説明

タンパク質含有液体を凝集するための無機成分(金属化合物)を含む組成物及びデバイス

タンパク質含有液体の凝固剤を含むデバイス又は組成物であって、前記凝固剤が、タンパク質含有液体中に可溶性の無機成分を含むデバイス又は組成物。タンパク質含有液体の凝固のためのそのようなデバイス又は組成物の使用。そのようなデバイス又は組成物を用いて作られた、タンパク質含有液体の凝固物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、体液の制御のためのデバイス、例えば、体液中に含まれるタンパク質に作用して、そのタンパク質を凝固させる作用をする生体分子活性剤に基づいた凝固デバイス及び/又は密封デバイスに関する。体液の例には、例えば、全血、血清、血漿、間質液、滑液、リンパ液などのタンパク質に関連する体液、及び傷からの滲出液などの創傷物質の蓄積容器が含まれる。後者は、術後の、急性の、又は慢性の創傷の処置の間に、本発明のデバイスで処置されうる。
【背景技術】
【0002】
本発明はまた、体液の制御のための組成物、例えば、体液中に含まれるタンパク質に作用して、そのタンパク質を凝固させる作用をする生体分子活性剤に基づいた凝固組成物及び/又は密封組成物に関する。体液の例には、上述したようにタンパク質に関連する体液の蓄積容器が含まれる。本組成物の例には、金及び/又は金化合物の組成物が含まれる。
【0003】
本発明はまた、体液中に含まれるタンパク質に作用して体液を制御する生体分子活性剤に基づいたそのような凝固剤及び/又は密封剤、組成物、又はデバイスの使用に関する。本発明はまた、そのような凝固剤及び/又は密封剤、凝固及び/又は密封組成物、又は凝固及び/又は密封デバイスを用いて作られたタンパク質含有液体凝固物にも関する。
【0004】
医学的には、体液の凝固は、急性出血及び循環系に対する急性外傷傷害の処理において重要である。これらの状態の救急診療は、救命のために非常に重要である。タンパク質に関連する物質の蓄積庫は、バクテリアを含めた病原体のための格好の栄養源である。
【0005】
傷の治療において、術後もしくは急性もしくは慢性の外傷の滲出液の処置は、患者と介護者の両方に不便であり、かつ処置者にとって費用がかかる。外傷治癒の促進のための、術後の、急性の、又は慢性の外傷の治療及び処置における凝固及び/又は密封剤、凝固及び/又は密封組成物、又は凝固及び/又は密封デバイスの使用においては、出血時に存在する体液中に含まれるタンパク質に作用する反応剤によって体液の流れが制御されるだけでなく、タンパク質の凝固物が、そのような凝固及び/又は密封剤、凝固及び/又は密封組成物、又は凝固及び/又は密封デバイスを用いて作られ、それが抗菌性障壁として作用し且つ湿気のある外傷環境をもたらす。
【0006】
市販の医療用品では、生物学的な凝集及び密封システムは、しばしばフィブリノーゲン−トロンビン−組成物に基づいており、適用時に混合され、凝固物又は凝塊を形成する。このアプローチはかなり高価であり、冷蔵貯蔵を必要とする。それはまた、出血時に存在する凝固連鎖(凝固カスケード)(例えば、血小板)のその他の成分の存在下での使用が最も好ましい。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
長期保存寿命をもつ、低廉で、タンパク質含有液体の広範囲に適用できる凝固剤が、商業的に望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の目的は、体液、特に、外傷を含めた傷害の部位での全血又は滲出液の凝固剤、特に、長期保存寿命をもつ、タンパク質含有液のより安価で広スペクトルの凝固剤の提供である。
【0009】
本発明の目的は、外傷治療の促進に有効な、タンパク質含有液体の凝固剤を含むデバイス又は組成物の提供である。
【0010】
本発明のさらなる目的は、タンパク質含有液体の抗菌性凝固物の提供である。これは、急性及び慢性の外傷を含めた手術部位及び表面外傷を含めた細菌汚染の可能性に曝される用途に特に適している。
【0011】
本発明のさらなる目的は、外傷治療の促進のための湿気のある環境を提供する、タンパク質含有液体の凝固物を含むデバイス又は組成物の提供である。
【0012】
本発明のさらなる目的は、外傷治療の促進のための抗菌性で湿気のある環境を提供する、タンパク質含有液体の凝固物を含むデバイス又は組成物の提供である。
