説明

タバココナジラミのバイオタイプの判別方法

【課題】作物栽培施設に発生したタバココナジラミがバイオタイプBであるかQであるかを判別することは、防除対策を立てる上で極めて重要である。形態的にバイオタイプBと区別できないタバココナジラミバイオタイプQを判別する新規な判別方法等を提供する。
【解決手段】タバココナジラミバイオタイプQのチトクロームP450をコードする遺伝子の塩基配列である、複数の特定の配列で示される塩基配列における特定の位置の塩基の違いを測定することにより、制限酵素を用いることなくタバココナジラミのバイオタイプの判別が可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タバココナジラミのバイオタイプ、具体的にはバイオタイプQ、の判別方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タバココナジラミ(Bemisia tabaci)は成虫の大きさが0.8mm程度の微小な害虫で、日本の施設園芸においては主にトマト、キュウリ、及びナス等の施設栽培の作物に寄生する。タバココナジラミの幼虫及び成虫は、作物に吸汁害を与えることの他に、成虫はトマト黄化葉巻病等のウイルス病を媒介することが知られている。タバココナジラミには、形態的には区別できないが、遺伝的、及び生物学的に異なる約40種類のバイオタイプが存在する(例えば、非特許文献1を参照)。日本には在来のタバココナジラミが分布しているが、野外でサツマイモ等にわずかに寄生するだけで、作物栽培上それほど重要な害虫ではなかった。しかし、1989年頃に日本国外から薬剤の効きにくいタバココナジラミであるシルバーリーフコナジラミ(タバココナジラミバイオタイプB)が日本に侵入してきた。さらに、2003年頃に、九州で、これまで知られていなかったバイオタイプのタバココナジラミの発生が観察された。これはタバココナジラミバイオタイプBと遺伝的に異なり、日本国外では存在が知られていたバイオタイプQであることが判明した(非特許文献2)。バイオタイプQは、その後分布地域を拡大し、東北地方にまで分布するようになった。バイオタイプQはバイオタイプBに比べて、従来汎用されている薬剤による防除が困難なため、作物栽培上、深刻な問題となっている(例えば、非特許文献2、3を参照)。
したがって、作物栽培施設に発生したタバココナジラミがバイオタイプBであるかQであるかを判別することは、防除対策を立てる上で極めて重要である。形態的にバイオタイプBと区別できないタバココナジラミバイオタイプQを判別する方法としては、これまで、バイオタイプに特異的な制限酵素部位を利用した方法(非特許文献4)が提案されている。
しかしなお、タバココナジラミのバイオタイプの新規な判別方法の開発が求められている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Perring,Crop Protection,2001年,20,p.725−737
【非特許文献2】松浦,今月の農業,2006年2月,p.57−61
【非特許文献3】本多,植物防疫,2005年,59巻,p.299−304
【非特許文献4】上田,九病虫研会報,2006年,52巻,p.44−48
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、タバココナジラミのバイオタイプ、具体的にはバイオタイプQ、の新規な判別方法等を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記の課題に鑑み、鋭意検討した結果、タバココナジラミ バイオタイプQのチトクロームP450をコードする遺伝子の塩基配列である、下記配列番号1で示される塩基配列における特定の位置の塩基の違いを測定することにより、制限酵素を用いることなくタバココナジラミのバイオタイプの判別が可能であることを見出し、本発明に到った。
すなわち、本発明は、以下の[1]〜[5]の判別方法、ならびに[6]および[7]オリゴヌクレオチド等を提供するものである。
[1]
