説明

タングステン酸ナトリウム溶液の精製方法

【課題】タングステン酸アルカリ溶液中のモリブデンを簡単な処理工程で効率良く除去する精製方法を提供する。
【解決手段】タングステン酸ナトリウム溶液について、陽イオン交換膜を用いた隔膜電解を行って該溶液のpHを7〜9.5に調整し、または上記隔膜電解に代えて硫酸または酢酸を添加してタングステン酸アルカリ溶液のpHを7〜9.5に調整し、該pH調整後、該溶液に硫化物および銅化合物を添加してモリブデン含有沈殿を生成させ、該沈殿を固液分離してモリブデンを除去するタングステン酸アルカリ溶液の精製方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タングステン酸ナトリウム溶液に含まれるモリブデンを簡単な処理工程で効率良く除去する精製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
超硬質合金は、超硬質な性質に基づいて切削工具などに多く使用されているが、タングステン、コバルト、タンタル、ニオブなどの高価な希少元素を含んでいるので、そのスクラップから上記希少元素をできるだけ多く回収することが望まれている。この超硬工具のスクラップから上記希少元素を回収する処理工程において、タングステン酸アルカリ塩溶液が得られる。このタングステン酸アルカリ塩溶液にはタングステンと共にモリブデンが含まれている場合が多い。また、タングステン鉱石の製錬工程において生じるタングステン酸アルカリ塩溶液についてもタングステンと共にモリブデンが含まれている場合があり、これらの溶液からモリブデンを効率良く分離し、除去する必要がある。
【0003】
タングステン酸アルカリ塩溶液などからモリブデンを除去する方法として以下の方法が従来知られている。
〔イ〕モリブデンを含有するタングステン酸溶液を強塩基性イオン交換樹脂に通液してモリブデンを吸着させ、アルカリ溶液で樹脂に付着したタングステンを洗い落とした後に、NaClOを含むNaCl溶液で樹脂からモリブデンを溶離させ、次いで、NaCl溶液を通液して樹脂を再生する(特許文献1)。
〔ロ〕アルカリ性タングステン酸溶液をpH7〜10になるまで酸処理し、生じた沈殿を濾別し、さらに濾液を塩基性イオン交換剤で分離して濾過し、この濾液を硫化物で処理してチオモリブデン酸塩を生成させ、このチオモリブデン酸塩を硫化物形のイオン交換剤で分離してモリブデンを除去する方法(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】中国特許CN1016158B公報
【特許文献2】特表2000−514030号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の上記(イ)(ロ)の処理方法は何れもイオン交換樹脂等にモリブデンを吸着させて除去する方法である。イオン交換樹脂の吸着能には限界があり、高濃度のモリブデンを除去することができない。また、たとえモリブデンを除去できても、イオン交換樹脂の再生頻度が多くなり、手間がかかるだけでなく、溶離剤や再生剤の使用量が多くなり、コスト高になるなどの問題がある。さらに、上記(ロ)の処理方法はイオン交換処理を繰り返すので処理工程が煩雑であり面倒である。
【0006】
本発明は、従来の処理方法の上記問題を解決したものであり、モリブデンを含むタングステン酸ナトリウム溶液について、モリブデンを沈殿化して効率よく除去する精製方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、以下に示す構成によって上記問題を解決したタングステン酸アルカリ溶液の精製方法が提供される。
〔1〕タングステン酸ナトリウム溶液について、陽イオン交換膜を用いた隔膜電解を行って該溶液のpHを7〜9.5に調整した後に、該溶液に硫化物および銅化合物を添加してモリブデン含有沈殿を生成させ、該沈殿を固液分離してモリブデンを除去するタングステン酸ナトリウム溶液の精製方法。
