説明

ダイインサートのコード溝穴の加工方法およびダイインサート

【課題】タイヤカーカスやベルト層等の製造に用いる押出し機に内設されるダイインサートのコード溝穴の内周面の出口側端部の偏磨耗を防止し、スチールコードを長期間、精度よく引き揃えることを可能にしたダイインサートのコード溝穴の加工方法およびダイインサートを提供する。
【解決手段】固定部14a、14bによって固定したダイインサート1のコード溝穴2に研磨用スチールコード11を挿通移動させて、該コード溝穴2の内周面の出口側端部2aのみを滑らかに研磨し、その後、砥粒により該コード溝穴2の内周面全体を研磨し、次いで、コード溝穴2の内周面全体に表面硬化膜をコーティングすることで出口側端部2aに表面硬化層を強固に固着させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイインサートのコード溝穴の加工方法およびダイインサートに関し、さらに詳しくは、タイヤカーカスやベルト層等を製造する際に用いる押出し機に内設されるダイインサートのコード溝穴の加工方法およびダイインサートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、空気入りタイヤの構成部材となるカーカスやベルト層等のゴム複合体シートは、押出し機に内設したダイインサートによって、複数のコードを引き揃えた後、その両面にゴム部材を被覆して製造する方法が広く用いられている。具体的には、図6に例示するようにダイインサート16は上型16aと下型16bからなり、このダイインサート16を上下からインサートホルダ4b、4bで挟み込み、これらとダイスロート4aとを組み合うように押出し機のダイヘッド4に固定して、互いのすき間にゴム流路5を形成する。このダイインサート16は複数のコード溝穴17を並設し、コード溝穴17にコード7を挿通させて所定ピッチに引き揃えた後、ゴム流路5を押出されるゴム部材8を引き揃えたコード7の両面に被覆し、一対の圧着ローラ6、6間を通過させて圧着することによりゴム複合体シート9を製造する。
【0003】
このようなゴム複合体シート9の製造方法では、ダイインサート16のコード溝穴17を挿通するコード7が、コード溝穴17の出口ではコード溝穴17による拘束がなくなるため上下左右に変動し易くなる。そのため、コード7がスチールコードのような硬いコードの場合は、変動するスチールコード7によって、コード溝穴17の内周面の出口側端部17aに偏磨耗が生じるという問題があった。このような偏磨耗のあるダイインサート16を使用し続けると、スチールコード7の配列ピッチの乱れが大きくなり、ゴム複合体シート9の品質に悪影響を及ぼすようになる。そのため、ゴム複合体シート9の品質を一定水準に維持するには、ダイインサート16を頻繁に交換、補修しなければならないという問題があった。
【0004】
ゴム複合体シートのコード配列の乱れを抑制するために、ダイインサートのコード溝穴の出口部の上半分を開放する構造にし、下半分がコード溝穴にある状態の並列したコードの上面にゴム部材を圧着する方法が提案されている(特許文献1参照)。しかしながら、この提案の方法でもコード溝穴の内周面の出口側端部の偏磨耗を十分に防止することはできず、根本的な解決にはならなかった。
【0005】
このような偏磨耗を防止するために、コード溝穴2の内周面にメッキ等の表面硬化膜をコーティングすることは有効であるが、コード溝穴2の内周面を表面硬化膜が強固に固着する程度に滑らかに研磨するには、研磨作業が複雑になり、研磨時間も長くなるという問題があった。
【特許文献1】特開2005−193494号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の主たる目的は、タイヤカーカスやベルト層等の製造に用いる押出し機に内設されるダイインサートのコード溝穴の内周面の出口側端部の偏磨耗を防止し、スチールコードを長期間、精度よく引き揃えることを可能にしたダイインサートのコード溝穴の加工方法およびダイインサートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため本発明のダイインサートのコード溝穴の加工方法は、押出し機のダイヘッドに内設され、所定間隔で並列した複数のコード溝穴を有し、該コード溝穴にスチールコードを挿通させて引き揃え、該引き揃えたスチールコードの両面に前記押出し機で押出されるゴム部材を被覆するダイインサートのコード溝穴の加工方法であって、前記コード溝穴に研磨用スチールコードを挿通移動させて、該コード溝穴の内周面の出口側端部のみを滑らかに研磨し、その後、砥粒により該コード溝穴の内周面全体を研磨し、この研磨終了後のコード溝穴の内周面全体に表面硬化膜をコーティングすることを特徴とするものである。
【0008】
また、本発明のダイインサートは、押出し機のダイヘッドに内設され、所定間隔で並列した複数のコード溝穴を有し、該コード溝穴にスチールコードを挿通させて引き揃え、該引き揃えたスチールコードの両面に前記押出し機で押出されるゴム部材を被覆するダイインサートであって、前記コード溝穴の内周面の出口側端部のみが滑らかに研磨され、該コード溝穴の内周面の全体に表面硬化膜がコーティングされていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明のダイインサートのコード溝穴の加工方法によれば、コード溝穴に研磨用スチールコードを挿通移動させて、該コード溝穴の内周面の出口側端部のみを滑らかに研磨し、その後、砥粒により該コード溝穴の内周面全体を研磨するので、研磨が困難で、かつ十分に研磨して滑らかさが必要な出口側端部だけを局部的に効率よく研磨をすることができる。そして、研磨工程の終了後、コード溝穴の内周面全体に表面硬化膜をコーティングすることで、コード溝穴の内周面の出口側端部に表面硬化層を強固に固着することができる。これにより、変動するスチールコードが出口側端部に頻繁に接触しても表面硬化層が容易に剥がれることなく偏磨耗を防止でき、長期間精度よくスチールコードを所定の配列ピッチで引き揃えることができる。
【0010】
また、本発明のダイインサートによれば、コード溝穴の内周面の出口側端部のみが滑らかに研磨され、該コード溝穴の内周面の全体に表面硬化膜がコーティングされているので、コード溝穴の内周面で最も高い硬度が必要な出口側端部に表面硬化層が強固に固着し、変動するスチールコードが出口側端部に頻繁に接触しても表面硬化層が容易に剥がれることなく偏磨耗を防止でき、長期間精度よくスチールコードを所定の配列ピッチで引き揃えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明のダイインサートのコード溝穴の加工方法およびダイインサートを図に示した実施形態に基づいて説明する。
【0012】
図1は、本発明のダイインサート1のコード溝穴2の加工方法を実施するためのダイインサートの研磨装置10であり、ダイインサート1を断面状態で示している。このダイインサート1は、図2に例示するように上型1aおよび下型1bの一対の分割型から構成され、上型1aおよび下型1が、それぞれに設けられた断面半円形の溝部を対向させて互いに密着することにより、複数の並列したコード溝穴2を有するダイインサート1になる。ダイインサート1の材質としては、例えば、SKD11、SKH51、超硬合金などがある。
【0013】
このコード溝穴2は、ワイヤ放電加工や切削加工等によって形成され、その内周面には放電加工の場合には変質層が残り、切削加工の場合には加工痕などが残っている。そのため、そのままの状態でコード溝穴2の内周面にメッキ等の表面硬化膜をコーティングしても強固に固着しない。そこで、本発明では、まず、コード溝穴2の内周面において最も表面硬度が必要となる出口側端部2aを、研磨用スチールコード11を用いて選択的に研磨する。
【0014】
研磨装置10では、ダイインサート1は、上型1aおよび下型1bがそれぞれフレーム14に立設された固定部14a、14bに保持されて、互いを密着させた状態で固定されている。フレーム14の前後端部には、それぞれ巻取りロール12、繰出しロール13が軸支され、繰出しロール13から巻取りロール12に向かって研磨用スチールコード11が巻き取られるようになっている。
【0015】
この研磨用スチールコード11は、ダイインサート1のコード溝穴2を挿通移動し、コード溝穴2の出口では、コード溝穴2の拘束から開放されて弦振動により上下左右に自由に変動する。この変動する研磨用スチールコード11がコード溝穴2の内周面の出口側端部2aに頻繁に接触するので、出口側端部2だけが局部的に滑らかに研磨されることになる。この工程での研磨深さは例えば10μm〜25μm程度であり、研磨後の表面粗さは例えば平均粗さRaで0.01μm〜0.45μm程度となる。滑らかに研磨される出口側端部2aの範囲は、コード溝穴2の内径や研磨用スチールコード11の外径などによって異なるが、例えばコード溝穴2の出口から5.0mm〜10.0mm程度の範囲である。
【0016】
この工程におけるコード溝穴2の内周面の研磨深さを図示すると、図7に例示するように出口側端部2a(出口〜出口から10mm程度内側の位置の領域)では、他の領域よりも遥かに研磨深さが大きく、他の領域はわずかに研磨される程度となる。その結果、図8に例示するように、出口側端部2aの平均粗さRaは、他の領域よりも遥かに小さくなり、出口側端部2のみが滑らかに研磨された状態となる。
【0017】
この研磨によって、コード溝穴2の内周面の出口側端部2aに表面硬化層3を強固に固着することが可能になり、また、出口側端部2a以外の他の領域をあまり研磨しないで済むため、研磨時間を短縮できる。このように、表面硬化層3の強固な固着が最も必要とされる領域のみを効率的に研磨をすることができる。
【0018】
研磨用スチールコード11は、図9に例示するように図9(a)の2+2構造、図9(b)の1×3構造、図9(c)の1×6構造、図9(d)の3+9+1構造など種々の撚り線、あるいは撚りのない単線のいずれでもよく、その外径dはコード溝穴2の内径の75%以上99%以下が好ましい。研磨用スチールコード11の外径dがコード溝穴2の内径の75%未満であると研磨時間が長くなる一因となり、99%超では研磨用スチールコード11が挿通移動する際の摩擦抵抗が大きくなり過ぎるためである。
【0019】
研磨装置10は、ダイインサートのコード溝穴2に研磨用スチールコード11を挿通移動できるものであれば上記の実施形態に限定されず、例えば、研磨用スチールコード11を巻取りロール12と繰出しロール13との間に架け渡し、繰り返し循環させるように構成してもよい。また、コード溝穴2の出口側端部2aが上下左右に変動するようにダイインサート1を可動させながら、或いは、巻取りロール12を上下左右に可動させながら研磨を行なってもよい。この研磨は、1つ或いは複数のコード溝穴2毎に行なってもよいが、この実施形態のようにダイインサート1のすべてのコード溝穴2に対して同時に行なうと一層効率的である。
【0020】
ダイインサート1の材質が炭化タングステン−コバルト(WC−Co)系の超硬合金の場合は、コード溝穴2の内周面の出口側端部2aを選択的に620℃以上に加熱した後に、研磨を行なうとよい。620℃以上に加熱、より好ましくは720℃以上に2分〜40分加熱すると炭化タングステンの分解・酸化反応が生じて硬度が低下して研磨効率を向上させることができる。
【0021】
次いで、図3に例示するように上型1aと下型1bとを密着させたダイインサート1のコード溝穴2の一方端部側から他方端部側に向かって、ノズル15等を用いて砥粒Gを連続的に噴射してコード溝穴2の内周面全体を砥粒Gによって研磨する。コード溝穴2の軸方向で研磨量のばらつきが生じないようにするため、噴射方向を反対にして他方端部側から一方端部側に向かって同じ時間研磨を行なうことが好ましい。
【0022】
この工程は仕上げの研磨を行なうものであり、先の研磨用スチールコード11による研磨に比べて研磨量が少なく、研磨深さは例えば0.2μm〜1.0μm程度である。この砥粒Gによる研磨後のコード溝穴2の内周面の表面粗さは、例えば出口側端部2aでRa0.025μm〜0.40μm程度、その他の領域でRa1.7μm〜6.3μm程度となる。即ち、この工程後の最終的なコード溝穴2の内周面の研磨深さは、図7で示すと、この工程での研磨深さ分だけ、図7に例示した曲線が全体的に上方へ平行移動したものとなり、平均粗さRaは、図8で示すと、曲線が全体的にやや下方へ平行移動したような状態になる。
【0023】
砥粒Gとしては、ダイヤモンド、炭化ケイ素、アルミナ等のビッカース硬度がHV700〜5000の砥粒Gが好ましく、硬度HV700未満では柔らか過ぎて研磨効率を向上させにくくなり、硬度HV5000超まで硬くする必要はない。また、砥粒Gに多孔質の弾性体を混在させて研磨を行なうこともできる。この場合、孔に砥粒Gが溜まった弾性体がコード溝穴2に衝突する際に砥粒Gを保持するため、非常に軽量な砥粒Gがコード溝穴2の内周面に単独で衝突するよりも、質量を大きくして衝突することになり短時間でむらなく研磨することができ、研磨効率が向上する。
【0024】
次いで、研磨が完了したコード溝穴2の内周面全体に表面硬化層3をコーティングする。表面硬化層3としては、カーボンメッキ(DLC)、クロムメッキ、CrN、TiN、TiAlNなどの硬化層を例示することができる。
【0025】
上記の工程を経て加工された本発明のダイインサート1は、図4、5に例示するように、コード溝穴2の内周面の出口側端部2aがベルマウス状に僅かに拡径し、出口側端部2aのみが滑らかに研磨され、コード溝穴2の内周面全体に表面硬化層3がコーティングされた構成になる。尚、図4、5においては構成を理解し易くするため、表面硬化層3を実際よりも誇張して厚く表現している。
【0026】
出口側端部2aでは、滑らかな表面に表面硬化層3がコーティングされているので、表面硬化層3がコード溝穴2の内周面に強固に固着している。したがって、このダイインサート1を図6に示すような押出し機のダイヘッド4に内設して使用すると、変動するスチールコード7がコード溝穴2の内周面の出口側端部2aに頻繁に接触しても表面硬化層3によって保護され、かつ表面硬化層3は容易に剥がれないので、出口側端部2aの偏磨耗が防止される。これにより、ダイインサート1の交換や補修を長期間することなく、スチールコード7を所定の配列ピッチで引き揃えることができ、一定品質のタイヤカーカスやベルト層などのゴム複合体シート9を製造することができる。
【0027】
ダイインサート1は、上記実施形態に示した分割型に限定されず、一体型でもよい。また、砥粒Gによる研磨工程を省略し、研磨用スチールコード11による研磨の後、コード溝穴2の内周面全体に表面硬化層3をコーティングすることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明のダイインサートのコード溝穴の加工方法を例示する説明図である。
【図2】図1のA−A断面図である。
【図3】図1の次の工程を例示する説明図である。
【図4】本発明のダイインサートを例示する正面図である。
【図5】図4のB−B断面図である。
【図6】ダイインサートを内設した押出し機を例示する一部拡大断面図である。
【図7】本発明のダイインサートのコード溝穴の内周面の研磨深さを例示するグラフ図である。
【図8】本発明のダイインサートのコード溝穴の内周面の表面粗さを例示するグラフ図である。
【図9】研磨用スチールコードの撚り構造を例示する断面図である。
【符号の説明】
【0029】
1 ダイインサート 1a 上型 1b 下型
2 コード溝穴 2a 出口側端部
3 表面硬化膜
4 ダイヘッド 4a ダイスロート 4b インサートホルダ
5 ゴム流路
6 圧着ロール
7 スチールコード(コード)
8 ゴム部材
9 ゴム複合体シート
10 研磨装置
11 研磨用スチールコード
12 巻取りロール
13 繰出しロール
14 フレーム 14a、14b 固定部
15 ノズル
16 従来のダイインサート 16a 上型 16b 下型
17 コード溝穴 17a 出口側端部
G 砥粒

【特許請求の範囲】
【請求項1】
押出し機のダイヘッドに内設され、所定間隔で並列した複数のコード溝穴を有し、該コード溝穴にスチールコードを挿通させて引き揃え、該引き揃えたスチールコードの両面に前記押出し機で押出されるゴム部材を被覆するダイインサートのコード溝穴の加工方法であって、前記コード溝穴に研磨用スチールコードを挿通移動させて、該コード溝穴の内周面の出口側端部のみを滑らかに研磨し、その後、砥粒により該コード溝穴の内周面全体を研磨し、この研磨終了後のコード溝穴の内周面全体に表面硬化膜をコーティングするダイインサートのコード溝穴の加工方法。
【請求項2】
前記研磨用スチールコードの外径を前記コード溝穴の内径の75〜99%にする請求項1に記載のダイインサートのコード溝穴の加工方法。
【請求項3】
前記砥粒の硬度がビッカース硬度でHV700〜5000である請求項1または2に記載のダイインサートのコード溝穴の加工方法。
【請求項4】
前記砥粒に多孔質の弾性体を混在させて研磨を行なう請求項1〜3のいずれかに記載のダイインサートのコード溝穴の加工方法。
【請求項5】
前記ダイインサートの材質を炭化タングステン−コバルト系の超硬合金とし、前記コード溝穴の内周面の出口側端部を620℃以上に加熱して表面を酸化させた後、前記研磨用スチールコードによる研磨を行なう請求項1〜4のいずれかに記載のダイインサートのコード溝穴の加工方法。
【請求項6】
押出し機のダイヘッドに内設され、所定間隔で並列した複数のコード溝穴を有し、該コード溝穴にスチールコードを挿通させて引き揃え、該引き揃えたスチールコードの両面に前記押出し機で押出されるゴム部材を被覆するダイインサートであって、前記コード溝穴の内周面の出口側端部のみが滑らかに研磨され、該コード溝穴の内周面の全体に表面硬化膜がコーティングされているダイインサート。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate