説明

タンデム圧延機の板厚制御装置及び板厚制御方法

【課題】タンデム圧延機にて、圧延材の先端における下流側圧延スタンドの出側板速度を正確に求めて、上流側圧延スタンドの出側板厚を推測し、迅速に且つ正確に上流側圧延スタンドの出側板厚を目標値に制御する。
【解決手段】本発明に係るタンデム圧延機1は、圧延材Wの先端部の通過を検知する第1の板先端検出器8と、第1の板先端検出器8の下流側に配備されると共に圧延材Wの先端部の通過を検知する第2の板先端検出器9と、両板先端検出器8,9による圧延材W先端の検出時刻及び両板先端検出器8,9間の距離Lとから板速度を求める板速度演算部15と、板速度演算部15から得られた板速度に基づき、上流側圧延スタンド2の出側板厚を求めるマスフロー板厚演算部14と、マスフロー板厚演算部14により算出された上流側圧延スタンド2の出側板厚が目標値と一致するように上流側圧延スタンド2を制御する板厚制御部13とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンデム圧延機を用いて圧延材を圧延するに際し、上流側圧延スタンドの出側板厚を精確に目標値に制御することのできる板厚制御装置及び板厚制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、薄鋼板や薄アルミ板等の圧延材は、複数の圧延スタンドを有するタンデム圧延機により熱間圧延や冷間圧延で製造されている。これら圧延材の最終製品の評価基準のひとつとして板厚があり、圧延スタンドの出側板厚を目標板厚に追従させるために、様々な制御技術が開発されている。
ところで、タンデム圧延機において高品質の製品を製造するためには、各圧延スタンドの出側板厚を高精度に制御する必要がある。そのためには、全ての圧延スタンドの出側に板厚計が設置されていることが好ましい。しかしながら、設置場所の制約やメンテナンス上の問題から、各圧延スタンドの出側に板厚計が配備されていることは希である。
【0003】
板厚計が設置されていない圧延スタンドの出側板厚を目標値に制御するためには、当該出側板厚を推定する必要があり、比較的精確に推定できる手法として、マスフロー一定則を利用するものがある(特許文献1を参照)。
特許文献1は、被圧延材を圧延する複数の圧延スタンドを有する連続圧延機の板厚制御装置において、前記被圧延材の先端が最終圧延スタンド出側に配置された板厚計に達した後に該板厚計の計測値を用いて、圧延中の時々刻々に前記各圧延スタンドにおけるゲージメータ板厚誤差を推定する誤差推定手段と、このゲージメータ板厚誤差に基づいて圧延中の前記各圧延スタンドのゲージメータ式を時々刻々に補正する補正手段とを備えた板厚制御装置を開示する。さらに、ゲージメータ板厚誤差を推定する誤差推定手段は、圧延中のある瞬間に最終圧延スタンド出側に配置された板厚計により検出された実績板厚とその瞬間のロール速度からマスフロー式により各圧延スタンド直後のマスフロー板厚を求めるマスフロー板厚演算手段と、同じ瞬間の前記各圧延スタンドのロール開度と圧延力からゲージメータ式により各圧延スタンド出側でのゲージメータ板厚を求めるゲージメータ板厚演算手段とを備え、前記求めたマスフロー板厚と前記ゲージメータ板厚の差を各圧延スタンドのゲージメータ板厚誤差として圧延中の時々刻々において算出することを開示している。
【0004】
すなわち、特許文献1に開示されている板厚制御装置は、タンデム圧延機における各圧延スタンドの出側におけるゲージメータ板厚とマスフロー板厚を求め、圧延材の同一点におけるゲージメータ板厚とマスフロー板厚の差をゲージメータ板厚誤差として求め、ゲージメータ式を時々刻々補正する補正手段を備えたものとなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3355089号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
