説明

ダイナミック膝関節複合診断装置

【課題】体重を負荷した状態で膝を含んだ運動による膝関節情報と姿勢情報をリンクさせた、より日常行動に準じた状況での膝関節機能と姿勢制御機能を推測する多方面からの総合的診断法と装置を提供することを可能とする。
【解決手段】頭部の3次元変位を計測する頭位変位感知器1と、膝の3次元変位を計測する膝変位感知器2と、膝の角度を計測する膝角度感知器3と、前記頭位変位感知器1、膝変位感知器2、膝角度感知器3からそれぞれ計測される情報を処理する情報処理装置4とからなり、体重を負荷した起立位、及び膝の屈伸運動等時の変位計測と、膝関節の角度と膝のゆれの計測情報を情報処理装置4で処理し、膝関節を総合的に診断することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膝関節機能診断方法に関し、関節の機能を複合的に多方面から総合的に定量的に診断することができるシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
膝関節を調べる従来の方法としては、膝の角度を目視で測る方法が一般的であった。この例として例えば下記特許文献1がある。この技術では、人の膝関節の位置覚を検査するために、人の大腿と下腿の外側と内側に大腿支柱、下腿支柱が取り付けた支柱に大腿カフ、下腿カフを固定し、膝継ぎ手を軸心とする膝関節の角度を定量的に測定できるように工夫したものである。
【0003】
また、超音波を利用して膝関節の回旋角度を測定する膝関節回旋角度計測装置が、下記特許文献2に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−090082
【特許文献2】特開2009−045189
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、膝関節は、単に膝の角度を目視で計測、或いは特許文献2の技術に提案されているように、体重を負荷しないで、角度のみのひとつのパラメータを提示し,診断することのみではフィードフォワード機能しか求められない。膝関節の本来の機能である身体の円滑な移動機能、すなわち円滑な姿勢制御機能すなわちフィードバック機能を調べることは極めて困難であった。
【0006】
そこで、本発明では、円滑な姿勢制御機能すなわちフィードバック機能を有するダイナミック膝関節複合診断装置を提供することにある。即ち、体重を負荷した起立位で膝の屈伸運動中の姿勢保持に中心的な役割をする頭位の変位計測と、膝関節の角度と、膝のゆれデータとの、相関を計測する。そして、体重負荷における運動中の膝の曲がり具合と運動具合と身体姿勢制御機能、すなわち身体のゆれとの相関を解析し、日常行動中の膝関節機能と、姿勢制御機能を推測する多方面からの総合的に診断する装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する本発明の第一の観点に係るダイナミック膝関節複合診断装置は、頭部の3次元変位を計測する頭位変位感知器と、膝の3次元変位を計測する膝変位感知器と、膝の角度を計測する膝角度感知器と、前記頭位変位感知器、膝変位感知器、膝角度感知器からそれぞれ計測される情報を処理する情報処理装置とからなり、体重を負荷した起立位、及び膝の屈伸運動等時の、頭位の変位計測と、膝関節の角度と膝のゆれの計測情報を情報処理装置で処理し、膝関節を総合的に診断する。
【0008】
またこの観点においては、限定されるわけではないが、更に、情報処理装置の結果を表示する表示装置、又は印字装置を具備することが好ましい。
【0009】
またこの観点においては、限定されるわけではないが、更に、情報処理装置に処理アルゴリズムを常駐してなることを特徴とする。
【0010】
本発明は、第一の手段として、頭部の3次元変位を計測する頭位変位感知器、第二の手段として膝のゆれ感知計測する頭位変位感知器、第三の手段として膝の角度を計測する膝角度感知器、第四の手段としてこれらの装置を統合する情報処理装置からそれぞれ構成している。
【0011】
これらの手段により、まず、第一の手段である頭位変位感知器で、頭部の3次元変位を計測する頭変位感知器地球重力方向に抗して起立したときに頭部の前後変位と左右変位と鉛直方向の上下変位の3次元を測定し、この3次元の情報を取得する。そして、第二の手段である頭位変位感知器で、起立時、或いは屈曲時等の地球の重力方向に沿った鉛直方向と、前後方向と左右方向の3次元の膝情報を感知する位置情報を検知するものである。
