説明

ダクト

【課題】簡単な構造により、内部を流通する空気の圧力損失を低減させる。
【解決手段】ダクトDは、第1ダクト部10と、この第1ダクト部10との間を繋ぐ中間屈曲部20で曲げて該第1ダクト部10の空気流通方向と空気流通方向が交差するように設けられた第2ダクト部30とを備える。第2ダクト部30における中間屈曲部20の内側角部21に連なる第2内周壁部31に、空気流通路とダクト外部とを連通する第1開口部40および第2開口部41を設ける。第1開口部40および第2開口部41は、第2ダクト部30の空気流通方向に直交する方向に長手が延在する細長いスリット状に形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第1ダクト部と、この第1ダクト部との間を繋ぐ屈曲部で曲げて該第1ダクト部の空気流通方向と空気流通方向が交差するように設けられた第2ダクト部とを備え、前記第1ダクト部から第2ダクト部に向けて空気が流されるダクトに関するものである。
【背景技術】
【0002】
空気や各種ガス等を流通案内するため、様々な形状やサイズのダクトが提案されている。例えば図10は、自動車の車体に形成されたエンジンルームの前部に設置され、該エンジンルームに搭載されるエンジン(図示せす)に供給される空気を取込む吸気ダクトD1の概略斜視図である。このダクトD1は、車体に取付けた状態において、空気流通方向が略車体の前後方向へ水平に延在する第1ダクト部50と、この第1ダクト部50の空気流通方向の下流に中間屈曲部51を介して連通され、空気流通方向が垂直に近い傾斜状に延在する第2ダクト部52とを備え、側面方向から見てL形に屈曲している。第1ダクト部50は、先端に横長の空気取込口53が形成されると共に中間屈曲部51に向けて徐々に幅が狭くなる形状に形成され、第2ダクト部52は、中間屈曲部51から空気送出口54に向けて直管状に形成されている。
【0003】
ところで前述したダクトD1では、図11に示すように、第1ダクト部50の空気流通方向と第2ダクト部52の空気流通方向との交差角度(屈曲角度R)が直角に近いため、ダクトD1内を流通する単位時間当りの空気量の増加により前記中間屈曲部51において空気がスムーズに第2ダクト部52側へ変向しない問題がある。すなわち、第1ダクト部50から中間屈曲部51を通過した空気は、第2ダクト部52において中間屈曲部51の曲がり外側から下流側に連なる外周壁部55側に偏るようになり、該第2ダクト部52における中間屈曲部51の曲がり内側から下流側に連なる内周壁部56に沿う部分に滞留空気が発生して、ダクト内を流通する空気の圧力損失が増加する難点がある。
【0004】
そこで、第2ダクト部52の前記内周壁部56をダクト内へ陥凹した形状とした形態のダクト(特許文献1)や、中間屈曲部51における曲がりの内壁部分にディンプルを設けた形態のダクト(特許文献2)等が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−88834号公報
【特許文献2】特開2001−280311号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1に開示された構成のダクトでは、第2ダクト部52の内周壁部56をダクト内へ陥凹する形状であるので、ダクトの有効断面積を確保するために該第2ダクト部52の幅寸法を大きくしなければならず、ダクトのサイズが実質的に大きくなる難点がある。しかも、陥凹形状とすることで、成形上の制約を受けて所望とする形状に成形し得ない不都合もある。また、特許文献2に開示された構成のダクトでは、ディンプルの加工がブロー成形では困難であるため、ダクトの成形方法がインジェクション成形等に限定されてしまう問題がある。
【0007】
そこで本発明では、簡単な構造により、内部を流通する空気の圧力損失を低減させ得るダクトを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決し、所期の目的を達成するため、本願の請求項1に記載の発明は、
第1ダクト部と、この第1ダクト部との間を繋ぐ屈曲部で曲げて該第1ダクト部の空気流通方向と空気流通方向が交差するように設けられた第2ダクト部とを備え、前記第1ダクト部から第2ダクト部に向けて空気が流されるダクトにおいて、
前記第2ダクト部における前記屈曲部の曲がり内側から該第2ダクト部の空気流通方向へ連なる壁部に、空気流通路と外部とを連通する開口部が、該第2ダクト部の空気流通方向に離して2つ以上設けられたことを特徴とする。
