説明

タング及びシートベルト装置

【課題】ウェビングを装着した状態でのウェビング保持部材の動き易さを確保しつつも、ウェビングを装着する際のウェビング保持部材の動きを防止又は抑制できるタング及びシートベルト装置を得る。
【解決手段】カバー122の脚板126には規制突起136が形成されており、タングを把持してウェビングを引出す際に脚板126を押圧して弾性変形させると、規制突起136がスライダ82の軸方向端部からスライダ82の内側へ入り込む。このように、規制突起136がスライダ82の内側へ入り込んだ状態では、スライダ82の内面における掛け回し部84側の部分に対して横壁側で規制突起136が対向してスライダ82の内面に干渉する。これによりスライダ82のスライドが規制され、円滑にウェビングを引出してタングの挿込部をバックルに挿し込み、ウェビングを身体に装着できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のシートベルト装置を構成するタング及びこのようなタングを備えたシートベルト装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に開示されたシートベルト装置用のタングは、車両が急減速することで車両前方へ慣性移動しようとする乗員の身体がウェビングを引っ張ると、ウェビングによってタングに設けられた曲げ及び締め付け要素が移動する。このように移動した曲げ及び締め付け要素がタングの締め付け顎部とでウェビングをクランプすることでウェビングにおいて乗員の肩部や胸部を拘束するショルダウェビングが、乗員の腰部を拘束するラップウェビング側へ移動することを抑制する。
【0003】
ところで、乗員がウェビングを身体に装着する際にはタングを把持してウェビングを引っ張る。このような場合に特許文献1に開示された曲げ及び締め付け要素のようなウェビング保持部材が締め付け顎部のようなタングの一部分と共にウェビングをクランプしてしまうと、ウェビングを引出し難い。このため、特許文献1に開示された構成では、捩じりコイルばねによりウェビング保持部材を締め付け顎部のようなタングの一部分から離間する向きに付勢している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】独国特許10 2009 015 202 B3明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、このような捩じりコイルばねの付勢力が大きいと曲げ及び締め付け要素のようなウェビング保持部材が動き難く、捩じりコイルばねの付勢力が小さいとタングと共にウェビングを引っ張るだけで曲げ及び締め付け要素のようなウェビング保持部材が動いてしまう。
【0006】
本発明は上記事実を考慮して、ウェビングを装着した状態でのウェビング保持部材の動き易さを確保しつつも、ウェビングを装着する際のウェビング保持部材の動きを防止又は抑制できるタング及びシートベルト装置を得ることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の本発明に係るタングは、ウェビングの中間部が通過し、バックルに装着されることで前記バックルに保持されるタング本体と、前記ウェビングが掛け回される掛け回し部を有すると共に、前記ウェビングにおける前記タング本体の所定部位とは反対側に圧接部が前記掛け回し部とは別に設定され、前記掛け回し部に付与された前記ウェビングの張力により前記所定部位に前記圧接部が接近する方向へ移動して前記圧接部が前記ウェビングに圧接して前記所定部位と共に前記ウェビングのその長手方向に沿った移動を規制するウェビング保持部材と、前記ウェビング保持部材の側方で前記ウェビング保持部材に対して接近する向きへ移動可能に前記タング本体に設けられ、前記ウェビング保持部材に接近した状態では前記圧接部が前記タング本体の前記所定部位に接近する際の前記ウェビング保持部材の移動方向側から前記ウェビング保持部材に係合して前記圧接部が前記タング本体の前記所定部位に接近する方向への前記ウェビング保持部材の移動を規制する規制手段と、を備えている。
【0008】
請求項1に記載のタングでは、車両用のシートに着座した乗員の身体に対してウェビングが掛け回された状態でバックルにタングを構成するタング本体が装着されると、タング本体がバックルに保持されて、乗員の身体に対するウェビングの装着状態になる。
