説明

ダイヤフラム型アキュムレータ

【課題】閉弁状態であっても、シェル内部に残留した液体を充分に排出することが可能なダイヤフラム型アキュムレータを提供することを課題とする。
【解決手段】ダイヤフラム型アキュムレータ1は、連通孔210と環状のシール面211とを有する中空状のシェル2と、外周縁がシール面211に固定されシェル2の内部で弾性変形可能なダイヤフラム本体30とポペット31とを有し、シェル2の内部空間を液体室Lと気体室Gとに区画するダイヤフラム3と、を備える。シェル2は、内周面のシール面211よりも連通孔210側に、連通孔210に向かって延在するリーク溝212を有する。ダイヤフラム型アキュムレータ1は、さらに、連通孔210に配置され、ポペット31が着離可能であって、内径側にリング連通孔40を、外周縁にリーク凹部41を、有するリークリング4を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車や産業機械の作動油の蓄圧などに用いられるダイヤフラム型アキュムレータに関する。
【背景技術】
【0002】
図10に、従来のダイヤフラム型アキュムレータの斜視断面図を示す。図10に示すように、ダイヤフラム型アキュムレータ100は、油圧回路103に分岐接続されている。ダイヤフラム型アキュムレータ100のシェル101内部には、ダイヤフラム102が配置されている。ダイヤフラム102により、シェル101内部は、気体室104と液体室105とに区画されている。
【0003】
気体室104には、圧縮気体が封入されている。一方、液体室105は油圧回路103と連通しており、液体室105には作動油が充填されている。液体室105の作動油は、気体室104の圧縮気体の圧縮力に抗するように所定の圧力を確保すべく、所定の位置まで、ダイヤフラム102を押し上げている。ダイヤフラム102の位置の変動、すなわち液体室105の作動油の増減により、ダイヤフラム型アキュムレータ100は、油圧回路103に対して、蓄圧機能を発揮している。
【0004】
ここで、油圧回路103を停止すると、油圧回路103の圧力が低下する。この場合、液体室105の作動油は、連通孔107を介して、油圧回路103に流出する。しかしながら、作動油の一部が、液体室105に残留する場合がある。図11に、図10のダイヤフラム型アキュムレータ100のダイヤフラム102下降時の斜視断面図を示す。図11に示すように、下降したダイヤフラム102のポペット106は、連通孔107の周縁に着座する(以下、この状態を、適宜、「閉弁状態」と称す)場合がある。ポペット106が連通孔107の周縁に着座すると、シェル101内部と油圧回路103との連通が遮断される。したがって、シェル101内部に、排出しきれなかった作動油L100(点線横ハッチングで示す)が、残留することになる。
【0005】
図11に示す停止状態から、再び図10に示す作動状態に復帰させると、油圧回路103から液体室105に、再び作動油が流れ込む。流れ込んだ作動油は、所定の圧力になるまで液体室105に充填される。
【0006】
しかしながら、図11に示すようにシェル101内部に残留した作動油L100がある場合、停止状態において、残留した作動油L100が、経時的に連通孔107側に流れ出し、見掛け上の圧力上昇が生じるおそれがある。このため、停止状態から作動状態への切り替えの際に、不具合が発生することも考えられる。
【0007】
また、閉弁状態で、例えば温度変化などによりポペット106と連通孔107周縁との間に微小な隙間が生じると、当該隙間を介して、残留した作動油L100が油圧回路103に勢いよく流出することになる。このため、ダイヤフラム102が作動油L100の流れに吸引されてしまう。また、ダイヤフラム型アキュムレータ100を油圧回路103から取り外す場合、残留した作動油L100が漏出するおそれがある。
【0008】
また、ダイヤフラム型アキュムレータ100を油圧回路103に取り付ける際、取付前の動作耐圧試験の段階で、既に、作動油L100がシェル101内部に残留していることも考えられる。この場合、取付後にセッティングされる気体室104が、当該残留した作動油L100分だけ小さくなり、その結果、気体封入圧が変化するおそれがある。
【特許文献1】実開平2−12502号公報
【特許文献2】特開2005−315297号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