図3における配列番号1(Seq ID No:1)で示される塩基配列において、塩基番号146の塩基、塩基番号151の塩基、塩基番号207の塩基、塩基番号228の塩基、塩基番号303の塩基、塩基番号340の塩基、塩基番号519の塩基、塩基番号634の塩基、塩基番号643の塩基、塩基番号697の塩基、塩基番号711の塩基、塩基番号715の塩基、塩基番号718の塩基、塩基番号771の塩基、塩基番号846の塩基、塩基番号897の塩基、塩基番号909の塩基、塩基番号921の塩基、塩基番号923の塩基、塩基番号930の塩基、塩基番号1137の塩基、塩基番号1223の塩基、塩基番号1305の塩基、塩基番号1359の塩基、塩基番号1461の塩基、塩基番号1465の塩基、塩基番号1467の塩基、塩基番号1503の塩基、塩基番号1624の塩基、塩基番号1646の塩基、塩基番号1680の塩基、塩基番号1681の塩基、塩基番号1692の塩基、塩基番号1713の塩基、塩基番号1715の塩基、塩基番号1733の塩基、塩基番号1741の塩基、塩基番号1821の塩基、塩基番号1940の塩基、塩基番号1960の塩基、塩基番号1966の塩基、塩基番号1969の塩基、塩基番号1976の塩基、塩基番号1977の塩基、塩基番号1978の塩基、塩基番号1979の塩基、塩基番号1982の塩基、塩基番号1996の塩基、塩基番号1997の塩基、塩基番号1998の塩基、塩基番号2002の塩基、塩基番号2008の塩基、塩基番号2009の塩基、塩基番号2010の塩基、塩基番号2021の塩基、塩基番号2033の塩基、塩基番号2034の塩基、塩基番号2035の塩基、塩基番号2036の塩基、塩基番号2040の塩基、塩基番号2041の塩基、塩基番号2046の塩基、塩基番号2047の塩基、塩基番号2050の塩基、塩基番号2055の塩基、塩基番号2071の塩基、および塩基番号2085の塩基からなる群から選択される少なくとも1つの塩基を含む塩基長10塩基以上30塩基以下の部分塩基配列、またはそれに相補的な塩基配列、またはそれらの塩基配列において1もしくは2個の塩基が欠失、置換、付加、もしくは挿入された塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを用いたPCRを行うこと、および
(2)前記プライマーに特異的な増幅の有無を調べること
を含む、タバココナジラミのバイオタイプの判別方法。
[2]
前記部分配列が、図3における配列番号1(Seq ID No:1)で示される塩基配列において、塩基番号2071の塩基および塩基番号2085の塩基を含む塩基長10塩基以上30塩基以下の部分塩基配列であることを特徴とする前記[1]に記載の判別方法。
[3]
アンチセンスプライマーとして、配列番号5で示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを用いることを特徴とする前記[1]に記載の判別方法。
[4]
センスプライマーとして、配列番号4で示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを用いることを特徴とする前記[3]に記載の判別方法。
[5]
別のセンスプライマーとしての配列番号2で示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、および
別のアンチセンスプライマーとしての配列番号3で示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを用いることを特徴とする前記[4]に記載の判別方法。
[6]
図3における配列番号1(Seq ID No:1)で示される塩基配列において、塩基番号146の塩基、塩基番号151の塩基、塩基番号207の塩基、塩基番号228の塩基、塩基番号303の塩基、塩基番号340の塩基、塩基番号519の塩基、塩基番号634の塩基、塩基番号643の塩基、塩基番号697の塩基、塩基番号711の塩基、塩基番号715の塩基、塩基番号718の塩基、塩基番号771の塩基、塩基番号846の塩基、塩基番号897の塩基、塩基番号909の塩基、塩基番号921の塩基、塩基番号923の塩基、塩基番号930の塩基、塩基番号1137の塩基、塩基番号1223の塩基、塩基番号1305の塩基、塩基番号1359の塩基、塩基番号1461の塩基、塩基番号1465の塩基、塩基番号1467の塩基、塩基番号1503の塩基、塩基番号1624の塩基、塩基番号1646の塩基、塩基番号1680の塩基、塩基番号1681の塩基、塩基番号1692の塩基、塩基番号1713の塩基、塩基番号1715の塩基、塩基番号1733の塩基、塩基番号1741の塩基、塩基番号1821の塩基、塩基番号1940の塩基、塩基番号1960の塩基、塩基番号1966の塩基、塩基番号1969の塩基、塩基番号1976の塩基、塩基番号1977の塩基、塩基番号1978の塩基、塩基番号1979の塩基、塩基番号1982の塩基、塩基番号1996の塩基、塩基番号1997の塩基、塩基番号1998の塩基、塩基番号2002の塩基、塩基番号2008の塩基、塩基番号2009の塩基、塩基番号2010の塩基、塩基番号2021の塩基、塩基番号2033の塩基、塩基番号2034の塩基、塩基番号2035の塩基、塩基番号2036の塩基、塩基番号2040の塩基、塩基番号2041の塩基、塩基番号2046の塩基、塩基番号2047の塩基、塩基番号2050の塩基、塩基番号2055の塩基、塩基番号2071の塩基、および塩基番号2085の塩基からなる群から選択される少なくとも1つの塩基を含む塩基長10塩基以上30塩基以下の部分塩基配列、またはそれに相補的な塩基配列からなるオリゴヌクレオチド。
[7]
配列番号5で示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、
配列番号4で示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、
配列番号2で示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、または
配列番号3で示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、制限酵素を用いることなくタバココナジラミのバイオタイプ、具体的にはバイオタイプQ、を判別することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】図1は、配列番号1で示される塩基配列である。
【図2】図2は、配列番号6で示される塩基配列である。
【図3−1】図3−1は、配列番号1で示される塩基配列と配列番号6で示される塩基配列のマルチプルアラインメントである。
【図3−2】図3−2は、配列番号1で示される塩基配列と配列番号6で示される塩基配列のマルチプルアラインメントである。
【図3−3】図3−3は、配列番号1で示される塩基配列と配列番号6で示される塩基配列のマルチプルアラインメントである。
【図3−4】図3−4は、配列番号1で示される塩基配列と配列番号6で示される塩基配列のマルチプルアラインメントである。
【図4】図4は、PCR後の電気泳動写真である。
【発明を実施するため形態】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。
[タバココナジラミバイオタイプの判別方法]
本発明のタバココナジラミのバイオタイプの判別方法(本明細書中、単に「本発明の判別方法」と称する場合がある。)は、
(1)鋳型として、タバココナジラミ由来のポリヌクレオチド試料を用い、および
センスプライマー及びアンチセンスプライマーの少なくとも一方として、図3(本明細書中、図3とは、図3−1〜図3−4を意味する。)における配列番号1で示される塩基配列において、塩基番号146の塩基、塩基番号151の塩基、塩基番号207の塩基、塩基番号228の塩基、塩基番号303の塩基、塩基番号340の塩基、塩基番号519の塩基、塩基番号634の塩基、塩基番号643の塩基、塩基番号697の塩基、塩基番号711の塩基、塩基番号715の塩基、塩基番号718の塩基、塩基番号771の塩基、塩基番号846の塩基、塩基番号897の塩基、塩基番号909の塩基、塩基番号921の塩基、塩基番号923の塩基、塩基番号930の塩基、塩基番号1137の塩基、塩基番号1223の塩基、塩基番号1305の塩基、塩基番号1359の塩基、塩基番号1461の塩基、塩基番号1465の塩基、塩基番号1467の塩基、塩基番号1503の塩基、塩基番号1624の塩基、塩基番号1646の塩基、塩基番号1680の塩基、塩基番号1681の塩基、塩基番号1692の塩基、塩基番号1713の塩基、塩基番号1715の塩基、塩基番号1733の塩基、塩基番号1741の塩基、塩基番号1821の塩基、塩基番号1940の塩基、塩基番号1960の塩基、塩基番号1966の塩基、塩基番号1969の塩基、塩基番号1976の塩基、塩基番号1977の塩基、塩基番号1978の塩基、塩基番号1979の塩基、塩基番号1982の塩基、塩基番号1996の塩基、塩基番号1997の塩基、塩基番号1998の塩基、塩基番号2002の塩基、塩基番号2008の塩基、塩基番号2009の塩基、塩基番号2010の塩基、塩基番号2021の塩基、塩基番号2033の塩基、塩基番号2034の塩基、塩基番号2035の塩基、塩基番号2036の塩基、塩基番号2040の塩基、塩基番号2041の塩基、塩基番号2046の塩基、塩基番号2047の塩基、塩基番号2050の塩基、塩基番号2055の塩基、塩基番号2071の塩基、および塩基番号2085の塩基からなる群(本明細書中、「塩基群A」と称する場合がある。)から選択される少なくとも1つの塩基を含む塩基長10塩基以上30塩基以下の部分塩基配列、またはそれに相補的な塩基配列、またはそれらの塩基配列において1もしくは2個の塩基が欠失、置換、付加、もしくは挿入された塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを用いたPCRを行うこと、および
