説明

タングステン線の圧延方法

【課題】タングステン線を、割れや裂けを発生させることなく、冷間にて圧延加工する方法を提供する。
【解決手段】
タングステン線の圧延方法において、タングステン線1の表面に、金属めっき2を施し、タングステン線1の表面を保護することにより圧延加工を行うことで、割れや裂けを発生させることなく、冷間での圧延加工を可能にした。前記金属めっき2がニッケルめっき、銅めっき、亜鉛めっきであることを特徴とするタングステン線の圧延方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タングステン線を冷間にて圧延加工する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、タングステン線は優れた電気特性、耐熱性および機械的強度を備えることから、電球のフィラメントや電極などに利用されている。また、特開2004−33580には、カテーテル補強材として異型断面を有するタングステン線がカテーテル補強材として提案されている。
【0003】
タングステン線は焼結体であること、また延性-脆性遷移温度が高いことから、冷間での伸線加工、圧延加工は困難である。従来のタングステン線は、一例として下記のようなプロセスを経て加工されている。
【0004】
タングステン線を製造するにあたり、まずタングステン材を製造する。製造方法は、タングステン粉末を加圧して成形し、この成形体を高温で焼結し、バー材を製造する。タングステン線はこのバー材を加熱下で転打加工により細径化し、さらに加熱下でダイスによる伸線加工を行い、線状にしたものである。
【0005】
タングステン線は焼結体であるから、常温での冷間で伸線加工を行うと、クラック(割れや裂け)が発生してしまう。伸線加工時のクラックの発生を防止するために、伸線加工前にタングステン線を加熱、又は直接タングステン線に通電による加熱をしてから伸線加工を行う方法が特許文献1に記載されている。
【0006】
タングステン線は焼結体を伸線加工したものであるから、焼結されたタングステン粉末が延びて繊維状となったものである。そのため、タングステン線を冷間で圧延すると、繊維状の粒子が離れ、割れや裂けを発生し、均一な厚さに圧延することができない。これまでは、伸線加工と同様に加熱下で圧延加工されているが、必ずしも良好な圧延線が得られているというわけではない。
【0007】
また、タングステン線の冷間圧延加工が困難なため、タングステン線の延性-脆性遷移温度を下げるために、レニウムやコバルト等を添加して、タングステン線の欠点である脆性を改善したタングステン合金の冷間圧延加工方法が特許文献2に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭61−150713号公報
【特許文献2】特開昭64−48610号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
タングステン線は焼結されたタングステン粉末が延びて繊維状となったものであるから、その常温での冷間圧延加工においては割れや裂けが発生しやすい。従来は、加熱下で圧延加工を行っていたが、厚みの変動が大きいなど必ずしも良好な圧延線が得られているというわけではない。
【0010】
本発明は、このような従来の問題を解決しようとするもので、タングステン線を冷間にて圧延加工する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、焼結体であるタングステン線1の表面を、金属めっき2を施し保護することにより圧延加工を行うことで、割れや裂けが発生することなく、冷間で加工できる方法を見出し、本発明を完成させた。
【0012】
本発明は、前記金属めっきがニッケルめっき、銅めっき、亜鉛めっきであることを特徴とするタングステン線の圧延方法であって、好ましくは上記タングステン線の線径を、100μm以下とすること、上記金属めっきの厚みを1μm以上10μm以下とすること、1回の圧延での加工率が、50%以上とすることである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の方法によれば、タングステン線を加熱下ではなく、常温での冷間にて、割れや裂けを発生させることなく圧延加工を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、タングステン線の概略図である。
【図2】図2は、本発明の金属めっきを施したタングステン線の概略図である。
【図3】図3は、本発明の金属めっきを施したタングステン線の圧延加工を示す模式図である。
【図4】図4は、本発明の金属めっきを施したタングステン線の圧延品の圧延面からのSEM写真である。
【図5】図5は、本発明の金属めっきを施したタングステン線の圧延品の斜視面のSEM写真である。
【図6】図6は、従来の金属めっきを施していないタングステン線の圧延品の圧延面からのSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて本発明が詳細に説明される。
【0016】
本発明は、タングステン線を冷間にて圧延加工する方法において、金属めっきを施し、圧延加工を行うことを特徴とするものである。
【0017】
図1に示される丸線のタングステン線に、図2に示されるように、表面に金属めっきを施す。めっき方法は電気めっき、無電解めっき等方法は問わない。金属めっきに用いる金属は、冷間圧延が可能な、展延性がある金属であれば問わない。好ましくは、コスト面を考慮し、産業的によく用いられているニッケル、銅、亜鉛である。
【0018】
タングステン線の線径は、圧延加工でより加工度を上げても割れや裂けが発生しづらい、細径であることが好ましい。具体的には線径は100μm以下であることが望ましい。
【0019】
金属めっきの厚みは、1μm以上10μm以下とすることが好ましい。1μm未満であると、高加工度での圧延時に割れや裂けが発生しやすい。また、10μmを超えると、必要以上のコストがかかるとともに、タングステンの比率が下がり、タングステンの特性が活かせなくなる。
【0020】
金属めっき後、図3に示されるように、上下のロールによる圧延加工を所望の厚みを得るまで圧延加工を繰り返す。1回の圧延での加工度は、コスト面、生産性を考慮し、50%以上であることが好ましい。
【0021】
以上説明のように、本発明に係るタングステン線の圧延加工によれば、タングステン線を冷間において割れや裂けが発生することなく、圧延加工を行うことが可能になる。圧延加工後の異形断面を有するタングステン線は、その優れた耐熱性および機械的強度特性により、各種補強線に使用でき、特に医療用のカテーテル補強線に適用できる。
【0022】
また、本発明はタングステンに合金成分を添加したタングステン合金線にも適用できる。
【実施例】
【0023】
以下、実施例に従って本発明を更に詳細に説明するが、本発明を以下の実施例に限定するものではない。
【0024】
線径50μmの丸線のタングステン線に、電気めっきによりめっき厚5μmのニッケルめっきを施し、線径60μmのニッケルめっきタングステン線を作製した。
【0025】
このニッケルめっきを施したタングステン線を、上下ロールを有する圧延機により圧延加工を行った。1回の圧延加工の結果、幅110μm、厚さ25μmの均一な厚さの異形線を作製することができた。
【0026】
表面性状は、図4および図5に示すように、割れや裂けを発生させることなく、良好なものであった。
【0027】
この圧延方法での加工度は58.3%である。
【0028】
一方、線径50μmのタングステン線を、金属めっきを施さずに厚さ25μmになるように圧延加工を行った。表面性状は、図6に示すように、割れ、裂けが発生した。
【符号の説明】
【0029】
1 タングステン線
2 金属めっき
3 圧延ロール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タングステン線に金属めっきを施した後、冷間で圧延することを特徴とするタングステン線の圧延方法。
【請求項2】
前記金属めっきがニッケルめっき、銅めっき、亜鉛めっきであることを特徴とする請求項1に記載のタングステン線の圧延方法。
【請求項3】
前記タングステン線の線径を、100μm以下とすることを特徴とする請求項1または2に記載のタングステン線の圧延方法。
【請求項4】
前記金属めっきの厚みを、1μm以上10μm以下とすることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のタングステン線の圧延方法。
【請求項5】
1回の圧延での加工度が、50%以上であることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のタングステン線の圧延方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−94801(P2013−94801A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−238573(P2011−238573)
【出願日】平成23年10月31日(2011.10.31)
【出願人】(394010506)
【Fターム(参考)】