【0009】
この状態では、ウェビング保持部材の掛け回し部にウェビングが掛け回され、ウェビングにおいて掛け回し部に掛け回された部分よりもウェビングの基端側又は先端側は、タング本体における所定部位とウェビング保持部材の圧接部との間を通過している。
【0010】
例えば、車両が急減速することで乗員の身体がウェビングを引っ張ると、この引っ張り力(張力)がウェビング保持部材の掛け回し部に付与されて、圧接部がタング本体における上記の所定部位へ接近するようにウェビング保持部材が移動する。これにより、圧接部がウェビングの厚さ方向一方の側からウェビングに圧接してタング本体の所定部位と共にウェビングを保持する。これにより、ウェビングが、タング本体における所定部位とウェビング保持部材の圧接部との間をウェビングの長手方向先端側へ移動することを防止又は抑制できる。
【0011】
一方、本発明に係るタングではタング本体に規制手段が設けられる。この規制手段はウェビング保持部材に対して接近する向きへ移動可能とされ、規制手段をウェビング保持部材に接近させると、上述したウェビングの引っ張り力で圧接部がタング本体の所定部位に接近する際のウェビング保持部材の移動方向側から規制手段がウェビング保持部材に係合する。このように規制手段がウェビング保持部材に係合すると圧接部がタング本体の所定部位に接近する際の移動方向へのウェビング保持部材の移動が規制される。この状態ではウェビング保持部材の圧接部をタング本体の所定の部位へ接近させることが規制され、ウェビングに対する圧接部の圧接が抑制される。したがって、この状態ではウェビング保持部材の圧接部とタング本体の所定部位とでウェビングを保持することができない。
【0012】
したがって、乗員がウェビングを装着するに際してタングと共にウェビングを引っ張る際には規制手段をウェビング保持部材に係合させておくことで容易にウェビングを引っ張ることができる。また、乗員の身体にウェビングが装着された状態では規制手段をウェビング保持部材から離間させて、ウェビング保持部材に対する規制手段の係合を解消すれば、乗員の身体によりウェビングが引っ張られた際にウェビング保持部材が圧接方向へ移動できる。
【0013】
請求項2に記載の本発明に係るタングは、請求項1に記載の本発明において、前記ウェビングの幅方向端部側から前記ウェビングの幅方向中央側へ移動可能に前記規制手段を構成し、前記ウェビングの幅方向中央側へ前記規制手段が移動することで前記ウェビング保持部材における前記ウェビングの幅方向端部に係合して前記圧接方向への前記ウェビング保持部材の移動を規制する。
【0014】
請求項2に記載のタングでは、規制手段がウェビングの幅方向端部側からウェビングの幅方向中央側へ移動すると、規制手段がウェビング保持部材におけるウェビングの幅方向端部に係合する。これにより、圧接方向へのウェビング保持部材の移動が規制手段に規制され、この状態ではウェビング保持部材がタング本体の所定部位とウェビングを保持することができない。
【0015】
また、上記ように規制手段がウェビングの幅方向端部側からウェビングの幅方向中央側へ移動することで規制手段がウェビング保持部材におけるウェビングの幅方向端部に係合する構成としているため、例えば、乗員がウェビングを身体に装着するためにタングを把持してウェビングを引っ張る際に、タングにおけるウェビングの幅方向両端側から中央側へ規制手段を直接又は間接的に押圧することで規制手段をウェビング保持部材に係合させることができる。
【0016】
請求項3に記載の本発明に係るタングは、請求項1又は請求項2に記載の本発明において、前記タング本体に装着されて前記ウェビング保持部材を覆い隠すカバーを備え、前記カバーに対して前記ウェビング保持部材へ接近する向きに移動可能に前記カバーに前記規制手段を設けている。
【0017】
請求項3に記載のタングでは、タング本体にはカバーが装着され、このカバーによってウェビング保持部材が覆い隠される。しかも、このカバーに規制手段が設けられているので、規制手段を設けることによる部品点数の増加を実質的になくすことができる。さらに、規制手段を合成樹脂材等の比較的弾性変形しやすい材質により形成すれば、ウェビング保持部材に対して接近移動可能に規制手段をカバーに設けることも、単純にカバーの本体部分に対して規制手段をウェビング保持部材に対して接近する向きへ弾性変形できる構成とすればよく、構造も簡単になる。