〔2〕タングステン酸ナトリウム溶液に硫酸または酢酸を添加して該溶液のpHを7〜9.5に調整した後に、硫化物および銅化合物を添加してモリブデン含有沈殿を生成させ、該沈殿を固液分離してモリブデンを除去することを特徴とするタングステン酸ナトリウム溶液の精製方法。
〔3〕上記[1]または上記[2]に記載する方法において、液中の硫黄濃度が0.1g/L以上になる量の硫化物を添加してモリブデン含有沈殿を生成させるタングステン酸ナトリウム溶液の精製方法。
〔4〕上記[1]〜上記[3]の何れかに記載する方法において、液中のモリブデンのモル濃度に対して、2倍モル当量〜6倍モル当量の銅になる量の銅化合物を添加するタングステン酸ナトリウム溶液の精製方法。
〔5〕上記[1]〜上記[4]の何れかに記載する方法において、モリブデン含有沈殿を固液分離した後に、該溶液にアルカリを添加してpHを10以上に再調整し、この溶液をイオン交換樹脂に通液してタングステン酸イオンを吸着させ、次いで塩化アンモニウムとアンモニア水の混合液を通液してタングステン酸アンモニウム溶液を回収する方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の精製方法は、タングステン酸ナトリウム溶液のpHを7〜9.5に調整した後に、硫化物および銅化合物を添加するので、該pHを調整せずに硫化物および銅化合物を添加してモリブデン含有沈澱を生成させる場合に比べて、沈澱の生成を制御しやすい。
【0009】
また、タングステン酸ナトリウム溶液を隔膜電解してpHを低下させる方法によれば、硫酸の添加量を大幅に減らすことができる。
【0010】
本発明の精製方法は、モリブデン含有沈澱が十分に生成するように、液中の硫黄濃度を0.1g/L以上になる量の硫化物を添加し、該溶液中のモリブデンのモル濃度に対して2倍モル当量〜6倍モル当量の銅になる量の銅化合物を添加することによって、溶液中のモリブデン濃度を20ppm以下に低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の精製方法の概略を示す工程図。
【図2】本発明の精製方法の概略を示す工程図。
【図3】本発明の隔膜電解の概略図。
【図4】pHとモリブデン濃度の関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施形態に基づいて具体的に説明する。
本発明の精製方法は、以下の〔イ〕または〔ロ〕の構成を有するタングステン酸アルカリ溶液の精製方法である。
〔イ〕タングステン酸ナトリウム溶液について、陽イオン交換膜を用いた隔膜電解を行って該溶液のpHを7〜9.5に調整した後に、該溶液に硫化物および銅化合物を添加してモリブデン含有沈殿を生成させ、該沈殿を固液分離してモリブデンを除去するタングステン酸アルカリ溶液の精製方法。
〔ロ〕タングステン酸ナトリウム溶液に硫酸または酢酸を添加して該溶液のpHを7〜9.5に調整した後に、硫化物および銅化合物を添加してモリブデン含有沈殿を生成させ、該沈殿を固液分離してモリブデンを除去することを特徴とするタングステン酸アルカリ溶液の精製方法。
【0013】
〔タングステン酸アルカリ溶液〕
本発明の処理対象であるタングステン酸ナトリウム溶液は、例えば、タングステン含有超硬質合金スクラップの処理工程や、タングステン鉱石の製錬処理工程において回収したタングステン酸ナトリウム溶液などである。上記処理工程から回収したタングステン酸ナトリウム溶液はpH14程度の強アルカリ性溶液であり、通常、モリブデンなどの不純物が含まれている。
【0014】
モリブデンを除去したタングステン酸ナトリウム精製溶液をイオン交換処理してナトリウム塩をアンモニウム塩に置換し、このタングステン酸アンモニウム溶液〔(NH4)2WO4〕から高純度のパラタングステン酸アンモニウム結晶(APT)〔5(NH4)2O・12WO3・5H2O〕が製造される。
【0015】
〔pH調整工程〕
タングステン含有超硬質合金スクラップの処理工程や、タングステン鉱石の製錬処理工程において回収したタングステン酸ナトリウム溶液はpH14程度の強アルカリ性溶液であるので、液中のモリブデンを沈澱させるために、先ず該溶液のpHを7〜9.5に調整する。このpH調整手段として[イ]隔膜電解、または[ロ]硫酸または酢酸の添加を行う。