タンデム圧延機に備えられた上流側圧延スタンドと下流側圧延スタンドにおいて、圧延材の先端部が通過する場合を考える。この際、上流側圧延スタンドの出側には板厚計が設備制約により設置されておらず、上流側圧延スタンドの出側板厚をマスフロー一定則を利用して求めることとする。斯かる状況は多くのタンデム圧延機で起こり得るものである。なお、上流側圧延スタンドと下流側圧延スタンドは隣接していてもよく、離れていて(非隣接)であってもよい。
【0007】
上流側圧延スタンドの出側板厚(マスフロー板厚)を求めるには、上流側圧延スタンドの出側板速度に加えて、下流側圧延スタンドの出側板厚、下流側圧延スタンドの出側板速度が必要である。
上流側圧延スタンドの出側板速度は、上流側圧延スタンドの出側に設けられた板速度計で計測でき、下流側圧延スタンドの出側板厚は、下流側圧延スタンドの出側に設けられた板厚計で計測することが可能である。ところが、下流側圧延スタンドの出側板速度を計測する板速度計は、設置スペースを確保することが難しいなどの問題から、下流側圧延スタンドより離れた下流側に設置されることが多い。圧延工程では、製品の出側板厚を知ることが最重要視されるため、下流側圧延スタンドの出側近傍に板厚計を設置することは必須とされる。それ故、下流側圧延スタンドの板速度計は、どうしても下流側遠方に配備されることになる。
【0008】
そのため、圧延材の先端部を圧延するに際し、板先端が板速度計の設置位置に達するまでは下流側圧延スタンドの出側板速度を得られず、マスフロー板厚を求めることができないといった問題が発生していた。
加えて、板速度計をロール接触式(圧延材が接触するロールの回転速度により板速度を計測する方式)とした場合、ロール回転速度が板速度に一致し正確に計測できるまでに時間がかかるなど、板速度計の応答性が低いといった問題も考えなくてはならない。
【0009】
これらの問題に対して、特許文献1は何ら解決の手段を開示するものとなっていない。
そこで、本発明は、上記問題点を鑑み、下流側圧延スタンドの出側に位置する板速度計が当該下流側圧延スタンドから遠い位置にある場合や、板速度計自体の応答性が低い場合においても、圧延材の先端部における下流側圧延スタンドの出側板速度を精確に求め、上流側圧延スタンドの出側板厚を推測し、迅速に且つ精確に上流側圧延スタンドの出側板厚を目標値に制御する板厚制御装置及び板厚制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述の目的を達成するため、本発明においては以下の技術的手段を講じた。
本発明に係るタンデム圧延機の板厚制御装置は、上流側圧延スタンドと下流側圧延スタンドとを有するタンデム圧延機に設けられた板厚制御装置であって、前記下流側圧延スタンド以降に配備され且つ圧延材の先端部の通過時刻を検知する第1の板先端検出器と、前記第1の板先端検出器の下流側に配備され且つ圧延材の先端部の通過時刻を検知する第2の板先端検出器と、前記第1の板先端検出器による通過時刻t、第2の板先端検出器による通過時間t、及び第1の板先端検出器〜第2の板先端検出器の距離Lから、下流側圧延スタンドの出側での板速度を求める板速度演算部と、前記板速度演算部にて求められた板速度に基づき、マスフロー一定則により上流側圧延スタンドの出側板厚を求めるマスフロー板厚演算部と、前記マスフロー板厚演算部により算出された上流側圧延スタンドの出側板厚が目標値と一致するように上流側圧延スタンドを制御する板厚制御部と、を有することを特徴とする。
【0011】
好ましくは、前記第1の板先端検出器が下流側圧延スタンドとされ、前記第2の板先端検出器が下流側圧延スタンドの出側に設けられた板厚計とされているとよい。
好ましくは、前記圧延材の先端部が第2の板先端検出器を通過した後において、前記板速度演算部は、予め設定した先進率変化モデルから算出された下流側圧延スタンドでの先進率の変化量と前記下流側圧延スタンドのロール速度とを基に、下流側圧延スタンドの出側板速度を算出するように構成されているとよい。