【0018】
請求項4に記載の本発明に係るシートベルト装置は、先端側が車両用のシートにおける乗員の着座位置の側方で前記シート又は車両の車体に直接又は間接的に係止されたウェビングと、前記着座位置を介して前記ウェビングの先端側の係止位置とは反対側に設けられたバックルと、前記請求項1から前記請求項3の何れか1項に記載のタングと、を備えている。
【0019】
請求項4に記載のシートベルト装置では、車両用のシートにおける乗員の着座位置の側方でウェビングの先端側がシート又は車両の車体に直接又は間接的に係止される。このシートに着座した乗員の身体に対してウェビングが掛け回された状態でシートにおける乗員の着座位置を介してウェビングの先端側の係止位置とは反対側に設けられたバックルにタングを構成するタング本体が装着されると、タング本体がバックルに保持されて、乗員の身体に対するウェビングの装着状態になる。
【0020】
ここで、本発明に係るシートベルト装置を構成するタングは、上述した請求項1から請求項3の何れか1項に記載されたタングである。このため、乗員がウェビングを装着するに際してタングと共にウェビングを引っ張る際には規制手段をウェビング保持部材に係合させておくことで容易にウェビングを引っ張ることができる。また、乗員の身体にウェビングが装着された状態では規制手段をウェビング保持部材から離間させて、ウェビング保持部材に対する規制手段の係合を解消すれば、乗員の身体によりウェビングが引っ張られた際にウェビング保持部材が圧接方向へ移動できる。
【発明の効果】
【0021】
以上説明したように、本発明は、ウェビングを装着した状態でのウェビング保持部材の動き易さを確保しつつも、ウェビングを装着する際のウェビング保持部材の動きを防止又は抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施の形態に係るシートベルト装置の構成を概略的に示す正面図である。
【図2】本発明の一実施の形態に係るタングの構成を概略的に示す側面断面図である。
【図3】ウェビング保持部材が移動した状態を示す図2に対応した側面断面図である。
【図4】タング本体からカバーを取り外した状態を示す図2に対応した側面断面図である。
【図5】ウェビング保持部材の斜視図である。
【図6】カバーの斜視図である。
【図7】カバーとウェビング保持部材との関係を示す図で、(A)は規制手段がウェビング保持部材に係合する前の状態を示し、(B)は規制手段がウェビング保持部材に係合する前の状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
<本実施の形態の構成>
図1には本発明の一実施の形態に係るタング10を用いたシートベルト装置12の全体構成の概略が正面図により示されている。この図に示されるように、本タング10は、ウェビング格納手段としてのウェビング巻取装置14を備えている。ウェビング巻取装置14は、例えば、車両のセンターピラーの下端側で、車両を構成する車体に固定されている。このウェビング巻取装置14には図示しないスプールが、例えば、車両の前後方向を軸方向とする軸周りに回転可能に設けられており、このスプールに可撓性を有する長尺帯状に形成されたウェビング16の長手方向基端側が係止されている。
【0024】
ウェビング16の長手方向基端側は上記のスプールの外周部に巻取られた状態で格納されている。ウェビング16におけるスプールよりも先端側は、センターピラーに沿って車両の上方へ引出され、センターピラーの上端部近傍に設けられたショルダアンカ18を通過して、車両の下方へ折り返されている。車両下方へ折り返されたウェビング16の先端は、車両用のシート20の側方で車体に固定されたアンカ22に係止されている。
【0025】
なお、本実施の形態は、車体側にウェビング巻取装置14やアンカ22が固定された構成である。しかしながら、例えば、ウェビング巻取装置14はシート20を構成するシートバック22に内蔵される構成であってもよいし、シートバック22の後方にウェビング巻取装置14が設けられる構成であってもよい。また、アンカ22も車体ではなく、シート20の骨格等を構成する部材に取り付けられる構成であってもよい。