(2)前記プライマーに特異的な増幅の有無を調べること
を含む。
【0009】
配列番号1は、本発明者らが取得したタバココナジラミ バイオタイプQから見出した、新規のチトクロームP450をコードする遺伝子の塩基配列である。配列番号1で示される塩基配列を、図1に示す。本明細書中、特に断りが無い限り、塩基配列は、5’末端から3’末端の方向に記載されている。
本明細書中、塩基配列中の塩基を表示する記号は、IUPAC−IUB ambiguity codeに従う。
本明細書中、「塩基番号」なる用語は、特に断りの無い限り、タバココナジラミ バイオタイプQのチトクロームP450をコードする新規遺伝子の塩基配列である配列番号1で示される塩基配列(図1)と、タバココナジラミ バイオタイプBのチトクロームP450をコードする遺伝子の塩基配列である配列番号6で示される塩基配列(図2)とを、図3に示すようにマルチプルアラインメントした場合に、開始コドンであるATGのAを塩基番号1とし、5’→3’末端方向に1塩基ごとに付けた番号を意味する。したがって、当業者に明らかなように、当該「塩基番号」は、単独の配列番号1に付した塩基番号(図1)とは異なる。
なお、配列番号6は、本発明者らが取得したタバココナジラミ バイオタイプBから見出した、新規のチトクロームP450をコードする遺伝子の塩基配列である。
【0010】
本発明の判別方法におけるPCRにおいて用いられる鋳型は、タバココナジラミ由来のポリヌクレオチド試料である。当該ポリヌクレオチド試料は、特に限定されるものではないが、(1)供試されるタバココナジラミの細胞、組織、または全体(通常、虫体全体)からから抽出したDNA試料、および(2)供試されるタバココナジラミの細胞、組織、または全体(通常、虫体全体)からRNAを抽出し、ついで逆転写酵素を用いてRNAから調製したcDNA試料などが好ましい。
タバココナジラミのDNAの抽出は、公知の方法で行えばよく、例えば、PrepMan UltraReagent(商品名、Applied Biosystems社)等を用いて行うことができる。
タバココナジラミのRNAの抽出は、例えば、RNeasyキット(商品名、Qiagen社)等を用いて行うことができる。
cDNAの調製に用いられる逆転写酵素としては、例えば、ReverTra Ace(商品名、TOYOBO社)、PrimrScript Reverse Transcriptase(商品名、タカラバイオ社)、Super Script III(商品名、invitrogen社)等が挙げられる。
【0011】
本発明の判別方法におけるPCRにおいて用いられるセンスプライマー及びアンチセンスプライマーの少なくとも一方は、以下の(a)〜(c)のいずれかの塩基配列からなる。当該センスプライマー及びアンチセンスプライマーは、好ましくはTm値が55以上58以下のオリゴヌクレオチドである。なお、これらのオリゴヌクレオチドもまた、本発明の一態様である。
(a)配列番号1で示される塩基配列において、前記塩基群Aから選択される少なくとも1つの塩基を含む塩基長10塩基以上30塩基以下の部分塩基配列
(b)前記(a)の塩基配列に相補的な塩基配列
(c)前記(a)の塩基配列または前記(b)の塩基配列において1もしくは2個の塩基が欠失、置換、付加、もしくは挿入された塩基配列
【0012】
バイオタイプQの判別の正確性の観点から、前記(a)の塩基配列は、塩基群Aから選択される塩基を、好ましくは1個〜5個、より好ましくは2個含む。
より好ましくは、前記(a)の塩基配列は、配列番号1で示される塩基配列において、塩基番号2071の塩基および塩基番号2085の塩基を含む塩基長10塩基以上30塩基以下(より好ましくは、塩基長15塩基以上20塩基以下)の部分塩基配列である。
【0013】
前記(c)の塩基配列において、前記塩基群Aの塩基のうちの少なくとも1つは、欠失、または置換されずに、残っている必要がある。
【0014】
前記(a)〜(c)の塩基配列のうち、好ましくは、前記(a)の塩基配列、および前記(b)の塩基配列である。
【0015】
本明細書中、Tm値(Melting Temperature、融解温度、℃)は、Nearest Neighbor 法に基づき次の数式で計算された数値である。
Tm=[1000ΔH/{-10.8+ΔS+Rln(Ct/4)}]-273.15+16.6log[Na+]
ここで、数式中の記号および数値は下記を示す。
ΔH:ハイブリッドにおける最近接エンタルピー変化の合計[kcal/mol]
-10.8:ΔS(initiation)[cal/mol・K]
ΔS:ハイブリッドにおける最近接エントロピー変化の合計[cal/mol・K]
R:気体定数(1.987cal/deg・mol)
Ct:オリゴのtotalモル濃度[mol/l]。0.5μMで計算する。
Na+:Na+のモル濃度[mol/l]。50mMで計算する。
【0016】
本発明の判別方法におけるPCRにおいて用いられるセンスプライマー及びアンチセンスプライマーの一方が前記(a)〜(c)のいずれかの塩基配列からなるオリゴヌクレオチドであってもよく、それらの両方が前記(a)〜(c)のいずれかの塩基配列からなるオリゴヌクレオチドであってもよい。
本発明の判別方法におけるPCRにおいて用いられるセンスプライマー及びアンチセンスプライマーの一方が前記(a)〜(c)のいずれかの塩基配列からなるオリゴヌクレオチドである場合、他方のプライマーとしては、特に限定されず、PCR法による増幅およびその検出が可能である限り、任意のプライマーを用いることができる。
【0017】
特に好ましくは、アンチセンスプライマーとして、下記の配列番号5で示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを用いる。
また、特に好ましくは、センスプライマーとして、下記の配列番号4で示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを用いる。
【0018】
本発明の判別方法におけるPCRにおいては、2組以上のプライマーセットを用いてもよい。
好ましくは、そのうち1組のプライマーセットは、配列番号1の配列が適切に増幅されていることを判断するためのコントロール用のプライマーセットである。
このようなプライマーセットとしては、下記のセンスプライマーとアンチセンスプライマーのセットが、特に好ましい。
センスプライマー:下記の配列番号2で示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド
アンチセンスプライマー:下記の配列番号3で示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド
【0019】
配列番号5:5’-ACGCATGCTTTATTCAGTG-3’
配列番号4:5’-ACTCGAAACTTGTGCTGG-3’
配列番号2:5’-AGGAGTTGAACGCCC-3’
配列番号3:5’-ATCTCGAGGAACTGGAAG-3’
なお、配列番号5、4、2、及び3で示される塩基配列からなるプライマーのTm値は、それぞれ、58.9、58.9、56.8、及び56.7である。
【0020】
このようなプライマーは、例えば、慣用の化学合成方法によって調製できる。
なお、配列番号5、配列番号4、配列番号2、および配列番号3で表される塩基配列からなるポリヌクレオチドは、それぞれ、新規のポリヌクレオチドであり、本発明の一態様である。
【0021】
本発明の判別方法におけるPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)は、前記鋳型および前記プライマー、市販の装置、市販のキット、および試薬を用いて、それらの使用説明書に記載の方法および条件に従って実施することができる。
【0022】
本発明の判別方法は、前記のPCRを行った後に、前記プライマーに特異的な増幅の有無を調べることを含む。
前記プライマーに特異的な増幅の有無は、前記PCRによって増幅されたポリヌクレオチドを検出することによって、行うことができる。
このようなポリヌクレオチドの検出は、公知の検出法を用いて、実施すればよい。その例としては、例えば、前記PCRによって増幅されたポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド試料を、アガロースゲル上で電気泳動に付し、エチジウムブロマイド処理後、トランスイルミネーターで、前記プライマーに特異的に増幅した断片を確認する方法が挙げられる。
ここで、コントロールとして、タバココナジラミバイオタイプQであることが確認されている個体群および/またはタバココナジラミバイオタイプBであることが確認されている個体群を用いることが好ましい。
【0023】
本発明のタバココナジラミにおけるバイオタイプの判別方法は、
(1)本発明の判別方法を用いてタバココナジラミがバイオタイプQであるかどうかを判別することにより、有効な薬剤を選択する等の適切な防除対策を実施すること、
(2)本発明の判別方法を用いて各地から採集したタバココナジラミのバイオタイプを判別することにより、すなわちモニタリングを実施することにより、タバココナジラミの各バイオタイプの地理的分布を把握すること、および
(3)選別したタバココナジラミバイオタイプQを用いることで、タバココナジラミバイオタイプQに有効な薬剤のスクリーニングに用いること
などに利用することができる。
【実施例】
【0024】
以下に実施例により、本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0025】
(タバココナジラミ個体群のP450遺伝子を用いたバイオタイプの測定)
日本各地から採集したタバココナジラミ4個体群(1:愛知県愛西市、2:長崎県西彼杵郡、3:高知県安芸市、4:熊本県八代市)の虫体全体から、PrepMan Ultra Reagent(商品名、Applied Biosystems社)を用いてDNAを抽出した。
上記DNAを鋳型とし、下記プライマーセット(a)、(b)を用いてPCRを行った。これらのプライマーは、シグマアルドリッチジャパン株式会社から入手した。
プライマーセット(a)
次のセンスプライマーとアンチセンスプライマーからなるプライマーセット。
センスプライマー: 塩基配列 5’-AGGAGTTGAACGCCC-3’(配列番号2) からなるオリゴヌクレオチド
アンチセンスプライマー: 塩基配列 5’-ATCTCGAGGAACTGGAAG-3’ (配列番号3) からなるオリゴヌクレオチド
プライマーセット(b)
次のセンスプライマーとアンチセンスプライマーからなるプライマーセット。
センスプライマー: 塩基配列 5’-ACTCGAAACTTGTGCTGG-3’ (配列番号4) からなるオリゴヌクレオチド
アンチセンスプライマー: 塩基配列 5’-ACGCATGCTTTATTCAGTG-3’ (配列番号5) からなるオリゴヌクレオチド
PCRはApplied Biosystems社のGene Amp PCR System 2400上で、TaKaRa Ex taq(商品名、タカラバイオ社)を用いて行った。反応液の組成はEx Taq:0.1μL、dNTP:1.6μL、10×Buffer:2μL、プライマーセット(a):10μMセンスプライマー、及び10μMアンチセンスプライマー各1.2μL、プライマーセット(b):10μMセンスプライマー、及び10μMアンチセンスプライマー各1.8μL、サンプル(各個体群由来のDNA):0.8μLおよび滅菌蒸留水:9.5μLとした。なお、プライマー、サンプルおよび滅菌蒸留水以外はすべて上記Ex Taqに付属のものである。反応条件は、94℃/2分に引き続き、94℃/30秒および62℃/30秒、72℃/1分の反応を30サイクル行い、最後に72℃/5分の反応を行った。PCR後、1.5%アガロースゲル上で電気泳動を100Vで35分間行い、エチジウムブロマイド処理後トランスイルミネーターで断片を確認した。
PCRで測定した遺伝子の増幅断片の電気泳動写真の例を図4に示し、その結果を表1にまとめた。図中、レーンMはサイズマーカー(φX174/Has III digest)を、レーン1〜4は各供試タバココナジラミ個体群を示す。図4より明らかなように、バイオタイプBでは1本のバンドが観察され、バイオタイプQは2本のバンドが観察された。
表中、「従来方法」とは、当該分野での標準的な方法であり、具体的には、次のように実施した。タバココナジラミ成虫1頭よりPrepMan Ultra Reagent(商品名、Applied Biosystems社)を用いてDNAを抽出した。プライマーを用いてPCRによりミトコンドリアチトクロームcサブユニットI DNA(COI)の増幅を行なった。PCR産物を制限酵素(EcoT14IとStu I)で消化し、1%アガロースゲルを用い電気泳動した。エチジウムブロマイド処理後トランスイルミネーターで断片を確認した。なお、バイオタイプQはEcoT14IでPCR産物は切断され、バイオタイプBはStu Iで切断される。
[表1]

以上のように、配列番号1で示される塩基配列からなる遺伝子とプライマーセット(a)、(b)を用いることにより、従来方法と同一の結果が得られた。これにより、制限酵素を用いることなく、バイオタイプQの判別、特にバイオタイプQとバイオタイプBとの判別ができることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明によれば、タバココナジラミバイオタイプ、具体的にはバイオタイプQ、を判別することができる。
【配列表フリーテキスト】
【0027】
配列番号2で示される塩基配列は、プライマーの塩基配列である。
配列番号3で示される塩基配列は、プライマーの塩基配列である。
配列番号4で示される塩基配列は、プライマーの塩基配列である。
配列番号5で示される塩基配列は、プライマーの塩基配列である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)鋳型として、タバココナジラミ由来のポリヌクレオチド試料を用い、および
センスプライマー及びアンチセンスプライマーの少なくとも一方として、図3における配列番号1(Seq ID No:1)で示される塩基配列において、塩基番号146の塩基、塩基番号151の塩基、塩基番号207の塩基、塩基番号228の塩基、塩基番号303の塩基、塩基番号340の塩基、塩基番号519の塩基、塩基番号634の塩基、塩基番号643の塩基、塩基番号697の塩基、塩基番号711の塩基、塩基番号715の塩基、塩基番号718の塩基、塩基番号771の塩基、塩基番号846の塩基、塩基番号897の塩基、塩基番号909の塩基、塩基番号921の塩基、塩基番号923の塩基、塩基番号930の塩基、塩基番号1137の塩基、塩基番号1223の塩基、塩基番号1305の塩基、塩基番号1359の塩基、塩基番号1461の塩基、塩基番号1465の塩基、塩基番号1467の塩基、塩基番号1503の塩基、塩基番号1624の塩基、塩基番号1646の塩基、塩基番号1680の塩基、塩基番号1681の塩基、塩基番号1692の塩基、塩基番号1713の塩基、塩基番号1715の塩基、塩基番号1733の塩基、塩基番号1741の塩基、塩基番号1821の塩基、塩基番号1940の塩基、塩基番号1960の塩基、塩基番号1966の塩基、塩基番号1969の塩基、塩基番号1976の塩基、塩基番号1977の塩基、塩基番号1978の塩基、塩基番号1979の塩基、塩基番号1982の塩基、塩基番号1996の塩基、塩基番号1997の塩基、塩基番号1998の塩基、塩基番号2002の塩基、塩基番号2008の塩基、塩基番号2009の塩基、塩基番号2010の塩基、塩基番号2021の塩基、塩基番号2033の塩基、塩基番号2034の塩基、塩基番号2035の塩基、塩基番号2036の塩基、塩基番号2040の塩基、塩基番号2041の塩基、塩基番号2046の塩基、塩基番号2047の塩基、塩基番号2050の塩基、塩基番号2055の塩基、塩基番号2071の塩基、および塩基番号2085の塩基からなる群から選択される少なくとも1つの塩基を含む塩基長10塩基以上30塩基以下の部分塩基配列、またはそれに相補的な塩基配列、またはそれらの塩基配列において1もしくは2個の塩基が欠失、置換、付加、もしくは挿入された塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを用いたPCRを行うこと、および
(2)前記プライマーに特異的な増幅の有無を調べること
を含む、タバココナジラミのバイオタイプの判別方法。
【請求項2】
前記部分配列が、図3における配列番号1(Seq ID No:1)で示される塩基配列において、塩基番号2071の塩基および塩基番号2085の塩基を含む塩基長10塩基以上30塩基以下の部分塩基配列であることを特徴とする請求項1に記載の判別方法。
【請求項3】
アンチセンスプライマーとして、配列番号5で示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを用いることを特徴とする請求項1に記載の判別方法。
【請求項4】
センスプライマーとして、配列番号4で示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを用いることを特徴とする請求項3に記載の判別方法。
【請求項5】
別のセンスプライマーとしての配列番号2で示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、および
別のアンチセンスプライマーとしての配列番号3で示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを用いることを特徴とする請求項4に記載の判別方法。
【請求項6】
図3における配列番号1(Seq ID No:1)で示される塩基配列において、塩基番号146の塩基、塩基番号151の塩基、塩基番号207の塩基、塩基番号228の塩基、塩基番号303の塩基、塩基番号340の塩基、塩基番号519の塩基、塩基番号634の塩基、塩基番号643の塩基、塩基番号697の塩基、塩基番号711の塩基、塩基番号715の塩基、塩基番号718の塩基、塩基番号771の塩基、塩基番号846の塩基、塩基番号897の塩基、塩基番号909の塩基、塩基番号921の塩基、塩基番号923の塩基、塩基番号930の塩基、塩基番号1137の塩基、塩基番号1223の塩基、塩基番号1305の塩基、塩基番号1359の塩基、塩基番号1461の塩基、塩基番号1465の塩基、塩基番号1467の塩基、塩基番号1503の塩基、塩基番号1624の塩基、塩基番号1646の塩基、塩基番号1680の塩基、塩基番号1681の塩基、塩基番号1692の塩基、塩基番号1713の塩基、塩基番号1715の塩基、塩基番号1733の塩基、塩基番号1741の塩基、塩基番号1821の塩基、塩基番号1940の塩基、塩基番号1960の塩基、塩基番号1966の塩基、塩基番号1969の塩基、塩基番号1976の塩基、塩基番号1977の塩基、塩基番号1978の塩基、塩基番号1979の塩基、塩基番号1982の塩基、塩基番号1996の塩基、塩基番号1997の塩基、塩基番号1998の塩基、塩基番号2002の塩基、塩基番号2008の塩基、塩基番号2009の塩基、塩基番号2010の塩基、塩基番号2021の塩基、塩基番号2033の塩基、塩基番号2034の塩基、塩基番号2035の塩基、塩基番号2036の塩基、塩基番号2040の塩基、塩基番号2041の塩基、塩基番号2046の塩基、塩基番号2047の塩基、塩基番号2050の塩基、塩基番号2055の塩基、塩基番号2071の塩基、および塩基番号2085の塩基からなる群から選択される少なくとも1つの塩基を含む塩基長10塩基以上30塩基以下の部分塩基配列、またはそれに相補的な塩基配列からなるオリゴヌクレオチド。
【請求項7】
配列番号5で示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、
配列番号4で示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、
配列番号2で示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、または
配列番号3で示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド。

【図1】
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【図2】
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【図3−1】
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【図3−2】
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【図3−3】
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【図3−4】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−193755(P2010−193755A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−40763(P2009−40763)
【出願日】平成21年2月24日(2009.2.24)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18〜20年度、独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構、新たな農林水産政策を推進する実用技術開発事業の委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】