説明

ダイオキシン結合材料及びダイオキシンの検出又は定量方法

本発明の主な目的は、安価で、作製が容易な物質を用いてダイオキシンを簡易に検出又は定量及びダイオキシンを取得することに関する技術を提供することである。本発明のダイオキシン結合ペプチドは、ダイオキシンに対して高い選択性を有するため、夾雑物質を含む被験物質中のダイオキシンを検出又は定量をすることができる。また、本発明のダイオキシン結合ペプチドによれば、夾雑物質が含まれる被験物質からダイオキシンを選択的に取得することが可能であり、ダイオキシンの定量、分析の簡便な前処理にも利用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、ダイオキシン類に親和性を有するオリゴペプチド、複合ペプチド及びオリゴペプチド複合体、ならびにこれらを結合した担体に関する。また、本発明は、該オリゴペプチド、複合ペプチド、オリゴペプチド複合体を用いてダイオキシンを検出又は定量する方法及びダイオキシンを取得する方法に関する。
【背景技術】
近年、様々な化学物質による環境汚染が深刻化しつつあり、生体への影響が懸念されている。中でもダイオキシンには、発癌性、免疫毒性、生殖毒性、催奇形性等の毒性があるため、汚染の状況を正確に測定、評価することが求められている。
従来、ガスクロマトグラフィー質量分析計を用いてダイオキシンを分析する方法が公定法として使用されてきたが、コストが高く、前処理等の操作は煩雑で多大な労力を要し、さらに分析時間も長いため、迅速な対応が困難であった。そこで、迅速、簡便、安価で高感度な分析法の開発が急務となっている。
このような要求に応えることの出来る有力な技術として、生体機能を活用する手法が開発されつつある。生物学的手法を用いた検出方法の代表的なものとして、抗体を標的物質に対する認識素子として利用する方法が数多く開発されており(前田昌子、イムノアッセイ−ロザリン・ヤローの功績−、ぶんせき、1999、839−843)、実用化もなされている(牛山正志、イムノアッセイによる環境試料の分析、ぶんせき、1998、736−747;中田昌伸、大川秀郎、モノクローナル抗体を用いた農薬のイムノアッセイ、ぶんせき、1999、492−500)。
しかしながら、抗体には、作製に長期間を要する、コストが高い、また低分子化学物質や毒性の高い物質の抗体を取得するのが困難であるといった問題点がある。
さらに、土壌や焼却灰などの環境サンプルには、夾雑物質が多く含まれ、ダイオキシンの検出、化学分析に悪影響を与える。そのため、一般的にソックスレー抽出などの前処理が行われ、多大な時間と労力を要する。夾雑物質が含まれるサンプルから、ダイオキシンのみを選択的に結合させ、取得することができれば、ダイオキシン定量、分析の簡便な前処理方法として有効である。また、ダイオキシンで汚染された土壌、工場排水又は河川の浄化等の観点からも、ダイオキシンを取得する方法は有効である。
本発明の主な目的は、安価で、作製が容易な物質を用いてダイオキシンを簡易に検出又は定量及びダイオキシンを取得することに関する技術を提供することである。
【発明の開示】
本発明は、以下のダイオキシンを認識するオリゴペプチド、複合オリゴペプチド及びオリゴペプチド複合体、ならびにこれらを結合させた担体を提供する。また、本発明は、該オリゴペプチドを使用して特定のダイオキシンを検出又は定量する方法及びダイオキシンを取得する方法を提供する。
項1.下記式(I):

[Aは、環状基を持つ側鎖を有する疎水性アミノ酸残基であり、Aは、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を有する疎水性アミノ酸残基を示す。nは、0又は1である。Xはアミノ酸残基を表す。]で表されるオリゴペプチド。
項2.2以上の式(I)に記載されるオリゴペプチド繰り返し単位を、必要に応じてスペーサーを介して連結してなる複合ペプチド。
項3.項1に記載されるオリゴペプチドのC末端に、リンカーを結合させてなるオリゴペプチド複合体。
項4.Aが下記式(II):

[Rは、環状基を表す。Zは、水素原子、アルキル基又はアシル基を表す。]で表される、項1に記載されるオリゴペプチド。
項5.Aが、フェニルアラニン、1−ナフチルアラニン又はシクロヘキシルアラニンである項1に記載されるオリゴペプチド。
項6.Aが下記式(III):

[Rは、アルキル基又はアリール基である。]で表される項1に記載されるオリゴペプチド。
項7.Aが、バリン、ノルバリン、ロイシン又はフェニルグリシンである項1に記載されるオリゴペプチド。
項8.Phe−Leu−Asp−Gln−Ileである、項1に記載されるオリゴペプチド。
項9.Phe−Leu−Asp−Gln−Valである、項1に記載されるオリゴペプチド。
項10.Phe−Leu−Asp−Gln−Phgである、項1に記載されるオリゴペプチド(式中Phgは、フェニルグリシン残基を示す)。
項11.ダイオキシンの検出又は定量のための項1〜10のいずれかに記載されるオリゴペプチド、複合ペプチド又はオリゴペプチド複合体の使用。
項12.項1〜10のいずれかに記載されるオリゴペプチド、複合ペプチド又はオリゴペプチド複合体を担体に結合したペプチド固定化担体。
項13.担体がビーズである項12に記載のペプチド固定化担体。
項14.以下の工程
(1)項12に記載されるペプチド固定化担体に、ダイオキシンを含み得る被験試料と標識化ダミーを接触させる工程、
(2)前記工程(1)において得られた担体と結合した標識化ダミーの量に基づいて、ダイオキシンを検出又は定量する工程
