt発現、及びpAkt測定をした患者の特徴
約5年間のフォローアップを行ったB-28治療試験結果を以前に報告した。Mamounas他, 前掲。約10年間のフォローアップ後の、疾患なしの生存及び全体的な生存の結果は同様であった(下記表1)。パクリタキセルのドキソルビシン及びシクロホスファミドへの連続添加を行った、疾患なし生存及び全体的な生存のハザード比は、それぞれ、0.89 (95% CI 0.79〜0.99; P=0.034) 及び0.92 (95% CI 0.81〜1.06; P=0.25) であった。
【0038】
B-28組織マイクロアレイ上の原発集癌は、全体的なB-28試験集団の52%を示す1581人の患者由来の分析のために利用した。pAktは、606/1581 (38%) の乳癌で発現し、その中で、279/760 (37%) はドキソルビシン及びシクロホスファミド群に存在し、327/821 (40%) はドキソルビシン及びシクロホスファミド後のパクリタキセル治療群に存在した。ドキソルビシン及びシクロホスファミドへのパクリタキセルへの添加を有する、pAkt測定を行った1581人の疾患なし生存及び全体的な生存のハザード比は、それぞれ、9.1年の治療(mediateion)フォローアップによって、0.94 (95% CI 0.81〜1.10; P=0.46) 及び0.96 (95% CI 0.79〜1.15; P=0.63) であった。
【0039】
この試験でpAkt測定を有する1581患者がB-28試験での治療群によって全体集団を表すことを確認するために、我々は、pAkt測定を有する患者及びすべての治療患者において、年齢、腫瘍サイズ、関連するリンパ節の数、腫瘍悪性度及びエストロゲン受容体状態を比較した(表3)。ドキソルビシン及びシクロホスファミドのみで治療した群では、腫瘍サイズ及びス用グレードを除いて、人工統計学的又は予後的特徴において有意な検出できる差はなかった。pAkt測定を有する患者において、約84%の患者はタモキシフェン治療を受け、それは、全体的なB-28集団についての患者(85%)とほとんど比例した。
【0040】
【表3】
【0041】
パクリタキセル及びAkt-Ser473リン酸化状態
パクリタキセルを受けた又は受けなかった患者間の疾患なしの生存及び全体的生存は、免疫組織学によって確率されたようにpAkt状態にしたがって分析した(図1)。pAkt-陰性癌を有する975患者中で、疾患なし生存率は、パクリタキセルの添加あり及びなしで治療した患者と同等であった(図1A; ハザード比, 1.08; P=0.44)。しかしながら、pAkt-陽性癌を有する606患者においては、パクリタキセルの連続添加は、ドキソルビシン及びシクロホスファミド治療のみと比較して、疾患なしの生存を顕著に増加させた(図1B; ハザード比, 0.75; P=0.027)。pAkt-陰性癌を有する患者での治療群間での全体的な生存差(ハザード比, 1.04; P=0.74)又はpAkt-陽性癌を有する患者での統計的に有意な差(ハザード比, 0.83; P=0.226)はなかった。
【0042】
pAkt状態と疾患なし生存のための治療との潜在的な相互作用を評価するために、我々は、年齢、腫瘍悪性度、腫瘍サイズ、陽性リンパ節の数、エストロゲン受容体状態及びHER2状態のために調整された、比例ハザードモデルにおいて、相互作用項の統計的有意を試験した。
【0043】
【表4】
【0044】
治療とpAkt状態との間の相互作用の形式的試験は、境界線の統計的有意に達した (P=0.056)。更に、数個の不均衡、例えば、腫瘍悪性度、腫瘍サイズ、及び年齢、陽性リンパ節の数、エストロゲン受容体状態及びHER2状態を含む他の潜在的な予後因子の我々の結果への影響を研究するために、我々は、疾患なし間隔にしたがって階層化したデータを有する比例ハザードモデルを用いて、多変量分析を行った。図1Cは、治療及びpAkt状態によって階層化された4つの集団を示す、調整されたカプラン-マイヤー生存曲線を示す。調整された生存曲線をパクリタキセルあり又はなしで治療した生存曲線と比較すると、pAkt-陰性癌を有する患者中の調整されたハザード比は、1.02 (P=0.81) であった。対照的に、pAkt-陽性乳癌を有する患者中で、パクリタキセルあり又はなしで治療された患者についての調整されたハザード比は、0.74 (P=0.02) であり、このことは、パクリタキセルの連続添加を受けた患者が疾患なし生存において26%の改善を有したことを示している。
【0045】
パクリタキセル及びAkt-Ser473リン酸化、及びエストロゲン-受容体状態又はHer2状態
乳癌におけるパクリタキセル化学療法の添加への反応に対するエストロゲン-受容体及びHER2状態の可能な影響を調べるために、我々は、年齢、腫瘍悪性度、腫瘍サイズ、陽性リンパ節の数、及びエストロゲン受容体又はHER2の状態のいずれかを調整するエストロゲン受容体状態又はHER2状態によって階層化された患者下位群についての疾患なし生存の検索的分析を行った。図2は、エストロゲン受容体状態によって階層化されたpAkt-陰性及びpAkt-陽性癌を有する患者における疾患なし生存のための調整されたカプラン-マイヤープロットを与え;図3は、HER2状態によって階層化された調整された疾患なし生存曲線を示す。pAkt-陰性癌を有する患者において、エストロゲン-受容体状態又はHER2状態下位群のいずれかの間にはパクリタキセル効果の示唆はなかった。治療群を比較するハザード比は、エストロゲン-受容体腫瘍を有する患者について1.06 (P=0.64; 図2A); エストロゲン-受容体-陰性腫瘍を有する患者について1.04 (P=0.79; 図2C); HER2-陽性腫瘍について0.96 (P=0.88; 図3A); 及びHER2-陰性腫瘍について1.12 (P=0.36; 図3C) であった。対照的に、pAkt-陽性癌を有する患者において、非-パクリタキセルと比較したパクリタキセルの添加についてのハザード比は、エストロゲン受容体-陰性腫瘍を有する患者について0.66 (P=0.052; 図2D)、HER2-陰性腫瘍を有する患者について0.70であった (P=0.03; 図3D)。エストロゲン受容体-陽性(図2B)を有する患者及びHER2-陽性腫瘍(図3B)を有する患者のプロットはまた、治療曲線間で分離を示したが、統計的に有意でなかった。治療群を比較するハザード比は、エストロゲン受容体-陽性腫瘍 (P=0.24) について0.82、HER2-陽性腫瘍 (P=0.28) について0.72であった。これらの結果は、治療とpAkt状態との相互作用が、エストロゲン受容体状態又はHER2状態で階層化した後の依然として明らかである、ことを示している。
【0046】
先の結果は、Akt-Ser473リン酸化が、ドキソルビシン及びシクロホスファミド治療の4サイクル後の追加のパクリタキセルの4サイクルを受けたリンパ節陽性乳癌を有する女性において、疾患なし生存の顕著な利益を予測する、ことを示している。pAktと、補助的ドキソルビシン及びシクロホスファミド化学療法後のパクリタキセルの添加を有する治療との相互作用があるようである。
【0047】
少ないデータデットからの報告は、記録した組織サンプルを用いて、ホルモン療法及び予後診断におけるAkt-Ser473リン酸化の役割を試験した。しかしながら、標本固定及びリンタンパク質抗原の固定期間の変更のために、我々は、この試験の前にpAkt免疫組織学を最適化した。この最適化された染色プロトコルによるpAkt状態の決定は、利益を受ける患者の同定を促進した。臨床的に有効なデジタル画像補助分析の使用は、客観性、信頼性及び再現性を上げることによって試験結果に権限を与えた。
【0048】
最近、メタ分析は、HER2-陽性及びHER2-陰性癌を有する患者においてタキサン型レジメからの、顕著な疾患なし生存利益を示した。更に最近、乳癌の補助化学療法における研究は、HER2-陰性乳癌を有する患者が毎週のパクリタキセル治療から顕著に利益を得ることを見出した (Sparano et al, 2008, NEJM)。したがって、患者は、エストロゲン受容体状態又はHER2状態のいずれかにかかわらず、補助的タキサン型化学療法を目下検討されている。
【0049】
この試験では、我々の結果は、pAkt-陽性癌を有する乳癌患者がエストロゲン受容体状態及びHER2状態にかかわらず、パクリタキセルの添加から利益を受け得ることを証明している。探索的な下部群の分析によって、我々は、pAkt-陽性及びER-陰性癌を有する患者では、pAkt-陽性及びER-陽性癌を有する患者よりも、パクリタキセルからの高い利益を有するようであることを見出した (図2B及び図2D)。その結果は、ER-陰性乳癌がタキサンから利益を受けるとのメタ分析データと一致する。この試験集団の4分の1を示すpAkt-陽性及びER-陰性乳癌の下部群では、パクリタキセルで治療した患者は、パクリタキセルで治療しなかった患者に比べて、顕著に増加した疾患なし生存を有した (図3D)。また、pAkt-陽性及びHER2-陽性癌を有する患者の小下部群からの結果は、パクリタキセルからの利益を示唆した (図3B)。
【0050】
我々の結果は、pAkt陽性状態が、独立に、ドキソルビシン及びシクロホスファミド化学療法後のパクリタキセルの添加から疾患なしの利益を予測することを示している。pAkt-Ser473測定を有する全体的なB-28集団の結果(陽性又は陰性状態にかかわらず)は、フォローアップの約10年間で、パクリタキセルの連続添加が疾患なしの生存を6%改善したことを証明した。しかしながら、pAkt-陽性乳癌を有する患者群において、パクリタキセルの連続添加が顕著に疾患なしの生存を26%顕著に改善した。pAkt-陰性腫瘍を有する女性(この試験では62%)は、パクリタキセルの添加からの利益を受けないようである。したがって、我々のデータがCALGB9344もしくはE1199試験又は他の有望な臨床試験において評価されるならば、パクリタキセルの補助的化学レジメ(複数)への添加は、リンパ節-陽性乳癌患者の約3分の2について残されている。したがって、予測バイオマーカーとしてのpAktは、個別化医療の方法に寄与するだろう。
【0051】
パクリタキセルの添加を受けた(31%)又は受けなかったかのいずれかのリンパ節陽性乳癌の約62%を示すpAkt-陰性癌を有する患者は、当該治療からの利益を受けなかった。我々のデータは、pAkt-陰性リンパ節-陽性乳癌を有する患者群に対してパクリタキセルを投与しない可能性を示唆している。しかし、その結果は、他の有望な臨床試験において確認される必要があるだろう。
【0052】
当業者は、多数の変更及び修飾が本発明の好ましい実施態様に対してなされ、かかる変更及び修飾が本発明の趣旨から逸脱することなく行われる、ことを当業者は理解するだろう。そのため、添付のクレームの趣旨及び範囲は、そこに含まれる好ましい実施態様の記載に限定されるべきではないが、添付のクレームが本発明の真の趣旨及び範囲内にある等価な変更をすべてカバーする、ことを意図している。
【技術分野】
【0001】
技術分野
本願は、セリン473部位(pAkt)でのAktリン酸化反応、pAkt-陽性ヒト腫瘍を同定するための方法及びキット、並びにかかる腫瘍を有する患者を治療する方法を改善することに関する。
【背景技術】
【0002】
関連出願の相互参照
本願は、2009年5月22日に出願された米国仮出願61/180,558の利益を請求し、参照としてその全体が本明細書に組み込まれている。
【0003】
背景
補助化学療法は、初期ステージの乳癌における疾患のない全体的な生存を顕著に改善する。"再発及び15年生存に対する初期乳癌のための化学療法及びホルモン療法の効果:ランダム化試験の概要", Lancet 2005; 365(9472): 1687-717。非-アントラサイクリン含有レジメと比べて、アントラサイクリン-含有レジメ(例えば、ドキソルビシン及びその他)は、再発及び死亡率を更に減少させることが分かっている。過去10年において、タキサン、例えばパクリタキセル及びドセタキセルはまた、乳癌及びその他の悪性腫瘍のための効果的な化学療法剤として出現している。補助乳癌設定へのタキサンの追加は、疾患なしの生存及び/又は全体的な生存のための顕著な改善をもたらした。De Laurentiis M, Cancello G, D'Agostino D,他 「初期乳癌の補助化学療法としてのタキサン型組合せ:ランダム化試験のメタ分析」 J Clin Oncol 2008; 26(1): 44-53。例えば、アメリカ外科補助乳がん結腸直腸がんプロジェクト (NSABP) 由来のB-28ランダム化臨床試験は、腋窩リンパ節陽性乳癌の患者において、パクリタキセルの、ドキソルビシンとシクロホスファミドとのレジメへの連続的な添加によって達成される治療結果と比較し、ドキソルビシンとシクロホスファミドのみと比較した。ドキソルビシンとシクロホスファミド後のパクリタキセルの添加は、生存全体ではなく、疾患のない生存を顕著に改善することが見出された。Mamounas EP, Bryant J, Lembersky B, 他 "リンパ節-陽性乳癌のための補助化学療法としてのドキソルビシン及びシクロホスファミド後のパクリタキセルNSABP B-28からの結果" J Clin Oncol 2005; 23(16): 3686-96。
【0004】
しかしながら、すべての患者がタキサンでの治療からの利益を受けていない。更に、これらの薬物での治療は広範囲に渡り、実質的な死、及びニューロパチー、好中球減少症、白血球減少症、貧血症、脱毛、筋肉痛/関節痛、悪心、嘔吐及び下痢を含む、時々の生命を脅かす毒性効果を引き起こす。他の低い頻度の重大な副作用は、知覚異常(激しい痛み、ヒリヒリする痛み)、血小板減少及び血液凝固の問題、口又は腸管での痛み、心電図での変化、及び低血圧症を含む。こられの事実を考慮すると、どの患者がタキサンでの治療からの利益を受けそうであるかを確実に予測するバイオマーカーの同定は、非常に重要である。
【0005】
近年、タキサン型化学療法を受けた患者の結果を予測するバイオマーカーが同定された。最近のメタ分析は、ホルモン受容体の状態及びHER2状態にかかわらず、タキサン型治療を受けた乳癌の女性のために顕著な疾患なしの利益を見出した (DeLaurentis, et al, supra; Pritchard KI, Messersmith H, Elavathil L, Trudeau M, O'Malley F, Dhesy-Thind B "化学療法への反応の前兆としてのHER-2及びトポイソメラーゼII" J CHn Oncol 2008; 26(5): 736-44) が、タキサンでの治療結果を予測するバイオマーカーは同定されてなかった。
【0006】
Aktは、癌の病原、及び代謝、細胞成長、増殖、細胞周期進行、生存及び分化を含む必須の細胞プロセスに関連している、セリン/スレオニンタンパク質キナーゼ(タンパク質キナーゼBとしても知られている)である。Bhaskar PT, Hay N "The two TORCs and Akt" Dev Cell 2007; 12(4): 487-502。近年の前臨床試験は、Akt-Ser473が、生存のような細胞機能(Jacinto E, Facchinetti V, Liu D, et al."SIN1/MIP1はSIN-1-リクター-mTOR複合体全体を維持し、Aktリン酸化及び基質特異性を調節する" Cell 2006; 127(1): 125-37) 及びアクチン細胞骨格認識について要求される、SIN-1-リクター-mTOR複合体によってリン酸化されることを報告した。重要なことに、パクリタキセルは、セリン473でのAktリン酸化を阻害し、癌細胞の生存を減ずる。MacKeigan JP, Taxman DJ, Hunter D, Earp HS, 第3版, Graves LM, Ting JP "タキソール及びマイトジェン-活性化タンパク質キナーゼ阻害の併用治療による、抗アポトーシス性ホスファチジルイノシトール3-キナーゼ-Akt経路の不活性化" Clin Cancer Res 2002 ;8(7): 2091-9; Asakuma J, Sumitomo M, Asano T, Asano T, Hayakawa M "低濃度のパクリタキセルによる、選択的Akt不活性化、及び腎臓癌の腫瘍ネクローシス作動-関連アポトーシス-誘導リガンド処理" Cancer Res 2003; 63(6): 1365-70。乳癌患者のセリン473 (pAkt) でのAktのリン酸化は、遠隔転移を有する腫瘍再発 (Perez-Tenorio G, Stal O "乳癌におけるAKT/PKBの活性化は、内分泌腺治療患者の間で最悪の結果を予測する" Br J Cancer 2002; 86(4): 540-5)、及びホルモン療法に対する低い効果 (Kirkegaard T, Witton CJ, McGlynn LM, et al. "AKT活性化は、タモキシフェンで治療した乳癌患者における成果を予測する" J Pathol 2005; 207(2): 139-46) と関連している。しかしながら、本明細書で報告された研究の前に、癌のpAkt状態とタキサン治療の効果との関連は評価されてこなかった。