【0012】
好ましくは、前記下流側圧延スタンドの圧下位置を用いて、前記先進率の変化量を算出するように構成されているとよい。
好ましくは、前記圧延材の先端部が第2の板先端検出器の下流側に配備された板速度計を通過した後には、前記板速度演算部にて算出された出側板速度に代えて、前記板速度計で計測された出側板速度をマスフロー板厚演算部で用いる下流側圧延スタンドの出側板速度とするように構成されているとよい。
【0013】
本発明に係るタンデム圧延機の板厚制御方法は、上流側圧延スタンドと下流側圧延スタンドとを有するタンデム圧延機に用いられる板厚制御方法であって、前記下流側圧延スタンド以降に配備され且つ圧延材の先端部の通過時刻を検知する第1の板先端検出器と、前記第1の板先端検出器の下流側に配備され且つ圧延材の先端部の通過時刻を検知する第2の板先端検出器とを予め設けておき、前記第1の板先端検出器による通過時刻t、第2の板先端検出器による通過時間t、及び第1の板先端検出器〜第2の板先端検出器の間の距離Lから、下流側圧延スタンドの出側での板速度を求め、求められた板速度に基づき、マスフロー一定則により上流側圧延スタンドの出側板厚を求め、求められた出側板厚が目標値と一致するように上流側圧延スタンドを制御することを特徴とする。
【0014】
好ましくは、前記第1の板先端検出器を下流側圧延スタンドとし、前記第2の板先端検出器を下流側圧延スタンドの出側に設けられた板厚計とするとよい。
好ましくは、前記圧延材の先端部が第2の板先端検出器を通過した後においては、予め設定した先進率変化モデルから算出された下流側圧延スタンドでの先進率の変化量と、前記下流側圧延スタンドのロール速度とを基に、下流側圧延スタンドの出側板速度を算出するとよい。
【0015】
好ましくは、前記下流側圧延スタンドの圧下位置を用いて、前記先進率の変化量を算出するとよい。
好ましくは、前記圧延材の先端部が第2の板先端検出器の下流側に配備された板速度計を通過した後には、前記求められた板速度に代えて、前記板速度計で計測された出側板速度を下流側圧延スタンドの出側板速度とするとよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の板厚制御装置及び板厚制御方法を用いることで、下流側圧延スタンドの出側に位置する板速度計が当該下流側圧延スタンドから遠い位置にある場合や、板速度計自体の応答性が低い場合においても、圧延材の先端部における下流側圧延スタンドの出側板速度を精確に求め、上流側圧延スタンドの出側板厚を推測し、迅速に且つ精確に上流側圧延スタンドの出側板厚を目標値に制御することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る板厚制御装置を示したブロック図である。
【図2】板先端検出器による板厚検出の状況を示した図である。
【図3】本発明に係る板厚制御方法のフローチャートである。
【図4】本発明に係る板厚制御方法を用いて板厚制御を行った結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を、タンデム圧延機1(連続圧延機)を例示しつつ図を基に説明する。
本発明の板厚制御装置18は、このタンデム圧延機1に備えられるものとなっている。なお、以下の説明では、同一の部品には同一の符号を付してある。それらの名称および機能も同じである。したがってそれらについての詳細な説明は繰返さない。
【0019】
図1は、複数の圧延スタンドと圧延後の圧延材Wを巻き取るコイル巻き取り機とを備えたタンデム圧延機1、特に、最終側の2つの圧延スタンド(上流側圧延スタンド2、下流側圧延スタンド3)を模式的に示した図である。
