説明

ダクト用樹脂成形体

【課題】優れた静音化性能、寸法精度、耐熱性、及び難燃性を兼ね備えたダクト用樹脂成形体を提供する。
【解決手段】非晶性熱可塑性樹脂を含有し、23℃の温度条件下で、片端固定定常加振法において、半値幅法により測定した2次共振ピークの損失係数(η)が、0.04〜0.12である非晶性熱可塑性樹脂組成物により構成されているダクト用樹脂成形体を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダクト用樹脂成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶プロジェクター、複写機、プリンター、FAX、パソコン等の事務機器、テレビ、DVDプレーヤー、DVDレコーダー、CDプレーヤー、オーディオ、ゲーム機、エアコン、冷蔵庫等の家電機器には、製品内にランプ、ヒーター、モーター等の熱源を有しており、これらの熱源による製品の内部温度上昇を抑えるために、製品内部にはファンとダクトが設置されている。
近年、これら製品の小型化要求が高まっているが、小型化により製品内部温度が上昇する傾向が顕著となるため、製品内部に設置するファンとダクトの役割は非常に重要となっている。
【0003】
ここで、製品内部の冷却を目的として設置されるダクトとしては、ファンにつながる排気ダクト、吸気ダクトが主なものとして挙げられ、これらは、寸法精度、耐熱性、難燃性が要求されることから、従来においては、ハイインパクトポリスチレン樹脂(HIPS樹脂)、ABS樹脂、ポリカーボネート(PC)/ABSアロイ樹脂、PC樹脂、変性ポリフェニレンエーテル樹脂(変性PPE樹脂)等が一般的に用いられている。
【0004】
ところで、近年において、ユーザーの静かさを求める傾向や事務機の発生音量規制規格の強化等に伴い、機器の静音化の必要性が高まっており、機器を構成する部品の中で騒音源の1つであるダクト部の静音化を図ることが課題となっている。
さらに、熱源部の温度上昇により、熱源部付近に設置されるダクト部品の耐熱性を向上する必要性も生じているのが現状である。
【0005】
前記ダクト部の静音化を図る技術としては、ダクト部の構造やファンとダクトの接合方法を工夫することによって、発生音の低減化を図る方法が開示されている(例えば、特許文献1、2、3参照。)。
また、熱可塑性エラストマーを配合したポリプロピレン樹脂(PP樹脂)に、エラストマーと無機充填剤とを配合した制振性に優れる材料を、自動車用ダクト等に用いる技術が開示されている(例えば、特許文献4参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−21823号公報
【特許文献2】特開2009−181113号公報
【特許文献3】特開2004−44466号公報
【特許文献4】特開平5−59234号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1乃至3に開示されている技術においては、形状に制約があり、全て事務機器や家電機器に適応することは困難であり、コストアップにもつながるという課題がある。
【0008】
また、特許文献4に開示されている樹脂組成物(PP/熱可塑性エラストマー/無機充填剤)では、良好な寸法精度の成形体を得ることは困難であり、耐熱性の面でも十分とは言えない。
さらに、非ハロゲン系難燃剤を用いての難燃化は困難であるという課題も有しており、改良を図る余地がある。
【0009】
上述したように、従来において、静音化性能、寸法精度、耐熱性、及び難燃性の全て特性を満足するダクト用樹脂成形体は存在しておらず、開発の要求が高まっている。
そこで本発明においては、優れた静音化性能、寸法精度、耐熱性、及び難燃性を兼ね備えたダクト用樹脂成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記課題を解決するため鋭意検討した結果、非晶性熱可塑性樹脂を含有し、特定温度条件下で、片端固定定常加振法において、半値幅法により測定した2次共振ピークの損失係数(η)が所定の数値範囲内である非晶性熱可塑性を用いたダクト用樹脂成形体により、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は以下の通りである。
【0011】
〔1〕
非晶性熱可塑性樹脂を含有し、23℃の温度条件下で、片端固定定常加振法において、半値幅法により測定した2次共振ピークの損失係数(η)が、0.04〜0.12である非晶性熱可塑性樹脂組成物により構成されているダクト用樹脂成形体。
【0012】
〔2〕
ASTM−D648の、応力1.82MPaの条件で測定した荷重たわみ温度が、90℃以上である非晶性熱可塑性樹脂組成物により構成されている前記〔1〕に記載のダクト用樹脂成形体。
【0013】
〔3〕
前記非晶性熱可塑性樹脂組成物が、樹脂成分100質量部に対して、タルクを3〜30質量部含有する前記〔1〕又は〔2〕に記載のダクト用樹脂成形体。
【0014】
〔4〕
前記樹脂成分が、
前記非晶性熱可塑性樹脂:95〜70質量部と、
ビニル芳香族化合物重合体ブロックと、共役ジエン化合物重合体ブロック又は水添された共役ジエン化合物重合体ブロックとから構成されているブロック共重合体:5〜30質量部と、
を、含有する前記〔3〕に記載のダクト用樹脂成形体。
【0015】
〔5〕
前記樹脂成分が、
前記非晶性熱可塑性樹脂:94.5〜50質量部と、
ビニル芳香族化合物重合体ブロックと、共役ジエン化合物重合体ブロック又は水添された共役ジエン化合物重合体ブロックとから構成されているブロック共重合体:5〜30質量部と、
ポリオレフィン系化合物:0.1〜20質量部と、
を、含有する前記〔3〕に記載のダクト用樹脂成形体。
【0016】
〔6〕
前記非晶性熱可塑性樹脂が、ポリフェニレンエーテル系樹脂である前記〔1〕乃至〔5〕
のいずれか一に記載のダクト用樹脂成形体。
【0017】
〔7〕
前記樹脂成分が、
ポリフェニレンエーテル系樹脂:70〜90質量部と、
カップリング構造を有する、共役ジエン単量体単位とビニル芳香族単量体単位とからなるブロック共重合体を水素添加して得られる水添共重合体であって、かつ共役ジエン単量体単位とビニル芳香族単量体単位とからなる非水添のランダム共重合体ブロックを水素添加して得られる水添ランダム共重合体ブロックを有する水添共重合体:10〜30質量部と、
を、含有する前記〔3〕乃至〔6〕のいずれか一に記載のダクト用樹脂成形体。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、優れた静音化性能を示し、さらには寸法精度、耐熱性に優れ、難燃性付与も容易であるダクト用樹脂成形体が提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」と言う。)について詳細に説明する。
本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施できる。
【0020】
〔ダクト用樹脂成形体〕
本実施形態のダクト用樹脂成形体は、非晶性熱可塑性樹脂を含有し、23℃の温度条件下で、片端固定定常加振法において、半値幅法により測定した2次共振ピークの損失係数(η)が0.04〜0.12である非晶性熱可塑性樹脂組成物により構成されているダクト用樹脂成形体である。
【0021】
(非晶性熱可塑性樹脂組成物)
本実施形態のダクト用樹脂成形体は、非晶性熱可塑性樹脂組成物により形成されている。
非晶性熱可塑性樹脂組成物は、後述する樹脂成分、必要に応じてタルク及びその他の添加剤を含有している。
前記「樹脂成分」は、「非晶性熱可塑性樹脂」を必須の成分とし、その他、後述する樹脂材料を含んでいてもよい。
以下、これらの材料について説明する。
【0022】
[樹脂成分]
<非晶性熱可塑性樹脂>
非晶性熱可塑性樹脂としては、下記の例に限定されないが、例えば、ポリスチレン樹脂、ゴム補強のポリスチレン樹脂(ハイインパクト−ポリスチレン樹脂)、ABS樹脂等のスチレン系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリカーボネート樹脂/ABS樹脂アロイ、ポリカーボネート樹脂/ポリブチレンテレフタレート樹脂アロイ等のポリカーボネート系樹脂、変性ポリフェニレンエーテル樹脂(ポリフェニレンエーテル樹脂とポリスチレン樹脂、又はハイインパクト−ポリスチレン樹脂とのアロイ)、ポリフェニレンエーテル樹脂/ポリプロピレン樹脂アロイ、ポリフェニレンエーテル樹脂/ポリフェニレンサルファイド樹脂アロイ等のポリフェニレンエーテル系樹脂等が挙げられる。
特に、ポリカーボネート系樹脂であるポリカーボネート樹脂、ポリカーボネート樹脂/ABS樹脂アロイやポリフェニレンエーテル系樹脂が好ましく、耐熱性、寸法精度、難燃性、軽量化の観点から、変性ポリフェニレンエーテル樹脂がより好ましい。
【0023】
<非晶性熱可塑性樹脂以外の樹脂材料>
前記樹脂成分は、上述した非晶性熱可塑性樹脂の他にも、従来公知の樹脂材料を含有してもよい。
非晶性熱可塑性樹脂以外の樹脂材料としては、特に限定されるものではないが、ビニル芳香族化合物重合体ブロックと、共役ジエン化合物重合体ブロック又は水添された共役ジエン化合物重合体ブロックとから構成されているブロック共重合体(以下、「ブロック共重合体」と称する。)、ポリオレフィン系化合物が、上述した損失係数を向上させる機能を発揮できるため好ましいものとして挙げられる。
【0024】
前記非晶性熱可塑性樹脂以外の樹脂材料として、前記「ブロック共重合体」及び/又は前記ポリオレフィン系化合物を用いる場合、非晶性熱可塑性樹脂組成物を構成する「樹脂成分」は、下記(1)又は(2)の組成となっていることが好ましい。
(1)非晶性熱可塑性樹脂95〜70質量部、ブロック共重合体5〜30質量部を含有する樹脂成分。
(2)非晶性熱可塑性樹脂94.9〜50質量部、ブロック共重合体5〜30質量部、ポリオレフィン系化合物0.1〜20質量部を含有する樹脂成分。
【0025】
前記ブロック共重合体の含有量は、上記(1)、(2)のように、所定の量の非晶性熱可塑性樹脂に対して、樹脂成分中の5〜30質量部であることが好ましいが、10〜20質量部がより好ましい。
ブロック共重合体の含有量が、樹脂成分中の5質量部以上であると、本実施形態のダクト用樹脂成形体を構成する非晶性熱可塑性樹脂組成物の損失係数を十分に高めることができ、樹脂成分中の30質量部以下とすることにより、実用上十分な機械的強度が得られる。
【0026】
上記ポリオレフィン系化合物の含有量は、上記(2)のように、所定の量の非晶性熱可塑性樹脂に対して、樹脂成分中の0.1〜20質量部とすることが好ましいが、より好ましくは3〜15質量部、さらに好ましくは5〜10質量部である。
ポリオレフィン系化合物の含有量が、樹脂成分中の20質量部以下であると、本実施形態のダクト用樹脂成形体において、実用上十分な機械的強度が得られ、表面における剥離の発生を防止できる。
【0027】
前記ブロック共重合体のビニル芳香族化合物重合体ブロックを構成するビニル芳香族化合物としては、以下のものに限定されないが、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン等が挙げられる。特にスチレンが好ましい。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
また、前記ブロック共重合体の共役ジエン化合物重合体ブロックを構成する共役ジエン化合物としては、以下のものに限定されないが、例えば、イソプレン、ブタジエン、1,3−ペンタジエン等が挙げられる。特に、イソプレン及びブタジエンが好ましく、イソプレンがより好ましい。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0028】
前記ブロック共重合体の、ビニル芳香族化合物重合体ブロックと共役ジエン化合物重合体ブロック(水添物である場合も含む)との質量比(ビニル芳香族化合物重合体ブロック/共役ジエン化合物重合体ブロック(水添物である場合も含む))は、好ましくは5/95〜60/40、より好ましくは10/90〜30/70である。
ビニル芳香族化合物重合体ブロックの質量比を60%以下とすることにより、本実施形態のダクト用樹脂成形体を構成する非晶性熱可塑性樹脂組成物の損失係数を十分に高めることができ、また、質量比を5%以上とすることにより、マトリックスとなる非晶性熱可塑性樹脂との相溶性が良好なものとなり、実用上良好な機械的物性が得られる。
【0029】
前記ブロック共重合体の、共役ジエン化合物重合体ブロックの部分は、非晶性熱可塑性樹脂組成物の生産時や成形時における熱安定性の面から不飽和度が60%を超えない程度にまで選択的に水添されていることが好ましく、不飽和度が30%以下となるように水添されていることがより好ましい。