【発明の概要】
【0007】
概要
本願は、pAkt状態がタキサン化学療法での治療のためのバイオマーカー及び兆候として使用できるという重要な発見に由来する。特に、本明細書は、癌を有する対象がタキサン化合物での治療を含む治療レジメからの利益を受ける可能性があるか否かを決定する方法であって、当該対象の癌由来の組織がpAkt陽性であるか否かの決定を得ることを含む、方法を開示する。
【0008】
癌がタキサンの投与によって治療され得る、対象における癌を治療する改善方法も提供される。これらの方法は、前記癌がpAkt陽性であるか否かの決定を得るステップ、及び癌がpAkt陽性であるとの決定の際に、当該対象がタキサン化合物での治療から利益を受ける可能性があることを示すステップを含む。
【0009】
本発明の別の実施態様は、患者がタキサン化合物での治療からの利益を受ける可能性があるか否かを決定するためのキットに関する。1つの実施態様では、かかるキットは、前記患者の癌由来の細胞がpAkt陽性であるか否かを決定するための手段、そこでは、前記組織がpAkt陽性であるとの決定は、当該患者がタキサン化合物での治療からの利益を受ける可能性があることを示す、を含む。キットの中には、pAkt特異的抗体を含む。1つの実施態様は、pAKT配列SERRPHFPQF{pセリン473}YSA-NH2から成るリン酸化ペプチドに特異的な抗-pAkt抗体を有するキットである。
【0010】
本発明の更なる実施態様は、アントラサイクリン及びシクロホスファミドでの化学療法の使用後に、タキサン化合物での治療を含む、患者の癌を治療する方法の改善に関する。特に、当該改善は、前記癌がpAkt陽性であるか否かの決定を得るステップを含む。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1A】図1Aは、パクリタキセルによる治療あり及びなしの、pAkt陽性及びpAkt陰性の患者のための疾患なし生存率を示す。
【図1B】図1Bは、パクリタキセルによる治療あり及びなしの、pAkt陽性及びpAkt陰性の患者のための疾患なし生存率を示す。
【図1C】図1Cは、パクリタキセルによる治療あり及びなしの、pAkt陽性及びpAkt陰性の患者のための疾患なし生存率を示す。
【図2A】図2Aは、エストロゲン受容体状態によって階層化された、pAkt陽性及びpAkt陰性の癌を有する患者の、疾患なし生存のための調整されたカプラン・マイヤー曲線を示す。
【図2B】図2Bは、エストロゲン受容体状態によって階層化された、pAkt陽性及びpAkt陰性の癌を有する患者の、疾患なし生存のための調整されたカプラン・マイヤー曲線を示す。
【図2C】図2Cは、エストロゲン受容体状態によって階層化された、pAkt陽性及びpAkt陰性の癌を有する患者の、疾患なし生存のための調整されたカプラン・マイヤー曲線を示す。
【図2D】図2Dは、エストロゲン受容体状態によって階層化された、pAkt陽性及びpAkt陰性の癌を有する患者の、疾患なし生存のための調整されたカプラン・マイヤー曲線を示す。
【図3A】図3Aは、HER2状態によって階層化された、調整された疾患なし生存曲線を示す。
【図3B】図3Bは、HER2状態によって階層化された、調整された疾患なし生存曲線を示す。
【図3C】図3Cは、HER2状態によって階層化された、調整された疾患なし生存曲線を示す。
【図3D】図3Dは、HER2状態によって階層化された、調整された疾患なし生存曲線を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
タキサンは、タキサス(イチイ)種の植物によって産生される化合物に関するジテルペン化合物である。その名前が示すように、タキサン化合物は、天然起源から最初に得られるが、その中には人工的に合成されてきたものもある。FDA-承認タキサン化合物は、パクリタキセル及びドセタキセルを含む。分裂阻害剤として機能するタキサンは、細胞機能において重要な役割を果たす微小管と呼ばれる細胞構造に影響を与えることによって、癌細胞の成長を抑制する独特な方法を有する。正常細胞の成長において、細胞の形状を支持し、細胞内の物質の移送のための「ハイウェイ」として働く、現存の微小管は、細胞が分割を始める時に紡錘と呼ばれる組織に完全に再配列される。一旦細胞が分割を停止すると、紡錘は消失し、微小管ネットワークが再現する。これらの再配列は、急速な微小管分解及び最構築を必要とする。タキサンは、微小管が壊れそして適切に再配列されるのを停止する。加えて、それらは、非常に多い微小管を引き起こすために形成できず、しかも誤った場所で形成してしまう。これらのすべては、癌が効率的な方法で成長し分割することを抑制する。
【0013】
本発明者らは、Ser473でのAktのリン酸化を示す(すなわち、「pAkt陽性である」)腫瘍を有する患者(すなわち、「pAkt陽性である」)が、pAkt陽性でない腫瘍を有する患者よりもタキサン化合物での治療を含む治療レジメからの利益をより受ける可能性がある、ことを見出した。本明細書に記載の用語「利益を受ける可能性がある」は、当該患者が疾患なしの生存の高い可能性を有し、そして、タキサン化合物での治療を受けないp-Akt陽性腫瘍を有する患者に比べて、おそらく全体的な生存での増加を有する、ことを意味する。好ましくは、疾患なしの生存の高い可能性は、少なくとも約5%、好ましくは10%、より好ましくは少なくとも約20%、更により好ましくは少なくとも約25%、なお更により好ましくは約26%である。全体的生存の高い可能性は、5%〜20%である。
【0014】
本発明の1つの実施態様は、タキサン化合物での治療からの可能性のある利益の予測的インジケータとしての、腫瘍のpAkt状態の使用に関する。したがって、かかる方法は、腫瘍組織がpAkt陽性であるか又はpAkt陰性であるかの決定を得ることを伴う。好ましい実施態様では、pAkt状態は、免疫検出(すなわち、抗体型同定)によって決定される。様々な異なった免疫検出法がpAktの検出に使用することができる。一般的に、好適な免疫検出法は、pAktを含むと疑われる標本を取得し、当該標本又は当該標本の誘導物を、pAktに特異的に結合する少なくとも1つの抗体に接触させ、そして当該標本に結合されたpAkt-特異的抗体を検出すること、を含む少なくとも3ステップを含む。
【0015】
当業者には明らかなように、前段落に記載されている一般的な免疫検出スキームは、様々な方法で実行される。例えば、免疫検出法、例えばウェスタンブロット、ELISA、免疫沈降法、フローサイトメトリー、免疫組織学等は、腫瘍由来の標本においてpAkt-陽性細胞を検出するために使用することができる。
【0016】
記載された免疫検出法で使用される標本は、癌を有する患者由来の任意の腫瘍組織又は腫瘍細胞から得られる。標本又は腫瘍細胞は、組織生検、血液、又は体液から得られる。
【0017】
これらの検出法を実行するために使用できる多数の抗体検出プロセスがある:
−検出は、pAkt-特異的一次抗体、次いで標識された二次抗体での検出を用いて行うことができる;
−標識されたpAkt-特異的一次抗体は、検出のために使用することができる;及び/又は
−Fab又はF(ab')2は検出のために使用することができる。
【0018】
結合された抗体の検出は、様々な方法、例えば蛍光型検出、酵素型検出又は放射性同位体標識検出で行うことができる。
【0019】