【0016】
隔膜電解の概略を図3に示す。図示するように、電解槽10の内部が陽イオン交換膜11によって陽極槽12と陰極槽13に二分された電解装置を用い、陽極14および陰極15を設けて電源16に接続し、陽極槽12にタングステン酸ナトリウム溶液〔Na2WO4:pH14程度〕を入れ、陰極槽13には水酸化ナトリウム溶液〔NaOH〕を入れて電解を行う。電解の進行によって、陰極槽13では水分子の分解によって水素ガスが発生し、水酸化物イオン(OH-)が増加する。これに応じて陽極槽12のナトリウムイオン(Na+)は陽イオン交換膜11を通過して陰極槽13に移動し、陽極槽12では水分子の分解によって酸素ガスが発生し、水素イオン(H+)が増加してタングステン酸ナトリウム溶液のpHが下がる。この隔膜電解によってタングステン酸ナトリウム溶液のpHを強アルカリ(pH14程度)からpH7〜9.5まで低下することができる。
【0017】
タングステン酸ナトリウム溶液に硫酸または酢酸を添加して該溶液のpHを7〜9.5に調整してもよい。なお、硫酸または酢酸に代えて塩酸または硝酸を用いると、後工程のイオン交換工程の処理効果が低下するので好ましくない。一方、硫酸または酢酸を用いることによって、後工程のイオン交換工程の処理効果が大幅に低下するのを避けることができる。
【0018】
〔脱Mo工程〕
上記pH調整後のタングステン酸ナトリウム溶液に硫化物および銅化合物を添加してモリブデン含有沈澱を生成させる。タングステン酸ナトリウム溶液のpHとモリブデン含有沈澱生成によるモリブデン濃度の関係を図4に示す。図4の例は、WO3濃度181g/L、Mo濃度が各々0.5、2、8g/Lのタングステン酸ナトリウム溶液に、硫酸および酢酸を加えてpHを図示する範囲に調整し、これに液中のS濃度が1.5g/Lになるように水硫化ソーダおよび硫酸銅を加え([Cu]/[Mo]=3モル)、18時間攪拌して沈澱を生成させたものである。
【0019】
図示するように、該溶液のpHが10以上であると、上記沈澱が十分に生成せず、該溶液中のモリブデン濃度が高い(図4では約400mg/L以上)。一方、該溶液のpHが7〜9.5の範囲では、上記沈澱の生成によって該溶液中のモリブデン濃度が格段に減少する(図4では約10〜15mg/L)。なお、タングステン酸ナトリウム溶液のpHが7未満(酸性)ではタングステンが沈殿するので好ましくない。
【0020】
硫化物としては、硫化水素、硫化ナトリウム、硫化水素ナトリウム(水硫化ソーダ)、硫化アンモニウム、または硫化物を放出する有機化合物などを用いることができる。また、銅化合物としては、硫化第一銅、硫化第二銅、硫酸銅、塩化第一銅、塩化第二銅などを用いることができる。その中でも硫酸銅、塩化第一銅、塩化第二銅はタングステン酸アンモニウム溶液に溶けやすいので好ましい。
【0021】
pH調整後のタングステン酸ナトリウム溶液(pH7〜9.5)に硫化物および銅化合物を添加し、室温下、十数時間攪拌すると、例えば、硫化銅〔Cu2S〕と共に銅ナトリウムモリブデン硫化物〔CuNaMoS4〕などが沈殿する。
【0022】
硫化物の添加量は、上記沈澱が十分に生成するように、沈澱生成後の液中の硫黄濃度が0.1g/L以上、好ましくは0.1g/L〜6g/L、より好ましくは1〜5g/Lになる十分な量の硫化物を添加すると良い。具体的には、モリブデン1モルに対して硫黄5モルが沈澱するので、液中のモリブデンに対して5倍モル量+液中残留濃度1〜5g/L程度の硫黄量になる硫化物を添加すると良い。
【0023】
銅化合物の添加量は、同様にモリブデン含有沈澱が十分に生成するように、該溶液中のモリブデンのモル濃度に対して2倍モル当量以上、好ましくは2.5倍から6倍モル当量になる量がよい。硫黄化合物および銅化合物の添加量を上記範囲に調整することによって、例えば、モリブデン濃度0.5g/L〜10g/Lのタングステン酸ナトリウム溶液について、モリブデン含有沈殿を生成させて、溶液中のモリブデン濃度を20ppm以下に低減することができる。
【0024】
〔イオン交換工程〕
モリブデン含有沈澱を固液分離したタングステン酸ナトリウム精製溶液〔Na2WO4〕について、ナトリウム塩をアンモニウム塩に交換し、タングステン酸アンモニウム溶液〔(NH4)2WO4〕を回収する工程を以下に説明する。
【0025】
上記固液分離後のタングステン酸ナトリウム溶液に空気を吹き込んでバブリングを行うことによって、溶液中に残留する硫黄を硫化水素ガスとして溶液中から追い出すとともに、わずかに残留する硫黄を硫酸イオン(SO42-)にする。
【0026】
残留硫黄を除去したタングステン酸ナトリウム溶液に、水酸化ナトリウムなどのアルカリを添加して溶液のpHを10以上、例えばpH12程度に調整する。該溶液のpHが8より低い(酸性〜中性)と、タングステン酸はポリタングステン酸の状態であるので、溶液のpHを10以上に調整してイオン交換しやすいタングステン酸イオン〔WO42-〕にする。
【0027】
pH10以上に再調整したタングステン酸ナトリウム溶液〔Na2WO4〕を、陰イオン交換樹脂を充填したカラムに通液してタングステン酸イオンを吸着させ、次いで純水を通水して洗浄した後に、該カラムに溶離液として塩化アンモニウムとアンモニア水の混合液を通液してタングステン酸アンモニウム溶液〔(NH4)2WO4〕を回収する。
【0028】
なお、タングステン酸ナトリウム溶液に残留する銅イオンは、イオン交換において上記イオン交換樹脂には吸着されずにNaイオンと共にカラムを通過するので、このイオン交換処理によってタングステン酸と分離し除去することができ、銅を除去したタングステン酸アンモニウムの精製溶液〔(NH4)2WO4〕を得ることができる。
【0029】
陰イオン交換樹脂は強塩基性イオン交換樹脂を用いるとよく、これを充填したカラムは、あらかじめ水酸化ナトリウム、および塩化アンモニウムとアンモニア水の混合液でコンデショニングを行うと良い。タングステン酸アンモニウム溶液〔(NH4)2WO4〕を回収した後に、該カラムに純水を通水して洗浄する。
【0030】
上記タングステン酸アンモニウム溶液〔(NH4)2WO4〕から高純度のパラタングステン酸アンモニウム結晶(APT)〔5(NH4)2O・12WO3・5H2O〕を得ることができる。
【実施例】
【0031】
以下、本発明の実施例を比較例と共に示す。
〔実施例1〕
(1)pH調整工程
タングステン酸ナトリウム溶液(182g-WO3/L、7.99g-Mo/L)1000mlに6.5mol/Lの硫酸を60ml添加して、該溶液のpHを13.76から8.28に下げた。
(2)脱Mo工程
上記pH調整後のタングステン酸ナトリウム溶液1058ml(172g-WO3/L、7.55g-Mo/L)に水硫化ソーダ(濃度70wt%)を41.5g添加した。その後、硫酸銅五水和物を62.3g([Cu]/[Mo]=3モル)添加し、12時間攪拌した。生成した沈殿物を濾過分離してモリブデンを除去したタングステン酸ナトリウム溶液1052mlを得た。この濾液のモリブデン濃度は0.010g/Lであった。
【0032】
〔実施例2〕
(1)pH調整工程
タングステン酸ナトリウム溶液(183g-WO3/L、7.91g-Mo/L)1000mlに6.5mol/Lの硫酸を93ml添加して、該溶液のpHを13.79から7.11に下げた。
(2)脱Mo工程
上記pH調整後のタングステン酸ナトリウム溶液1093ml(167g-WO3/L、7.24g-Mo/L)に水硫化ソーダ(濃度70wt%)を43.8g添加した。その後、硫酸銅五水和物を61.7g([Cu]/[Mo]=3モル)添加し、12時間攪拌した。生成した沈殿物を濾過分離してモリブデンを除去したタングステン酸ナトリウム溶液1090mlを得た。この濾液のモリブデン濃度は0.008g/Lであった。
【0033】
〔実施例3〕
(1)pH調整工程
タングステン酸ナトリウム溶液(182g-WO3/L、7.94g-Mo/L)1000mlに6.5mol/Lの硫酸を51ml添加して、該溶液のpHを13.74から9.32に下げた。
(2)脱Mo工程
上記pH調整後のタングステン酸ナトリウム溶液1050ml(172g-WO3/L、7.56g-Mo/L)に水硫化ソーダ(濃度70wt%)を43.8g添加した。その後、硫酸銅五水和物を61.9g([Cu]/[Mo]=3モル)添加し、12時間攪拌した。生成した沈殿物を濾過分離してモリブデンを除去したタングステン酸ナトリウム溶液1045mlを得た。この濾液のモリブデン濃度は0.011g/Lであった。
【0034】
〔実施例4〕
(1)pH調整工程
タングステン酸ナトリウム溶液(182g-WO3/L、7.98g-Mo/L)1000mlに6.5mol/Lの硫酸を60ml添加して、該溶液のpHを13.76から8.28に下げた。
(2)脱Mo工程
上記pH調整後のタングステン酸ナトリウム溶液1059ml(172g-WO3/L、7.53g-Mo/L)に水硫化ソーダ(濃度70wt%)を37.5g添加した。その後、硫酸銅五水和物を52.1g([Cu]/[Mo]=2.5モル)添加し、12時間攪拌した。生成した沈殿物を濾過分離してモリブデンを除去したタングステン酸ナトリウム溶液1053mlを得た。この濾液のモリブデン濃度は0.018g/Lであった。
【0035】
〔実施例5〕
(1)pH調整工程
タングステン酸ナトリウム溶液(183g-WO3/L、7.95g-Mo/L)1000mlに6.5mol/Lの硫酸を60ml添加して、該溶液のpHを13.74から8.25に下げた。
(2)脱Mo工程
上記pH調整後のタングステン酸ナトリウム溶液1057ml(173g-WO3/L、7.52g-Mo/L)に水硫化ソーダ(濃度70wt%)を66.3g添加した。その後、硫酸銅五水和物を103.4g([Cu]/[Mo]=5.0モル)添加し、12時間攪拌した。生成した沈殿物を濾過分離してモリブデンを除去したタングステン酸ナトリウム溶液1053mlを得た。この濾液のモリブデン濃度は0.004g/Lであった。
【0036】
実施例1〜実施例5の結果を表1に示す。何れもタングステン酸ナトリウム溶液のpHを7〜9.5に調整した後に、液中のS濃度が1〜5g/Lになる量の硫化物と、[Cu]/[Mo]=2.5〜5モルになる量の硫酸銅を添加することによって、液中のMo濃度が0.02g/L以下に低減されている。


【0037】
【表1】

【0038】
〔実施例6〕
(1)pH調整工程
陽イオン交換膜によって陽極槽と陰極槽(100×100×120mm、各容量1.2L、陽極および陰極はSUS304)に区画された電解装置を用い、陽極槽にタングステン酸ナトリウム溶液(182g-WO3/L、7.99g-Mo/L)1000mlを入れ、陰極槽に水酸化ナトリウム溶液(1mol/L)1000mlを入れ、5A定電流を通じてイオン交換膜電解を行った。電極面積は0.0056m2(80×70mm)であり、電流密度は892.9A/m2である。この隔膜電解を4時間行ったところ、溶液のpHは開始前の13.76から8.34に低下した。電流効率(Na移動量から算出)は93.4%であった。
(2)脱Mo工程
上記pH調整後のタングステン酸ナトリウム溶液995ml(183g-WO3/L、8.01g-Mo/L)に水硫化ソーダ(濃度70wt%)を44.0g添加した。その後、硫酸銅五水和物を62.2g([Cu]/[Mo]=3モル)添加し、12時間攪拌した。生成した沈殿物を濾過分離してモリブデンを除去したタングステン酸ナトリウム溶液990mlを得た。この濾液のモリブデン濃度は0.012g/Lであった。
(3)pH再調整工程
上記脱Mo工程後のタングステン酸ナトリウム溶液に空気を吹き込んでバブリングを12時間行い、溶存する硫黄を液中から除去した。その後、苛性ソーダを18.3g添加してpHを12.8に調整した。
(4)イオン交換工程
