説明

ターゲット評価方法および装置

【課題】ターゲットに修飾を施すことなしに、ターゲットを高選択性かつ低ノイズで評価する技術を提供する。
【解決手段】サンプル中におけるターゲットを評価する場合に、ターゲットが、あるアフィニティプローブに特異的に結合し得る物質である特異的結合可能物質そのものまたは特異的結合可能物質に直接または間接的に結合し得る物質であり、アフィニティプローブとして、特定のシアニン蛍光色素でラベリングされたアフィニティプローブを用い、アフィニティプローブでサンプルを処理して処理物を得、処理前の蛍光色素の発光蛍光強度に対する、処理後の蛍光色素の発光蛍光強度の変化の有無、相違または変化の程度から、ターゲットの有無、相違またはその量を評価する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光色素を用いたターゲット評価技術に関する。その一態様は、DNAチップ等のバイオチップに利用される蛍光色素を用いた生体分子評価技術である。
【背景技術】
【0002】
近年、ナノをキーワードとして、ナノテクノロジーが多くの人々の関心を集めている。
【0003】
このナノテクノロジーの中でも、半導体微細加工技術(半導体ナノテクノロジー)とバイオテクノロジーとの融合領域であるナノバイオテクノロジーは、既存の問題を根底から解決できる可能性を持つ新分野として、多くの研究開発が精力的に行われるようになってきている。
【0004】
このナノバイオテクノロジーの中でも特に、DNAチップ(またはDNAマイクロアレイ)に代表され、ガラス、シリコン、プラスチック、金属等で形成された基板上に、DNA、タンパク質等の生体高分子からなる多数の異なった被検体を高密度に整列化してスポット状に配置したバイオチップは、臨床診断や薬物治療等の分野で、核酸やタンパク質の試験を簡素化でき、特に遺伝子解析に有効な手段として注目されている(たとえば非特許文献1および2参照)。
【0005】
更に、近年では、固体基板上に、機能性分子や機能性分子と結合させた分子を結合させて、部分的に機能性表面(評価部)を形成し、マイクロマシニング技術やマイクロセンシング技術と組み合わせて、微小なターゲットを評価する技術のもとに作製される、「MEMS」や「μTAS」と呼ばれるデバイスが、従来の評価感度や評価時間を大幅に向上させるものとして注目されている。「MEMS」は、マイクロエレクトロメカニカルシステム(Micro Electro Mechanical Systems)の略であり、半導体の加工技術をもとに非常に微細なものを作る技術、またはその技術を用いて作製された精密微細機器を意味し、一般に、機械、光学、流体等の複数の機能部分を複合化、微細化したシステムを意味する。また、「μTAS」は、マイクロトータルアナリシスシステム(Micro Total Analysis System)の略であり、マイクロポンプ、マイクロバルブ、センサ等を小型、集積、一体化した化学分析システムを意味する。これらのデバイスにおいては、機能性表面での反応を電気的または光学的に評価する手法が多く取られている。
【0006】
中でも、光学的に評価する手法は、評価対象であるターゲットを蛍光色素等の光学的なラベルで修飾し、光学的な強度から、ターゲットを定量的に評価する手法で、その感度の高さから、DNAチップ等に幅広く利用されている。
【非特許文献1】T. G. Drummond et al.,「電気化学的DNAセンサー(Electrochemical DNA sensors)」,ネイチャーバイオテクノロジー(Nature Biotech.),2003年,第21巻,第10号,p.1192-1199
【非特許文献2】J. Wang,「DNAバイセンサーから遺伝子チップまでのサーベイと纏め(SURVEY AND SUMMARY From DNA biosensors to gene chips)」,Nucleic Acids Research, 2000年,第28巻,第16号,p.3011-3016
【非特許文献3】G. Cosa et al.,「緩衝水溶液中における、1本鎖および2本鎖DNAに結合した蛍光発光性DNA色素の光物理的性質(Photophysical Properties of Fluorescent DNA-dyes Bound to Single- and Double-stranded DNA in Aqueous Buffered Solution)」,Photochemistry and Photobiology,2001年,第73巻,第6号,p.585-599
【非特許文献4】J. B. Randolph,「多重にラベリングされた蛍光発光性DNAプローブの安定性、特異性および蛍光強度(Stability, specificity and fluorescence brightness of multiply-labeled fluorescent DNA probes)」,Nucleic Acids Research,1997年,第25巻,第14号,p.2923-2929
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記手法では、ターゲットをラベルで修飾する手順が不可欠であり、ラベリングや洗浄等の煩雑な工程が必要となる場合が多い。また、ターゲットの付かないラベルのみの混入による誤評価や、プローブとの特異的な結合の結果でない、単に非特異的にプローブに付着したターゲットも評価してしまう問題も生じ得る。
【0008】
したがって、ターゲットにラベルを修飾する必要が無く(すなわちノンラベルで)、非特異吸着したターゲットの誤評価等を回避できる、高選択性で低ノイズの評価技術の開発が望まれる。
【0009】
本発明は、ターゲットに修飾を施すことなしに、ターゲットを高選択性かつ低ノイズで評価する技術を提供することを目的としている。本発明の更に他の目的および利点は、以下の説明から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様によれば、サンプル中におけるターゲットを評価する場合に、ターゲットが、あるアフィニティプローブに特異的に結合し得る物質である特異的結合可能物質そのものまたは前記特異的結合可能物質に直接または間接的に結合し得る物質であり、アフィニティプローブとして、シアニン蛍光色素であって、その構造の両端にあるベンゼン環にスルホン酸基またはスルホン酸基の塩を有するシアニン蛍光色素でラベリングされたアフィニティプローブを用い、アフィニティプローブで前記サンプルを処理して処理物を得、蛍光色素を励起し得る照射線で照射した場合における、処理前の上記蛍光色素の発光蛍光強度に対する、処理後の上記蛍光色素の発光蛍光強度の変化の有無、相違または変化の程度から、前記ターゲットの有無、相違またはその量を評価することを含んでなるターゲット評価方法が提供される。
【0011】
本態様により、ターゲットに修飾を施すことなしに、ターゲットを高選択性かつ低ノイズで評価することが可能になる。
【0012】
本発明の他の態様によれば、ある物質と特異的に結合し得るアフィニティプローブを固定した基板を備え、そのアフィニティプローブが、シアニン蛍光色素であってその構造の両端にあるベンゼン環にスルホン酸基またはその塩を有するシアニン蛍光色素でラベリングされている、ターゲット評価装置や、更に、アフィニティプローブが、この「ある物質」と特異的に結合し得る物質を結合させた物質と特異的に結合したアフィニティプローブである、ターゲット評価装置が提供される。本態様の装置は、上記方法の態様に好適に使用することができる。
【発明の効果】
【0013】
本明細書の種々の実施形態によれば、ターゲットに修飾を施すことなしに、ターゲットを高選択性かつ低ノイズで評価することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に、本発明の実施の形態を図、式、実施例等を使用して説明する。なお、これらの図、式、実施例等及び説明は本発明を例示するものであり、本発明の範囲を制限するものではない。本発明の趣旨に合致する限り他の実施の形態も本発明の範疇に属し得ることは言うまでもない。
【0015】
サンプル中におけるターゲットが、あるアフィニティプローブに特異的に結合し得る物質(本明細書では、この物質を、単に特異的結合可能物質ともいう)そのものである場合に、そのアフィニティプローブとして特定の蛍光色素でラベリングされたアフィニティプローブを用い、そのサンプルをそのアフィニティプローブで処理して処理物を得ると、アフィニティプローブにラベリングされた蛍光色素を励起し得る照射線で照射した場合における、処理前の蛍光色素の発光蛍光強度に対する、処理後の蛍光色素の発光蛍光強度が変化することが、アフィニティプローブとしてDNAを使用し、特異的結合可能物質としてそのアフィニティプローブDNAに対する相補鎖DNAを使用する検討を通じて、見出された。この場合の発光蛍光強度変化としては、発光蛍光強度の増大が認められたが、発光蛍光強度の減少も否定されるわけではない。発光蛍光強度の増大は、ターゲットを高選択性かつ低ノイズでの評価に寄与するのでより好ましい。
【0016】
この特定の蛍光色素は、シアニン蛍光色素であってその両端にあるベンゼン環にスルホン酸基(SOH)またはその塩を有するシアニン蛍光色素である。なお、本明細書では、「シアニン蛍光色素であってその両端にあるベンゼン環にスルホン酸基またはその塩を有するシアニン蛍光色素」を単に特定シアニン蛍光色素とも言う。
【0017】
なお、本明細書において「DNA」には、天然のDNA、人工DNA、天然のDNAの修飾物または人工DNAの修飾物のいずれも含まれ得る。この修飾物については特に制限はない。
【0018】
本方法を応用すれば、サンプル中におけるターゲットが、特異的結合可能物質そのものではなく、その特異的結合可能物質に直接または間接的に結合し得る物質である場合にも、その特異的結合可能物質がアフィニティプローブと特異的に結合すれば蛍光色素の蛍光強度が変化することになる。特異的結合可能物質に直接または間接的に結合し得る物質がその特異的結合可能物質に結合したものも特異的結合可能物質の一種と考えられるからである。なお、この場合の蛍光強度の変化には蛍光強度の減少も増大も含まれ得る。たとえば、実施例3,4および図7,8に示すように、アフィニティプローブが特異的結合可能物質と結合したときには、蛍光強度が増大し、その後、その特異的結合可能物質にターゲットを結合させた場合、その増大した蛍光強度が減少することがあり得る。
【0019】
このような場合には、上記の「処理前」をどう考えるかで蛍光色素の蛍光強度が増大したとも減少したとも考えることができる。本法における「処理前」をどのように定義するかは実情に応じて適宜選択し得る。たとえば、特異的結合可能物質にターゲットを結合させてからアフィニティプローブを結合させる場合には、アフィニティプローブに結合させる前の状態、すなわち「アフィニティプローブのみの場合」を「処理前」と考えることができるが、アフィニティプローブに特異的結合可能物質を結合させてからターゲットと結合させる場合には、ターゲットと結合させる直前の状態を「処理前」と考えても、アフィニティプローブに特異的結合可能物質を結合させる前の状態を「処理前」と考えてもよい。
【0020】
なお、特異的結合可能物質に直接または間接的に結合した物質が存在する場合には、特異的結合可能物質にその物質を含めて、特異的結合可能物質でもあるターゲットと考えてもよい。このようにして、本方法では、あるターゲットAが、特異的結合可能物質に直接または間接的に結合し得る物質である場合に、その結合を成立させた後にアフィニティプローブと接触させる場合には、アフィニティプローブとの接触時点において、「特異的結合可能物質に直接または間接的に結合し得る物質」が「特異的結合可能物質に直接または間接的に結合した物質」に変化している。このような場合には、上記ターゲットAではなく、特異的結合可能物質にその物質を含めたものを新たにターゲットと考えることができる。
【0021】
本方法により、処理前に対する処理後の蛍光色素の蛍光強度の変化の有無からターゲットの有無を評価し、また、処理後の蛍光色素の蛍光強度の変化の相違からターゲットの相違を評価し、処理後の蛍光色素の蛍光強度の変化の程度から、ターゲットの量を評価することが可能になる。
【0022】
なお、本明細書において、「評価」とは対象物(この場合はターゲット)の有無を判断すること、複数の対象物の相違を判断することおよび/または対象物の濃度または絶対量を把握することを意味する。したがって、上記文脈における「ターゲットの量」とは、ターゲットの絶対量またはサンプル中の濃度を意味する。ターゲットの量の評価は、(たとえばより多いとかより少ないといった)定性的評価であっても定量的評価であってもよい。
【0023】