【0030】
上記ポリオレフィン系化合物としては、以下のものに限定されないが、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレン、ポリイソブチレン等のオレフィン系モノマーの単独重合体や、エチレン−プロピレン系共重合体、エチレン−エチレンアクリレート系共重合体等のオレフィン系モノマーを含む共重合体が挙げられる。ポリプロピレン及びエチレン−プロピレン系共重合体が特に好ましい。
【0031】
また、本実施形態のダクト用樹脂成形体を構成する非晶性熱可塑性樹脂組成物に含有されている非晶性熱可塑性樹脂がポリフェニレンエーテルである場合、非晶性熱可塑性樹脂以外の樹脂材料として、カップリング構造を有する、共役ジエン単量体単位とビニル芳香族単量体単位とからなるブロック共重合体を水素添加して得られる水添共重合体であって、かつ共役ジエン単量体単位とビニル芳香族単量体単位とからなる、非水添のランダム共重合体ブロックを水素添加して得られる水添ランダム共重合体ブロックを有する水添共重合体(以下、「水添共重合体」と称す。)を含有させることも、非晶性熱可塑性樹脂組成物の損失係数を向上させることが可能となり好ましい。
【0032】
具体的には、下記(3)の組成が樹脂成分として、好ましい例として挙げられる。
(3)ポリフェニレンエーテル系樹脂70〜90質量部と、前記水添共重合体10〜30質量部とからなる樹脂成分。
上記水添共重合体の含有量に関しては、本実施形態のダクト用樹脂成形体を構成する非晶性熱可塑性樹脂組成物の損失係数の向上を図り機械的強度とのバランスを良好なものとする観点から、ポリフェニレンエーテル系樹脂70〜90質量部に対して、水添共重合体10〜30質量部が好ましく、より好ましくは10〜25質量部、さらに好ましくは10〜20質量部である。
【0033】
[タルク]
本実施形態のダクト用樹脂成形体を構成する非晶性熱可塑性樹脂組成物は、上述した非晶性熱可塑性樹脂を含む樹脂成分100質量部に対して、タルクを3〜30質量部含有していることが好ましく、5〜25質量部含有していることがより好ましい。
タルクを含有することにより、剛性及び寸法精度の向上効果が得られる。
また、タルクを配合することにより強化を行うと、表面平滑性が良好なものとなるため、ダクト用樹脂成形体の内部を空気が通過する際の、風切り音の増大化を防止できる。
タルクの配合量を、上述した樹脂成分100質量部に対して3質量部以上とすることにより、十分な剛性が得られ、寸法精度の向上効果が得られる。また、樹脂成分100質量部に対して30質量部以下とすることにより、実用上良好な靭性が得られ、また表面平滑性も良好なものとなる。さらには成形体の重量を抑制できる。
タルクの重量平均粒径は、20μm以下であることが好ましい。タルクの重量平均粒径は、レーザー回折法により測定できる。
【0034】
[非晶性熱可塑性樹脂組成物を構成するその他の材料]
本実施形態のダクト用樹脂成形体を構成する非晶性熱可塑性樹脂組成物には、上述した各種材料の他、各種添加剤を含有させてもよい。
例えば、難燃性を向上させるために、難燃剤を添加することが好ましい。添加する難燃剤としては、通常の熱可塑性樹脂に添加される難燃剤を使用できるが、ハロゲンを含まない有機リン酸エステル系の難燃剤を添加することが好ましい。
また、必要に応じて、通常の熱可塑性樹脂に添加される各種添加剤、例えば熱安定剤、紫外線吸収剤、離型剤、滑剤、染料、顔料、充填剤等を配合してもよい。
【0035】
(非晶性熱可塑性樹脂組成物の調製方法)
本実施形態のダクト用樹脂成形体を構成する非晶性熱可塑性樹脂組成物は、従来公知の技術を用いて調製できる。
例えば、ブラベンダー、ニーダー、バンバリーミキサー、押出機等を適用できる。
特に、押出機を用いて調製することが好ましい。
【0036】
(非晶性熱可塑性樹脂組成物の特性)
<損失係数>
本実施形態のダクト用樹脂成形体を構成する非晶性熱可塑性樹脂組成物を用いて試験片に成形し、損失係数を測定する。
具体的には、試験片として127mm×12.7mm×3.2mmの短冊試験片を作製し、これを用い、JIS G0602−1993に記載されている方法に従い、23℃の条件下で、片端固定定常加振法において、半値幅法により測定する。
2次共振ピークの損失係数(η)は、0.04〜0.12であり、好ましくは0.05〜0.11、より好ましくは0.06〜0.11である。
損失係数(η)が0.04以上であれば、本実施形態のダクト用樹脂成形体において、優れた静音化性能を発揮し、機器全体の騒音の低減化が図られる。
また、制振・静音性、強度・剛性、難燃性のバランス等、実用上の観点から、損失係数(η)は0.12以下とする。
【0037】
<荷重たわみ温度>
本実施形態のダクト用樹脂成形体を構成する非晶性熱可塑性樹脂組成物の、ASTM−D648の応力1.82MPaの条件で測定した荷重たわみ温度は90℃以上であることが好ましく、100℃以上であることがより好ましく、110℃以上であることがさらに好ましい。
本実施形態のダクト用樹脂成形体を構成する非晶性熱可塑性樹脂組成物が、90℃以上の荷重たわみ温度を有していることにより、例えば液晶プロジェクターの排気ダクト等の高温となるダクトに対しても適応が可能となる。
【0038】
〔本実施形態のダクト用樹脂成形体の製造方法〕
本実施形態のダクト用樹脂成形体は、上述した非晶性熱可塑性樹脂組成物を用いて、従来公知の方法により成形できる。
例えば、射出成形、インジェクションプレス成形、ガスインジェクション成形、コンプレッション成形等の公知の方法により成形できる。
【0039】
〔本実施形態のダクト用樹脂成形体の用途〕
本実施形態のダクト用樹脂成形体は、液晶プロジェクター、複写機、レーザービームプリンター、インクジェットプリンター、FAX、パソコン等の事務機器、テレビ、DVDプレーヤー、DVDレコーダー、CDプレーヤー、オーディオ、ゲーム機、エアコン、冷蔵庫等の家電機器や自動車の電装部品、エアコン等に用いられるダクトの本体、付属部品等として利用でき、ファンと一体になった形態のものも含まれる。
【実施例】
【0040】
以下、本発明の実施例と比較例を挙げて具体的に説明するが、本発明は下記の例に限定されるものではない。
実施例及び比較例において使用した成分を示す。
【0041】
〔(1)非晶性熱可塑性樹脂〕
<i>ポリフェニレンエーテル樹脂
極限粘度が0.52(30℃、クロロホルム中)であるポリ2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル
<ii>ハイインパクト−ポリスチレン樹脂
「PSJポリスチレンH9405」、PSジャパン社製
<iii>ポリスチレン樹脂
「PSJポリスチレン685」、PSジャパン社製
<iv>ポリカーボネート樹脂
「パンライトK−1300」、帝人化成社製
<v>ABS樹脂
「スタイラックABS121」、旭化成ケミカルズ社製
【0042】
〔(2)ブロック共重合体〕
水添スチレン−イソプレンブロック共重合体(「ハイブラー7125」、クラレ社製)
【0043】
〔(3)ポリオレフィン系化合物〕
ポリプロピレン樹脂(「ノバテックPP EA9BT」、日本ポリプロピレン社製)
【0044】
〔(4)水添共重合体〕
水添共重合体は、下記のように、所定の共重合体に対して水素添加を行うことにより製造した。
<水添触媒の調製>
水添反応に用いる水添触媒は、下記のようにして製造した。
窒素置換した反応容器に、乾燥、精製処理を施したシクロヘキサン2リットルを仕込み、ビス(η−シクロペンタジエニル)−ジ−p−トリルチタニウム40ミリモルと、分子量が約1,000の1,2−ポリブタジエン(1,2−ビニル結合量約85%)150グラムとを溶解した。
その後、n−ブチルリチウム60ミリモルを含むシクロヘキサン溶液を添加して、室温で5分反応させた。
直ちにn−ブタノール40ミリモルを添加して攪拌することにより、水添触媒を得た。
【0045】
<水添共重合体の作製>
内容積が10リットルの攪拌装置及びジャケットを具備する槽型反応器を用いて、共重合体を下記のようにして製造した。
シクロヘキサン10質量部を槽型反応器に仕込んで温度80℃に調整した。
その後、n−ブチルリチウムを全モノマー(槽型反応器に投入するブタジエンモノマー及びスチレンモノマーの総量)の重量に対して0.076質量%、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミンをn−ブチルリチウム1モルに対して0.4モル添加し、その後モノマーとしてスチレン11質量部を含有するシクロヘキサン溶液(モノマー濃度22質量%)を約6分間かけて添加し、槽型反応器の内温を約80℃に調整しながら30分間反応を行った。
次に、ブタジエン33質量部とスチレン56質量部とを含有するシクロヘキサン溶液(モノマー濃度22質量%)を、60分間かけて一定速度で連続的に槽型反応器に供給した。この間、槽型反応器の内温は、約80℃になるように調整し、ブロック共重合体を得た。
得られたブロック共重合体のスチレン含有量は67質量%であり、スチレン重合体ブロックの含有量は11質量%、ブタジエン部のビニル結合量は18質量%であった。
次に、得られた共重合体に、使用したn−ブチルリチウム1モルに対してジメチルジクロロシラン0.6モル添加し、10分間カップリング反応を行った。
次に、上述した水添触媒を共重合体の重量に対してチタンとして100重量ppm添加し、水素圧0.7MPa、温度65℃で水添反応を行った。
水添反応終了後にメタノールを添加し、次に、安定剤としてオクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートを共重合体の重量に対して0.3質量%添加し、水添ブロック共重合体を得た。
得られた水添ブロック共重合体の重量平均分子量は20万、水添率は99%、tanδ(損失正接)のピーク温度は10℃であった。
また、示差走査熱量測定(DSC測定)の結果、結晶化ピークは無かった。
【0046】
〔(5)タルク〕
「ハイトロンA」、竹内化学工業社製
【0047】
〔(6)難燃剤〕
芳香族燐酸エステル系難燃剤「CR741」、大八化学製
【0048】
〔実施例1〜8〕、〔比較例1〜3〕
下記表1に示す組成に従い、各成分を温度290〜320℃、スクリュー回転数500rpmに設定した二軸押出機(「ZSK−40」、WERNER&PFLEIDERE社製)を用いて溶融混練し、樹脂組成物ペレットを得た。
【0049】
実施例1〜8、比較例1〜3の樹脂組成物ペレットを用いて、シリンダー温度240〜290℃、金型温度60〜80℃の条件で、射出成形を行った。
(樹脂組成物評価用のテストピース)
各試験項目にて規定された形状のテストピースを成形した。
(ダクト用樹脂成形体)
150mm×40mm×40mm、肉厚2.0mmの箱形状のダクト本体模擬成形体と、150mm×40mm、肉厚2.0mmの板状のダクト蓋体模擬成形体により構成されるダクト用樹脂成形体を成形した。
【0050】
実施例1〜8、比較例1〜3の樹脂組成物を用いて成形したテストピース及びダクト用樹脂成形体を用いて、下記の方法により試験及び評価を行った。評価結果を下記表1に示す。
【0051】
〔(1)樹脂組成物の物性〕
<i>損失係数(η)
JIS G0602−1993に準拠して測定を行った。
すなわち、23℃の条件下で、損失係数測定装置(松下インターテクノ社製)を用い、片端固定定常加振法により試験片(127mm×12.7mm×3.2mmの短冊試験片)を電磁加振させ、その応答速度を読み、伝達関数を得た。
次に、その2次共振ピークの絶対値から3dB下がった点での周波数を読み、半値幅法から損失係数(η)を求めた。
【0052】
<ii>荷重たわみ温度
ASTM D−648に準拠して、荷重を1.82MPaとして測定した。
【0053】
<iv>曲げ弾性率
ASTM D−790に準拠して、23℃の温度条件下で測定した。
【0054】
<v>燃焼性
UL94に準拠して評価を実施した。
試験片厚みを1.6mmとした。
【0055】
〔(2)ダクト用樹脂成形体の評価〕
<i>反り
ダクト本体模擬成形体、及びダクト蓋体模擬成形体の反りについて、以下の基準で評価を行った。
○:反りは殆ど確認できず、ダクト本体模擬成形体とダクト蓋体模擬成形体とは容易に勘合できる。
△:若干の反りが確認できるが、ダクト本体模擬成形体とダクト蓋体模擬成形体との勘合は可能である。
×:反りが大きく、ダクト本体模擬成形体とダクト蓋体模擬成形体との勘合が困難である。
【0056】
<ii>静音化性能評価
ダクト本体模擬成形体の片端に、ファンをビス止めにより組み込み、ダクト蓋体模擬成形体でダクト本体模擬成形体に蓋をした。
この状態でファンを動かした。
蓋体の中心部の10cm上部に騒音計を設置し、発生音量の測定を行った。
発生音量は、表1中に示すように、比較例1のABS樹脂製のダクト模擬成形体を使用した際の発生音を基準(0)として、相対比較評価を行った。
【0057】
【表1】

【0058】
前記表1に示すように、実施例1〜8の成形体は、いずれも、従来のダクト材として一般的に用いられているABS樹脂製の成形体(比較例1)と比較して、優れた静音化性能を有していることが分かった。
さらには実施例1〜8の成形体は、いずれも実用上十分に良好な寸法精度も兼ね備えていることが分かった。
【0059】
また、実施例1〜8の樹脂組成物は、いずれも荷重たわみ温度が高く、耐熱性に優れており、曲げ弾性率についても実用上十分な剛性を有していることが分かった。
さらに、実施例3〜7に示すように、難燃剤を添加することにより、燃焼性の評価が飛躍的に向上したことがわかった。
【0060】
損失係数が0.04未満の樹脂組成物を用いた比較例3の成形体は、静音化効果が殆ど認められなかった。
さらに、非晶性熱可塑性樹脂を含有しない樹脂組成物を用いた比較例2は、樹脂組成物としての損失係数は高いが、成形体にした際に本体、蓋共に反りが非常に大きくなってしまい、本体と蓋体との勘合が困難となり、ダクトとしての実用化が極めて困難であることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明のダクト用樹脂成形体は、各種事務用機器、家電機器、自動車等の構成部品等として産業上利用可能性を有している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非晶性熱可塑性樹脂を含有し、23℃の温度条件下で、片端固定定常加振法において、半値幅法により測定した2次共振ピークの損失係数(η)が、0.04〜0.12である非晶性熱可塑性樹脂組成物により構成されているダクト用樹脂成形体。
【請求項2】
ASTM−D648の、応力1.82MPaの条件で測定した荷重たわみ温度が、90℃以上である非晶性熱可塑性樹脂組成物により構成されている請求項1に記載のダクト用樹脂成形体。
【請求項3】
前記非晶性熱可塑性樹脂組成物は、樹脂成分100質量部に対して、タルクを3〜30質量部含有する請求項1又は2に記載のダクト用樹脂成形体。
【請求項4】
前記樹脂成分が、
前記非晶性熱可塑性樹脂:95〜70質量部と、
ビニル芳香族化合物重合体ブロックと、共役ジエン化合物重合体ブロック又は水添された共役ジエン化合物重合体ブロックとから構成されているブロック共重合体:5〜30質量部と、
を、含有する請求項3に記載のダクト用樹脂成形体。
【請求項5】
前記樹脂成分が、
前記非晶性熱可塑性樹脂:94.5〜50質量部と、
ビニル芳香族化合物重合体ブロックと、共役ジエン化合物重合体ブロック又は水添された共役ジエン化合物重合体ブロックとから構成されているブロック共重合体:5〜30質量部と、
ポリオレフィン系化合物:0.1〜20質量部と、
を、含有する請求項3に記載のダクト用樹脂成形体。
【請求項6】
前記非晶性熱可塑性樹脂が、ポリフェニレンエーテル系樹脂である請求項1乃至5のいずれか一項に記載のダクト用樹脂成形体。
【請求項7】
前記樹脂成分が、
ポリフェニレンエーテル系樹脂:70〜90質量部と、
カップリング構造を有する、共役ジエン単量体単位とビニル芳香族単量体単位とからなるブロック共重合体を水素添加して得られる水添共重合体であって、かつ共役ジエン単量体単位とビニル芳香族単量体単位とからなる非水添のランダム共重合体ブロックを水素添加して得られる水添ランダム共重合体ブロックを有する水添共重合体:10〜30質量部と、
を、含有する請求項3乃至6のいずれか一項に記載のダクト用樹脂成形体。

【公開番号】特開2011−241257(P2011−241257A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−112389(P2010−112389)
【出願日】平成22年5月14日(2010.5.14)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】