この点、特許文献1には、ポペット着座部分の周囲にオイル孔を設けたブラダ型アキュムレータが紹介されている。特許文献1に記載のブラダ型アキュムレータによると、閉弁状態であっても、オイル孔を介して、シェル内部の作動油を排出することができる。このため、シェル内部に作動油が残留しにくい。しかしながら、例えば、特許文献2の[図3]、[図5]、[図7]、[図15]に示すように、ブラダと比較してダイヤフラムは、上下動時(弾性変形時)の挙動が不安定である。
【0010】
詳しく説明すると、ブラダ型アキュムレータの場合、ポペットが着座する際、袋状のブラダは、連通孔に遠い側から順にシェル内周面に貼り付いていく。このため、シェル内周面に沿って、液体室から連通孔に、作動油を追い込みやすい。したがって、閉弁状態であっても、本来、シェル内部に作動油が残りにくい。また、閉弁状態においてシェル内部に作動油が残留する場合であっても、作動油はブラダにより連通孔に集まるように追い込まれている。このため、作動油は、連通孔付近に残留することになる。
【0011】
これに対して、ダイヤフラム型アキュムレータの場合、ダイヤフラムは、気体室側に屈曲変形することにより、気体室の圧縮気体の圧力と、液体室の作動油の圧力と、の平衡状態を保っている。このため、ポペットが連通孔の周縁に着座するまでの動きは、一様ではない。すなわち、ポペットは、様々な動きにより、段階的に連通孔に近づいていく。したがって、ポペットが連通孔の周縁に着座する前に、ダイヤフラムの一部がシェル内周面に当接することで、シェル内部に作動油が残留してしまう場合がある。また、シェル内部の作動油の残留量に因らず、いきなりポペットが連通孔周縁に着座してしまう場合もある。このように、ダイヤフラム型アキュムレータの場合、閉弁状態においてシェル内部に作動油が残りやすい。また、シェル内部に作動油が残留する場合、作動油は連通孔付近のみならず、連通孔から離間した部位にも残留することになる。
【0012】
以上説明したように、ブラダ型アキュムレータとダイヤフラム型アキュムレータとでは、ポペット着座時におけるブラダとダイヤフラムとの挙動が異なるため、シェル内部の作動油の残留状況に相違がある。したがって、仮に特許文献1のオイル孔をダイヤフラム型アキュムレータに転用しても、閉弁状態においてシェル内部に残留した作動油を、充分に排出することは困難である。
【0013】
本発明のダイヤフラム型アキュムレータは、上記課題に鑑みて完成されたものである。したがって、本発明は、閉弁状態であっても、シェル内部に残留した作動油などの液体を、充分に排出することが可能なダイヤフラム型アキュムレータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
(1)上記課題を解決するため、本発明のダイヤフラム型アキュムレータは、内外方向に連通する連通孔と、内周面に配置される環状のシール面と、を有する中空状のシェルと、外周縁が該シール面に固定され該シェルの内部で弾性変形可能なダイヤフラム本体と、該ダイヤフラム本体の径方向略中央に配置されるポペットと、を有し、該シェルの内部空間を該連通孔および該ポペットが表出する液体室と該液体室に対して独立の気体室とに区画するダイヤフラムと、を備えてなるダイヤフラム型アキュムレータであって、前記シェルは、内周面の前記シール面よりも前記連通孔側に、該連通孔に向かって延在するリーク溝を有しており、さらに、該連通孔に配置され、前記ポペットが着離可能であって、内径側にリング連通孔を、外周縁にリーク凹部を、有するリークリングを備え、該ポペットが該リークリングに着座し該リング連通孔を封止しても、該リーク溝および該リーク凹部を介して、該シェルの内部から外部に、液体を導出可能なことを特徴とする(請求項1に対応)。
【0015】
本発明のダイヤフラム型アキュムレータのシェルは、リーク溝を有している。並びに、本発明のダイヤフラム型アキュムレータは、リークリングを有している。リーク溝は、シェル内周面に配置されている。また、リーク溝は、連通孔に向かって延在している。このため、閉弁状態であっても、シェル内部に残留した液体を、連通孔付近に集めることができる。並びに、リーク溝により集められた当該液体を、リークリングのリーク凹部を介して、充分に排出することができる。
【0016】
