説明

タンパク質結晶観察装置

【課題】生成されたタンパク質の結晶にダメージを与えることなく、異物や微小な結晶によって誤認することなく、正確に結晶化を判定するとともに、判定結果を迅速に利用者に伝えることが可能なタンパク質結晶観察装置を提供すること。
【解決手段】タンパク質が溶け込んだ水滴などの試料を収容する複数のウェル112を有する結晶化プレート110と、前記結晶化プレートを載置する観察ステージ120と、前記タンパク質の結晶化過程を撮像するカメラ130とを有し、カメラが、XY方向に移動可能なように観察ステージの上方に備えられているタンパク質結晶観察装置によって上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造ゲノム科学研究等の分野で、タンパク質の結晶を生成し、その過程を観察するために利用される結晶観察装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、構造ゲノム科学研究の分野において、結晶化したタンパク質にX線をあて、構造解析することでタンパク質の全体的な構造や原子・分子の配置を明らかにすることが行われている。その理由は、タンパク質の立体構造が、タンパク質の機能を決定するからである。すなわち、タンパク質の立体構造が特定できれば、それと結合する構造を持つ物質をより早く創り出すことができる。例えば、あるタンパク質に薬が作用する部分の形状や大きさを見つけ出す研究が行われている。創薬研究・開発の分野において、タンパク質の薬が作用する部分に結合しやすい新薬を早急に創り出すことが期待されている。
【0003】
一方、タンパク質の構造解析の方法としては、NMR装置を用いる方法もあるが、分子量が3〜4万程度のものまでしか適用できない。それ以上の大きなタンパク質の構造解析を行うためには、X線構造解析でしか対応できない。X線構造解析を行うためには、試料を結晶化する必要がある。そのために、タンパク質の結晶化過程を観察し、効率よくタンパク質を結晶化する必要性が急速に増大している。
【0004】
そのような用途に適用可能な実験装置として、固定された観察用カメラの真下にタンパク質が溶け込んだ水滴などの試料を収容する複数のウェルを有する結晶化プレートをXY方向に移動可能に支持する観察ステージを設けて、観察対象のウェルをカメラの真下に来るようして、ウェル内の結晶化過程を観察し、撮像した現在の画像データに対して所定のデータ処理を施すことによって、結晶化の有無を判定するタンパク質結晶観察装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2004−345867号公報(図1、図8)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、上述したようなタンパク質結晶観察装置では、固定されたカメラの真下に観察対象のウェルが来るように結晶化プレートを移動させるため、移動に伴う振動によって、生成されたタンパク質の結晶にダメージを与えることが懸念されていた。また、撮像した現在の画像データに対して、微分処理や二値化処理やノイズ除去処理等のデータ処理を行うため、結晶化プレート内に異物が含まれている場合に結晶が生成されたと誤認したり、微小な結晶がある場合に、結晶の生成を検知できない場合があった。さらに、結晶が生成されたことを、直接、利用者に伝える機能を有していないため、利用者は、観察結果を逐次チェックする必要があり、手間が掛かっていた。
【0006】
そこで、本発明の目的は、生成されたタンパク質の結晶にダメージを与えることなく、異物や微小な結晶によって、誤認することなく、正確に結晶化を判定するとともに、判定結果を迅速に利用者に伝えることが可能なタンパク質結晶観察装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、請求項1に係る発明は、タンパク質が溶け込んだ水滴などの試料を収容する複数のウェルを有する結晶化プレートと、前記結晶化プレートを載置する観察ステージと、前記タンパク質の結晶化過程を撮像するカメラとを有するタンパク質結晶観察装置において、前記カメラが、XY方向に移動可能なように前記観察ステージの上方に備えられていることを特徴としている。
【0008】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載のタンパク質結晶観察装置の構成に加えて、前記カメラが撮像した同じ試料の初期画像または過去画像と現在の画像を比較して、結晶の生成を判定することによって、上記の課題をさらに解決するものである。
【0009】
請求項3に係る発明は、請求項2に記載のタンパク質結晶観察装置の構成に加えて、前記カメラによる撮像エリアを広めにとって、取り込んだ画像の中で、観察対象となるウインドウを切り取ることによって、比較する初期画像または過去画像と現在の画像との位置ずれを補正した上で、結晶の生成を判定することによって、上記の課題をさらに解決するものである。
【0010】
請求項4に係る発明は、請求項2または請求項3に記載のタンパク質結晶観察装置の構成に加えて、結晶の生成を判定した結果、結晶の生成があると判定した際に、利用者の携帯電話等のメールに結晶の生成がある旨のメッセージを送信することによって、上記の課題をさらに解決するものである。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に係る結晶観察装置は、タンパク質が溶け込んだ水滴などの試料を収容する複数のウェルを有する結晶化プレートと、前記結晶化プレートを載置する観察ステージと、前記タンパク質の結晶化過程を撮像するカメラとを有するタンパク質結晶観察装置において、前記カメラが、XY方向に移動可能なように前記観察ステージの上方に備えられていることによって、結晶の観察時に結晶化プレートを固定したままで、カメラのみを移動させて観察を行うことができるため、溶液中の結晶が流動したり、ダメージを受けたりすることがなく、正確に結晶化過程を撮像することができる。
【0012】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載のタンパク質結晶観察装置の構成に加えて、前記カメラが撮像した同じ試料の初期画像または過去画像と現在の画像を比較して、結晶の生成を判定することによって、試料中に結晶以外の異物が混入している場合に、結晶があるという誤った判断をすることがなくなる。また、結晶以外にも細胞等の変化する対象物の経時的観察が可能であり、汎用性が高い。
【0013】
請求項3に係る発明は、請求項2に記載のタンパク質結晶観察装置の構成に加えて、前記カメラによる撮像エリアを広めにとって、取り込んだ画像の中で、観察対象となるウインドウを切り取ることによって、比較する初期画像または過去画像と現在の画像との位置ずれを補正した上で、結晶の生成を判定するため、カメラの位置決め制御に高い精度が要求されずに、正確に結晶の有無を判別することが可能である。
【0014】
請求項4に係る発明は、請求項2または請求項3に記載のタンパク質結晶観察装置の構成に加えて、結晶の生成を判定した結果、結晶の生成があると判定した際に、利用者の携帯電話等のメールに結晶の生成がある旨のメッセージを送信することによって、利用者は結晶化の判定を簡単に且つリアルタイムで把握することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の実施の形態の一例について図1に基づいて説明する。
【0016】
図1は、本発明の一実施例であるタンパク質結晶観察装置100の構造を説明する概略斜視図を示している。このタンパク質結晶観察装置100は、タンパク質が溶け込んだ水滴などの試料を収容する複数のウェル112を有する結晶化プレート110と、結晶化プレート110を載置する観察ステージ120と、タンパク質の結晶化過程を撮像するカメラ130を有している。そして、観察ステージ120の上方には、カメラ130をXY方向に移動可能なように支持するXYテーブル150が備えられている。このXYテーブル150は、図示はされていないが、パソコン端末の操作によりカメラ130をX方向及びY方向に移動するための駆動源を有している。さらに、カメラ130によって撮像された画像データもパソコン端末に入力される。なお、図1には、結晶化プレート110として、一つのウェル112の中に、水分等が落とされるリザーバウェルと、試料が置かれるプロテインウェルの2つを有しているSitting Drop法で使用されるものを示しているが、これに限定されることはなく、Hanging Drop法、オイルバッチ法、蒸気バッチ法等に使用される結晶化プレートに対しても同様に適用することが可能である。
【0017】
次に本発明のタンパク質結晶観察装置100によって、タンパク質の結晶化を認知する工程を説明する。
【0018】
(位置ずれ補正工程)
まず、図1に示したようにカメラ130によって、結晶化プレート110の中の観察対象となるウェル112を撮像する。この時、図2に示したようにカメラ130の撮像エリア160をウェル112に対して広めに取っておく。そして、所定時間経過後、再び前記観察対象となるウェル112を撮像する。そして、先に取得した画像と所定時間経過後の画像の比較を行うのであるが、この比較を行う前に、対象となる2つの画像に対して正規化相関法、すなわち2つの画像の正規化相関値が最も大きくなる点を求めることによって位置ずれ量を算出し、それに基づき、図2に示したようにウインドウ180を切り取ることによって、比較する2つの画像の位置ずれを補正する。なお、本実施例においては正規化相関法によって、位置ずれ量を算出したが、残差マッチング等、他のパターンマッチングの手法を用いることも可能である。
【0019】
(変化検知工程)
次に、カメラ130によって撮像した検知対象となる試料を収容したウェル112の現在の画像と、それ以前の画像(初期画像あるいは過去画像)との比較、例えば、排他的論理和(XOR)等の画像処理を行うことによって、試料の結晶化過程を観察する。もし、結晶の生成がない場合には、現在の画像を構成する各画素と、比較対照の画像を構成する各画素の差分を取った場合、差分の画素濃淡の合計値が予め設定した閾値より小さくなり結晶の生成がないと判定される。
【0020】
逆に、結晶の生成がある場合には、現在の画像を構成する各画素と、比較対照の画像を構成する各画素の差分を取った場合、差分の画素濃淡の合計値が予め設定した閾値より大きくなり結晶の生成があると判定される。
【0021】
この時、観察対象となるウェル112の中に当初からタンパク質とは関係のない異物が混入していた場合、排他的論理和(XOR)を取ることによって異物の画像の差分がゼロになるため、誤って結晶の生成が有ると判断されてしまうことがない。
【0022】
(変化有無通知工程)
上記の工程により、結晶の生成があると判定された場合、パソコンに予め登録された利用者の携帯電話等のメールに「結晶が生成されました」等のメッセージが、プレート名とウェルの場所(行番号と列番号で特定されるアドレス)と画像と共に送信される。したがって、無人で結晶化過程の経時的撮影が可能であり、しかも、変化の起こったウェルのみの観察が可能であるため、省力化が図られる。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明は、簡単なシステム構成により、タンパク質の結晶成長過程を、無人で且つ高い判別精度で観察可能であるため、タンパク質構造解析のハイスループット化(大量・高速化)に寄与するものであって、その産業上の利用可能性は極めて大きい。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明のタンパク質結晶観察装置の構造を説明する概略斜視図である。
【図2】本発明の位置ずれ補正工程を説明する説明図である。
【符号の説明】
【0025】
100 ・・・ タンパク質結晶観察装置
110 ・・・ 結晶化プレート
112 ・・・ ウェル
120 ・・・ 観察ステージ
130 ・・・ カメラ
150 ・・・ XYテーブル
160 ・・・ 撮像エリア
180 ・・・ ウインドウ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパク質が溶け込んだ水滴などの試料を収容する複数のウェルを有する結晶化プレートと、前記結晶化プレートを載置する観察ステージと、前記タンパク質の結晶化過程を撮像するカメラとを有するタンパク質結晶観察装置において、
前記カメラが、XY方向に移動可能なように前記観察ステージの上方に備えられていることを特徴とするタンパク質結晶観察装置。
【請求項2】
前記カメラが撮像した同じ試料の初期画像または過去画像と現在の画像を比較して、結晶の生成を判定することを特徴とする請求項1に記載のタンパク質結晶観察装置。
【請求項3】
前記カメラによる撮像エリアを広めにとって、取り込んだ画像の中で、観察対象となるウインドウを切り取ることによって、比較する初期画像または過去画像と現在の画像との位置ずれを補正した上で、結晶の生成を判定することを特徴とする請求項2に記載のタンパク質結晶観察装置。
【請求項4】
前記結晶の生成を判定した結果、結晶の生成があると判定した際に、利用者の携帯電話等のメールに結晶の生成がある旨のメッセージを送信することを特徴とする請求項2または請求項3に記載のタンパク質結晶観察装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−232644(P2006−232644A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−53328(P2005−53328)
【出願日】平成17年2月28日(2005.2.28)
【出願人】(000003355)株式会社椿本チエイン (861)
【Fターム(参考)】