【0026】
本実施の形態に係るタング10は、ウェビング16の先端(アンカ22に係止される部分)とショルダアンカ18との間に設けられている。このタング10に対応してシート20を介してウェビング巻取装置14やアンカ22の配置位置とは反対側にはバックル26が車体又はシート20の骨格等を構成する部材に固定されている。
【0027】
詳細に関しては後述するが、タング10はバックル26に装着できるようになっており、シート20のシートクッション28に着座した乗員30が、ウェビング巻取装置14のスプールからウェビング16を引出して、ウェビング16を前方から身体に掛け回した状態でタング10をバックル26に装着すると、乗員30の身体に対するウェビング16の装着状態になる。この状態では、ウェビング16におけるタング10とアンカ22との間がラップウェビング32とされて、乗員30の腰部を前方から拘束し、ウェビング16におけるショルダアンカ18とタング10との間がショルダウェビング34とされて、乗員30の肩部や胸部等を前方から拘束する。
【0028】
なお、本実施の形態のシートベルト装置12は、例えば、車両の運転席や助手席等の一人掛のシート20に対応した構成であるが、例えば、車両の後部座席等に用いられる複数人掛のベンチシートに本発明を適用することができる。このようなベンチシートに本発明を適用する場合、ベンチシートにおける乗員30の着座位置に対してシート幅方向一方の側にウェビング巻取装置14やシートバック22が設けられ、他方の側にバックル26が設けられる。
【0029】
<タング10の構成>
図2にはタング10の構成が側面断面図により示されている。
【0030】
この図に示されるように、タング10はタング本体40を構成する芯金42を備えている。芯金42は金属平板を打ち抜き、更に、曲げ成形することにより形成されている。この芯金42は挿込部44を備えており、タング10をバックル26に装着する際には、挿込部44がバックル26に形成された開口からバックル26に挿入される。挿込部44には透孔46が形成されている。挿込部44がバックル26に挿入されると、バックル26に設けられたラッチが透孔46に入り込む。挿込部44がバックル26から抜け出ようとすると、ラッチが透孔46の内周部に干渉してバックル26から抜け出る方向への挿込部44の移動が規制される。これにより、バックル26へのタング10の装着状態となる。
【0031】
また、芯金42における挿込部44よりも基端側(タング10をバックル26に挿し込む際の挿込方向とは反対側)は基部48とされている。図4に示されるように、基部48は横壁50を備えている。横壁50は挿込部44の基端側から芯金42を構成する板材を挿込部44の厚さ方向一方の側へ向けて屈曲させることで形成されている。また、基部48は底壁52を備えている。底壁52は横壁50の挿込部44とは反対側の端部から連続して形成されており、横壁50の挿込部44とは反対側の端部を軸に芯金42を構成する板材を横壁50の厚さ方向一方の側へ向けて屈曲させることで形成されている。
【0032】
さらに、図2に示されるように、基部48は横壁54を備えている。横壁54は底壁52の横壁50とは反対側の端部から連続して形成されており、底壁52の横壁50とは反対側の端部を軸に芯金42を構成する板材を底壁52の厚さ方向一方の側へ向けて屈曲させることで形成されている。このように、横壁50、底壁52、横壁54にて構成される基部48は、その断面形状が底壁52の厚さ方向一方へ向けて開口した凹形状となっている。
【0033】
また、この基部48には開口部62、64が形成されている。開口部62は横壁50から底壁52に亘って形成されており、基部48の内側と横壁50や底壁52よりも基部48の外側とを連通している。これに対して開口部64は底壁52から横壁54に亘って形成されており、基部48の内側と底壁52や横壁54よりも基部48の外側とを連通している。
【0034】
このような構成の基部48は合成樹脂材によって形成された被覆部68により被覆されている。この被覆部68において上述した基部48の横壁50と横壁54との間に対応する空間はスライダ収容部70とされている。また、被覆部68にはウェビング通過孔72が形成されている。ウェビング通過孔72は上述した開口部62の内周部が被覆部68を構成する合成樹脂材により被覆されることで形成されており、被覆部68の内側であるスライダ収容部70と被覆部68の外側とを連通している。
