説明

タンタルコンデンサのリサイクル方法

【課題】使用済みプリント基板からタンタルコンデンサを高濃縮産物として回収可能とする。
【解決手段】使用済みプリント基板から基板上に実装された素子類を破砕機により剥離して回収する剥離工程と、剥離工程で剥離回収した素子類を篩で篩分け選別することによりタンタルコンデンサと同じ寸法範囲0.71mm〜4.75mmの粒子を回収する一次濃縮工程と、一次濃縮産物から比重選別によりタンタルコンデンサと同じ比重範囲2.8〜4.3のものを回収する二次濃縮工程と、二次濃縮産物から、0.024Tの弱い磁選により非磁着物を回収してタンタルコンデンサの高濃縮産物とする三次濃縮工程と、からなることを特徴とするタンタルコンデンサのリサイクル方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子部品のリサイクル方法に関し、特に、タンタルコンデンサのリサイクル方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
タンタルは貴金属に次ぐ高価な金属であり、レアメタルの中で最も高価な金属の一つである。タンタルを主成分とする電子部品であるタンタルコンデンサは、小型で大容量を特徴とし、パソコン、携帯電話、デジカメ、カーオーディオなど多くの小型電気・電子機器類のプリント基板上に実装されている。
従来、プリント基板のリサイクルに関する技術の多くは、特許文献1〜3のように、銅や貴金属を対象とした金属と、ガラスエポキシ樹脂を構成するガラス及び樹脂などの非金属との分離に関する技術が知られていた。また、特許文献4〜6のように、使用済みのプリント基板から破砕機を利用して基板上の素子類を剥離する技術も知られているが、特に、タンタルコンデンサに着目したものはなかった。唯一、特許文献7に、タンタルコンデンサ製造工程で発生するタンタル粉末を回収する技術が知られているが、この技術は、使用済みのプリント基板から、基板に実装された素子類の中からタンタルコンデンサを回収してリサイクルすることに利用できるものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−170276号公報
【特許文献2】特開平7−251154号公報
【特許文献3】特開平11−76980号公報
【特許文献4】特開平11−26918号公報
【特許文献5】特開2000−294919号公報
【特許文献6】特開2003−10706号公報
【特許文献7】特開2004−115867号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
使用済みのプリント基板上の素子類を剥離した破砕物中に占めるタンタルコンデンサの割合は非常に低く、タンタルコンデンサを比較的多く使用しているパソコンサーバーなどでも、全破砕物重量の数%程度でしかない。また、破砕物には類似の大きさ、形状をした他の素子類が多数混在しており、選別によりこれらの中から的確にタンタルコンデンサのみを回収するには、タンタルコンデンサと他の素子類の物性の差を詳細に見極めた選別プロセスの構築が課題となる。本発明では、使用済みのプリント基板上の素子類を剥離した破砕物に対して、汎用機器のみを利用して、スクリーニング(篩分け)、比重選別、磁選の3つのプロセスで、タンタルコンデンサの高濃縮産物を得るタンタルコンデンサのリサイクル方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明のタンタルコンデンサのリサイクル方法では、使用済みのプリント基板から実装された素子類を剥離する剥離工程の後、タンタルコンデンサの物性に着目し、一次濃縮工程として篩分け選別を採用し、二次濃縮工程として比重選別を採用し、三次濃縮工程として磁選による選別を採用して、タンタルコンデンサの高濃縮産物を得るものである。
本発明のタンタルコンデンサのリサイクル方法は、使用済みプリント基板から基板上に実装された素子類を破砕機により剥離して回収する剥離工程と、剥離工程で剥離回収した素子類を篩で篩分け選別することによりタンタルコンデンサと同じ寸法範囲の粒子を回収する一次濃縮工程と、一次濃縮産物から比重選別によりタンタルコンデンサと同じ比重範囲のものを回収する二次濃縮工程と、二次濃縮産物から、弱い磁選により非磁着物を回収してタンタルコンデンサの高濃縮産物とする三次濃縮工程と、からなることを特徴とする。
また、本発明の方法は、上記タンタルコンデンサと同じ寸法範囲は、0.8mm〜4.3mm又は0.71mm〜4.75mmであることを特徴とする。
また、本発明の方法は、上記タンタルコンデンサと同じ比重範囲は、比重2.8〜4.3であることを特徴とする。
