説明

タンパク質相互作用と、抗がん剤、並びに抗がん剤のスクリーニング方法

【課題】DHPSの制御メカニズム及びん発症メカニズムの未解明だった部分を明らかにしすると共に、新規な抗がん剤を提供する。
【解決手段】ERKとDHPSとが相互作用すること、及び、ERKのリン酸化により、前記相互作用が抑制されることを新規に見出した。これらの事項から、(1)ERKがDHPSと相互作用し、DHPSの立体構造中に存在する酵素活性部位と球状構造との相互作用状態を保持することにより、DHPSの酵素活性(IF5Aのハイプシン化)を抑制する。(2)ERKがリン酸化された場合、ERKとDHPSとの相互作用が抑制され、DHPSの酵素活性部位と球状構造との相互作用状態が保持されないため、DHPSが酵素活性化し、IF5Aをハイプシン化するような作用メカニズムの存在が強く示唆された。DHPSの酵素活性部位と球状構造との相互作用状態を保持又は固定化する物質は抗がん剤として有用な可能性がある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンパク質間相互作用に関する。より詳細には、ERKと相互作用するDHPS、ERKとDHPSとの相互作用、抗がん剤、抗がん剤のスクリーニング方法、などに関する。
【背景技術】
【0002】
MAPキナーゼ(Mitogen−actibated protein kinase)カスケードは、代表的な細胞内シグナル伝達経路の一つで、多様な生命現象の制御に関与することが知られている。このカスケードは、MAPKKK(MAPキナーゼキナーゼキナーゼ)、MAPKK(MAPキナーゼキナーゼ)、MAPK(MAPキナーゼ)の三つのキナーゼ(リン酸化酵素)で構成され、MAPKKKがMAPKKをリン酸化して活性化し、MAPKKがMAPKをリン酸化して活性化することにより、細胞膜表面のシグナルを核内に伝達する経路である。代表的なMAPキナーゼとして、ERK、JNK、p38が知られている。
【0003】
そのうち、ERK(Extracellular signal−Regulated Kinase)は、細胞の増殖、分化、生存に関与するMAPキナーゼで、ERK1とERK2の二つのアイソフォームがある。
【0004】
ERKを介したMAPキナーゼカスケードとして、例えば、次のカスケードが知られている。発ガン遺伝子RasなどがMAPKKKのRaf1、B−Rafなどを活性化し、それらのMAPKKKがMAPKKのMEK(MKK1、MKK2など)を活性化し、MEKがERKを活性化(リン酸化)する。活性化されたERK(リン酸化ERK)は、核内に移行し、転写因子(Elk1、c−Fos、c−Junなど)などのエフェクターに作用する(非特許文献1など参照)。
【0005】
また、上記のカスケード(発ガン遺伝子RasなどによってERKが活性化されるカスケード)は、腫瘍細胞の増殖率を増加させることが知られている。そこで、新規抗がん剤として、このカスケードを抑制する物質を探索する試みが行われている(非特許文献1参照)。
【0006】
ここで、本発明と関連性があるタンパク質、DHPSについて説明する。
【0007】
DHPS(DeoxyHyPusine Synthase)は、スペルミジン存在下で、eIF5A(eukaryotic translation Initiation Factor 5A)をハイプシン化(活性化)する酵素である(図10参照)。
DHPSは、立体構造中に、酵素活性部位(本体構造)、鎖状構造、球状構造を有し、酵素活性部位と球状構造は、鎖状構造を介して繋がっている。立体構造解析などにより、酵素活性部位と球状構造は相互作用することが知られており、球状構造は酵素活性部位の偽基質であると推測されている。
酵素活性部位と球状構造との相互作用は、4分子間で行われている。即ち、DHPSは四量体を形成し、いずれかのDHPSの酵素活性部位と他のDHPSの球体構造とが、それぞれ、相互作用している。そして、酵素活性部位と球状構造とが相互作用している状態の時、酵素活性(IF5Aのハイプシン化)が抑制され、両構造が相互作用していない状態の時、酵素活性化すると推測されている(非特許文献2参照)。
【0008】
なお、IF5Aの活性化と子宮頚部がん・前立腺がんとの関係が報告されており、がんマーカーとして注目されている(例えば、非特許文献3参照)。
【非特許文献1】Johnson G.L et al, “Mitogen-activated Protein Kinase PathwaysMediated by ERK, JNK, and p38 Protein Kinases” Science, Vol.298:1911-1992(2002)
【非特許文献2】Der-Ing Liao, Edith C Wolff, Myung Hee Park and David R Davies, “Crystalstructure of the NAD complex of human deoxyhypusine synthase: an enzyme with aball-and-chain mechanism for blocking the active site.” J.Bio.Chem. 2004 279:28697-28705