本方法により、ターゲットやターゲットに直接または間接的に結合した相補鎖DNAに蛍光色素を導入する必要がなく、ラベリングや洗浄等の煩雑な工程が不要となる。また、蛍光色素を導入したアフィニティプローブは十分に精製を行えるので、ラベル(蛍光色素)のみの混入による誤評価を防止することができる。なお、本方法は、基板上にアフィニティプローブを固定して使用することが多いので、このような精製は必須の工程または容易に実施できる工程であるといえよう。ただし、本方法が、処理後の発光蛍光色素の蛍光強度の変化の有無や変化の相違や変化の程度から評価するものであるため、アフィニティプローブの付いていないラベル(蛍光色素)が混入した(すなわち精製の十分でない)アフィニティプローブであっても、ノイズにならない場合が多い。更に言えば、どのような経路であれ、アフィニティプローブの付いていないラベル(蛍光色素)が共存することになった場合にも、ノイズにならない場合が多い。
【0024】
更に、本方法では、アフィニティプローブと単に非特異的にアフィニティプローブに付着した物質は、蛍光色素の蛍光強度が変化に寄与しないことが、特異的結合として相補的に結合を使用することを通して見出された。したがって、本方法によれば、非特異吸着した物質による誤評価等も回避可能である。非特異的にアフィニティプローブに付着した物質におけるアフィニティプローブと物質との間の距離が、特異的にアフィニティプローブに結合したターゲットの場合に比べ大きいことが、蛍光強度が変化に寄与しないことの理由であろうと推察されているが明確ではない。
【0025】
このようにして、本方法では、高選択性で低ノイズの評価が可能になる。
【0026】
より具体的には、本方法の実施形態によっては、従来評価ターゲットに必要不可欠であった、インターカレーターや蛍光色素、酸化還元マーカー等の修飾無しに、ラベルフリーで評価対象を高選択性かつ低ノイズで評価することが可能になる。
【0027】
なお、本方法は、ナノバイオテクノロジーの分野に極めて有用であり、DNAチップ等のバイオチップに好適な方法であるが、後に説明するように、上記の「特異的結合可能物質に直接または間接的に結合し得る物質」や「特異的結合可能物質に直接または間接的に結合した物質」には、特に制限はなく、したがって、どのような対象についても適用できる点が注目される。
【0028】
(特異的結合可能物質)
特異的結合可能物質の形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、たとえば、線状、粒状、板状、これらの2以上の組合せ、等が挙げられるが、これらの中でも線状が好ましい。
【0029】
このような特異的結合可能物質の種類には、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、たとえば、病気の治療、診断等への応用等の観点からは生体分子等が好適に挙げられる。具体的には、タンパク質、DNA、RNA、抗体、天然または人工の1本鎖のヌクレオチド体、天然または人工の2本鎖のヌクレオチド体、アプタマー、抗体をタンパク質分解酵素で限定分解して得られる産物、タンパク質に対して親和性を有する有機化合物、タンパク質に対して親和性を有する生体高分子、これらの複合体、プラスまたはマイナスに帯電したイオン性ポリマーおよびそれらの任意の組み合わせよりなる群から選ばれた少なくとも一つの物質を含むものが好ましい。アフィニティプローブと特異的に結合し易い場合が多いからである。
【0030】
上記複合体の例としては、DNAとマイナスに帯電したポリマーとの結合体等、上記の物質と他の物質との結合体を挙げることができる。このようなものとしては、上記のほかに、血漿蛋白、腫瘍マーカー、アポ蛋白、ウイルス、自己抗体、凝固・線溶因子、ホルモン、血中薬物、核酸、HLA抗原、リポ蛋白、糖蛋白、ポリペプチド、脂質、多糖類、リポ多糖類等が挙げられる。
【0031】
正に帯電したイオンポリマーとしては、たとえば、主鎖にグアニジド結合を用いてプラスに帯電させたDNA(グアニジンDNA)、ポリアミン等が好適に挙げられる。マイナスに帯電したイオンポリマーとしては、たとえば、マイナスに帯電した天然のヌクレオチド体、ポリヌクレオチド、ポリリン酸等が好適に挙げられる。これらの分子は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0032】
上記において「ヌクレオチド体」とは、モノヌクレオチド、オリゴヌクレオチドおよびポリヌクレオチドよりなる群のいずれか一つまたはその混合物を意味する。このような物質は、マイナスに帯電していることが多い。1本鎖あるいは2本鎖を用いることができる。なお、タンパク質、DNA、ヌクレオチド体が混在していてもよい場合もある。また、生体高分子には、生体に由来するものの他、生体に由来するものを加工したもの、合成された分子も含まれる。
【0033】
上記において、「産物」とは、抗体をタンパク質分解酵素で限定分解して得られるものであり、本発明の趣旨に合致する限り、抗体のFabフラグメントまたは(Fab)2フラグメントや抗体のFabフラグメントまたは(Fab)2フラグメントに由来する断片、さらにはその誘導体等どのようなものを含めることもできる。
【0034】
抗体としては、たとえば、モノクローナルな免疫グロブリンIgG抗体を使用することができる。また、IgG抗体に由来する断片として、たとえばIgG抗体のFabフラグメントまたは(Fab)2フラグメントを使用することもできる。更に、そのようなFabフラグメントまたは(Fab)2フラグメントに由来する断片などを使用することもできる。タンパク質に対して親和性を有する有機化合物として使用可能な例を挙げると、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)等の酵素基質アナログや酵素活性阻害剤、神経伝達阻害剤(アンタゴニスト)などがある。タンパク質に対して親和性を有する生体高分子の例としては、タンパク質の基質または触媒となるタンパク質、分子複合体を構成する要素タンパク質等を挙げることができる。
【0035】
特異的結合可能物質として、天然のヌクレオチド体や人工のヌクレオチド体を使用することができる。人工のヌクレオチド体には、完全に人工のものも、天然のヌクレオチド体から誘導されるものも含まれる。人工のヌクレオチド体を使用すれば、評価の感度を上げたり、安定性を向上させたりすることができるため有利な場合がある。
【0036】
