説明

タンブル流形成用の吸気ポートを備えた内燃機関

【課題】 吸気バルブによって分けられる吸気流の干渉を抑え、シリンダ内に強いタンブル流を形成することが可能な吸気ポートを備えた内燃機関を提供する。
【解決手段】 シリンダ3内にタンブル流が形成されるように吸気を方向付けてシリンダ内に導く吸気ポート2と、前記吸気ポートを開閉する吸気バルブ4と、を備えた内燃機関1であって、前記吸気バルブを前記吸気ポートが開閉される方向に案内するバルブ案内部5によって前記吸気ポート内に形成されるデッドボリューム5a、5bが、前記吸気バルブのバルブステム4aに対して前記吸気ポートの流れ方向を横断する方向に不均等に設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリンダ内にタンブル流を形成するために好適な吸気ポートを備えた内燃機関に関する。
【背景技術】
【0002】
吸気ポートのバルブステムガイド周辺の窪みにふたをし、吸気ポートの上面の吸気流の剥離を抑制してタンブル比を増加させる吸気ポート構造が知られている(非特許文献1参照)。
【非特許文献1】発明協会公開技報公技番号2003−501871号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来の吸気ポートでは、吸気バルブのバルブステムが吸気ポートの流れ方向を横切る方向のほぼ中央に配置されている。この場合、バルブステムによって吸気流が分けられてバルブステムの両側にほぼ対称の吸気流が形成される。これらの吸気流は、バルブステムの下流側で互いに干渉し合って広い剥離領域を形成し、シリンダ内に導かれる吸気の流速を低下させてタンブル流を弱めるおそれがある。
【0004】
そこで、本発明は、吸気バルブによって分けられる吸気流の干渉を抑え、シリンダ内に強いタンブル流を形成することが可能な吸気ポートを備えた内燃機関を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第一の内燃機関は、シリンダ内にタンブル流が形成されるように吸気を方向付けてシリンダ内に導く吸気ポートと、前記吸気ポートを開閉する吸気バルブと、を備えた内燃機関であって、前記吸気バルブを前記吸気ポートが開閉される方向に案内するバルブ案内部によって前記吸気ポート内に形成されるデッドボリュームが、前記吸気バルブのバルブステムに対して前記吸気ポートの流れ方向を横断する方向に不均等に設けられていることにより、上述した課題を解決する(請求項1)。
【0006】
本発明の第一の内燃機関によれば、バルブ案内部のデッドボリュームが吸気ポートの流れ方向を横断する方向(横断方向)に不均等に設けられるので、バルブステムが横断方向の一方の側に偏って吸気ポート内に配置される。この場合、吸気流がバルブステムによって非対称に分けられるので、これらの吸気流の干渉を抑制することができる。そのため、バルブステムの下流側に形成される剥離領域を低減させて吸気の流速の低下を抑制し、シリンダ内に強いタンブル流を形成することができる。
【0007】
本発明の第二の内燃機関は、一つのシリンダに対して二つの吸気ポートが並べて設けられ、各吸気ポートはシリンダ内にタンブル流が形成されるように吸気を方向付けてシリンダ内に導くよう構成された内燃機関であって、各吸気ポートには、前記吸気ポートを開閉する吸気バルブがそれぞれ設けられ、前記吸気バルブを前記吸気ポートが開閉される方向に案内するバルブ案内部によって前記吸気ポート内に形成されるデッドボリュームが、前記吸気バルブのバルブステムに対して前記吸気ポートの並び方向に不均等に設けられていることにより、上述した課題を解決する(請求項2)。
【0008】
本発明の第二の内燃機関によれば、バルブステムによって吸気流を吸気ポートの並び方向に非対称に分けることができる。そのため、バルブステムの下流側におけるこれらの吸気流の干渉を抑えて剥離領域を低減させ、シリンダ内に強いタンブル流を形成することができる。
【発明の効果】
【0009】
以上に説明したように、本発明によれば、バルブステムによって非対称に吸気流を分けることができるので、これらの吸気流の干渉を抑えてバルブステム下流の剥離領域を低減させることができる。そのため、流速を低下させることなく吸気をシリンダ内に導き、シリンダ内に強いタンブル流を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
図1は本発明の一実施形態に係る内燃機関1の要部を示している。また、図2は内燃機関1に設けられる吸気ポート2の輪郭を、図3は図1のIII-III線における吸気ポート2の縦断面図をそれぞれ示している。図1に示したように、吸気ポート2は、共通の上流部2aから分岐する二つの下流部2bを備えている。内燃機関1のシリンダ3の一方の側には下流部2bが並べて設けられている。図3に示したように、各下流部2bには、それぞれ吸気ポート2を開閉するための吸気バルブ4と、吸気バルブ4を案内するバルブ案内部5とが設けられている。