当然のことながら、他の抗原-結合タンパク質は、pAkt、例えば抗-pAkt Fab、F(ab')2等を検出するために使用することもできる。結合された抗体の検出は、様々な方法、例えば蛍光型検出、酵素型検出又は放射性同位体標識検出で行うことができる。抗体検出の他の好適な手段は、当業者によって理解されるだろう。本明細書に記載のアッセイ及び抗体型検出法の一般的な説明については、例えばC. Janeway他, Immunobiology (第5版 2001) を参照。
【0020】
本発明の更なる実施態様は、癌を有する患者を治療する改善された方法であって、当該癌がpAkt陽性であるか否かの決定を得、害癌がpAkt陽性であるとの決定の際には、患者がタキサン化合物での治療から利益を受ける可能性があることを示すことを含む、方法に関する。タキサン化合物を投与する方法は当該分野で知られている。例えば、ブリストル-マイヤースクイブ (NDA 020262) によって市販されたタキソール(登録商標)パクリタキセル注射は、乳癌及び卵巣癌の治療での使用に承認され、他の癌種の治療にために広く使用されている。ドセタキセルのタキソテレ(登録商標)注射調製物は、乳房、結腸、肺、卵巣、肝臓、腎臓、頭頸部、前立腺及び胃の癌、及び黒色腫の治療のためにSanofi-Aventis (NDA 020449) によって市販されている。投与方法及び投薬プロトコルは、これらの製品用に標識するFDA-承認パッケージに記載されている(本明細書に参考として組み込まれる)か、又は当業者に知られている。
【0021】
タキサン化合物の投与を含む治療レジメは、例えば、患者の腫瘍状態(サイズ、グレード等)又は他の危険因子(例えば、年齢、病歴、排泄リンパ節での腫瘍細胞の存在等)が化学療法の好適な候補を与えるような患者の原発腫瘍の外科的除去後に、補助化学療法の一部として適用することができる。タキサン化合物での治療レジメは、転移癌に罹患した患者において使用される。更に、タキサン化合物を用いる治療レジメは、癌が最初は外科手術には大きすぎるか、又はタキサン化合物での治療前に手術不可能である、術前補助化学療法環境で実施することができる。
【0022】
本発明の他の実施態様は、タキサン化合物での治療から利益を受けることがある患者の同定及び治療において有用であるキットに関する。かかるキットは、患者癌由来の組織(冷凍されているか、又はホルマリン固定されパラフィン包埋されている)がpAkt陽性であるか否かを決定するための手段であって、組織がpAkt陽性であるとの決定は、当該患者がタキサン化合物での治療からの利益を受ける可能性があることを示す、手段を含んでよい。癌がpAkt陽性であるか否かを決定するための好適な手段は、上記の様々な免疫検出法、及び以下に記載の実施例に使用された手段を含む。患者がタキサン化合物での治療から利益を受ける可能性があるか否かを決定するためのキットの1つの実施態様は、pAkt-特異的抗体を含む。かかる抗体(ポリクローナル又はモノクローナルのいずれか)は、例えばCell Signaling Technology, Beverly, MAから商業的に入手できる。当該キットは、組織中のpAktへの前記抗体の結合を検出するために好適な染色、及びpAkt陽性又はpAkt陰性としてサンプルの翻訳及び「スコアリング」のためのガイドラインを更に含む。場合によっては、スコアリングは、病理学者によって利用される典型的な方法に従って行われる。場合によっては、当該キットは、組織への抗体の結合の検出及びサンプルの定量的スコアリングを促進するためのデジタル画像装置を伴う使用に適合される。キットはまた、好適な陽性及び陰性対照細胞又は組織を含むスライドを含んでよい。ガイドラインはまた、抗原賦活化及びpAkt免疫組織学的方法を実施するためのサンプルの調製を最適化するための教示を提供するために提供される。
【0023】
加えて、当該キットは、単に、タキサン化合物が利用されるFDA標識に従って癌がpAkt陽性であると決定される際に、タキサン化合物での治療が指摘され得る診断を含んでよい。
【0024】
本発明の好ましい局面は以下の実施例に記載されている。本発明を好ましい特定の実施態様に従って具体的に記載してきたが、本発明はそれに限定されない。
【実施例】
【0025】
我々は、Aktリン酸化を、アメリカ外科補助乳がん結腸直腸がんプロジェクトB-28試験由来の原発腫瘍標本から得られる臨床結果と相関させるための研究を設計し、行った。我々は、セリン473でのAktのリン酸化(「pAkt」)が、補助的なドキソルビシン及びシクロホスファミド化学療法後のパクリタキセルの連続添加から、リンパ節陽性乳癌を有する女性のための利益を予測する仮説を試験した。
【0026】
Akt由来のペプチドに対する抗体の産生
2つのペプチドを作製し、単離した:配列CSERRPHFPQF{pセリン473}YSA-NH2を有するリン-Akt (Ser473) ペプチド、及び配列CSERRPHFPQFSYSA-NH2を有する対照ペプチド。第3免疫後に、5匹のBalb/cマウス由来の試験血清は、差異を認識するリン-Akt-Ser473を示した(表1及び表2)。マウス1番及び2番由来のポリクローナル血清のウェスタンブロット分析は、pAktバンドがマウス1番由来の6O kDaにあることを示している。
【0027】
モノクローナル抗体は、クローン由来のモノクローナル抗体は、リン-Akt-Ser473ペプチドを認識するが、非-リン-Ser473は選択されない。ウェスタンブロットによる単一の60 kDaバンドを認識するクローンは、更に選択され拡張される。最後に、選択されたクローンは、発現することが知られているがpAkt-Ser473を発現するが知られていない、パラフィン包埋腫瘍断片についての免疫組織学的方法によって試験される。このことはまた、モノクローナル抗体の特異性を更に評価するためのブロッキング剤としてのリン-Akt-Ser473ペプチドの使用を含む。特徴付けられたモノクローナル抗体は、pAkt-Ser473検出キットを構築するために利用される。
【0028】
【表1】
【0029】
【表2】
【0030】
患者
アメリカ外科補助乳がん結腸直腸がんプロジェクトB-28試験への患者の適格及び登録は、本明細書に参考として組み込まれている、Mamounas EP, Bryant J, Lembersky B他, "リンパ節-陽性乳癌のための補助化学療法としてのドキソルビシン及びシクロホスファミド後のパクリタキセル:NSABP B-28からの結果" J Clin Oncol 2005; 23(16): 3686-96に記載されている。周辺部及び腋窩リンパ節郭清をしない手術を完了した、リンパ節-陽性乳癌を有する3060人の女性を、補助的なドキソルビシン (60 mg/m2) 及びシクロホスファミド (600 mg/m2) のみの4つのサイクル、又はこれに加えてパクリタキセル (225 mg/m2) 治療を追加した4つのサイクルのいずれかにランダムに割り当てた。適格のある患者は、組織採集、及び連邦及び研究所のガイドラインに適合する採集済み組織の研究的使用を含む承認されたインフォームドコンセントにサインした。この試験では、補助的なドキソルビシン及びシクロホスファミドのみ又はそれに加えてパクリタキセルのいずれかで治療されたリンパ節-陽性乳癌を有する患者における疾患なしの生存及び全体的な生存に関連する、Aktリン酸化の評価のためのバイオマーカープロトコルは、アメリカ国立癌研究所の治験審査委員会 (ベセスダ, MD) 及びアメリカ外科補助乳がん結腸直腸がんプロジェクト (ピッツバーグ, PA) によって承認された。
【0031】
乳癌標本採集、組織マイクロアッセイ構築、並びにHer2状態及びエストロゲン受容体状態の決定
組織マイクロアッセイブロックは、2つの治療アーム及び組織の特徴を表し、そしてNSABP B28試験に参加した患者から先を見越して採集された、原発腫瘍ブロックを記録した1982つの事例から構築された。マイクロアレイ部分上のHER2状態は、製造者 (Vysis, Downers Grove, IL) によるFDA承認プロトコルに従って、Path Vision蛍インサイチュハイブリダイゼーション(FISH)アッセイを用いてNSABP中央病理研究室によって決定された。データは、染色体17セントロメア当たりのHER2数として表された:≧2の比を有する腫瘍はHER2-陽性として分類され、<2の比を有する腫瘍はHER2-陰性として定義された。組織マイクロアッセイ断片のエストロゲン受容体状態はまた、DAKO (PharmDx kit; Carpinteria, CA) によって提供されたFDA承認プロトコルに従って、免疫組織学によってNSABP中央病理研究室によって決定された。ER用の陽性結果(腫瘍細胞核染色)は、≧3の総スコア(0、2〜8の範囲)として定義される。総スコアは、0〜5の比例スコアと0〜3の強度スコアの合計である。