【0035】
また、被覆部68にはウェビング通過孔74が形成されている。ウェビング通過孔74は上述した開口部64の内周部が被覆部68を構成する合成樹脂材により被覆されることで形成されている。但し、ウェビング通過孔74はその貫通方向が横壁54の厚さ方向に沿っており、横壁54の厚さ方向に沿って被覆部68の内側であるスライダ収容部70と被覆部68の外側とを連通している。
【0036】
上述したウェビング16はショルダウェビング34が被覆部68の外側からウェビング通過孔72を通過してスライダ収容部70の内側に入り込み、更に、ウェビング通過孔74を通過して被覆部68の外側に延びた部分がラップウェビング32となっている。
【0037】
上記のスライダ収容部70の内側にはウェビング保持手段としてのスライダ82が設けられている。図5に示されるように、スライダ82は、例えば、金属平板をウェビング16の幅方向を軸方向とする軸周りに湾曲又は屈曲させることで形成されている。このスライダ82の横壁50側は掛け回し部84とされ、ウェビング通過孔72を通過してスライダ収容部70の内側に入り込んだウェビング16が掛け回し部84に掛け回される。これに対して、スライダ82の横壁54側は圧接部としてのスライダ側圧接部86とされている。
【0038】
図2に示されるように、スライダ側圧接部86はスライダ82がスライダ収容部70の底壁52側の面に接した状態でスライダ収容部70の開口側(すなわち、底壁52とは反対側)の端部がウェビング通過孔74よりもスライダ収容部70の開口側に位置している。被覆部68においてウェビング通過孔74よりもスライダ収容部70の開口側に位置して、ウェビング通過孔74の貫通方向にスライダ82のスライダ側圧接部86と対向する部分は本体側圧接部88とされ、このため、掛け回し部84に掛け回されたウェビング16は更にスライダ側圧接部86におけるスライダ収容部70の開口側の部分に掛け回されてウェビング通過孔74へ向かい、本体側圧接部88のウェビング通過孔74側の角部に掛け回されてウェビング通過孔74を通過する。
【0039】
また、このような構成のスライダ82は、スライダ収容部70の内部で横壁54へ接近する方向へスライド可能とされており、横壁54へスライダ82が接近すると、図3に示されるように、スライダ側圧接部86と本体側圧接部88とでウェビング16をクランプする。
【0040】
一方、このスライダ82が設けられたスライダ収容部70の内側にはウェビング保持部材付勢手段としてのスライダ付勢ばね102が設けられている。スライダ付勢ばね102は棒状又は細幅板状の基部104を備えている。基部104はその長手方向がスライダ82の軸方向に対して傾いた状態でスライダ82の内側に設けられ、基部104の長手方向一端部はスライダ82の軸方向端部からスライダ82の外側へ突出している。この基部104の長手方向一端部からは連続して本体側係止片106が形成されている。
【0041】
本体側係止片106はスライダ付勢ばね102を構成する棒材又は細幅板状の板材を基部104の長手方向一端部にて幅方向を軸方向とする軸周りに屈曲又は湾曲させることで形成されている。本体側係止片106はスライダ82の外側で基部104の長手方向一端部から横壁54側へ向けて延びており、スライダ収容部70の内側で被覆部68に形成された係止部に係止されている。これに対して、基部104の長手方向他端部からは連続して圧接片108が形成されている。
【0042】
圧接片108は本体側係止片106と同様にスライダ付勢ばね102を構成する棒材又は細幅板状の板材を基部104の長手方向他端部にて幅方向を軸方向とする軸周りに屈曲又は湾曲させることで形成されている。圧接片108の先端(基部104とは反対側の端部)はスライダ82における掛け回し部84側の内周部に圧接しており、スライダ付勢ばね102はスライダ82を横壁50側(すなわち、スライダ82のスライダ側圧接部86を被覆部68の本体側圧接部88から離間させる向き)へ付勢している。
【0043】