を含むダイオキシンの検出又は定量方法。
項15.標識化ダミーが、NBD標識3,4−ジクロロフェノールである項14に記載される方法。
項16.以下の工程
(1)項12に記載されるペプチド固定化担体に、ダイオキシンを含む被験試料を接触させ、該担体にダイオキシンを結合させる工程、
(2)前記工程(1)において得られた該担体に結合したダイオキシンを、溶媒を用いて担体から分離する工程
を含むダイオキシンを取得する方法。
本明細書において、ダイオキシン類はポリ塩化ジベンゾパラダイオキシン(PCDDs)、ポリ塩化ジベンゾフラン(PCDFs)およびコプラナーPCB(coplanar PCBs)を示し、単にダイオキシンと表記する場合もダイオキシン類を示す。
また、本明細書において、一般式(I)のオリゴペプチド、項2の複合ペプチド及び項3オリゴペプチド複合体を合わせて、“ダイオキシン結合ペプチド”と略すことがある。
本発明者らは、コンビナトリアルケミストリーの手法を用いて、ペプチドライブラリーを作製し、これをスクリーニングすることによってダイオキシンに対して結合性を有するペプチド配列を見いだした。
[ダイオキシン結合ペプチド]
本発明者らは、前記ペプチドライブラリーをコンビナトリアルケミストリーの代表的な手法であるスプリット&プール合成法(コンビナトリアルケミストリー入門から応用までコンビナトリアルケミストリー研究会編,化学同人,97/4)によって作製し、ペプチド固相合成用ビーズに結合してスクリーニングを行った(W.C.Chan and P.D.White,in W.C.Chan P.D.White(Ed.),Fmoc Solid Phase Peptide Synthesis:A PracticalApproach,Oxford University Press,New York,2000,p41)。
本発明のダイオキシンを結合するオリゴペプチドは、固相合成法、液相合成法等の常法によって製造することができる。また、該オリゴペプチドを担体(例えばビーズ等)に結合させて使用することもでき、その場合には、固定化の手間を省くため、あらかじめ担体上で固相合成を行うことが好ましい。
本発明に係るオリゴペプチドの好ましい実施態様であるDB1はN末端側から、フェニルアラニン、ロイシン、アスパラギン酸、グルタミン、イソロイシン(Phe−Leu−Asp−Gln−Ile;配列番号2)、で構成され、DB2はN末端側からフェニルアラニン、ロイシン、アスパラギン酸、グルタミン、バリン(Phe−Leu−Asp−Gln−Val:配列番号3)で構成される。また、N末端側からフェニルアラニン、ロイシン、アスパラギン酸、グルタミン、フェニルグリシン(本明細書においては、Phgで表される)で構成されるオリゴペプチド(Phe−Leu−Asp−Gln−Phg:配列番号22)は、30%ジオキサン溶媒中において、2,3,7,8−TeCDD(2,3,7,8−Tetrachlorodibenzo−p−dioxin)に対してDB2よりもさらに約10倍程度感度が高く、ダイオキシンの検出、定量又は取得に好適である。
式(I)中Aで示されるアミノ酸としては、下記式(II)で表されるものを使用することができる。

式(II)中Rで表される環状基は、芳香族炭化水素又は脂環式炭化水素のいずれでもよく、芳香族炭化水素としてフェニル、トルイル、キシレニル、ナフチル等があげられ、脂環式炭化水素として、C〜Cの脂環式炭化水素基、例えばシクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル等があげられ、好ましくは、シクロペンチル又はシクロヘキシルである。
芳香族炭化水素又は脂環式炭化水素には、置換基を導入することが可能であり、置換基を有しないものを使用してもよい。置換基としては、メチル基、エチル基等のアルキル基、メトキシ基、アミノ基、メトキシカルボニル基、ニトリル基(CN)、及びフッ素、塩素、臭素、ヨウ素等のハロゲンがあげられる。これらの置換基を1〜3個有することができるが、1個であることが好ましい。
また、一般式(II)中Zは、水素原子;メチル基、エチル基等のアルキル基;アセチル基等のアシル基であり、好ましくは、水素原子(H)である。
としては、好ましくはフェニルアラニン、1−ナフチルアラニン、シクロヘキシルアラニン等があげられる。
また、式(II)のZで表されるアシル基として、天然アミノ酸、非天然アミノ酸又は2以上連結した基(例えば、ペプチド等)を付加することも可能である。天然アミノ酸としては、アスパラギン、セリン、アスパラギン酸、グルタミン、グルタミン酸、トレオニン、アルギニン、ヒスチジン、グリシン、リシン、チロシン、トリプトファン、システイン、メチオニン、プロリン、フェニルアラニン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン等があげられ、非天然アミノ酸としては、βアラニン、γアミノ酪酸、δアミノペンタン酸、εアミノヘキサン酸等があげられる。
式(I)中Aで示されるアミノ酸としては、下記式(III)で表されるものを使用することができる。

式(III)中Rとして、脂肪族炭化水素基(例えば、sec−ブチル基、イソプロピル基、プロピル基、イソブチル基等)、芳香族炭化水素基(例えば、フェニル基、ナフチル基等)を使用することが好ましい。芳香族炭化水素又は脂肪族炭化水素には、置換基を導入することが可能であり、置換基を有しないものを使用してもよい。置換基としては、メチル基、エチル基等のアルキル基、メトキシ基、アミノ基、メトキシカルボニル基、ニトリル基(CN)、及びフッ素、塩素、臭素、ヨウ素等のハロゲンがあげられる。これらの置換基を1〜3個有することができるが、1個であることが好ましい。
本発明の好ましい実施態様において、Aとしては、バリン、ノルバリン、ロイシン及びフェニルグリシン等があげられる。
(I)式中、Xとしては、アスパラギン、セリン、アスパラギン酸、グルタミン、グルタミン酸、トレオニン、アルギニン、ヒスチジン、グリシン、リシン、チロシン、トリプトファン、システイン、メチオニン、プロリン、フェニルアラニン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン等の天然アミノ酸又はβアラニン、γアミノ酪酸、δアミノペンタン酸、εアミノヘキサン酸等、アミド結合に含まれるアミノ基がα炭素に結合していない非天然アミノ酸があげられ、非天然アミノ酸であることが望ましい。また、nは、0又は1であり、好ましくは0である。
本発明に係るオリゴペプチドは、N末端から2残基目がロイシン、3残基目がアスパラギン酸、4残基目がグルタミンのオリゴペプチドが最も好ましい。さらに、これらのオリゴペプチドは、L体のみで構成されたものの方が、高いダイオキシン結合能を有するため好ましい。
本発明に係るオリゴペプチドは、様々な形状の担体に結合して用いられる。担体としてビーズ、繊維、シート等を用いることができ、各担体は種々の形状をとることができる。例えば本発明の好ましい実施態様の1つにおいて、直径1〜350μm、好ましくは直径10〜150μmの大きさであって、置換率0.1〜1.0mmol/g程度、好ましくは置換率0.2〜0.3mmol/g程度のポリスチレン等の疎水性ポリマーが好ましく用いられる。この様な担体としては、ビーズが特に好ましい。
本発明のダイオキシン結合ペプチドを担体に結合させる実施形態として、一般式(I)に示される本発明のダイオキシン結合ペプチドのN末端又はC末端を直接担体に結合させる形態と、スペーサーを介して結合させる形態の両方が包含される。スペーサーとしては、ポリエチレンオキサイド鎖等からなるものがあげられる。本発明のダイオキシン結合ペプチド固定化担体としては、オリゴペプチドがスペーサーを介してそのC末端で担体に結合しているものが好ましい。
本発明の他の実施形態として、式(I)で表されるオリゴペプチドのC末端に、さらにリンカーを結合させてオリゴペプチド複合体とすることもできる。リンカーとしては、ダイオキシンの結合を妨げないものであれば特に限定されず、例えば、アミノ酸、ペプチド、単糖、二糖、多糖、ポリエーテル、担体、スペーサー及び担体等があげられる。担体、スペーサーは、上記に例示されるものを使用できる。
また、式(I)で表されるオリゴペプチドを繰り返し単位とし、該繰り返し単位を2つ以上連結させて複合ペプチドとして用いることができる。このとき、繰り返し単位の連結をスペーサーを介して行ってもよく、2つ以上のオリゴペプチドを直接結合してもよい。スペーサーとしては、ダイオキシンの結合を妨げないものであれば特に限定されず、例えば、ポリエチレンオキサイド鎖があげられる。また、該複合ペプチドを、さらに上記に例示される担体に結合させることができる。
本発明のダイオキシン結合ペプチドによって検出又は定量されるダイオキシン類には、毒性等価係数を有するポリ塩化ジベンゾパラダイオキシン(PCDDs)、ポリ塩化ジベンゾフラン(PCDFs)およびコプラナーPCB(coplanar PCBs)が含まれる(図7参照)。毒性等価係数を有するダイオキシン類としては、例えば、2,3,7,8−ThCDD、1,2,3,7,8−PeCDD、1,2,3,4,6,7,8−HpCDD、1,2,3,4,6,7,8,9−OCDD、1,2,3,4,7,8−HxCDD、1,2,3,6,7,8−HxCDD、1,2,3,7,8,9−HxCDD、1,2,3,4,6,8,9−OCDD等のPCDDs、2,3,7,8−TCDF、2,3,4,7,8−PeCDF等のPCDFs等があげられる。また、coplanar PCBsとしては、3,3’4,4’5−PeCB等があげられる。本発明のダイオキシン結合ペプチドによって、これらのダイオキシンを網羅的に検出することが可能である。これら以外の毒性等価係数を有するダイオキシン類について検出又は定量を行う場合は、本発明のダイオキシン結合ペプチドによって検出又は定量できるダイオキシンの量に基づいて検量線を作成し、濃度を推定することができる。
本発明の検出又は定量方法が適用される被験物には、ダイオキシンの検出又は定量の対象であれば特に限定されず、大気、土壌、焼却灰、海水や河川等の水試料、血液、尿、唾液、母乳等の生体試料等があげられる。被験物には、必要に応じて適宜、希釈、抽出、溶出、濾過等の前処理を行い、本発明の検出又は定量方法を適用することができる。
[ダイオキシンの検出又は定量方法]
本発明のダイオキシン結合ペプチドを用いたダイオキシンの検出又は定量方法は、以下の工程、
(1)本発明のダイオキシン結合ペプチドを担体に結合したペプチド固定化担体に、ダイオキシンを含み得る被験試料と標識化ダミーを接触させる工程、
(2)前記工程(1)において得られた担体と結合した標識化ダミーの量に基づいて、ダイオキシンを検出又は定量する工程
を含むダイオキシンの検出又は定量方法。
を含むものである。