したがって、閉弁状態で、温度変化などにより、ポペットとリークリング(詳しくはリング連通孔の周縁)との間に微小な隙間が生じても、当該隙間を介して、シェル内部に残留した液体が勢いよく流出するおそれが小さい。すなわち、ダイヤフラムが液体の流れに吸引されるおそれが小さい。また、閉弁状態になる際、ダイヤフラムの様々な動きがあっても、シェル内部に液体が残留するのを抑制することができる。
【0017】
また、液体流路にダイヤフラム型アキュムレータを取り付ける際、取付前の動作耐圧試験の段階で液体がシェル内部に残留するおそれが小さい。このため、取付後にセッティングされる気体室が当該残留した液体分だけ小さくなり、気体封入圧が変化するおそれが小さい。また、リーク溝は、シール面には配置されていない。このため、シール面のリーク溝を介して、液体室と気体室とが連通するおそれがない。
【0018】
(2)好ましくは、上記(1)の構成において、前記リーク溝は、前記連通孔を中心とする放射状に四本以上配置されている構成とする方がよい(請求項2に対応)。本構成によると、連通孔を略中心とする全周的に、閉弁状態における液体の残留を抑制することができる。
【0019】
(3)好ましくは、上記(1)または(2)の構成において、前記連通孔は、前記シェルの内外方向に縮径する段差部を有しており、前記リークリングは、該段差部に係止されている構成とする方がよい(請求項3に対応)。本構成によると、リークリングを、連通孔に比較的簡単に配置することができる。また、リークリングが連通孔から脱落しにくい。
【0020】
(4)好ましくは、上記(1)ないし(3)のいずれかの構成において、前記リークリングは、樹脂製である構成とする方がよい(請求項4に対応)。本構成によると、樹脂を成形してリークリングを作製することができるので、リング連通孔やリーク凹部などの形状の作り込みが容易になる。また、リークリングの製造コスト延いてはダイヤフラム型アキュムレータの製造コストを削減することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によると、閉弁状態であっても、シェル内部に残留した液体を、充分に排出することが可能なダイヤフラム型アキュムレータを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明のダイヤフラム型アキュムレータを、自動車のパワーステアリングシステムに用いた実施の形態について説明する。
【0023】
<第一実施形態>
[ダイヤフラム型アキュムレータの構成]
まず、本実施形態のダイヤフラム型アキュムレータの構成について説明する。図1に、本実施形態のダイヤフラム型アキュムレータの合体斜視断面図を示す。図2に、同ダイヤフラム型アキュムレータの分解斜視断面図を示す。図3に、同ダイヤフラム型アキュムレータのダイヤフラムおよびクランプリングの分解斜視断面図を示す。
【0024】
図1、図2に示すように、本実施形態のダイヤフラム型アキュムレータ1は、油圧回路9に分岐接続されている。油圧回路9は、図示しないポンプと油圧装置との間に配置されている。本実施形態のダイヤフラム型アキュムレータ1は、シェル2とダイヤフラム3とリークリング4とポート継手5とクランプリング6を備えている。
【0025】
シェル2は、シェル頭部20とシェル底部21とを備えている。シェル頭部20は、鋼製であって、下方に開口する有底円筒状(カップ状)を呈している。シェル頭部20は、ボルトヘッド200を備えている。ボルトヘッド200は、鋼製であってシェル頭部20の上底壁上面の略中央に固定されている。ボルトヘッド200には、後述する気体室Gに、窒素ガスを封入するためのプラグ(図略)が配置されている。
【0026】
シェル底部21は、鋼製であって、上方に開口する有底円筒状を呈している。シェル底部21の開口縁とシェル頭部20の開口縁とは、溶接されている。シェル底部21は、連通孔210とシール面211(図2において点線縦ハッチングで示す)とリーク溝212とを備えている。連通孔210は、シェル底部21の底壁略中央に穿設されている。連通孔210は、下方に向かって縮径する段差部210aを有している。シール面211は、リング状を呈しており、シェル底部21の内周面開口縁付近に配置されている。シール面211には、後述するクランプリング6により、ダイヤフラム本体30の外周縁が圧着されている。リーク溝212は、シェル底部21の内周面に凹設されている。リーク溝212は、連通孔210を略中心として、所定間隔ごとに合計十八本、放射状に配置されている。リーク溝212の長手方向一端は、シール面211に干渉しないように、シール面211よりも下方に配置されている。リーク溝212の長手方向他端は、連通孔210の口縁に開放されている。
