説明

タンパク質含有安定化製剤

界面活性剤としてポロクサマーを含むタンパク質製剤、及び界面活性剤としてポロクサマーを添加することにより、抗酸化剤の添加をすることなくタンパク質製剤中の生物活性を保持し、かつ不溶性異物の生成を抑制する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は安定なタンパク質含有安定化製剤に関する。さらに詳しくは、本発明は界面活性剤としてポロクサマー(poloxamer)を含有する安定なタンパク質含有製剤に関する。
【背景技術】
遺伝子組換え技術の発達によって、抗体、酵素、ホルモン、サイトカイン等の生理活性を有するタンパク質についても医薬品として利用することが可能となってきた。これらを安定した供給量でかつ高品質に提供するためには、構造及び活性を保持しうる製造条件及び保存条件を確立することが必要とされている。
一般に、タンパク質を保存する場合、不溶性凝集体の生成を始めとする劣化現象が問題となり、それを防止する必要がある。
例えば、免疫グロブリン、モノクローナル抗体、ヒト化抗体等の抗体は不安定なタンパク質であり、精製及び調剤行程において実施する濾過ストレス、濃縮ストレス、熱ストレス、さらには原液、製剤保存中の熱、光、輸送ストレスなどによって会合、凝集などの物理的、化学的変化を生じやすい。
さらに、遺伝子工学的手法で抗体を得るときには、抗体産生細胞をバルク培養し、精製して得られた抗体含有溶液を凍結して保存し、製剤化の段階で融解する。このような凍結融解を繰り返す過程で抗体二量体や不溶性微粒子、不溶性異物が生成したり、また長期保存中に抗体が分解されて分解物が生じ、結果として抗体の残存率が低下することが問題であった。
このような不溶性異物の生成を抑制して安定なタンパク質含有製剤を得るためには、界面活性剤の使用が必須であり、特にポリソルベート20,80などの界面活性剤が広く用いられてきた。しかし、ポリソルベート80はタンパク質を酸化させ(PDA J.Pharm.Sci.Technol.50:3(1996);Formulation,Characterization,and Stability of Protein Drugs.Plenum Press,New Yolk,(1996))、その結果抗体製剤の生物活性を低下させる性質のあることから、酸化されやすいタンパク質製剤の場合にはポリソルベート80に加えて、抗酸化剤であるL−メチオニンなどを添加する必要があった(特開2000−247903、J.Pharm.Sci.90:3(2001))。しかし、抗酸化剤を添加するときには、抗酸化剤の規格や添加量を厳密に定める必要があるなどの煩雑さがあった。
そこで、抗酸化剤を添加することなく、タンパク質の酸化を抑制して、かつタンパク質製剤の不溶性異物生成を抑制することのできる界面活性剤が求められていた。また、凍結乾燥製剤とすればタンパク質の酸化は抑制できるが(例えば特開2000−247903)、再溶解の手間が要らない使い勝手のよい溶液製剤への要求も大きく、溶液製剤としても安定なタンパク質含有製剤が求められていた。
本発明の目的は、抗酸化剤を添加することなく、タンパク質の酸化を抑制することによりタンパク質の生物活性を保持し、かつタンパク質製剤の不溶性異物生成を抑制することのできる界面活性剤を見出し、該界面活性剤を含むタンパク質含有安定化製剤を提供することである。
【発明の開示】
上記目的を達成するために鋭意研究した結果、本発明者らは、ポロクサマーを界面活性剤として添加することにより、抗酸化剤を添加しなくてもタンパク質を酸化することなくタンパク質の生物活性を保持し、かつタンパク質含有製剤の不溶性異物の生成を抑制できることを発見して本発明を完成した。
すなわち、本発明は以下のものを提供する:
(1)界面活性剤としてポロクサマーを含むタンパク質製剤。
(2)ポロクサマーがポロクサマー188である前記(1)記載のタンパク質製剤。
(3)溶液製剤である前記(1)又は(2)に記載のタンパク質製剤。
(4)タンパク質が免疫グロブリンである前記(1)〜(3)のいずれかに記載のタンパク質製剤。
(5)免疫グロブリンがヒト化抗体である前記(4)記載のタンパク質製剤。
(6)免疫グロブリンが抗組織因子抗体である前記(4)記載のタンパク質製剤。
(7)抗組識因子抗体がヒト化抗組織因子抗体である前記(6)記載のタンパク質製剤。
(8)添加剤として抗酸化剤を含まない前記(1)〜(9)のいずれかに記載のタンパク質製剤。
(9)界面活性剤としてポロクサマーを添加することにより、抗酸化剤の添加をすることなくタンパク質製剤中の生物活性を保持し、かつ不溶性異物の生成を抑制する方法。
(10)タンパク質が顆粒球コロニー刺激因子である前記(1)〜(3)のいずれかに記載のタンパク質製剤。
(11)タンパク質が副甲状腺ホルモンである前記(1)〜(3)のいずれかに記載のタンパク質製剤。
【図面の簡単な説明】
図1は、様々な界面活性剤を添加した抗ヒト組織因子抗体溶液製剤における生物活性の経時変化を示す図である。