【0009】
従って、請求項1に係る発明によれば、第2ダクト部における屈曲部の曲がり内側から該第2ダクト部の空気流通方向へ連なる壁部に、空気流通路と外部とを連通する開口部を、該第2ダクト部の空気流通方向に離して2つ以上設けることで、各開口部から第2ダクト部内に流入した副空気流により、第2ダクト部内における前記壁部に沿う部分に発生する滞留空気を減少させることで、内部を流通する空気の圧力損失を減少させることができる。また、第2ダクト部の壁部に2つ以上の開口部を設けるだけであるから、部品点数を増やしたり特殊な加工を行なう必要がないので製造コストが嵩まないと共に、ダクトの外形形状を変更しないから該ダクトの配設スペースを拡大する必要もない。
【0010】
請求項2に記載の発明は、前記各開口部は、前記第2ダクト部の空気流通方向に直交する方向に長手が延在する細長いスリット状に形成されることを要旨とする。
従って、請求項2に係る発明によれば、各開口部を細長いスリット状とすることで、第2ダクト部内へ該開口部を介して必要以上の空気が流入せず、第1ダクト部からの主空気流の流れを阻害しない。
【0011】
請求項3に記載の発明は、前記各開口部は、前記第2ダクト部の空気流通方向に直交する方向の中央を第2ダクト部の空気流通方向に沿って揃えて整列配置されることを要旨とする。
従って、請求項3に係る発明によれば、各開口部が第2ダクト部の空気流通方向に沿って整列配置されているので、空気流通方向の上流側に位置する開口部から流入した副空気流と該開口部の下流側に位置する開口部から流入した副空気流とが、第2ダクト部の空気流通方向へ整列するので、該第2ダクト部内における前記壁部に沿う部分に発生する滞留空気を効率的に減少させ得る。
【0012】
請求項4に記載の発明は、前記各開口部は、前記第2ダクト部の空気流通方向に直交する方向の寸法が、該第2ダクト部の等価直径の0.5〜1倍の範囲に設定されることを要旨とする。
従って、請求項4に係る発明によれば、第2ダクト部内に発生する滞留空気を、各開口部からの副空気流で効率よく減少させ得る。
【0013】
請求項5に記載の発明は、前記各開口部は、前記第2ダクト部の前記壁部に、該壁部における前記屈曲部の曲がり内側に連なる上流端から、該第2ダクト部の空気流通方向において該第2ダクト部の等価直径の1〜8倍の範囲に設けられることを要旨とする。
従って、請求項5に係る発明によれば、第2ダクト部内において滞留空気が発生する領域に各開口部を効率的に設けるので、該滞留空気を好適に減少することができる。
【0014】
請求項6に記載の発明は、前記各開口部は、第2ダクト部の空気流通方向において隣り合う開口部間の間隔が、該開口部における該第2ダクト部の空気流通方向の開口寸法以上に設定されたことを要旨とする。
従って、請求項6に係る発明によれば、第2ダクト部の空気流通方向において上流側に位置する開口部から第2ダクト部内に流入した副空気流と、該開口部の下流側に位置する開口部から第2ダクト部内に流入した副空気流とが、互いに干渉し合うことを防止し得る。
【0015】
請求項7に記載の発明は、前記第1ダクト部と第2ダクト部とは、互いの空気流通方向がなす屈曲部の曲がり内側を向く交差角度が90〜150°となるように設けられていることを要旨とする。
従って、請求項7に係る発明によれば、前記第1ダクト部と第2ダクト部との互いの空気流通方向がなす屈曲部の曲がり内側を向く交差角度が90〜150°となると空気の圧力損失が顕著に増加するから、第2ダクト部における該屈曲部の曲がり内側から該第2ダクト部の空気流通方向に連なる壁部に、空気流通路と外部とを連通する開口部を、該第2ダクト部の空気流通方向に離して2つ以上設けることで、内部を流れる空気の圧力損失の増加を効果的に抑えることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係るダクトによれば、成形が容易でかつダクトが大型化しない簡単な構造により、内部を流通する空気の圧力損失を低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施例のダクトの概略斜視図である。
【図2】実施例のダクトを、車両のエンジンルームに配設した状態を示す説明図である。
【図3】実施例のダクトの正面図である。
【図4】実施例のダクトの空気流通状態を示す縦断面図である。