【0013】
本発明のさらなる目的は、外傷治療の促進のための、抗菌性障壁と、湿分のある環境とを提供する、タンパク質含有液体の凝固物を含むデバイス又は組成物の提供である。
【0014】
本発明の第一の側面によれば、タンパク質含有液体の凝固剤を含むデバイスを提供し、本凝固剤は、タンパク質含有液体中に可溶性の無機成分を含む。
【0015】
本発明の第二の側面によれば、タンパク質含有液体の凝固剤を含む組成物を提供し、本凝固剤はタンパク質含有液体に可溶性の無機成分を含む。
【0016】
本発明の第三の側面によれば、タンパク質含有液体の凝固のための、本発明の第一又は第二の側面によるデバイス又は組成物の使用を提供する。
【0017】
本発明の第四の側面によれば、本発明の第一又は第二の側面によるデバイス又は組成物を用いて作られた、タンパク質含有液体の凝固物を提供する。
【0018】
本発明の第五の側面によれば、本発明の第四の側面による、タンパク質含有液体の凝固物を含むデバイス又は組成物を提供する。
【0019】
上記タンパク質含有液体は、体液、例えば、全血、血清、血漿、間質液、滑液、リンパ液、傷からの滲出液、精液、唾液、脊髄液、及び眼液、を含むことができる。
【0020】
上記無機成分は金属を含むことが好ましい。無機成分は金属化合物を含むことが好ましい。金属は、金であることが好ましい。
【0021】
上記金属化合物は、金属塩化物、金属臭素化物、金属ヨウ化物、金属酸化物、又は金属水酸化物であってよい。
【0022】
好適な金属化合物には、水性媒体中もしくは水性媒体と相溶性の溶媒混合物中に容易に溶けるもの、又は水性媒体中もしくは水性媒体と相溶性の溶媒混合物中に部分的に可溶性のもの、又は水性媒体中もしくは水性媒体と相溶性の溶媒混合物中に難溶性のものが含まれる。
【0023】
本発明者は、タンパク質含有液体中の十分な濃度の可溶性の金の化学種の存在が、凝固と、不均一な塊を含むデバイス又は組成物の形成をもたらし、それは、支えのないその固化した状態を良く保ちうる。そのようなタンパク質に関連した液体の例には、上述したタンパク質に関連した体液:ウシ血清アルブミン溶液、ゼラチン、ウシ胎仔血清、ヒト全血、急性外傷液、及び慢性外傷液が含まれる。
【0024】
その他の遷移金属が、タンパク質含有液体の好適な凝固剤であると考えられる。
【0025】
金化合物は抗菌剤として公知であり、インビボ試験において、銀化合物と同様の有効性を有する。しかし、銀化合物は体液(pH7〜8)に曝されると急速に沈殿して、不溶性の、したがって不活性な、塩化銀を形成する。
【0026】
この状態は、局所pHを高めるか又は低下させるかによって僅かながら避けることができ、それは可溶性の水和した及び/又はヒドロキシル化した銀の化学種の形成を容易にする。
【0027】
医学用デバイス用途では、酸化銀系の包帯は、それらの局所的環境中に高pHを生じさせ、それにより、銀の化学種の有意な濃度の可溶化を可能にする。
【0028】
したがって、非中性pH(通常は酸化物種からのアルカリ)を含むデバイス又は組成物の生成は、銀系医療デバイスの活性に対して予め必要なものである。
【0029】
そのようなpHが生じることは、生物学的に有利であるとは通常は考えられない。
【0030】
金は、その塩、例えば塩化物が、生物学的液体に溶ける傾向があり、したがって、金の化学種の前駆体、例えば金酸化物は中性(または任意の他の)pHで可溶性の金化合物を容易に形成する点で銀と異なる。
【0031】
したがって、金デバイスは、潜在的に不利な環境pH変化をさらに必要とすることなしに、抗菌活性を含めたそれらの意図した使用のために用いうる。
【0032】
金化合物の作用機構は、銀系相当品と比較して、著しく有利である。
【0033】
金化合物も公知であり、関節リウマチなどの変性状態においてその抗炎症性について医学的に研究及び開発されている。
【0034】
本発明の、体液の制御のためのデバイス及び組成物は、したがって、抗炎症効果も有する。
【0035】
本発明のさらなる目的は、抗炎症効果をもたらす、タンパク質含有溶液のための凝固物を含むデバイス又は組成物の提供である。
【0036】
本発明のデバイス及び組成物のいくつかは、使用中に色の変化を起こし、耐用時間を自ら示しうる。
【0037】
本発明のさらなる目的は、色変化によって耐用時間を自ら示す、タンパク質含有溶液の凝固物を含むデバイス又は組成物の提供である。