また、本発明の方法は、上記弱い磁選は、剥離工程でリード線部をタンタルコンデンサ側に付着した状態で剥離したタンタルコンデンサを磁着せずに非磁着物として選別するための磁束密度0.024T程度であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
タンタルコンデンサを実装する多くの小型電気・電子機器内の使用済みプリント基板から、汎用機器を組み合わせた工程のみにより、容易にタンタルコンデンサの高濃縮産物を回収することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】図1は、代表的なタンタルコンデンサの寸法範囲を示した説明図である。
【図2】図2は、パソコンサーバーの使用済みプリント基板から回収されたタンタルコンデンサの粒度分布を示す。
【図3】図3は、本発明のタンタルコンデンサのリサイクル方法を、パソコンサーバーに適用した実施例。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明のタンタルコンデンサのリサイクル方法は、使用済みのプリント基板から基板上に実装された素子類を剥離する剥離工程の後、タンタルコンデンサの物性に着目し、一次濃縮工程として篩分け選別を採用し、二次濃縮工程として比重選別を採用し、三次濃縮工程として磁選による選別を採用することにより、使用済みプリント基板からタンタルコンデンサの高濃縮産物を得るものである。
【0009】
使用済みのプリント基板から基板上に実装された素子類を剥離する剥離工程については、例えば、上記特許文献4〜6にも示されているように、汎用の破砕機を用いれば十分である。発明者らは、10mm幅のスリット状スクリーンを備えた市販のハンマクラッシャ(吉田製作所製1018−B型)を用いて1分間程度破砕したところ、ガラスエポキシ基板から大部分の素子類が剥離したことを確認した。このように、プリント基板より素子類を剥離するには、破砕機などの既存の方法で実現が可能である。
【0010】
次に、剥離回収した素子類の中からタンタルコンデンサを一次濃縮する工程について説明する。
気流選別など粒子の比重に基づいた選別方法で濃縮するには、事前に狭い粒度幅に粒子サイズを揃えておくことが、効率よく濃縮を行う上で重要である。したがって、比重による選別を行う前に、サイズで選別しておく必要があり、このサイズで選別する工程を一次濃縮工程とする。
タンタルコンデンサのサイズはメーカーにより多少異なるものの、代表的なサイズを挙げると、図1に示した寸法範囲(W=0.8〜4.3mm、H=0.8〜2.8mm、L=1.6〜7.3mmの直方体)に収まる。そうすると、スクリーニング(篩分け)では、最も小さな面のサイズに基づいて分離がなされるので、図1で斜線の付された面のサイズ(H=0.8〜2.8mm、W=0.8〜4.3mm)が分離の基準となる。すなわち、篩の目開き0.8mm〜4.3mmで篩分けすれば、ほぼすべてのタンタルコンデンサが篩分けにより配分される。なお、標準篩を用いる場合には、このようなサイズはないので、標準篩を用いる場合は目開き0.71mm〜4.75mmで篩分けすることとなり、0.71mm角の穴サイズの篩と4.75mm角の穴サイズの篩とを用いて0.71mm〜4.75mmの粒子を篩分け選別すればよい。
上記タンタルコンデンサのサイズについては、すべての小型電気・電子機器に含まれるタンタルコンデンサを対象とした場合であるが、使用済みのプリント基板が特定の種類の機器を対象としたものであって、使用されているタンタルコンデンサが特定のサイズのものに限定される場合には、それに応じた目開きで篩分けすればよい。
【0011】
次に、篩分けによって一次濃縮された素子類を、比重により選別する二次濃縮工程について説明する。
既に、上記一次濃縮工程の篩分けにより概ねサイズが揃っているから、精度の良い比重分離が期待できる。ここで、プリント基板から剥離された素子類の比重を調べたところ、基板の破砕物、コネクタ類、ICなどの樹脂を主成分とするものや、ケミカルコンデンサのようにアルミニウムを主成分とするものは、概ね、比重1.5〜2.5の範囲に分布し、セラミックコンデンサ、サーミスタ、コイル、銅線、ジャンパピンなど、鉄や銅など重い金属を主体とするものは、比重6.0以上であった。そして、その中間の比重を有するものは、チップ抵抗、タンタルコンデンサ、水晶振動子などに限られ、これらは比重2.8〜4.3の範囲に分布した。このことから、種々の比重選別方法により、この比重2.8〜4.3の範囲である中間比重群を回収すれば、タンタルコンデンサをさらに濃縮することができる。
【0012】
次に、三次濃縮工程について説明する。
上記二次濃縮工程で回収された中間比重群のうち、水晶振動子は鉄を主成分とする素子といえるので極めて磁着しやすい。そこで、弱い力で磁選すれば、水晶振動子が磁着物として除去することができ、非磁着物を回収すればタンタルコンデンサが濃縮されることとなる。
ここで、弱い力の磁選としたのは、次のような理由による。すなわち、剥離工程において、タンタルコンデンサのリード線部分は、プリント基板側に残って剥離される場合と、タンタルコンデンサ側に残って剥離される場合とが生じる。したがって、強い磁選を行うと、剥離工程でプリント基板から剥離したタンタルコンデンサのうち、リード線部分をタンタルコンデンサ側に残して剥離したタンタルコンデンサまでもが水晶振動子とともに磁着産物として除去されてしまうからである。
【0013】
以上のように、本発明では、使用済みプリント基板から基板上に実装された素子類を剥離する剥離工程と、剥離した素子類から篩分け選別により0.8mm〜4.3mm又は0.71mm〜4.75mmの粒子を回収する一次濃縮工程と、一次濃縮産物から比重選別により比重2.8〜4.3のものを回収する二次濃縮工程と、二次濃縮産物を弱い磁選により非磁着物を回収する三次濃縮工程とにより、使用済みプリント基板からタンタルコンデンサの高濃縮産物を得ることができ、タンタルコンデンサのリサイクル方法が実現できる。
【実施例】
【0014】
以下に、パソコンサーバー(PCサーバー)の使用済みプリント基板から、タンタルコンデンサを回収する場合の実験例を示す。図2は、比較的大型のタンタルコンデンサのみが使用されたPCサーバーのプリント基板から剥離回収された素子類における、タンタルコンデンサの篩分け粒度分布を示したものであり、縦軸が重量割合(%)、横軸が篩分け粒度(mm)である。図2より、このケースでは2.8mm〜4.75mmに全タンタルコンデンサの97%が存在した。そこで剥離した素子類から、一次濃縮工程として、2.8mm〜4.75mmの粒子をスクリーニング(篩分け)により回収し一次濃縮産物とした。このPCサーバーのプリント基板から回収された全素子類に占めるタンタルコンデンサの重量割合は3.4%であったが、2.8mm〜4.75mmにスクリーニング(篩分け)されたのちは、タンタルコンデンサの重量割合は23.3%に増大した。なお、破砕時の状態により、例えば、基板部品の一部分が付着したり、タンタルコンデンサのリード線が変形するなどによって、図2では4.75mm以上の粒群にも若干存在したが、その量は無視できる程度である。
ところで、上記のとおり、図1の断面サイズにあわせ、スクリーニング(篩分け)で0.71mm〜4.75mmの粒子を回収すれば、種々の製品のプリント基板が混在する場合においても高い回収率でタンタルコンデンサを回収することが出来るが、その分、スクリーリングによる濃縮の程度は低下する。一方、この実験例のように、特定の製品から回収されたタンタルコンデンサを対象とすれば、例えば、2.8mm〜4.75mmに回収粒度を限定することにより、濃縮効果は一層増大する。
なお、選別工程では、初期段階で磁選を行う場合がしばしばあるが、プリント基板から剥離されたタンタルコンデンサに対して磁選を実施すると、タンタルコンデンサのリード線部分が磁着するため、リード線が付いたまま剥離したものと、リード線をプリント基板側に残して剥離したものとに分離される。すなわち、タンタルコンデンサが磁着側と非磁着側に分割されてしまう。このことから、選別プロセスの最初には、磁選を実施せずに、スクリーニングを行うことが重要である。
【0015】
次に、2.8mm〜4.75mmの一次濃縮産物に対して、二次濃縮工程として比重選別を実施した。ここでは、大量かつ簡便に比重分離が可能な縦型気流選別機を使用した。その結果、まず、流速11m/s〜14m/sの上昇気流中で分離することにより、比重2.5以下の軽産物をオーバーフローさせて除去することができた。次いで、22〜24m/sの流速を持つ(上昇)気流中で分離することにより、比重6.0以上を重産物として残し、中間比重群をオーバーフローさせて二次濃縮産物として回収することができた。例えば、1回目に12.4m/s、2回目に23.6m/sで分離した場合、最終的に回収された二次濃縮産物中のタンタルコンデンサの重量割合は74.9%まで向上し、気流選別におけるタンタルコンデンサの回収率は97.7%となった。
なお、本実施例の場合は、タンタルコンデンサと同じ比重範囲2.8〜4.3の中間比重群より比重の軽い軽産物に含まれる素子類の比重は、2.5以下のものしかなく、逆に中間比重群より比重の重い重産物に含まれる素子類の比重は、6.0以上のものしかなかったので、比重選別は、上記のとおり、比重2.5以下のものを軽産物としてオーバーフローさせて除去し、比重6.0以上のものを重産物として残留させて除去すれば十分である。