【0027】
ダイヤフラム3は、図3に示すように、ダイヤフラム本体30とポペット31とを備えている。ダイヤフラム本体30は、上方に開口する有底円筒状を呈している。ダイヤフラム本体30のカップ内面には、多数の環状のリブが形成されている。ダイヤフラム本体30は、ゴム層部30aと樹脂層部30bとを備えている。樹脂層部30bは、PA(ポリアミド樹脂)層とEVOH(エチレンビニルアルコール共重合樹脂)層とPA層とEVOH層とPA層とからなる、五層の積層構造を呈している。樹脂層部30bは、高いガスバリア性を有している。樹脂層部30bは、ゴム層部30a内部に埋設されている。樹脂層部30bは、ゴム層部30aに加硫接着されている。ダイヤフラム本体30の底壁下面略中央には、上方に盛り上がる突出部30cが形成されている。突出部30cは、下方に開口する有底円筒状を呈している。ポペット31は、ガラス入りのPA製であって、ダンベル状を呈している。ポペット31は、突出部30cの開口内に、圧入されている。
【0028】
クランプリング6は、鋼製であって、リング状を呈している。クランプリング6は、ダイヤフラム3の開口縁を内径側から覆っている。また、クランプリング6は、図2に示すように、シェル底部21の内周面開口縁付近に、ローラーにより加締め固定されている。
【0029】
ダイヤフラム3がシェル底部21に装着されることにより、シェル2内部は、上方の気体室Gと下方の液体室Lとに区画される。気体室Gには、前述したように、窒素ガスが圧入されている。一方、液体室Lには、作動油が収容されている。
【0030】
ポート継手5は、鋼製であって、上下方向に延びる円筒状を呈している。ポート継手5の上端は、シェル底部21の連通孔210の周縁に、溶接されている。ポート継手5の外周面には、雄ねじ部50が形成されている。雄ねじ部50により、ポート継手5つまりダイヤフラム型アキュムレータ1は、油圧回路9に分岐接続されている。
【0031】
リークリング4は、図2に示すように、樹脂製であって花形リング状を呈している。リークリング4は、シェル底部21の連通孔210の段差部210aに、上方から係止されている。リークリング4は、段差部210aの上方空間に収容されている。このため、リークリング4の上面とシェル底部21の底壁上面(内面)とは、略面一に滑らかに連続している。
【0032】
図4(a)に、本実施形態のダイヤフラム型アキュムレータ1のリークリング4の上面図を示す。図4(b)に、同リークリング4の軸方向断面図を示す。図4(c)に、同リークリング4の下面図を示す。リークリング4の径方向略中央には、リング連通孔40が開設されている。後述する閉弁状態においては、当該リング連通孔40を封止するように、ポペット31がリークリング4の上面に着座する。リークリング4の外周縁には、リーク凹部41が形成されている。リーク凹部41の径方向深さは、上方から下方に向かって、途中まで一定で、途中から深くなるように形成されている。リーク凹部41は、リング連通孔40を略中心として、略90°ずつ離間して、合計四つ配置されている。
【0033】
[組付方法]
次に、本実施形態のダイヤフラム型アキュムレータ1の組付方法について説明する。まず、シェル底部21の連通孔210周囲に、下方からポート継手5を溶接する。次いで、連通孔210に、上方からリークリング4を挿入する。そして、リークリング4を段差部210aに係止する。続いて、ダイヤフラム3をシェル底部21内径側に配置する。それから、ダイヤフラム3の内径側から、ローラーを用いて、クランプリング6を加締め固定する。その後、シェル底部21の上方からシェル頭部20を伏設し、シェル底部21の開口縁とシェル頭部20の開口縁とを、溶接する。このようにして、本実施形態のダイヤフラム型アキュムレータ1は組み付けられる。
【0034】
[閉弁状態における作動油の流れ]
次に、本実施形態のダイヤフラム型アキュムレータ1の閉弁状態における作動油の流れについて説明する。図5に、本実施形態のダイヤフラム型アキュムレータ1のシェル底部21の通常状態における斜視断面図を示す。図6に、同シェル底部21の閉弁状態における斜視断面図を示す。図7に、図6の円VIIの拡大図を示す。なお、図5、図6においては、説明の便宜上、ダイヤフラム3を透過して示す。また、図7においては、斜視断面図ではなく、平面断面図で示す。