また第三の手段として膝の角度を計測する膝角度感知器で、膝関節の角度情報を取得でき、前記第一、第二の手段で得た情報を,第四の手段の情報処理装置で処理し膝の正確な情報を正確に取得することが出来るように作用出来、以上の手段により、膝のダイナミック機能解析を、姿勢制御というフィードバックループの観点から、総合的診断が行える膝関節総合診断装置提供することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、体重を負荷した起立位で膝の屈伸運動中の姿勢保持に中心的な役割をする頭位の変位計測と、膝関節の角度と膝のゆれデータとの相関を計測するため、体重負荷における運動中の膝の曲がり具合と運動具合と身体姿勢制御機能すなわち身体のゆれとの相関を解析することが出来、日常行動中の膝関節機能と姿勢制御機能を推測する多方面から姿勢制御におけるダイナミック膝関節機能をヒトの生活行動面における日常行動に有機的に直結した診断ができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明のダイナミック膝関節複合診断装置の使用状態を示す概略説明図である。
【図2】本システムの構成を示す説明図である。
【図3】本装置におけるダイナミック膝関節複合診断装置の処理のフローを示す説明図である。
【図4】本システムにおける診断の測定手順について図4のフローを示す説明図である。
【図5】本システムにおける頭部変位感知器1と、膝位置変位感知器2と、膝角度変位感知器3とから信号入力測定結果の一例を示す説明図である。
【図6】本システムにおける膝変位センサーと膝角度センサーの解析結果の一例を示す説明図である。
【図7】本システムにおける頭位変位センサーと膝変位センサーの解析結果の一例を示す説明図である。
【図8】本システムにおける頭位変位センサーと膝変位センサーの解析結果の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について図面をもとに説明するが、本発明は多くの異なる形態による実施が可能であり、以下に示す実施形態の例示にのみ限定されるものではない。
【0015】
図1は本実施形態に係るダイナミック膝関節複合診断装置の概略図を示す。本図で示されるように、本実施の形態に係るダイナミック膝関節複合診断装置は、頭部変位感知器1と、膝位置変位感知器2と、膝角度変位感知器3とから信号入力をうけとり、この信号情報を処理する情報処理装置4とからなる。以下、これらについて詳述する。
【0016】
<頭部変位感知器1>
頭部変位感知器1は、診断を行おうとする者(以下単に「診断対象者」という。)の頭部に設け、起立したときに頭部の前後変位と左右変位と鉛直方向の上下変位の3次元データを測定するものである。
【0017】
頭部変位感知器1は、変位センサーを、帽子に装着した帽子タイプ、変位センサーをメガネに装着したメガネタイプ、或いは変位センサーを、カチューシャに装着したカチューシャタイプとして頭髪に固定するタイプとすることが考えられる。また、このようなものを使用せずに,直に頭皮に絆創膏、両面テープなどにして装着するものであってもかまわない。
【0018】
なお、変位センサーとしては、頭部の変位を感知することができる限りにおいて限定されず、公知のものを採用することができ、例えばピエゾ抵抗素子を有する3軸方向での加速度検出が可能な加速度センサーが好ましい。
【0019】
<膝位置変位感知器2>
膝位置変位感知器2は、膝の位置を測定する為のもので、頭部変位感知器1と同様に変位センサーを使用し、診断対象者の膝部の素肌に絆創膏、両面テープなど適宜手段で設けるが、頭部変位感知器1と同様に変位センサーを装着したバンドタイプを用い、衣類の上に装着しても良い。
【0020】
<膝角度変位感知器3>
膝角度変位感知器3は、起立時或いは起立位で膝の屈伸運動中の膝角度変位を測定するもので、図に示すように膝を挟んで設ける。具体的には、変位センサーを2個設け、それぞれのセンサーの変位量を計測して測定する。この膝角度変位感知器3は、膝位置変位感知器2と同様に診断対象者の膝部の素肌に絆創膏、両面テープなど適宜手段で設けるが、頭部変位感知器1と同様に変位センサーを装着したバンドタイプを用い、衣類の上に装着しても良い。なお、上記した頭部変位感知器1、膝位置変位感知器2、及び膝角度変位感知器3で得た測定信号の情報を処理する情報処理装置4との信号の信号転送は、有線でも無線等の適宜手段で行う。
【0021】
<情報処理装置4>
情報処理装置4は、上記した頭部変位感知器1と、膝位置変位感知器2と、膝角度変位感知器3とから得られた信号入力を処理する装置であり、図2に示すように、オペレーションシステム、診断のためのプログラム、診断の基準となるデータベース及び診断対象者の測定結果を格納する記憶装置40と、演算を行うCPU41と、記録媒体として機能し、高速処理及びリアルタイム報告を可能とするRAM42とで構成し、処理アルゴリズムを用いて処理を行う。
【0022】
また、この情報処理装置4には、図2、3に示すように、情報処理装置4の処理データを表示する表示装置5と、診断対象者の情報入力を受け付ける入力装置6と、印字装置7とが設けられており、これら情報処理装置4は、一体化的に構成することもできる。
【0023】
ここで、表示装置5は、情報処理装置4で処理したデータを表示するものであるが、診断を施行するもの(以下単に「診断施行者」という。)及び診断対象者に、様々な指示を表示することが出来る。例えば、この様々な指示としては、診断対象者への運動の指示が該当する。表示装置5の具体例としては通常市販されているディスプレイ装置を用いることができる。情報処理装置4は表示装置5に表示と同時に音声ガイド機能を兼ね備えることも望ましい。
【0024】
入力装置6としては、検査されるヒトの属性などの情報を入力するキーボード、またはカードリーダなどの情報入力装置を用いることが出来る。
【0025】
印字装置7は、情報処理装置4に接続されており、診断の結果を紙などの媒体に印刷して表示を行うものである。この印字装置としては市販されているプリンタが広く適用可能である。また、印字装置7は、表示装置5による表示のみで十分と判断されるような場合には、省略可能である。なお、表示装置5には、印字装置7を併せて設けても良いことは言うまでもない。
【0026】
次に、本装置を用いた操作手順について図3のフローを用いて説明する。
【0027】
まず、診断対象者に所定の位置に頭部変位感知器1と、膝位置変位感知器2と、膝角度変位感知器3をセットし、診断の準備をすると共に、入力装置6で診断対象者の情報等の属性を入力する(ステップ01、以下「S01」という。)。次いで、前記各部位からの測定データの入力をする(S02)。
【0028】
そして、前記したステップS02で得た数値を用いて,従来の蓄積したデータと比較して、膝の状態の診断を行う(S03)。診断を行った後、その結果の数値と障害部位と程度を推測して表示部(S04)に表示すると共に、印字装置5より紙などの媒体に印字すい(S05)、結果に応じて再度診断を繰り返すか,診断を終了する。
【0029】
診断施行者及び診断対象者はこの結果を参照することで診断結果を保持することができ、以後の治療等に役立てることができる。またこの際、各診断処理における結果についても後の治療診断に役立てるべく情報処理装置6内の記憶装置40に格納しておくことが望ましい。
【0030】
ここで、診断対象者に所定の位置に頭部変位感知器1と、膝位置変位感知器2と、膝角度変位感知器3の具体的な診断の測定手順について図4のフローを用いて説明する。
【0031】
本測定は、後述する各ステップごとに頭部変位感知器1、膝位置変位感知器2及び膝角度変位感知器3のそれぞれの測定値を測定し、情報処理装置4に測定値を送る。
【0032】
まず静止起立を一定時間保持することを指示する(S11)。静止起立保持時間はたとえば30秒以上1分以内が好ましい。
【0033】
次に連続して膝関節を屈曲指示する(S12)。曲げ具合は90度くらいが好ましいが、膝疾患の障害診断対象者や高齢な診断対象者は本人が可能なだけ屈曲してもらうだけでもよい。
【0034】
次に膝関節をその位置で保持指示する(S13)。
【0035】
次に膝伸展を指示し(S14)、膝関節伸展のまますなわち静止起立位を保持指示する(S15)。
【0036】
ここで、S15はS11と等価の指示でありこのS12からS15までの一連の動作を連続するよう指示する。このときマイペースで一定回数を行う指示と、出来るだけ早く連続運動を行う指示と、個々のステップでの保持動作を一定時間維持する指示など多種類の指示することがこのましい。たとえばマイペース指示とできるだけ全速ペースとできるだけゆっくりペースが好ましい。この中のできるだけゆっくりペースの極端な膝関節屈曲位保持も好ましい。
【0037】
以上、本実施形態によると、ダイナミック膝関節複合診断装置は、客観的に数値として定量的に膝の状態を客観的に診断できるダイナミック膝関節複合診断装置を提供することが可能となる。
【0038】
本発明の1実施例の実測例と解析方法を示す(図5〜8参照)。図5は実測例の一例を3段のグラフで示している。
【0039】
上段の3プロットは頭位変位感知器からの前後方向(中太線)と左右方向(細い線)と鉛直方向(太い線)の35秒間の加速度変化を示している。縦軸は加速度をGであらわし、横軸は10ミリ秒ごとに表している。
【0040】
中段のグラフは膝の変位感知器からの前後方向(太い線)と左右方向(細い線)と、鉛直方向(中太線)の加速度変化を示している。
【0041】
下段は膝関節の膝角度感知器からの角度変化を示している。なお、3段のグラフいずれも共通に、横軸400から2100まではマイペースで膝屈伸を指示しており、横軸2100から2900までは全速の膝の屈伸運動を指示し、横軸2400から3400までは膝屈曲のままの保持を指示している。
【0042】
次に解析結果について図6、7、8で示す。図6は膝の角度変化と頭位変位変化の相関係数を、マイペース、全速、屈曲保持の順に前後方向、左右方向、鉛直方向別に示している。マイペースでは相関係数0.59と鉛直方向にもっとも相関が強いことが確認できた。一方、全速では相関係数はきわめて低い結果であった。なお屈曲保持では頭位前後方向のゆれと鉛直方向のゆれとの相関が大きいことが確認できた。
【0043】
図7は膝の角度変化と膝変位変化の相関係数を、マイペース、全速、屈曲保持の順に前後方向、左右方向、鉛直方向別に示している。マイペースでは相関係数0.59と鉛直方向にもっとも相関が強いことが確認できた。一方、全速では相関係数はきわめて低い結果であった。なお屈曲保持では頭位前後方向のゆれと鉛直方向のゆれとの相関が大きいことが確認できた。
【0044】
また図8は頭位変位変化と膝変位変化の相関係数を、マイペース、全速、屈曲保持の順に前後方向、左右方向、鉛直方向別に示している。マイペースでは相関係数0.59と鉛直方向にもっとも相関が強いことが確認できた。一方全速では相関係数はきわめて低い結果であった。なお屈曲保持では頭位前後方向のゆれと鉛直方向のゆれとの相関が大きいことが確認できた。
【0045】
ここでは相関係数のみについて説明したが、頭位変位センサー情報と膝変位センサー情報と膝角度センサー情報の間における振動の振幅変数・周波数変数・位相変数を解析するフーリエ解析や伝達関数やコヒーレンス解析も好ましい。
【0046】
本実施形態に係るダイナミック膝関節複合診断装置によれば、体重を負荷した起立位で膝の屈伸運動中の姿勢保持に中心的な役割をする頭位の変位計測と、膝関節の角度と膝のゆれデータとの相関を計測するため、体重負荷における運動中の膝の曲がり具合と運動具合と身体姿勢制御機能すなわち身体のゆれとの相関を解析することができ、日常行動中の膝関節機能と姿勢制御機能を推測する多方面から姿勢制御におけるダイナミック膝関節機能をヒトの生活行動面における日常行動に有機的に直結した診断ができる。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明は、膝関節機能診断方法に関し、関節の機能を複合的に多方面から総合的に定量的に診断する膝関節複合診断装置に利用することが出来る。
【符号の説明】
【0048】
1…頭位変位感知器、2…膝変位感知器、3…膝角度感知器、4…情報処理装置、5…表示装置、6…入力装置、7…印字装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
頭部の3次元変位を計測する頭位変位感知器と、
膝の3次元変位を計測する膝変位感知器と、
膝の角度を計測する膝角度感知器と、
前記頭位変位感知器、膝変位感知器、膝角度感知器からそれぞれ計測される情報を処理する情報処理装置とからなり、
体重を負荷した起立位、及び膝の屈伸運動等時の変位計測と、膝関節の角度と膝のゆれの計測情報を情報処理装置で処理し、膝関節を総合的に診断することを特徴とするダイナミック膝関節複合診断装置。
【請求項2】
請求項1記載のダイナミック膝関節複合診断装置の情報処理装置の処理結果を表示する表示装置、又は印字装置を具備することを特徴とするダイナミック膝関節複合診断装置。
【請求項3】
前記情報処理装置に処理アルゴリズムを常駐してなることを特徴とする請求項2記載のダイナミック膝関節複合診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−110573(P2012−110573A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−263690(P2010−263690)
【出願日】平成22年11月26日(2010.11.26)
【出願人】(304021831)国立大学法人 千葉大学 (601)
【Fターム(参考)】