【0011】
図1に示したように、バルブ案内部5は、吸気バルブ4のバルブステム4aに対して下流部2bの並び方向の外側(以下、外側と略称する。)に生じるデッドボリューム5aが、下流部2bの並び方向内側(以下、内側と略称する。)に生じるデッドボリューム5bよりも小さくなるように設けられている。そのため、バルブ案内部5には、吸気バルブ4が挿入されるバルブガイド孔5cが外側に偏心して設けられる。このようにバルブガイド孔5cが外側に偏心して設けられることによりバルブ案内部5の外側の幅Lが、内側の幅Lよりも小さくなる。
【0012】
図4は、図1の吸気ポート2における吸気の流れをコンピュータによりシミュレーションした結果を示している。なお、図4(a)は図3に示した断面における吸気の流れを、図4(b)は図3のIVb-IVb線の断面における吸気の流れをそれぞれ示している。比較例として図5に示した内燃機関1の吸気ポート2における吸気の流れを同一条件でシミュレーションした結果を図6に示す。なお、図6(a)、(b)は、図5の吸気ポート2において図4(a)、(b)に相当する断面における吸気の流れをそれぞれ示している。また、図5(a)は、比較例の内燃機関1の要部を示し、図5(b)は比較例の内燃機関1に設けられる吸気ポート2の輪郭を示している。図5において図1及び図2と共通する部分には同一符号を付してある。図5(a)に示したように、比較例では、外側のデッドボリューム5aと内側のデッドボリューム5bとが均等に設けられている。即ち、バルブ案内部5の外側の幅Lと内側の幅Lとが均等に設けられる。
【0013】
図4(b)に示したように、図1の吸気ポート2では、バルブステム4aが外側に偏って配置されるので、バルブステム4aによって分けられる外側(図4(b)の上側)の吸気流れFと内側(図4(b)の下側)の吸気流れFとが非対称になる。図1の吸気ポート2では内側の方が外側よりも広いため、内側を流れる吸気の流量が多くなる。そのため、吸気流れFがバルブステム4aの下流(図4(b)の領域B)で吸気流れF側に流れ込み、バルブステム4aの下流に生じる剥離領域を低減させる。このようにバルブステム4aの下流に生じる剥離を低減させることで、吸気バルブ4の背面側(図4(a)の領域A)に吸気を流れ易くすることができる。そのため、吸気バルブ4の背面側における吸気(図4(a)の吸気流れF)の流速の低下を抑制することができる。
【0014】
一方、図6(b)に示したように、図5の吸気ポート2では、デッドボリューム5a、5bが均等に設けられるので、バルブステム4aが下流部2bのほぼ中央に配置される。そのため、バルブステム4aによって分けられる外側(図6(b)の上側)の吸気流れFと内側(図6(b)の下側)の吸気流れFとが対称に形成される。この場合、吸気流れFと吸気流れFとがバルブステム4aの下流で干渉し合い、バルブステム4aの下流(図6(b)の領域D)に広い剥離領域を生じさせる。このバルブステム4aの下流の剥離は、図6(a)に示したように吸気バルブ4の背面側(図6(a)の領域C)に吸気を流れ難くする。そのため、吸気バルブ4の背面側における吸気(図6(a)の吸気流れF)の流速を低下させる。
【0015】
本発明の内燃機関1によれば、下流部2bを流れる吸気のうち内側の吸気流れFをバルブステム4aの下流において外側の吸気流れF側に流れ込ませることによって、バルブステム4aの下流の剥離領域を低減させることができる。そのため、吸気バルブ4の背面側に吸気を流れ易くし、この吸気の流速の低下を抑制する。従って、この吸気バルブ4の背面側を通ってシリンダ3に導かれる吸気(図4(a)の吸気流れF)により、シリンダ3内に強いタンブル流を形成することができる。これにより、シリンダ3内において燃料と空気とがよく混合されるので、燃焼効率を向上させることができる。また、内燃機関1の燃焼が改善されるので、燃費や内燃機関1の性能を向上させることができる。なお、外側のデッドボリューム5aと内側のデッドボリューム5bとの大きさは、例えば以下に示す方法により設定される。下流部2bにおいてバルブステム4aの外側を内側より狭くすることで、バルブステム4aの外側を流れる吸気流れと内側を流れる吸気流れとに流量差を生じさせることができる。そこで、バルブステム4aの下流において内側の吸気流れが外側に流れ込むような流量差が生じるように、外側のデッドボリューム5aと内側のデッドボリューム5bとを設定する。
【0016】
図7は、吸気の流量とタンブル流の強さ(タンブル比)との関係を示している。なお、タンブル比とは、シリンダ内に形成されるタンブル流の回転速度と内燃機関1の回転速度との比である。図7の線Lは、バルブ案内部5のデッドボリューム5a、5bが下流部2bの並び方向に均等に設けられた吸気ポート2における吸気の流量とタンブル流の強さとの関係を示している。デッドボリューム5a、5bが均等に設けられている場合、吸気の流量が増加するに従ってバルブステム4aの下流に生じる剥離領域も増加するため、吸気バルブ4の背面側に吸気が流れ難くなりタンブル流が弱くなる。一方、本発明の内燃機関1によれば、デッドボリューム5a、5bが均等に設けられている内燃機関と比較して同じ吸気流量でもシリンダ3内に強いタンブル流を形成することができる。そのため、吸気の流量とタンブル流の強さとの関係を図7の点Pの方向へ変化させることができる。
【0017】
図8は、本発明の内燃機関の他の実施形態を示している。なお、図8において図1と共通する部分には同一符号を付してある。図8に示したように、この実施形態の内燃機関1では、外側のデッドボリューム5aが内側のデッドボリューム5bよりも大きくなるようにバルブ案内部5が設けられている。即ち、バルブ案内部5には、外側の幅Lが内側の幅Lよりも大きくなるようにバルブガイド孔5cが設けられる。この場合、下流部2b内にバルブステム4aが内側に偏って配置されるので、外側を流れる吸気流れFをバルブステム4aの下流において内側に流れ込ませることができる。そのため、図1の内燃機関1と同様にバルブステム4aの下流の剥離領域を低減させることができる。従って、吸気バルブ4の背面側の吸気の流速低下を抑制し、この吸気バルブ4の背面側を流れる吸気によってシリンダ3内に強いタンブル流を形成することができる。
【0018】
本発明は以上の形態に限定されず、種々の形態にて実施してよい。例えば、各吸気ポートに設けられるバルブ案内部のデッドボリュームは、大きくする側を内側又は外側に一致させなくともよい。例えば、一方の吸気ポートのバルブ案内部は内側のデッドボリュームが大きくなるように設けられ、他方の吸気ポートのバルブ案内部は外側のデッドボリュームが大きくなるように設けられていてもよい。即ち、バルブ案内部のデッドボリュームがバルブステムに対して吸気ポートの流れ方向を横断する方向に不均等に設けられていればよい。このようにデッドボリュームを不均等に設けることで、バルブステム下流における吸気流れの干渉を抑制し、シリンダ内に強いタンブル流を形成することができる。
【0019】
一つのシリンダに対して設けられる吸気ポートの数は二つに限定されない。一つのシリンダに対して設けられる吸気ポートの数は一つでも良いし、三つ以上でもよい。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施形態に係る内燃機関の要部を示す図。
【図2】図1の吸気ポートの輪郭を示す図。
【図3】図1のIII-III線における吸気ポートの縦断面を示す図。
【図4】図1の吸気ポートを利用した場合の吸気バルブ付近における吸気の流れをコンピュータによりシミュレーションした結果を示す図。
【図5】バルブ案内部のデッドボリュームが吸気ポートの並び方向に均等に設けられている内燃機関の要部を示す図。
【図6】図5の吸気ポートを利用した場合の吸気バルブ付近における吸気の流れをコンピュータによりシミュレーションした結果を示す図。
【図7】吸気の流量とタンブル流の強さとの関係の一例を示す図。
【図8】本発明の他の実施形態に係る内燃機関の要部を示す図。
【符号の説明】
【0021】
1 内燃機関
2 吸気ポート
3 シリンダ
4 吸気バルブ
4a バルブステム
5 バルブ案内部
5a、5b デッドボリューム


【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダ内にタンブル流が形成されるように吸気を方向付けてシリンダ内に導く吸気ポートと、前記吸気ポートを開閉する吸気バルブと、を備えた内燃機関であって、
前記吸気バルブを前記吸気ポートが開閉される方向に案内するバルブ案内部によって前記吸気ポート内に形成されるデッドボリュームが、前記吸気バルブのバルブステムに対して前記吸気ポートの流れ方向を横断する方向に不均等に設けられていることを特徴とする内燃機関。
【請求項2】
一つのシリンダに対して二つの吸気ポートが並べて設けられ、各吸気ポートはシリンダ内にタンブル流が形成されるように吸気を方向付けてシリンダ内に導くよう構成された内燃機関であって、
各吸気ポートには、前記吸気ポートを開閉する吸気バルブがそれぞれ設けられ、
前記吸気バルブを前記吸気ポートが開閉される方向に案内するバルブ案内部によって前記吸気ポート内に形成されるデッドボリュームが、前記吸気バルブのバルブステムに対して前記吸気ポートの並び方向に不均等に設けられていることを特徴とする内燃機関。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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