上記pH再調整工程後のタングステン酸ナトリウム溶液398ml(181g-WO3/L)に純水を加えて希釈し、WO3濃度20g/Lの溶液3.6Lを調製した。この溶液を強塩基性イオン交換樹脂カラム(樹脂量300ml、直径20mm×高さ900mm)に通液した。該カラムには予め苛性ソーダと塩化アンモニウムとアンモニア水の混合液を通液してコンディショニングを行った。タングステン酸ナトリウム溶液の通液速度はカラム中の樹脂量に対する空間速度(SV)1hr-1とし、通液量は3.6L(樹脂量の12倍)とした。次に、純水をSV2hr-1にて0.6L通水した後に、樹脂に吸着したWO3を溶離するため、塩化アンモニウムとアンモニア水の混合液(2mol/Lの塩化アンモニウムと40g/LのNH3水の混合水)をSV2hr-1にて0.6L通液してタングステン酸アンモニウム溶液を回収した。その後に純水をSV2hr-1にて0.6L通水してカラムを洗浄した。
(5)結果
回収したタングステン酸アンモニウム溶液について、WO3回収量は43.5gであり、樹脂1Lに対するWO3吸着量は145g/L-Rであった。
【0039】
〔実施例7〕
(1)pH調整工程
タングステン酸ナトリウム溶液(182g-WO3/L、7.91g-Mo/L)1000mlに17.5mol/Lの酢酸を45ml添加して該溶液のpHを13.76から8.21に下げた。
(2)脱Mo工程
上記pH調整後のタングステン酸ナトリウム溶液1045ml(174g-WO3/L、7.57g-Mo/L)に水硫化ソーダ(濃度70wt%)を43.6g添加した。その後、硫酸銅五水和物を61.8g([Cu]/[Mo]=3モル)添加し、12時間攪拌した。生成した沈殿物を濾過分離してモリブデンを除去したタングステン酸ナトリウム溶液1040mlを得た。この濾液のモリブデン濃度は0.008g/Lであった。
(3)pH再調整工程
上記脱Mo工程後のタングステン酸ナトリウム溶液に空気を吹き込んでバブリングを12時間行い、溶存する硫黄を液中から除去した。その後、苛性ソーダを18.7g添加してpHを12.7に調整した。
(4)イオン交換工程
上記pH再調整後のタングステン酸ナトリウム溶液414ml(173g-WO3/L)に純水を加えて希釈し、WO3濃度20g/Lの溶液3.6Lを調製した。この溶液を強塩基性イオン交換樹脂カラム(樹脂量300ml、直径20mm×高さ900mm)に通液した。該カラムには予め苛性ソーダと塩化アンモニウムとアンモニア水の混合液を通液してコンディショニングを行った。タングステン酸ナトリウム溶液の通液速度はカラム中の樹脂量に対する空間速度(SV)1hr-1とし、通液量は3.6L(樹脂量の12倍)とした。次に、純水をSV2hr-1にて0.6L通水した後に、樹脂に吸着したWO3を溶離するため、塩化アンモニウムとアンモニア水の混合液(2mol/Lの塩化アンモニウムと40g/LのNH3水の混合水)をSV2hr-1にて0.6L通液してタングステン酸アンモニウム溶液を回収した。その後に純水をSV2hr-1にて0.6L通水してカラムを洗浄した。
(5)結果
回収したタングステン酸アンモニウム溶液について、WO3回収量は43.7gであり、樹脂1Lに対するWO3吸着量は146g/L-Rであった。
【0040】
〔実施例8〕
(1)pH調整工程
タングステン酸ナトリウム溶液(182g-WO3/L、7.99g-Mo/L)1000mlに6.5mol/Lの硫酸を60ml添加して、該溶液のpHを13.76から8.18に下げた。
(2)脱Mo工程
上記pH調整後のタングステン酸ナトリウム溶液1058ml(172g-WO3/L、7.55g-Mo/L)に水硫化ソーダ(濃度70wt%)を41.5g添加した。その後、硫酸銅五水和物を62.3g([Cu]/[Mo]=3モル)添加し、12時間攪拌した。生成した沈殿物を濾過分離してモリブデンを除去したタングステン酸ナトリウム溶液1052mlを得た。この濾液のモリブデン濃度は0.010g/Lであった。
(3)pH再調整工程
上記脱Mo工程後のタングステン酸ナトリウム溶液に空気を吹き込んでバブリングを12時間行い、溶存する硫黄を液中から除去した。その後、苛性ソーダを18.8g添加してpHを12.8に調整した。
(4)イオン交換工程
上記pH再調整後のタングステン酸ナトリウム溶液421ml(171g-WO3/L)に純水を加えて希釈し、WO3濃度20g/Lの溶液3.6Lを調製した。この溶液を強塩基性イオン交換樹脂カラム(樹脂量300ml、直径20mm×高さ900mm)に通液した。該カラムには予め苛性ソーダと塩化アンモニウムとアンモニア水の混合液を通液してコンディショニングを行った。タングステン酸ナトリウム溶液の通液速度はカラム中の樹脂量に対する空間速度(SV)1hr-1とし、通液量は3.6L(樹脂量の12倍)とした。次に、純水をSV2hr-1にて0.6L通水した後に、樹脂に吸着したWO3を溶離するため、塩化アンモニウムとアンモニア水の混合液(2mol/Lの塩化アンモニウムと40g/LのNH3水の混合水)をSV2hr-1にて0.6L通液してタングステン酸アンモニウム溶液を回収した。その後に純水をSV2hr-1にて0.6L通水してカラムを洗浄した。
(5)結果
回収したタングステン酸アンモニウム溶液について、WO3回収量は39.3gであり、樹脂1Lに対するWO3吸着量は131g/L-Rであった。
【0041】
〔比較例1〕
(1)pH調整工程〔塩酸使用〕
タングステン酸ナトリウム溶液(182g-WO3/L、7.94g-Mo/L)1000mlに12mol/Lの塩酸を66ml添加して、該溶液のpHを13.76から8.23に下げた。
(2)脱Mo工程
上記pH調整後のタングステン酸ナトリウム溶液1066ml(171g-WO3/L、7.49g-Mo/L)に水硫化ソーダ(濃度70wt%)を44.2g添加した。その後、硫酸銅五水和物を62.4g([Cu]/[Mo]=3モル)添加し、12時間攪拌した。生成した沈殿物を濾過分離してモリブデンを除去したタングステン酸ナトリウム溶液1062mlを得た。この濾液のモリブデン濃度は0.011g/Lであった。
(3)pH再調整工程
上記脱Mo工程後のタングステン酸ナトリウム溶液に空気を吹き込んでバブリングを12時間行い、溶存する硫黄を液中から除去した。その後、苛性ソーダを18.9g添加してpHを12.8に調整した。
(4)イオン交換工程
上記pH再調整後のタングステン酸ナトリウム溶液424ml(171g-WO3/L)に純水を加えて希釈し、WO3濃度20g/Lの溶液3.6Lを調製した。この溶液について、実施例7と同様の条件下でイオン交換を行った。
〔強塩基性イオン交換樹脂カラム(樹脂量300ml、直径20mm×高さ900mm)を使用。該カラムには予め苛性ソーダと塩化アンモニウムとアンモニア水の混合液を通液してコンディショニングを行った。タングステン酸ナトリウム溶液の通液速度はカラム中の樹脂量に対する空間速度(SV)1hr-1とし、通液量は3.6L(樹脂量の12倍)とした。次に、純水をSV2hr-1にて0.6L通水した後に、樹脂に吸着したWO3を溶離するため、塩化アンモニウムとアンモニア水の混合液(2mol/Lの塩化アンモニウムと40g/LのNH3水の混合水)をSV2hr-1にて0.6L通液してタングステン酸アンモニウム溶液を回収した。その後に純水をSV2hr-1にて0.6L通水してカラムを洗浄した。〕
(5)結果
回収したタングステン酸アンモニウム溶液について、WO3回収量は29.7gであり、樹脂1Lに対するWO3吸着量は99g/L-Rであった。
【0042】
〔比較例2〕
(1)pH調整工程〔硝酸使用〕
タングステン酸ナトリウム溶液(182g-WO3/L、7.94g-Mo/L)1000mlに13mol/Lの硝酸を62ml添加して、該溶液のpHを13.75から8.25に下げた。
(2)脱Mo工程
上記pH調整後のタングステン酸ナトリウム溶液1060ml(172g-WO3/L、7.37g-Mo/L)に水硫化ソーダ(濃度70wt%)を43.2g添加した。その後、硫酸銅五水和物を60.9g([Cu]/[Mo]=3モル)添加し、12時間攪拌した。生成した沈殿物を濾過分離してモリブデンを除去したタングステン酸ナトリウム溶液1056mlを得た。この濾液のモリブデン濃度は0.015g/Lであった。
(3)pH再調整工程
上記脱Mo工程後のタングステン酸ナトリウム溶液に空気を吹き込んでバブリングを12時間行い、溶存する硫黄を液中から除去した。その後、苛性ソーダを18.9g添加してpHを12.8に調整した。
(4)イオン交換工程
上記pH再調整後のタングステン酸ナトリウム溶液421ml(171g-WO3/L)に純水を加えて希釈し、WO3濃度20g/Lの溶液3.6Lを調製した。この溶液について、実施例7と同様の条件下でイオン交換を行った。
〔強塩基性イオン交換樹脂カラム(樹脂量300ml、直径20mm×高さ900mm)を使用。該カラムには予め苛性ソーダと塩化アンモニウムとアンモニア水の混合液を通液してコンディショニングを行った。タングステン酸ナトリウム溶液の通液速度はカラム中の樹脂量に対する空間速度(SV)1hr-1とし、通液量は3.6L(樹脂量の12倍)とした。次に、純水をSV2hr-1にて0.6L通水した後に、樹脂に吸着したWO3を溶離するため、塩化アンモニウムとアンモニア水の混合液(2mol/Lの塩化アンモニウムと40g/LのNH3水の混合水)をSV2hr-1にて0.6L通液してタングステン酸アンモニウム溶液を回収した。その後に純水をSV2hr-1にて0.6L通水してカラムを洗浄した。〕
(5)結果
回収したタングステン酸アンモニウム溶液について、WO3回収量は26.4gであり、樹脂1Lに対するWO3吸着量は88g/L-Rであった。
【0043】
実施例6〜実施例8、比較例1,2の結果を表2に示す。実施例6〜8は何れもタングステン酸ナトリウム溶液のpHを8〜9に調整した後に、水硫化ソーダと硫酸銅を添加して液中のMo濃度を0.012g/L以下に低減した後に、イオン交換し、40%以上のWO3回収量でタングステン酸アンモニウム溶液を回収している。一方、塩酸を用いた比較例1、硝酸を用いた比較例2はWO3回収量が30%以下であり、回収率が低い。








【0044】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
タングステン酸ナトリウム溶液について、陽イオン交換膜を用いた隔膜電解を行って該溶液のpHを7〜9.5に調整した後に、該溶液に硫化物および銅化合物を添加してモリブデン含有沈殿を生成させ、該沈殿を固液分離してモリブデンを除去するタングステン酸ナトリウム溶液の精製方法。
【請求項2】
タングステン酸ナトリウム溶液に硫酸または酢酸を添加して該溶液のpHを7〜9.5に調整した後に、硫化物および銅化合物を添加してモリブデン含有沈殿を生成させ、該沈殿を固液分離してモリブデンを除去することを特徴とするタングステン酸ナトリウム溶液の精製方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載する方法において、液中の硫黄濃度が0.1g/L以上になる量の硫化物を添加してモリブデン含有沈殿を生成させるタングステン酸ナトリウム溶液の精製方法。
【請求項4】
請求項1〜請求項3の何れかに記載する方法において、液中のモリブデンのモル濃度に対して、2倍モル当量〜6倍モル当量の銅になる量の銅化合物を添加するタングステン酸ナトリウム溶液の精製方法。
【請求項5】
請求項1〜請求項4の何れかに記載する方法において、モリブデン含有沈殿を固液分離した後に、該溶液にアルカリを添加してpHを10以上に再調整し、この溶液をイオン交換樹脂に通液してタングステン酸イオンを吸着させ、次いで塩化アンモニウムとアンモニア水の混合液を通液してタングステン酸アンモニウム溶液を回収する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−178583(P2011−178583A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−42043(P2010−42043)
【出願日】平成22年2月26日(2010.2.26)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【出願人】(391002683)日本新金属株式会社 (14)
【Fターム(参考)】