【0016】
次に、二次濃縮産物に対して、三次濃縮工程の磁選を実施した。
上記二次濃縮工程で濃縮された二次濃縮産物について、タンタルコンデンサ以外の成分(25.1%分に相当)について調べてみた。この実験で使用した試料のチップ抵抗は1mm〜2.38mmの粒群に全てが存在し、2.8mm〜4.75mmの粒群には全く存在しなかった。したがって、タンタルコンデンサ以外の主要成分は、比重が類似している水晶振動子であった。水晶振動子は鉄を主成分とする素子であり、磁選によって容易に磁着分離が可能である。ここで、回収された二次濃縮産物に対し磁束密度0.024Tの非常に弱い磁力で磁選を実施した結果、タンタルコンデンサはほとんど磁着産物に含まれず、磁着力の強い水晶振動子のみが磁着産物に含まれていた。そこで、この弱い磁選の非磁着産物を回収してタンタルコンデンサの3次濃縮産物とすると、タンタルコンデンサの重量割合は85.0%まで向上し、磁選におけるタンタルコンデンサの回収率は98.2%となった。
【0017】
以上のように、タンタルコンデンサ品位(重量割合)3.4%の破砕素子類を、図3に示すスクリーニング(篩分け)−気流選別−磁選の3つの濃縮工程により、タンタルコンデンサ品位85.0%まで向上させることが出来た。また、3つの濃縮工程を合わせたタンタルコンデンサの回収率は92.8%となり、損失分はわずか7.2%であった。
【0018】
なお、上記実験をノートPCやハードディスクドライブ中のプリント基板から剥離回収された素子類に対しても実施したところ、同様の工程で、ノートPCでは、タンタルコンデンサ品位1.8%から回収率82.3%で品位82.6%に向上し、また、ハードディスクドライブでは、タンタルコンデンサ品位4.5%から回収率92.8%で品位が94.8%まで向上した。
ここでは3製品の選別例について示したが、製品に応じて、タンタルコンデンサの含有率やサイズ分布が異なり、それによって品位向上の効果や回収率が変わることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0019】
実施例として、PCサーバー、ノートPC、ハードディスクの使用済みプリント基板からタンタルコンデンサを回収する例を示したが、本発明は、タンタルコンデンサを実装したプリント基板を有する製品であれば、どのような製品のプリント基板であっても適用できる。
また、予め、プリント基板に実装されているタンタルコンデンサの大きさや比重が予め限定できる場合には、一次濃縮工程の篩分け選別により回収する粒子の数値範囲を縮小し、二次濃縮工程の比重選別により回収する比重の数値範囲を縮小して行えば、品位向上の効果や回収率の向上の効果が期待できる。
なお、一次濃縮工程の篩分け選別や二次濃縮工程の比重選別は、他のチップ型電子部品のリサイクルにも利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用済みプリント基板から基板上に実装された素子類を破砕機により剥離して回収する剥離工程と、
剥離工程で剥離回収した素子類を篩で篩分け選別することによりタンタルコンデンサと同じ寸法範囲の粒子を回収する一次濃縮工程と、
一次濃縮産物から比重選別によりタンタルコンデンサと同じ比重範囲のものを回収する二次濃縮工程と、
二次濃縮産物から、弱い磁選により非磁着物を回収してタンタルコンデンサの高濃縮産物とする三次濃縮工程と、
からなることを特徴とするタンタルコンデンサのリサイクル方法。
【請求項2】
前記タンタルコンデンサと同じ寸法範囲は、0.8mm〜4.3mm又は0.71mm〜4.75mmであることを特徴とする請求項1記載のタンタルコンデンサのリサイクル方法。
【請求項3】
前記タンタルコンデンサと同じ比重範囲は、比重2.8〜4.3であることを特徴とする請求項1又は2記載のタンタルコンデンサのリサイクル方法。
【請求項4】
前記弱い磁選は、剥離工程でリード線部をタンタルコンデンサ側に付着した状態で剥離したタンタルコンデンサを磁着せずに非磁着物として選別するための磁束密度が0.024T程度であることを特徴とする請求項1ないし3記載のタンタルコンデンサのリサイクル方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2010−214352(P2010−214352A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−67625(P2009−67625)
【出願日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】