【0035】
通常状態においては、図5に示すように、ポペット31は、リークリング4の上面から離間している。このため、主に、リング連通孔40を経由して、液体室Lと油圧回路9との間を作動油は循環する(前出図1参照)。
【0036】
例えば、油圧装置を停止する場合、シェル2内部の作動油は、リング連通孔40およびリーク凹部41を介して、ポート継手5内部に排出される。そして、閉弁状態になる。
【0037】
閉弁状態においては、図6に示すように、ポペット31は、リークリング4の上面に着座している。このため、リング連通孔40が封止されている。ここで、通常状態から閉弁状態に切り替わる際、ダイヤフラム3は左右に揺動しながら段階的にリング連通孔40に近づく。このため、液体室Lの作動油の残留量に因らず、いきなりポペット31がリークリング4の上面に着座してしまう場合もある。この場合、シェル2内部に作動油L1(図7において点線横ハッチングで示す)が残留してしまう。
【0038】
しかしながら、図7に示すように、シェル底部21の内周面には、リーク溝212が凹設されている。並びに、リークリング4には、リーク凹部41が形成されている。このため、シェル2内部のあらゆる部位に残留した作動油L1は、放射状に延在するリーク溝212を介して、連通孔210に流れ込む。連通孔210に流れ込んだ作動油L1は、リーク凹部41を介して、ポート継手5内部に流出する。このように、閉弁状態において、作動油L1は、シェル2内部→リーク溝212→リーク凹部41→ポート継手5内部という経路を辿り、油圧回路9に到達する。
【0039】
[作用効果]
次に、本実施形態のダイヤフラム型アキュムレータ1の作用効果について説明する。本実施形態のダイヤフラム型アキュムレータ1は、リーク溝212およびリーク凹部41を有している。このため、上述したように、閉弁状態であっても、シェル2内部のあらゆる部位に残留した作動油L1を、完全に排出することができる。
【0040】
したがって、閉弁状態で、温度変化などにより、ポペット31とリークリング4(詳しくはリング連通孔40の周縁)との間に微小な隙間が生じても、当該隙間を介して、シェル2内部に残留した作動油L1が勢いよく流出するおそれが小さい。すなわち、ダイヤフラム3が作動油L1の流れに吸引されるおそれが小さい。したがって、ダイヤフラム本体30のゴム層部30aが、損傷を受けるおそれが小さい。また、油圧回路9からダイヤフラム型アキュムレータ1を取り外す場合であっても、シェル2内部に作動油L1が残留しにくいので、取り外した後のシェル2の内部から作動油L1が漏出するおそれが小さい。
【0041】
また、油圧回路9にダイヤフラム型アキュムレータ1を取り付ける際、取付前の動作耐圧試験の段階で作動油L1がシェル2内部に残留するおそれが小さい。このため、取付後にセッティングされる気体室Gが当該残留した作動油L1分だけ小さくなり、窒素ガスの封入圧が変化するおそれが小さい。
【0042】
また、リーク溝212は、合計十八本、放射状に配置されている。このため、連通孔210を略中心とする全周的に、閉弁状態における作動油L1の残留を抑制することができる。
【0043】
また、リークリング4は、段差部210aに上方から係止されている。このため、リークリング4を、連通孔210に比較的簡単に配置することができる。また、リークリング4が連通孔210から脱落しにくい。
【0044】
また、リークリング4は、樹脂の射出成形品である。このため、リング連通孔40やリーク凹部41などの形状の作り込みが容易である。また、リークリング4の製造コスト延いてはダイヤフラム型アキュムレータ1の製造コストを削減することができる。
【0045】
また、本実施形態のダイヤフラム型アキュムレータ1によると、合計十八本のリーク溝212および合計四つのリーク凹部41が配置されている。このため、シェル2内部からポート継手5内部への作動油L1の流れを、分流化することができる。したがって、同じ流量を一対のリーク溝212およびリーク凹部41で確保する場合と比較して、流速を遅くすることができる。作動油L1の流速が遅いと、上述したように、閉弁状態において、リーク凹部41にダイヤフラム3が吸引されにくい。このため、ダイヤフラム本体30のゴム層部30aが損傷を受けるおそれが小さい。
【0046】
また、前出図4(a)に示すように、リーク凹部41の上端は、リーク凹部41の下端(図4(a)中、点線で示す。)よりも、径方向溝深さが浅い。この点においても、リーク凹部41にダイヤフラム3が吸引されるおそれが小さい。並びに、ポペット31が着座する際の、座面を確保しやすい。