【非特許文献3】Cracchiolo BM, Heller DS, Clement PM, Wolff EC, Park MH,Hanauske-Abel HM, “Eukaryotic initiation factor 5A-1(eIF5A-1) as a diagnosticmarker for aberrant proliferation in intraepithelial neoplasia of the vulva.”Gynecol Oncol. 2004 94:217-22
【非特許文献4】Young Ae Joe, Edith C. Wolff, and Myung Hee Park “Cloning andExpression of Human Deoxyhypusine Synthase cDNA.” J.Bio.Chem. 1995 270:22386-22392
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前記の通り、DHPSは、がんマーカーとして注目されている。しかし、DHPSの制御メカニズムとがん化との関係は不明のままである。
また、発ガン遺伝子RasなどからERKまでのカスケードと、がん発症との関連性については、前記の通り明らかになりつつあるが、ERK活性化からがん発症に至る経路については、未解明のままである。
【0010】
そこで、本発明は、DHPSの制御メカニズムを明らかにすること、がん発症メカニズムの未解明だった部分を明らかにすること、及び、新規な抗がん剤を提供すること、を主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明では、まず、ERKと相互作用するDHPS、DHPSと相互作用するERK、並びに、ERKとDHPSとの相互作用、を提供する。
【0012】
上述の通り、DHPSが、立体構造中に、酵素活性部位と球状構造を有すること、及び、酵素活性部位と球状構造とが相互作用すること、が知られている。また、上述の通り、球状構造は酵素活性部位の偽基質であると推測されている。
しかし、全長のDHPSは、単独でも酵素活性がある(非特許文献4参照)。即ち、DHPSの立体構造中に球状構造が存在する場合でも、DHPSの酵素活性は抑制されないため、球状構造が偽基質としてどのように機能しているかどうか、不明であった。
一方、DHPSの球状構造が、酵素活性部位の偽基質として、DHPSの活性制御に関与すると仮定した場合、酵素活性部位と球状構造との相互作用状態を安定的に保持させる別の分子の存在を想定できる。即ち、その分子が、両者の相互作用状態を保持させることにより、DHPSの酵素活性を調節していると想定できる。
【0013】
本発明者らは、ERKとDHPSとが相互作用(結合)すること、及び、ERKのリン酸化により、前記相互作用が抑制されることを新規に見出した。
このことは、ERKが、DHPSの立体構造中の酵素活性部位と球状構造との相互作用を安定的に保持し、DHPSの酵素活性を調節している可能性を強く示唆する。
【0014】
従って、本発明者らは、これらの事項より、DHPSの活性制御メカニズムが次の通りであると推測する。
ERKがDHPSと相互作用し、DHPSの酵素活性部位と球状構造との相互作用状態を保持させることにより、DHPSの酵素活性(IF5Aのハイプシン化)を抑制する。
一方、ERKがリン酸化された場合、ERKとDHPSとの相互作用が抑制され、DHPSの酵素活性部位と球状構造との相互作用状態が保持されないため、DHPSが酵素活性化し、IF5Aをハイプシン化する。
【0015】
続いて、本発明では、DHPSの立体構造中に存在する酵素活性部位と球状構造との相互作用状態を保持又は固定化する物質を少なくとも含有する抗がん剤、及び、DHPSの立体構造中に存在する球状構造の代わりに、同じくDHPSの立体構造中に存在する酵素活性部位と相互作用する物質を少なくとも含有する抗がん剤、を提供する。
【0016】
上記の新知見は、また、次のようながん発症メカニズムの存在を強く示唆する。
発ガン遺伝子RasなどによってERKが活性化されるカスケードなどにより、ERKの活性化(リン酸化)が亢進する。ERKのリン酸化により、ERKとDHPSとの相互作用が解除され、DHPSの酵素活性部位と球状構造との相互作用状態が保持されなくなる。それにより、DHPSが過剰に酵素活性化し、IF5Aが過剰にハイプシン化し、がん化を促進する。
【0017】
従って、DHPSの酵素活性部位と球状構造との相互作用状態を保持又は固定化する物質、または、球状構造の代わりに酵素活性部位と相互作用する物質は、抗がん剤としての適用される可能性が高い。
【0018】
具体的には、例えば、次のような物質を抗がん剤として想定する。
(1)ERK自体、
(2)デコイとして働くERKアナログ、
(3)ERKとDHPSとの相互作用を固定化する物質(例えば、ERKとDHPSの両者に結合し、架橋する物質)、
(4)ERKのリン酸化状態を保持しつつ、ERKとDHPSとの相互作用を回復させる物質、
(5)DHPSの立体構造中に存在する酵素活性部位と球状構造との相互作用状態を固定化する物質(例えば、酵素活性部位と球状構造を架橋する物質)、
(6)DHPSの鎖状構造に作用する物質、
(7)抗体(例えば、ERKとDHPSの両者と結合し、両者の相互作用を保持させる抗体、若しくはDHPSの立体構造中に存在する酵素活性部位と球状構造の両者に結合し、両者の相互作用を保持させる抗体)、
(8)DHPSの球状構造のデコイとして働くアナログ(ボールアナログ)、
(9)ERKとDHPSとの相互作用を促進する物質、
(10)ERKの発現を促進する物質。
【0019】
続いて、本発明では、DHPSの酵素活性部位と球状構造との相互作用状態を保持又は固定化する物質を探索することによる、抗がん剤のスクリーニング方法、及び、DHPSの立体構造中に存在する球状構造の代わりに、酵素活性部位と相互作用する物質を探索することによる、抗がん剤のスクリーニング方法を提供する。
例えば、候補物質に、DHPSの酵素活性部位と球状構造との相互作用状態を保持又は固定化する作用がある場合、または、候補物質が、DHPSの球状構造の代わりにDHPSの酵素活性部位と相互作用する場合、その物質は、抗がん剤として有効な可能性がある。
【0020】
以下、本発明に係るタンパク質について、説明する。
【0021】
本発明に係るERKは、ERK1、ERK2、若しくは前記いずれかのタンパク質のアミノ酸配列と相同性を有し、DHPSと相互作用する領域を保持するタンパク質である。即ち、例えば、前記いずれかのタンパク質のスプライシング・バリアント(同一の遺伝子に由来するが、スプライシングにより、配列の一部が異なっているタンパク質、以下同じ)や、前記いずれかのタンパク質のアミノ酸配列中の一部に、置換、欠損、挿入、付加部分が含まれる場合も、本発明に係るERKに包含される。なお、ERK1は、配列番号1のアミノ酸配列を有するタンパク質、ERK2は、配列番号2のアミノ酸配列を有するタンパク質である。
【0022】
本発明に係るDHPSは、配列番号3のアミノ酸配列を有するタンパク質、若しくはDHPSのアミノ酸配列と相同性を有し、ERKと相互作用する領域を保持するタンパク質である。即ち、例えば、前記タンパク質のスプライシング・バリアントや、前記アミノ酸配列中の一部に、置換、欠損、挿入、付加部分が含まれる場合も、本発明に係るDHPSに包含される。
【発明の効果】
【0023】
本発明は、がん発症メカニズムの解明の一助になるほか、新規な作用メカニズムに基づく抗がん剤又はそのスクリーニング方法などに応用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
<ERK、DHPS、IF5Aの相互関係について>
はじめに、図1から図4を用いて、ERK、DHPS、IF5Aの相互関係について、説明する。
【0025】
図1は、ERKによるDHPS活性制御メカニズムを示す模式図である。
【0026】
図1中、(A)は、DHPSがIF5Aと相互作用(結合)し、IF5Aをハイプシン化することを示す。ハイプシン化IF5A(Hpu−IF5A)は、上述の通り、活性化状態であり、細胞増殖を惹起する。また、IF5Aの過剰なハイプシン化は、がん化を惹起する。
【0027】
図1中、(B)は、ERKが存在する場合、ERKとDHPSとが相互作用し、IF5AとDHPSは相互作用しないことを示す。その場合、IF5AとDHPSは相互作用しないため、IF5Aはハイプシン化されない。
【0028】
図1中、(C)は、ERKがMEKによってリン酸化(図中、「P−」)された場合、ERKとDHPSの相互作用は抑制され、IF5AとDHPSとが相互作用することを示す。その場合、DHPSとIF5Aが相互作用するため、IF5Aはハイプシン化され、活性化する。
【0029】
図2は、DHPSの酵素活性部位と球状構造とが相互作用する前の状態を示す模式図、図3は、DHPSの酵素活性部位と球状構造が相互作用した状態を示す模式図、図4は、DHPSとERKとが相互作用した状態を示す模式図である。
【0030】
DHPS(符号1)は、立体構造中に、酵素活性部位11、鎖状構造12、球状構造13を有する。酵素活性部位11には、球状構造13との相互作用部位111が存在する。
ERK(符号2)は、立体構造中に、リン酸結合部位(MEKなどによってリン酸化される部位、図示せず)、酵素活性部位(基質と相互作用し、基質をリン酸化する部位、図示せず)、DHPS相互作用部位(DHPSと相互作用する部位)などを有する。
【0031】
DHPSの酵素活性(IF5Aのハイプシン化)の抑制に関する作用メカニズムは、次の通りである。
まず、DHPSの酵素活性部位11と球状構造13とが相互作用(符号B)する(図2及び図3参照)。次に、DHPSの酵素活性部位11と球状構造13とが相互作用した状態で、DHPSとERKが相互作用(符号A)し(図3及び図4参照)、DHPSの酵素活性部位11と球状構造13との相互作用状態が保持される(図4参照)。これにより、DHPSの酵素活性が抑制され、IF5A(図示せず)のハイプシン化が抑制される。
【0032】
一方、DHPSの酵素活性化に関する作用メカニズムは、次の通りである。
まず、DHPSとERKとが相互作用した状態(図4参照)から、ERKがリン酸化され、解離する(図3参照)。ERKがDHPSから解離することにより、DHPSの酵素活性部位11と球状構造13との相互作用Bが保持されない状態(解離可能な状態)になる。(図2参照)。そして、DHPSの酵素活性部位11と球状構造13との相互作用Bが解除されることにより、DHPSが酵素活性を回復し、IF5A(図示せず)をハイプシン化する。
【0033】
なお、図2から図4では、DHPSが四量体を形成し、いずれかのDHPSの酵素活性部位11と、他分子のDHPSの球状構造13と相互作用しているが、本発明はそのような場合のみに狭く限定されない。即ち、例えば、DHPSの同一分子内の酵素活性部位11と球状構造13とが相互作用する場合や、四量体でない場合も、本発明に包含される。
【0034】
<抗がん剤について>
続いて、図5を用いて、本発明に係る抗がん剤について説明する。
【0035】
上述の通り、本発明に係る抗がん剤として、DHPSの立体構造中に存在する酵素活性部位と球状構造との相互作用状態を保持又は固定化する物質、前記球状構造の代わりに前記酵素活性部位と相互作用する物質、などを想定できる。
具体的には、(1)ERK自体、(2)デコイとして働くERKアナログ、(3)ERKとDHPSとの相互作用を固定化する物質(例えば、ERKとDHPSの両者に結合し、架橋する物質)、(4)ERKのリン酸化状態を保持しつつ、ERKとDHPSとの相互作用を回復させる物質、(5)DHPSの立体構造中に存在する酵素活性部位と球状構造との相互作用状態を固定化する物質(例えば、酵素活性部位と球状構造を架橋する物質)、(6)DHPSの鎖状構造を作用する物質、(7)抗体(例えば、ERK又はDHPS、若しくはその両者と結合し、両者の相互作用を保持させる抗体、DHPSの立体構造中に存在する酵素活性部位又は球状構造、若しくはその両者に結合し、両者の相互作用を保持させる抗体)、
(8)DHPSの立体構造中に存在する球状構造のデコイとして働くアナログ(ボールアナログ)、(9)その他、などが想定できる。以下、順に説明する。
【0036】
(1)ERK自体:
前記の通り、ERKは、DHPSと相互作用し、DHPSの酵素活性部位11と球状構造13との相互作用状態を保持させる(図5符号2参照)。従って、ERK自体が、IF5Aの過剰なハイプシン化を抑制する可能性、即ち、抗がん剤としての適用可能性がある。
【0037】
(2)デコイとして働くERKアナログ:
ERKアナログとは、ERK立体構造中のDHPS相互作用部位と類似の構造を有し、ERKのおとりとして、DHPS立体構造中のERK相互作用部位に結合することができる物質をいう(図5符号M1参照)。ERKアナログには、ERK立体構造中の、ERKとDHPSとの相互作用部位又はその一部分と同様の立体構造を含むタンパク質又はポリペプチドも含まれる。
ERKアナログを用いることにより、DHPSの酵素活性部位11と球状構造13との相互作用状態を保持又は固定化できるため、抗がん剤としての適用可能性がある。
また、ERKアナログには、副作用が少ない可能性が高いという有利性がある。ERKは、細胞内の様々な生命現象に関わっているため、ERKに直接的に作用する抗がん剤は、副作用を持つ可能性が高い。それに対し、ERKアナログは、ERKのその他の機能に影響を与えずに、DHPSの酵素活性化を抑制できるため、副作用の少ない可能性が高い。
【0038】
(3)ERKとDHPSとの相互作用を固定化する物質:
ERKとDHPSとの相互作用を固定化する物質として、例えば、ERKとDHPSの両者と共有結合を形成し、ERKの解離を抑制する物質(架橋剤)が挙げられる(図5符号M2参照)。
例えば、この物質がERKとDHPSの両者を架橋し、ERKとDHPSとの相互作用を固定化することにより、DHPSの酵素活性部位と球状構造との解離を抑制できるため、抗がん剤として、適用可能性がある。
なお、この物質も、ERKの酵素活性(基質のリン酸化)に影響を与えないため、副作用が少ない可能性が高い。
【0039】
(4)ERKのリン酸化状態を保持しつつ、ERKとDHPSとの相互作用を回復させる物質:
この物質は、ERKのリン酸化状態を保持することにより、MAPキナーゼとしての機能を保持できるため、生体に与える影響(副作用)を抑えることができる。
一方、ERKとDHPSとの相互作用が回復するため、DHPSの酵素活性部位11と球状構造13との解離を抑制できる。
従って、この物質は、副作用の少ない抗がん剤として、適用可能性がある。
【0040】
(5)DHPSの立体構造中に存在する酵素活性部位と球状構造との相互作用状態を固定化する物質:
このような物質として、例えば、酵素活性部位と球状構造を架橋する物質が挙げられる(図5符号M3参照)。
例えば、この物質が、DHPSの立体構造中の酵素活性部位と球状構造とを架橋すると、両者の解離を抑制できるため、抗がん剤として、適用可能性がある。
なお、この物質も、ERKの酵素活性(基質のリン酸化)に影響を与えないため、副作用が少ない可能性が高い。
【0041】
(6)DHPSの鎖状構造に作用する物質:
例えば、この物質が、DHPSの立体構造中の鎖状構造に作用することにより、DHPSの立体構造中に存在する酵素活性部位と球状構造との相互作用状態を保持又は固定化する場合、抗がん剤として、適用可能性がある(図5符号M4参照)。
【0042】
(7)抗体:
例えば、この物質が、ERK又はDHPS、若しくはその両者と結合し、両者の相互作用を保持させる抗体である場合、その抗体がERKとDHPSの両者に結合して両者を架橋し、ERKとDHPSとの相互作用を保持させる。従って、DHPSの酵素活性部位と球状構造との解離を抑制できるため、抗がん剤として、適用可能性がある(図5符号M5参照)。
【0043】
また、例えば、この物質が、DHPSの立体構造中に存在する酵素活性部位又は球状構造、若しくはその両者に結合し、両者の相互作用を保持させる抗体である場合、その抗体が、DHPSの立体構造中の酵素活性部位と球状構造の両者に結合して両者を架橋し、両者の解離を抑制する。従って、両者の相互作用状態を保持させることができるため、抗がん剤として、適用可能性がある(図5符号M6参照)。
【0044】
なお、抗体は、公知方法により作製可能である。また、これらの抗体は、ERKの酵素活性(基質のリン酸化)に影響を与えないため、副作用が少ない可能性が高い。
【0045】
(8)DHPSの立体構造中に存在する球状構造のデコイとして働くアナログ(ボールアナログ):
この物質が、DHPSの立体構造中に存在する球状構造の代わりに、酵素活性部位に結合すると、DHPSの酵素活性部位と球状構造との相互作用状態が擬似的に保持された状態となるため、DHPSの酵素活性が抑制される可能性がある。従って、この物質は、抗がん剤として適用可能性がある(図5符号M7参照)。
なお、このアナログには、球状構造中の、酵素活性部位との相互作用部位又はその一部分と同様の立体構造を含むタンパク質又はポリペプチドも含まれる。
【0046】
(9)その他:
その他、DHPSの立体構造中に存在する酵素活性部位と球状構造との相互作用状態を保持又は固定化する物質として、例えば、ERKとDHPSとの相互作用を促進する物質、ERKの発現を促進する物質、なども想定できる。
これらの物質も、上記と同様、DHPSの酵素活性部位と球状構造との解離を抑制できるため、抗がん剤としての適用可能性がある。
【0047】
<スクリーニング方法について>
続いて、本発明に係るスクリーニング方法の例について、以下説明する。
【0048】
DHPSの酵素活性部位と球状構造との相互作用状態を保持又は固定化する物質を探索することにより、または、DHPSの立体構造中に存在する球状構造の代わりに、酵素活性部位と相互作用する物質を探索することにより、抗がん剤を探索できる可能性がある。
【0049】
デコイとして働くERKアナログの探索は、例えば、候補物質とDHPSとの相互作用を検出することにより行うことができる。DHPSと相互作用する物質は、ERKと同様、DHPSの立体構造中に存在する酵素活性部位と球状構造との相互作用状態を保持又は固定化する物質である可能性がある。
【0050】
ERKとDHPSとの相互作用を固定化する物質(架橋剤など)を探索する場合、例えば、次のような方法により、目的の物質を探索する。
ERKとDHPSの存在下に、候補物質を供給した後、MEKなどを供給する。そして、MEKによりERKがリン酸化された後も、引き続き、ERKとDHPSとの相互作用状態が保持されている場合、その物質は、目的の物質である可能性がある。
【0051】
ERKのリン酸化状態を保持しつつ、ERKとDHPSとの相互作用を回復させる物質を探索する場合、例えば、次のような方法により、目的の物質を探索する。
リン酸化ERKとDHPSの存在下に、候補物質を供給した後、そのリン酸化ERKとDHPSとの相互作用を検出する。そして、その相互作用が検出できた場合、その物質は目的の物質である可能性がある。
【0052】
DHPSの立体構造中に存在する酵素活性部位と球状構造を固定化する物質、若しくはDHPSの立体構造中に存在する球状構造の代わりに、酵素活性部位と結合する物質(DHPSの球状構造のデコイとして働くアナログなど)、を探索する場合、例えば次のような方法により、目的の物質を探索する。
DHPSとIF5Aとスペルミジンの存在下に候補物質を供給し、IF5Aのハイプシン化(活性化)を検出する。そして、IF5Aのハイプシン化が抑制された場合、その物質は、目的の物質である可能性がある。
【0053】
その他、ERKとDHPSとの相互作用を促進する物質を探索する場合は、例えば、ERKとDHPS存在下に候補物質を供給し、相互作用を検出することにより行うことができる。
また、ERKの発現を促進する物質を探索する場合は、例えば、培養細胞に候補物質を供給し、ERKの発現量をウエスタンブロットなどで検出することにより行うことができる。
【0054】
なお、上述の各スクリーニング方法において、タンパク質間の相互作用の検出は、既知の方法を用いることができる。例えば、共免疫沈降法、カラムを用いたプルダウン法、質量分析計を用いた方法、蛍光標識を用いたイメージング、などを適用できる。
【0055】
本発明に係る各スクリーニング方法は、全て、キット化が可能である。その場合、例えば、MEK、ERK、DHPS、抗ERK抗体、抗DHPS抗体、相互作用検出試薬(共免疫沈降法、カラムを用いたプルダウン法、ウエスタンブロットなどに用いる試薬、質量分析に用いる試薬)などを、相互作用検出方法に応じて適宜組み合わせ、キット化する。その場合、前記各タンパク質は、変異体を用いてもよい(DHPSの酵素活性部位のみ又は球状構造のみの変異体を含む)。
【実施例1】
【0056】
実施例1は、ERKがDHPSの酵素活性を抑制すること、及び、ERKをリン酸化するとDHPSの酵素活性が回復することを示した実験である。
【0057】
前記の通り、DHPSは、スペルミジン存在下で、IF5Aをハイプシン化する酵素である。そこで、本実験では、ハイプシン化されたIF5Aを質量分析計で測定することにより、DHPSの酵素活性を検出した。実験手順の概要と実験結果を、以下に示す。
【0058】
まず、本実験に用いるタンパク質であるDHPS、IF5A、ERK、ドミナントアクティブMEK(以下、「daMEK」とする)を調製した。調製は一般的に用いられている方法により行った。まず、コード遺伝子をプラスミドに組み込んだ後、大腸菌にそのプラスミドをトランスフェクションし、大腸菌を増殖させた。次に、大腸菌を溶解した後、大腸菌内に発現した目的のタンパク質を精製した。
【0059】
なお、「daMEK」は、活性化した状態で発現させたMEKである(即ち、常に、ERKリン酸化能を有する)。「MEK」は、上述の通り、MAPKKであり、活性化(リン酸化)したMEKは、ERKをリン酸化する。
【0060】
次に、IF5Aとスペルミジンの存在下に、DHPSを添加し、ハイプシン化されたIF5Aを質量分析計で測定した。その結果、ハイプシン化IF5Aが検出された(図6中、「1」の棒グラフ)。なお、図6中のグラフの縦軸は、本実験条件におけるハイプシン化IF5A検出量(測定値)を100%とした時の割合(%)を示す。
【0061】
次に、上記実験条件に、さらに、ERKを加え、ハイプシン化されたIF5Aを質量分析計で検出した。その結果、ハイプシン化IF5Aはほとんど検出されなかった(図6中、「2」の棒グラフ)。即ち、ERKを加えることにより、DHPSの酵素活性は、ほぼ完全に抑制された。
【0062】
次に、上記実験条件に、さらに、daMEKを加え、ハイプシン化されたIF5Aを質量分析計で検出した。その結果、ハイプシン化IF5A検出量は、40%強まで回復した(図6中、「3」の棒グラフ)。即ち、daMEKを加えることにより、DHPSの酵素活性は、回復した。
【0063】
以上の実験結果は、DHPSの酵素活性がERKにより完全に抑制され、ERKをリン酸化することにより、DHPSの酵素活性が回復すること、即ち、ERKがDHPSの酵素活性を調節していることを示す。
【0064】
上述の通り、DHPSの立体構造中に存在する球状構造が、酵素活性部位の偽基質として、DHPSの活性制御に関与すると仮定した場合、酵素活性部位と球状構造との相互作用を安定的に保持させる別の分子の存在を想定できる。
従って、上記実験結果は、また、ERKが、DHPSの立体構造中の酵素活性部位と球状構造との相互作用を保持させる分子であることを強く示唆する。
【実施例2】
【0065】
実施例2は、ERKが、DHPSとIF5Aとの相互作用(結合)を抑制することを示した実験である。実験手順の概要を以下に示す。
【0066】
まず、本実験に用いる三つのタンパク質、ERK、DHPS、IF5Aを調製した。調製は、前記と同様、一般的に用いられている方法により行った。なお、DHPSは、N末端側にMBP(マルトース結合タンパク質)タグを付け、MBPタグとの融合タンパク質として調製した。同様に、IF5Aは、N末端側にGST(グルタチオンSトランスフェラーゼ)タグを付け、GSTタグとの融合タンパク質として調製した。
【0067】
次に、DHPSとIF5Aの混合溶液に、ERKを添加した後、グルタチオンビーズ(GSTタグと特異的に結合する、以下同じ)を用いてアフィニティー沈降を行い、沈降物(IF5A複合体)を得た。次に、その沈降物中のタンパク質をSDS−PAGE(SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動法)によりゲル内に展開させ、そのゲルをPVDF(polyvinyliden−difluoride)膜に転写した後、抗ERK抗体、抗MBP抗体、抗GST抗体を用いて、ウエスタンブロットを行った。なお、DHPSの検出は抗MBP抗体で、IF5Aの検出は抗GST抗体で、それぞれ行った。
【0068】
結果を図7に示す。図7中、「input」はアフィニティー沈降前の溶液について行ったウエスタンブロット写真であることを、「elution」はアフィニティー沈降後に得られた溶液について行ったウエスタンブロット写真であることを、それぞれ示す。
【0069】
ERKを添加していない場合、図7中、「elution」の一番左側のレーンのウエスタンブロット写真が示す通り、IF5Aのバンドとともに、DHPSのバンドが検出された。それに対し、ERKを添加した場合、図7中、「elution」のその他のレーンが示すとおり、ERKの添加量に比例して、DHPSのバンドが減少した。
【0070】
以上の結果は、ERKが、DHPSとIF5Aとの相互作用(結合)を抑制することを示す。
【実施例3】
【0071】
実施例3は、ERKとDHPSが相互作用(結合)すること、及び、ERKのリン酸化により、ERKとDHPSの結合が解除されることを示す実験である。実験手順の概要を以下に示す。
【0072】
まず、タンパク質、ERKとDHPSを調製した。調製は、前記と同様、一般的に用いられている方法により行った。なお、ERKは、N末端側にGST(グルタチオンSトランスフェラーゼ)タグを付け、GSTタグとの融合タンパク質として調製した。また、DHPSは、Sタグを付け、Sタグとの融合タンパク質として調製した。
【0073】
次に、ERKとDHPSの混合溶液について、グルタチオンビーズを用いてアフィニティー沈降を行い、沈降物(ERK複合体)を得た。次に、その沈降物中のタンパク質をSDS−PAGE(SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動法)によりゲル内に展開させ、そのゲルをPVDF(polyvinyliden−difluoride)膜に転写した後、抗GST抗体、抗リン酸化ERK抗体、Sタンパク質(Sタグと特異的に結合する、以下同じ)を用いて、ウエスタンブロットを行った。なお、ERKの検出は抗GST抗体で、DHPSの検出はSタンパク質で、それぞれ行った。
【0074】
また、別途、ERKとDHPSの混合溶液に、ATPとdaMEKを添加した後、前記と同様、グルタチオンビーズを用いてアフィニティー沈降を行い、沈降物(ERK複合体)を得た。そして、前記と同様の手順の後、抗GST抗体、抗リン酸化ERK抗体、Sタンパク質を用いて、ウエスタンブロットを行った。
【0075】
結果を図8に示す。
図8中、「input」はアフィニティー沈降前の溶液について行ったウエスタンブロット写真であることを、「elution」はアフィニティー沈降後に得られた溶液について行ったウエスタンブロット写真であることを、それぞれ示す。
図8中、「daMEK」及び「ATP」の欄は、それぞれ、daMEK又はATPを添加したかどうかを示し、「−」は添加していないことを、「+」は添加したことを示す。
【0076】
図8中、「elution」の一番左側のレーンのウエスタンブロット写真が示す通り、グルタチオンビーズを用いて、ERKのアフィニティー沈降を行った場合、ERKのバンドとともに、DHPSのバンドが検出された。この結果は、ERKとDHPSが相互作用(結合)することを示す。
【0077】
一方、daMEKとATPを添加した場合、図8中、「elution」の一番右側のレーンのウエスタンブロット写真が示す通り、DHPSのバンドが消失した。前記の通り、daMEKはATP存在下でERKをリン酸化する(前記レーンのうち、中段のウエスタンブロット写真参照)。従って、本実験結果は、ERKがリン酸化されると、ERKとDHPSとの結合が阻害されることを示す。
【0078】
なお、図8中、「elution」の左から三番目のレーンのウエスタンブロット写真では、リン酸化ERKのバンドが検出され(本レーンのうち、中段のウエスタンブロット写真)、DHPSのバンドが減少した(本レーンのうち、下段のウエスタンブロット写真)。この結果は、ERKとDHPSの混合溶液にATPを添加した結果、ERKの自己リン酸化が生じたためであると推測する。
【実施例4】
【0079】
実施例4では、ERKとDHPSとの間の相互作用メカニズムについて検討した。実験手順の概要を以下に示す。
【0080】
まず、タンパク質、ERKとDHPSを調製した。ERKは、野生型(WT)、リン酸化酵素としての活性を持たない変異体(K54R)、MEKによってリン酸化されない変異体(TAYF)、の三種類を調製した。調製は、前記と同様、一般的に用いられている方法により行った。なお、ERK(三種類)は、それぞれ、N末端側にGST(グルタチオンSトランスフェラーゼ)タグを付け、GSTタグとの融合タンパク質として調製した。また、DHPSは、Sタグを付け、Sタグとの融合タンパク質として調製した。
【0081】
次に、ERKとDHPSの混合溶液に、グルタチオンビーズを用いてアフィニティー沈降を行い、沈降物(ERK複合体)を得た。次に、その沈降物中のタンパク質をSDS−PAGE(SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動法)によりゲル内に展開させ、そのゲルをPVDF(polyvinyliden−difluoride)膜に転写した後、抗GST抗体、抗リン酸化ERK抗体、Sタンパク質を用いて、ウエスタンブロットを行った。なお、ERKの検出は抗GST抗体で、DHPSの検出はSタンパク質で、それぞれ行った。
【0082】
また、別途、ERKとDHPSの混合溶液に、ATPとdaMEKを添加した後、前記と同様、グルタチオンビーズを用いてアフィニティー沈降を行い、沈降物(ERK複合体)を得た。そして、前記と同様の手順の後、抗GST抗体、抗リン酸化ERK抗体、Sタンパク質を用いて、ウエスタンブロットを行った。
【0083】
結果を図9に示す。
図9中、「input」はアフィニティー沈降前の溶液について行ったウエスタンブロット写真であることを、「elution」はアフィニティー沈降後に得られた溶液について行ったウエスタンブロット写真であることを、それぞれ示す。
図9中、「daMEK」及び「ATP」の欄は、それぞれ、daMEK又はATPを添加したかどうかを示し、「−」は添加していないことを、「+」は添加したことを示す。
【0084】
図9中、「K54R」について示した四つのレーンのうち、一番右側のレーンのウエスタンブロット写真が示すとおり、酵素活性(リン酸化活性)を持たない変異ERK(K54R)を用いた場合でも、野生型(WT)と同様、daMEKとATPの添加により、リン酸化ERKのバンドが検出され(本レーンの下から二番目のウエスタンブロット写真参照)、DHPSのバンドが消失した(本レーンの一番下のウエスタンブロット写真参照)。
このことは、ERKとDHPSの相互作用は、ERKのリン酸化能を必要としないことを示す。
【0085】
一方、図9中、「TAYF」について示した四つのレーンのうち、一番右側のレーンのウエスタンブロット写真が示すとおり、MEKによってリン酸化されない変異体(TAYF)を用いた場合、daMEKとATPを添加しても、DHPSのバンドは消失しなかった。
このことは、ERKのリン酸化が、ERKとDHPSとの相互作用を調節していることを実証している。
【0086】
以上のように、本実験より、(1)ERKとDHPSの相互作用は、ERKの酵素活性(リン酸化活性)とは全く別の作用メカニズムに基づくものであること、及び、(2)ERKのリン酸化が、ERKとDHPSとの相互作用を調節していることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明は、がん発症メカニズムの中の、重要な細胞内シグナル伝達経路を解明した点で、有用である。従って、本発明は、抗がん剤、抗がん剤のスクリーニング方法、抗がん剤スクリーニングキットなどに適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】ERK、DHPS、IF5Aの相互関係を示す模式図。
【図2】DHPSの酵素活性部位と球状構造とが相互作用する前の状態を示す模式図。
【図3】DHPSの酵素活性部位と球状構造が相互作用した状態を示す模式図。
【図4】DHPSとERKとが相互作用した状態を示す模式図。
【図5】本発明に係る物質の作用部位を示す模式図。
【図6】ERKがDHPSの酵素活性を抑制することを示すグラフ。
【図7】ERKが、DHPSとIF5Aとの相互作用を抑制することを示すウエスタンブロット写真(図面代用写真)。
【図8】ERKのリン酸化により、ERKとDHPSの結合が解離することを示すウエスタンブロット写真(図面代用写真)。
【図9】ERKのリン酸化が、ERKとDHPSとの相互作用を制御することを示すウエスタンブロット写真(図面代用写真)。
【図10】従来技術を示す図であって、DHPSによるIF5Aのハイプシン化を示す模式図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ERKと相互作用するDHPS。
【請求項2】
立体構造中に酵素活性部位と、その偽基質である球状構造を有し、
ERKと相互作用することにより、前記酵素活性部位と前記球状構造との相互作用状態が保持されることを特徴とする請求項1記載のDHPS。
【請求項3】
ERKのリン酸化により、ERKとの相互作用が抑制されることを特徴とする請求項1記載のDHPS。
【請求項4】
立体構造中に酵素活性部位と、その偽基質である球状構造を有し、
ERKのリン酸化により、前記酵素活性部位と前記球状構造との相互作用状態が保持されなくなることを特徴とする請求項1記載のDHPS。
【請求項5】
ERKとDHPSとの相互作用。
【請求項6】
相互作用するERKとDHPS。
【請求項7】
DHPSと相互作用するERK。
【請求項8】
DHPSの立体構造中に存在する酵素活性部位と、同じくDHPSの立体構造中に存在し前記酵素活性部位の偽基質である球状構造との相互作用状態を保持又は固定化する物質を少なくとも含有する抗がん剤。
【請求項9】
前記物質は、ERKであることを特徴とする請求項8記載の抗がん剤。
【請求項10】
前記物質は、デコイとして働くERKアナログであることを特徴とする請求項8記載の抗がん剤。
【請求項11】
前記物質は、ERKとDHPSとの相互作用を固定化する物質であることを特徴とする請求項8記載の抗がん剤。
【請求項12】
前記物質は、ERKのリン酸化状態を保持しつつ、ERKとDHPSとの相互作用を回復させる物質であることを特徴とする請求項8記載の抗がん剤。
【請求項13】
前記物質は、DHPSの立体構造中に存在する酵素活性部位と球状構造を固定化する物質であることを特徴とする請求項8記載の抗がん剤。
【請求項14】
前記物質は、ERKとDHPSとの相互作用を促進する物質であることを特徴とする請求項8記載の抗がん剤。
【請求項15】
前記物質は、ERKの発現を促進する物質であることを特徴とする請求項8記載の抗がん剤。
【請求項16】
前記物質は、抗体であることを特徴とする請求項8記載の抗がん剤。
【請求項17】
DHPSの立体構造中に存在する球状構造の代わりに、同じくDHPSの立体構造中に存在する酵素活性部位と相互作用する物質を少なくとも含有する抗がん剤。
【請求項18】
前記物質は、DHPSの立体構造中に存在する球状構造のデコイとして働くアナログであることを特徴とする請求項17記載の抗がん剤。
【請求項19】
DHPSの立体構造中に存在する酵素活性部位と、同じくDHPSの立体構造中に存在し前記酵素活性部位の偽基質である球状構造との相互作用状態を保持又は固定化する物質を探索することによる、抗がん剤のスクリーニング方法。
【請求項20】
デコイとして働くERKアナログを探索することを特徴とする請求項19記載のスクリーニング方法。
【請求項21】
ERKとDHPSとの相互作用を固定化する物質を探索することを特徴とする請求項19記載のスクリーニング方法。
【請求項22】
ERKのリン酸化状態を保持しつつ、ERKとDHPSとの相互作用を回復させる物質を探索することを特徴とする請求項19記載のスクリーニング方法。
【請求項23】
DHPSの立体構造中に存在する酵素活性部位と球状構造を固定化する物質を探索することを特徴とする請求項19記載のスクリーニング方法。
【請求項24】
DHPSの立体構造中に存在する球状構造の代わりに、同じくDHPSの立体構造中に存在する酵素活性部位と相互作用する物質を探索することによる、抗がん剤のスクリーニング方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図10】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−14277(P2007−14277A)
【公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−199659(P2005−199659)
【出願日】平成17年7月8日(2005.7.8)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】