下流側圧延スタンド3は、上下一対の圧延ロール4(ワークロール)とそれぞれの圧延ロール4をバックアップするバックアップロール5を備える。圧延スタンドの圧延ロール4は、圧下位置制御部12によりその圧下位置が変更可能となっていて、ギャップ量が可変とされている。
【0020】
上流側圧延スタンド2は、下流側圧延スタンド3とほぼ同じ構成を有しており、圧下位置制御部11により、圧延ロール4の圧下位置が変更可能となっている。
下流側圧延スタンド3の出側には、圧延材Wの板厚を検出する板厚計10が設けられている。下流側板厚計10のさらに下流側には、圧延材Wの速度を計測する板速度計(下流側板側計7)が設けられている。この下流側板側計7はロール式であり、圧延材Wに接するロールの回転速度を基に圧延材Wの板速度を計測するものである。板厚計10は下流側圧延スタンド3の下流側約1m程度の位置に配備されているが、下流側板側計7は出側5m程度の遠方に配備される。
【0021】
上流側圧延スタンド2の出側、すなわち上流側圧延スタンド2と下流側圧延スタンド3の間にもロール式の板速度計(上流側板速度計6)が設けられ、上流側圧延スタンド2の出側の板速度を計測可能としている。
このタンデム圧延機1においては、圧延材Wは複数の圧延スタンドを通ることで所望の板厚、板幅、板クラウンの製品板へと圧延され、コイル巻き取り機で巻き取られ次の工程へと搬送される。
【0022】
ところで、下流側圧延スタンド3の出側板厚を目標値とするためには、上流側圧延スタンド2の出側板厚を精度よく推定し、その板厚を目標値に一致させる必要がある。
ところが、実際のタンデム圧延機1においては、設置場所の制約などの理由より、全ての圧延スタンドの出側に板厚計が設置されていることは少ない。図1のタンデム圧延機1においても、上流側圧延スタンド2の出側には板厚計が設置されていない。
【0023】
そのため、本実施形態では、上流側圧延スタンド2の出側板厚をマスフロー一定則を利用して求めることとし、そのためにマスフロー板厚演算部14が備えられている。このマスフロー板厚演算部14で上流側圧延スタンド2のマスフロー板厚を求めるには、下流側圧延スタンド3の出側板厚、下流側圧延スタンド3の出側板速度、上流側圧延スタンド2の出側板速度が必要である。しかしながら、圧延材Wの先端部(単に板先端と呼ぶこともある)を圧延するに際しては、板先端が下流側板速度計7の設置位置に達するまでは、下流側圧延スタンド3の出側板速度を得られないため、マスフロー板厚を求めることができない。
【0024】
本願発明は、このような状況に対応する技術であり、タンデム圧延機1は以下に示す構成をさらに有している。
すなわち、本発明のタンデム圧延機1は、圧延材Wの先端が通過した時刻を検出する第1の板先端検出器8と第2の板先端検出器9を有している。第1の板先端検出器8は下流側圧延スタンド3以降に配備され、第2の板先端検出器9は第1の板先端検出器8より下流側に配備されている。
【0025】
さらに、タンデム圧延機1は、第1の板先端検出器8による板先端の検出時刻t、第2の板先端検出器9による板先端の検出時刻t、第1の板先端検出器8〜第2の板先端検出器9の距離Lから板速度を求める板速度演算部15を有する。この板速度演算部15から得られた板速度はマスフロー板厚演算部14に送られ、当該装置14において、マスフロー一定則を用いることで上流側圧延スタンド2の出側板厚が求められる。
【0026】
マスフロー板厚演算部14により得られた上流側圧延スタンド2の出側板厚は板厚制御部13に送られる。板厚制御部13は、上流側圧延スタンド2の出側板厚が目標値となるようなロールギャップを算出し、圧下位置制御部11を介して、上流側圧延スタンド2の圧延ロール4の圧下位置を変更する。
以下、第1の板先端検出器8や第2の板先端検出器9の詳細な配置場所、その動作、板速度演算部15及びマスフロー板厚演算部14での処理の内容について説明する。
【0027】