【図5】実験1の実験結果を示すグラフである。
【図6】実験2の実験結果を示すグラフである。
【図7】実験3の実験結果を示すグラフである。
【図8】実験4の実験結果を示すグラフである。
【図9】変更例のダクトの概略斜視図である。
【図10】従来の屈曲部を有するダクトの概略斜視図である。
【図11】図10に示す従来のダクトの空気流通状態を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に、本発明に係るダクトにつき、好適な実施例を挙げて、添付図面を参照しながら以下説明する。実施例では、ダクトとして図10に示した吸気ダクトと外形形状が同一の吸気ダクトを例示する。なお、ダクトDの第1ダクト部10および第2ダクト部30は、特に指示がなければ、第1ダクト部10に対する第2ダクト部30の屈曲方向において曲がりの内外方向となる方向をダクトDの「縦方向」、各々の空気流通方向および縦方向の各々と直交する方向をダクトDの「横方向」と指称する。
【実施例】
【0019】
先ず、実施例のダクトDの構成につき、図1〜図4を引用して説明する。実施例のダクトDは、自動車の車体Bに形成されたエンジンルームERの前部に設置され、該エンジンルームERに搭載されるエンジン(図示せす)に供給される空気を取込む吸気ダクトである。このダクトDは、車体Bに取付けた状態において、空気流通方向が車体の前後方向へ略水平に延在する第1ダクト部10と、この第1ダクト部10の空気流通方向の下流に中間屈曲部20を介して連通され、空気流通方向が垂直に近い傾斜状に延在する第2ダクト部30とを備える。そして、ダクトDの第1ダクト部10と第2ダクト部30とは、互いの空気流通方向がなす中間屈曲部20の曲がり内側を向く交差角度、すなわち第1ダクト部10および第2ダクト部30における中間屈曲部20の曲がり内側を向く屈曲角度Rが105°となっている(図2参照)。
【0020】
第1ダクト部10は、該第1ダクト部10における縦方向で対向して下方に位置する第1内周壁部11および上方に位置する第1外周壁部12と、該第1ダクト部10の横方向で対向する第1側壁部13,13とから形成されている。車体Bの上下方向で離間している第1内周壁部11および第1外周壁部12は、空気流通方向で平行となっており、第1内周壁部11の下流端は中間屈曲部20の曲がり内側の最大曲率部位である内側角部21に連設され、第1外周壁部12の下流端は中間屈曲部20の曲がりの外側となる外側湾曲部22に連設されている。また、車体Bの左右方向で離間する各第1側壁部13,13は、空気流通方向の下流側(中間屈曲部20)に近づくにつれて互いに近接するよう斜め形成され、各々の下流端が中間屈曲部20の屈曲壁部23,23に連設されている。そして第1ダクト部10は、横長に開口した空気取込口14が空気流通方向の上流端に開口形成され、この空気取込口14から中間屈曲部20に近づくにつれて空気流通方向と直交する方向の断面積は徐々に小さくなっている。
【0021】
中間屈曲部20は、曲がり内側の最大曲率部位である前記内側角部21と、内側角部21を中心とした滑らかな円弧状に形成された外側湾曲部22と、横方向において対向して該内側角部21および外側湾曲部22の夫々に連設される扇形の屈曲壁部23,23とから形成されている。内側角部21は、第1ダクト部10の第1内周壁部11に連設されると共に、第2ダクト部30の第2内周壁部31に連設され、極小の曲面に形成されて実質的には横方向へ延在する角部となっている。外側湾曲部22は、第1ダクト部10の第1外周壁部12に連設されると共に、第2ダクト部30の第2外周壁部32に連設され、第1外周壁部11および第2外周壁部32の夫々と連続的に連なるように形成されている。各屈曲壁部23,23は、第1ダクト部10の各第1側壁部13,13に連設されると共に、第2ダクト部30の第2側壁部33,33に連設されている。なお、中間屈曲部20と第1ダクト部10との境界は、図2に示すように、該中間屈曲部20の内側角部21の上流端を通り、第1ダクト部10の空気流通方向と直交する向きで周方向へ延在する部位とされる(図2に実線で表示)。
【0022】
第2ダクト部30は、その空気流通方向が、中間屈曲部20の内側角部21における第1ダクト部10の空気流通方向と105度に交差するように延在しており、該第2ダクト部30の縦方向で対向する第2内周壁部31および第2外周壁部32と、該第2ダクト部30の横方向で対向する第2側壁部33,33とから形成されている。すなわち実施例のダクトDは、車体Bの前後方向で離間している第2内周壁部31および第2外周壁部32は、空気流通方向で平行となっており、第2内周壁部31の上流端は中間屈曲部20の前記内側角部21に連設され、第2外周壁部32の上流端は中間屈曲部20の前記外側湾曲部22に連設されている。また、車体Bの左右方向で離間する各第2側壁部33,33は、各々の上流端が中間屈曲部20,20に連設され、空気流通方向で平行となっている。そして第2ダクト部30は、略正方形に開口した空気送出口34が空気流通方向の下流端に開口形成され、中間屈曲部20から空気送出口34に近づくにつれて空気流通方向と直交する方向での断面積が同じ直管状となっている。なお、第2ダクト部30と中間屈曲部20との境界は、図2に示すように、該中間屈曲部20の内側角部21の下流端を通り、第2ダクト部30の空気流通方向と直交する向きで周方向へ延在する部位とされる(図2に実線で表示)。
【0023】
そして実施例のダクトDでは、図1および図2に示すように、第2ダクト部30における前記中間屈曲部20の内側角部21の下流側に連なる前記第2内周壁部31に、第2ダクト部30の空気流通路とダクト外部とを空間的に連通する2つの開口部40,41が、該第2ダクト部30の空気流通方向に所要間隔で離して設けられている。すなわち実施例のダクトDは、空気取込口14を介してエンジンに必要とされる特定流量の空気が流入した際に、第1ダクト部10から中間屈曲部20を介して第2ダクト部30へ移動する空気(以降「主空気流」という)が該第2ダクト部30の第2外周壁部32側へ偏ることで、第2内周壁部31に沿う部分の滞留空気が発生する領域に、前記2つの開口部40,41を設けたものである。これにより実施例のダクトDは、空気取込口14からダクトD内へ流入した主空気流が第1ダクト部10から第2ダクト部30に向けて流通する際に、該第2ダクト部30周囲の外部空気を、「副空気流」として前記各開口部40,41を介して該第2ダクト部30内へ取込むことができるよう構成したものである。
【0024】
前記2つの開口部40,41のうち、第2内周壁部31の上流側に形成された開口部(以降「第1開口部」という)40は、図1〜図3に示すように、中間屈曲部20の内側角部21に隣接した部位、すなわち該第2内周壁部31の上流端に隣接して形成されている。この第1開口部40は、第2ダクト部30の空気流通方向に直交する横方向に長手が延在する細長いスリット状に形成されており、長手方向の開口幅(長手開口幅)Lは、第2ダクト部30における等価直径(後述)Deの0.67倍(2/3De)に設定されている。また第1開口部40は、第2ダクト部30の空気流通方向に沿う短手方向の開口幅(短手開口幅)Sは約1.0mmに設定されている。なお、第1開口部40の長手開口幅Lは、後述するように、第2ダクト部30の等価直径Deの0.5倍〜1倍の範囲内とするのが望ましく、該第1開口部40の短手開口幅Sは0.8〜1.2mmの範囲内で設定するのが望ましい。
【0025】
第1開口部40の下流側に形成された開口部(以降「第2開口部」という)41は、該第1開口部40と同一形状に形成され、第2ダクト部30の空気流通方向に直交する横方向の中央を、該第2ダクト部30の空気流通方向に沿って揃えて整列配置され、第1開口部40と第2開口部41とは平行になっている。すなわち第2開口部41は、第2ダクト部30の空気流通方向と交差する横方向に長手が延在する細長いスリット状に形成されており、長手開口幅Lは第2ダクト部30における等価直径Deの0.67倍(2/3De)に設定されている。また第2開口部41は、第2ダクト部30の空気流通方向に沿う短手方向の開口幅(短手開口幅)Sは約1.0mmに設定されている。なお、第2開口部41の長手開口幅Lは、後述するように、第2ダクト部30の等価直径Deの0.5倍〜1倍の範囲内とするのが望ましく、該第2開口部40の短手開口幅Sは0.8〜1.2mmの範囲内で設定するのが望ましい。
【0026】
そして、第2開口部41の形成位置は、前記中間屈曲部20の内側角部21に連なる第2内周壁部31の上流端から該第2開口部41の上流側開口縁までの距離(形成距離)Hが、第2ダクト部30における等価直径Deの2倍(2De)となるように設定されている。なお、第2開口部41の形成位置は、後述するように、前記形成距離Hを、第2ダクト部30における等価直径Deの1倍〜8倍未満の範囲内で設定するのが望ましい。また、第2ダクト部30の空気流通方向で隣り合う第1開口部40と第2開口部41との間隔Tは、第1開口部40の短手開口幅S以上に設定されている。
【0027】
前述した等価直径Deとは、ダクト関連の分野において一般的に周知の如く、空気流通方向と直交する方向の断面形状が略矩形とされた第2ダクト部30が、空気流通方向と直交する方向の断面形状が円形をなす円形ダクトと見なした場合に、その直径がどのくらいとなるかを示すもので、換算式は次のようになっている。
換算式 De = 4×A/W
ここで、De:等価直径
A:第2ダクト部30の空気流通方向と直交する方向での断面積
W:第2ダクト部30の空気流通方向と直交する方向での内壁長(内周長)
【0028】
第1開口部40および第2開口部41を設けた本実施例のダクトDは、例えばポリエチレンやポリプロピレン等の樹脂素材からブロー成形技術に基づいて一体的に成形したり、同樹脂素材からインジェクション成形技術に基づいて成形された複数のピースを組み合わせて製造される。なお、ブロー成形により製造されるダクトDでは、第1ダクト部10、中間屈曲部20および第2ダクト部30を一体にブロー成形した後工程において、前記第1開口部40および第2開口部41を第2ダクト部30にカッター等で開設する。一方、インジェクション成形により製造されるダクトDでは、第1開口部40および第2開口部41を、該成形時に同時に形成するか、各ピースを組み合わせた後にカッター等で開設する。
【0029】
(実験例)
本願発明者は、第1ダクト部10に対して第2ダクト部30が屈曲したダクトDに関し、ダクト内を流れる空気の圧力損失の低減に効果的な各開口部40,41の形成態様(形成位置、開口サイズ等)を求めるため、シミュレーション解析により次のような4種類の実験(実験1〜4)を行なった。そして、図5〜図8は、本願発明者が行なった実験1〜4の実験結果を示したものである。そこで次に、各実験の内容および各実験の結果について説明する。
【0030】
(実験1)
実験1は、第1ダクト部10に対する第2ダクト部30の屈曲角度R(第1ダクト部10の空気流通方向と第2ダクト部30の空気流通方向との交差角度)の違いに伴う圧力損失のデータを得るもので、第1ダクト部10と第2ダクト部30とが直列となる所謂直管の圧力損失を100とした場合の相対的な圧力損失を示すものである。この実験1により、2つ以上の開口部を設けることが効果的なダクトの屈曲角度Rを得ることができる。ここで実験条件は、ダクトDがエンジン用の吸気ダクトとして使用されることを前提として、実際の使用環境に近いものとして設定した。実験条件は、次のようである。
(a)第2ダクト部30
・空気流通方向と直交する方向の断面形状:矩形(縦45mm×横70mm)
・等価直径De:57.9mm
(b)主空気流の流量:7m/min
【0031】
図5は、実験1の実験結果を示すグラフである。実験1の結果によれば、屈曲角度R=0°(直管)の場合の圧力損失を100とすると、屈曲角度R=170°では圧力損失が100.3、屈曲角度R=160°では圧力損失が100.7、屈曲角度R=150°では圧力損失が101.5であり、屈曲角度Rが150°以下のダクトでは圧力損失は微増であった。しかし、屈曲角度R=140°では圧力損失が105.8、屈曲角度R=130°では圧力損失が113.5、屈曲角度R=120°では圧力損失が124.7、屈曲角度R=110°では圧力損失が157.2、屈曲角度R=90°では圧力損失が178.6となり、屈曲角度Rが150°以下となると圧力損失が顕著に増加し、かつ屈曲角度Rが大きくなるに比例して圧力損失が大きくなることが確認できた。従って、第2ダクト部30に開口部40,41を設けるのは、屈曲角度Rが90〜150°のダクトDにおいて特に有効であることが判明した。
【0032】
(実験2)
実験2は、第2ダクト部30の第2内周壁部31に対する開口部の形成個数による圧力損失の変化を示したものである。この実験2により、開口部の形成個数を適切に設定することができる。なお、開口部は5個まで設けた場合で実験を行なうこととし、第2ダクト部30の第2内周壁部31に対する各開口部の形成位置を、第1開口部の上流側開口縁から最下流側の第5開口部の上流側開口縁までの間隔を第2ダクト部30の等価直径Deの3倍となるようにして、第1開口部と第5開口部との間を空気流通方向へ4等分して、第2開口部、第3開口部および第4開口部を各々設けるようにした。なお実験条件は、次のようである。
(a)第2ダクト部30
・空気流通方向と直交する方向の断面形状:矩形(縦45mm×横70mm)
・等価直径De:57.9mm
(b)屈曲角度R:105°
(c)中間屈曲部20の内側突部21の曲率半径:1.0mm
(d)第1〜第5の開口部
・長手開口幅L:0.67De(第2ダクト部30の等価直径Deの2/3)
・短手開口幅S:1mm
(e)主空気流の流量:7m/min
【0033】
図6は、実験2の実験結果を示すグラフである。実験2の結果によれば、開口部を設けない場合の圧力損失を100とすると、開口部が1つ(第1開口部のみ)の場合は圧力損失が100、開口部が2つ(第1開口部、第2開口部)の場合では圧力損失が93、開口部が3つ(第1開口部〜第3開口部)の場合では圧力損失が95、開口部が4つ(第1開口部〜第4開口部)の場合では圧力損失が94、開口部が5つ(第1開口部〜第5開口部)の場合では圧力損失が95であった。すなわち、開口部が1つだけの場合では圧力損失の減少は見られず、開口部が3〜5つの場合では圧力損失が5〜6%減少し、開口部が2つの場合が圧力損失が最大の7%減少した。この実験結果から、2つ以上の開口部を設けることで圧力損失の減少に効果があるものの、開口部の形成数が2つの場合が最も圧力損失の減少率が大きく、開口部を3つ以上に増やしても圧力損失の減少率は殆ど同じであることも判明した。従って、図1および図2に示すように、2つの開口部(第1開口部40および第2開口部41)を形成することで、内部を流れる空気の圧力損失を効率的に減少することができる。
【0034】
(実験3)
実験3は、スリット状の第1開口部40および第2開口部41の長手開口幅Lの違いによる圧力損失の変化を示したものである。この実験3により、各開口部40,41の長手開口幅Lを適切に設定することができる。なお実験条件は、次のようである。
(a)第2ダクト部30
・空気流通方向と直交する方向の断面形状:矩形(縦45mm×横70mm)
・等価直径De:57.9mm
(b)屈曲角度R:105°
(c)第1開口部40
・短手開口幅S:1mm
・形成位置:第2内周壁部31における中間屈曲部20の内側角部21に隣接した部位
(d)第2開口部41
・短手開口幅S:1mm
・形成位置:第2内周壁部31における中間屈曲部20の内側角部21から第2ダクト部30の空気流通方向へ、該第2ダクト部30の等価直径Deの2倍となる部位
(e)主空気流の流量:7m/min
【0035】
図7は、実験3の実験結果を示すグラフである。実験3の結果によれば、開口部を設けない場合の圧力損失を100とすると、第1開口部40および第2開口部41の長手開口幅L=0.2Deの場合は圧力損失が105、長手開口幅L=0.4Deの場合は圧力損失が103、長手開口幅L=0.5Deの場合は圧力損失が98、長手開口幅L=0.6Deの場合は圧力損失が95、長手開口幅L=0.8Deの場合は圧力損失が94、長手開口幅L=1Deの場合は圧力損失が93であった。すなわち、第1開口部40および第2開口部41の長手開口幅Lが第2ダクト部30の等価直径Deの0.5〜1倍(0.5De〜1De)において、内部を流れる空気の圧力損失が効果的に減少し、特に長手開口幅Lが等価直径Deに近づくほど該圧力損失が効率的に減少することが判明した。
【0036】
(実験4)
実験4は、2つの開口部(第1開口部40および第2開口部41)を形成することを前提として、第2開口部41の形成位置の違いによる圧力損失の変化を示したものである。この実験4により、中間屈曲部20の曲がり内側である内側角部21からの第2開口部41の形成位置を適切に設定することができる。なお実験条件は、次のようである。
(a)第2ダクト部30
・空気流通方向と直交する方向の断面形状:矩形(縦45mm×横70mm)
・等価直径De:57.9mm
(b)屈曲角度R:105°
(c)第1開口部40および第2開口部41
・長手開口幅L:0.67De(第2ダクト部30の等価直径Deの2/3)
・短手開口幅S:1mm
(d)主空気流の流量:7m/min
【0037】
図8は、実験4の実験結果を示すグラフである。実験4の結果によれば、第2開口部41を設けない場合(第1開口部40のみを設ける)の圧力損失を100とすると、第2開口部41の形成距離H=1Deの場合は圧力損失が95、形成距離H=2Deの場合では圧力損失が93、形成距離H=3Deの場合では圧力損失が93.5、形成距離H=4Deの場合では圧力損失が95、形成距離H=5Deの場合では圧力損失が96、形成距離H=6Deの場合では圧力損失が98、形成距離H=7Deの場合では圧力損失が99、形成距離H=8Deの場合では圧力損失が100であった。すなわち、第2開口部41の形成距離Hが1De〜8Deにおいて、内部を流れる空気の圧力損失が減少することが判明した。なお、形成距離Hが1De〜4Deの範囲内であれば、約5%の圧力損失の減少が見られることから、該形成距離Hは等価直径Deの1〜4倍の範囲内で適宜決定することが望ましく、特に圧力損失の減少効果が大きいのは、形成距離Hが等価直径Deの2倍(2De)である。
【0038】
前記実験1〜実験4の結果によれば、次のようになる。第2ダクト部30の第2内周壁部31に開口部40(41)を設けることで、ダクトD内を流れる空気の圧力損失の減少に効果があるのは、特に第1ダクト部10に対する第2ダクト部30の屈曲角度Rが90〜150°のダクトである。そして、開口部40(41)の形成個数は2つが最適であり、第1開口部40の形成位置は中間屈曲部20の内側角部21の下流端に隣接する部位であり、第2開口部41の形成距離Hは中間屈曲部20の内側角部21の下流端から第2ダクト部30の等価直径Deの2倍程度が最適である。更に、第1開口部40および第2開口部41の長手開口幅Lは、第2ダクト部30の等価直径Deの0.5〜1倍の範囲内とするのが望ましい。
【0039】
従って、実施例のダクトDによれば、第2ダクト部30における中間屈曲部20の曲がり内側である内側角部21から該第2ダクト部30の空気流通方向に連なる第2内周壁部31に、該第2ダクト部30の空気流通方向に離して設けたスリット状の2つの開口部40,41から第2ダクト部30内へ流入する副空気流により、第1ダクト部10からの主空気流が第2外周壁部32に偏ることにより第2内周壁部31に沿う部分に発生する滞留空気を減少させることで、ダクトD内を流通する空気の圧力損失を好適に減少させることができる。そして、第2ダクト部30の第2内周壁部31に2つの第1開口部40および第2開口部41を設けるだけであるから、部品点数を増やしたり特殊な加工を行なう必要がないので製造コストが嵩まないと共に、ダクトDの外形形状が変更されないから該ダクトDの配設スペースを拡大する必要もない。
【0040】
そして、第1開口部40および第2開口部41は、第2ダクト部30の空気流通方向に直交する横方向に長手が延在する細長いスリット状に形成されるから、必要以上の外部空気が第2ダクト部30内へ急激に流入せず、第1ダクト部10から中間屈曲部20を介して第2ダクト部30へ移動する主空気流の流れを阻害しない。また、第1開口部40および第2開口部41は、長手開口幅Lが該第2ダクト部30の等価直径の0.67倍に設定されているから、各開口部40,41から第2ダクト部30内へ流入する副空気流が該第2ダクト部30の横方向へ広がり易くなり、該第2ダクト部30の第2内周壁部31に沿う部分に発生する滞留空気を該副空気流で効率よく減少させ得る。
【0041】
また、第1開口部40および第2開口部41は、第2ダクト部30の空気流通方向に直交する横方向の中央を該第2ダクト部30の空気流通方向に沿って揃えて整列配置されているから、第2開口部41の空気流通方向の上流側に位置する第1開口部40から流入した副空気流と該第1開口部40の下流側に位置する第2開口部41から流入した副空気流とが第2ダクト部30の空気流通方向で整列して、該第2ダクト部30の第2内周壁部31に沿う部分に発生する滞留空気を効率的に減少させ得る。そして、第1開口部40および第2開口部41の形成位置を、中間屈曲部20の内側角部21から第2ダクト部30の空気流通方向の下流側へ等価直径Deの2倍の範囲内としたから、第2ダクト部30において滞留空気が発生する領域に各開口部40,41が位置し、該滞留空気を好適に減少させることができる。
【0042】
更に、第1開口部40および第2開口部41は、第2ダクト部30の空気流通方向において隣り合う間隔Tが、該第1開口部40の短手開口幅S以上に設定されているから、空気流通方向において上流側に位置する第1開口部40から第2ダクト部30内に流入した副空気流と該第2開口部41から第2ダクト部30内に流入した副空気流とが互いに干渉することが防止され、第2ダクト部30内で各副空気流を原因とした乱流が発生し難い。
【0043】
なお実施例のダクトDでは、第2ダクト部30の第2内周壁部31に設けた2つの開口部(第1開口部40および第2開口部41)により気柱共鳴効果も期待でき、これにより吸気音やエンジンの燃焼音の低減を図り得る。
【0044】
(変更例)
(1)第1ダクト部10および第2ダクト部30の形状は、実施例に例示したものに限定されない。例えば、第1ダクト部10は、第2ダクト部30と同様に直管形態であってもよい。また、第1ダクト部10および第2ダクト部30は、各々の空気流通方向と直交する方向での断面積形状が実施例に例示の形状に限定されず、円形状、楕円形状、三角形や五角形等の多角形状等であってもよい。
(2)各開口部40,41からエンジンルームER内の温かい空気が第2ダクト部30内に流入することを防止するために、図9に示すように、第2ダクト部30に設けた第1開口部40および第2開口部41の横方向の両側に隔壁46,46を設けるようにしてもよい。このような隔壁46,46を設けることにより、第1開口部40および第2開口部41内へは、車体B前方からエンジンルームER内へ流入する空気を優先的に取込むことができる。
(3)実施例では、第1ダクト部10に対する第2ダクト部30の屈曲角度Rが105°の場合だけ例示したが、前述したように、第1ダクト部10に対する第2ダクト部30の屈曲角度Rが90°〜150°のダクトでは圧力損失が増加することから、屈曲角度Rが90°〜150°で屈曲するダクトにおける第2ダクト部30の第2内周壁部31に、2つ以上の開口部40(41)を設けることで、圧力損失を好適に減少することができる。
(4)実施例では、ダクトDについて、エンジンに空気を導入するための吸気ダクトを例示したが、本願が対象とするダクトは、吸気ダクトに限定されず、機器間に配設される中間ダクトや、機器の排気側に配設される排気ダクト等であってもよい。
【符号の説明】
【0045】
10 第1ダクト部,20 中間屈曲部(屈曲部),21 内側角部(最大曲率部位)
30 第2ダクト部,31 第2内周壁部(壁部),40 第1開口部(開口部)
41 第2開口部(開口部),De 等価直径(第2ダクト部の)
L 長手開口幅(第2ダクト部の空気流通方向と直交する方向の寸法)
S 短手開口幅(第2ダクト部の空気流通方向の開口寸法),T間隔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1ダクト部と、この第1ダクト部との間を繋ぐ屈曲部で曲げて該第1ダクト部の空気流通方向と空気流通方向が交差するように設けられた第2ダクト部とを備え、前記第1ダクト部から第2ダクト部に向けて空気が流されるダクトにおいて、
前記第2ダクト部における前記屈曲部の曲がり内側から該第2ダクト部の空気流通方向へ連なる壁部に、空気流通路と外部とを連通する開口部が、該第2ダクト部の空気流通方向に離して2つ以上設けられた
ことを特徴とするダクト。
【請求項2】
前記各開口部は、前記第2ダクト部の空気流通方向に直交する方向に長手が延在する細長いスリット状に形成される請求項1記載のダクト。
【請求項3】
前記各開口部は、前記第2ダクト部の空気流通方向に直交する方向の中央を第2ダクト部の空気流通方向に沿って揃えて整列配置される請求項1または2記載のダクト。
【請求項4】
前記各開口部は、前記第2ダクト部の空気流通方向に直交する方向の寸法が、該第2ダクト部の等価直径の0.5〜1倍の範囲に設定される請求項1〜3の何れか一項に記載のダクト。
【請求項5】
前記各開口部は、前記第2ダクト部の前記壁部に、該壁部における前記屈曲部の曲がり内側に連なる上流端から、該第2ダクト部の空気流通方向において該第2ダクト部の等価直径の1〜8倍の範囲に設けられる請求項1〜4の何れか一項に記載のダクト。
【請求項6】
前記各開口部は、第2ダクト部の空気流通方向において隣り合う開口部間の間隔が、該開口部における該第2ダクト部の空気流通方向の開口寸法以上に設定された請求項1〜5の何れか一項に記載のダクト。
【請求項7】
前記第1ダクト部と第2ダクト部とは、互いの空気流通方向がなす屈曲部の曲がり内側を向く交差角度が90〜150°となるように設けられている請求項1〜6の何れか一項に記載のダクト。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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