説明

タンパク質物質の経口または直腸投与のための医薬組成物

インターロイキン、ケモカイン、成長因子、組織壊死因子およびインターフェロンなどのいくつかの細胞メディエーターの病原性役割に拮抗することが可能な抗体および可溶性受容体を含む、ペプチドまたはタンパク質物質の経口または直腸投与に対する、識別的、制御的および/または部位特異的放出性を有する医薬組成物に関する。ペプチドまたはタンパク質物質を制御的および/または部位特異的放出製剤内に組み入れることにより、本発明を適用すると、タンパク質構造および配列の保全に対して攻撃性のより少ない微小環境である、少量のタンパク質分解酵素が存在する腸の環境内に該物質を直接輸送することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、識別的、制御的および/または部位特異的放出の医薬組成物に関し、より詳細にはタンパク質性またはポリペプチド性の有効成分の投与に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞間伝達が、どのように細胞が特定のストレスに曝され、または特定の数条件に曝露された場合に、細胞が特異的に産生する数種の化学メディエーターに委ねられているかは、知られている。これらのメディエーターの中では、インターロイキン(IL)、ケモカイン(CM)、成長因子(GF)、インターフェロン(IFN)、および腫瘍壊死因子(TNF)が特に重要性を帯びている。これらのいくつかの出現/消失、またはこれらの正常濃度レベルの変化は、免疫反応を開始する要因を構成することができ、または起こりつつある事象の重要な徴候を表すことができる。
【0003】
実際、これらの化学メディエーターは、炎症現象では特に重要性を帯びており、修復活性の活性化とともに、促進的および抑制的な意味において、その現象の病因および生物体の反応の両方を調節する能力を有することが知られている。
【0004】
TNFファミリーは、炎症および免疫の現象を調節および制御するために、生物体が最も使用しているサイトカインの中に示すことができる。
【0005】
これらのサイトカインは、炎症状態を誘発するのに特に重要であることが示されており、これらの寄与は、専属する受容体が十分に供給されている組織において特に必須である。
【0006】
例えば、腸病態の範囲では、炎症病態、特に、例えば潰瘍性大腸炎(UC)またはクローン病(CD)などの腸炎病態(IBD)に関連した徴候の出現とともに、TNFの多量な増加が見出された。これらの炎症現象の制御におけるTNFの重要性は非常に明白であるので、循環過剰量のTNFを遮断するように特別設計され、細胞膜のレベルに配置されている特異的な関連受容体と接触できる薬物である免疫調節薬は、こうした病態を目標としてきた。
【0007】
実際に、1990年代初期に始まって、特定のTNFまたはその受容体部位を遮断し、それゆえTNFの接触で起こる細胞内伝達現象を防止することが可能なタンパク質物質が薬剤レパートリー中に出現した。実際、αおよびβ型両方の腫瘍壊死因子は、すでに同定され順次知られるようになった膜貫通型受容体構造と相互作用することが知られている。P55として同定された一方は、55kダルトン(kDaltons)の分子量を有するタンパク質であり、TNFの細胞毒性、抗ウイルス性および増殖性という古典的な効果をもたらすシグナルを翻訳するようになっている。他方の構造は、P75として知られており、TNFα受容体として指摘されるほうが多く、前述のシグナルに加えて、GM−CSF細胞の分泌も増大させるグリコシル化タンパク質である。
【0008】
これらの受容体構造は、細胞膜上に存在しており、受容体部位が適切な特異的基質と結合すると、TNFαおよびTNFβを明確に識別する受容体タンパク質複合体の細胞内部分により細胞内で転写入力を活性化する機能を有する。
【0009】
実際、模造受容体タンパク質構造の使用は、TNFと結合を形成することが可能な受容体部位のこの認識された細胞表面に基づくものである。組織は類似しているが、配列が減縮し、可溶性を示し、循環TNFαと結合し、細胞膜上に配置されている真の受容体とのTNFαの薬物動態学的に重要な結合の形成を防ぐことができる、このような模造受容体タンパク質構造は、適切に合成または単離される。
【0010】
Aderkaらは、1992年に非特許文献1に発表した研究で、こうした可溶性受容体の構造および特定のサイトカインと結合を形成するその能力について記載した。このようにして、これら可溶性受容体の構造が、TNFαのin vivo活性を抑制するように設定された負のフィードバック機構の一部として働く能力の原因と考えることが可能であった。
【0011】
Wallachらは、特許文献1で、合成および組換え技術の両方によって生成され、過剰の循環サイトカインの有害作用から人体を保護するのに有用である、P55構造の部分を含むTNFの可溶性受容体型の多量体構造のためのこの使用について記載している。
【0012】
この機構を理解することにより、受容体基質またはそのリガンドに特異的に結合することによって、実際にシグナル伝達系を妨害し、関連する細胞内転写を不活性化する抗体構造を治療的に用いる可能性への扉が開かれている。最初にキメラ型のモノクローナル抗体が、すなわちインフリキシマブ(Infliximab)の名称で知られている配列など、天然のマウス配列を保持している免疫グロブリンの一部分で得られた。次いで、潜在的な免疫反応および分泌に結びついた活性の漸進的な喪失(低減されていても、または非存在性であっても)を担っていることが確認されているマウス部分で抗体を創出することにより治療モデルが完成し、また、実験上の頭文字であるCDP571およびCDP870で知られる物質(後者は拡張した表面のペグ化によって自発的に誘発される免疫適格性の除去からさらに保護され、市場ではCimzia(商標)マークで知られている)など、それを投与した生物体による中和抗体を創出することで治療モデルが完成した。
【0013】
抗体構造または可溶性受容体のタンパク質の性質は、それでも投与方法として注射製剤を選択することを必要とし、これは明らかに生物体全体をTNFαの効果に対する正反対の作用に曝露することを伴い、個体の免疫機構に対する明らかな影響、および感染性物質、腫瘍物質などに対する反応における不均衡の可能性がある。
【0014】
さらに、免疫反応に関しては、循環中の外来のタンパク質の少量の存在により、これらの各々に特異的な抗体の分泌性の刺激を生じうるので、投与した投与量の有効性を低減する明らかな危険性があり、したがって長期にわたって投与量を漸進的に増大する必要がある。
【0015】
抗TNFα効果をいくつかの器官、または解剖学的な部分に限定する可能性は、病理学的状態および/または炎症の状態が限定される場合は、むしろ、これらのサイトカインの際立った分泌の強調によって提供される病態の解決に対してかなりの助けになる。実際、局所投与は、全身的な免疫機構に対して重大なかく乱を誘発せず、それゆえ、それを投与する個体の自身の典型的な抗感染反応または免疫反応の能力は変わらないままである。
【0016】
これは、これらの物質の投与に関連して潜在的な危険性があるため、TNFαに対する細胞間反応を阻止することが可能な物質の投与から重大な恩恵を受け得るが、最も重症の場合における以外はこれらの薬物タイプで実際には処置されない、詳細に明らかにされた腸のセクターに制限されるいくつかの炎症性の病態の場合(例えば、クローン病または潰瘍性大腸炎など)である。
【0017】
その実験的証明が次のように主張されている。Bianconeらは、非特許文献2で研究を発表し、その中でクローン病に対してすでに外科手術をした患者における結腸鏡検査の間に、全身投与に必要とされる投与量の約5倍少ない投与量のインフリキシマブが局所の微量注入技術でどれほど有効に利用されるかを示している。この抗体の注射の投与に典型的に伴う典型的な副作用の存在を示した患者はおらず、病変のサイズは投与量に比例して一貫して低減した。
【0018】
すでに医薬市場に存在するいくつかの現在の抗TNFα薬は、腸炎病態である潰瘍性大腸炎およびクローン病の処置に対して特異的な効能を有しするということ、および今日、これらの物質は全て、注射により、詳細にはインフリキシマブ(Remicade(商標)、Centocor)など、ゆっくりとした注入により全身性に投与され、またはセルトリズマブ(Cimzia(商標)、UCB)などは皮下的に投与されるということを強調しなければならない。後者は、すでに重要な利点を有し、すなわち、Remicadeのために行なわれることのかわりに、投与するために病院に通院する必要なしに患者の自宅で投与することができる。
【0019】
Remicadeでは好ましい計画は6〜8週毎に1回5mg/kgの投与量であるのに対し、Cimziaに対して提案されている治療計画は4週間毎に400mgである。おわかりのように、すでに危険な状態にあるこれらの患者を重大な副作用で増悪させないよう、投与計画は免疫反応の危険を制限するように変化される。
【0020】
これらの物質は消化酵素のタンパク質分解性の作用に敏感であり、したがって従来の製剤を経口投与すると投与した物質の大量の分解、および毒性ではないにしても有効性のないペプチドフラグメントの形成をもたらし得るという事実から、注射の投与が正しいとされる。
【0021】
実際、胃および腸には、食物を構成する要素を単純な炭水化物またはアミノ酸など単純な要素に分解することを担当する酵素が豊富にあり、この単純な要素は、血液中に吸収された後、沈着部位および/または排出部位に、あるいは器官自体の内側で再分配されるために、輸送されることが知られている。これらの酵素は、ペプシン、トリプシン、キモトリプシンなどの名称で知られており、これらの消化管における分布は、胃から直腸まで負の濃度勾配を有している、すなわち、これらは、食物がより豊富に存在し、したがってこれらの作用がより大きく必要とされる場所ではより豊富である。
【0022】
該酵素が存在するため、タンパク質またはペプチド物質の可能な経口投与は、非常に短期間でその物質を破壊する分解反応の連鎖がすぐに確立されるので、一般的に望ましい効果をもたらさない。それゆえ、注射形態などの侵襲性の投与形態は、規定量のタンパク質性物質を循環中に入れたい場合に選ばれる投与経路である。
【0023】
驚くべきことに、胃腸通過の間にタンパク質物質を保護することが可能である物質が存在することを特徴とし、引き続き、かつ好ましくは最終の腸管における通過の間に輸送される物質が漸進的に遊離することを特徴とする特定の投与形態を用いると、タンパク質またはペプチド型でも投与物質に対して経口または直腸の経路を用いることができるようになることが最近見出された。
【0024】
標的として結腸または直腸の腸管を選択することが可能である部位特異的および/または制御的放出製剤の使用は、治療上有用な輸送のこの特定のタイプに向いている。
【0025】
経口投与経路の範囲において、医薬レパートリーは、拡散、浸透、膨張、およびさらに他の放出機構など様々な放出機構を利用する技術から得られる、輸送物質の主な目的地に結腸を要求するいくつかの製剤技術を提唱している。
【0026】
これらの中で、マルチマトリックス技術が、いくつかのすでに試験された有効物質で実証された臨床上および動態学的有効性に対して強調される(非特許文献3を参照されたい)。このような技術は、特許文献2に記載されているように、親油性物質および親水性ポリマーを含めた、様々な材料のマトリックスの連続した一続き(a sequential series)からなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0027】
【特許文献1】欧州特許第526905号明細書
【特許文献2】欧州特許第1,183,014号明細書
【非特許文献】
【0028】
【非特許文献1】Aderkaら、Isrl.Med.Sci.、28、126〜130、1992
【非特許文献2】Bianconeら、Gastrointestinal Endoscopy、63、486〜492、2006
【非特許文献3】Aliment、Pharmacol.Ther.、17、395〜402、2003
【発明の概要】
【0029】
したがって、本発明の目的の構成は、消化部門の上部(胃、小腸)に存在する敵対的な環境を超えて通過することが可能であり、かつ腸の結腸および/または直腸の部分で有効成分を選択的に遊離することが可能な、制御された放出性経口投与技術による、ペプチドまたはタンパク質物質の経口投与である。
【0030】
また、本発明の目的の構成は、輸送される物質を完全に保全したまま腸の確定部位に到達させることが可能な液体または固体の投与形態による、ペプチドおよびタンパク質の局在的で部位特異的な直腸投与でもある。
【0031】
いくつかの病態状況では、さらなる治療上の必要性は、有効成分の局所濃度のピークを避けて、有効成分の放出がある時間内に保護された様式で確実に起こるようにすることである。
【0032】
したがって、本発明のさらなる目的の構成は、予め確立された間隔以上の時間で起こるように、解剖学的に影響を及ぼすゾーンにおいて放出された物質の予め決定された濃度レベルを保障しながら、そのピークに達するのを避けるやり方で、制御された溶解プロファイルに従った遅延した形態におけるタンパク質物質の経口または直腸投与である。
【0033】
本発明のさらなる目的の構成は、炎症性、免疫応答性または腫瘍性の病態を治療するためのタンパク質、タンパク質フラグメント、抗体フラグメント、サイトカイン、ケモカイン、抗サイトカインおよび抗ケモカイン物質、ペプチド、アミノ酸、または配列における(in sequence)アミノ酸から主に構成される他の物質の経口または直腸投与を企図した医薬品形態における、薬物を結腸放出するための特定の技術の使用である。
【0034】
本発明のさらなる目的の構成は、サイトカイン、または局所もしくは全身のレベルの、前記サイトカインの濃度を改変することが可能な物質を投与するための、制御された放出性経口投与および/または結腸に対する部位特異的な直腸投与のための組成物の使用である。
【0035】
最後に、本発明の目的の構成は、潰瘍性大腸炎、クローン病、またはセリアック病など腸炎病態の治療において使用するための抗TNFα抗体タンパク質フラグメントまたはタンパク質の、経口または直腸投与を確実にすることができる組成物である。
【0036】
本発明の典型的な適用においては、タンパク質ペプチドの物質は、胃および小腸に存在する消化酵素との接触から輸送された物質を保護するように、かつ残りの腸管全体に沿って漸進的な様式で同じ物質を引き続き放出するように処方された、制御された放出性カプセル剤、錠剤、顆粒剤、またはペレット剤の製造に用いられる。このような事象においては、また、上皮の構造の弛緩および存在する炎症状態によって決定されるリンパ球の浸潤によって、輸送されたタンパク質物質の大部分は、結腸の腸管腔を区切る細胞の層に到達することが可能であり、そこに存在する細胞の受容体と相互作用することが可能である。
【0037】
さらなる適用においては、ペプチドまたはタンパク質物質を、浣腸剤、泡沫剤、坐剤、散剤、または、好ましくは消化管の遠位のゾーンにおける、部位特異的な直腸投与に適する他の形態に用いることができる。 本発明によると、散剤とは、生理的pHに緩衝された水溶液、またはタンパク質分解を阻害する、エチレンジアミン四酢酸もしくはその塩またはイオン性もしくは非イオン性の界面活性剤などの物質を加えた生理的溶液の中から好ましくは選択される、的確な体積の溶媒の添加によって、浣腸剤の形態に再構成される粉末を意図している。
【0038】
本発明のさらなる適用において、ペプチドまたはタンパク質物質は、浣腸剤または直腸投与に適する他の組成物を作製するために使用される。好ましくは、直腸投与に適する前記浣腸剤組成物は、ビヒクルの生体接着特性によって、部位特異的、調節的または制御的に薬物を放出するように処方される。
【0039】
本発明の好ましい適用においては、注射液用凍結乾燥粉末としておそらく市販されている抗TNFα抗体は、ロウまたはステアリン酸などの親油性物質、例えば、レシチンまたは他のイオン性もしくは非イオン性界面活性剤などの両親媒性物質、および例えば、セルロース、アルキルセルロース、またはビニルポリマー誘導体などの親水性物質を存在させ、その結果、有効成分を経口投与後の速やかな遊離から保護することが可能なマトリックス構造を有する錠剤製剤に挿入される。該錠剤は、胃に典型的な低pHに耐性であり、胃排出時間に関係なく制御された溶解を開始することが示されている、アクリル酸および/またはメタクリル酸の共重合体で胃の酸性度からさらに保護される。
【0040】
以下の実施例に記載するように、このような錠剤を作製する技術はタンパク質またはペプチド物質の化学的完全性を保護できることが見出されているので、すでに言及したように、このような技術は、特許文献2に記載されている技術であってもよい。
【0041】
別の適用においては、注射液用凍結乾燥粉末としておそらくは市販されている抗TNFα抗体は、下行結腸またはS字結腸の管腔に沿って有効成分を分配し、固有層のレベルに存在する細胞受容体と相互作用させることが可能な浣腸製剤に挿入される。
【0042】
別の典型的な適用においては、注射液用凍結乾燥粉末としておそらくは市販されている抗TNFα抗体は、有効成分を分配し、それを長時間下行結腸またはS字結腸壁と接触させ続け、該抗体がTNFαと相互作用することにより、固有層のレベルに存在する細胞の受容体とTNFαとの結合を防止することが可能な浣腸製剤の調製に適する、ある量の生理学的溶液および他の補助物質に溶解される。
【0043】
さらなる適用においては、注射液用凍結乾燥粉末としておそらく市販されている、抗TNFα抗体などのタンパク質物質は、36〜38℃の範囲の融点のある量のトリグリセリドに分散され、場合によっては、直腸膨大部および/またはS字結腸の粘膜に沿って有効成分を分配し、該抗体がTNFαと相互作用することにより、固有層のレベルに存在する細胞の受容体とTNFαとの結合を防止することが可能な坐剤製剤の調製に適する、他の補助物質とともに分散される。
【0044】
本発明のさらなる目的は、結腸または直腸腸管の炎症性病態、好ましくは潰瘍性大腸炎、クローン病、セリアック病、または腸腫瘍の局在的局所治療のための薬物を調製するための、サイトカインおよび/またはインターロイキンおよび/または成長因子および/またはインターフェロンおよび/または腫瘍壊死因子の作用薬および/または拮抗薬として作用する、タンパク質性またはペプチド性物質の使用である。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】壊死した面積(a)および実施例6の製剤で処置した後再生された面積(b)を示している図である。
【発明を実施するための形態】
【0046】
以下に記載する実施例は、それでもあらゆるその限定を構成せずに、本発明の重要性をより評価できるようにするものである。
【実施例】
【0047】
1.不活性な支持体500mgに分散した抗TNFα抗体100mgを含む凍結乾燥粉末1ボトル(Remicade(商標))を、ダイズレシチン20mg、ステアリン酸20mg、ラクトース580mg、および二塩基性リン酸カルシウム500mgと5分間混合した。このようにして形成した均一な混合物に、以下:さらなるラクトース2g、二塩基性リン酸カルシウム500mg、コロイダルシリカ40mg、メチルヒドロキシプロピルセルロース100mg、およびステアリン酸マグネシウム40mgを加え、その後10分間再び混合した。混合物を、直径8mmのパンチを用いて自動機械において圧縮にかけ、各々抗TNFα抗体5mgを含む単位重量220mgの錠剤を得た。次いで、アクリル酸およびメタクリル酸の共重合体(9.6mg/1錠)およびトリエチルシトレート(1mg/1錠)のアルコール性の混合物ならびにタルク4mg/1錠を加えて、錠剤をコーティングパンでフィルムコーティングした。このようにして得たフィルムコーティング錠は、腸内放出錠に対する薬局方の必要要件に従って、pH1で2時間、人工胃液耐性試験に対して耐性であるという結果であった。さらに、pH7.2の腸液を擬したバッファーでは、錠剤は漸進的な構造の侵食を示し、侵食は6時間の間隔で完了した。
【0048】
2.不活性な支持体5gに分散した抗TNFα抗体1000mgを含む、市場の薬物に由来するある量の凍結乾燥粉末(Remicade(商標))を、ダイズレシチン200mg、ステアリン酸200mg、ラクトース6g、および二塩基性リン酸カルシウム5gと5分間混合した。このように形成した均一な混合物に、以下:さらなるラクトース20g、二塩基性リン酸カルシウム5gを加え、その後、メチルヒドロキシプロピルセルロース1gを含む少量の水溶液の助けで顆粒化した。湿性の混合物を、換気されている低温の乾燥機で一晩乾燥にかけ、その後コロイダルシリカ300mgおよびステアリン酸マグネシウム300mgを加え、再び10分間混合した。混合物を、直径8mmのパンチを用いて自動機械において圧縮にかけ、各々抗TNFα抗体5mgを含む単位重量220mgの錠剤を得た。次いで、アクリル酸およびメタクリル酸の共重合体(9.6mg/1錠)およびトリエチルシトレート(1mg/1錠)のアルコール性の混合物ならびにタルク4mg/1錠を加えて、錠剤をコーティングパンでフィルムコーティングした。このようにして得たフィルムコーティング錠は、腸内放出錠に対する薬局方の必要要件に従って、pH1で2時間、人工胃液耐性試験に対して耐性であるという結果であり、さらに、これらは腸のpH7.2を擬したバッファーで浸漬した場合、少なくとも5時間続く漸進的な侵食を示した。
【0049】
3.実施例1に記載した錠剤を用いて、抗体構造の完全性、ならびに生成プロセスからの熱的および機械的ストレス後のそのin vivoの機能性の持続を実証するために、TNFαとインキュベートしたヒト細胞培養物に対して生理活性試験を行った。抗TNFα抗体の存在下では、実際、細胞は保護され、生存性は抗体の量に正比例した。試験を様々な濃度の抗TNF抗体で行って、市販のボトルから再構成した注射溶液を用いて、コントロールとして投与した抗体自体の理論値に向かう傾向がある保護曲線を得た。試験は、錠剤を粉砕し、培養細胞に加えられた適切な量を引き出すことによって得られた抗TNF抗体濃度が、市販のRemicade(登録商標)のボトルから再構成した溶液に由来する等量の抗体の投与から得られるものに関して、量的および質的に同等の培養細胞の保護をもたらすことを実証した。この試験は、錠剤の内部に抗TNF抗体を挿入しても、タンパク質構造の全体的または部分的な破壊をもたらさず、標的の受容体に向かう機能的有効性を低減しないことを明白に実証している。
【0050】
4.エタネルセプト(Etanercept)として知られる、TNFαの可溶性受容体によって構成される市販の薬物に由来する粉末を用いて、以下の手順に従って錠剤を処方した。薬物500mgに加えて、ステアリン酸150mg、ダイズレシチン270mg、ラクトース一水和物10g、および微結晶性セルロース20gを加えた。小型容器中、粉末を正確に混合して均一にした後、以下:低粘性ヒドロキシプロピルメチルセルロース5g、および高粘性ヒドロキシプロピルメチルセルロース3.4g、ステアリン酸マグネシウム200mg、およびコロイダルシリカ500mgを加え、混合物を圧縮機械で単位重量約300mgに圧縮した。得られた錠剤は、6時間を超えてpH7.2の腸液を擬したものに浸漬した場合、漸進的な侵食に構造の持続性を示した。実施例1に記載したアクリル酸およびメタクリル酸の共重合体をベースとした同じフィルムコーティング組成物でフィルムコーティングした上記に記載した錠剤は、胃耐性錠に関するモノグラフに示されるように、2時間、pH1の胃液を擬したものにおける分解に対して耐性を示した。適切な賦形剤を加えた、錠剤の溶解から得られた液体は、実験結腸炎に関連した試験用の古典的な前臨床モデルに従って腸粘膜の潰瘍および壊死の存在を誘発するためのジニトロベンゼンで予め処置したマウスにおいて長さ3.5cmのキャピラリー管によって直腸に滴下する溶液を調製するためのベースを構成した。下記の表に記載する、得られた結果により、消化管の残りの部分に関してこの解剖学的領域に少量存在するタンパク質分解性の酵素が誘発する分解性の現象を超える、タンパク質性物質を局所的に腸内投与した後の投与量に相関した腸炎徴候の改善または軽減を誘発する可能性が確認される。
【0051】
【表1】

【0052】
5.エタネルセプトとして知られるTNFαの可溶性受容体によって構成されている市販の薬物に由来する粉末を用いて、以下の手順に従って錠剤を処方した。薬物500mgに加えて、ステアリン酸150mg、ダイズレシチン270mg、ラクトース一水和物10g、および微結晶性セルロース20gを挿入した。小型の容器中、粉末を正確に混合して均一にした後、以下:低粘性ヒドロキシプロピルメチルセルロース5g、高粘性ヒドロキシプロピルメチルセルロース3.4g、ステアリン酸マグネシウム200mg、およびコロイダルシリカ500mgを加え、混合物を圧縮機械で単位重量約300mgに圧縮した。得られた錠剤は、6時間を超えてpH7.2の腸液を擬したもので侵食した場合、漸進的な侵食に構造の持続性を示した。実施例1に記載したアクリル酸およびメタクリル酸の共重合体をベースにした同じフィルムコーティング組成物でフィルムコーティングした上記に記載した錠剤は、胃耐性錠に関するモノグラフに示されるように、2時間、pH1の胃液を擬したものにおける分解に対して耐性を示した。適切な賦形剤を加えた、錠剤の溶解から得られた液体は、実験結腸炎に関連した試験用の古典的な前臨床モデルに従って、腸粘膜の潰瘍および壊死の存在を誘発するためのジニトロベンゼンで予め処置したマウスにおいて長さ3.5cmのキャピラリー管によって直腸に滴下する溶液を調製するためのベースを構成した。下記の表に記載する、得られた結果により、消化管の残りの部分に関してこの解剖学的領域に少量存在するタンパク質分解性の酵素が誘発する分解性の現象を超える、タンパク質性物質を局所的に腸内投与した後の腸の炎症性の徴候に投与量に相関した改善または軽減を誘発する可能性が確認される。
【0053】
【表2】

【0054】
6.不活性の支持体5gに分散した抗TNFα抗体1000mgを含む、市販の薬物に由来する凍結乾燥粉末(Remicade(商標))の一定量を、0.5〜5mg/mlの範囲の濃度に到達するまで、等張化剤および界面活性剤を加えたリン酸バッファーで溶液化した。次いで、溶液を、抗体を直腸投与するための浣腸剤として用いた。
【0055】
7.不活性の支持体に分散した抗TNFα抗体100mg/1ボトルを含む(Remicade(商標))、市販の薬物5ボトルに由来する凍結乾燥粉末の一定量を、少量の非イオン性界面活性剤であるポリソルベート80を加えた等張のリン酸バッファーに分散した親水性ポリマーによって形成される構造ビヒクルに、1〜10mg/gの範囲の濃度の有効成分とともにゼラチン様の稠性が達成されるまで分散させた。このようにして得られたゲルを、ジニトロベンゼン投与によって実験結腸炎を誘発したラットに直腸投与するために、0.2gの投与量で用いた。投与は3日間繰り返され、以下の表によれば、DNB誘発性の潰瘍形成の面積の、整合性のあるかつ投与量に比例した低減がもたらされた。
【0056】
【表3】

【0057】
図1において、実施例は、壊死した面積(a)および実施例6の製剤で処置した後再生された面積(b)を示している。
【0058】
8.不活性の支持体に分散した抗TNFα抗体100mgを含む、凍結乾燥粉末(Remicade(商標))1ボトルを、ダイズレシチン20mg、ステアリン酸20mg、ラクトース580mg、および二塩基性リン酸カルシウム500mgと5分間混合した。このようにして形成した均一の混合物に、以下:さらなるラクトース2g、二塩基性リン酸カルシウム500mg、コロイダルシリカ40mg、メチルヒドロキシプロピルセルロース100mg、およびステアリン酸マグネシウム40mgを加え、その後10分間再び混合した。混合物を、直径8mmのパンチを用いて自動機械において圧縮にかけ、各々抗TNFα抗体5mgを含む単位重量220mgの錠剤を得た。次いで、錠剤を、顆粒サイズが0.5mm未満になるまで乳鉢で砕いた。このようにして得た顆粒を、その湿潤性を支持し、DNB誘発した実験結腸炎試験において試験ラットに直腸投与するために利用するために、少量の界面活性物質を加えたリン酸緩衝食塩水をベースにした等張のビヒクルに分散させた。3日後、ラットは、先行するニトロベンゼン物質の結腸内投与によって生成された壊死面積の整合性のある減少を示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有効成分を経口または直腸投与するための医薬組成物であって、
前記有効成分は、サイトカインおよび/またはインターロイキンおよび/または成長因子および/またはインターフェロンおよび/または腫瘍壊死因子のアゴニストおよび/またはアンタゴニストとして働くタンパク質性またはペプチド性の物質であり、
前記物質は、腸、好ましくは結腸または直腸において有効成分を確実に放出するのに適する補助物質とともに、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、ペレット剤、浣腸剤、坐剤、泡沫剤、または散剤の形態で処方されていることを特徴とする医薬組成物。
【請求項2】
前記物質は、これらの物質に対する特異的な受容体をブロックすることによって、または循環サイトカインと直接相互作用し、腸組織の受容体に対するその利用能を制限することによって、腸レベルで局所的に働くように適合されていることを特徴とする、前記請求項に記載の組成物。
【請求項3】
前記有効成分は、腸組織の細胞に対するTNFα活性をブロックまたは低減するように特異的に単離または合成されたペプチドまたはタンパク質物質であることを特徴とする、前記各請求項に記載の組成物。
【請求項4】
前記有効成分は、サイトカイン、特にTNFαおよびTNFβに対する特異的なモノクローナル抗体および/またはポリクローナル抗体および/または可溶性受容体の化学的クラスに属し、ならびに/あるいはTNFαおよびTNFβに結合することができる免疫グロブリンキャップの可変領域の少なくとも1つの配列部分を含む抗体部分により、ならびに/あるいはTNFαおよびTNFβに対する細胞受容体の配列部分により、ならびに/あるいは抗TNFαおよび抗TNFβ抗体のこのような可変領域の類似構造によることを特徴とする、前記各請求項に記載の組成物。
【請求項5】
前記有効成分は、部分的または全体的に、マウス、キメラ、またはヒトの性質を有することを特徴とする、前記各請求項に記載の組成物。
【請求項6】
前記医薬品投与形態は、制御放出性で胃から保護された錠剤、あるいは変更放出性で胃から保護されたミニマトリックスまたは顆粒剤を含有するカプセル剤よって構成されることを特徴とする、前記各請求項に記載の組成物。
【請求項7】
前記医薬品形態は、少なくとも親水性のマトリックスならびに親油性および/または両親媒性のマトリックスが共存している、マルチマトリックスの顆粒剤または錠剤によって構成されることを特徴とする、前記各請求項に記載の組成物。
【請求項8】
1種または複数のモノクローナルまたはポリクローナル抗体または可溶性受容体の腸内放出性経口投与のためのマルチマトリックス固形組成物であって、
潰瘍性大腸炎、クローン病、セリアック病または直腸結腸癌などの、自己免疫性、炎症性、または腫瘍性の病態の治療を意図して、循環過剰量のサイトカインおよび/またはTNFの腸細胞に対する特異的ブロック機能を有することを特徴とする固形組成物。
【請求項9】
前記有効成分は、モノクローナルもしくはポリクローナル抗体の共用によって、または免疫調節性もしくは抗炎症性もしくは化学療法性作用を有する他の有効成分と共用されているTNFに対する可溶性受容体によって構成されることを特徴とする、前記各請求項に記載の組成物。
【請求項10】
直腸または結腸腸管の炎症性病態の局在的局所治療薬を調製するための、サイトカインおよび/またはインターロイキンおよび/または成長因子および/またはインターフェロンおよび/または腫瘍壊死因子のアゴニストおよび/またはアンタゴニストとして働くタンパク質性またはペプチド性物質の使用。
【請求項11】
前記炎症性病態は、潰瘍性大腸炎、クローン病、セリアック病、または腸腫瘍の中から選択されることを特徴とする、請求項10に記載の使用。
【請求項12】
前記薬物は、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、またはペレット剤の形態にあることを特徴とする、前記各請求項に記載の使用。
【請求項13】
前記薬物は、浣腸剤、泡沫剤、坐剤、または散剤の形態にあることを特徴とする、前記各請求項に記載の使用。

【図1】
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【公表番号】特表2010−502759(P2010−502759A)
【公表日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−527791(P2009−527791)
【出願日】平成19年9月7日(2007.9.7)
【国際出願番号】PCT/EP2007/059378
【国際公開番号】WO2008/031770
【国際公開日】平成20年3月20日(2008.3.20)
【出願人】(505400004)コスモ・テクノロジーズ・リミテツド (4)
【Fターム(参考)】