図1に示す如く、本実施形態の場合、第1の板先端検出器8は下流側圧延スタンド3とされている。すなわち、圧延材Wの先端が下流側圧延スタンド3に導入される前は、下流側圧延スタンド3の圧延荷重は約0であるものの、圧延材Wの先端部が導入された瞬間にある圧延荷重値へと跳ね上がる(図2(a)参照)。この現象を利用して、圧延荷重がステップ状に増加した時間tを第1の板先端検出器8での板先端の検出時刻とする。
【0028】
なお、下流側圧延スタンド3のロールギャップ量の変化を検知することでも、第1の板先端検出器8の機能を果たすことができる。
一方、この下流側圧延スタンド3の出側直後には板厚計10が配備されており、本実施形態の場合、この板厚計10が第2の板先端検出器9とされている。すなわち、圧延材Wの先端が板厚計10に達するまでは、板厚計10の出力は約0であるものの、圧延材Wの先端部が到達した瞬間にある値(板先端の板厚値)へと跳ね上がる(図2(b)参照)。この現象を利用して、板厚がステップ状に増加した時刻tを第2の板先端検出器9での板先端の検出時刻とする。
【0029】
検出された第1の板先端検出器8での検出時刻tと第2の板先端検出器9での検出時刻tとの差Δt、及び第1の板先端検出器8〜第2の板先端検出器9の距離Lから、圧延材Wの先端部の板速度を求めることができる。この板速度は、第1の板先端検出器8〜第2の板先端検出器9の平均的な板速度であり、下流側圧延スタンド3の出側直後の板速度に相当する。この板速度は、下流側圧延スタンド3から離れた位置に設けられた下流側板速度計7では計測が難しい値である。板先端検出器8,9の値から板速度を求める処理は、板速度演算部15により行われる。
【0030】
ところで、第1の板先端検出器8と下流側圧延スタンド3とを兼用し、第2の板先端検出器9と板厚計10とを兼用するとしているが、それぞれを独立して設けるようにしてもよい。例えば、フォトインタラプタなどを内蔵した横断センサを板先端検出器8,9として採用し、下流側圧延スタンド3の出側直後に配備する(第1の板先端検出器8)と共に、板厚計10の直後に配備してもよい(第2の板先端検出器9、図1内の破線で示す)。
【0031】
板速度演算部15により得られた板速度は、マスフロー板厚演算部14においてマスフロー一定則に利用され、上流側圧延スタンド2の出側板厚が求められる。
以上述べた第1の板先端検出器8、第2の板先端検出器9、板厚制御部13、マスフロー板厚演算部14、板速度演算部15、先進率変化量演算部16によりタンデム圧延機1の板厚制御装置18は構成される。
【0032】
図3に基づいて、マスフロー板厚演算部14における上流側圧延スタンド2の出側板厚がの導出手順について詳しく説明する。
まず、図3のSTEP1では、圧延材Wの圧延を開始後、第1の板先端検出器8において、板先端が通過した時間tを検出する。すなわち、下流側圧延スタンド3において、圧延荷重が約0からある値へと変化する時間tを求める。
【0033】
その後、STEP2では、第2の板先端検出器9において、板先端が通過した時間tを求める。すなわち、板厚計10において板厚が約0からある値(板先端の板厚値)へと変化する時間をtとする。
STEP3においては、時刻tに圧下位置制御部12から入力された圧下位置Sを記憶しておく。
【0034】
STEP4においては、板速度演算部15において、時刻tにおける下流側圧延スタンド3の出側板速度Vを式(1)により計算する。
【0035】
【数1】

【0036】
ここで、Lは下流側圧延スタンド3(第1の板先端検出器8)から板厚計10(第2の板先端検出器9)までの距離である。そして、V=Vとして、下流側圧延スタンド3の出側板速度Vをマスフロー板厚演算部14に出力する。また板速度演算部15において、時刻tにおける下流側圧延スタンド3の先進率fを式(2)により計算しておく。
【0037】
【数2】

【0038】
なお、Vは時刻t2における下流側圧延スタンド3のロール速度(圧延ロール4の速度)である。
STEP5では、マスフロー板厚演算部14において、マスフロー一定則に基づいた式(3)により、上流側圧延スタンド2の出側板厚hを計算する。