本発明においてダイオキシンの定量とは、被験試料中のダイオキシンの濃度を計測することを意味する。また、検出は、標識化ダミーによるシグナルの有無によってダイオキシンの存在の有無を判断することを指す。
本発明において標識化ダミーとは、標識物質によって標識されたダイオキシンのダミー化合物であって、該化合物が、本発明のダイオキシン結合ペプチドに対して結合能を有するものを指す。また、標識化ダミーは、その結合力が本発明のダイオキシン結合ペプチドに対するダイオキシン類の結合力に比べて同等又はそれ以下であり、ダイオキシン類に類似する化合物及び毒性等価係数を有さないダイオキシンよりも結合力が強いものを指す。
この様な標識化されるダミー化合物としては、3,4−ジクロロフェノール、3,4−ジブロムフェノール、3,4,5−トリクロロフェノール、2,3,4−トリクロロフェノール等を使用することができる。また、ダイオキシンの誘導体を使用することもできる。
上記標識化されるダミー化合物は、通常使用される様々な方法で標識化され得る。例えば、蛍光物質、放射性同位元素、酵素等で標識化することができ、あるいは金コロイド又は着色ラテックスなどの色素で標識することも可能であるが、標識物質は、標識化されるダミー化合物の本発明のダイオキシン結合ペプチドに対する結合力を妨げないものであることが好ましい。
蛍光物質としては、NBD、FITC、NDA、OPA、RTIC、DTAF等があげられる。3,4−ジクロロフェノールに対しては、NBD又はこれに類似の構造を有する蛍光物質を用いることが好ましい。
放射性同位元素としては、32P、H、35S、125I、14C等を使用することができる。
酵素としては、ペルオキシダーゼ、グルコースオキシダーゼ、チロシナーゼ、酸性ホスファターゼ、アルカリ性ホスファターゼ、β−D−ガラクトシダーゼ等を使用することができる。また、酵素で標識する場合、標識化される化合物と酵素の間に、当業者によって通常使用される従来公知のスペーサーを介して結合させても良い。
上記の酵素を使用した場合、酵素に反応して発色する基質として、発色基質、蛍光基質又は発光基質があげられる。
発色基質としては、例えばペルオキシダーゼ用に過酸化水素と組み合わせた2,2’−アジノービス(ABTS)、3,3’,5,5’−テトラメチルベンチジン(TMB)、ジアミノベンチジン(DAB)、又はアルカリホスファターゼ用に5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリルリン酸(BCIP)等があげられる。
蛍光基質としては、例えばアルカリホスファターゼ用に、4−メチルウムベリフェニル−ホスフェート(4MUP)、又はβ−D−ガラクトシダーゼ用に4−メチルウムベリフェニル−β−D−ガラクトシド(4MUG)等があげられる。
発光基質としては、例えばアルカリホスファターゼ用に、3−(2’−スピロアダマンタン)−4−メトキシ−4−(3”−ホスフォリルオキシ)フェニル1−1,2−ジオキセタン・2ナトリウム塩(AMPPD)、β−D−ガラクトシダーゼ用に、3−(2’−スピロアダマンタン)−4−メトキシ−4−(3”−β−D−ガラクトピラノシル)フェニル1−1,2−ジオキセタン(AMGPD)、ペルオキシダーゼ用に、過酸化水素と組み合わせたルミノール、又はイソルミノールがあげられる。
これらの基質は、被験試料と反応させる前に標識化ダミーに反応させることができ、又は溶媒中にて被験試料と反応させる際に加えることができる。
色素としては、金コロイド粒子等の金属コロイド粒子、スダンブルー、スダンレッドIV、スダンIII、オイルオレンジ、キニザリングリーン等に代表される染料、顔料等でラテックス粒子を着色した着色ラテックス粒子等を使用することができる。
本発明のダイオキシン検出又は定量方法を、NBDで蛍光標識した3,4−ジクロロフェノール(NBD標識ジクロロフェノール)を標識化ダミーとして用いた場合について説明するが、これは単なる例示であって、他の標識化ダミーを用いた場合も、以下に記載される3,4−ジクロロフェノールの例を参考に、当業者であれば必要に応じて適切に条件を変更して実施することが可能である。
ガラスバイアル等に溶媒を満たし、その中で本発明のダイオキシン結合ペプチドにNBD標識ジクロロフェノールを結合させておき、蛍光発光によって識別できるようにしておく。その後、NBD標識ジクロロフェノールが結合した本発明のダイオキシン結合ペプチドとダイオキシンを含み得る被験試料を混合する。ダイオキシンは、3,4−ジクロロフェノールと同等の結合力を有する。このため、3,4−ジクロロフェノールに対して、競合的にダイオキシンが本発明のダイオキシン結合ペプチドに結合する。標識されたNBD標識ジクロロフェノールが本発明のダイオキシン結合ペプチドから解離することで蛍光が消光し、被験試料中にダイオキシンが存在することがわかる(図2参照)。
本発明の検出又は定量方法において、オリゴペプチド、標識化ダミー及びダイオキシンを含み得る被験試料を混合する順序は、特に限定されない。従って、ダイオキシンを含み得る被験試料と本発明のダイオキシン結合ペプチドを先に混合し、その後標識化ダミーを混合してもよく、又は全てを同時に混合してもよい。
本発明のダイオキシン検出又は定量方法の一例として、ダイオキシンを含み得る被験試料(図1中▲2▼)及び1μMの標識化ダミー(図1▲1▼のNBD標識ジクロロフェノール)各1μLに対し、ペプチド固定化担体(図1中▲3▼のダイオキシン結合ペプチドビーズ)3個程度を、20〜30%1,4−ジオキサンを含む10mMリン酸緩衝液(pH8)1mL中にて反応させた後、標識化ダミーの量を検出又は定量する方法があげられる(図1参照)。
また、本発明のペプチド固定化担体(例えば、ビーズ等)をカラムに充填しておき、前記被験試料をカラムに通すことで担体と接触させる方法をとることも可能であるが、これに限定されない。
ビーズの形態である本発明のペプチド固定化担体を測定に用いた場合、例えば、ダイオキシンを含み得る被験試料及び1μMの標識化ダミー各1mLに対し、置換率0.1〜10mmol/g、粒径10〜150μmのビーズであれば、1〜15個程度、好ましくは1〜10個程度使用することが好ましい。また、該ビーズ上に、100〜300μmol/g程度のペプチドが合成されていることが望ましい。
ダイオキシン検出又は定量に使用される本発明のダイオキシン結合ペプチド、標識物質、標識化される化合物の種類及びスペーサーの種類の組み合わせは、特に限定されないが、例えば、配列番号3に示されるDB2のオリゴペプチドを使用して、ダイオキシンを検出又は定量する場合、ポリエチレンオキサイド鎖からなるスペーサーを介してビーズ上でDB2オリゴペプチドを固相合成したものを用いることが好ましく、標識化ダミーとしてNBDで標識された3,4−ジクロロフェノールを使用することができる。
また、溶媒としては、1,4−ジオキサンをはじめとする有機溶媒を使用することができ、例えば1,3−ジオキサン、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン等があげられる。例えば、1,4−ジオキサンを用いた場合、1,4−ジオキサンを10〜50%程度、好ましくは20〜30%程度含むリン酸緩衝溶液を使用できる。
標識化ダミーの検出又は定量方法は、特に限定されないが、蛍光標識又は色素染色によって染色した場合等は、顕微鏡画像を記録して行うことができる。他の標識物質を用いた場合は、それぞれに適した方法で測定すればよい。蛍光物質で標識した場合には、蛍光測定装置等を用いて上清中に存在する結合できなかった標識体の蛍光量を測定することによって標識化ダミーの量を検出又は定量することもできる。
このとき、濃度既知サンプルを用いて検量線を設定することにより、ダイオキシンを定量することができる。また、本発明の実施例に記載される競合消光の結果(図6)は、ダイオキシン定量における検量線として、オンビーズ蛍光競合消光を用いた定量に利用することができる。定量の際、明らかな競合消光を定量するための染色時間は、12〜30時間程度、好ましくは15〜30時間程度である。
[ダイオキシンの取得方法]
本発明に係るダイオキシン結合能を有するオリゴペプチドを、ダイオキシンの定量及び分析のための簡便な前処理におけるダイオキシン結合材料として使用することができる。また、ダイオキシンの取得に使用することもできる。
本発明によるダイオキシンの取得は、適当な溶媒にダイオキシンを含み得る被験試料を溶解させ、そこに本発明に係るオリゴペプチドを有する担体を加えて所定時間、室温にてインキュベーションすることにより、該担体にダイオキシンを結合させた後、適当な溶媒を用いてダイオキシンを担体から分離、回収することにより行われる。本発明のダイオキシン結合ペプチドを用いてダイオキシンの取得を行うことで、被験試料からダイオキシンを選択的に除去することが可能である。ダイオキシンの取得は、ガスクロマトグラフィー質量分析計で溶液中の残存量を測定することによって、確認が可能である。
ダイオキシンの取得において、ダイオキシンをペプチド固定化担体から分離するための溶媒としては、1,4−ジオキサンをはじめとする有機溶媒を使用することができ、例えば1,3−ジオキサン、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン等があげられる。ペプチド固定化担体からダイオキシンを分離するために使用する溶媒の濃度は、50〜100%程度、好ましくは80〜100%程度、より好ましくは100%程度である。
一例として、30%1,4−ジオキサンを含む10mMリン酸緩衝液(pH8)を用いて調製したダイオキシンを含み得る被験試料溶液100μLをガラスバイアルに用意し、この溶液に、本発明のペプチド固定化担体としてダイオキシン結合ビーズ100個程度を加え、10時間、室温にて穏やかに振とうさせながらインキュベーションすることによって、ダイオキシンを該ビーズに結合させる方法があげられる。
ダイオキシンの取得にペプチド固定化担体としてビーズを用いた場合、30%1,4−ジオキサンを含む10mMリン酸緩衝液(pH8)を用いて調製したダイオキシンを含み得る被験試料溶液100μlに対し、置換率0.1〜10mmol/g、粒径1〜150μmのビーズであれば、ダイオキシン結合ビーズの使用数は、50〜500個程度、好ましくは50〜300個程度使用することが好ましい。また、該ビーズ上に100〜300μmol/g程度のダイオキシン結合ペプチドが合成されていることが望ましい。
該ビーズと被験試料を含む溶液をインキュベーションする時間は、5〜20時間程度、好ましくは10時間程度である。
また、本発明に係るダイオキシン結合ペプチドを、ダイオキシンの定量及び分析の前処理に使用することもできる。ダイオキシン結合ペプチドを用いて前処理を行うことにより、夾雑物質を含む被験試料からダイオキシンを分離することができ、後の定量及び分析の操作に対する夾雑物質の影響を防ぐことができる。また、被験試料中のダイオキシンの有無を、簡易に確認することができる。
本発明のダイオキシン結合ペプチドは、ダイオキシンに対して高い選択性を有するため、夾雑物質を含む被験物質中のダイオキシンを検出又は定量をすることができる。また、本発明のダイオキシン結合ペプチドによれば、夾雑物質が含まれる被験物質からダイオキシンを選択的に取得することが可能であり、ダイオキシンの定量、分析の簡便な前処理にも利用できる。
本発明のダイオキシン結合ペプチドは、ペプチド化学合成法によって作製でき、従来よりもコストを低くすることができる。さらに、本発明のダイオキシン結合ペプチドを使用する場合、前処理等の必要がなく、迅速かつ簡便にダイオキシンの検出又は定量を行うことが可能である。
【図面の簡単な説明】
図1:図1は、ダイオキシン検出又は定量の工程を示す。
図2:図2は、ダイオキシン結合ペプチドのスクリーニングの工程を示す。
図3:図3は、NBD標識ジクロロフェノール、2,3,7,−TriCDD及び2,3,7,8−TeCDDの構造を示す。
図4:図4は、蛍光染色されたダイオキシン結合ビーズの蛍光顕微鏡画像を示す。図中、円形のものが蛍光染色されたダイオキシン結合ビーズである。
図5:図5は、配列番号3に示されるDB2ペプチドのオンビーズ競合消光試験の結果を示す。表中、円形のものが蛍光染色されたダイオキシン結合ビーズである。
図6:図6は、30%1,4−ジオキサンを含む溶媒中で行った、配列番号3に示されるDB2ペプチドのオンビーズ競合消光試験の結果を示す。ビーズの蛍光強度をグラフ(A)、ビーズの消光率をグラフ(B)に表す。図中の●は2,3,7,8−TeCDD、○は2,3,7−TriCDDの試験結果を示す。
図7:図7は、ダイオキシン濃度と蛍光染色及び競合消光にかかる時間の関係をグラフに表す。2,3,7−TriCDD濃度は10nMである。図中の●は10nM NBD標識ジクロロフェノール、▲は5nM NBD標識ジクロロフェノール、■は1nM NBD標識ジクロロフェノール、NBD標識ジクロロフェノールのみを実線、上記濃度で2,3,7−TriCDDを混合したものを破線で示す。
図8:図8は、アミノ酸置換体ライブラリの置換アミノ酸側鎖構造を示す。
図9:図9は、アミノ酸置換体ライブラリのNBD標識ジクロロフェノールによる染色度合いをグラフに表す。
図10:図10は、1残基置換体についてダイオキシン結合能をオンビーズ競合消光法により評価した結果を示す。1Chaは配列番号5、5Phgは配列番号22、5Leuは配列番号23、5Nvaは配列番号24のペプチドである。
図11:図11は、オンビーズ競合消光法により特異性を評価した際に用いた、被験試料の構造を示す。
図12:図12は、30%1,4−ジオキサン溶媒で、配列番号3に示されるDB2ペプチドと同等もしくはそれ以上の2,3,7,8−TeCDD検出性能の認められた置換体及び配列番号2に示されるDB1ペプチドを用いたオンビーズ競合消光試験法による結合特異性試験の結果を示す。1Chaは配列番号5、5Phgは配列番号22、5Leuは配列番号23、5Nvaは配列番号24のペプチドである。グラフの横軸は、蛍光強度の減少値を表す。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
実施例1.ダイオキシン結合オリゴペプチドの取得
ペプチドライブラリーは、コンビナトリアルケミストリーの代表的な手法の1つであるスプリット&プール合成法を用いて、ペプチド固相合成用ビーズで構築したものを使用した。本方法により、ビーズ1つにつき1種類の配列のペプチドが合成される。スクリーニングは図2に示すように、2段階で行い、1次スクリーニングではダイオキシンと類似した構造を有する3,4−ジクロロフェノールを蛍光物質NBDで標識した複合体(図3)を用い、蛍光染色されるペプチドビーズの選択を行った。2次スクリーニングでは蛍光標識ジクロロフェノールにより染色されたペプチドビーズの中から、2,3,7−トリクロロダイベンゾダイオキシンの競合により蛍光消光するペプチドビーズ、すなわちダイオキシンに親和性のあるペプチドビーズを選択した。
スクリーニングには、5アミノ酸残基のペプチドの全配列組合せの数に等しい約250万個のペプチドビーズを用いた。1次スクリーニングは、4nM NBD標識ジクロロフェノールを含むスクリーニング用溶媒(20%1,4−ジオキサンを含む10mMリン酸緩衝液(pH8))中で行った。まず、上記の緩衝液20mLとペプチドビーズ約50mgを混合し、シャーレ中で、室温にて緩やかに振とうしながら一晩インキュベートした。蛍光顕微鏡で観察し、蛍光染色されたペプチドビーズをマイクロピペットにより分取した。このペプチドビーズを50%もしくは100%1,4−ジオキサンの入ったマイクロテストチューブへ移した後、室温にて一晩インキュベートし、50%もしくは100%1,4−ジオキサンで洗浄を行った。洗浄が不可能な、NBD標識ジクロロフェノールが非特異的に吸着したペプチドビーズは除外した。洗浄可能であったペプチドビーズを1nM NBD標識ジクロロフェノールで再染色した。蛍光強度測定のために、蛍光顕微鏡画像をデジタルカメラで記録した(図4)。
1nM NBD標識ジクロロフェノール及び、10nM又は100nMの2,3,7−トリクロロジベンゾ−p−ジオキシン(2,3,7−TriCDD)を含むスクリーニング用溶媒1mLに上記洗浄可能なペプチドビーズを投入した。室温にて緩やかに振とうしながら、一晩インキュベートした後、ガラス製シャーレに移して蛍光顕微鏡画像を記録した。上記の試験で記録した画像と比較し、消光するビーズを選択した。図5に示すようにNBD標識ジクロロフェノール(1nM)に対して10倍当量(10nM)の2,3,7−TriCDD競合条件において2個のペプチドビーズで消光が認められた。図5中のReferenceとは、一次スクリーニングにおいて蛍光染色されないと判断したビーズである。選択したビーズ上のペプチドのアミノ酸配列は、プロテインシーケンサーを用いて決定した。その結果、10nM 2,3,7−TriCDD競合で消光の確認されたダイオキシン結合ペプチドビーズのアミノ酸配列は、Phe−Leu−Asp−Gln−Ile及びPhe−Leu−Asp−Gln−Valであることが判明し、それぞれPhe−Leu−Asp−Gln−IleをDB1、Phe−Leu−Asp−Gln−ValをDB2とした。
実施例2.ダイオキシン結合ペプチドの結合能力の評価
ダイオキシン結合ペプチドビーズを用いて、ペプチドのダイオキシン結合能力を親和性及び特異性の観点から評価した。
[オンビーズ競合消光法]
4nM NBD標識ジクロロフェノール及び0〜100nMの被検物質を含むスクリーニング溶媒1mLをガラス製バイアル内で調製し、そこへダイオキシン結合ペプチドビーズ3個を投入した。緩やかに振とうしながら、室温にて一晩インキュベートした後、蛍光顕微鏡画像を記録した。記録した画像から各ビーズの平均輝度を算出した。平均輝度の算出は、画像解析・計測ソフトImage−Pro Plus(プラネトロン)を用いて行った。ダイオキシンと競合結合が起こる場合、濃度に依存してビーズの蛍光強度(平均輝度)が減少する。このビーズの消光現象により、ダイオキシン濃度を測定する方法を“オンビーズ競合消光法”と命名した。
DB2ペプチドについて、オンビーズ競合消光法により、ダイオキシンとの親和性を評価した。図6は、30%の1,4−ジオキサンを含む溶媒中で試験した結果である。ダイオキシン濃度と平均輝度の関係プロットしたものが、図6Aである。このように競合結合に特徴的な右肩下がりのシグモイドカーブが得られる。これを競合ELISA法で一般的に用いられる経験式である4係数のlogistic曲線の式y=(a−d)/(1+(x/c))+dを用いてフィッティングを行ってある(酵素免疫測定法(第3版)石川栄治著、医学書院)。2,3,7−TriCDD、2,3,7,8−TeCDDともに濃度依存的な消光が認められ、30%1,4−ジオキサン条件において、1nM(約0.3ng/mL)の2,3,7,8−TeCDDの検出が可能であることが示された。
また、図6Bに平均輝度の値から各ビーズの消光率をプロットしたグラフを示す。消光率は下記の式により算出した。消光率の値により、被検物質との親和性を評価した。

上記の結果を用いて、DB2ペプチドの結合定数を算出した。以下に示されるレセプター・リガンドの1:1結合の理論式に基づくフィッティングを行った。
Y=((Ymax/2e−9)(1/2)((2e−9+X1e−9+1/Ka)−((2e−9+X1e−9+1/Ka)2−42e−91e−9)0.5))−Ymin
Ka(結合定数)=10(2,3,7,8−TeCDD)、10(2,3,7−TriCDD)
Ymax(消光率の最大値)=0.25(2,3,7,8−TeCDD)、0.25(2,3,7−TriCDD)
Ymin(消光率の最小値)=−0.01(2,3,7,8−TeCDD)、−0.02(2,3,7−TriCDD)
上記初期値でフィッティングを行った結果、2,3,7,8−TeCDDで1.7×10−1、2,3,7−TriCDDで2.0×10−1であり、高い親和性が示された。
実施例3.オンビーズ競合消光法によるダイオキシン検出方法
濃度既知サンプル(1μL)を1μMのNBD標識ジクロロフェノール(1μL)及びダイオキシン結合ペプチドビーズ(3個)と共に20〜30%1,4−ジオキサンを含む10mMリン酸緩衝液(pH8)1mL中にて反応させた後、ビーズの蛍光顕微画像を記録し、検量線を設定した。
次に、被験物を標識化ジクロロフェノール及びダイオキシン結合ビーズと反応させ、得られた結果を検量線と比較することで被験物中のダイオキシン濃度を求めた。
図6に示す競合消光の結果は、ダイオキシン検出における検量線であると考えることができ、オンビーズ蛍光競合消光を用いた検出に利用出来る。
図7に、染色にかかる時間を示した。10nMの2,3,7−TriCDDに対して1〜10nMのNBD標識ジクロロフェノールの競合させた結果、明らかな消光を検出するには15時間以上のインキュベーションが必要であることが示された。
実施例4.ダイオキシン結合ペプチドの配列の解析
取得されたオリゴペプチドに対して、各アミノ酸の重要性を評価し、配列の最適化を行うために、図8に示す1アミノ酸置換体ライブラリ21種を構築した。置換アミノ酸は、オリジナルアミノ酸の特徴に類似したものを非天然アミノ酸も含めて使用した。この21種にDB1及びDB2を加えた23種類のペプチドを用いてNBD標識ジクロロフェノールによる染色、ダイオキシン結合による消光を指標とし、評価を行った。DB1及びDB2以外の21種類のアミノ酸置換体の全配列は、表1に示される。表1のアミノ酸配列は、配列表において表中の対応する配列番号で示される。

図9に示すように、アラニンをはじめとする全ての試験アミノ酸置換体において、全く蛍光染色出来ないことから、2,3,4残基目のアミノ酸ロイシン、アスパラギン酸、グルタミンが結合に重要な役割を担っていることが分かった。30%1,4−ジオキサン条件では、1残基目のフェニルアラニンは、1−ナフチルアラニン、シクロヘキシルアラニンに変更が可能であった。5残基目のバリン又はイソロイシンは、ロイシン、フェニルグリシンに変更可能であった。30%1,4−ジオキサン条件では5残基目はノルバリンでも変更が可能であった。
実施例5.四塩素化ダイオキシン検出に適した配列
30%1,4−ジオキサン溶媒条件で実施例2に記載のオンビーズ競合消光法による試験を行ったところ、1残基目であるN末端アミノ酸をシクロヘキシルアラニン(配列番号5)に置換したペプチド、5残基目をフェニルグリシン(配列番号22:5Phg)、ロイシン(配列番号23:5Leu)、ノルバリン(配列番号24:5Nva)に置換したペプチドでは、DB2ペプチド(配列番号3)と同等又はそれ以上の染色輝度が確認された(図10)。これら、計4種類の1残基置換体についてダイオキシン結合能をオンビーズ競合消光法により評価した結果、5Phg(配列番号22)では、0.15nM(0.05ng/mL)の2,3,7,8−TeCDDを検出可能であることが明らかとなり、検出感度はDB2に対して約10倍向上した。
実施例6.置換体の結合特異性の変化
オンビーズ競合消光法により、DB2ペプチドの特異性を評価した。評価に使用した被検物質の構造を図11に示した。
30%ジオキサン溶媒で、DB2と同等もしくはそれ以上の2,3,7,8−TeCDD検出性能の認められた4種の置換体(配列番号5、22、23及び24)とDB1(配列番号2)を用いて、オンビーズ競合消光試験により結合特異性を評価した。被検物質は、ダイオキシン類異性体及びその他の物質、計20物質とし、被検物質添加時の蛍光強度から被検物質なしの最大蛍光強度を差し引いた「蛍光強度変化量」を示した(図12)。蛍光強度の変化量が大きいほど、その物質に対する親和性が高いことを示している。置換体は、DB2と同様に、毒性等価係数(TEF)を有するダイオキシン類のみならず、アミノ酸置換による結合特異性の変化が認められた。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】

【図12】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I):

[Aは、環状基を持つ側鎖を有する疎水性アミノ酸残基であり、Aは、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を有する疎水性アミノ酸残基を示す。nは、0又は1である。Xはアミノ酸残基を表す。]で表されるオリゴペプチド。
【請求項2】
2以上の式(I)に記載されるオリゴペプチド繰り返し単位を、必要に応じてスペーサーを介して連結してなる複合ペプチド。
【請求項3】
請求項1に記載されるオリゴペプチドのC末端に、リンカーを結合させてなるオリゴペプチド複合体。
【請求項4】
が下記式(II):

[Rは、環状基を表す。Zは、水素原子、アルキル基又はアシル基を表す。]で表される、請求項1に記載されるオリゴペプチド。
【請求項5】
が、フェニルアラニン、1−ナフチルアラニン又はシクロヘキシルアラニンである請求項1に記載されるオリゴペプチド。
【請求項6】
が下記式(III):

[Rは、アルキル基又はアリール基である。]で表される請求項1に記載されるオリゴペプチド。
【請求項7】
が、バリン、ノルバリン、ロイシン又はフェニルグリシンである請求項1に記載されるオリゴペプチド。
【請求項8】
Phe−Leu−Asp−Gln−Ileである、請求項1に記載されるオリゴペプチド。
【請求項9】
Phe−Leu−Asp−Gln−Valである、請求項1に記載されるオリゴペプチド。
【請求項10】
Phe−Leu−Asp−Gln−Phgである、請求項1に記載されるオリゴペプチド(式中Phgは、フェニルグリシン残基を示す)。
【請求項11】
ダイオキシンの検出又は定量のための請求項1〜10のいずれかに記載されるオリゴペプチド、複合ペプチド又はオリゴペプチド複合体の使用。
【請求項12】
請求項1〜10のいずれかに記載されるオリゴペプチド、複合ペプチド又はオリゴペプチド複合体を担体に結合したペプチド固定化担体。
【請求項13】
担体がビーズである請求項12に記載のペプチド固定化担体。
【請求項14】
以下の工程
(1)請求項12に記載されるペプチド固定化担体に、ダイオキシンを含み得る被験試料と標識化ダミーを接触させる工程、
(2)前記工程(1)において得られた担体と結合した標識化ダミーの量に基づいて、ダイオキシンを検出又は定量する工程
を含むダイオキシンの検出又は定量方法。
【請求項15】
標識化ダミーが、NBD標識3,4−ジクロロフェノールである請求項14に記載される方法。
【請求項16】
以下の工程
(1)請求項12に記載されるペプチド固定化担体に、ダイオキシンを含む被験試料を接触させ、該担体にダイオキシンを結合させる工程、
(2)前記工程(1)において得られた該担体に結合したダイオキシンを、溶媒を用いて担体から分離する工程
を含むダイオキシンを取得する方法。

【国際公開番号】WO2005/035554
【国際公開日】平成17年4月21日(2005.4.21)
【発行日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−514522(P2005−514522)
【国際出願番号】PCT/IB2004/003204
【国際出願日】平成16年10月1日(2004.10.1)
【出願人】(000223104)東和科学株式会社 (9)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】