特異的結合可能物質は、また、モノクローナル抗体やタンパク質分解酵素で限定分解して得られる産物を使用することもできる。抗原抗体反応に類する反応によって生じる結合を利用でき、特異的結合可能物質と特異的に結合するアフィニティプローブとしても機能するので有用である。
【0037】
特異的結合可能物質としては、モノクローナル抗体、モノクローナル抗体のFabフラグメントまたは(Fab)2フラグメント、もしくはモノクローナル抗体のFabフラグメントまたは(Fab)2フラグメントに由来する断片を使用することも好ましい。なお、モノクローナル抗体のFabフラグメントまたは(Fab)2フラグメントに由来する断片とは、モノクローナル抗体のFabフラグメントまたは(Fab)2フラグメントを細分化した断片やその誘導体を意味する。
【0038】
さらに、特異的結合可能物質として、IgG抗体、IgG抗体のFabフラグメントまたは(Fab)2フラグメント、IgG抗体もしくはIgG抗体Fabフラグメントまたは(Fab)2フラグメントに由来する断片を使用することがより好ましい。なお、IgG抗体Fabフラグメントまたは(Fab)2フラグメントに由来する断片とは、IgG抗体Fabフラグメントまたは(Fab)2フラグメントを細分化した断片やその誘導体を意味する。アプタマーであることも好ましい。一般的に分子量の小さいものの方が評価感度がよいことが、これらが好まれる理由である。
【0039】
特異的結合可能物質の大きさまたは長さとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、特異的結合可能物質がポリヌクレオチドである場合、少なくとも6塩基であるのが好ましい。
【0040】
(ターゲット)
「ターゲット」とは、ある特異的結合可能物質そのものである場合も、特異的結合可能物質に直接または間接的に結合し得る物質である場合もある。また、上述のごとく特異的結合可能物質に直接または間接的に結合した物質をその特異的結合可能物質に含めてターゲットと考えることもできる。
【0041】
ターゲットが、ある特異的結合可能物質そのものである場合には、その物質は、アフィニティプローブと相補的に結合するDNAを含むものであることが好ましい。
【0042】
なお、ターゲットがある特異的結合可能物質そのものである場合には、特異的結合可能物質の大きさや長さは、ターゲットではない場合の特異的結合可能物質の大きさや長さよりは大きな値を取ることが一般的である。その意味では、ターゲットである特異的結合可能物質がポリヌクレオチドである場合の塩基数は、6〜20,000程度の間が好ましい。
【0043】
ターゲットが「特異的結合可能物質に直接または間接的に結合し得る物質」である場合、このターゲットの形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、たとえば、線状、粒状、板状、これらの2以上の組合せ、等が挙げられるが、これらの中でも線状が好ましい。
【0044】
このようなターゲットの種類には、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。その具体例としては、特異的結合可能物質と直接または間接に結合できる条件の下、「特異的結合可能物質」を「ターゲット」と読み替え、「アフィニティプローブと特異的に結合し易い」を「特異的結合可能物質と直接または間接に結合し易い」と読み替え、上記特異的結合可能物質として挙げた物質をここでも挙げることができる。
【0045】
なお、この場合にも、「特異的結合可能物質」を読み替えた「ターゲット」の大きさや長さは、(ターゲットではない)特異的結合可能物質の大きさや長さよりは大きな値を取ることが一般的である。ターゲットがポリヌクレオチドである場合の塩基数は、6〜20,000程度の間が好ましい。
【0046】
なお、本明細書で、「特異的結合可能物質に直接または間接的に結合」とは特異的結合可能物質とターゲットとの間の結合が他の物質または結合が介在しない直接的なものであること、または、特異的結合可能物質とターゲットとの間にその他の物質または結合が介在する結合であることを意味する。「その他の物質または結合」については特に制限はない。
【0047】
ターゲットが「特異的結合可能物質に直接または間接的に結合し得る物質」である場合、その結合には特に制限はなく、選択された物質に応じて公知の結合を適用することができる。具体的には、特定の配列のDNAとその相補鎖DNAの結合、ビオチン−アビジン結合等を挙げることができる。
【0048】
このようにターゲットが「特異的結合可能物質に直接または間接的に結合し得る物質」である場合には、この直接または間接的結合により、特異的結合可能物質がアフィニティプローブと特異的に結合した場合における蛍光強度の変化に加えて蛍光強度を更に変化させる等の効果を得ることができる。
【0049】
ターゲットが、特異的結合可能物質に直接または間接的に結合し得る物質である場合には、その特異的結合可能物質を、このターゲットに特異的に結合し得る物質を結合させたものまたはターゲットに特異的に結合した物質を結合させ得るものとすることもできる。前者では、「ターゲットに特異的に結合し得る物質」が特異的結合可能物質と結合していることを意味し、後者では、「特異的結合可能物質に結合させ得る物質」がターゲットと結合していることを意味する。後者の場合には、この物質を含めたものをターゲットと考えてもよい。このターゲットに対する特異的結合が、ターゲットに対する特異的結合可能物質の直接または間接的結合に該当する。
【0050】
このようなターゲットに対する特異的結合を導入することにより、上記の蛍光強度の変化がより大きく確実なものとなる場合が多い。
【0051】
このような物質としては、ビオチンやジゴキシゲニンを挙げることができる。
【0052】
なお、上記ターゲットの属性や種類についての説明は、「特異的結合可能物質に直接または間接的に結合した物質」についても同様に適用することができる。
【0053】
(サンプル)
本方法に係るサンプルには特に制限はないが、通常液体であり、生理食塩水等の水溶液である場合がほとんどである。
【0054】
(特異的結合)
本明細書においては、「アフィニティプローブ」と他の物質とでは結合を示さないあるいは結合したとしてもその程度が非常に低いのに対し、「アフィニティプローブ」とある物質との間では結合するあるいはその結合の程度が大きいものであれば、その物質との結合が特異的結合であり、この物質が特異的結合可能物質であると考えることができる。ターゲットに特異的に結合し得る物質や特異的に結合した物質が関与する「特異的結合」についても同様に考えることができる。なお、ターゲットに特異的に結合し得る特異的結合可能物質がアフィニティプローブと結合している場合にはその特異的結合可能物質とアフィニティプローブとの組み合わせをアフィニティプローブと言うこともできる。
【0055】
その結合の有無や「程度」は、本方法を適用する目的に応じて適宜決定することができる。すなわち、ある結合を採用した場合、本方法を適用した結果、発光蛍光強度の変化が観察されれば特異的結合と考えることができる。あるいは、ターゲットの有無、相違および量のいずれかを評価することができれば、特異的結合と考えることができる。ただし、一般的には、結合力が特に弱い結合は避けた方がよいであろう。この意味から、特異的結合としてはDNA間の相補的結合が好ましい。特異的結合の種類および結合箇所については特に制限はない。
【0056】
(アフィニティプローブ)
「アフィニティプローブ」は、目的とするターゲットに係る物質と特異的に結合できるものであって、特定シアニン蛍光色素でラベリングできるものであればどのようなものでもよい。この関係にある場合に、上記「目的とするターゲットに係る物質」が「特異的結合可能物質」に該当することになる。すなわち、まず、ターゲットが決められ、そのターゲットが特異的結合可能物質(たとえばDNA)である場合には、ターゲットそのものに特異的に結合し得る物質(たとえば相補的に結合するDNA)をアフィニティプローブとして選択し、そのターゲットがある物質である場合には、その物質に直接または間接的に結合し得る物質(たとえばDNA)を特異的結合可能物質として選択し、その選択された特異的結合可能物質に特異的に結合する(たとえば相補的に結合する)物質(たとえばDNA)をアフィニティプローブとして選択することになる。
【0057】
アフィニティプローブは、特定シアニン蛍光色素でラベリングされており、上記特異的結合可能物質と特異的に結合する限り、任意の物質から選択することができる。このアフィニティプローブの形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、たとえば、線状、粒状、板状、これらの2以上の組合せ、等が挙げられるが、これらの中でも線状が好ましい。
【0058】
このようなアフィニティプローブの種類には、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。その具体例としては、上記条件の下、「特異的結合可能物質」を「アフィニティプローブ」と読み替え、「アフィニティプローブ」を「特異的結合可能物質」と読み替えて、上記特異的結合可能物質として挙げた物質をここでも挙げることができる。
【0059】
なお、アフィニティプローブとして、発光する蛍光が相異なった波長を有する特定シアニン蛍光色素でラベリングされた複数のアフィニティプローブを使用することも有用である。このようにすれば、蛍光強度を測定する波長範囲を適宜選択することにより、複数のアフィニティプローブを用いて、共存する異なる複数のターゲットについて、同時に測定を行うことが可能になる。
【0060】
(特定シアニン蛍光色素)
シアニン蛍光色素のような蛍光色素は、DNAと混在中に蛍光強度が変化することや(非特許文献3)、DNAにマーカーとして結合させた場合にハイブリダイゼーションで蛍光強度が変化すること(非特許文献4)が開示されている。
【0061】
しかしながら、非特許文献3に係る技術では、単に混在するDNAの濃度と蛍光色素の濃度との間に蛍光強度が依存するのみで、ターゲットとなるDNAの有無や濃度を評価することはできない。また、非特許文献4に係る技術では、マーカーとして個々のDNA鎖に複数個の蛍光色素が必要であり、コストの点や処理の点で問題がある。また、ハイブリダイゼーション時の蛍光強度変化が減少するものや変化するものがあり、その差異の根拠が明らかでないため、評価方法としては不適である。
【0062】
これに対し、上記の特定の蛍光色素として、特定シアニン蛍光色素を用いると、上記のごとく、処理前に対する処理後の蛍光色素の蛍光強度の変化の有無からターゲットの有無を評価し、また、処理後の蛍光色素の蛍光強度の変化の相違からターゲットの相違を評価し、処理後の蛍光色素の蛍光強度の変化の程度から、ターゲットの量を評価することが可能になる。
【0063】
この場合、スルホン酸基またはその塩はイオン化しているものと思われるが明確ではない。なお、イオン化しているかどうかは本発明の本質とは直接関係しない。スルホン酸基の塩の場合、その対イオンの種類には特に制限はない。Na,Ca塩等を例示することができる。
【0064】
式1にアフィニティプローブにラベリングされたシアニン蛍光色素の一例を示す。式1中、Xはアフィニティプローブを表す。nは、0(ゼロ)または正の整数である。式1では、スルホン酸基またはその塩が、それぞれのベンゼン環について結合している窒素に対してそれぞれパラの位置に結合している。
【0065】
【化3】

【0066】
式1に示されるように、シアニン蛍光色素はその骨格の両端にベンゼン環を有する。上記のスルホン酸基またはその塩はこの両端のベンゼン環に結合している。なお、式1中のSOはスルホン酸基またはその塩をそのマイナスイオン部分だけで表現したものである。スルホン酸基またはその塩が完全に電離していることを意味しているわけでない。
【0067】
両端のベンゼン環に結合しているスルホン酸基またはその塩の数には特に制限はないが、通常はそれぞれ1個で十分なようである。その結合位置は、式1に示すように、それぞれのベンゼン環について結合している窒素に対してそれぞれパラの位置にあることが好ましい。恐らく電子雲の広がりが好ましいためであろう。式1について、nは1〜3が好ましく、1が最も好ましい。
【0068】
ただし、前述のように、アフィニティプローブとして、発光する蛍光が相異なった波長を有する特定シアニン蛍光色素でラベリングされた複数のアフィニティプローブを使用する場合には、スルホン酸基またはその塩の結合位置を変えることや上記nの数を変えることや両端にあるベンゼン環に更なる置換基を導入することが有用である場合が多い。
【0069】
なお、本明細書における蛍光強度としては、発光する蛍光の適当な波長における蛍光強度を採用しても、ある波長範囲における蛍光強度の積分値を採用してもよい。この発光のために蛍光色素を励起し得る照射線についても特に制限はないが、紫外線をバンドパスフィルターで波長制御したもの、レーザー光等が、発光(蛍光)波長へのクロストークの防止の観点から好適に使用し得る。
【0070】
(評価)
図1に、特定シアニン蛍光色素を先端に結合させたDNAとその相補鎖DNAを使ったハイブリダイゼーションの一実験例を示す。特定シアニン蛍光色素を先端に結合させたDNAが先述のアフィニティプローブに、その相補鎖DNAが、先述の特異的結合可能物質そのものであるターゲットに該当する。図中、比較のため、スルホン酸基もその塩も持たないシアニン蛍光色素(非特定シアニン蛍光色素)を先端に結合させたDNAとその相補鎖DNAを使ったハイブリダイゼーション実験例も併せて示している。縦軸は、ハイブリダイゼーション前の蛍光強度に対するハイブリダイゼーション後の蛍光強度の比を示し、横軸は、ハイブリダイズした二本鎖DNAの濃度(モル/L)を示している。図中のDNA1〜DNA4は、図2に示すDNAアフィニティプローブであることを意味している。図2に示すように、DNA1,2は特定シアニン蛍光色素でラベリングされており、DNA3,4は非特定シアニン蛍光色素でラベリングされている。
【0071】
図1より明らかなように、特定シアニン蛍光色素を持つDNAはハイブリダイゼーションにより、蛍光強度が約2倍程度に増大しているが、非特定シアニン蛍光色素を持つDNAは、蛍光強度に大きな変化はなく、むしろ、若干強度が減少している程度であることが理解される。この場合のハイブリダイゼーション前の蛍光強度に対するハイブリダイゼーション後の蛍光強度が1より大きくなることが、上記の「処理前の蛍光色素の発光蛍光強度に対する、処理後の蛍光色素の発光蛍光強度の変化」における発光蛍光強度の増大に該当する。
【0072】
このように、特定シアニン蛍光色素でラベリングされたアフィニティプローブを用いることで、サンプル中におけるターゲットの有無を蛍光強度の変化から評価することが可能となる。
【0073】
また、あるアフィニティプローブに対し複数の特異的結合可能物質が存在する場合、その結合の強さ、アフィニティプローブと特異的結合可能物質との距離、特異的結合可能物質の構造等の要因により、量が同じでも発光蛍光強度に差異が見出されることが判明した。
【0074】
更に、あるアフィニティプローブに対し複数の特異的結合可能物質が存在する場合、その結合が、雰囲気の条件、たとえば温度、pH、塩濃度等によって生じたり生じなくなったり、一旦結合したものが開裂したり、平衡定数が変化する場合には、それらの条件を組み合わせることにより、ターゲットの相違を評価することができる。この典型例は特異的結合可能物質であるターゲットが一塩基多型(SNPs:Single Nucleotide Polymorphisms)DNAである場合である。たとえば、配列GTGAACCTT(5’→3’)を有するアフィニティプローブと、AAGGTTCAC(パーフェクトマッチ)の配列およびAAGCTTCAC(1塩基ミスマッチ)の配列とは特異的に結合し得るが、前者は26℃で結合が解離する(すなわち融点が26℃である)のに対し後者は融点が22℃である。そこで、22℃未満と22〜26℃の間の適当な温度とにおいて本方法を適用すれば、前者と後者との相違を評価することができるのである。なお、特異的結合可能物質そのものではないターゲットがSNPs DNAである場合も同様である。
【0075】
また、この蛍光強度は、当然、アフィニティプローブとターゲットとの結合比率によって変化するので、アフィニティプローブの絶対量あるいは濃度が既知の場合には、蛍光強度の変化の度合いから、ターゲットの量を評価することが可能になる。たとえば、予め、ターゲットが100%アフィニティプローブと結合したときの蛍光強度や、特定%だけアフィニティプローブと結合したときの蛍光強度が分かっていれば、それらを元にターゲットの量を評価することが可能になる。
【0076】
更にアフィニティプローブの絶対量あるいは濃度が不明の場合でも、蛍光強度の変化の度合いから、ターゲットの量を評価することが可能になる場合がある。たとえば、予め、ある量のターゲットがアフィニティプローブと結合したときの蛍光強度が分かっていれば、それらを元に未知のターゲット量を評価することが可能になる。
【0077】
(処理)
アフィニティプローブによるサンプルの処理は、アフィニティプローブをサンプルと接触させることで達成される。場合によっては環境温度、pH、処理時間等を制御することが好ましい。このようにして処理物が得られる。
【0078】
ターゲットが特異的結合可能物質そのものでない場合は、アフィニティプローブとサンプルとの接触の前後または同時に特異的結合可能物質をサンプルと接触させることも、予めサンプル中に特異的結合可能物質を共存させておくことも可能である。ターゲットに特異的に結合し得る物質や特異的に結合した物質が関与する場合も同様である。
【0079】
ただし、予めサンプル中に特異的結合可能物質を共存させる場合には、「特異的結合可能物質に直接または間接的に結合し得る物質」が、アフィニティプローブとの接触時点では、「特異的結合可能物質に直接または間接的に結合した物質」に変化し得る。しかしながら、そのような場合も本発明の範疇に属し得ることは既に説明した通りである。
【0080】
(ターゲット評価装置)
上記方法を実現するには、ある物質と特異的に結合し得るアフィニティプローブを固定した基板を備えたターゲット評価装置において、そのアフィニティプローブが、シアニン蛍光色素であってその構造の両端にあるベンゼン環にスルホン酸基またはその塩を有するシアニン蛍光色素でラベリングされていることが有用である。
【0081】
また、上記アフィニティプローブが、更に上記ある物質と特異的に結合し得る物質を結合させた物質と特異的に結合したアフィニティプローブであることも有用である。
【0082】
これらの場合における「ある物質」には、上記特異的結合可能物質そのものであるターゲットや、上記特異的結合可能物質に直接または間接的に結合し得る物質であるターゲットが該当する。更に、ターゲットが、上記特異的結合可能物質に直接または間接的に結合した物質である場合におけるその物質の結合した特異的結合可能物質が該当する場合もあり得る。
【0083】
なお、本ターゲット評価装置における基板の材質や形状については特に制限はなく、DNAチップを含むバイオチップで公知の基板を使用することができる。
【0084】
また、上記アフィニティプローブや基板以外に必要なる部品についても特に制限はない。DNAチップを含むバイオチップで公知の部品を適用することが可能である。図6に示されている部品をその一例と考えることができる。
【0085】
このようなターゲット評価装置についても、環境条件、処理、シアニン蛍光色素、アフィニティプローブ、特異的結合可能物質、ターゲット、ターゲットに特異的に結合し得る物質や特異的に結合した物質等が関与する場合には、その属性や説明に、上記方法についての属性や説明を適用することが可能である。たとえば、アフィニティプローブとして、発光する蛍光が相異なった波長を有する特定シアニン蛍光色素でラベリングされた複数のアフィニティプローブを使用することにより、蛍光強度を測定する波長範囲を適宜選択すれば、一つの基板に複数のアフィニティプローブを固定することを介して、共存する異なる複数のターゲットについて、同時に測定を行うことが可能になる。
【0086】
本ターゲット評価装置は、上記の種々の態様のターゲット評価方法に好ましく利用することができる。また、用途との関係では、DNAチップに代表されるバイオチップとして医学、生物学、生化学の研究、開発、製造、応用分野で好ましく使用できる。ただし、それ以外の分野における適用が妨げられるわけではない。
【実施例】
【0087】
次に本発明の実施例を詳述する。
【0088】
なお、特定シアニン蛍光色素としては、式1(n=1)のものを使用した。
【0089】
蛍光色素を励起するための照射線としては、Ar(波長514 nm)のレーザー光線を使用した。
【0090】
蛍光強度は、光電子増倍管を使用し、シアニン蛍光色素の蛍光波長565nmのピーク値(波長幅2nm)として求めた。
【0091】
[実施例1]
図3は、特定シアニン蛍光色素でラベリングした長さの異なるDNA鎖をアフィニティプローブとして用い、アフィニティプローブと同じ塩基数の相補DNA鎖をターゲットとして用いた場合における、本発明の一適用実験の蛍光強度の変化度の相違を示している。図中、縦軸は、アフィニティプローブのみについての蛍光色素の発光蛍光強度に対する、ハイブリダイズ後のDNAの蛍光色素の発光蛍光の比を表し、横軸は、アフィニティプローブの塩基数を示している。
【0092】
この図より、DNA鎖が長くなるに従い、多少変化度が増す傾向にあることが分かる。
【0093】
従って、この程度の差異を無視してよい程度の評価、たとえばターゲットの有無や定性的な量の評価であれば、DNA鎖の長さが種々異なったものであっても、ターゲットの評価にそのまま使用できると考えることができる。また、アフィニティプローブの長さや分子量を揃えることができれば、その相違を評価することや、より正確な定量的評価を行うこともできる。
【0094】
[実施例2]
図4は、特定シアニン蛍光色素を結合させた1本鎖DNAアフィニティプローブに、タンパク質と特異的に結合し得る物質を持つ相補鎖DNAをハイブリダイズさせて、2本鎖を形成したときの蛍光強度の変化を示す一実験結果である。相補鎖DNAおよびアフィニティプローブDNAはそれぞれ24塩基を有するものを使用した。縦軸は蛍光強度を示し、横軸は、アフィニティプローブDNAに対する相補鎖DNAの割合(モル%)を表す。
【0095】
2本鎖形成後に、特定シアニン蛍光色素の効果が得られ、蛍光強度が増大していることが理解される。従って、このような関係が予め把握されていれば、定量的評価を容易に行うことができる。
【0096】
なお、この状態(100%ハイブリダイズした状態)で、タンパク質と相補鎖DNAに結合させた物質とを結合させると、励起された蛍光色素のエネルギーの一部が、発光に使われず、タンパク質に遷移することにより、著しい蛍光強度の低下が見られることが判明した(図5参照)。図5において、縦軸は蛍光強度(任意値)を示し、横軸は、処理時間を示している。
【0097】
この実施形態では、蛍光強度の変化で、ターゲットに特異的に結合し得る物質を持つ2本鎖DNAの形成が確認されるとともに、その後の蛍光強度の減少により、タンパク質との結合が確認できる。つまり、タンパク質をターゲットとした場合のタンパク質の評価が、蛍光強度の変化の観察を通して簡便に可能となる。
【0098】
[実施例3](ターゲットが相補鎖DNAの例)
図6に本発明の実施に必要な装置構成図を示す。図6は、蛍光色素を付着させたDNAを含む溶液8に、アフィニティプローブの蛍光色素を励起し蛍光を生じさせ得る波長の光9をレンズ2で集光してサンプルホルダー7に固定されたサンプル8に照射するレーザー1と、サンプル内の蛍光色素からの蛍光10をレンズ3で集光して検知する光検知器5と、光検知器5からのシグナルを解析するパーソナルコンピューター(PC)6とを備えた蛍光観察装置の一例を説明するための概略説明図である。
【0099】
アフィニティプローブサンプルには特定シアニン蛍光色素を有する1本鎖DNA(200 nM)を含んだ緩衝溶液(Trisが10 mM,NaClが50 mM,pH7.3)を用い、レーザー光で励起させた蛍光色素からの蛍光強度を光検知器で検知し、そのシグナルをPC上でモニターする。
【0100】
図7は上記1本鎖DNAアフィニティプローブの相補鎖DNAを、2本鎖を形成するのに十分な量、加えたときの蛍光強度の時間変化を示す。図より、時間とともに2本鎖が形成されていく様子が、蛍光強度の変化として、明確に確認できる。この結果から、相補鎖DNAの時間依存性(拡散速度)等の物理定数を求めることもできる。これらの物理定数も、ターゲットの相違を評価する上で有用である。
【0101】
このとき、相補鎖DNAが評価したいターゲットである場合には、蛍光色素からの蛍光強度の変化を観察することにより、対象溶液中のターゲットの有無の評価が可能となる。この場合、ターゲットをラベリングする必要は無い。また、蛍光色素を付着させたアフィニティプローブの濃度が既知の場合は、蛍光強度の変化量からターゲットの濃度を評価することも可能である。
【0102】
[実施例4](ターゲットがタンパク質の例)
実施例3と同様の装置構成(図6)を用い、特定シアニン蛍光色素を有する1本鎖DNA(24量体)であるアフィニティプローブ(200 nM)を含んだ緩衝溶液(Trisが10 mM,NaClが50 mM,pH7.3)を用い、レーザー光で励起させた蛍光色素からの蛍光強度を光検知器で検知し、そのシグナルをPC上でモニターした。
【0103】
ターゲットとなるタンパク質(ストレプトアビジン)と特異的に結合し得る物質(ビオチン)を結合させた相補鎖DNAを、上記アフィニティプローブDNAと等モル量となる量加え、特定蛍光色素とビオチンが付いた2本鎖DNAを作製した。このとき、2本鎖の形成により、特定シアニン蛍光色素の蛍光強度が変化することで、2本鎖形成をリアルタイムで確認することができた。
【0104】
2本鎖形成確認後(図7の飽和後に相当)、ターゲットタンパク質のストレプトアビジンを混入し、蛍光強度変化を観察した。結果は、図8に示すように、ストレプトアビジンとビオチンが結合することによって、蛍光色素の励起エネルギーの一部がストレプトアビジンに移り、蛍光強度が減少した。比較のために、ストレプトアビジンと特異的に結合し得る物質(ビオチン)を結合させていない相補鎖DNAを用いた場合には、中空の丸印で示すように、蛍光強度の減少は起こらなかった。
【0105】
この方法では、タンパク質をラベリングすることなく、その有無や濃度を評価することができる。また、特定シアニン蛍光色素を用いることにより、2本鎖形成時に蛍光信号が変化し、確実にストレプトアビジンと特異的に結合し得る物質との結合をモニターすることができると同時に、その後のタンパク質の結合時の蛍光信号の変化を高S/Nで観測することが可能となる。
【0106】
[実施例5](ターゲットがタンパク質の例)
実施例4におけるアフィニティプローブをたとえば金を表面に貼った基板に予め固定しておけば、この基板を利用して、ターゲットの評価をより容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0107】
【図1】特定シアニン蛍光色素付きDNAおよび非特定シアニン蛍光色素付きDNAの2本鎖形成時の蛍光強度変化を示すチャートである。
【図2】特定シアニン蛍光色素付きDNAおよび非特定シアニン蛍光色素付きDNAの構造図である。
【図3】特定シアニン蛍光色素付きDNAの2本鎖形成時の蛍光強度変化のDNA鎖長依存性を示すチャートである。
【図4】特定シアニン蛍光色素を結合させた1本鎖DNAアフィニティプローブに、タンパク質と特異的に結合し得る物質を持つ相補鎖DNAをハイブリダイズさせて、2本鎖を形成したときの蛍光強度の変化を示す一実験結果を示すチャートである。
【図5】特定シアニン蛍光色素とタンパク質と特異的に結合し得る物質を持つDNAを用いたタンパク質評価の一例を示すチャートである。
【図6】一実施例の装置構成図である。
【図7】特定シアニン蛍光色素付きDNAを用いたDNA評価の一例を示すチャートである。
【図8】特定シアニン蛍光色素とビオチンを持つあるいは持たないDNAを用いたストレプトアビジン評価の一例を示すチャートである。
【符号の説明】
【0108】
1 レーザー
2 入射レンズ
3 集光レンズ
4 フィルター
5 光検知器
6 信号処理PC
7 サンプルホルダー
8 サンプル溶液
9 入射レーザー光
10 蛍光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンプル中におけるターゲットを評価する評価方法において、
前記ターゲットが、あるアフィニティプローブに特異的に結合し得る物質である特異的結合可能物質そのものまたは前記特異的結合可能物質に直接または間接的に結合し得る物質であり、
前記アフィニティプローブとして、シアニン蛍光色素であって、その構造の両端にあるベンゼン環にスルホン酸基またはスルホン酸基の塩を有するシアニン蛍光色素でラベリングされたアフィニティプローブを用いることと、
前記アフィニティプローブで前記サンプルを処理して処理物を得ることと、
前記蛍光色素を励起し得る照射線で照射した場合における、前記処理前の前記蛍光色素の発光蛍光強度に対する、前記処理後の蛍光色素の発光蛍光強度の変化の有無、相違または変化の程度から、前記ターゲットの有無、相違またはその量を評価することと
を含んでなるターゲット評価方法。
【請求項2】
前記スルホン酸基またはその塩が、前記シアニン蛍光色素の両末端にあるベンゼン環について、それぞれの窒素に対してそれぞれパラの位置にある、請求項1に記載のターゲット評価方法。
【請求項3】
前記アフィニティプローブにラベリングされたシアニン蛍光色素が式1で表される、請求項1または2に記載のターゲット評価方法(式1において、Xはアフィニティプローブを表し、nは1〜3の整数である)。
【化1】

【請求項4】
前記ターゲットが、前記特異的結合可能物質に直接または間接的に結合し得る物質であり、
前記特異的結合可能物質が、前記ターゲットに特異的に結合し得る物質を結合させたものまたは前記ターゲットに特異的に結合した物質を結合させ得るものであり、
前記ターゲット評価方法が、前記処理の前後または同時に、前記特異的結合可能物質と、前記アフィニティプローブとを接触させることを含む、
請求項1〜3のいずれかに記載のターゲット評価方法。
【請求項5】
前記アフィニティプローブとして、発光する蛍光が相異なった波長を有する前記シアニン蛍光色素でラベリングされた複数のアフィニティプローブを使用することを含む、
請求項1〜4のいずれかに記載のターゲット評価方法。
【請求項6】
ある物質と特異的に結合し得るアフィニティプローブを固定した基板を備えたターゲット評価装置において、
当該アフィニティプローブが、シアニン蛍光色素であってその構造の両端にあるベンゼン環にスルホン酸基またはその塩を有するシアニン蛍光色素でラベリングされている、ターゲット評価装置。
【請求項7】
ある物質と特異的に結合し得るアフィニティプローブを固定した基板を備えたターゲット評価装置において、
当該アフィニティプローブが、シアニン蛍光色素であってその構造の両端にあるベンゼン環にスルホン酸基またはその塩を有するシアニン蛍光色素でラベリングされており、
更に、当該アフィニティプローブが、当該ある物質と特異的に結合し得る物質を結合させた物質と特異的に結合したアフィニティプローブである、ターゲット評価装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−180513(P2009−180513A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−17133(P2008−17133)
【出願日】平成20年1月29日(2008.1.29)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】