【0038】
本発明の目的は、外傷治療の促進のための、抗菌性障壁、湿気のある環境、及び抗炎症性効果をもたらすデバイス又は組成物の提供である。
【0039】
本発明のさらなる目的は、抗菌性障壁、湿気のある環境、及び抗炎症性効果をもたらし、かつ色変化によって対応時間を自ら示す、タンパク質含有液体の凝固物を含むデバイス又は組成物の提供である。
【0040】
好適な金化合物には、水性媒体中もしくは水性媒体と混和性の溶媒混合物中に容易に溶けるもの、又は、水性媒体中もしくは水性媒体と混和性の溶媒混合物中に部分的に溶けるもの、又は、水性媒体中もしくは水性媒体と混和性の溶媒混合物中に難溶性のもの、が含まれる。
【0041】
易溶性の金化合物の例には、臭化金(III)、ヨウ化金(III)、ヨウ化金(I)、塩化金(III) [AuCl3]及びその塩酸塩、塩化金酸 [H+AuCl4]、が含まれる。
【0042】
部分的に可溶性の金化合物の例には、酸化金(III) [Au2O3]及び水酸化金(III) [Au(OH)3]、が含まれる。
【0043】
金化合物は、溶液中では溶媒和された金化学種を生成する。
【0044】
これらの種は、前駆体である金化合物と同じでも異なってもよく、例えば、[Au(OH)3Cl]-は金化合物溶解で通常生じる生成物である。
【0045】
これらの種はまた、コロイド種を含めた原子クラスター種であってよい。
【0046】
本発明の、体液の制御のための組成物は、1種以上の金化合物からなるタンパク質含有液体のための凝固剤を含むことができ、あるいはこの金化合物は、その他の物質、例えば、金、その他の金属、その他の金属化合物、有機化合物(例えば、薬理学的活性化合物、又はタンパク質もしくはその他の複雑な合成もしくは天然物質など)、と混合されていてもよい。
【0047】
混合物は、その混合物の凝固特性が保持され、かつ好ましくはその混合物の抗菌特性も保持されるようでなければならない。
【0048】
混合された組成物の例には、金化合物と、金、銀、及び/又は銀化合物との混合物、好ましくは、金、酸化金及び銀及び酸化銀の混合物、さらに好ましくは、酸化金(III)及び酸化銀(I/III)の混合物、が含まれる。本発明の、体液の制御のための最も好ましい組成物は、使用時に適用部位で生理学的に許容可能なpHを生じさせる組成物である。
【0049】
タンパク質含有溶液には、個別のタンパク質の溶液又は、多数のタンパク質混合物の溶液が含まれる。タンパク質含有溶液には、体液、例えば、全血、血清、血漿、間質液、滑液、リンパ液、傷からの滲出液、精液、唾液、脊髄液、及び眼液、並びにこれらの混合物が含まれる。これらの溶液は、最も制御が望まれる体液である。しかし、細菌を含めた病原体を排除するために、凝固剤及び/又は密封剤、凝固及び/又は密封組成物、凝固及び/又は密封デバイスをその場(in situ)で用いて、他のタンパク質含有液体の凝固物を導入又は生成することが望ましいこともある。
【0050】
したがって、タンパク質含有溶液には、哺乳動物、両生類、鳥類、魚類、もしくは昆虫類を含めた動物種、又は植物を含めた、任意のタンパク質に基づく生物学的システムから生じるものが含まれる。そのようなタンパク質含有溶液は、組み替え又は合成により変性されたタンパク質が含まれうる。そのようなタンパク質全ては、天然又は変性された立体配座でありうる。
【0051】
金化合物は、当業者に上記効果に対して好適であることが知られている、タンパク質含有液体の凝固剤を含む任意の形態のデバイス又は組成物中に存在することができる。そのような組成物には、液体、例えば、溶液(例えばAuCl3(水溶液))、又はエマルション(例えば、鉱物油と水との混合物中に懸濁されたAu2O3)、又はコロイド懸濁液(例えば、水溶液中の金クラスター種)、又はゲル(例えば、水和したカルボキシメチルセルロースなどのヒドロゲル中に分散された金クラスター種)、又は固体(例えば、酸化金(III)、水酸化金(III)、親水性プラスチックフィルム(例えば、ポリウレタンフィルム)中の沈殿コロイド金粒子もしくは分散体、又は親水性フォーム(例えば、ポリウレタンフォーム)中の分散物、が含まれる。
【0052】
上記デバイスには、脆弱な生物学的表面の保護及び湿気密封のためのフィルム包帯、生物学的滲出液の管理のためのフォーム(発泡体)、及び組織加湿の管理のための親水性コロイドゲル、が含まれる。
【0053】