また、図2に示されるように、タング10は全体的に合成樹脂材により形成されたカバー122を備えている。図6に示されるように、カバー122は基部124を備えている。基部124は長手方向がウェビング16の幅方向に沿い、幅方向が横壁50と横壁54との対向方向に沿った平板状に形成されている。基部124の長手方向寸法は被覆部68におけるウェビング16の幅方向に沿った寸法に略等しく、幅方向寸法はスライダ収容部70の開口側における横壁50側から横壁54側までの長さに略等しい。
【0044】
図2に示されるように、カバー122の基部124は、スライダ収容部70に設けられてスライダ収容部70の開口側(底壁52とは反対側)を閉止する。図6に示されるように、基部124の長手方向両端からは底壁52側へ向けて脚板126が延出されている。この脚板126は厚さ方向がウェビング16の幅方向に沿っており、スライダ収容部70におけるウェビング16の幅方向両端を閉止する。このような構成のカバー122は、被覆部68に形成された図示しない嵌合部等に嵌合することで被覆部68に一体的に固定され、スライダ収容部70内のスライダ82やスライダ付勢ばね102を覆い隠している。
【0045】
また、図6に示されるように、このカバー122には互いに対を成すスリット128、130が2組形成されている。一方のスリット128、130の組は基部124の長手方向一端側に形成され、他方のスリット128、130の組は基部124の長手方向他端側に形成されている。スリット128は基部124の幅方向中央よりも幅方向一端側に形成されている。スリット128は長手方向が基部124の長手方向に沿ったスリット状に形成されている。
【0046】
このスリット128は、基部124の端部から更に基部124からの脚板126の延出方向に長手となるように脚板126に連続している。これに対して、スリット130は基部124の幅方向中央よりも幅方向他端側に形成されている。スリット130もスリット128と同様に長手方向が基部124の長手方向に沿ったスリット状に形成され、基部124の端部から更に基部124からの脚板126の延出方向に長手となるように脚板126に連続するように形成されている。
【0047】
スリット128、130の脚板126の部分で、基部124からの脚板126の延出方向側の端部はスリット132により繋がっている。カバー122においてスリット128とスリット130との間は規制手段としての弾性片134とされている。この弾性片134は、基部124の長手方向外側や基部124の厚さ方向一方の側(基部124からの脚板126の延出方向とは反対側)からの外力を受けると、基部124の長手方向中央側における弾性片134の基端部(すなわち、弾性片134がカバー122の本体部分に繋がる部分)を中心にして基部124の幅方向を軸方向とする軸周りに弾性変形できる。このように弾性片134が弾性変形すると、弾性片134における脚板126側の部分が基部124の長手方向中央側へ変位する。
【0048】
この弾性片134には規制突起136が形成されている。規制突起136は弾性片134における脚板126側の部分から基部124の長手方向中央側へ突出形成されている。図7の(A)に示されるように、規制突起136は基部124の長手方向及びスライダ82の軸方向にスライダ82の軸方向端部と対向しており、図7の(B)に示されるように、スライダ82が横壁54側へスライドしていない状態では、弾性片134における脚板126側の部分が基部124の長手方向中央側へ変位すると規制突起136がスライダ82の軸方向端部からスライダ82の内側へ入り込む。
【0049】
このように、規制突起136がスライダ82の内側へ入り込んだ状態では、スライダ82の内面における掛け回し部84側の部分に対して横壁54側で規制突起136が対向し、この状態でスライダ82が横壁54側へスライドしようとするとスライダ82の内面における掛け回し部84側の部分に規制突起136が干渉する。
【0050】
<本実施の形態の作用、効果>
次に、本実施の形態の作用並びに効果について説明する。
【0051】
本タング10を適用したシートベルト装置12では、シート20のシートクッション28に着座した乗員30が身体にウェビング16を装着する際には、先ず、タング10を把持した状態でタング10と共にウェビング16を引っ張る。このウェビング16の引っ張りによりウェビング巻取装置14のスプールからウェビング16が引出される。このようにして引出されたウェビング16を乗員30が身体の前方でウェビング16を身体に掛け回し、この状態でタング10の挿込部44をバックル26に挿し込むと、バックル26によるタング10の保持状態となり、乗員30の身体に対するウェビング16の装着状態になる。
【0052】
この乗員30の身体に対するウェビング16の装着状態では、ウェビング16におけるタング10とアンカ22との間の部分がラップウェビング32とされ、乗員30の腰部がシート20の前方や上方からラップウェビング32によって拘束される。これに対して、ウェビング16におけるタング10とショルダアンカ18との間の部分はショルダウェビング34とされ、乗員30の肩部や胸部がシート20の前方からショルダウェビング34によって拘束される。
【0053】
このウェビング16の装着状態で、例えば、車両が急減速すると乗員30の身体によってウェビング16におけるラップウェビング32及びショルダウェビング34の双方がシート20の前方へ引っ張られる。このようにラップウェビング32及びショルダウェビング34が引っ張られると、タング10のスライダ収容部70の内側では、ウェビング16がスライダ82の掛け回し部84を横壁54側へ引っ張る。このようにウェビング16から掛け回し部84に付与された力がスライダ付勢ばね102の付勢力を上回ると、スライダ82が横壁54側へスライドする。
【0054】
このようにスライダ82が横壁54側へスライドすると、ウェビング16のスライダ側圧接部86と対向する面がスライダ側圧接部86に押圧され、ウェビング16の幅方向軸方向とする軸周りにウェビング16が屈曲しつつスライダ82のスライダ側圧接部86と被覆部68の本体側圧接部88との間に挟み込まれる。このようにして、スライダ82のスライダ側圧接部86と被覆部68の本体側圧接部88とでウェビング16をその厚さ方向両側から挟み込んでウェビング16をクランプすること(ウェビング16を保持すること)により、ウェビング16におけるショルダウェビング34側の部分がスライダ収容部70を通過してラップウェビング32側へ移動することを防止又は抑制できる。
【0055】
ところで、上述したように、乗員30が身体にウェビング16を装着する際には、タング10を把持してタング10と共にウェビング16を引っ張る。このようにタング10が把持されることでカバー122の弾性片134のうち基部124側の部分が底壁52側へ押圧されたり、弾性片134の脚板126側の部分が基部124の長手方向中央側へ押圧されたりすると、弾性片134はその基端部を中心に弾性変形する。
【0056】
このように弾性片134が弾性変形すると、弾性片134における脚板126側の部分が基部124の長手方向中央側へ変位し、規制突起136がスライダ82の軸方向端部からスライダ82の内側へ入り込む。このように、規制突起136がスライダ82の内側へ入り込んだ状態では、スライダ82の内面における掛け回し部84側の部分に対して横壁54側で規制突起136が対向し、この状態でスライダ82が横壁54側へスライドしようとするとスライダ82の内面における掛け回し部84側の部分に規制突起136が干渉する。
【0057】
このため、この状態では、スライダ82の横壁54側への変位が規制され、ウェビング16がスライダ82の掛け回し部84に力を付与しても、スライダ82が横壁54側へスライドすることが規制され、スライダ側圧接部86が本体側圧接部88と共にウェビング16をクランプすることができない。このため、このように規制突起136でスライダ82のスライドを規制することにより、ウェビング16を身体に装着する際に、ウェビング16はスライダ側圧接部86と本体側圧接部88との間を容易に通過でき、円滑にウェビング16を引出してタング10の挿込部44をバックル26に挿し込み、ウェビング16を身体に装着できる。
【0058】
また、このように、乗員30がウェビング16を身体に装着する際に、規制突起136でスライダ82のスライドを規制できるので、スライダ付勢ばね102の付勢力は、例えば、乗員30がタング10と共にウェビング16を引っ張る前の状態で、スライダ側圧接部86と本体側圧接部88とでウェビング16をクランプしないようにスライダ82を横壁54から離間させておくことができる程度でよい。このように、スライダ付勢ばね102の付勢力を小さく設定できるので、上述したような車両急減速時にスライダ82を素早くスライドさせてウェビング16を素早くクランプすることができる。
【0059】
なお、本実施の形態では、スライダ側圧接部86と本体側圧接部88とでウェビング16をクランプする構成であったが、スライダ側圧接部86と本体側圧接部88との間隔がウェビング16の厚さ寸法と同じになるまでスライダ82が横壁54へ接近しないようにスライダ82のスライドを規制するスライド規制手段を設け、スライダ側圧接部86と本体側圧接部88とでウェビング16をクランプせずに、スライダ82が底壁52側へスライドすることで、スライダ側圧接部86がウェビング16の厚さ方向一方の面に圧接してスライダ収容部70内におけるウェビング16の通過経路を変更すると共に、ウェビング16の幅方向を軸方向とするウェビング16の屈曲角度を増加させることでウェビング16のショルダウェビング34側がラップウェビング32側へ移動することを規制する構成であってもよい。
【0060】
また、本実施の形態では、図2や図3に示されるように、スライダ82の断面形状はスライダ収容部70の開口側へ向けて開口した略C字形状であった。しかしながら、スライダ82の断面形状がこのような形状に限定されるものではない。例えば、スライダ82を筒形状(すなわち、断面形状がその周方向に連続した環状)であってもよい。
【符号の説明】
【0061】
10 タング
12 シートベルト装置
16 ウェビング
20 シート
26 バックル
30 乗員
32 ラップウェビング
34 ショルダウェビング
40 タング本体
82 スライダ(ウェビング保持部材)
84 掛け回し部
86 スライダ側圧接部(圧接部)
122 カバー
134 弾性片(規制手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウェビングの中間部が通過し、バックルに装着されることで前記バックルに保持されるタング本体と、
前記ウェビングが掛け回される掛け回し部を有すると共に、前記ウェビングにおける前記タング本体の所定部位とは反対側に圧接部が前記掛け回し部とは別に設定され、前記掛け回し部に付与された前記ウェビングの張力により前記所定部位に前記圧接部が接近する方向へ移動して前記圧接部が前記ウェビングに圧接して前記所定部位と共に前記ウェビングのその長手方向に沿った移動を規制するウェビング保持部材と、
前記ウェビング保持部材の側方で前記ウェビング保持部材に対して接近する向きへ移動可能に前記タング本体に設けられ、前記ウェビング保持部材に接近した状態では前記圧接部が前記タング本体の前記所定部位に接近する際の前記ウェビング保持部材の移動方向側から前記ウェビング保持部材に係合して前記圧接部が前記タング本体の前記所定部位に接近する方向への前記ウェビング保持部材の移動を規制する規制手段と、
持部材の移動を規制する規制手段と、
を備えるタング。
【請求項2】
前記ウェビングの幅方向端部側から前記ウェビングの幅方向中央側へ移動可能に前記規制手段を構成し、前記ウェビングの幅方向中央側へ前記規制手段が移動することで前記ウェビング保持部材における前記ウェビングの幅方向端部に係合して前記圧接方向への前記ウェビング保持部材の移動を規制する請求項1に記載のタング。
【請求項3】
前記タング本体に装着されて前記ウェビング保持部材を覆い隠すカバーを備え、前記カバーに対して前記ウェビング保持部材へ接近する向きに移動可能に前記カバーに前記規制手段を設けた請求項1又は請求項2に記載のタング。
【請求項4】
先端側が車両用のシートにおける乗員の着座位置の側方で前記シート又は車両の車体に直接又は間接的に係止されたウェビングと、
前記着座位置を介して前記ウェビングの先端側の係止位置とは反対側に設けられたバックルと、
前記請求項1から前記請求項3の何れか1項に記載のタングと、
を備えるシートベルト装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−107603(P2013−107603A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−256596(P2011−256596)
【出願日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【出願人】(000003551)株式会社東海理化電機製作所 (3,198)
【Fターム(参考)】