【0039】
【数3】

【0040】
ここで、hは板厚計10により計測される下流側圧延スタンド3の出側板厚であり、Vは、上流側圧延スタンド2の出側に設置された上流側板速度計6で計測される板速度である。
STEP6では、板厚制御部13において、マスフロー板厚演算部14から入力される上流側圧延スタンド2の出側板厚hを目標値に制御するために、PID制御などを用いて圧下位置指令値を計算する。
【0041】
STEP7では、圧下位置制御部11において、板厚制御部13から入力される圧下位置指令値に基づき、上流側圧延スタンド2の圧下位置を制御する。
以上のように、時刻tにおける下流側圧延スタンド3の出側板速度Vを求め、時刻t以降においては下流側圧延スタンド3の出側板速度が変化しないものと仮定することで、時刻t以降においても、式(3)より上流側圧延スタンド2の出側板厚を求めることが可能となる。
【0042】
ところが、時刻t以降において、下流側圧延スタンド3の先進率や下流側圧延スタンド3のロール速度が変化することにより下流側圧延スタンド3の出側板速度が変化した場合、その分だけ上流側圧延スタンド2の出側板厚の計算値に誤差が生じてしまう。係る誤差を低減するために、以下の処理を行うこととしている。
図3のSTEP8では、下流側圧延スタンド3の出側板速度が、下流側板速度計7で正確に計測されるまでは、式(1)や後述する式(6)で算出される計算値を用いることとし、STEP9に進む。正確に計測された後は、下流側板速度計7による計測値を下流側圧延スタンド3の出側板速度Vとしてマスフロー板厚演算部14に出力し、STEP5に戻る。下流側板速度計7による計測値が正確か否かは、「板先端が下流側板速度計7を通過してから一定時間以降は正確に計測されている」とし、この考えに従い判断するとよい。
【0043】
STEP9においては、先進率変化量演算部16において、式(4)で示す先進率変化モデルを用いて、時刻tからの先進率変化量Δfを計算する。
【0044】
【数4】

【0045】
ここで、Sは圧下位置制御部12から入力される圧下位置であり、SはSTEP3において記憶した圧下位置である。∂f/∂Sは圧下位置変化が先進率に及ぼす影響係数であり、圧延前に予め求めておく係数である。
STEP10では、板速度演算部15において、式(5)により時刻tからの下流側圧延スタンド3のロール速度の変化量ΔVを計算する。
【0046】
【数5】

【0047】
ここで、Vは下流側圧延スタンド3のロール速度の計測値である。
得られたΔVを基に、式(6)により下流側圧延スタンド3の出側板速度Vを計算する。
【0048】
【数6】

【0049】
そして下流側圧延スタンド3の出側板速度Vをマスフロー板厚演算部14に出力してSTEP5に戻る。
なおここで、下流側圧延スタンド3の出側板速度が式(6)により計算できる理由について述べる。
下流側圧延スタンド3の出側板速度Vは、下流側圧延スタンド3のロール速度Vと先進率fにより、式(7)の様に表される。
【0050】
【数7】

【0051】
下流側圧延スタンド3のロール速度Vは、時刻tにおける値Vとそこからの変化量ΔVにより、式(8)のように表される。
【0052】
【数8】

【0053】
同様に先進率fは、時刻tにおける値fとそこからの変化量Δfにより、式(9)の様に表される。
【0054】
【数9】

【0055】
式(7)〜式(9)を連立し整理すると以下の様になる。
【0056】
【数10】

【0057】
ここで、V=V・fであることから、式(10)より式(6)を導くことができる。したがって、下流側圧延スタンド3の出側板速度は式(6)により計算できる。
以上、STEP1〜STEP7に加え、STEP8〜STEP10を行うことで、第2の板先端検出器9による板先端の検出時刻t以降に、下流側圧延スタンド3の出側板速度が変化したとしても、出側板速度を正確に求めることが可能となり、ひいては上流側圧延スタンド2の出側板厚をマスフロー一定則により確実に求めることができるようになる。