【0047】
また、リーク溝212は、シール面211には配置されていない。このため、シール面211のリーク溝212を介して、液体室Lと気体室Gとが連通するおそれがない。また、ダイヤフラム本体30には、多数の環状のリブが形成されている。このため、リブを形成しない場合と比較して、上下動時のダイヤフラム3の揺動を抑制することができる。
【0048】
<第二実施形態>
本実施形態のダイヤフラム型アキュムレータと第一実施形態のダイヤフラム型アキュムレータとの相違点は、シェル内部におけるダイヤフラムの配置のみである。したがって、ここでは相違点についてのみ説明する。
【0049】
図8に、本実施形態のダイヤフラム型アキュムレータの合体斜視断面図を示す。なお、図1と対応する部位については、同じ符号で示す。図8に示すように、ダイヤフラム3には、環状のリブが形成されていない。また、ダイヤフラム3は、断面略W字状を呈している。すなわち、ダイヤフラム3の径方向中央部は上方に隆起しており、突出部30cはクランプリング6と略同じ高さに配置されている。
【0050】
本実施形態のダイヤフラム型アキュムレータ1と第一実施形態のダイヤフラム型アキュムレータとは、構成が共通する部分については、同様の作用効果を有する。また、本実施形態のダイヤフラム3は、リブを有していない。並びに、ダイヤフラム3は、略W字状を呈している。このため、ダイヤフラム3は、下降時に、さらに左右に揺動しやすい。したがって、閉弁状態において、シェル2内部に作動油が残留しやすい。
【0051】
しかしながら、本実施形態のダイヤフラム型アキュムレータ1のシェル底部21には、第一実施形態同様のリーク溝212が形成されている。並びに、本実施形態のダイヤフラム型アキュムレータ1は、第一実施形態同様のリークリング4を有している。このため、作動油の残留量が多い場合であっても、迅速にシェル2内部から作動油を排出することができる。
【0052】
<第三実施形態>
本実施形態のダイヤフラム型アキュムレータと第一実施形態のダイヤフラム型アキュムレータとの相違点は、シェル内部におけるダイヤフラムの形状のみである。したがって、ここでは相違点についてのみ説明する。
【0053】
図9に、本実施形態のダイヤフラム型アキュムレータの合体斜視断面図を示す。なお、図1と対応する部位については、同じ符号で示す。図9に示すように、ダイヤフラム3には、環状のリブが形成されていない。また、ダイヤフラム3は、平板部30dを備えている。平板部30dは、下方に縮径する平滑なテーパリング状を呈している。
【0054】
本実施形態のダイヤフラム型アキュムレータ1と第一実施形態のダイヤフラム型アキュムレータとは、構成が共通する部分については、同様の作用効果を有する。また、本実施形態のダイヤフラム3は、リブを有していない。このため、ダイヤフラム3は、下降時に、さらに左右に揺動しやすい。並びに、表面が平面状の平板部30dと、曲面状のシェル底部21内周面と、の間には、閉弁状態において隙間が形成されやすい。したがって、閉弁状態において、シェル2内部に作動油が残留しやすい。
【0055】
しかしながら、本実施形態のダイヤフラム型アキュムレータ1のシェル底部21には、第一実施形態同様のリーク溝212が形成されている。並びに、本実施形態のダイヤフラム型アキュムレータ1は、第一実施形態同様のリークリング4を有している。このため、作動油の残留量が多い場合であっても、迅速にシェル2内部から作動油を排出することができる。
【0056】
<その他>
以上、本発明のダイヤフラム型アキュムレータの実施の形態について説明した。しかしながら、実施の形態は上記形態に特に限定されるものではない。当業者が行いうる種々の変形的形態、改良的形態で実施することも可能である。
【0057】
例えば、上記実施形態においては、合計十八本のリーク溝212および合計四つのリーク凹部41を配置したが、リーク溝212およびリーク凹部41の配置数は特に限定しない。好ましくは、リーク溝212およびリーク凹部41の配置数は多い方がよい。こうすると、同一の流量を確保する際に、リーク溝212およびリーク凹部41各々一つあたりの流速を、より遅くすることができる。このため、よりリーク凹部41にダイヤフラム3が吸引されにくくなる。
【0058】