図2は、ポロクサマー188又はポリソルベート80を添加した抗ヒト組織因子抗体溶液製剤の陰イオン交換クロマトグラムである。
図3は、ポリソルベート80による抗ヒト組織因子抗体の活性低下に対するL−メチオニンの添加効果、及び前記添加効果とポロクサマー添加効果との比較を示す図である。
図4は、顆粒球コロニー刺激因子の酸化に対するポリソルベート80、ポリソルベート20又はポロクサマー188の及ぼす影響を示すクロマトグラムである。
図5は、副甲状腺ホルモンの酸化に対するポリソルベート80、ポリソルベート20又はポロクサマー188の及ぼす影響を示すクロマトグラムである。
【発明を実施するための最良の形態】
本発明において、タンパク質含有製剤とは、活性成分としてタンパク質、好ましくは生理活性タンパク質を含み、ヒト等の動物に投与できるように調製された製剤を言い、凍結乾燥製剤及び溶液製剤の両方を含む。
本発明の製剤に使用するタンパク質は、抗体、酵素、サイトカイン、ホルモンを含むがこれに限定されない。具体的には、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)、エリスロポエチン(EPO)、トロンボポエチン等の造血因子、インターフェロン、IL−1やIL−6等のサイトカイン、免疫グロブリン、モノクローナル抗体、ヒト化抗体、組織プラスミノーゲン活性化因子(TPA)、ウロキナーゼ、血清アルブミン、血液凝固第VIII因子、レプチン、インシュリン、幹細胞成長因子(SCF)などを含むが、これらに限定されない。タンパク質の中でも、G−CSF、EPOなどの造血因子、副甲状腺ホルモン(PTH)及び免疫グロブリンが好ましく、特に抗体がこのましい。抗体としては特に、抗組織因子抗体が好ましい。
本発明の製剤で使用するタンパク質は、哺乳動物、特にヒトの生理活性タンパク質と実質的に同じ生物学的活性を有するものであり、天然由来のもの、および遺伝子組換え法により得られたものを含むが、好ましいのは遺伝子組換え法により得られたものである。遺伝子組換え法によって得られるタンパク質には天然タンパク質とアミノ酸配列が同じであるもの、あるいは該アミノ酸配列の1又は複数を欠失、置換、付加したもので前記生物学的活性を有するものを含む。さらには、生理活性タンパク質はPEG等により化学修飾されたものも含む。
タンパク質としては、特に糖鎖を有するタンパク質が好ましい。糖鎖の由来としては、特に制限はないが、哺乳動物細胞に付加される糖鎖が好ましい。哺乳動物細胞には、例えば、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO細胞)、BHK細胞、COS細胞、ヒト由来の細胞等があるが、この中でも、CHO細胞が最も好ましい。
タンパク質がEPOである場合には、EPOはいかなる方法で製造されたものでもよく、ヒト尿より種々の方法で抽出し、分離精製したもの、遺伝子工学的手法(例えば特開昭61−12288号)によりチャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO)、BHK細胞、COS細胞、ヒト由来の細胞などに産生せしめ、種々の方法で抽出し分離精製したものが用いられる。さらには、PEG等により化学修飾されたEPOも含む(国際特許出願公開番号WO90/12874参照)。さらに、糖鎖のついていないEPOをPEG等により化学修飾したものも含む。また、EPOのアミノ酸配列中のN−結合炭水化物鎖結合部位もしくはO−結合炭水化物鎖結合部位において、1以上のグリコシル化部位の数を増加させるように改変したEPO類似体も含む(例えば、特開平8−151398号、特表平8−506023号参照)。さらには、糖鎖結合部位の数は変化させずに、シアル酸等の含量を増加させることにより糖鎖の量を増加させたものであってもよい。
タンパク質がG−CSFである場合には、G−CSFは高純度に精製されたG−CSFであれば全て使用できる。本発明におけるG−CSFは、いかなる方法で製造されたものでもよく、ヒト腫瘍細胞の細胞株を培養し、これから種々の方法で抽出し分離精製したもの、あるいは遺伝子工学的手法により大腸菌などの細菌類;イースト菌;チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、C127細胞、COS細胞などの動物由来の培養細胞などに産生せしめ、種々の方法で抽出し分離精製したものが用いられる。好ましくは大腸菌、イースト菌又はCHO細胞によって遺伝子組換え法を用いて生産されたものである。最も好ましくはCHO細胞によって遺伝子組換え法を用いて生産されたものである。さらには、PEG等により化学修飾されたG−CSFも含む(国際特許出願公開番号WO90/12874参照)。
タンパク質が抗体である場合、抗体は所望の抗原と結合する限り特に制限はなく、マウス抗体、ラット抗体、ウサギ抗体、ヒツジ抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体等を適宜用いることができる。抗体は、ポリクローナル抗体であってもモノクローナル抗体であってもよいが、均質な抗体を安定に生産できる点でモノクローナル抗体が好ましい。ポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体は当業者に周知の方法により作製することができる。
モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマは、基本的には公知技術を使用し、以下のようにして作製できる。すなわち、所望の抗原や所望の抗原を発現する細胞を感作抗原として使用して、これを通常の免疫方法にしたがって免疫し、得られる免疫細胞を通常の細胞融合法によって公知の親細胞と融合させ、通常のスクリーニング法により、モノクローナルな抗体産生細胞(ハイブリドーマ)をスクリーニングすることによって作製できる。ハイブリドーマの作製は、たとえば、ミルステインらの方法(Kohler.G.and Milstein,C.,Methods Enzymol.(1981)73:3−46)等に準じて行うことができる。抗原の免疫原性が低い場合には、アルブミン等の免疫原性を有する巨大分子と結合させ、免疫を行えばよい。
また、抗体遺伝子をハイブリドーマからクローニングし、適当なベクターに組み込んで、これを宿主に導入し、遺伝子組換え技術を用いて産生させた遺伝子組換え型抗体を用いることができる(例えば、Carl,A.K.Borrebaeck,James,W.Larrick,THERAPEUTIC MONOCLONAL ANTIBODIES,Published in the United Kingdom by MACMILLAN PUBLISHERS LTD,1990参照)。具体的には、ハイブリドーマのmRNAから逆転写酵素を用いて抗体の可変領域(V領域)のcDNAを合成する。目的とする抗体のV領域をコードするDNAが得られれば、これを所望の抗体定常領域(C領域)をコードするDNAと連結し、これを発現ベクターへ組み込む。または、抗体のV領域をコードするDNAを、抗体C領域のDNAを含む発現ベクターへ組み込んでもよい。発現制御領域、例えば、エンハンサー、プロモーターの制御のもとで発現するよう発現ベクターに組み込む。次に、この発現ベクターにより宿主細胞を形質転換し、抗体を発現させることができる。
本発明では、ヒトに対する異種抗原性を低下させること等を目的として人為的に改変した遺伝子組換え型抗体、例えば、キメラ(Chimeric)抗体、ヒト化(Humanized)抗体などを使用できる。これらの改変抗体は、既知の方法を用いて製造することができる。キメラ抗体は、ヒト以外の哺乳動物、例えば、マウス抗体の重鎖、軽鎖の可変領域とヒト抗体の重鎖、軽鎖の定常領域からなる抗体であり、マウス抗体の可変領域をコードするDNAをヒト抗体の定常領域をコードするDNAと連結し、これを発現ベクターに組み込んで宿主に導入し産生させることにより得ることができる。
ヒト化抗体は、再構成(reshaped)ヒト抗体とも称され、ヒト以外の哺乳動物、たとえばマウス抗体の相補性決定領域(CDR;complementarity determining region)をヒト抗体の相補性決定領域へ移植したものであり、その一般的な遺伝子組換え手法も知られている。具体的には、マウス抗体のCDRとヒト抗体のフレームワーク領域(framework region;FR)を連結するように設計したDNA配列を、末端部にオーバーラップする部分を有するように作製した数個のオリゴヌクレオチドからPCR法により合成する。得られたDNAをヒト抗体定常領域をコードするDNAと連結し、次いで発現ベクターに組み込んで、これを宿主に導入し産生させることにより得られる(欧州特許出願公開番号EP 239400、国際特許出願公開番号WO 96/02576参照)。CDRを介して連結されるヒト抗体のFRは、相補性決定領域が良好な抗原結合部位を形成するものが選択される。必要に応じ、再構成ヒト抗体の相補性決定領域が適切な抗原結合部位を形成するように抗体の可変領域のフレームワーク領域のアミノ酸を置換してもよい(Sato,K.et al.,Cancer Res.(1993)53,851−856)。
また、ヒト抗体の取得方法も知られている。例えば、ヒトリンパ球をin vitroで所望の抗原または所望の抗原を発現する細胞で感作し、感作リンパ球をヒトミエローマ細胞、例えばU266と融合させ、抗原への結合活性を有する所望のヒト抗体を得ることもできる(特公平1−59878参照)。また、ヒト抗体遺伝子の全てのレパートリーを有するトランスジェニック動物を抗原で免疫することで所望のヒト抗体を取得することができる(国際特許出願公開番号WO 93/12227,WO 92/03918,WO 94/02602,WO 94/25585,WO 96/34096,WO 96/33735参照)。さらに、ヒト抗体ライブラリーを用いて、パンニングによりヒト抗体を取得する技術も知られている。例えば、ヒト抗体の可変領域を一本鎖抗体(scFv)としてファージディスプレイ法によりファージの表面に発現させ、抗原に結合するファージを選択することができる。選択されたファージの遺伝子を解析すれば、抗原に結合するヒト抗体の可変領域をコードするDNA配列を決定することができる。抗原に結合するscFvのDNA配列が明らかになれば、当該配列をを適当な発現ベクターを作製し、ヒト抗体を取得することができる。これらの方法は既に衆知であり、WO 92/01047,WO 92/20791,WO 93/06213,WO 93/11236,WO 93/19172,WO 95/01438,WO 95/15388を参考にすることができる。
抗体遺伝子を一旦単離し、適当な宿主に導入して抗体を作製する場合には、適当な宿主と発現ベクターの組み合わせを使用することができる。真核細胞を宿主として使用する場合、動物細胞、植物細胞、真菌細胞を用いることができる。動物細胞としては、(1)哺乳類細胞、例えば、CHO,COS,ミエローマ、BHK(baby hamster kidney),HeLa,Vero,(2)両生類細胞、例えば、アフリカツメガエル卵母細胞、あるいは(3)昆虫細胞、例えば、sf9,sf21,Tn5などが知られている。植物細胞としては、ニコティアナ(Nicotiana)属、例えばニコティアナ・タバカム(Nicotiana tabacum)由来の細胞が知られており、これをカルス培養すればよい。真菌細胞としては、酵母、例えば、サッカロミセス(Saccharomyces)属、例えばサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces serevisiae)、糸状菌、例えば、アスペルギルス(Aspergillus)属、例えばアスペスギルス・ニガー(Aspergillus niger)などが知られている。原核細胞を使用する場合、細菌細胞を用いる産生系がある。細菌細胞としては、大腸菌(E.coli)、枯草菌が知られている。これらの細胞に、目的とする抗体遺伝子を形質転換により導入し、形質転換された細胞をin vitroで培養することにより抗体が得られる。
本発明の安定化製剤に含まれる抗体としては、抗IL−6レセプター抗体、抗HM1.24抗原モノクローナル抗体、抗副甲状腺ホルモン関連ペプチド抗体(抗PTHrP抗体)、抗組織因子抗体などを挙げることができるが、これに限定されない。
再構成ヒト化抗体としては、ヒト化抗IL−6レセプター抗体(hPM−1)(国際特許出願公開番号WO92−19759を参照)、ヒト化抗HM1.24抗原モノクローナル抗体(国際特許出願公開番号WO98−14580を参照)、ヒト化抗副甲状腺ホルモン関連ペプチド抗体(抗PTHrP抗体)(国際特許出願公開番号WO98−13388を参照)などが本発明で使用する好ましい抗体としてあげられる。
また本出願人は、ヒト組織因子に対するマウスモノクローナル抗体の可変領域(V領域)とヒト抗体の定常領域(C領域)とからなるヒト/マウスキメラ抗体、さらにはヒト組織因子に対するマウスモノクローナル抗体の軽鎖(L鎖)V領域及び重鎖(H鎖)V領域の相捕性決定領域がヒト抗体に移植されているヒト化(humanized)抗体を作製して、これらが優れたDIC、動脈血栓症及び静脈血栓症治療薬として期待できることを報告した(WO99/51743、WO01/24626)。特に好ましいのは、WO99/51743に記載のヒト化H鎖バージョンi及びヒト化L鎖バージョンb2とを組み合わせたヒト化抗ヒト組織因子抗体であり、CHO細胞によって産生される組み換え型抗体である。抗ヒト組織因子抗体については、既に多数報告されている(WO99/51743、WO88/07543、WO96/40921、WO98/40408、WO01/70984)。又、抗原となる組織因子は既に知られているので(Ito T et al.,J.Biochem.114,691−696,(1993))、当業者に公知の方法で作製することが可能である。これらの抗ヒト組織因子抗体も本発明で使用する好ましい抗体である。
本発明の製剤に含まれる抗体の免疫グロブリンクラスは何であってもよいが、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4などのIgGが好ましい。
本発明では、抗体含有溶液とは、生体由来抗体であるか、あるいは組換え抗体であるかを問わず、いかなる抗体を含む溶液であってもよく、好ましくは、培養して得られた抗体を含むCHO細胞などの哺乳動物細胞の培養培地、あるいはこれに部分的精製などの一定の処理を施したもの(バルク溶液)、あるいは上記のヒト等の動物に投与できるように調製された溶液製剤である。
本発明において、不溶性異物とは、日本薬局方・一般試験法・注射剤の不溶性異物検査法に定めるように、容器に入れた溶液製剤を白色光源の直下、約1000ルクスの明るさの位置で肉眼で観察するときに、澄明でたやすく検出される不溶性異物をいう。
本発明において、抗体の生物活性とは抗体が抗原と結合しうる能力をいい、抗原の中和活性試験法により求めることができる。抗体の生物活性が保持された製剤とは、例えば、ヒト化抗ヒト組織因子抗体の場合では、25℃で6ヶ月保存する加速試験を行った後の生物活性が、抗体原液の生物活性を100としたときに60%以上、好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上、最も好ましくは90%以上保持していることをいう。
本発明では、抗体製剤の純度試験は、後述するゲル濾過クロマトグラフィー及び陰イオン交換クロマトグラフィーにより行うことができる。
本発明のタンパク質含有製剤では、界面活性剤としてポロクサマーを添加することにより、抗酸化剤を添加しなくてもタンパク質を酸化することなく高い生物活性を保持し、かつタンパク質含有製剤の不溶性異物の生成を抑制できる。
ポロクサマーは非イオン性の界面活性剤であって、以下の一般式を有するエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドのブロック共重合体のシリーズである:
HO(CO)(CO)(CO)
ポロクサマーにはポロクサマー124,188,237,338,407がUSP(米国薬局方)に収載されており、本発明では特にポロクサマー188が好ましい。USP記載のポロクサマー188は上記式におけるaが80、bが27、平均分子量が7680−9510であり、BP(英国薬局方)記載のポロクサマー188は上記式におけるaが約75、bが約30、平均分子量が8350である。さらに、EP(欧州薬局方)にはこれ以外に、ポロクサマー182,184,331が記載されている。また、Pluronic(ポロクサマーのBASF社の商標)としては、Pluronic L35,L43,L44,L61,L62,L64,F68,L81,P84,P85,F87,F88,L92,F98,L101,P103,P104,P105,F108,L121,P123,F127があり、これらのものも本発明におけるポロクサマーに含まれる。
ポロクサマーは従来医薬品製剤において、静脈注射用の脂肪乳剤の乳化剤として、あるいはエリキシル剤やシロップ剤の透明性を維持するための可溶化剤として使用されてきたが、タンパク質含有製剤の安定化剤としては使用されていない。
ポロクサマーの添加量は使用するポロクサマーの種類及びタンパク質の濃度及び種類により異なるが、ポロクサマー188の場合には、一般には0.001〜100mg/mLであり、好ましくは0.005〜50mg/mLであり、さらに好ましくは0.01〜10mg/mLである。
本発明のタンパク質含有製剤では、界面活性剤としてポロクサマーを使用することにより、ポリソルベート使用時に必要としていたL−メチオニンなどの抗酸化剤を添加する必要がない。
本発明のタンパク質含有製剤には安定化剤としてアミノ酸を添加してもよい。アミノ酸には、ロイシン、トリプトファン、セリン、グルタミン酸、アルギニン、ヒスチジンおよびリジンならびにその塩を含むがこれに限定されない。
さらに本発明の製剤では、凍結融解段階の二量体生成を抑制するためにマンニトール、ソルビトール等の糖アルコール;スクロース、トレハロース等の非還元二糖類、ラフィノース等の非還元三糖類などの非還元オリゴ糖類などを添加することもできる。特に、非還元オリゴ糖類が好ましい。非還元オリゴ糖類では、非還元二糖類が好ましく、さらにスクロース、トレハロースが好ましい。
本発明の抗体含有溶液製剤には好ましくは安定化剤としてヒト血清アルブミンや精製ゼラチンなどのタンパク質を実質的に含まない。
本発明の抗体製剤のpHは、好ましくはpH4〜8であり、さらに好ましくはpH5〜7.5である。しかしながら、pHは含まれる抗体により異なり、これらに限定されるものではない。
本発明の製剤には等張化剤としてさらに、ポリエチレングリコール、デキストラン、マンニトール、ソルビトール、イノシトール、グルコース、フラクトース、ラクトース、キシロース、マンノース、マルトース、スクロース,トレハロース、ラフィノースなどの糖類を用いることができる。
本発明の抗体含有溶液製剤には、所望によりさらに希釈剤、溶解補助剤、賦形剤、pH調整剤、無痛化剤、緩衝剤、含硫還元剤、酸化防止剤等を含有してもよい。例えば、含硫還元剤としては、N−アセチルシステイン、N−アセチルホモシステイン、チオクト酸、チオジグリコール、チオエタノールアミン、チオグリセロール、チオソルビトール、チオグリコール酸及びその塩、チオ硫酸ナトリウム、グルタチオン、並びに炭素原子数1〜7のチオアルカン酸等のスルフヒドリル基を有するもの等が挙げられる。また、酸化防止剤としては、エリソルビン酸、ジブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール、α−トコフェロール、酢酸トコフェロール、L−アスコルビン酸及びその塩、L−アスコルビン酸パルミテート、L−アスコルビン酸ステアレート、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、没食子酸トリアミル、没食子酸プロピルあるいはエチレンジアミン四酢酸二ナトリウム(EDTA)、ピロリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム等のキレート剤が挙げられる。さらには、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、炭酸水素ナトリウムなどの無機塩;クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム、酢酸ナトリウムなどの有機塩などの通常添加される成分を含んでいてよい。
本発明の製剤は、これらの成分をリン酸緩衝液(好ましくはリン酸一水素ナトリウム−リン酸二水素ナトリウム系)及び/又はクエン酸緩衝液(好ましくはクエン酸ナトリウムの緩衝液)及び/又は酢酸緩衝液などの溶液製剤の分野で公知の水性緩衝液に溶解することによって溶液製剤を調製する。緩衝液の濃度は一般には1〜500mMであり、好ましくは5〜100mMであり、さらに好ましくは10〜50mMである。
本発明の抗体含有溶液製剤は通常非経口投与経路で、例えば注射剤(皮下注、静注、筋注、腹腔内注など)、経皮、経粘膜、経鼻、経肺などで投与されるが、経口投与も可能である。
本発明のタンパク質含有製剤は凍結乾燥製剤であっても溶液製剤であってもよく、溶液製剤が好ましい。溶液製剤は、通常密封、滅菌されたプラスチック又はガラス製のバイアル、アンプル、注射器のような規定容量の形状の容器、ならびに瓶のような大容量の形状の容器で供給することができる。使用の便宜性の点からはプレフィルドシリンジが好ましい。
本発明の製剤中に含まれる抗体の量は、治療すべき疾患の種類、疾患の重症度、患者の年齢などに応じて決定できるが、一般には0.1〜200mg/ml、好ましくは1〜120mg/mlである。
本発明の溶液製剤は、後述の実施例に示すように、界面活性剤としてポロクサマーを添加することによって、抗酸化剤を添加しなくても抗体製剤の生物活性を高く保持することができ、また不溶性異物の生成を抑制することが示された。
本発明を以下の実施例によってさらに詳しく説明するが、本発明の範囲はこれに限定されない。本発明の記載に基づき種々の変更、修飾が当業者には可能であり、これらの変更、修飾も本発明に含まれる。
【実施例】
試料
1.抗体試料
抗ヒト組織因子抗体として、WO99/51743に記載のヒト化H鎖バージョンi及びヒト化L鎖バージョンb2とを組み合わせたヒト化抗ヒト組織因子抗体を用いた。本実施例で用いた抗ヒト組織因子抗体は、CHO細胞によって産生される組み換え型抗体であり、IgG4クラスの抗体である。
2.顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)
顆粒球コロニー刺激因子は、遺伝子工学的手法により、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞によって遺伝子組換え法を用いて産生し、抽出して分離精製したものを用いた。
3.副甲状腺ホルモン(PTH)
1〜84残基を有する副甲状腺ホルモンは、WO9014415に記載される方法にて製造した。
試験方法
(1)TF中和活性試験
組織因子(TF)は、細胞表面に発現される血液凝固第VII因子受容体であり、血液凝固反応の実質的な開始因子と位置付けられている。組織因子は血液凝固第VII因子との複合体形成を通じて、血液凝固第IX因子及びX因子を活性化させる。従って、ヒト化抗ヒト組織因子抗体の生物活性は以下に記載する方法で、血液凝固第VIIa因子溶液及び血液凝固第X因子溶液を用いて測定することができる。
1.以下の溶液を調製した。
1)A.B.(Assay Buffer):5mmol/L CaCl,0.1% BSAを含むTBS(pH7.6)。
2)Factor VIIa& Thromborel S混合溶液:Factor VIIaは0.1PEU/mL、Thromborel Sは0.42mg/mLとなるようにA.B.で希釈した。
3)Factor X溶液:A.B.でFactor Xを0.25PEU/mLに希釈した。
4)テストチーム発色基質 S−2222混合液:1.5mg/mL発色基質 S−2222溶液1に対し水を1およびポリブレン水溶液を2の割合で混合した。
2.Factor VIIa& Thromborel S混合溶液を60μL/wellでプレートに分注し室温で60分間静置した。
3.Factor X溶液で希釈した抗ヒト組織因子抗体原液(標準溶液)および試料溶液を40μL/wellで上記プレートに分注し室温で30分間静置した。
4.0.5mol/L EDTA溶液を10μL/well加え反応を止めた後、テストチーム発色基質 S−2222混合液を50μL/wellでプレートに分注し室温で30分間静置した。
5.405nm−655nmの吸光度を測定した。
6.検量線解析を行い、標準溶液を100%としたときの被験試料の生物活性を算出した。
略号
TBS:Tris Buffered Saline
BSA:Bovine Serum Albumin
EDTA:Ethylenediamine Tetraacetic Acid
(2)イオン交換クロマトグラフィー(IEC)
下記の条件にて試験を行った。
カラム :DEAE−NPR(4.6mm I.D.×3.5cm)
移動相 :A:50mmol/L トリス緩衝液、pH8.0
B:50mmol/L トリス緩衝液+500mmol/L NaCl、pH8.0
グラジエント:0−5min B液0%
5−40min B液0→50%
流速 :1.0mL/min
検出 :UV280nm吸収
試料注入量 :100μg相当量
(3)不溶性異物試験
日本薬局方・一般試験法・注射剤の不溶性異物検査法に定めるように、容器に入れた溶液製剤を白色光源の直下、約1000ルクスの明るさの位置で肉眼にて観察する。
実施例1:界面活性剤添加の生物活性に及ぼす効果
様々な界面活性剤を添加した抗ヒト組織因子抗体溶液製剤の生物活性の経時変化を試験した。2.3mg/mLの抗ヒト組織因子抗体を酢酸緩衝液中に含む試料(pH6.0)に界面活性剤としてポリソルベート20,80(いずれもA社製)、ポロクサマー188(B社製)をそれぞれ0.5mg/mL添加して5℃で14日及び40℃で14日保存した後の生物活性(TF−中和活性)を試験した。別途、界面活性剤無添加の群も同様に試験して比較した。得られた結果を図1に示す。
ポリソルベート80を添加した製剤は顕著に抗ヒト組織因子抗体の生物活性が低下したが、ポロクサマー188を添加した製剤では界面活性剤非添加製剤と同等の活性を保持した。その他の注射剤としての使用実績のある界面活性剤ポリソルベート20を添加した場合にも活性低下が認められた。
実施例2:界面活性剤の生物活性及び純度に及ぼす効果
抗ヒト組織因子抗体溶液製剤の生物活性及び純度に及ぼす界面活性剤の添加効果を試験した。10mg/mLの抗ヒト組織因子抗体を酢酸緩衝液中に含む試料(pH5.5)に界面活性剤としてポリソルベート80(C社製)、ポロクサマー188(D社製)をそれぞれ0.5mg/mL添加して25℃で6ヶ月保存する加速試験後、生物活性をTF−中和活性により、また純度試験をイオン交換クロマトグラフィー(IEC)により試験した。別途、加速試験を行わない抗ヒト組織因子抗体原液(bulk)を同様に試験して比較した。得られた結果を図2に示す。
抗ヒト組織因子抗体原液の生物活性を100としたときのポロクサマー188添加製剤の生物活性は92%であり、ポリソルベート80添加製剤の生物活性は52%であた。
イオン交換クロマトグラフィーでは、ポリソルベート80を添加した抗ヒト組織因子抗体溶液製剤ではメインピークが減少し、メインピークの直前に新しいピーク(図2中の矢印)が出現していた。このメインピークの直前に出現したピーク画分では、一部のアミノ酸残基が酸化されたものが確認されている。しかしポロクサマー188を添加した製剤は、抗ヒト組織因子抗体原液に近いクロマトグラムを保持していた。
上記の結果から、生物活性、純度のいずれの点においてもポロクサマー188がポリソルベート80よりも優れていることが判明した。
実施例3:ポリソルベート80による抗ヒト組織因子抗体の活性低下に対するL−メチオニンの添加効果、及び前記添加効果とポロクサマー添加効果との比較
ポリソルベート80添加による抗ヒト組織因子抗体溶液製剤の活性低下に対するL−メチオニンの添加効果を試験し、これをポロクサマー188添加の製剤と比較した。10mg/mLの抗ヒト組織因子抗体を酢酸緩衝液中に含む試料(pH5.5)に以下の物質を添加した試料を調製した:
1)ポリソルベート80を0.5mg/mL
2)ポリソルベート80を0.5mg/mL+L−メチオニンを5mg/mL
3)ポロクサマー188を0.5mg/mL
各試料を25℃で6ヶ月保存する加速試験後、生物活性をTF−中和活性により試験し、抗ヒト組織因子抗体原液(bulk)の生物活性と比較した。
得られた結果を図3に示す。ポリソルベート80による活性低下はL−メチオニンの添加により抑制することができた。ポロクサマー188添加試料は、ポリソルベート80とL−メチオニン添加試料と同等あるいはそれ以上の生物活性維持を示した。
実施例4:界面活性剤の不溶性異物に及ぼす効果
抗ヒト組織因子抗体溶液製剤の不溶性異物の生成に及ぼす界面活性剤の添加効果を試験した。10mg/mLの抗ヒト組織因子抗体を酢酸緩衝液中に含む試料(pH6.0)に界面活性剤としてポリソルベート80(C社製)、ポロクサマー188(D社製)をそれぞれ0.5mg/mL添加して調製直後及び5℃で24ヶ月保存した後の不溶性異物を試験した。別途、界面活性剤無添加の群も同様に試験して比較した。得られた結果を表1に示す。試料5バイアル中、不溶性異物が確認されたバイアルの本数を示した。界面活性剤無添加では製造直後から不溶物が目視された。しかし、ポロクサマー188及びポリソルベート80ではいずれも不溶性異物の生成は認められなかった。

(4)ポロクサマーによるタンパク質の安定化実験
上述の顆粒球コロニー刺激因子溶液製剤及び副甲状腺ホルモン溶液製剤に、種々の界面活性剤を添加して、顆粒球コロニー刺激因子及び副甲状腺ホルモンの酸化に対する効果を検証した。
実施例5:界面活性剤の顆粒球コロニー刺激因子の酸化に及ぼす影響
顆粒球コロニー刺激因子溶液製剤に対して界面活性剤がどのような影響を及ぼすかを試験した。0.25mg/mLのコロニー刺激因子をリン酸緩衝液中に含む試料(pH6.5)に界面活性剤としてポリソルベート80(A社製)、ポリソルベート20(A社製)、ポロクサマー188(B社製)をそれぞれ0.05%添加して25℃で5週間保存する加速試験後、顆粒球コロニー刺激因子の酸化体の量を逆相クロマトグラフィー(RPC)により測定した。
下記の条件にて試験を行った。
カラム:DAISOPAK SP−300−5−C4−P(4.6mm I.D.x25cm)
移動相:A アセトニトリル:水:トリフルオロ酢酸=400:600:1
B アセトニトリル:水:トリフルオロ酢酸=800:200:1
グラジエント :0−25min B液20→90%
25−40min B液90→90%
40−41min B液90→20%
41−60min B液20%
流速 :0.3mL/min
注入量:10μL
カラム温度:35℃
検出波長:UV 215nm吸収
得られた結果を図4に示す。
逆相クロマトグラフィーからわかるとおり、各種界面活性剤を添加した顆粒球コロニー刺激因子溶液製剤のメインピークの直前に、酸化体(図4中の矢印)が出現していた。これらのピーク画分からは、顆粒球コロニー刺激因子の一部のアミノ酸残基が酸化されたものが確認されている。
酸化体の量は、ポリソルベート20を添加した場合が最も多く、次いでポリソルベート80、ポロクサマー188の順であった。
実施例6:界面活性剤の副甲状腺ホルモンの酸化に及ぼす影響
副甲状腺ホルモン刺激因子溶液製剤に対して界面活性剤がどのような影響を及ぼすかを試験した。0.25mg/mLの副甲状腺ホルモンをクエン酸緩衝液中に含む試料(pH5.0)に界面活性剤としてポリソルベート80(A社製)、ポリソルベート20(A社製)、ポロクサマー188(B社製)をそれぞれ0.05%添加して、40℃で2週間保存する加速試験後、副甲状腺ホルモンの酸化体の量を逆相クロマトグラフィー(RPC)により測定した。
下記の条件にて試験を行った。
カラム:YMC−Pack ODS A−312(4.6mm I.D.x15cm)
移動相:A アセトニトリル:水:トリフルオロ酢酸=0:1000:1
B アセトニトリル:水:トリフルオロ酢酸=600:400:1
グラジエント :0−40min B液40→60%
40−42min B液60→60%
42−42.5min B液60→40%
42.5−60min B液40%
流速 :1.0mL/min
注入量:10μL
カラム温度:25℃
検出波長:UV 215nm吸収
得られた結果を図5に示す。
逆相クロマトグラフィーからわかるとおり、各種界面活性剤を添加した副甲状腺ホルモン溶液製剤のメインピークの直前に、酸化体(図5中の矢印)が出現していた。これらのピーク画分からは、副甲状腺ホルモンの一部のアミノ酸残基が酸化されたものが確認されている。
酸化体の量は、ポリソルベート20を添加した場合が最も多く、次いでポリソルベート80、ポロクサマー188の順であった。
上記の結果から、タンパク質溶液製剤の酸化を抑制する効果は、ポロクサマー188がポリソルベート類よりも優れていることが判明した。
産業上の利用分野
本発明のタンパク質含有安定化製剤は、長期保存後においても生物活性の低下がなく、不溶性異物の生成もない。またタンパク質の酸化体生成率が効果的に抑制された、安定な製剤である。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
界面活性剤としてポロクサマーを含むタンパク質製剤。
【請求項2】
ポロクサマーがポロクサマー188である請求項1記載のタンパク質製剤。
【請求項3】
溶液製剤である請求項1又は2記載のタンパク質製剤。
【請求項4】
タンパク質が免疫グロブリンである請求項1〜3のいずれかに記載のタンパク質製剤。
【請求項5】
免疫グロブリンがヒト化抗体である請求項4記載のタンパク質製剤。
【請求項6】
免疫グロブリンが抗組織因子抗体である請求項4記載のタンパク質製剤。
【請求項7】
抗組織因子抗体がヒト化抗組織因子抗体である請求項6記載のタンパク質製剤。
【請求項8】
添加剤として抗酸化剤を含まない請求項1〜7のいずれかに記載のタンパク質製剤。
【請求項9】
界面活性剤としてポロクサマーを添加することにより、抗酸化剤の添加をすることなくタンパク質製剤中の生物活性を保持し、かつ不溶性異物の生成を抑制する方法。
【請求項10】
タンパク質が顆粒球コロニー刺激因子である請求項1〜3のいずれかに記載のタンパク質製剤。
【請求項11】
タンパク質が副甲状腺ホルモンである請求項1〜3のいずれかに記載のタンパク質製剤。

【国際公開番号】WO2004/075913
【国際公開日】平成16年9月10日(2004.9.10)
【発行日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−502969(P2005−502969)
【国際出願番号】PCT/JP2004/002429
【国際出願日】平成16年2月27日(2004.2.27)
【出願人】(000003311)中外製薬株式会社 (228)
【Fターム(参考)】