【0032】
Ser473におけるAktリン酸化のための免疫組織学的分析
B-28試験組織マイクロアッセイセットのホルマリン固定及びパラフィン包埋原発腫瘍についてのAktリン酸化状態は、pAkt-Ser473に対するウサギポリクローナル抗体を用いる免疫組織学によって試験した (Cell Signaling Technology, Beverly, MA)。Tan AR他 "エルロチニブ、すなわち上皮細胞成長因子受容体チロシンキナーゼ阻害剤での治療後の転移性乳癌を有する患者の生物学的終点及び薬物動力学の評価" J Clin Oncol 2004; 22(15): 3080-90 (本明細書に参考として組み込まれている) に記載された方法に従ってリン酸化Aktの検出のために、抗原性賦活化方法及び抗体の濃度を最適化した。
【0033】
先に記載 (Yang et al, JCO, 2010) したようにして確立された免疫組織学によって、ホルマリン固定及びパラフィン包埋原発腫瘍についてのpAkt状態を試験した。簡単に言えば、エピトープ賦活化は、抗原賦活化バッファ (pH 10; Dako, Carpinteria, CA) 中で行い、15分間マイクロオーブン中で加熱した。断片は、pAkt-Ser473 (Cell Signaling Technology, Beverly, MA) に特異的なウサギポリクローナル抗体で、1:100希釈で、インキュベートすることになる。抗体の抗原部位への結合は、Vectastain Eliteアビジン-ビオチン-ペルオキシダーゼ複合体キット (Vector Laboratories, Burlingame, CA) 用いて増幅した。乳癌細胞株MDA-MB-468、及びpAkt発現のpレベルを確立した乳癌標本を形式的な陽性対照として利用した。陰性対照は、使用した一次抗体に好適なアイソタイプ免疫グロブリンを用いて行った (Zymed Laboratories, South San Francisco, CA)。アッセイの再現性を証明した(MDA-MB-468乳癌細胞において3つの独立したpAkt染色に関する係数の5.7%共分散を有した)(Yang et al, JCO, 2010)。
【0034】
細胞質、膜又は核染色を有するpAktシグナルは、すべての臨床情報に目隠しをされた国立がん研究所において、Automated Cellular Imaging System (ACIS III, Dako, Carpinteria, CA) によって分析した。pAktの細胞内局在は、捕獲された画像分析の時間に記録した。存在する侵襲的腫瘍細胞の<5%を有する組織コアは分析のために除いた。各コア上の染色された腫瘍細胞の強度及びパーセンテージは、デジタル画像装置によるフリーのスコアリングツールを用いて作製した。染色指標は、先に記載したように、パーセンテージに染色強度を乗じて、100で割って決定した。>2の染色指標は、pAkt B-28試験 (Yang et al, JCO, 2010) から確立されたpAkt陽性カットオフとして選択されることになる。陽性についてのこのカットオフは、1+、2+及び3+の視覚染色強度を有するpAkt染色を含む。
【0035】
断片は、室温で1時間、1〜100希釈で、一次抗体でインキュベートし、そして、当該抗体のその抗原部位への結合は、Vectastain Eliteアビジン-ビオチン-ペルオキシダーゼ複合体キット (Vector Laboratories, Burlingame, CA) を用いて増幅した。抗原-抗体反応部位は、7分間3,3-ジアミノベンジジンを用いて視覚化し、次いで、断片はマイヤーヘマトキシリンで対比染色した。pAktを発現する乳癌細胞株MDA-MB-468、及びpAktを発現することが知られている乳癌標本は、陽性対照として利用した。陰性対照は、使用した一次抗体に好適なアイソタイプ免疫グロブリンを用いて行った (Zymed Laboratories, South San Francisco, CA)。細胞質、膜又は核シグナルのいずれかを有する免疫染色組織マイクロアレイコアは、存在する侵襲的腫瘍細胞の5%未満を有する組織コアを除いた後に、すべての臨床情報に目隠しをされたAutomated Cellular Imaging System (DAKO) の助けを借りて分析した。各組織コア上の腫瘍細胞の染色強度及びパーセンテージは、デジタル画像装置によって計算した。Ser473でのAktリン酸化のレベルを報告する0〜62.8の範囲の染色指標は、腫瘍細胞において、パーセンテージに染色強度を乗じ、100で割ることによって決定した(強度 x パーセンテージ/100)。そこでは、強度は3つの正常組織コアの平均組織読み出しから差し引いた。これらのコアは、各アレイスライド用の位置マーカー及び組織陰性対照として働く。その一致は、B-28組織マイクロアレイセットに組み込まれた二つ組又は三つ組での品質精度コアを満たし;少数の不一致はあきらめた。4つのケースでは、二つ組での各々は、腫瘍異成分のために満足できず、データ分析から除いた。pAkt状態は、> 2(陽性)及び≦2(陰性)の染色指標によって分類した。>2の染色指標(範囲、0〜62.8)は、pAkt陽性についてのカットオフとして適宜選択した。臨床結果との相関は、ナショナル・サージカル・アジュバント乳腺・大腸プロジェクト事務局兼バイオスタティスティカルセンターで行った。
【0036】
統計的分析
pAkt測定を有する患者の下位群と総集団との間の患者分布及び腫瘍特性の相違は、カイ二乗検定を用いて評価した。パクリタキセルで治療した又は治療しなかったpAkt-陽性群及びpAkt-陰性群による、疾患なしの生存及び全体的な生存曲線は、カプラン・マイヤー法で見積もった。ログランク検定は、当該結果のための治療群間の相違を評価するために使用した。疾患なし生存でカウントされた事象は、乳癌再発、第2の原発癌(扁平上皮乳頭腫又は皮膚の基底細胞癌、子宮頸癌の非浸潤性腫瘍、又は乳房の非浸潤性小葉癌を除く)、及び先の再発又は第2の原発癌なしの任意の原因からの死であった。全体的生存に含まれる終点は、任意の原因からの死であった。多変量のコックス比例ハザードモデルを、調整された疾患なし生存及び全体的生存のハザード比を、pAkt及び予後変数のための95パーセントの信頼区間(CI)で計算するために使用した。ワルド統計は、調整されたハザード比及び相互作用項のためのP値を決定するために使用した。予後変数のために調整されたカプラン-マイヤー曲線は、Xie及びLiu("生存データ用の治療重み付けの逆可能性を有する、調整されたカプラン-マイヤー及びログランク検定" Stat Med 2005; 24(20): 3089-110, 本明細書に参考として組み込まれている)に記載の方法によって決定された。調整されたカプラン-マイヤー曲線上に示されたハザード比及びP値は、多変量コックスモデルから得たものであった。
【0037】
結果
成果、pAkt発現、及びpAkt測定をした患者の特徴
約5年間のフォローアップを行ったB-28治療試験結果を以前に報告した。Mamounas他, 前掲。約10年間のフォローアップ後の、疾患なしの生存及び全体的な生存の結果は同様であった(下記表1)。パクリタキセルのドキソルビシン及びシクロホスファミドへの連続添加を行った、疾患なし生存及び全体的な生存のハザード比は、それぞれ、0.89 (95% CI 0.79〜0.99; P=0.034) 及び0.92 (95% CI 0.81〜1.06; P=0.25) であった。
【0038】
B-28組織マイクロアレイ上の原発集癌は、全体的なB-28試験集団の52%を示す1581人の患者由来の分析のために利用した。pAktは、606/1581 (38%) の乳癌で発現し、その中で、279/760 (37%) はドキソルビシン及びシクロホスファミド群に存在し、327/821 (40%) はドキソルビシン及びシクロホスファミド後のパクリタキセル治療群に存在した。ドキソルビシン及びシクロホスファミドへのパクリタキセルへの添加を有する、pAkt測定を行った1581人の疾患なし生存及び全体的な生存のハザード比は、それぞれ、9.1年の治療(mediateion)フォローアップによって、0.94 (95% CI 0.81〜1.10; P=0.46) 及び0.96 (95% CI 0.79〜1.15; P=0.63) であった。
【0039】
この試験でpAkt測定を有する1581患者がB-28試験での治療群によって全体集団を表すことを確認するために、我々は、pAkt測定を有する患者及びすべての治療患者において、年齢、腫瘍サイズ、関連するリンパ節の数、腫瘍悪性度及びエストロゲン受容体状態を比較した(表3)。ドキソルビシン及びシクロホスファミドのみで治療した群では、腫瘍サイズ及びス用グレードを除いて、人工統計学的又は予後的特徴において有意な検出できる差はなかった。pAkt測定を有する患者において、約84%の患者はタモキシフェン治療を受け、それは、全体的なB-28集団についての患者(85%)とほとんど比例した。
【0040】
【表3】
【0041】
パクリタキセル及びAkt-Ser473リン酸化状態
パクリタキセルを受けた又は受けなかった患者間の疾患なしの生存及び全体的生存は、免疫組織学によって確率されたようにpAkt状態にしたがって分析した(図1)。pAkt-陰性癌を有する975患者中で、疾患なし生存率は、パクリタキセルの添加あり及びなしで治療した患者と同等であった(図1A; ハザード比, 1.08; P=0.44)。しかしながら、pAkt-陽性癌を有する606患者においては、パクリタキセルの連続添加は、ドキソルビシン及びシクロホスファミド治療のみと比較して、疾患なしの生存を顕著に増加させた(図1B; ハザード比, 0.75; P=0.027)。pAkt-陰性癌を有する患者での治療群間での全体的な生存差(ハザード比, 1.04; P=0.74)又はpAkt-陽性癌を有する患者での統計的に有意な差(ハザード比, 0.83; P=0.226)はなかった。
【0042】
pAkt状態と疾患なし生存のための治療との潜在的な相互作用を評価するために、我々は、年齢、腫瘍悪性度、腫瘍サイズ、陽性リンパ節の数、エストロゲン受容体状態及びHER2状態のために調整された、比例ハザードモデルにおいて、相互作用項の統計的有意を試験した。
【0043】
【表4】
【0044】
治療とpAkt状態との間の相互作用の形式的試験は、境界線の統計的有意に達した (P=0.056)。更に、数個の不均衡、例えば、腫瘍悪性度、腫瘍サイズ、及び年齢、陽性リンパ節の数、エストロゲン受容体状態及びHER2状態を含む他の潜在的な予後因子の我々の結果への影響を研究するために、我々は、疾患なし間隔にしたがって階層化したデータを有する比例ハザードモデルを用いて、多変量分析を行った。図1Cは、治療及びpAkt状態によって階層化された4つの集団を示す、調整されたカプラン-マイヤー生存曲線を示す。調整された生存曲線をパクリタキセルあり又はなしで治療した生存曲線と比較すると、pAkt-陰性癌を有する患者中の調整されたハザード比は、1.02 (P=0.81) であった。対照的に、pAkt-陽性乳癌を有する患者中で、パクリタキセルあり又はなしで治療された患者についての調整されたハザード比は、0.74 (P=0.02) であり、このことは、パクリタキセルの連続添加を受けた患者が疾患なし生存において26%の改善を有したことを示している。
【0045】
パクリタキセル及びAkt-Ser473リン酸化、及びエストロゲン-受容体状態又はHer2状態
乳癌におけるパクリタキセル化学療法の添加への反応に対するエストロゲン-受容体及びHER2状態の可能な影響を調べるために、我々は、年齢、腫瘍悪性度、腫瘍サイズ、陽性リンパ節の数、及びエストロゲン受容体又はHER2の状態のいずれかを調整するエストロゲン受容体状態又はHER2状態によって階層化された患者下位群についての疾患なし生存の検索的分析を行った。図2は、エストロゲン受容体状態によって階層化されたpAkt-陰性及びpAkt-陽性癌を有する患者における疾患なし生存のための調整されたカプラン-マイヤープロットを与え;図3は、HER2状態によって階層化された調整された疾患なし生存曲線を示す。pAkt-陰性癌を有する患者において、エストロゲン-受容体状態又はHER2状態下位群のいずれかの間にはパクリタキセル効果の示唆はなかった。治療群を比較するハザード比は、エストロゲン-受容体腫瘍を有する患者について1.06 (P=0.64; 図2A); エストロゲン-受容体-陰性腫瘍を有する患者について1.04 (P=0.79; 図2C); HER2-陽性腫瘍について0.96 (P=0.88; 図3A); 及びHER2-陰性腫瘍について1.12 (P=0.36; 図3C) であった。対照的に、pAkt-陽性癌を有する患者において、非-パクリタキセルと比較したパクリタキセルの添加についてのハザード比は、エストロゲン受容体-陰性腫瘍を有する患者について0.66 (P=0.052; 図2D)、HER2-陰性腫瘍を有する患者について0.70であった (P=0.03; 図3D)。エストロゲン受容体-陽性(図2B)を有する患者及びHER2-陽性腫瘍(図3B)を有する患者のプロットはまた、治療曲線間で分離を示したが、統計的に有意でなかった。治療群を比較するハザード比は、エストロゲン受容体-陽性腫瘍 (P=0.24) について0.82、HER2-陽性腫瘍 (P=0.28) について0.72であった。これらの結果は、治療とpAkt状態との相互作用が、エストロゲン受容体状態又はHER2状態で階層化した後の依然として明らかである、ことを示している。
【0046】
先の結果は、Akt-Ser473リン酸化が、ドキソルビシン及びシクロホスファミド治療の4サイクル後の追加のパクリタキセルの4サイクルを受けたリンパ節陽性乳癌を有する女性において、疾患なし生存の顕著な利益を予測する、ことを示している。pAktと、補助的ドキソルビシン及びシクロホスファミド化学療法後のパクリタキセルの添加を有する治療との相互作用があるようである。
【0047】
少ないデータデットからの報告は、記録した組織サンプルを用いて、ホルモン療法及び予後診断におけるAkt-Ser473リン酸化の役割を試験した。しかしながら、標本固定及びリンタンパク質抗原の固定期間の変更のために、我々は、この試験の前にpAkt免疫組織学を最適化した。この最適化された染色プロトコルによるpAkt状態の決定は、利益を受ける患者の同定を促進した。臨床的に有効なデジタル画像補助分析の使用は、客観性、信頼性及び再現性を上げることによって試験結果に権限を与えた。
【0048】
最近、メタ分析は、HER2-陽性及びHER2-陰性癌を有する患者においてタキサン型レジメからの、顕著な疾患なし生存利益を示した。更に最近、乳癌の補助化学療法における研究は、HER2-陰性乳癌を有する患者が毎週のパクリタキセル治療から顕著に利益を得ることを見出した (Sparano et al, 2008, NEJM)。したがって、患者は、エストロゲン受容体状態又はHER2状態のいずれかにかかわらず、補助的タキサン型化学療法を目下検討されている。
【0049】
この試験では、我々の結果は、pAkt-陽性癌を有する乳癌患者がエストロゲン受容体状態及びHER2状態にかかわらず、パクリタキセルの添加から利益を受け得ることを証明している。探索的な下部群の分析によって、我々は、pAkt-陽性及びER-陰性癌を有する患者では、pAkt-陽性及びER-陽性癌を有する患者よりも、パクリタキセルからの高い利益を有するようであることを見出した (図2B及び図2D)。その結果は、ER-陰性乳癌がタキサンから利益を受けるとのメタ分析データと一致する。この試験集団の4分の1を示すpAkt-陽性及びER-陰性乳癌の下部群では、パクリタキセルで治療した患者は、パクリタキセルで治療しなかった患者に比べて、顕著に増加した疾患なし生存を有した (図3D)。また、pAkt-陽性及びHER2-陽性癌を有する患者の小下部群からの結果は、パクリタキセルからの利益を示唆した (図3B)。
【0050】
我々の結果は、pAkt陽性状態が、独立に、ドキソルビシン及びシクロホスファミド化学療法後のパクリタキセルの添加から疾患なしの利益を予測することを示している。pAkt-Ser473測定を有する全体的なB-28集団の結果(陽性又は陰性状態にかかわらず)は、フォローアップの約10年間で、パクリタキセルの連続添加が疾患なしの生存を6%改善したことを証明した。しかしながら、pAkt-陽性乳癌を有する患者群において、パクリタキセルの連続添加が顕著に疾患なしの生存を26%顕著に改善した。pAkt-陰性腫瘍を有する女性(この試験では62%)は、パクリタキセルの添加からの利益を受けないようである。したがって、我々のデータがCALGB9344もしくはE1199試験又は他の有望な臨床試験において評価されるならば、パクリタキセルの補助的化学レジメ(複数)への添加は、リンパ節-陽性乳癌患者の約3分の2について残されている。したがって、予測バイオマーカーとしてのpAktは、個別化医療の方法に寄与するだろう。
【0051】
パクリタキセルの添加を受けた(31%)又は受けなかったかのいずれかのリンパ節陽性乳癌の約62%を示すpAkt-陰性癌を有する患者は、当該治療からの利益を受けなかった。我々のデータは、pAkt-陰性リンパ節-陽性乳癌を有する患者群に対してパクリタキセルを投与しない可能性を示唆している。しかし、その結果は、他の有望な臨床試験において確認される必要があるだろう。
【0052】
当業者は、多数の変更及び修飾が本発明の好ましい実施態様に対してなされ、かかる変更及び修飾が本発明の趣旨から逸脱することなく行われる、ことを当業者は理解するだろう。そのため、添付のクレームの趣旨及び範囲は、そこに含まれる好ましい実施態様の記載に限定されるべきではないが、添付のクレームが本発明の真の趣旨及び範囲内にある等価な変更をすべてカバーする、ことを意図している。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
癌を有する対象が、タキサン化合物での処置を含む治療レジメから利益を受けそうであるか否かを決定する方法であって、当該対象の癌由来の細胞がpAkt陽性であるか否かの決定を得ることを含む、方法。
【請求項2】
前記対象の癌がpAkt陽性であるか否かの前記決定が、前記癌由来のサンプルでpAktに特異的な抗体をインキュベートし、及び結合されたpAkt特異的抗体の存在を検出することを含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記検出ステップが、デジタル画像の使用を含む、請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記抗体が、Akt配列であるSERRPHFPQF{pセリン473}YSA-NH2から成るリン酸化ペプチドに特異的に結合する、請求項2記載の方法。
【請求項5】
前記リン酸化ペプチドが、配列CSERRPHFPQF{pセリン473}YSA-NH2から成る、請求項4記載の方法。
【請求項6】
前記癌が、タキサンの投与によって治療され得る、請求項1〜5のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
前記癌が乳癌である、請求項5記載の方法。
【請求項8】
前記治療レジメが、アントラサイクリン及びシクロホスファミドでの治療を更に含む、請求項7記載の方法。
【請求項9】
前記対象がタキサン化合物での治療を含む治療レジメからの利益を受けるか否かの前記決定が、癌のエストロゲン受容体状態及びHER2状態を考慮せずに、pAkt状態を試験することによってなされる、請求項8記載の方法。
【請求項10】
前記タキサン化合物がパクリタキセルである、請求項1〜9のいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
対象における癌の治療方法であって、以下:
(a) 前記癌がpAkt陽性であるか否かの決定を行い;
(b) 前記癌がpAkt陽性であると決定した時に、前記対象がタキサン化合物での治療からの利益を受けそうであることを示すこと、
を含む、方法。
【請求項12】
前記対象の癌がpAkt陽性であるか否かの前記決定が、前記癌由来のサンプルでpAktに特異的な抗体をインキュベートし、及び結合されたpAkt特異的抗体の存在を検出することを含む、請求項10記載の方法。
【請求項13】
前記抗体が、Akt配列であるSERRPHFPQF{pセリン473}YSA-NH2から成るリン酸化ペプチドに特異的に結合する、請求項11記載の方法。
【請求項14】
前記癌が乳癌である、請求項10記載の方法。
【請求項15】
前記治療が、アントラサイクリン及びシクロホスファミドでの治療を更に含む、請求項10記載の方法。
【請求項16】
前記タキサン化合物がパクリタキセルである、請求項10〜14のいずれか1項記載の方法。
【請求項17】
患者がタキサン化合物での治療からの利益を受けそうであるか否かを決定するためのキットであって、当該キットが前記患者の癌由来の細胞がpAkt陽性であるか否かを決定するための手段を含み、前記細胞がpAkt陽性であるとの決定が、当該患者がタキサン化合物での治療からの利益を受けそうであることを示す、キット。
【請求項18】
患者がタキサン化合物での治療からの利益を受けそうであるか否かを決定するためのキットであって、pAkt特異的抗体を含む、キット。
【請求項19】
前記対象の癌がpAkt陽性であるか否かの前記決定が、前記癌由来のサンプルでpAktに特異的な抗体をインキュベートし、及び結合されたpAkt特異的抗体の存在を検出することを含む、請求項18記載のキット。
【請求項20】
前記抗体が、Akt配列であるSERRPHFPQF{pセリン473}YSA-NH2から成るリン酸化ペプチドに特異的に結合する、請求項19記載のキット。
【請求項21】
前記リン酸化ペプチドが、配列CSERRPHFPQF{pセリン473}YSA-NH2から成る、請求項4記載のキット。
【請求項22】
前記組織への前記抗体の結合を検出するために好適な染色を更に含む、請求項18記載のキット。
【請求項23】
前記患者の癌由来の前記細胞がpAkt陽性であると決定した時に、前記患者がタキサン化合物での治療からの利益を受けそうであることを示す教示を更に含む、請求項17〜22のいずれか1項記載のキット。
【請求項24】
前記癌がタキサンの投与によって治療され得る癌である、請求項17〜22のいずれか1項記載のキット。
【請求項25】
前記癌が乳癌である、請求項24記載のキット。
【請求項26】
前記教示資料が、前記患者が、アントラサイクリン及びシクロホスファミドでの化学療法に続いてタキサン化合物での治療からの利益を受けそうであることを特定する、請求項25記載のキット。
【請求項27】
前記タキサン化合物がパクリタキセルである、請求項16〜24のいずれか1項記載のキット。
【請求項28】
アントラサイクリン及びシクロホスファミドでの化学療法の使用、続いてタキサン化合物での治療を含む、患者の癌を治療する方法において、前記癌がpAkt陽性であるか否かの決定を得るステップを含むことを特徴とする、方法。
【請求項29】
前記癌が乳癌である、請求項28の方法。
【請求項30】
前記対象の癌がpAkt陽性であるとの前記決定が、前記癌由来のサンプルでpAktに特異的な抗体をインキュベートし、及び結合されたpAkt特異的抗体の存在を検出することを含む、請求項29記載の方法。
【請求項31】
前記抗体が、Akt配列であるSERRPHFPQF{pセリン473}YSA-NH2から成るリン酸化ペプチドに特異的に結合する、請求項30記載の方法。
【請求項32】
タキサン化合物での前記治療が、補助化学療法として提供される、請求項1〜16及び28〜31のいずれか1項記載の方法。
【請求項33】
タキサン化合物での前記治療が、術前補助化学療法として提供される、請求項1〜16及び28〜31のいずれか1項記載の方法。
【請求項34】
タキサン化合物での前記治療が、転移癌のための治療として提供される、請求項1〜16及び28〜31のいずれか1項記載の方法。
【請求項1】
癌を有する対象が、タキサン化合物での処置を含む治療レジメから利益を受けそうであるか否かを決定する方法であって、当該対象の癌由来の細胞がpAkt陽性であるか否かの決定を得ることを含む、方法。
【請求項2】
前記対象の癌がpAkt陽性であるか否かの前記決定が、前記癌由来のサンプルでpAktに特異的な抗体をインキュベートし、及び結合されたpAkt特異的抗体の存在を検出することを含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記検出ステップが、デジタル画像の使用を含む、請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記抗体が、Akt配列であるSERRPHFPQF{pセリン473}YSA-NH2から成るリン酸化ペプチドに特異的に結合する、請求項2記載の方法。
【請求項5】
前記リン酸化ペプチドが、配列CSERRPHFPQF{pセリン473}YSA-NH2から成る、請求項4記載の方法。
【請求項6】
前記癌が、タキサンの投与によって治療され得る、請求項1〜5のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
前記癌が乳癌である、請求項5記載の方法。
【請求項8】
前記治療レジメが、アントラサイクリン及びシクロホスファミドでの治療を更に含む、請求項7記載の方法。
【請求項9】
前記対象がタキサン化合物での治療を含む治療レジメからの利益を受けるか否かの前記決定が、癌のエストロゲン受容体状態及びHER2状態を考慮せずに、pAkt状態を試験することによってなされる、請求項8記載の方法。
【請求項10】
前記タキサン化合物がパクリタキセルである、請求項1〜9のいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
対象における癌の治療方法であって、以下:
(a) 前記癌がpAkt陽性であるか否かの決定を行い;
(b) 前記癌がpAkt陽性であると決定した時に、前記対象がタキサン化合物での治療からの利益を受けそうであることを示すこと、
を含む、方法。
【請求項12】
前記対象の癌がpAkt陽性であるか否かの前記決定が、前記癌由来のサンプルでpAktに特異的な抗体をインキュベートし、及び結合されたpAkt特異的抗体の存在を検出することを含む、請求項10記載の方法。
【請求項13】
前記抗体が、Akt配列であるSERRPHFPQF{pセリン473}YSA-NH2から成るリン酸化ペプチドに特異的に結合する、請求項11記載の方法。
【請求項14】
前記癌が乳癌である、請求項10記載の方法。
【請求項15】
前記治療が、アントラサイクリン及びシクロホスファミドでの治療を更に含む、請求項10記載の方法。
【請求項16】
前記タキサン化合物がパクリタキセルである、請求項10〜14のいずれか1項記載の方法。
【請求項17】
患者がタキサン化合物での治療からの利益を受けそうであるか否かを決定するためのキットであって、当該キットが前記患者の癌由来の細胞がpAkt陽性であるか否かを決定するための手段を含み、前記細胞がpAkt陽性であるとの決定が、当該患者がタキサン化合物での治療からの利益を受けそうであることを示す、キット。
【請求項18】
患者がタキサン化合物での治療からの利益を受けそうであるか否かを決定するためのキットであって、pAkt特異的抗体を含む、キット。
【請求項19】
前記対象の癌がpAkt陽性であるか否かの前記決定が、前記癌由来のサンプルでpAktに特異的な抗体をインキュベートし、及び結合されたpAkt特異的抗体の存在を検出することを含む、請求項18記載のキット。
【請求項20】
前記抗体が、Akt配列であるSERRPHFPQF{pセリン473}YSA-NH2から成るリン酸化ペプチドに特異的に結合する、請求項19記載のキット。
【請求項21】
前記リン酸化ペプチドが、配列CSERRPHFPQF{pセリン473}YSA-NH2から成る、請求項4記載のキット。
【請求項22】
前記組織への前記抗体の結合を検出するために好適な染色を更に含む、請求項18記載のキット。
【請求項23】
前記患者の癌由来の前記細胞がpAkt陽性であると決定した時に、前記患者がタキサン化合物での治療からの利益を受けそうであることを示す教示を更に含む、請求項17〜22のいずれか1項記載のキット。
【請求項24】
前記癌がタキサンの投与によって治療され得る癌である、請求項17〜22のいずれか1項記載のキット。
【請求項25】
前記癌が乳癌である、請求項24記載のキット。
【請求項26】
前記教示資料が、前記患者が、アントラサイクリン及びシクロホスファミドでの化学療法に続いてタキサン化合物での治療からの利益を受けそうであることを特定する、請求項25記載のキット。
【請求項27】
前記タキサン化合物がパクリタキセルである、請求項16〜24のいずれか1項記載のキット。
【請求項28】
アントラサイクリン及びシクロホスファミドでの化学療法の使用、続いてタキサン化合物での治療を含む、患者の癌を治療する方法において、前記癌がpAkt陽性であるか否かの決定を得るステップを含むことを特徴とする、方法。
【請求項29】
前記癌が乳癌である、請求項28の方法。
【請求項30】
前記対象の癌がpAkt陽性であるとの前記決定が、前記癌由来のサンプルでpAktに特異的な抗体をインキュベートし、及び結合されたpAkt特異的抗体の存在を検出することを含む、請求項29記載の方法。
【請求項31】
前記抗体が、Akt配列であるSERRPHFPQF{pセリン473}YSA-NH2から成るリン酸化ペプチドに特異的に結合する、請求項30記載の方法。
【請求項32】
タキサン化合物での前記治療が、補助化学療法として提供される、請求項1〜16及び28〜31のいずれか1項記載の方法。
【請求項33】
タキサン化合物での前記治療が、術前補助化学療法として提供される、請求項1〜16及び28〜31のいずれか1項記載の方法。
【請求項34】
タキサン化合物での前記治療が、転移癌のための治療として提供される、請求項1〜16及び28〜31のいずれか1項記載の方法。
【図1A】
【図1B】
【図1C】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図2D】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図3D】
【図1B】
【図1C】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図2D】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図3D】
【公表番号】特表2012−527631(P2012−527631A)
【公表日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−512066(P2012−512066)
【出願日】平成22年5月21日(2010.5.21)
【国際出願番号】PCT/US2010/035816
【国際公開番号】WO2010/135671
【国際公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【出願人】(511068496)ザ・ユナイテッド・ステイツ・オブ・アメリカ・アズ・リプリゼンティド・バイ・ザ・セクレタリー・デパートメント・オブ・ヘルス・アンド・ヒューマン・サービシズ (2)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年5月21日(2010.5.21)
【国際出願番号】PCT/US2010/035816
【国際公開番号】WO2010/135671
【国際公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【出願人】(511068496)ザ・ユナイテッド・ステイツ・オブ・アメリカ・アズ・リプリゼンティド・バイ・ザ・セクレタリー・デパートメント・オブ・ヘルス・アンド・ヒューマン・サービシズ (2)
【Fターム(参考)】
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