【実施例】
【0058】
図4(b)は、本実施形態に係るタンデム圧延機1の板厚制御方法及び板厚制御装置18での処理(図3に示すSTPE1〜STEP10の処理)を行って、上流側圧延スタンド2の出側板厚を制御した際のコンピュータシミュレーションの結果である。
なお、図4(a)は、下流側圧延スタンド3の出側板速度として下流側板速度計7の計測値のみを用いてマスフロー板厚を計算し、上流側圧延スタンド2の出側板厚を制御した結果である。
【0059】
シミュレーションでは、板先端が下流側圧延スタンド3(第1の板先端検出器8)を通過した時刻t1を0secとし、板先端が板厚計10(第2の板先端検出器9)を通過した時刻tは1sec、板先端が下流側板速度計7に到達した時刻は3secとしている。また、本実施例のシミュレーションにおいては、1sec〜7secでは下流側圧延スタンド3の出側板速度として計算値を用い、7sec以降では、下流側板速度計7の計測値(実績値)を用いている。
【0060】
計測値のみを用いる手法においては、3secまでは板先端が下流側板速度計7に到達していないため、計測値が得られていない。また、下流側板速度計7の応答遅れにより、3sec以降においても正確な計測値が得られていない。そのため上流側圧延スタンド2の出側板厚の推定値は、3secまでは得られず、3sec以降においても真値との誤差が大きく、結果として目標値に近づくまでに数秒の長い時間を要している。
【0061】
一方、発明の実施形態においては、1sec以降は下流側圧延スタンド3の出側板速度を得ることができており、真値との誤差も小さい。そのため、上流側圧延スタンド2の出側板厚の推定値は、1secから得られ、1sec以降においては真値との誤差が小さく、結果として短時間で目標値に近づけることが可能となっている。
以上述べたように、本発明によれば、下流側圧延スタンド3の出側の下流側板速度計7が下流側圧延スタンド3から遠い位置にある場合や、板速度計7の応答性が低い場合においても、板先端から正確に下流側圧延スタンド3の出側板速度を求めた上で上流側圧延スタンド2の出側板厚を推測することで、迅速に上流側圧延スタンド2の出側板厚を目標値に制御することができる。
【0062】
以上、今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
例えば、圧延材Wとしては鋼材に限定されず、アルミ材や銅材などであってもよい。
【符号の説明】
【0063】
1 タンデム圧延機
2 上流側圧延スタンド
3 下流側圧延スタンド
4 圧延ロール
5 バックアップロール
6 上流側板速度計
7 下流側板速度計
8 第1の板先端検出器
9 第2の板先端検出器
10 板厚計
11 圧下位置制御部(上流側圧延スタンド)
12 圧下位置制御部(下流側圧延スタンド)
13 板厚制御部
14 マスフロー板厚演算部
15 板速度演算部
16 先進率変化量演算部
W 圧延材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上流側圧延スタンドと下流側圧延スタンドとを有するタンデム圧延機に設けられた板厚制御装置であって、
前記下流側圧延スタンド以降に配備され且つ圧延材の先端部の通過時刻を検知する第1の板先端検出器と、
前記第1の板先端検出器の下流側に配備され且つ圧延材の先端部の通過時刻を検知する第2の板先端検出器と、
前記第1の板先端検出器による通過時刻t、第2の板先端検出器による通過時間t、及び第1の板先端検出器〜第2の板先端検出器の距離Lから、下流側圧延スタンドの出側での板速度を求める板速度演算部と、
前記板速度演算部にて求められた板速度に基づき、マスフロー一定則により上流側圧延スタンドの出側板厚を求めるマスフロー板厚演算部と、
前記マスフロー板厚演算部により算出された上流側圧延スタンドの出側板厚が目標値と一致するように上流側圧延スタンドを制御する板厚制御部と、
を有することを特徴とするタンデム圧延機の板厚制御装置。
【請求項2】
前記第1の板先端検出器が下流側圧延スタンドとされ、
前記第2の板先端検出器が下流側圧延スタンドの出側に設けられた板厚計とされていることを特徴とする請求項1に記載のタンデム圧延機の板厚制御装置。
【請求項3】
前記圧延材の先端部が第2の板先端検出器を通過した後において、
前記板速度演算部は、予め設定した先進率変化モデルから算出された下流側圧延スタンドでの先進率の変化量と前記下流側圧延スタンドのロール速度とを基に、下流側圧延スタンドの出側板速度を算出するように構成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のタンデム圧延機の板厚制御装置。
【請求項4】
前記下流側圧延スタンドの圧下位置を用いて、前記先進率の変化量を算出するように構成されていることを特徴とする請求項3に記載のタンデム圧延機の板厚制御装置。
【請求項5】
前記圧延材の先端部が第2の板先端検出器の下流側に配備された板速度計を通過した後には、前記板速度演算部にて算出された出側板速度に代えて、前記板速度計で計測された出側板速度を、マスフロー板厚演算部で用いる下流側圧延スタンドの出側板速度とするように構成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のタンデム圧延機の板厚制御装置。
【請求項6】
上流側圧延スタンドと下流側圧延スタンドとを有するタンデム圧延機に用いられる板厚制御方法であって、
前記下流側圧延スタンド以降に配備され且つ圧延材の先端部の通過時刻を検知する第1の板先端検出器と、前記第1の板先端検出器の下流側に配備され且つ圧延材の先端部の通過時刻を検知する第2の板先端検出器とを予め設けておき、
前記第1の板先端検出器による通過時刻t、第2の板先端検出器による通過時間t、及び第1の板先端検出器〜第2の板先端検出器の間の距離Lから、下流側圧延スタンドの出側での板速度を求め、
求められた板速度に基づき、マスフロー一定則により上流側圧延スタンドの出側板厚を求め、
求められた出側板厚が目標値と一致するように上流側圧延スタンドを制御することを特徴とするタンデム圧延機の板厚制御方法。
【請求項7】
前記第1の板先端検出器を下流側圧延スタンドとし、
前記第2の板先端検出器を下流側圧延スタンドの出側に設けられた板厚計としていることを特徴とする請求項6に記載のタンデム圧延機の板厚制御方法。
【請求項8】
前記圧延材の先端部が第2の板先端検出器を通過した後においては、予め設定した先進率変化モデルから算出された下流側圧延スタンドでの先進率の変化量と、前記下流側圧延スタンドのロール速度とを基に、下流側圧延スタンドの出側板速度を算出することを特徴とする請求項6又は7に記載のタンデム圧延機の板厚制御方法。
【請求項9】
前記下流側圧延スタンドの圧下位置を用いて、前記先進率の変化量を算出することを特徴とする請求項8に記載のタンデム圧延機の板厚制御方法。
【請求項10】
前記圧延材の先端部が第2の板先端検出器の下流側に配備された板速度計を通過した後には、前記求められた板速度に代えて、前記板速度計で計測された出側板速度を下流側圧延スタンドの出側板速度とすることを特徴とする請求項6〜9のいずれかに記載のタンデム圧延機の板厚制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−22615(P2013−22615A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−159023(P2011−159023)
【出願日】平成23年7月20日(2011.7.20)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】