説明

ダイオキシン類と重金属類の同時処理剤および処理方法

【課題】有害物質を取り扱うことなく、加熱装置を必要とすることなく、一剤で飛灰等の固体廃棄物中のダイオキシン類および重金属類を同時処理することができ、従って、薬注設備の削減も可能な処理剤および処理方法を提供する。
【解決手段】熱により重合し、固体廃棄物表面をコーティングする薬剤を含む固体廃棄物中のダイオキシン類と重金属類の同時処理剤。この処理剤を、焼却炉煙道のうち、炉室出口から集塵装置までの間に供給する飛灰中のダイオキシン類と重金属類の同時処理方法。加熱条件下において、飛灰等の固体廃棄物表面にコーティング膜を形成することにより、固体廃棄物中のダイオキシン類および重金属類を閉じ込めてその毒性ないし溶出を低減することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイオキシン類および重金属類を含有する固体廃棄物、特に都市ごみ焼却炉、ガス化溶融炉、産業廃棄物焼却炉、医療廃棄物焼却炉等の焼却炉飛灰等の固体廃棄物に含まれるダイオキシン類と重金属類とを同時に処理する処理剤とこの処理剤を用いた処理方法に関する。
【0002】
本発明によれば、特に飛灰中の重金属類とダイオキシン類(ポリ塩素化ジベンゾ−p−ジオキシン類、ポリ塩素化ジベンゾフラン、コプラナーPCB類、ポリ臭素化ジベンゾ−p−ジオキシン類、ポリ臭素化ジベンゾフラン等)の同時処理が可能となり、安価かつ確実に飛灰を処理することができる。
【背景技術】
【0003】
都市ごみや産業廃棄物などの廃棄物焼却炉から発生する飛灰には、極めて毒性の高いダイオキシン類や鉛、カドミウム、六価クロム等の重金属類が含まれる。従って、飛灰の排出に際しては、これら有害物質に関する規制値をクリアするように処理を行う必要がある。
【0004】
従来、薬剤を用いた飛灰等のダイオキシン類の処理技術としては、次のような方法が提案されているが、それぞれ欠点を有し、また、ダイオキシン類と共に重金属類をも処理し得る方法ではない。
(1) アミン系化合物の存在下に飛灰を加熱処理する方法(特開平4−241880号公報)。この方法は、十分な効果を得るためには300〜500℃の加熱装置を必要とする。
(2) 酸化鉄、水酸化鉄を含む触媒を排ガスと接触させ、集塵する方法(特開2001−079352号公報)。この方法は、固体と固体との反応になるため、接触効率が悪く、その結果ダイオキシン類の低減効率も悪い。
(3) ダイオキシン類を含む固体廃棄物をホスフィン類と接触させる方法(特開2000−51659号公報)。この方法で使用されるホスフィン類は有害物質であり、取扱いに注意を要する。
【0005】
一方、薬剤による飛灰中の重金属類の処理技術としては、リン酸化合物やキレート剤等の重金属固定化剤を用いた重金属固定処理が行われているが、いずれも飛灰中のダイオキシン類に対しては効果がない。
【特許文献1】特開平4−241880号公報
【特許文献2】特開2001−079352号公報
【特許文献3】特開2000−51659号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように、従来においては、飛灰等のダイオキシン類および重金属類を含有する固体廃棄物に含まれるダイオキシン類および重金属類を同時に処理し得る実用的な技術は提供されていない。このため、ダイオキシン類および重金属類を処理するためには、各々の処理薬剤を添加する必要があり、多数の薬注機器が必要になるという問題があった。また、特にダイオキシン類の処理においては、別途加熱装置を必要とする、有害物質を取り扱う、といった問題もあった。
【0007】
従って、本発明は有害物質を取り扱うことなく、また、加熱装置を必要とすることなく、一剤で飛灰等の固体廃棄物中のダイオキシン類および重金属類を同時処理することができ、従って、薬注設備の削減が可能な処理剤および処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明(請求項1)の固体廃棄物中のダイオキシン類と重金属類の同時処理剤は、熱により重合し、固体廃棄物表面をコーティングする薬剤を含むことを特徴とする。
【0009】
請求項2の固体廃棄物中のダイオキシン類と重金属類の同時処理剤は、請求項1において、前記薬剤はホルムアルデヒドと共重合することにより、前記固体廃棄物表面をコーティングする薬剤であることを特徴とする。
【0010】
請求項3の固体廃棄物中のダイオキシン類と重金属類の同時処理剤は、請求項1または2において、前記薬剤がメラミンであることを特徴とする。
【0011】
請求項4の固体廃棄物中のダイオキシン類と重金属類の同時処理剤は、請求項1ないし3のいずれか1項において、脱酸剤を含むことを特徴とする。
【0012】
請求項5の固体廃棄物中のダイオキシン類と重金属類の同時処理剤は、請求項4において、脱酸剤が、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、炭酸カリウムおよび炭酸水素カリウムよりなる群から選ばれる1種または2種以上であることを特徴とする。
【0013】
本発明(請求項6)の飛灰中のダイオキシン類と重金属類の同時処理方法は、このような本発明の処理剤を、焼却炉煙道のうち、炉室出口から集塵装置までの間に供給することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
熱により重合し、固体廃棄物表面をコーティングする薬剤であれば、加熱条件下において、飛灰等の固体廃棄物表面にコーティング膜を形成することにより、固体廃棄物中のダイオキシン類および重金属類を閉じ込めてその毒性ないし溶出を低減することができる。この薬剤は、例えば焼却炉排ガス中のホルムアルデヒドや固体廃棄物表面に付着しているホルムアルデヒドと反応してコーティング膜を形成するメラミン等の安全な薬剤である。このため、本発明によれば、次のような優れた効果が奏される。
1) 一剤で固体廃棄物のダイオキシン類と重金属類を同時に処理することができる。
2) 1)より薬注設備は1基で済むため、イニシャルコストが小さく、省スペースも図れる。
3) 用いる薬剤および薬剤由来の生成物は無害であり、良好な作業性、安全性のもとに処理を行える。
4) 薬剤は焼却炉の炉室出口から集塵装置までの煙道に添加することもでき、この場合には加熱装置を必要としない。また、重金属類処理のための飛灰と重金属固定化剤との混練機を省くことも可能である。
【0015】
本発明の処理剤においては、更に脱酸剤を含有させることにより、焼却炉の酸性ガスの同時処理も可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に本発明の固体廃棄物中のダイオキシン類と重金属類の同時処理剤および処理方法の実施の形態を詳細に説明する。
【0017】
本発明の固体廃棄物中のダイオキシン類と重金属類の同時処理剤は、熱により重合し、固体廃棄物表面をコーティングする薬剤、即ち、加熱条件下に重合して固体廃棄物表面にコーティング膜を形成し得る薬剤(以下「コーティング性薬剤」と称す場合がある。)を含むものである。このコーティング性薬剤としては、熱により重合する薬剤、例えば4,5,7,8員環のオレフィン、3,4,5,7員環のエーテル、3,4員環のスルフィド、3,4員環のアミン、4〜12員環のジスルフィド、5,7〜17員環のホルマール、4,6,7員環のラクトン、4,5,7〜9員環のラクタム、6,7員環のカーボネート、5,7員環の尿素、6,7員環のウレタン及び7〜9員環の酸無水物等の環状モノマーやメラミン、12−ヒドロキシステアリン酸等が挙げられる。これらのコーティング性薬剤は、1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。特にこれらのうち、メラミンは、加熱条件下で下記の化学反応式に示す反応により、焼却炉排ガス中や固体廃棄物表面に存在しているホルムアルデヒドと共重合することにより固体廃棄物の表面にコーティング膜を形成するものであり、ダイオキシン類および重金属類の処理効果も高く、かつ安全性も高く、しかも安価であるため、好ましい。
【0018】
【化1】

【0019】
このような本発明の処理剤を、例えば、焼却炉煙道へ供給する処理剤として用いる場合、本発明の処理剤は、上記コーティング性薬剤と共に、脱酸剤を含むことが好ましく、この場合には、ダイオキシン類および重金属類の処理と共に、酸性ガスの処理を行うこともできる。
【0020】
この脱酸剤としては、焼却炉の排ガス処理に使用される汎用品でよく、例えば炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム等が挙げられる。これらの脱酸剤は、1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。特に、炭酸塩の場合には、捕集飛灰の洗浄による脱塩が容易であり、セメント原料へのリサイクルや最終処分のための減容化が期待でき、好ましい。
【0021】
また、前述のコーティング性薬剤のみでは、吸湿によりサイロや搬送設備内で固化したり、サイロ内でブリッジングやラットホール等の供給障害を起こす恐れがあるので、これを防止するために、流動性向上剤および/または吸湿防止剤を混合することもできる。これらの薬剤としては、ゼオライト、シリカゲル、フュームドシリカ、アルミナ等の1種または2種以上を挙げることができるが、これに限定されない。
【0022】
本発明の処理剤が脱酸剤や上述の流動性向上剤、吸湿防止剤を含む場合、流動性向上剤、吸湿防止剤については、その機能上予めコーティング性薬剤と混合されていることが好ましい。また、脱酸剤については、予めコーティング性薬剤と混合されていても良く、別々に供給されていても良い。ただし、本発明による一剤での同時処理による薬注設備の削減効果を十分に得るためには、脱酸剤とコーティング性薬剤とは予め混合されていることが好ましい。
【0023】
本発明の処理剤の使用方法には特に制限はなく、本発明の処理剤を被処理固体廃棄物と十分に混合して所定の温度に加熱する方法であっても良い。この場合、加熱温度は、コーティング性薬剤による重合でコーティング膜が形成される程度の温度であれば良く、用いるコーティング性薬剤によっても異なるが、通常140〜400℃、特に150〜250℃とすることが好ましい。この加熱温度が低すぎると十分なコーティング膜を形成し得ず、このため、ダイオキシン類および重金属類の処理効果が劣るものとなる。この加熱温度が高過ぎるとコーティング性薬剤が熱分解するため、好ましくない。
【0024】
被処理固体廃棄物に対する本発明の処理剤の添加量は、少な過ぎると十分な処理効果が得られず、多過ぎると薬剤コストが高くつき、また、廃棄物量が増大して好ましくない。従って、被処理固体廃棄物の性状に応じて目的の効果が得られるように適宜決定される。
【0025】
本発明の処理剤は、特に、焼却炉煙道のうち、炉室出口から集塵装置までの間に供給して、飛灰中のダイオキシン類および重金属類を同時処理する方法に有効に用いられる。この場合、前述と同様の理由から、本発明の処理剤は、焼却炉煙道の140〜400℃、特に150〜250℃の領域に供給することが好ましい。
【0026】
この場合、本発明の処理剤は、貯蔵用サイロ、切り出し装置、ブロワもしくはコンプレッサ、薬注ノズルといった簡便な設備で容易に薬注可能であり、工業的に非常に有利である。また、この薬注には、例えば既存の脱酸剤注入設備を利用して脱酸剤と共にコーティング性薬剤を薬注することもできる。
【0027】
供給された薬剤は煙道の熱によって重合ないし共重合し、飛灰表面をコーティングする結果、ダイオキシン類および重金属類は封鎖処理される。この場合、焼却炉煙道への本発明の処理剤の添加量は、排ガス量に対し、好ましくはコーティング性薬剤量として50〜500mg/Nmであるが、何らこの量に限定されるものではない。
【0028】
このようにして、本発明の処理剤を焼却炉煙道に供給している焼却炉で集塵された飛灰は、ダイオキシン類の処理のみならず、重金属類の溶出防止処理もなされているため、従来行われている集塵飛灰とリン酸化合物またはキレート剤といった重金属固定化剤との混合処理を不要とすることもでき、この結果、飛灰と薬剤との混練機を省略することも可能となる。
【実施例】
【0029】
以下に、実施例および比較例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例により何ら限定されるものではない。
【0030】
〈ダイオキシン類処理に関する試験〉
実施例1〜4、比較例1
耐熱るつぼに、表1に示す薬剤を0.01モル入れ(ただし、比較例1では薬剤を用いず。)、さらに飛灰3gを加えてよく混合した。このサンプルを、電気炉(ヤマト科学製、Muffle Furnace FP42)の中で200℃で60分間保持した。得られた処理物についてダイオキシン類のTEQ濃度を測定し、処理前の飛灰のTEQ濃度に対する低減率を調べ、結果を表1に示した。
【0031】
【表1】

【0032】
〈重金属類処理に関する試験〉
実施例5〜8、比較例2
耐熱るつぼに、表2に示す薬剤を0.1モル入れ(ただし、比較例2では薬剤を用いず。)、重金属溶出が顕著な飛灰30gを加えてよく混合した。このサンプルを、電気炉(ヤマト科学製、Muffle Furnace FP42)の中で200℃で60分間保持し、冷却後に環境庁告示13号試験を実施して、鉛およびカドミウムの溶出量を調べ、結果を表2に示した。なお、処理した飛灰について、そのまま環境庁告示13号試験を実施したところ、鉛およびその化合物の溶出量は528mg/L、カドミウムおよびその化合物の溶出量は0.05mg/L以下であった。表2には、この無処理の飛灰に対する鉛およびその化合物の溶出量の低減割合についても併記した。
【0033】
【表2】

【0034】
〈飛灰の表面コーティングを実証する試験〉
実施例9、比較例3
耐熱るつぼに、メラミン(1.26g、0.01mol)を入れ(ただし、比較例3ではメラミンを用いず。)、重金属溶出が顕著な飛灰3gを加えてよく混合した。このサンプルを、電気炉(ヤマト科学製、Muffle Furnace FP42)の中で200℃で60分間保持し、冷却後にSEM観察を行ったところ、図2に示す加熱のみでメラミンを加えない比較例3に比べて、図1に示すメラミンを加えて加熱した実施例9では、飛灰の表面がコーティングされ、飛灰粒子が凝結した様子が観察された。
【0035】
以上の結果から、本発明の処理剤によれば、飛灰等の固体廃棄物の表面にコーティング膜を形成してダイオキシン類および重金属類の放出を防止することができることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】実施例9におけるメラミン処理した飛灰のSEM写真である
【図2】比較例3におけるメラミン無処理の飛灰のSEM写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱により重合し、固体廃棄物表面をコーティングする薬剤を含むことを特徴とする固体廃棄物中のダイオキシン類と重金属類の同時処理剤。
【請求項2】
前記薬剤はホルムアルデヒドと共重合することにより、前記固体廃棄物表面をコーティングする薬剤であることを特徴とする請求項1に記載の固体廃棄物中のダイオキシン類と重金属類の同時処理剤。
【請求項3】
前記薬剤がメラミンであることを特徴とする請求項1または2に記載の固体廃棄物中のダイオキシン類と重金属類の同時処理剤。
【請求項4】
脱酸剤を含むことを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の固体廃棄物中のダイオキシン類と重金属類の同時処理剤。
【請求項5】
脱酸剤が、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、炭酸カリウムおよび炭酸水素カリウムよりなる群から選ばれる1種または2種以上であることを特徴とする請求項4に記載の固体廃棄物中のダイオキシン類と重金属類の同時処理剤。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項に記載の処理剤を、焼却炉煙道のうち、炉室出口から集塵装置までの間に供給することを特徴とする飛灰中のダイオキシン類と重金属類の同時処理方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2006−272169(P2006−272169A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−95220(P2005−95220)
【出願日】平成17年3月29日(2005.3.29)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】