そのようなデバイスには、好ましくは、抗生物質耐性細菌株(例えば、MRSA)の処理を含めて、感染、特に細菌感染の管理のためのデバイスが含まれる。
【0054】
そのようなデバイスには、医療廃棄物の処理の書式、並びに表面を及び表面に存在する細菌を処置する医療装備(例えば、滲出物ドレイン)の内容も含まれる。
【0055】
そのようなデバイスは、当業者に公知の任意の沈着方法によって基材に適用された任意の上記組成物の1以上の層を含むことができる。
【0056】
本組成物又はデバイス、及びその調製方法は、存在する活性種の安定性(例えば、熱安定性)と両立可能であることが好ましい。
【0057】
酸化金(III)の場合、加工温度は300℃を超えるべきではない。
【0058】
本組成物の一つの好適な調製方法は、常温で担体と直接混合することである。
【0059】
本送達システムは、処理される部位に直接適用でき、あるいは遠隔患者管理システムの一部として離れて用いることもできる。
【0060】
この形式では、体液を含めて、タンパク質含有溶液からのタンパク質の(凝固による)分離のために、金化合物を局在させることができる。
【0061】
〔実施例〕
[実施例1]
酸化金(III)粉末(10 mg)を、リン酸緩衝生理食塩水(pH 7.4)中に調製したウシ血清アルブミン(100 μl、40 mg/ml)の溶液に添加した。
酸化物粉末を容器(0.5 ml容量のエッペンドルフチューブ)の底に沈殿するままにさせておき、2時間、乱さずに放置した。
この時間の後、数ミリメートルの厚さの凝固した不透明な塊が、酸化金(III)粉末と接触して形成された。
容器は、その不透明な塊を乱すことなく倒置させることができた。
【0062】
[実施例2]
酸化金(III)粉末(10 mg)を、熱で不活性化したウシ胎仔血清(100μl)に添加した。
酸化物粉末を容器(0.5 ml容量のエッペンドルフチューブ)の底に沈殿するままにさせておき、2時間、乱さずに放置した。
この時間の後、数ミリメートルの厚さの凝固した不透明な塊が、酸化金(III)粉末と接触して形成された。
容器は、その不透明な塊を乱すことなく倒置させることができた。
【0063】
[実施例3]
酸化金(III)粉末(10 mg)を、慢性的外傷からの液体(100μl)に添加した。
酸化物粉末を容器(0.5 ml容量のエッペンドルフチューブ)の底に沈殿するままにさせておき、2時間、乱さずに放置した。
この時間の後、数ミリメートルの厚さの凝固した不透明な塊が、酸化金(III)粉末と接触して形成された。
容器は、その不透明な塊を乱すことなく倒置させることができた。
一夜で、液体全体が凝固していた。
【0064】
[実施例4]
pH 7.4のリン酸緩衝生理食塩水中の塩化金(III)(350 mg/ml)の溶液の一部1μlを、リン酸緩衝生理食塩水(pH 7.4)中に調製したウシ血清アルブミン(100μl、40 mg/ml)の溶液を入れた容器(0.5 ml容量のエッペンドルフチューブ)の底に注意深く添加した。
この容器を、30分間、乱さずに放置した。
この時間の間に、数ミリメートルの厚さの凝固した不透明な塊が形成された。容器は、その不透明な塊を乱すことなく倒置させることができた。
【0065】
[実施例5]
pH 7.4のリン酸緩衝生理食塩水中の塩化金(III)(350 mg/ml)の溶液の一部2μlを、リン酸緩衝生理食塩水(pH 7.4)中に調製したウシ血清アルブミン(100μl、40 mg/ml)の溶液を入れた容器(0.5 ml容量のエッペンドルフチューブ)の底に注意深く添加した。この容器を、30分間、乱さずに放置した。この時間の間に、数ミリメートルの厚さの凝固した不透明な塊が形成された。容器は、その不透明な塊を乱すことなく倒置させることができた。
【0066】
[実施例6]
pH 7.4のリン酸緩衝生理食塩水中の塩化金(III)(350 mg/ml)の溶液の一部3μlを、リン酸緩衝生理食塩水(pH 7.4)中に調製したウシ血清アルブミン(100μl、40 mg/ml)の溶液を入れた容器(0.5 ml容量のエッペンドルフチューブ)の底に注意深く添加した。この容器を、30分間、乱さずに放置した。
この時間の間に、数ミリメートルの厚さの凝固した不透明な塊が形成された。容器は、その不透明な塊を乱すことなく倒置させることができた。
【0067】
[実施例7]
pH 7.4のリン酸緩衝生理食塩水中の塩化金(III)(350 mg/ml)の溶液の一部4μlを、リン酸緩衝生理食塩水(pH 7.4)中に調製したウシ血清アルブミン(100μl、40 mg/ml)の溶液を入れた容器(0.5 ml容量のエッペンドルフチューブ)の底に注意深く添加した。この容器を、30分間、乱さずに放置した。
この時間の間に、数ミリメートルの厚さの凝固した不透明な塊が形成された。容器は、その不透明な塊を乱すことなく倒置させることができた。
【0068】
[実施例8]
pH 7.4のリン酸緩衝生理食塩水中の塩化金(III)(350 mg/ml)の溶液の一部5μlを、リン酸緩衝生理食塩水(pH 7.4)中に調製したウシ血清アルブミン(100μl、40 mg/ml)の溶液を入れた容器(0.5 ml容量のエッペンドルフチューブ)の底に注意深く添加した。この容器を、30分間、乱さずに放置した。
この時間の間に、数ミリメートルの厚さの凝固した不透明な塊が形成された。容器は、その不透明な塊を乱すことなく倒置させることができた。
【0069】
[実施例9]
実施例4〜8の試験結果のデジタル画像を、ブランク対照を含むデバイス又は組成物を追加して、記録した。存在する金の量の直線的増加が、凝固塊の深さの類似する直線的増加をもたらすことが分かった。
【0070】
[実施例10]
実施例4〜9を、ウシ血清アルブミン溶液に代えて100μlの、熱で不活性化したウシ胎仔血清を用いて繰り返した。結果は同じであった。
【0071】
[実施例11]
実施例4〜9を、ウシ血清アルブミン溶液に代えて100μlの慢性外傷からの液体を用いて繰り返した。結果は同じであった。
【0072】
[実施例12]
実施例4〜9を、ウシ血清アルブミン溶液に代えて100μlのヒト全血を用いて繰り返した。結果は同じであった。
【0073】
[実施例13]
pH 7.4のリン酸緩衝生理食塩水中の塩化金(III)(350 mg/ml)の溶液の一部5μlを、ヒト全唾液(100μl)を入れた容器(0.5 ml容量のエッペンドルフチューブ)の底に注意深く添加した。この容器を、30分間、乱さずに放置した。この時間の間に、数ミリメートルの厚さのわずかに凝固した不透明な塊が形成された。
【0074】
[実施例14]
pH 7.4のリン酸緩衝生理食塩水中の塩化金(III)(350 mg/ml)の溶液の一部5μlを、リン酸緩衝生理食塩水中に調製した100μlのゼラチン溶液(40 mg/ml)を入れた容器(0.5 ml容量のエッペンドルフチューブ)の底に注意深く添加した。
直ちに、繊維状沈殿物が形成され、これは容器の外へと粘稠な糸に引くことができた。
【0075】
[実施例15]
pH 7.4のリン酸緩衝生理食塩水中の塩化金(III)(350 mg/ml)の溶液の一部5μlを、リン酸緩衝生理食塩水(pH 7.4)中に調製したウシ血清アルブミンの溶液(100μl、40 mg/ml)を入れた容器(1.0 ml容量の、先を取り外したシリンジ)の底に注意深く添加した。この容器を24時間乱さずに放置した。
この時間の間に、上記液体は凝固した。シリンジプランジャーを用いて、凝固した栓状物を押し出した。この栓状物は、支えなしでもその寸法を保っていた。
【0076】
[実施例16]
pH 7.4のリン酸緩衝生理食塩水中の塩化金(III)(350 mg/ml)の溶液の一部5μlを、熱で不活性化したウシ胎仔血清を含む容器(1.0 ml容量の、先を取り外したシリンジ)の底に注意深く添加した。この容器を24時間乱さずに放置した。
この時間の間に、上記液体は凝固した。シリンジプランジャーを用いて、凝固した栓状物を押し出した。この栓状物は、支えなしでもその寸法を保っていた。
【0077】
[実施例17]
pH 7.4のリン酸緩衝生理食塩水中の塩化金(III)(350 mg/ml)の溶液の一部5μlを、慢性
外傷からの液体を含む容器(1.0 ml容量の、先を取り外したシリンジ)の底に注意深く添加した。この容器を24時間乱さずに放置した。この時間の間に、上記液体は凝固した。
シリンジプランジャーを用いて、凝固した栓状物を押し出した。この栓状物は、支えなしでもその寸法を保っていた。
【0078】
[実施例18]
シュードモナス アエルギノーザ(Pseudomonas aeruginosa) NCIMB 8626及びスタフィロッコッカス アウレウス(Staphylococcus aureus) NCTC 10778を集菌した。連続1:10希釈を行って、108細菌/mlの最終濃度を得た。接種計数のためにさらなる希釈を、10-8細菌/mlまで行い、ml当たりの細菌数は混釈平板法を用いて測定した。
【0079】
2つの大きなアッセイプレートを準備し、140 mlのミューラー−ヒントン寒天をその大きなアッセイプレートに均一に添加し、乾燥させた(15分間)。さらなる寒天140mlに、対応する試験菌を播き、前記寒天層の上に注いだ。寒天が固まったら(15分間)、蓋を除去して、プレートを37℃で30分間乾燥させた。
3通り、実施例14〜16より得られた栓状物を、各プレート上に円形面を下向きに置いた。次に、プレートを密封し、37℃で24時間インキュベートした。除去された細菌ゾーンの直径を、ノギスを用いて測定した。
【0080】
【表1】

【0081】
各場合で、凝固した栓状物は、細菌除去ゾーンを作り出した。
【0082】
[実施例19]
標準の綿棒(x8)を、蒸留水中に作った塩化金(III)溶液(35 mg/ml)中に浸漬した。綿棒を取り出し、室温で風乾させ、塩化金(III)コーティングを得た。対照(x8)を、塩化金(III)なしで調製した。この綿棒を、2ml容量のエッペンドルフチューブ中に入れた400μlの慢性外傷からの液体中に個別に浸漬し、綿棒をそのままに14時間置いた。この時間の後、綿棒を取り出し、エッペンドルフチューブに蓋をして倒置した。金化合物を浸漬した綿棒のセットに対しては、液体は凝固によって非流動化された。対照セットについては、液体は通常通り流動した。この金化合物を浸漬した綿棒は、凝固によって、外傷からの液体の動きを止める。
【0083】
[実施例20]
酸化金(III)を含浸させた親水性ポリウレタンフィルム
親水性ポリウレタンHPU25(Smith & Nephew Medical Limited社)を最小体積のテトラヒドロフランに溶かして、フィルムを広げるのに適した粘度にした。100 mgの酸化金(III)粉末(Aldrich Chemical社)を混合によって、溶媒を含むポリウレタン中に分散した。
得られたものを約100μmの厚さのフィルムに広げ、残存溶媒を蒸発させた。得られたフィルムは、医療用デバイス用途に対して適したしっかりしたものであり、透明なピンク色であり、コロイド状金化学種の存在を示した。
金を含まないブランクのフィルムを同様の方法によって調製した。
【0084】
[実施例21]
2cm角の実施例20で調製したフィルムを、抗菌活性について試験した。
シュードモナス アエルギノーザ(Pseudomonas aeruginosa) NCIMB 8626と、スタフィロッコッカス アウレウス(Staphylococcus aureus)NCTC 10788を集菌した。順次の1:10希釈を行って、108細菌/mlの最終濃度にした。接種計数のために、さらなる希釈を10-8細菌/mlまで行い、ml当たりの細菌数は混釈平板法を用いて測定した。
【0085】
2つの大きなプレートを準備し、140 mlのミューラー−ヒントン寒天をその大きなアッセイプレートに均一に添加し、乾燥させた(15分間)。さらなる寒天140mlに、対応する試験菌を播き、前の寒天層の上に注いだ。寒天が固まったら(15分間)、蓋を除去して、プレートを37℃で30分間乾燥させた。
3通り、実施例20で調製したフィルムを、各プレート上に置いた。次に、プレートを密封し、37℃で24時間インキュベートした。除去された細菌ゾーンの大きさを、ノギスを用いて測定し、3つを平均した。
【0086】
【表2】

【0087】
24時間の試験期間の間に、初期のピンク色のフィルムは黄色に変化し、コロイド状金化学種の解離を示し、デバイス失効の簡単な指示をもたらした。
【0088】
[実施例22]
酸化金(III)を含浸させたヒドロゲル
100 mgの酸化金(III)粉末(Aldrich Chemical社)を50 gのIntraSite Gel (Smith & Nephew Medical Limited)中に分散させた。得られた混合物を24時間放置した。得られたゲルは最初のゲルと機械的には異ならないが、透明なピンク色であり、コロイド状金化学種の存在を示していた。
金を含まないブランクフィルムを同じ方法で調製した。
【0089】
[実施例23]
実施例22で調製したヒドロゲルを、抗菌活性について試験した。
シュードモナス アエルギノーザ(Pseudomonas aeruginosa) NCIMB 8626と、スタフィロッコッカス アウレウス(Staphylococcus aureus)NCTC 10788を集菌した。順次の1:10希釈を行って、108細菌/mlの最終濃度にした。接種計数のために、さらなる希釈を、ml当たりの10-8細菌/mlまで行い、混釈平板法を用いて細菌数を測定した。
【0090】
2つの大きなプレートを準備し、140 mlのミューラー−ヒントン寒天をその大きなアッセイプレートに均一に添加し、乾燥させた(15分間)。さらなる寒天140mlに、対応する試験菌を播き、前の寒天層の上に注いだ。寒天が固まったら(15分間)、蓋を除去して、プレートを37℃で30分間乾燥させた。8 mmの栓状物を、生体検査用パンチによってプレートから取り除いた。
3通り、実施例22で調製したゲル200μlを、1ml容量のシリンジによって各プラグホール上に置いた。次に、プレートを密封し、37℃で24時間インキュベートした。除去された細菌ゾーンの大きさを、ノギスを用いて測定し、3つを平均した。
【0091】
【表3】

【0092】
[実施例24]
酸化金(III)粉末(10 mg)と酸化銀(I)粉末(1 mg)を、リン酸緩衝生理食塩水(pH 7.4)中に作製したウシ血清アルブミン(100μl、40 mg/ml)の溶液に添加した。
この酸化物粉末を、容器(0.5 ml容量のエッペンドルフチューブ)の底に置き、2時間乱すことなく放置した。
この時間の後、数ミリメートルの厚さの凝固した不透明な塊が、酸化物粉末に接触して形成された。
酸化銀(I)などの銀酸化物は、タンパク質含有液体中に顕著に溶け、そのように形成された銀水酸化物種は、酸化金(III)の溶解速度を速める働きをすることが分かった。このことは、タンパク質含有溶液中への酸化金(III)の溶解速度を決定するための、あるパーセント割合の銀酸化物の適用の有用性を示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパク質含有液体の凝固剤を含むデバイス又は組成物であって、前記凝固剤が、タンパク質含有液体中に可溶性である無機成分を含む、デバイス又は組成物。
【請求項2】
前記タンパク質含有液体が体液を含む、請求項1記載のデバイス又は組成物。
【請求項3】
前記無機成分が金属を含む、請求項1又は2に記載のデバイス又は組成物。
【請求項4】
前記無機成分が金属化合物を含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載のデバイス又は組成物。
【請求項5】
前記金属が金である、請求項3又は4に記載のデバイス又は組成物。
【請求項6】
前記金属化合物が、金属塩化物、金属臭化物、金属ヨウ化物、金属酸化物、及び金属水酸化物からなる群から選択される、請求項4に記載のデバイス又は組成物。
【請求項7】
前記金属化合物が、水性媒体中もしくは水性媒体と相溶性の溶媒混合物中に易溶性である、又は水性媒体中もしくは水性媒体と相溶性の溶媒混合物中に部分的に可溶性である、又は水性媒体中もしくは水性媒体と相溶性の溶媒混合物中に難溶性である、請求項4〜6のいずれか一項に記載のデバイス又は組成物。
【請求項8】
前記金化合物が、臭化金(III)、ヨウ化金(III)、ヨウ化金(I)、塩化金(III)、塩化金酸、酸化金(III)、及び水酸化金(III)からなる群から選択される、請求項5〜7のいずれか一項に記載のデバイス又は組成物。
【請求項9】
前記金化合物が、溶液中で溶媒和された金化学種を生じる、請求項8に記載のデバイス又は組成物。
【請求項10】
前記溶媒和された金化学種が原子クラスター種である、請求項9に記載のデバイス又は組成物。
【請求項11】
前記溶媒和された金化学種がコロイド種である、請求項9又は10に記載のデバイス又は組成物。
【請求項12】
複数の金化合物を含む、請求項5〜11のいずれか一項に記載のデバイス又は組成物。
【請求項13】
前記金化合物(1種以上)が、金、その他の金属、その他の金属化合物、及び有機化合物からなる群から選択される物質との混合物である、請求項5〜11のいずれか一項に記載のデバイス又は組成物。
【請求項14】
前記有機化合物が、薬理学的活性化合物、タンパク質、ポリマー、及びその他の複雑な合成もしくは天然物質からなる群から選択される、請求項13に記載のデバイス又は組成物。
【請求項15】
前記金化合物(1種以上)が、金、銀、及び/又は銀化合物と混合されている、請求項5〜14のいずれか一項に記載のデバイス又は組成物。
【請求項16】
前記組成物が、金、金酸化物、銀、及び銀酸化物の混合物を含む、請求項5〜15のいずれか一項に記載のデバイス又は組成物。
【請求項17】
前記銀酸化物が、酸化銀(I)、酸化銀(I, III)、酸化銀(II, III)、又は酸化銀(III)である、請求項16に記載のデバイス又は組成物。
【請求項18】
前記組成物が、酸化金(III)及び酸化銀(I)の混合物を含む、請求項5〜17のいずれか一項に記載のデバイス又は組成物。
【請求項19】
前記組成物が、酸化金(III)及び酸化銀(I, III)の混合物を含む、請求項5〜17のいずれか一項に記載のデバイス又は組成物。
【請求項20】
前記タンパク質含有液体が単一のタンパク質を含む、請求項1〜19のいずれか一項に記載のデバイス又は組成物。
【請求項21】
前記タンパク質含有液体が複数のタンパク質を含む、請求項1〜19のいずれか一項に記載のデバイス又は組成物。
【請求項22】
前記タンパク質含有液体が、全血、血清、血漿、間質液、滑液、リンパ液、傷からの滲出液、精液、唾液、脊髄液、及び眼液からなる群から選択される、請求項1〜21のいずれか一項に記載のデバイス又は組成物。
【請求項23】
前記デバイス又は組成物が抗菌性障壁をもたらす、請求項1〜22のいずれか一項に記載のデバイス又は組成物。
【請求項24】
前記デバイス又は組成物が湿気のある環境をもたらす、請求項1〜23のいずれか一項に記載のデバイス又は組成物。
【請求項25】
前記デバイス又は組成物が抗炎症効果をもたらす、請求項1〜24のいずれか一項に記載のデバイス又は組成物。
【請求項26】
前記デバイス又は組成物が、色変化によって耐用時間を自ら示す、請求項1〜25のいずれか一項に記載のデバイス又は組成物。
【請求項27】
前記デバイスが多孔質構造である、請求項1〜26のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項28】
前記デバイスが、フィルム包帯、フォーム、又はゲルである、請求項1〜27のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項29】
基材に適用された、請求項1〜26のいずれか一項に記載のいずれかの組成物の1以上の層を含む、請求項1〜28のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項30】
前記組成物が、液体、ゲル、又は固体である、請求項1〜26のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項31】
請求項1〜29のいずれか一項に記載のデバイスを用いて作られる、タンパク質含有液体の凝固物。
【請求項32】
請求項1〜26又は30のいずれか一項に記載の組成物を用いて作られる、タンパク質含有液体の凝固物。
【請求項33】
請求項31又は32に記載の、タンパク質含有液体の凝固物を含むデバイス又は組成物。
【請求項34】
タンパク質含有液体の凝固のための、請求項1〜29又は33のいずれか一項に記載のデバイスの使用。
【請求項35】
タンパク質含有液体の凝固のための、請求項1〜26又は30のいずれか一項に記載の組成物の使用。
【請求項36】
実質的に上述したとおりのデバイス又は組成物。
【請求項37】
実質的に上述したとおりのデバイス又は組成物の使用。
【請求項38】
実質的に上述したとおりのデバイス又は組成物を用いて作られた、タンパク質含有液体の凝固物。

【公表番号】特表2008−526941(P2008−526941A)
【公表日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−550848(P2007−550848)
【出願日】平成18年1月17日(2006.1.17)
【国際出願番号】PCT/GB2006/000133
【国際公開番号】WO2006/077386
【国際公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【出願人】(391018787)スミス アンド ネフュー ピーエルシー (79)
【氏名又は名称原語表記】SMITH & NEPHEW PUBLIC LIMITED COMPANY
【Fターム(参考)】