また、リーク溝212およびリーク凹部41の軌道も特に限定しない。例えば、リーク溝212を、連通孔210を中心とする渦巻状に配置してもよい。こうすると、リーク溝212の配置数が少ない場合であっても、連通孔210を略中心とする全周的に、閉弁状態における作動油の残留を抑制することができる。また、リーク溝212およびリーク凹部41の断面形状も特に限定しない。例えば、コ字状、C字状、V字状などであってもよい。
【0059】
また、リーク凹部41の径方向溝深さも特に限定しない。好ましくは、リーク凹部41の溝幅は、径方向溝深さよりも、大きい方がよい。すなわち、リーク凹部41は、浅い方が好ましい。こうすると、よりリーク凹部41にダイヤフラム3が吸引されにくくなる。
【0060】
また、上記実施形態においては、リークリング4を樹脂製としたが、材質は特に限定しない。例えば、金属製であってもよい。また、上記実施形態においては、本発明のダイヤフラム型アキュムレータをパワーステアリングシステムに用いたが、産業機械などに用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】第一実施形態のダイヤフラム型アキュムレータの合体斜視断面図である。
【図2】同ダイヤフラム型アキュムレータの分解斜視断面図である。
【図3】同ダイヤフラム型アキュムレータのダイヤフラムおよびクランプリングの分解斜視断面図である。
【図4】(a)は同ダイヤフラム型アキュムレータのリークリングの上面図である。(b)は同リークリングの軸方向断面図である。(c)は同リークリングの下面図である。
【図5】同ダイヤフラム型アキュムレータのシェル底部の通常状態における斜視断面図である。
【図6】同シェル底部の閉弁状態における斜視断面図である。
【図7】図6の円VIIの拡大図である。
【図8】第二実施形態のダイヤフラム型アキュムレータの合体斜視断面図である。
【図9】第三実施形態のダイヤフラム型アキュムレータの合体斜視断面図である。
【図10】従来のダイヤフラム型アキュムレータの斜視断面図である。
【図11】同ダイヤフラム型アキュムレータのダイヤフラム下降時の斜視断面図である。
【符号の説明】
【0062】
1:ダイヤフラム型アキュムレータ。
2:シェル、20:シェル頭部、200:ボルトヘッド、21:シェル底部、210:連通孔、210a:段差部、211:シール面、212:リーク溝。
3:ダイヤフラム、30:ダイヤフラム本体、30a:ゴム層部、30b:樹脂層部、30c:突出部、30d:平板部、31:ポペット。
4:リークリング、40:リング連通孔、41:リーク凹部。
5:ポート継手、50:雄ねじ部。
6:クランプリング。
9:油圧回路。
G:気体室、L:液体室、L1:作動油。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内外方向に連通する連通孔と、内周面に配置される環状のシール面と、を有する中空状のシェルと、
外周縁が該シール面に固定され該シェルの内部で弾性変形可能なダイヤフラム本体と、該ダイヤフラム本体の径方向略中央に配置されるポペットと、を有し、該シェルの内部空間を該連通孔および該ポペットが表出する液体室と該液体室に対して独立の気体室とに区画するダイヤフラムと、
を備えてなるダイヤフラム型アキュムレータであって、
前記シェルは、内周面の前記シール面よりも前記連通孔側に、該連通孔に向かって延在するリーク溝を有しており、
さらに、該連通孔に配置され、前記ポペットが着離可能であって、内径側にリング連通孔を、外周縁にリーク凹部を、有するリークリングを備え、
該ポペットが該リークリングに着座し該リング連通孔を封止しても、該リーク溝および該リーク凹部を介して、該シェルの内部から外部に、液体を導出可能なことを特徴とするダイヤフラム型アキュムレータ。
【請求項2】
前記リーク溝は、前記連通孔を中心とする放射状に四本以上配置されている請求項1に記載のダイヤフラム型アキュムレータ。
【請求項3】
前記連通孔は、前記シェルの内外方向に縮径する段差部を有しており、
前記リークリングは、該段差部に係止されている請求項1または請求項2に記載のダイヤフラム型アキュムレータ。
【請求項4】
前記リークリングは、樹脂製である請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のダイヤフラム型アキュムレータ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate