説明

タンパク質安定化方法

【課題】タンパク質の安定性が低下する原因の一つである、アスパラギン等のアミノ酸が時間の経過と共に徐々に脱アミド化されることを抑制し、タンパク質中の脱アミド化されるアミノ酸に隣接するアミノ酸を他のアミノ酸で置換することを特徴とするタンパク質の安定化方法を提供する。
【解決手段】アスパラギンに隣接するグリシンを他のアミノ酸に置換すれば抗体の活性に影響を与えずに、抗体の脱アミド化を抑制しうる。
【効果】抗体に対して適用することにより、活性低下の少ない抗体を製造することができ、長時間にわたる安定性が求められる医学的製剤等においても使用できる抗体が得られる。また、抗体以外のタンパク質に対しても適用することが可能であり、これによりタンパク質の活性に影響を与えずに、脱アミド化を抑制しうる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はタンパク質の安定性を改良する方法に関する。具体的には、タンパク質中の脱アミド化されるアミノ酸に隣接するアミノ酸を他のアミノ酸で置換することを特徴とするタンパク質の安定化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タンパク質の安定性が低下する原因の一つとして、タンパク質に含まれるアスパラギン等のアミノ酸が時間の経過と共に徐々に脱アミド化されることが挙げられる。タンパク質の中でも、特に抗体を医学的製剤として様々な疾患に対して用いる場合には、長時間安定であることが必要とされるが、実際には時間の経過と共に抗体の活性は低下していく。活性低下の原因は様々であるが、この場合も原因の一つとして抗体に含まれるアスパラギン等のアミノ酸が脱アミド化されることが挙げられる。
【0003】
したがって、アスパラギンの脱アミド化を抑制すれば、タンパク質を安定化できることから、アスパラギンの脱アミド化を抑制する研究が行われている。アスパラギンの脱アミド化を防ぐには、部位特異的変異によってアスパラギンを他のアミノ酸に置換する方法が最も確実な方法として考えられるが、該置換がタンパク質の活性へ影響を及ぼす可能性がある。例えば、アスパラギンが抗体の相補性決定領域(complementary determining region;CDR)に存在する場合には、該置換が抗体の結合活性に影響を与えてしまうことが報告されている(Presta L, et al: Thromb Haemost 85:379-389, 2001;非特許文献1)。また、内因性血液凝固反応において組織因子(tissue factor;TF)を介した第X因子の活性化を阻害することにより、外因性血液凝固反応を抑制せずに血栓形成を抑制することが期待されている抗ヒトTF抗体が知られているが(国際公開公報第99/51743号;特許文献1)、製剤処方されておらず、抗体が不安定化するような条件下では、その活性も時間の経過と共に低下し、その要因として抗ヒトTF抗体の脱アミド化が推測されている。
【0004】
そこで、抗体の活性に影響を与えずにアスパラギンの脱アミド化を抑制する方法が望まれていた。
【特許文献1】国際公開公報第99/51743号
【非特許文献1】Presta L, et al: Thromb Haemost 85:379-389, 2001
【発明の開示】
【0005】
タンパク質の活性低下は、医学的・薬学的見地から非常に重要な問題である。特に抗体に関しては、医学的製剤として用いることのできる長時間安定な抗体が、臨床的に必要とされている。特に抗体の活性低下の原因の一つである、抗体に含まれるアスパラギン等のアミノ酸の経時的脱アミド化、主に、脱アミド化されやすいAsn-Gly配列中のアスパラギンの脱アミド化を抑制することが、抗体を安定化するために求められる。
【0006】
従来、タンパク質のアミノ酸改変による脱アミド化抑制方法は、製剤処方の選択肢を増やすことにより、多様な剤形・投与経路への適応を容易にし、医薬品の価値や品質等の向上を図るためには有用な技術である。そこで本発明は、タンパク質、特に抗体の活性に影響を与えずにアスパラギンの脱アミド化を抑制する方法を提供することを目的とする。
【0007】
本発明者らは、タンパク質の活性に影響を与えずにアスパラギンの脱アミド化を抑制する手法の開発において、タンパク質の一例として医薬としての利用が期待されている抗ヒトTF抗体に着目して鋭意研究を行った。まず、抗ヒトTF抗体のCDRに存在し、脱アミド化する可能性のあるアスパラギンをアスパラギン酸に置換した変異抗ヒトTF抗体を組換え体として発現させたところ、抗ヒトTF抗体重鎖(H鎖)のCDR2領域に存在するAsn54が脱アミド化されることにより、抗ヒトTF抗体のTF結合活性が著しく低下することが示唆された。抗ヒトTF抗体重鎖のCDR2領域のAsn54に隣接するアミノ酸はGly55であり、これら2アミノ酸は脱アミド化が容易に起きやすいAsn-Glyという一次配列をとっていることから、このGly55を他のアミノ酸に置換することで、Asn54の脱アミド化を抑制できる可能性を考えた。そこで、本発明者らは、アスパラギンに隣接するグリシンを他のアミノ酸に置換した変異体を調製し、その変異体の結合活性の測定を行った。その結果、アスパラギンに隣接するグリシンを他のアミノ酸に置換しても活性は低下せず、なおかつ脱アミド化による公知の不安定化を抑制できることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明者らは、アスパラギンの置換を行う代わりに、アスパラギンに隣接するグリシンを他のアミノ酸に置換すれば、抗体の活性に影響を与えないことを見出し、本発明を完成した。
【0009】
本発明は、より詳細には、
(1) タンパク質中の脱アミド化されるアミノ酸に隣接するアミノ酸を他のアミノ酸で置換することを特徴とするタンパク質の安定化方法、
(2) 脱アミド化されるアミノ酸がアスパラギンである、(1)に記載のタンパク質の安定化方法、
(3) 脱アミド化されるアミノ酸のC末端側に隣接するアミノ酸がグリシンである、(1)に記載のタンパク質の安定化方法、
(4) タンパク質が抗体である、(1)から(3)のいずれかに記載のタンパク質の安定化方法、
(5) 抗体がヒト型化抗体である、(4)に記載のタンパク質の安定化方法、
(6) 脱アミド化されるアミノ酸が相補性決定領域(CDR)に存在することを特徴とする、(4)または(5)に記載のタンパク質の安定化方法、
(7) 相補性決定領域(CDR)がCDR2である(6)記載のタンパク質の安定化方法、
(8) タンパク質が抗原結合タンパク質である、(1)から(3)のいずれかに記載のタンパク質の安定化方法、
(9) タンパク質が免疫グロブリンスーパーファミリーである、(1)から(3)のいずれかに記載のタンパク質の安定化方法、
(10) タンパク質が医薬品である、(1)から(3)いずれかに記載のタンパク質安定化方法、
(11) (1)から(10)のいずれかに記載の方法により安定化されたタンパク質、
(12) 抗原結合活性がアミノ酸置換前の抗原結合活性の70%以上であることを特徴とする、(11)記載の安定化されたタンパク質、
を提供するものである。
【0010】
以下に本明細書に規定された用語の定義を示すが、これらは、本明細書中で使用される用語を理解を容易にする目的で記載されたものであり、本発明を限定する目的で用いられるべきではないことは理解されたい。
【0011】
本明細書中の「タンパク質」という用語は、5アミノ酸以上の、組換えタンパク質、天然のタンパク質、およびアミノ酸同士を人工的に結合して調製された合成ペプチドを意味する。タンパク質は、好ましくは14残基以上、さらに好ましくは30残基以上、さらに好ましくは50残基以上のアミノ酸配列からなる。
【0012】
本発明の安定化方法における「抗体」という用語は、最も広い意味で使用され、所望の生物学的活性を示す限り、モノクローナル抗体(全長モノクローナル抗体を含む)、ポリクローナル抗体、抗体変異体、抗体断片(例えば、Fab、F(ab')2およびFv)、ならびに多特異性抗体(例えば、二特異性抗体)等が含まれる。抗体(Ab)および免疫グロブリン(Ig)は同じ構造特性を有する糖タンパク質である。抗体が特定の抗原に対する特異的結合性を示すのに対して、免疫グロブリンには、抗体および抗原特異性を欠く他の抗体様分子が含まれる。天然の抗体および免疫グロブリンは、一般的に約150,000ダルトンのヘテロ四量体であり、2本の同じ軽鎖(L鎖)および2本の同じ重鎖から成る。各軽鎖は、重鎖に1つの共有ジスルフィド結合により連結されているが、重鎖間のジスルフィド結合の数は、免疫グロブリンのアイソタイプの種類によって異なる。重鎖および軽鎖はまた、それぞれ一定間隔の鎖内ジスルフィド橋を有する。各重鎖は一つの末端に可変領域(VH)を有し、それに連結された多数の定常領域を有する。各軽鎖は一方の末端に可変領域(VL)を有し、他方の末端に定常領域を有する。軽鎖の定常領域は重鎖の最初の定常領域と並んでおり、軽鎖の可変領域は重鎖の可変領域と並んでいる。特定のアミノ酸残基が軽鎖および重鎖の可変領域のインターフェイスを形成していると考えられている(Chothia C, et al: J Mol Biol 186:651-663, 1985、Novotny J, Haber E: Proc Natl Acad Sci USA 82:4592-4596, 1985)。
【0013】
脊椎動物種由来の抗体(免疫グロブリン)の軽鎖は、その定常領域のアミノ酸配列に基づき、カッパ(κ)とラムダ(λ)と呼ばれる2つの明らかに異なる型に分類できる。また、「免疫グロブリン」は、重鎖の定常領域のアミノ酸配列に基づき、異なるクラスに分類できる。免疫グロブリンには、少なくとも5つの主要なクラス、IgA、IgD、IgE、IgGおよびIgMが存在し、そしてさらに、これらのうちのいくつかはサブクラス(アイソタイプ)、例えば、IgG-1、IgG-2、IgG-3およびIgG-4や、IgA-1およびIgA-2に分類することができる。異なるクラスの重鎖定常領域は、各々α、δ、ε、γ、およびμと呼ばれる。各クラスの免疫グロブリンのサブユニット構造および三次元構造は周知である。
【0014】
本明細書中の「モノクローナル抗体」という用語は、実質的に均質な抗体の集団、すなわち、集団を構成する個々の抗体が、天然において起こり得る少量で存在する変異体を除いては均一である抗体集団から得られた抗体を指す。モノクローナル抗体は高度に特異的であり、単一の抗原部位に対して作用するものである。さらに、異なる抗原決定基(エピトープ)に対する異なる抗体を典型的には含む慣用な(ポリクローナル)抗体調製物と比べて、各モノクローナル抗体は、抗原上の単一の抗原決定基に向けられる。その特異性に加えて、モノクローナル抗体は、他の免疫グロブリンにより汚染されていないハイブリドーマ培養により合成される点で有利である。
【0015】
「モノクローナル」という修飾語は、実質的に均一な抗体の集団より得られた抗体の特性を示唆するものであって、抗体が特定の方法により製造されることを要求するものではない。例えば、本発明において用いられるモノクローナル抗体を、例えばハイブリドーマ法(Kohler G, Milstein C: Nature 256:495-497, 1975)、または、組換え方法(米国特許第4,816,567号)により製造してもよい。本発明において使用するモノクローナル抗体はまた、ファージ抗体ライブラリーから単離してもよい(Clackson T, et al: Nature 352:624-628, 1991、Marks JD, et al: J Mol Biol 222:581-597, 1991)。本明細書中のモノクローナル抗体には、特に、重鎖および/または軽鎖の一部が特定の種、または特定の抗体クラスもしくはサブクラス由来であり、鎖の残りの部分が別の種、または別の抗体クラスもしくはサブクラス由来である「キメラ」抗体(免疫グロブリン)、ならびに、所望の生物学的活性を有する限り、このような抗体の断片が含まれる(米国特許第4,816,567号、Morrison SL, et al: Proc Natl Acad Sci USA 81:6851-6855, 1984)。
【0016】
「抗体変異体」という用語は、1またはそれ以上のアミノ酸残基が改変された、抗体のアミノ酸配列バリアントを指す。どのように改変されたアミノ酸バリアントであっても、元となった抗体と同じ結合特異性を有すれば、本明細書中の「抗体変異体」に含まれる。このような変異体は、抗体の重鎖もしくは軽鎖の可変領域のアミノ酸配列と少なくとも75%、より好ましくは少なくとも80%、さらに好ましくは少なくとも85%、さらにより好ましくは少なくとも90%、そして最も好ましくは少なくとも95%のアミノ酸配列相同性または類似性を有するアミノ酸配列と100%よりも少ない配列相同性、または類似性を有する。本発明の方法は、抗体およびその断片の両ポリペプチドに対して等しく適用されるので、これらの用語はときどき交代して使用される。
【0017】
「抗体断片」という用語は全長抗体の一部のことであり、一般に抗原結合領域または可変領域を指す。例えば、抗体断片にはFab、Fab'、F(ab')2およびFv断片が含まれる。抗体のパパイン消化により、Fab断片と呼ばれる、各1つずつの抗原結合部位を有する2つの同じ抗原結合断片、および残りの、容易に結晶化するために「Fc」と呼ばれる断片が生じる。また、ペプシン消化により、2つの抗原結合部位を有し、抗原を交差結合し得るF(ab')2断片、および残りの別な断片(pFc'と呼ばれる)が得られる。その他の断片としては、diabody(diabodies)、線状抗体、一本鎖抗体分子および抗体断片より形成された多特異性抗体が含まれる。本明細書中、抗体の「機能性断片」とはFv、F(ab)およびF(ab')2断片を指す。
【0018】
ここで、「Fv」断片は最小の抗体断片であり、完全な抗原認識部位と結合部位を含む。この領域は1つの重鎖および軽鎖の可変領域が非共有結合により強く連結されたダイマーである(VH-VLダイマー)。各可変領域の3つのCDRが相互作用し、VH-VLダイマーの表面に抗原結合部位を形成する。6つのCDRが抗体に抗原結合部位を付与している。しかしながら、1つの可変領域(または、抗原に特異的な3つのCDRのみを含むFvの半分)であっても、全結合部位よりも親和性は低いが、抗原を認識し、結合する能力を有する。
【0019】
また、Fab断片(F(ab)とも呼ばれる)はさらに、軽鎖の定常領域および重鎖の定常領域(CH1)を含む。Fab'断片は、抗体のヒンジ領域からの1またはそれ以上のシステインを含む重鎖CH1領域のカルボキシ末端由来の数個の残基を付加的に有する点でFab断片と異なっている。Fab'-SHとは、定常領域の1またはそれ以上のシステイン残基が遊離のチオール基を有するFab'を示すものである。F(ab')断片は、F(ab')2ペプシン消化物のヒンジ部のシステインにおけるジスルフィド結合の切断により製造される。化学的に結合されたその他の抗体断片も当業者には知られている。
【0020】
「diabody(diabodies)」という用語は、2つの抗原結合部位を有する小さな抗体断片を指し、該断片は、同じポリペプチド鎖中で軽鎖可変領域(VL)に連結された重鎖可変領域(VH)、VH-VLを含む。同じ鎖中で2つの領域間を結合できないくらいに短いリンカーを用いると、2つの領域はもう一方の鎖の定常領域とペアを形成し、2つの抗原結合部位が創り出される。Diabodyについては、例えば欧州特許第404,097号、国際公開公報第93/11161号およびHolliger P, et al(Proc Natl Acad Sci USA 90:6444-6448, 1993)により詳細に記載されている。
【0021】
一本鎖抗体(以下、一本鎖FvもしくはsFvとも呼ぶ)またはsFv抗体断片には、抗体のVHおよびVL領域が含まれ、これらの領域は単一のポリペプチド鎖中に存在する。一般に、FvポリペプチドはさらにVHおよびVL領域の間にポリペプチドリンカーを含んでおり、これによりsFvは、抗原結合のために必要な構造を形成することができる。sFvの総説については、Pluckthun『The Pharmacology of Monoclonal Antibodies』Vol.113(Rosenburg and Moore ed (Springer Verlag, New York) pp.269-315, 1994)参照。
【0022】
多特異性抗体は、少なくとも2種類の異なる抗原に対して特異性を有する抗体である。通常、このような分子は2個の抗原を結合するものであるが(すなわち二重特異性抗体)、本明細書中では「多特異性抗体」は、それ以上(例えば、3種類の)抗原に対して特異性を有する抗体を包含するものである。多特異性抗体は全長から成る抗体、またはそのような抗体の断片(例えば、F(ab')2二特異性抗体)であり得る。
【0023】
本発明の「ヒト型化抗体」とは、遺伝子工学的に作製される抗体であって、具体的には、その超可変領域のCDRの一部または全部が非ヒト哺乳動物(マウス、ラット、ハムスター等)のモノクローナル抗体に由来する超可変領域のCDRであり、その可変領域の枠組領域がヒト免疫グロブリン由来の可変領域の枠組領域であり、かつその定常領域がヒト免疫グロブリン由来の定常領域であることを特徴とする抗体を意味する。ここで、超可変領域のCDRとは、抗体の可変領域中の超可変領域に存在し、抗原と相補的に直接結合する3つの領域(CDR1、CDR2、CDR3)を指す。また、可変領域の枠組領域とは、前記3つのCDRの前後に介在する比較的保存された4領域(framework region;FR1、FR2、FR3、FR4)のことを指す。すなわち、本発明の「ヒト型化抗体」とは、非ヒト哺乳動物由来のモノクローナル抗体の超可変領域のCDRの一部または全部以外のすべての領域が、ヒト免疫グロブリンの対応領域と置換された抗体を意味する。
【0024】
さらに、ヒト化抗体は、レシピエント抗体にも導入されたCDRまたは枠組構造配列のどちらにも見られない残基を含んでいてもよい。これらの改変は、さらに抗体の能力を正確に至適化するために行われる。一般に、すべてのヒト化抗体は、少なくとも1つ、典型的には2つの可変領域を実質的に含む。その中で、すべて、または実質的にすべてのCDR領域は、非ヒト免疫グロブリンのCDRに対応し、全部または実質的に全部のFRはヒト免疫グロブリン可変領域のものである。最適には、ヒト化抗体はさらに、典型的にはヒト免疫グロブリンの定常領域の少なくとも一部を含むであろう。さらなる詳細については、Jones PT, et al(Nature 321:522-525, 1986)、Riechmann L, et al(Nature 332:323-327, 1988)およびPresta, et al(Curr Op Struct Biol 2:593-596, 1992)参照のこと。
【0025】
抗体の可変領域における「可変」という用語は、可変領域中のある部分が抗体間で非常に異なっており、各特定の抗体のその特定の抗原に対する結合および特異性において使用されていることを指す。可変な部分は、軽鎖および重鎖の両可変領域中のCDRまたは超可変領域と呼ばれる3つの部分に集中している。CDRを決定するためには、少なくとも次の2つの方法がある:(1)種間配列変異性に基づく手法(すなわち、Kabat, et al: Sequence of Proteins of Immunological Interest (National Institute of Health, Bethesda) 1987)および(2)抗原-抗体複合体の結晶学的研究に基づいた手法(Chothia C, et al: Nature 342:877-883, 1989)。可変領域の中でより高度に保存された部分は、FRと呼ばれる。天然の重鎖および軽鎖の可変領域は、主としてβシート構造を持ち、3つのループ状連結を形成し、場合によってはβシート構造の部分を形成するCDRにより連結された4つのFRを含む。各鎖中のCDRは、FRによりもう一方の鎖のCDRと非常に近接して保持され、抗体の抗原結合部位の形成に一役買っている(Kabat, et al、参照)。定常領域は、抗体の抗原への結合には直接関与していないが、抗体の抗体依存細胞毒性への参加等の種々のエフェクター機能を示す。
【0026】
ヒト免疫グロブリン由来の定常領域は、IgG(IgG1、IgG2、IgG3、IgG4)、IgM、IgA、IgDおよびIgE等のアイソタイプごとに固有のアミノ酸配列を有しているが、本発明において該ヒト型化抗体の定常領域は、いずれのアイソタイプに属する抗体の定常領域であってもよい。好ましくは、ヒトIgGの定常領域が用いられる。また、ヒト免疫グロブリン由来の可変領域のFRについても特に限定されない。
【0027】
本明細書中の「抗原」には、免疫原性を有する完全抗原と、免疫原性を有さない不完全抗原(ハプテンを含む)の両方が含まれる。抗原としては、タンパク質、ポリペプチド、多糖、核酸、脂質等の物質が挙げられ、その種類は特に限定されない。抗体を調製する際の免疫原としては、場合により他の分子に結合させた可溶性抗原またはその断片を、抗体を産生するための免疫原として用いることができる。受容体等の膜貫通分子については、これらの断片(例えば、受容体の細胞外領域)を免疫原として用いることができる。また、膜貫通分子を発現する細胞を免疫原として用いてもよい。このような細胞は、天然(例えば、腫瘍細胞株)でもよく、または膜貫通分子を発現するように組換え技術により形質転換した細胞でもよい。抗体の調製には、その他の当業者に公知のいずれの形態の抗原をも使用し得る。
【0028】
本明細書中でいう「抗原結合タンパク質」は、抗原との結合能を有するタンパク質のことをさす。
【0029】
本明細書中でいう「免疫グロブリンスーパーファミリー」とは免疫グロブリンの定常または可変ドメインと相同性のあるドメインを一つあるいは複数個含むという構造上の特徴をもつタンパク質である。免疫グロブリンスーパーファミリーには、免疫グロブリン(H鎖、L鎖)、T細胞レセプター(α鎖、β鎖、γ鎖、δ鎖)、MHCクラスI分子(α鎖)、βミクログロブリン、MHCクラスII分子(α鎖、β鎖)、CD3(γ鎖、δ鎖、ε鎖)、CD4、CD8(α鎖、β鎖)、CD2、CD28、LFA−3、ICAM−1、ICAM−2、VCAM−1、PECAM−1、FレセプターII、polyIgレセプター、Thy−1、NCAM、MAG(myelin-associated glycoprotein)、Po、CEA(carcinoembryonic antigen)、PDGFレセプターなどが含まれる。
【0030】
本明細書中でいう「医薬品」とは、疾病や怪我などの治療や予防、体質の改善などの目的で動物に投与される物質のことをいう。
【0031】
1.タンパク質の安定化のためのアミノ酸の改変
本発明は、タンパク質中の脱アミド化されるアミノ酸に隣接するアミノ酸を他のアミノ酸で置換することを特徴とするタンパク質の安定化方法を提供する。本発明において安定化の対象となるタンパク質には、特に制限はない。好適なタンパク質の一例として抗体が挙げられる。抗体としては、医薬としての有用性の観点からヒト化抗体又はヒト抗体が好ましい。
【0032】
タンパク質中の脱アミド化されるアミノ酸としては、アスパラギン以外にもグルタミンが知られている(Scotchler JW, Robinson AB: Anal Biochem 59:319-322, 1974)。5アミノ酸からなるペプチドで比較すると、アスパラギンの半減期が6〜507日であるのに対して、グルタミンの半減期は96〜3409日である。すなわち、グルタミンの脱アミド化反応速度はアスパラギンに比べて非常に遅い(Bischoff R, Kolbe HVJ: J Chromatogr B 662:261-278, 1994)。抗体製剤に関しては、グルタミンの脱アミド化は検出されていない(Harris RJ, Kabakoff B, Macchi FD, Shen FJ, Kwong M, Andya JD, et al: J Chromatogr B 752:233-245, 2001)。しかし、生体内での脱アミド化反応は製剤中よりも加速されることが予想されるため(Robinson NE, Robinson AB: Proc Natl Acad Sci USA 98:12409-12413, 2001)、生体内半減期の長い抗体製剤を開発する場合には、アスパラギンに加えてグルタミンの脱アミド化を抑制することが必要となると考えられる。脱アミド化されるアミノ酸は、好ましくはアスパラギンである。
【0033】
タンパク質中の脱アミド化されるアミノ酸に隣接し、置換しうるアミノ酸としては、グリシン以外のアミノ酸も考えられる(Robinson NE, Robinson AB: Proc Natl Acad Sci USA 98:4367-4372, 2001)。しかしながら、特にグリシンはアスパラギンの脱アミド化を引き起こすことが知られている。脱アミド化されるアミノ酸に隣接するアミノ酸は、好ましくはグリシンである。
【0034】
一般に、CDRにあるアミノ酸を置換すると抗体の活性が失活するが、CDRに存在するアスパラギンに隣接するアミノ酸を他のアミノ酸で置換しても抗体の活性は維持され、安定性を改善できることが発明者らにより見出された。したがって、本発明においては、CDRのアスパラギンに隣接するアミノ酸を他のアミノ酸への置換の標的とすることが、効果的である。アスパラギンに隣接するアミノ酸としては、グリシンが置換の標的に適しており、特に脱アミド化されやすい「Asn-Gly」配列中に存在するグリシンは、最も好適な標的である。
【0035】
本発明においては、タンパク質の安定性および生物学的活性を低下させない限り、上記の脱アミド化されるアミノ酸に隣接するアミノ酸に加えて、それ以外の1もしくは複数のアミノ酸を改変してもよい。タンパク質が抗体である場合、その生物学的活性とは、抗原と特異的に結合する活性を指す。アミノ酸の改変は、タンパク質の性質を保持させる観点から、保存的置換であることが好ましい。
【0036】
タンパク質のアミノ酸の改変は、タンパク質をコードする遺伝子配列を組み換える方法で行うことができる。遺伝子の組換えには、一般的に知られている手法を用いることができる。
【0037】
タンパク質が抗体である場合、そのアミノ酸の改変は、以下のように行うことができる。例えば、抗体の1または複数の超可変領域において、1または複数のアミノ酸残基が改変されたバリアント抗体または変異体を作製することができる。それに加えて、抗体配列に変異を加えることによって抗原への抗体変異体の結合親和性が改善されるように、哺乳動物抗体の枠組構造残基に、1または複数の変異(例えば、置換)を導入することができる。改変できる枠組構造残基の例には、抗原に直接、非共有結合により結合する部分(Amit AG, et al: Science 233:747-753, 1986)、CDRの構造に作用する、および/もしくは影響する部分(Chothia C, Lesk AM: J Mol Biol 196:901-917, 1987)、ならびに/または、VL-VH相互作用に関係する部分(欧州特許第239,400,B1号)が含まれる。ある態様では、1または複数のこのような枠組構造残基の改変により、抗原に対する抗体の結合親和性が増幅される。
【0038】
抗体変異体を製造するための有用な方法の一つに「アラニンスキャニング突然変異誘発」(Cunningham BC, Wells JA: Science 244:1081-1085, 1989、Cunningham BC, Wells JA: Proc Natl Acad Sci USA 84:6434-6437, 1991)がある。この方法によると、1もしくはそれ以上の超可変領域残基がアラニン、またはポリアラニン残基により置換され、抗原と該抗原と対応するアミノ酸との相互作用が変化する。置換に対して機能的に感受性を示した超可変領域残基は、その後、置換部位に対してさらに、または別の変異を導入することによってより詳細に区別される。よって、アミノ酸配列変異を導入する部位はあらかじめ決定されているが、変異の種類はあらかじめ決定しておく必要はない。
【0039】
この方法により製造されたala変異体を、その生物学的活性についてスクリーニングする。スキャニングする残基により与えられる所望の性質に依存して、他のアミノ酸について同様の置換を試みることもできる。また、改変するアミノ酸残基をより体系的に同定する方法もある。この方法では、第1の哺乳動物種抗原を結合するのに関与する種特異的抗体中の超可変領域残基、および第2の哺乳動物種の相同抗原の結合に関与する超可変領域残基を同定することができる。これを達成するためには、各ala変異体について第1および第2の哺乳動物種の抗原に対する結合を試験する種特異的抗体の超可変領域残基のアラニン検索を行い、第1の哺乳動物種(例えばヒト)の抗原の結合に関与する超可変領域残基、および第2の哺乳動物種(例えば非ヒト)の抗原の相同体の結合に関与する部分を同定する。好ましくは、第2の哺乳動物種(例えば非ヒト哺乳動物)由来の抗原の結合に明らかに関与するが、第1の哺乳動物種(例えばヒト)由来の抗原の結合には関与しない残基は、改変のための候補となる。別の態様においては、第1および第2の哺乳動物種由来の抗原の結合に明らかに関与する残基が改変のために選択される。このような改変には、残基の欠失、または、1もしくはそれ以上の残基を標的残基に連結させる挿入が含まれるが、通常、改変とは残基を別のアミノ酸に置換することである。
【0040】
アミノ酸配列変異体をコードする核酸分子は、当分野において公知の種々の方法により調製される。これらの方法には、次のものに限定されるわけではないが、種特異的抗体の先に調製した変異体または非変異体バージョンのオリゴヌクレオチド媒介(または部位特異的)変異、PCR変異、およびカセット変異が含まれる。変異体の作製において好ましい方法は、部位特異的変異(Kunkel TA: Proc Natl Acad Sci USA 82:488-492, 1985参照)等である。一般に、生物学的特性の改善された抗体変異体は、少なくとも75%、より好ましくは少なくとも80%、さらにより好ましくは少なくとも85%、より一層好ましくは少なくとも90%、そして、最も好ましくは少なくとも95%のアミノ酸配列相同性または類似性を、元となった抗体の重鎖もしくは軽鎖の可変領域のアミノ酸配列と有する。配列の相同性または類似性は、本明細書中では、配列相同性が最大の値を取るように、必要に応じて配列を整列およびギャップを導入した後の候補配列中の種特異的抗体残基と相同(すなわち、同じ残基)、または類似(すなわち、上述の一般的な側鎖特性に基づいた同じグループのアミノ酸残基)するアミノ酸残基の割合として定義される。
【0041】
代わりに、抗体の重鎖および軽鎖のCDRの系統的な変異により抗体変異体を作製することもできる。このような抗体変異体を作製するための好ましい方法には、ファージディスプレイ(Hawkins RE, et al: J Mol Biol 226:889-896, 1992、Lowman HB, et al: Biochemistry 30:10832-10838, 1991)を用いたアフィニティ成熟(affinity maturation)を利用した方法が含まれる。バクテリオファージコートタンパク質融合(Smith GP: Science 228:1315-1317, 1985、Scott JK, Smith GP: Science 249:386-390, 1990、Cwirla SE, et al: Proc Natl Acad Sci USA 87:6378-6382, 1990、Devlin JJ, et al: Science 249:404-406, 1990、Wells and Lowmanによる総説、Curr Opin Struct Biol 2:597, 1992、米国特許第5,223,409号)は、ディスプレイされたタンパク質またはペプチドの表現型を、それをコードするバクテリオファージ粒子の遺伝子型につなげるのに有用な方法として知られる。また、抗体のF(ab)領域をファージ上にディスプレイする方法も知られる(McCafferty, et al: Nature 348:552, 1990、Barbas, et al: Proc Natl Acad Sci USA 88:7978, 1991、Garrard, et al: Biotechnology 9:1373, 1991)。一価のファージディスプレイは、タンパク質バリアントの一群をバクテリオファージのコートタンパク質との融合体として、数個のファージ粒子についてバリアントの1つのコピーのみが提示されるようにディスプレイする工程を含む(Bass, et al: Proteins 8:309, 1990)。
【0042】
アフィニティ成熟、または、種々のタンパク質の結合親和性の平衡の改善は、以前より、ヒト成長ホルモン(Lowman and Wells, J Mol Biol 234:564-578, 1993、米国特許第5,534,617号)、および、抗体のF(ab)領域(Barbas, et al: Proc Natl Acad Sci USA 91:3809, 1994、Yang, et al: J Mol Biol 254:392, 1995)の例に見られるように突然変異生成、一価ファージディスプレイ、機能分析および好ましい変異の付加により行われている。配列の特定部分が異なる多くの(106個)タンパク質バリアントのライブラリーを、特定のタンパク質バリアントをコードするDNAを各々含むバクテリオファージ粒子上に作製することができる。固定された抗原を用いて何サイクルかアフィニティ精製した後、個々のバクテリオファージクローンを単離し、そのディスプレイされたアミノ酸配列をDNAから類推することができる。
【0043】
2.ポリクローナル抗体の製造
ポリクローナル抗体は好ましくは、関連抗原およびアジュバントの複数の皮下(sc)または腹膜内(ip)注射により非ヒト哺乳動物で作られる。免疫化される種に対して免疫原性のタンパク質、例えば、キーホールリンペットヘモシアニン、血清アルブミン、仔ウシチログロブリン、または大豆トリプシンインヒビターに、例えば、マレイミドベンゾイルスルフォスクシンイミドエステル(システイン残基を介した結合)、N-ヒドロキシスクシンイミド(リシン残基を介した)、グルタルアルデヒド、無水コハク酸、塩化チオニル、もしくはR1N=C=CR(式中、RおよびR1は異なるアルキル基である)等の二機能性の薬剤もしくは誘導剤を用いて関連抗原を結合させることもできる。
【0044】
例えば、100μgもしくは5μgのタンパク質もしくはコンジュゲート(それぞれ、ウサギまたはマウスについての量)を3倍量のFreund's完全アジュバントと合わせ、溶液を複数回、皮内注射することにより、動物を抗原、免疫原性コンジュゲートまたは誘導体に対して免疫化する。一カ月後、動物を元のFreund's完全アジュバント中のペプチドまたはコンジュゲートの1/5〜1/10量を複数の部位に皮下注射することにより追加免疫する。7〜14日後、動物から採血し、血清を抗体力価について分析する。好ましくは、動物の追加免疫の際には、同じ抗原ではあるが異なるタンパク質に、および/または、異なる交差結合試薬を介して結合されたコンジュゲートを用いる。コンジュゲートはまた、組換え細胞培養タンパク質融合により作製することもできる。また、免疫応答を増幅するため、ミョウバン等の凝集剤が好ましくは用いられる。選択された哺乳動物抗体は通常、抗原に対して十分に強い結合親和性を有する。抗体の親和性は、飽和結合、酵素結合イムノソルベント検定法(ELISA)、および競合分析(例えば、放射性免疫分析)により決定することができる。
【0045】
所望のポリクローナル抗体のスクリーニング法としては、Antibodies, A Laboratory Manual(Harlow and David Lane ed (Cold Spring Harbor Laboratory) 1988)に記載されるような慣用の交差結合分析を行うことができる。また、代わりに、例えば、エピトープマッピング(Champe, et al: J Biol Chem 270:1388-1394, 1995)を行ってもよい。ポリペプチドまたは抗体の効力の測定方法として好ましいのは、抗体結合親和性の定量化を用いた方法であるが、その他の態様では、それに加えて、または結合親和性測定に代えて抗体の1もしくはそれ以上の生物学的特性を評価する方法を含む。このような分析法は特に、抗体の治療的な有効性を示すので有用である。通常、必ずしもではないが、このような分析において改善された特性を示す抗体はまた、結合親和性も増幅されている。
【0046】
3.モノクローナル抗体の製造
モノクローナル抗体は単一の抗原部位を認識する抗体であり、均一な特異性により、一般的に多数の異なる抗原部位を認識する抗体を含むポリクローナル抗体よりも有用である。モノクローナル抗体は、ハイブリドーマ法(Kohler, et al: Nature 256:495, 1975)または、組換えDNA法(米国特許第4,816,567号)等により製造することができる。
【0047】
ハイブリドーマ法では、マウス、または、ハムスターもしくはアカゲザル等の他の適当な宿主動物を免疫化に使用したタンパク質に対して特異的に結合する抗体を産生するか、または、産生できるリンパ球を誘導するために上述と同様に免疫化する。また、in vitroにおいてリンパ球を免疫化することもできる。その後、リンパ球をポリエチレングリコール等の適当な融合剤を用いてミエローマ細胞と融合させハイブリドーマ細胞を形成させる(Goding: Monoclonal Antibodies: Principals and Practice (Academic Press) pp.59-103, 1986)。製造されたハイブリドーマ細胞を、好ましくは、未融合の親ミエローマ細胞の生育または成長を阻害する1またはそれより多くの物質を含む適当な培養培地に植え、生育させる。例えば、もし親ミエローマ細胞がヒポキサンチングアニンフォスフォリボシルトランスフェラーゼ酵素(HGPRTまたはHPRT)を欠く場合、そのハイブリドーマのための培養培地には、典型的には、HGRPT欠損細胞の生育を阻止する物質ヒポキサンチン、アミノプテリンおよびチミジンが含まれる(HAT培地)。
【0048】
好ましいミエローマ細胞は、効率的に融合し、選択された抗体産生細胞において、安定で高いレベルで抗体を産生し、そして、HAT培地等の培地に対して感受性の細胞である。これらの中で好ましいミエローマセルラインは、Salk Institute Cell Distribution Center(San Diego, USA)より入手できるMOPC-21およびMPC-11マウス腫瘍由来の細胞、ならびにAmerican Type Culture Collection(Rockville, USA)から入手できるSP-2、またはX63-Ag8-653細胞等のマウスミエローマラインである。ヒトミエローマおよびマウス-ヒトheteromyclomaセルラインも、ヒトモノクローナル抗体の産生に用いられてきた(Kozbar: J Immunol 133:3001, 1984、Brodeur, et al: Monoclonal Antibody Production Techniques and Application (Marcel Dekker Inc, New York) pp.51-63, 1987)。
【0049】
次に、ハイブリドーマ細胞を培養した培地中の、抗原に対するモノクローナル抗体の産生について分析する。好ましくは、ハイブリドーマ細胞により産生されるモノクローナル抗体の結合特異性を、免疫沈降、または放射免疫分析(RIA)もしくは酵素結合イムノソルベント検定法(ELISA)等のin vitro結合分析により測定する。所望の特異性、親和性および/または活性を有する抗体を産生するハイブリドーマ細胞を同定した後、クローンを限定的希釈法によりサブクローニングし、標準的な方法により生育させる(Goding: Monoclonal Antibodies: Principals an Practice (Academic Press) pp.59-103, 1986)。この目的に適した培養培地は、例えば、D-MEMまたはRPMI-1640である。さらに、ハイブリドーマ細胞は、in vivoで動物中の腹水腫瘍として生育させることもできる。サブクローンにより分泌されるモノクローナル抗体は、好ましくは培養培地、腹水液、または血清から、例えば、プロテインA-セファロース、ハイドロキシアパタイトクロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析、またはアフィニティクロマトグラフィー等の慣用な免疫グロブリン精製方法により分離される。
【0050】
モノクローナル抗体をコードするDNAは、慣用な方法、例えばモノクローナル抗体の重鎖および軽鎖をコードする遺伝子に特異的に結合することができるオリゴヌクレオチドプローブを用いることにより容易に単離、配列決定できる。ハイブリドーマ細胞はこのようなDNAの好ましい出発材料である。一度単離したならば、DNAを発現ベクターに挿入し、E.coli細胞、サルCOS細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞または形質転換されなければ免疫グロブリンタンパク質を産生しないミエローマ細胞等の宿主細胞へ組み換え、組換え宿主細胞からモノクローナル抗体を産生させる。また別の態様として、McCafferty, et al(Nature 348:552-554, 1990)により記載された技術を用いて製造された抗体ファージライブラリーより、抗体または抗体断片を単離することができる。Clackson, et al(Nature 352:624-628, 1991)およびMarks, et al(J Mol Biol 222:581-597, 1991)は、各々、ファージライブラリーを用いたマウスおよびヒト抗体の単離について記載する。次の文献は、高親和性(nM範囲)ヒト抗体のチェーンシャッフリングによる製造(Marks, et al: Bio/Technology 10:779-783, 1992)について、そして、巨大なファージライブラリーを構築するための方法としてのコンビナトリアル感染およびin vivo組換え(Waterhouse, et al: Nucl Acids Res 21:2265-2266, 1993)について記載する。これらの技術も、モノクローナル抗体の単離のために従来のモノクローナル抗体ハイブリドーマ技術に代えて利用し得る。
【0051】
DNAはまた、例えば、ヒト重鎖および軽鎖の定常領域のコード配列をそれに対するマウス配列に代えて置換すること(米国特許第4,816,567号; Morrison, et al: Proc Natl Acad Sci USA 81:6851, 1984)、または免疫グロブリンポリペプチドを共有結合により結合させることにより改変することができる。典型的には、このような非免疫グロブリンポリペプチドは、1つの抗原に対して特異性を有する抗原結合部位、および異なる抗原に対して特異性を有する抗原結合部位を有するキメラ二特異性抗体を構築するため、抗体の定常領域で置換するか、または抗体の抗原結合部位の可変領域を置換する。
【0052】
4.抗体断片の製造
従来、抗体断片は天然の抗体のプロテアーゼによる消化により製造されてきた(Morimoto, et al: J Biochem Biophys Methods 24:107-117, 1992、Brennan, et al: Science 229:81, 1985)が、現在は組換え技術により製造することも可能である。例えば、上述の抗体ファージライブラリーから抗体断片を単離することもできる。また、大腸菌等の宿主より直接F(ab')2-SH断片を回収し、F(ab')2断片の形態に化学的結合させることもできる(Carter, et al: Bio/Technology 10:163-167, 1992)。さらにまた別の方法としては、F(ab')2断片を直接、組換え宿主培養物から単離することもできる。その他、一本鎖抗体および一本鎖抗体等の断片の作製方法は当技術分野において周知である(例えば、米国特許第4,946,778号、米国特許第5,260,203号、米国特許第5,091,513号、米国特許第5,455,030号等を参照)。
【0053】
5.多特異性抗体の製造
当分野において多特異性抗体の製造法は公知である。全長の二特異性抗体の産生は、異なる特異性を有する2つの免疫グロブリン重鎖-軽鎖の共発現を含むものである(Millstein, et al: Nature 305:537-539, 1983)。免疫グロブリンの重鎖および軽鎖はランダムに取り合わされるので、共発現を行う得られた複数のハイブリドーマ(クワドローマ)は、各々異なる抗体分子を発現するハイブリドーマの混合物であり、このうち正しい二特異性抗体を産生するものを選択する必要がある。選択はアフィニティクロマトグラフィー等の方法により行うことができる。また、別な方法では所望の結合特異性を有する抗体の可変領域を免疫グロブリンの定常領域配列に融合する。該定常領域配列は、好ましくは免疫グロブリンの重鎖の定常領域のうち、ヒンジ、CH2およびCH3領域の一部を少なくとも含むものである。好ましくは、さらに軽鎖との結合に必要な重鎖のCH1領域が含まれる。免疫グロブリン重鎖融合体をコードするDNA、および所望により免疫グロブリン軽鎖をコードするDNAをそれぞれ別々の発現ベクターに挿入し、適当な宿主生物に形質転換する。それぞれの鎖の存在割合が同じでないほうが得られる抗体の収量が上がる場合には、別々の発現ベクターに各遺伝子を挿入したほうが、各鎖の発現割合の調節が可能となり都合が良いが、当然ながら、複数の鎖をコードする遺伝子を一つのベクターに挿入して用いることも可能である。
【0054】
好ましい態様においては、第一の結合特性を有する重鎖がハイブリッド免疫グロブリンの一方の腕として存在し、別の結合特性の重鎖-軽鎖複合体がもう一方の腕として存在する二重特異性抗体が望ましい。このように一方の腕のみに軽鎖を存在させることにより、二重特異性抗体の他の免疫グロブリンからの分離を容易に行うことができる。該分離方法については、国際公開公報第94/04690号参照。二特異性抗体の作製方法については、さらに、Suresh, et al(Methods in Enzymology 121:210, 1986)の方法を参照することができる。組換え細胞培養物から得られる最終産物中のホモダイマーを減らし、ヘテロダイマーの割合を増加させる方法として、抗体の定常領域のCH3を含み、一方の抗体分子において、他方の分子と結合する表面の1もしくは複数の小さな側鎖のアミノ酸を大きな側鎖のアミノ酸(例えば、チロシンやトリプトファン)に変え、他方の抗体分子の対応する部分の大きな側鎖のアミノ酸を小さな側鎖のアミノ酸(例えば、アラニンやスレオニン)に変えて、第一の抗体分子の大きな側鎖に対応する空洞を設ける方法も知られている(国際公開公報第96/27011号)。
【0055】
二重特異性抗体には、例えば、一方の抗体がアビジンに結合され、他方がビオチン等に結合されたようなヘテロ共役抗体が含まれる(米国特許第4,676,980号、国際公開公報第91/00360号、国際公開公報第92/00373号、欧州特許第03089号)。このようなヘテロ共役抗体の作製に利用される架橋剤は周知であり、例えば、米国特許第4,676,980号にもそのような例が記載されている。
【0056】
また、抗体断片より二特異性抗体を製造する方法も報告されている。例えば、化学結合を利用して製造することができる。例えば、まずF(ab')2断片を作製し、同一分子内でのジフルフィド形成を防ぐために、断片をジチオール錯化剤アルサニルナトリウムの存在化で還元する。次にF(ab')2断片をチオニトロ安息香酸塩(TNB)誘導体に変換する。メルカプトエチルアミンを用いて一方のF(ab')2-TNB誘導体をFab'-チオールに再還元した後、F(ab')2-TNB誘導体およびFab'-チオールを等量混合し、二特異性抗体を製造する。
【0057】
組換え細胞培養物から直接二重特異性抗体を製造し、単離する方法も、種々報告されている。例えば、ロイシンジッパーを利用した二重特異性抗体の製造方法が報告されている(Kostelny, et al: J Immunol 148:1547-1553, 1992)。まず、FosおよびJunタンパク質のロイシンジッパーペプチドを、遺伝子融合により異なる抗体のFab'部分に連結させ、ホモダイマーの抗体をヒンジ領域においてモノマーを形成するように還元し、抗体へテロダイマーとなるように再酸化する。また、軽鎖可変領域(VL)に重鎖可変領域(VH)を、これら2つの領域間でのペアを形成できないくらいに短いリンカーを介して連結することで、相補的な別のVLおよびVH領域とペアを形成させ、それにより2つの抗原結合部位を形成させる方法もある(Hollinger, et al: Proc Natl Acad Sci USA 90:6444-6448, 1993)。また、一本鎖Fv(sFV)を用いたダイマーについても報告されている(Gruger, et al: J Immunol 152:5368, 1994)。さらに、二重特異性ではなく三重特異性の抗体についても報告されている(Tutt, et al: J Immunol 147:60, 1991)。
【0058】
6.ヒト化抗体の製造
ヒト化抗体は、免疫原(抗原)をヒト抗体産生トランスジェニック非ヒト哺乳動物に免疫し、既存の一般的な抗体産生方法によって取得することができる。用いるヒト抗体産生非ヒト哺乳動物、特にヒト抗体産生トランスジェニックマウスの作製方法は公知である(Nature Genetics 7:13-21, 1994、Nature Genetics 15:146-156, 1997、特表平4-504365号公報、特表平7-509137号公報、日経サイエンス 6:40-50, 1995、国際公開公報94/25585号、Nature 368:856-859, 1994、特表平6-500233号公報等)。該ヒト抗体産生トランスジェニック非ヒト哺乳動物は、具体的には次のような手順により製造することができる。
【0059】
(1)非ヒト哺乳動物の内在性免疫グロブリン重鎖遺伝子座の少なくとも一部を相同組換えにより薬剤耐性マーカー遺伝子(例えば、ネオマイシン耐性遺伝子等)で置換することによる、該動物内在性免疫グロブリン重鎖遺伝子が機能的に不活性化されたノックアウト非ヒト哺乳動物を作製する工程、
(2)非ヒト哺乳動物の内在性免疫グロブリン軽鎖遺伝子座の少なくとも一部を相同組換えにより薬剤耐性マーカー遺伝子(例えば、ネオマイシン耐性遺伝子等)で置換することによる、該動物内在性免疫グロブリン軽鎖遺伝子(特にκ鎖遺伝子)が機能的に不活性化されたノックアウト非ヒト哺乳動物を作製する工程、
(3)酵母人工染色体(yeast artificial chromosome;YAC)ベクター等に代表されるような巨大遺伝子を運搬可能なベクターに用いて、ヒト免疫グロブリン重鎖遺伝子座の所望の領域がマウス染色体中に組み込まれたトランスジェニック非ヒト哺乳動物を作製する工程、
(4)YAC等に代表されるような巨大遺伝子を運搬可能なベクターを用いて、ヒト免疫グロブリン軽鎖(特にκ鎖)遺伝子座の所望の領域がマウス染色体中に組み込まれたトランスジェニック非ヒト哺乳動物を作製する工程、
(5)前記(1)〜(4)のノックアウト非ヒト哺乳動物およびトランスジェニック非ヒト哺乳動物を任意の順序で交配することにより、非ヒト哺乳動物内在性免疫グロブリン重鎖遺伝子座および非ヒト哺乳動物内在性免疫グロブリン軽鎖遺伝子座がともに機能的に不活性化され、かつヒト免疫グロブリン重鎖遺伝子座の所望の領域およびヒト免疫グロブリン軽鎖遺伝子座の所望の領域が共に非哺乳動物染色体上に組み込まれたトランスジェニック非ヒト哺乳動物を作製する工程。
【0060】
上述のように、非ヒト哺乳動物の内在性免疫グロブリン遺伝子座の適当な領域を外来性マーカー遺伝子(例えば、ネオマイシン耐性遺伝子等)で相同組換えにより置換することにより該遺伝子座が再構成できないように不活性化することができる。該相同組換えを用いた不活性化には、例えば、ポジティブネガティブセレクション(positive negative selection;PNS)と呼ばれる方法を用いることができる(日経サイエンス 5:52-62, 1994)。また、免疫グロブリン重鎖遺伝子座の機能的な不活性化には、例えば、J領域またはC領域(例えばCμ領域)の一部に障害を導入することにより達成でき、免疫グロブリン軽鎖(例えばκ鎖)の機能的不活性化には、例えば、J領域もしくはC領域の一部、またはJ領域およびC領域にまたがる領域を含む領域に障害を導入することにより達成可能である。
【0061】
トランスジェニック動物は、通常の方法により製造することができる(例えば、最新動物細胞実験マニュアル、第7章 (エル・アイ・シー) pp.361-408, 1990)。具体的には、例えば、正常な非ヒト動物胚盤胞に由来するヒポキサンチングアニンフォスフォリボシルトランスフェラーゼ(HRPT)陰性胚性幹(ES)細胞を、該ヒト免疫グロブリン重鎖遺伝子座または軽鎖遺伝子座をコードする遺伝子またはその一部、ならびにHRPT遺伝子が挿入されたYACベクターを含む酵母とスフェロプラスト融合法により融合する。該外来遺伝子がマウス内在性遺伝子上にインテグレートされたES細胞をHATセレクションにより選別する。次いで、選別したES細胞を別の正常非ヒト哺乳動物から取得した受精卵(胚盤胞)にマイクロインジェクションする(Proc Natl Acad Sci USA 77:7380-7384, 1980、米国特許第4,873,191号)。該胚盤胞を仮親となる別の非ヒト哺乳動物の子宮に移植することにより、キメラトランスジェニック非ヒト哺乳動物が誕生する。該キメラ動物を正常な非ヒト哺乳動物と交配させ、ヘテロトランスジェニック非ヒト哺乳動物を得る。該へテロ動物同士を交配することにより、メンデルの法則に従い、ホモトランスジェニック非ヒト哺乳動物を得ることができる。
【0062】
また、遺伝子組換え技術により、そのようなヒト化抗体の重鎖および軽鎖の各々をコードするcDNA、好ましくは該cDNAを含むベクターにより宿主を形質転換して得られる遺伝子組換え宿主であって、遺伝子組換えヒトモノクローナル抗体を産生する宿主を培養することにより、培養上清中から得ることもできる。ここで、該宿主は受精卵以外の真核細胞、好ましくはCHO細胞、リンパ球やミエローマ等の哺乳動物細胞である。
【0063】
本発明の方法により安定化された抗体の抗原結合活性は、特に限定はされないが、アミノ酸置換前の活性の70%以上を有していることが好ましく、より好ましくは80%以上であり、さらに好ましいのは90%以上である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0064】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明は下記の実施例によりいかなる意味でも限定されるものではない。
【0065】
[実施例1] 抗ヒトTF抗体Asn54置換変異体のTFとの結合活性および中和活性の測定
国際公開公報第99/51743号に記載されているヒト組織因子(tissue factor;TF)に対するヒト型化抗体は、内因性血液凝固反応におけるTFを介した第X因子の活性化を阻害することにより、外因性血液凝固反応を抑制せずに血栓形成を抑制することが期待されている。この抗ヒトTF抗体は、ヒト型化重鎖バージョンi(配列番号:25、図1)およびヒト型化軽鎖バージョンb2(配列番号:26、図1)を含んでおり、重鎖可変領域内のCDR2に存在するAsn51およびAsn54、重鎖可変領域内のFR1に存在するAsn28など、脱アミド化される可能性のある複数のアスパラギンを有している。特にAsn54はAsn-Gly配列を有しており、脱アミド化が起こりやすいと考えられる。
【0066】
該抗体は、製剤処方されておらず、抗体が不安定かするような条件下では、溶液pH依存的にTFに対する結合活性が低下し、低pI分子種が増加することが観察されている。塩基性が強くなると変性が強くなることから、この結合活性の低下と低pI分子種の増加は、抗ヒトTF抗体を構成するアミノ酸の脱アミド化に起因するものと予想されており、さらに、抗原結合活性の低下も併せて観察されることから、CDR領域において脱アミド化が起こっていることが考えられる。
【0067】
これらの知見に基づき、国際公開公報第99/51743号に記載されている抗ヒトTF抗体の重鎖可変領域内のCDR2に存在するAsn51およびAsn54、ならびに重鎖可変領域内のFR1に存在するAsn28をアスパラギン酸に置換した変異体(N51D変異体、N54D変異体、N51D/N54D二重変異体、およびN28D変異体の4種類)を作製し、TFとの結合活性および中和活性を測定した。
【0068】
抗体のアミノ酸配列は、Kabatら(Kabat EA, Wu TT, Perry HM, Gottesman KS, Foeller C: Sequences of proteins of immunological interest. 5th ed. (US Dept. Health and Human Services, Bethesda, Md) 1991)の表記に従った。
【0069】
1.抗ヒトTF抗体変異体発現ベクターの構築
抗ヒトTF抗体の重鎖可変領域(AHi)が組み込まれたクローニングベクターpCVIDEC-AHi(図2A)と抗ヒトTF抗体発現ベクターpN5KG4P-AHi-ALb2を、dam/dcmである大腸菌SCS110より精製した。
【0070】
pCVIDEC-AHi上で、AsnをコードするコドンをAspに置換する操作を行った。すなわち、それぞれのAsnをコードする領域を含む30bp程度の断片を制限酵素で切り出し、塩基置換を入れた合成オリゴDNAで作製した断片に入れ替えた(図2B)。Asn51およびAsn54を改変するためには、pCVIDEC-AHiをXba IおよびBal Iで消化し、抗ヒトTF抗体の重鎖可変領域内CDR2にあるAsn51とAsn54をそれぞれ、もしくは両方をAspに変えるように、コドンを一塩基対置換するように設計した断片を組み込んだ。Asn28を改変するためには、pCVIDEC-AHiをMro IおよびEcoT22 Iで消化し、抗ヒトTF抗体の重鎖可変領域内FR1にあるAsn28をAspに変えるように、コドンを一塩基対置換するように設計した断片を組み込んだ。
【0071】
配列の確認は、発現ベクターを構築するステップごとに行った。クローニングベクター上で目的の配列を確認し、Nhe IとSal Iで消化して得られた断片を、Nhe IとSal Iで消化した抗ヒトTF抗体発現ベクターの重鎖可変領域と入れ替え、再度配列を確認した。目的の配列が得られたことを確認した後に、大腸菌DH5αを形質転換し、QIAGEN Maxi columnを用いて、N51D変異体発現ベクター、N54D変異体発現ベクター、N51D/N54D二重変異体発現ベクター、およびN28D変異体発現ベクターの4種類の抗ヒトTF抗体変異体発現ベクターを精製した。
【0072】
2.COS-7細胞における抗ヒトTF抗体変異体の一過性発現
構築した各変異体の発現ベクターおよびオリジナル抗ヒトTF抗体発現ベクター、計5種類をelectroporation法によりCOS-7細胞に導入し、一過性に発現させた。COS-7細胞をD-PBS(−)で洗浄した後、約0.3〜1.0×107細胞/mlとなるようにPBSに懸濁した。10μgの抗ヒトTF抗体変異体発現ベクターと共に0.4cmキュベットに移し、1.5kV、25μFの条件でelectroporationを行った。10分間静置した後、30mlの10% FCS-DMEM培地に懸濁した。翌日、死細胞などを培地と共に除去し、10% FCS-DMEM培地を新たに50ml加えた。細胞を3日間培養した後、培養上清を回収した。
【0073】
3.抗ヒトTF抗体変異体の発現量の測定
3-1 direct ELISAによる発現量の測定
遺伝子導入したCOS-7細胞の培養上清を96穴ELISAプレートに100μlずつ播き、一晩固相化した。同様に、検量線用として、DMEM培地で1〜1000ng/mlに段階希釈した抗ヒトTF抗体(Lot No.00C01)を96穴ELISAプレートに100μlずつ播き、固相化した。ELISA用希釈バッファーでブロッキングした後、HRP標識抗IgG抗体を反応させ、TMBで発色させた。2M 硫酸で反応を停止し、ARVO-SX5を用いて450nmの吸光度を測定した。検量線用に播いた抗ヒトTF抗体(Lot No.00C01)の値から、培養上清中の抗ヒトTF抗体量を算出した。
direct ELISAの結果、表1に示すように、抗ヒトTF抗体の濃度は約65〜100ng/ml、総発現量は約3〜5μgであった。
【0074】
【表1】

【0075】
4.抗ヒトTF抗体各変異体の精製
回収した各50mlの培養上清から、アフィニティクロマトグラフィー(Protein A)および陰イオン交換クロマトグラフィー(Mono Q)により各変異体を精製した。
【0076】
4-1 アフィニティクロマトグラフィー
以下の条件でアフィニティクロマトグラフィーを行った。
システム:SMART System(アマシャムファルマシアバイオテク)
カラム:HiTrap Protein A HP(0.7cmφ×2.5cm、1ml、アマシャムファルマシアバイオテク)
平衡化緩衝液:D-PBS(−)
洗浄用緩衝液:10mM リン酸ナトリウム緩衝液(pH 7.4)
溶出用緩衝液:50mM 酢酸(pH 2〜3)
【0077】
0.5M リン酸2ナトリウム溶液でサンプルのpHを7.4に調整した後、セントリプレップ-50で5倍に濃縮し、10ml(10C.V.)の平衡化緩衝液で平衡化したカラムに流速1ml/分で添加した。5ml(5C.V.)の洗浄用緩衝液を用いて流速0.5ml/分で洗浄した後、5ml(5C.V.)の溶出用緩衝液で溶出し、0.5mlずつ10画分に分けて回収した。抗体を含む4画分を合わせて、0.1mlの1M Tris baseを添加してpH 6〜7に中和した。
【0078】
4-2 陰イオン交換クロマトグラフィー
次に、以下の条件で陰イオン交換クロマトグラフィーを行った。
システム:SMART System(アマシャムファルマシアバイオテク)
カラム:Mono Q PC 1.6/5(0.16cmφ×5cm、0.1ml、アマシャムファルマシアバイオテク)
緩衝液A:50mM Tris-HCl(pH 8.0)
緩衝液B:50mM Tris-HCl(pH 8.0)/0.5M NaCl
【0079】
アフィニティクロマトグラフィーによるProtein A溶出画分に0.1mlの1M Tris baseを添加し、pH 8〜9に調整して、サンプルを調製した。流速200μl/分でサンプルを添加した後、流速50μl/分にて、0%B/5分、0〜60%B/30分、60〜100%B/10分、100%B/10分のグラジエントプログラムでグラジエント溶出した。50μlずつ分画し、抗体を含む2〜4画分を合わせて活性測定に供した。
【0080】
アフィニティクロマトグラフィーおよび陰イオン交換クロマトグラフィーの結果、0.5〜1.0μgの抗体を得た。各変異体の陰イオン交換クロマトグラムを図3〜5に、各変異体のクロマトグラムを重ね合わせたものを図6に示す。また、タンパク質量、回収率を表2に示す。N54D変異体およびN51D/N54D二重変異体はほぼシングルピークとして得られたが、オリジナル抗ヒトTF抗体、N51D変異体、N28D変異体はサブピークを生じ、特にN51D変異体は2本のサブピークを生じた上にその含量も高かった。
【0081】
【表2】

【0082】
5.TF結合活性の測定
biotin化抗ヒトTF抗体を用いたcompetitive ELISAによりTF結合活性を測定した。抗ヒトTF抗体各変異体をCOS-7細胞で発現させ、Protein Aアフィニティクロマトグラフィーおよび陰イオン交換クロマトグラフィーにて精製したものをサンプルとして使用した。オリジナル抗ヒトTF抗体、N28D変異体およびN51D変異体については、陰イオン交換クロマトグラフィーで認められたサブピークについても測定した。抗ヒトTF抗体原体にはLot No.00C01を使用した。
【0083】
shTFをcoating buffer(以下CB)で20nMに調整し、96穴プレートに100μl/穴ずつ分注し、4℃で一晩放置した。rinse buffer(以下RB)で3回洗浄した後、dilution buffer(以下DB)を200μl/穴ずつ分注し、室温で2時間放置してブロッキングした。DBを除去した後、10,000倍希釈したbiotin化抗ヒトTF抗体を含むDBにて2倍段階希釈したサンプルを100μl/穴ずつ加え、室温で1時間放置した。RBで3回洗浄した後、DBにて5,000倍希釈したALP-streptavidineを100μl/穴ずつ分注し、室温で1時間放置した。RBで5回洗浄した後、substrate buffer(以下SB)で1mg/mlに調整したSIGMA104を分注し、室温で30分間放置して発色させ、マイクロプレートリーダーにより測定波長405nm、対照波長655nmで測定した。
【0084】
結合活性の評価は以下のように行った。オリジナル抗ヒトTF抗体の濃度(対数変換値)−吸光度について直線回帰し、スタンダード直線を求めた。このスタンダード直線を用いて、62.5〜500ng/mlの範囲に含まれる各サンプルの吸光度をスタンダード抗体濃度(Cc)に換算した。Ccを添加した抗体濃度(Ca)で除し、同一の結合活性を示すスタンダード抗体に対するサンプル濃度比を求め、結合活性とした。
【0085】
結合活性の測定結果を図7および表3に示す。各変異体の結合活性はいずれもオリジナル抗ヒトTF抗体より低下していた。CDR2に存在し、最も脱アミド化の可能性が高いと考えられるAsn54の変異体(N54D変異体)の結合活性は、オリジナル抗ヒトTF抗体の約10%に低下していた。Asn54と同じくCDR2に存在するAsn51の変異体(N51D変異体)の結合活性はオリジナル抗ヒトTF抗体の約50%であり、N54D変異体よりも結合活性の低下の程度は小さかった。Asn51およびAsn54の両アミノ酸の変異体であるN51D/N54D二重変異体の結合活性は、N54D変異体よりもさらに低下していた。一方、FR1に存在するAsn28の変異体(N28D変異体)の結合活性は、オリジナル抗ヒトTF抗体の約94%とわずかな低下が見られたのみであった。これらのことから、CDR2に存在するAsn51、Asn54の脱アミド化、特にAsn54の脱アミド化は、結合活性を大きく低下させることが示唆された。
【0086】
また、オリジナル抗ヒトTF抗体、N28D変異体およびN51D変異体で見られたサブピーク(ピーク2)の結合活性をメインピーク(ピーク1)と比較したところ、いずれにおいてもサブピークの結合活性はメインピークよりも低下していた。
【0087】
【表3】

【0088】
6.TF中和活性の測定
hTF(Thromborel S)、Factor VIIaおよびFactor Xを用いてTF中和活性を測定した。抗ヒトTF抗体各変異体は、結合活性を測定したものと同じく、COS-7細胞で発現させてProtein Aアフィニティクロマトグラフィーおよび陰イオン交換クロマトグラフィーで精製したものを使用した。抗ヒトTF抗体原体にはLot No.00C01を使用した。
【0089】
Assay Buffer(5mM CaCl2および0.1% BSAを含むTBS(pH 7.49)、以下AB)を用いて、凝固因子Factor VIIaを0.1PEU/mlに、またThromborel Sを120倍(v/v)に希釈した。これらの混合溶液を60μl/穴ずつプレートに分注し、室温で60分間静置した。ABでFactor Xを0.25PEU/mlに希釈したABXをサンプルの希釈に用い、目的の濃度に希釈したサンプルを40μl/穴ずつプレートに分注した。室温で30分間静置した後、500mM EDTAを10μl/穴ずつ加えて反応を停止した。発色基質であるS-2222の水溶液1に対して、Milli Q H2Oを1および0.6mg/ml ヘキサメチリンブロマイド水溶液を2の割合で混合し、S-2222混合液を調製した。S-2222混合液を50μl/穴ずつプレートに分注し、室温で静置した。30分後にマイクロプレートリーダーにより測定波長405nm、対照波長655nmで測定した。
【0090】
中和活性の測定結果を図8および表4に示す。抗ヒトTF抗体原体をスタンダードとして各変異体の濃度を算出し、抗ヒトTF抗体原体に対する中和活性比を求めた。なお、中和活性比は、すべてのサンプルにおいて測定可能であった250ng/mlの添加濃度を基準とした。オリジナル抗ヒトTF抗体およびN28D変異体は、抗ヒトTF抗体原体とほぼ同等の中和活性を保持しており、FRに存在するAsn28の脱アミド化は中和活性の低下に影響しないと考えられた。
一方、N51D変異体およびN54D変異体では、抗ヒトTF抗体原体に対する中和活性比がそれぞれ65.6%および19.9%にまで低下しており、抗ヒトTF抗体のCDRに存在するAsn51およびAsn54の脱アミド化が中和活性の低下を引き起こすことが強く示唆された。
【0091】
【表4】

【0092】
以上の結果から、製剤処方されておらず、抗体が不安定化するような条件下での、溶液pH依存的なTFに対する結合活性の低下と低pI分子種の増加は、主にCDR2領域に存在するAsn54の脱アミド化によるものであることが判明した。
【0093】
[実施例2] 抗ヒトTF抗体Gly55置換変異体のTFとの結合活性および中和活性の測定
国際公開公報第99/51743号に記載されている抗ヒトTF抗体は、ヒト型化重鎖バージョンi(配列番号:25、図1)およびヒト型化軽鎖バージョンb2(配列番号:26、図1)を含んでいる。そのアミノ酸配列を基に、CDR2のループを構成する上で重要なアミノ酸と考えられる重鎖CDR2内のGly55を他の19種のアミノ酸に換えた変異体を作製し、TFへの結合活性を測定した。また、Gly55をIle、Leu、Phe、Glu、Lysに置換した変異体について、中和活性および脱アミド化を観察した。
【0094】
抗体のアミノ酸配列は、Kabatら(Kabat EA, Wu TT, Perry HM, Gottesman KS, Foeller C: Sequences of proteins of immunological interest. 5th ed. (US Dept. Health and Human Services, Bethesda, Md) 1991)の表記に従った。
【0095】
1.抗ヒトTF抗体変異体発現ベクターの構築
抗ヒトTF抗体重鎖可変領域(AHi)が組み込まれたクローニングベクターpCVIDEC-AHi(図9A)と抗ヒトTF抗体発現ベクターpN5KG4P-AHi-ALb2を、dam/dcmである大腸菌SCS110より精製した。
【0096】
pCVIDEC-AHi上で、Gly55をコードするコドンを他のアミノ酸に置換する操作を行った。このとき、3番目のコドンをCに固定できる15種類のアミノ酸については、Asn54-Gly55をコードする領域を含む30bp程度の断片をpCVIDEC-AHiのユニークサイトであるXba I-Bal Iで切り出し、Gly55をコードするコドンの3’端の2塩基をランダムな核酸とした合成オリゴDNAで作製した断片を組み込んだ(図9B)。Xba I-Bal I断片は、抗ヒトTF抗体重鎖可変領域内のCDR2にあるGly55の1番目と2番目のコドンがランダムな塩基配列となるようにvent polymerase(NEB社)で3’端の2塩基を伸長した後、Xba Iで消化して作製した。この方法により、哺乳類でコドン使用頻度の高い15種類の変異体を1回の操作で作製することが可能と考えられたが、最適反応条件を見出せなかったため、実際には8種類の変異体しか作製できなかった。そこで、これら以外の変異体について、他の制限酵素部位を使用して構築することにした。
【0097】
Gly55の3番目のコドンを変換する必要があるアミノ酸、および上記の方法で作製できなかった変異体については、pCVIDEC-AHiのEcoR IサイトをHind IIIに変えたものを作製し、pCVIDEC-AHiのユニークサイトであるApo I-Xba Iで消化した後、合成オリゴDNAで作製した断片を組み込んだ。すなわち、Xba I-Bal I以外の制限酵素部位としては、Apo I-Xba Iが使用可能と考えられたが、Apo Iはベクター上のEcoR Iサイトを切断してしまうため、まずEcoR IサイトをHind IIIサイトに変えて、EcoR Iサイトを除去した。Apo I-Xba I断片は約55bpなので、Gly55をコードするコドンを他のアミノ酸に変えた塩基配列の前後が合わせて16bp程度重なるように合成オリゴDNAを作製し、アニーリングさせた後、Vent polymeraseで伸長し、Apo I-Xba Iで消化して作製した(図9C、表5)。
【0098】
【表5】

【0099】
Xba I−Apo Iサイトを用いた抗ヒトTF抗体変異体構築のためのプライマーを示す。
【0100】
なお、表5に記載の塩基配列を配列番号:1から24に示した。
【0101】
クローニングベクター上で構築した19種類の抗ヒトTF抗体変異体の配列をシークエンサーにより確認した。また、Nhe IとSal Iで消化して得られた変異重鎖可変領域を、Nhe IとSal Iで消化した抗ヒトTF抗体発現ベクターの重鎖可変領域と入れ替え、変異体発現ベクターを構築して再度配列を確認した。目的の配列が得られたことを確認した後に、大腸菌DH5αを用いて抗ヒトTF抗体変異体発現ベクターを増やし、QIAGEN Maxi columnを用いて精製し、配列確認を行った。こうして、19種類の抗ヒトTF抗体変異体発現ベクターを得た。
【0102】
2.CHO細胞における抗ヒトTF抗体変異体の一過性発現
構築した抗ヒトTF抗体重鎖内Gly55変異体発現ベクターおよびGly55未置換体(Gly55Gly)発現ベクター、計20種類をlipofection法によりCHO細胞に導入し、一過性に発現させた。CHO(dhfr−)細胞は、10% FCS-α-MEM培地を用いて37℃、5% CO2気相下にて培養した。lipofectionを行う前日に、CHO細胞を1×105細胞/穴となるように12穴プレートに播き、37℃、5% CO2下にて培養した。
【0103】
100μlのOpti-MEM(Gibco社)に6μlのFuGENE6 Transfection Reagent(BOEHRINGER MANNHEIM社)を加え、5分間静置した後、各1μgの抗ヒトTF抗体重鎖内Gly55変異体発現ベクターpN5KG4P-AHi-Alb2-G55X(X:20種類の各アミノ酸)が入ったチューブに加えた。そのまま20分間放置し、FuGENE6/DNA複合体を形成させた。前日に播種したCHO細胞の培地を除去した後、10% FCS-α-MEM培地を新たに2ml/穴ずつ添加した。さらに、FuGENE6/DNA複合体をそれぞれtriplicateでプレートに添加した。
【0104】
37℃、5% CO2下で1日培養した後、プレートをPBSで洗浄した。10% FCS-α-MEM培地を3ml/穴ずつ添加して培地交換を行った。37℃、5% CO2下で7日間培養した後、約9mlの抗ヒトTF抗体変異体含有培養上清を15mlチューブに移し、1000rpmで5分間遠心して、限外濾過により約10倍に濃縮した。得られた培養上清を抗ヒトTF抗体重鎖内Gly55Xaa変異体サンプルとした。
【0105】
3.TF結合活性の測定
抗ヒトTF抗体重鎖内Gly55Xaa変異体サンプルのhuman IgG含量を測定し、それぞれのサンプルのIgG濃度が100ng/mlになるように調整した。
【0106】
biotin化抗ヒトTF抗体を用いたcompetitive ELISAによりTF結合活性を測定した。shTFをCBで20nMに調整し、96穴プレートに100μl/穴ずつ分注し、4℃で一晩放置した。RBで3回洗浄した後、DBを200μl/穴ずつ分注し、室温で2時間放置してブロッキングした。DBを除去した後、最終濃度で10,000倍希釈したbiotin化抗ヒトTF抗体を含むDBにて2倍段階希釈したサンプルおよびスタンダードを100μl/穴ずつ加え、室温で1時間放置した。RBで3回洗浄した後、DBにて8,000倍希釈したALP-streptavidineを100μl/穴ずつ分注し、室温で1時間放置した。RBで3回洗浄した後、SBで1mg/mlに調整したSIGMA104を分注し、室温で約20分間放置して発色させ、マイクロプレートリーダーにより測定波長405nm、対照波長655nmで測定した。
【0107】
結合活性は、以下の手順に従って50%活性を示す濃度を求めて比較した。サンプル(−)、biotin化抗体(+)の吸光度を100%として各測定点の吸光度を%に換算した。各サンプルの50%値を挟む2点を基に、濃度(対数変換値)−吸光度(%)の直線回帰式を求め、吸光度が50%となる濃度を算出し、数式1より各サンプルの結合活性を算出した。
【0108】
数式1:結合活性=(スタンダード抗体の50%活性濃度)/(サンプルの50%活性濃度)×100
【0109】
図10に、抗ヒトTF抗体bulk(Lot No.00C01)で作製した検量線を基に算出した抗ヒトTF抗体濃度換算値を示した。CHO細胞で発現させたGly55未置換体(Gly55Gly)は、抗ヒトTF抗体bulkとほぼ同等のTF結合活性を保持していた。Gly55変異体では、Gly55Val、Gly55Ile、Gly55Proにおいて結合活性の低下が認められた。
【0110】
抗ヒトTF抗体重鎖Gly55変異体のTF結合活性を詳細に検討するために、以下の検討を行った。すなわち、抗ヒトTF抗体変異体を用い、25〜200ng/mlの範囲内でサンプル添加量を変化させ、TF結合活性をcompetitive ELISA法により測定した。なお、サンプル量不足のため、Gly55AsnおよびGly55Aspについては実施しなかった。
【0111】
測定結果を図11に示す。今回検討した18種類の抗ヒトTF抗体重鎖Gly55変異体中では、Gly55Val、Gly55Ile、およびGly55ProのTF結合活性が、抗ヒトTF抗体bulk(Lot No.00C01)やGly55未置換体(Gly55Gly)に比べて著しく低下していることが確認された。しかしながら、それ以外の15種類の変異体については、TF結合活性に顕著な差は見出せなかった。したがって、Gly55を他のアミノ酸に変えても、TF結合活性は維持できると考えられた。
【0112】
4.TF中和活性の測定
ABを用いて、凝固因子Factor VIIaを0.1PEU/mlに、またThromborel Sを120倍(v/v)に希釈した。これらの混合溶液を60μl/穴ずつプレートに分注し、室温で60分間静置した。10 mM リン酸バッファーで2倍段階希釈したサンプルを、20μl/穴ずつ分注した後、CaCl2溶液でCaCl2濃度を10mMに調整したABを用いて0.5PEU/mlに希釈した凝固因子Factor X溶液を20μl/穴ずつプレートに分注した。室温で30分間静置した後、500mM EDTAを10μl/穴ずつ加えて反応を停止した。テストチーム発色基質S-2222溶液とポリブレン溶液を1:1で混合した溶液を50μl/穴ずつプレートに分注して、室温で静置した。30分後にマイクロプレートリーダーにより測定波長405nm、対照波長655nmで測定した。
【0113】
中和活性は、以下の手順に従って50%活性を示す濃度を求めて比較した。サンプル(−)、凝固因子Factor X(+)の吸光度を100%、サンプル(−)、凝固因子Factor X(−)の吸光度を0%として、各測定点の吸光度を%に換算した。各サンプルの50%値を挟む2点を基に、濃度(対数変換値)−吸光度(%)の直線回帰式を求め、吸光度が50%となる濃度を算出し、数式2より各サンプルの中和活性を算出した。
【0114】
数式 2:中和活性(IC50)=(スタンダード抗体の50%活性濃度)/(サンプルの50%活性濃度)×100
【0115】
5.CHO細胞を用いた抗ヒトTF抗体変異体の安定発現系の構築
Gly55をLeu(脂肪族アミノ酸)、Phe(芳香族アミノ酸)、Glu(酸性アミノ酸)、Lys(塩基性アミノ酸)、Ile(分枝脂肪族アミノ酸)に置換したGly55Leu、Gly55Phe、Gly55Glu、Gly55Lys、Gly55Ileの5種類の変異体について、安定発現系を構築することにより、抗ヒトTF抗体変異体の活性を比較するのに十分な量を産生させた。
【0116】
5-1 CHO細胞への遺伝子導入
CHO(dhfr−)細胞をPBSで洗浄した後、約1×107細胞/mlとなるようにPBSに懸濁した。10μgの抗ヒトTF抗体重鎖内Gly55変異体発現ベクターpN5KG4P-AHi -Alb2-G55Xと共に0.4cmキュベットに移し、1.5kV、25μFの条件でelectroporationを行った。10分間静置した後、200mlの10% FCS-α-MEM核酸(−)培地に懸濁した。10枚の96穴プレートに200μl/穴ずつ播き、培養した。
【0117】
5-2 遺伝子導入された細胞の選択
96穴プレート培養において細胞の生育が見られた穴の抗体発現量をhIgG ELISAで比較した。hIgG発現量が高かった10穴ずつ70穴の細胞を12穴プレートに植え継ぎ、10% FCS-α-MEM核酸(−)培地で培養した。細胞が10% FCS-α-MEM核酸(−)培地に馴化し、良好な生育が見られた段階で、抗ヒトTF抗体変異体の発現量をhIgG ELISAで測定した。各変異体について4穴ずつ選択し、50mlフラスコに植え継いだ。10nM MTXを含む10% FCS-α-MEM核酸(−)培地に交換し、抗体産生量を増幅させた。
【0118】
5-3 無血清培地を用いた大量培養による抗ヒトTF抗体変異体の産生
抗ヒトTF抗体変異体クローンの中からhIgG発現量の高いものを1クローンずつ選択し、10nM MTXを含む培地を用いて6本の175cm2フラスコで培養した。サブコンフルエントになったところで、150mlのCHO-S-SFM II無血清培地に交換し、7日間培養した。培養上清を回収し、0.22μmフィルターで培地を処理した後、精製まで−80℃で保存した。
【0119】
5-4 サンドイッチELISAによる抗ヒトTF抗体変異体の発現量の測定
抗ヒトIgG(γ)抗体を96穴プレートに100μl/穴ずつ分注し、4℃で一晩放置した。RBで3回洗浄した後、DBを200μl/穴ずつ分注し、室温で2時間放置してブロッキングした。DBを除去した後、DBもしくは抗ヒトTF抗体変異体産生細胞から抗体を回収する際に用いた培地にて適当に希釈したサンプルおよびスタンダードを100μl/穴ずつ加え、室温で2時間放置した。RBで3回洗浄した後、DBにて10,000倍希釈したHRP標識化抗ヒトIgG抗体を100μl/穴ずつ分注し、室温で1時間放置した。RBで10回洗浄した後、発色試薬を100μl/穴ずつ分注し、室温で約10分間放置した。2N 硫酸を50μl/穴ずつ添加して発色反応を停止した後、マイクロプレートリーダーにより測定波長450nm、対照波長655nmで吸光度を測定した。
【0120】
この結果、Gly55Gly以外の変異体については、数mgずつの抗ヒトTF抗体変異体を得ることができた(表6)。
【0121】
【表6】

【0122】
6.抗ヒトTF抗体各変異体の精製
各変異体の含まれた大量培養上清から、HiTrap rProtein A FFカラムとHiTrap Q Sepharose HPカラムを用いて各変異体を精製した。
【0123】
6-1 精製用アフィニティクロマトグラフィー
以下の条件で低温室にてアフィニティクロマトグラフィーを行った。
システム:FPLC System
カラム:HiTrap rProtein A FF(1.6cmφ×2.5cm、5ml)
平衡化緩衝液:D-PBS(−)
洗浄用緩衝液:10mM リン酸ナトリウム緩衝液(pH 7.4)
溶出用緩衝液:50mM 酢酸(pH 2〜3)
【0124】
サンプルは、0.5M リン酸2ナトリウム溶液でpHを7.4に調整した後、カラムに添加した。抗ヒトTF抗体原体は1.5ml(16.5mg)を50mlの洗浄用緩衝液で希釈した。流速5ml/分、25ml(5C.V.)の溶出用緩衝液で溶出し、1.25mlの1M Tris baseを添加してpH 6〜7に中和した。
【0125】
6-2 精製用陰イオン交換クロマトグラフィー
次に、以下の条件で低温室にて陰イオン交換クロマトグラフィーを行った。
システム:FPLC System
カラム:HiTrap Q Sepharose HP(0.7cmφ×2.5cm、1ml)
緩衝液A:50mM Tris-HCl(pH 8.0、4℃)
緩衝液B:50mM Tris-HCl(pH 8.0、4℃)/1M NaCl
【0126】
アフィニティクロマトグラフィーによるProtein A溶出画分に1.25mlの1M Tris baseを添加し、pH 8〜9に調整して、サンプルを調製した。流速1ml/分にて0mM NaCl(5C.V.)、250mM NaCl(5+5C.V.)、1M NaCl(10C.V.)のステップ溶出を行い、250mM NaClステップの前半5C.V.(5ml)を回収した。
【0127】
Gly55Gly以外の抗ヒトTF抗体変異体については、それぞれ500μg以上得ることができた(表5)。Gly55Glyが得られなかったことから、抗ヒトTF抗体と比較するために、代わりに抗ヒトTF抗体bulk(Lot No.99D01)を同様の操作で精製して用いることにした(表5)。
【0128】
7.分析用陰イオン交換クロマトグラフィー
以下の条件で室温にて陰イオン交換クロマトグラフィーを行い、サンプルを分析した。
システム:SMART System
カラム:MonoQ PC1.6/5(0.16cmφ×5cm、0.1ml)
緩衝液A:50mM Tris-HCl(pH 8.0、20℃)
緩衝液B:50mM Tris-HCl(pH 8.0、20℃)/500mM NaCl
【0129】
流速50μl/分にて、0%B/5分、0〜60%B/30分、60〜100%B/10分、100%B/10分のグラジエントプログラムでグラジエント溶出した。サンプルはUV換算で2μgを緩衝液Aで50μlに3〜50倍希釈し、うち25μlを分析に供した。
精製した抗ヒトTF抗体bulk(99D01)と抗ヒトTF抗体各変異体を分析用陰イオン交換クロマトグラフィーで分析した結果、導入したアミノ酸変異に依存した溶出時間の変化は見られるものの、ほぼ単一ピークであることが確認された(図12)。
【0130】
8.アミノ酸変異による抗ヒトTF抗体の脱アミド化抑制
脱アミド化反応を見るために、脱アミド化しやすい中性領域での緩衝液を用いて、加熱条件下で加速試験を行った。
【0131】
8-1 緩衝液置換
20mM リン酸ナトリウム緩衝液/150mM 塩化ナトリウム(pH7.5)を緩衝液として使用し、PD-10脱塩カラムでサンプルの緩衝液置換を行った。カラムを平衡化した後、2.5mlのサンプルを2本のカラムに添加し、3.5mlの緩衝液で溶出した。
【0132】
8-2 加速試験用サンプル調製
hIgG ELISAによる定量値を基に、抗ヒトTF抗体各変異体サンプルを100μg/mlとなるように希釈した。緩衝液には20mM リン酸ナトリウム緩衝液/150mM NaCl(pH 7.5)を用いた。0.22μmフィルターを通し、1mlずつ5mlバイアルに充填した。
【0133】
8-3 加速試験
精製した抗ヒトTF抗体bulk(99D01)と抗ヒトTF抗体変異体について、20mM リン酸ナトリウム緩衝液/150mM NaCl(pH 7.5)溶液中で、40℃にて4週間加速試験を行った。0、1、2、4週間の各ポイントでサンプルを取り出し、活性についてはTF結合活性、TF中和活性の比較をそれぞれ行い、脱アミド化については分析用陰イオン交換クロマトグラフィーを用いて分析した。
【0134】
活性の比較には、GPCのモノマー画分を指標として再度定量した値(表7)を用いた。すなわち、以下の条件で室温にて抗体の定量を行った。
【0135】
システム:Waters(600S Controller、616 Pump、486 Tunable absorbance detector、717 plus Autosampler)
カラム:TSK gel G3000SWXL(0.78cmφ×30cm、ガードカラム0.6cmφ×4cm)
緩衝液:50mM リン酸ナトリウム/300mM NaCl(pH 7.0)
【0136】
100μl(10μg相当量)の加速品をサンプルに用いて、流速0.5ml/分で分析した。
【0137】
【表7】

【0138】
この結果、加速試験前のTF結合活性は、抗ヒトTF抗体変異体を一過性発現させたときと同様に、Gly55Ileが抗ヒトTF抗体bulk(Lot No.00C01)の26%程度と低く、99D01に比べると著しく活性が損なわれていた(図13A)。Gly55Leu、Gly55Glu、Gly55Phe、Gly55Lysについては、99D01とほぼ同等の活性を保持していた(図13A)。4週間の加速試験後、99D01では加速試験前の約60%に活性が低下しているのに対して、抗ヒトTF抗体変異体は加速試験前の80%以上の活性を維持していた(図13B)。
【0139】
分析用陰イオン交換クロマトグラフィーを用いて脱アミド化を分析すると、99D01では脱アミド化された分子種と考えられるピークが明らかに増大していたが、抗ヒトTF抗体変異体ではほとんど観察されなかった(図14)。経時的なTF中和活性の変化では、99D01が比較的大きな活性低下を示した(図15)。
【0140】
これらの結果より、Gly55の置換によりAsn55の脱アミド化が抑制されており、アミノ酸置換は特にGly55LeuおよびGly55Pheが好ましいと考えられた。
【0141】
9.加速実験前後のTF中和活性
99D01および抗ヒトTF抗体各変異体のTF中和活性を図16に示す。Gly55GluとGly55Ileはそれぞれ41%、13%程度と低い活性を示したが、他の3種類の抗ヒトTF抗体変異体については56〜74%であり、99D01(66%)と同程度の活性を保持していた。
【0142】
99D01および抗ヒトTF抗体各変異体の加速試験による経時的な活性低下の変化量を検討するために、図15から各サンプルのIC50値の対初期値を算出した(図17)。なお、Gly55Ileの40℃-4週間加速試験後サンプルに関しては、IC50値を算出できなかったため、2週間目までの結果を示した。40℃-4週間加速試験後には、99D01のTF中和活性は初期値の約40%にまで低下していた。これに対して、Gly55を他のアミノ酸に置換した各変異体については、40℃-4週間加速試験後でも初期値の50〜70%のTF中和活性を維持していた。
【0143】
以上の結果から、抗体中のアスパラギンに隣接するグリシンを他のアミノ酸に置換しても抗体の活性は低下せず、なおかつ脱アミド化による不安定化を抑制できることが見出された。
【産業上の利用可能性】
【0144】
本発明者らは、アスパラギンに隣接するグリシンを他のアミノ酸に置換すれば、抗体の活性に影響を与えないことを見出した。本発明を抗体に対して適用することにより、活性低下の少ない抗体を製造することができ、長時間にわたる安定性が求められる医学的製剤等においても使用できる抗体が得られる。また、本発明は、抗体以外のタンパク質に対しても適用することが可能であり、これによりタンパク質の活性に影響を与えずに、脱アミド化を抑制しうるものと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0145】
【図1】図1は、国際公開公報第99/51743号に記載されている抗ヒトTF抗体に含まれるヒト型化重鎖バージョンiおよびヒト型化軽鎖バージョンb2のアミノ酸配列を示した図である。脱アミド化される可能性のある複数のアスパラギン(Asn28、Asn51、Asn55)を四角で囲み、示す。
【図2】図2は、抗ヒトTF抗体の重鎖可変領域(AHi)が組み込まれたクローニングベクターpCVIDEC-AHiを示した図である。 A: pCVIDEC-AHiベクターの全体図、B: 重鎖可変領域のNhe I-Sal I断片図。
【図3】図3は、抗ヒトTF抗体各変異体およびオリジナル抗ヒトTF抗体の陰イオン交換クロマトグラムを示した図である。 A: 99D01、B: オリジナル(ネイティブ)。
【図4】図4は、抗ヒトTF抗体各変異体およびオリジナル抗ヒトTF抗体の陰イオン交換クロマトグラムを示した図である。 C: N28D、D: N51D。
【図5】図5は、抗ヒトTF抗体各変異体およびオリジナル抗ヒトTF抗体の陰イオン交換クロマトグラムを示した図である。 E: N54D、F: N51D/N54D。
【図6】図6は、抗ヒトTF抗体各変異体およびオリジナル抗ヒトTF抗体の陰イオン交換クロマトグラムを重ね合わせて示した図である。
【図7】図7は、抗ヒトTF抗体各変異体およびオリジナル抗ヒトTF抗体の結合活性を示した図である。
【図8】図8は、抗ヒトTF抗体各変異体およびオリジナル抗ヒトTF抗体の中和活性を示した図である。
【図9】図9は、抗ヒトTF抗体の重鎖可変領域(AHi)が組み込まれたクローニングベクターpCVIDEC-AHiを示した図である。なお、図9に記載の塩基配列を配列番号:27、28に示した。 A: pCVIDEC-AHiベクターの全体図、B: 重鎖可変領域のXba I-Bal I断片図、C: 重鎖可変領域のXba I-Apo I断片図。
【図10】図10は、抗ヒトTF抗体各変異体の結合活性の比較を示した図である。抗ヒトTF抗体bulk(Lot No.00C01)で作製した検量線を基に算出した抗ヒトTF抗体濃度換算値を示す。 ブランク: 10% FCS-α-MEM培地、コントロール: CHO細胞培養上清、G〜P: 抗ヒトTF抗体重鎖内Gly55各変異体。
【図11】図11は、抗ヒトTF抗体各変異体の結合活性を示した図である。
【図12】図12は、抗ヒトTF抗体各変異体および抗ヒトTF抗体bulk(99D01)の溶出プロファイルを示した図である。
【図13】図13は、抗ヒトTF抗体各変異体および抗ヒトTF抗体bulk(99D01)について加速試験前後の結合活性および初期値との比を示した図である。
【図14】図14は、抗ヒトTF抗体各変異体および抗ヒトTF抗体bulk(99D01)について加速試験前後の陰イオンクロマトグラフおよび中和活性を示した図である。 A: 99D01(G55G)、B: G55L、C: G55I、D: G55F、E: G55E、F: G55K。
【図15】図15は、抗ヒトTF抗体各変異体および抗ヒトTF抗体bulk(99D01)について加速試験前後の陰イオンクロマトグラフおよび中和活性を示した図である。 A: 99D01(G55G)、B: G55L、C: G55I、D: G55F、E: G55E、F: G55K。
【図16】図16は、抗ヒトTF抗体各変異体および抗ヒトTF抗体bulk(99D01)について加速試験前の中和活性を示した図である。
【図17】図17は、抗ヒトTF抗体各変異体および抗ヒトTF抗体bulk(99D01)について加速試験前後の中和活性を示した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパク質中の脱アミド化されるアミノ酸に隣接するアミノ酸を他のアミノ酸で置換することを特徴とするタンパク質の安定化方法。
【請求項2】
脱アミド化されるアミノ酸がアスパラギンである、請求項1に記載のタンパク質の安定化方法。
【請求項3】
脱アミド化されるアミノ酸のC末端側に隣接するアミノ酸がグリシンである、請求項1に記載のタンパク質の安定化方法。
【請求項4】
タンパク質が抗体である、請求項1から3のいずれかに記載のタンパク質の安定化方法。
【請求項5】
抗体がヒト型化抗体である、請求項4に記載のタンパク質の安定化方法。
【請求項6】
脱アミド化されるアミノ酸が相補性決定領域(CDR)に存在することを特徴とする、請求項4または5に記載のタンパク質の安定化方法。
【請求項7】
相補性決定領域(CDR)がCDR2である請求項6記載のタンパク質の安定化方法。
【請求項8】
タンパク質が抗原結合タンパク質である、請求項1から3のいずれかに記載のタンパク質の安定化方法。
【請求項9】
タンパク質が免疫グロブリンスーパーファミリーである、請求項1から3のいずれかに記載のタンパク質の安定化方法。
【請求項10】
タンパク質が医薬品である、請求項1から3いずれかに記載のタンパク質安定化方法。
【請求項11】
請求項1から10のいずれかに記載の方法により安定化されたタンパク質。
【請求項12】
抗原結合活性がアミノ酸置換前の抗原結合活性の70%以上であることを特徴とする、請求項11記載の安定化されたタンパク質。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図2】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−35532(P2009−35532A)
【公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−156170(P2008−156170)
【出願日】平成20年6月16日(2008.6.16)
【分割の表示】特願2007−209145(P2007−209145)の分割
【原出願日】平成14年12月27日(2002.12.27)
【出願人】(000003311)中外製薬株式会社 (228)
【Fターム(参考)】