説明

ダシ入りアルコール飲料の製造方法

【課題】 製造が容易で、しかも嗜好性に優れた新規なアルコール飲料の製造方法を提供する。
【解決手段】 ダシ原料から、水又は水とエタノールとの混合溶媒を用いて抽出して得られたダシ抽出液を、飲料用アルコール類に添加する。前記ダシ原料が鰹節、マグロ節、昆布、椎茸、アガリクスから選ばれた少なくとも1種以上であることが好ましく、前記飲料用アルコール類が焼酎又はリキュールであることが好ましく、前記ダシ抽出液を、前記ダシ抽出液の固形分が0.3〜1.5質量%となるように、飲料用アルコール類に添加することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダシ抽出液を添加することにより嗜好性を高めたダシ入りアルコール飲料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
古くから、鰹節や昆布などのだしは、主に日本料理をはじめとする料理における調味料として、欠かせない存在である。また、日本酒やワイン等の酒類もまた、同様に料理には欠かせない調味料であり、これらだしと酒類を組み合わせたいわゆる酒精調味料が数多く存在する。例えば、下記特許文献1には、醤油、味噌、食酢、だし、砂糖、食塩、及び香辛料から選ばれる1種以上を含有する酒類と環状デキストリンとを含有する酒精調味料が開示されている。また、下記特許文献2には、酒類に梅干及び節類を加えて、梅干及び節類の塩味、酸味、旨味を溶け込ませた酒精調味料が開示されている。
【0003】
一方、アルコール飲料として、焼酎やスピリッツなどの蒸留酒に、その他のエキス分を含有させた、いわゆる混成酒が知られており、このような混成酒として、例えば、下記特許文献3には、乾燥したヤマシブダケを食酢または焼酎に浸漬して、その成分を食酢または焼酎に抽出してなるキノコ酢(酒)が開示されている。また、下記特許文献4には、あしたば、アボガド、玉葱、人参、ハーブ、長葱、お茶の葉、乾燥した海藻類を飲料用のアルコールに漬け込んだ酒類の製造方法が開示されている。更に、下記特許文献5には、生みりんに果実類、ハーブ類、スパイス類、漢方生薬の中から選ばれた少なくとも1種を浸漬するリキュールの製造法が開示されている。更にまた、下記特許文献6には、乾燥キダチアロエ成分がアルコール飲料に所定の濃度で含有されており、かつ、これに風味添加物としての甘味料およびリキュール酒が所定の割合でブレンドされているアロエ酒が開示されている。
【特許文献1】特開2001−178394号公報
【特許文献2】特開平10−117722号公報
【特許文献3】特開2001−161341号公報
【特許文献4】特開2000−312579号公報
【特許文献5】特開平10−262641号公報
【特許文献6】特開平10−215853号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の通り、ダシと酒類は、これらを組み合わせて調味料として、幅広く利用されてきた。また、アルコール飲料としても様々な成分が添加されてきた。しかしながら、ダシとアルコール飲料の組み合わせについてはこれまで一切検討が行われていなかった。
【0005】
また、特許文献3〜6などに開示されている混成酒は、酒類に原料を漬け込んで製造されており、漬け込みによって原料の有効成分(薬効成分)や脂溶性の香気成分の抽出を行うものである。そのため、混成酒はその製造に時間と手間がかかり、薬効は有するものの、嗜好性の低いアルコール飲料であることも多い。
【0006】
更に、アルコール飲料の割り材として、緑茶や烏龍茶、果汁などを用いたチューハイなどのリキュール類も知られているが、これらのリキュール類にダシ抽出液を用いることはこれまで行われていなかった。
【0007】
その理由のひとつとしては、ダシは、その優れた風味と共に、独特の臭みを併せ持っており、例えば鰹節は魚独特の生臭みを有しており、昆布や椎茸も独特の臭みを有しているため、これまで香気に重点をおいて開発されてきたアルコール飲料の分野では敬遠されていたものと推測される。
【0008】
したがって、本発明の目的は、製造が容易で、しかも嗜好性に優れた新規なアルコール飲料の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究したところ、ダシ抽出液をアルコール飲料に添加すると、香りと味の両面に優れたアルコール飲料を手軽に製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、ダシ原料から、水又は水とエタノールとの混合溶媒を用いて抽出して得られたダシ抽出液を、飲料用アルコール類に添加することを特徴とするダシ入りアルコール飲料の製造方法を提供するものである。
【0011】
本発明においては、前記ダシ原料が鰹節、マグロ節、昆布、椎茸、アガリクスから選ばれた少なくとも1種以上であることが好ましい。
【0012】
また、前記飲料用アルコール類が焼酎又はリキュールであることが好ましい。
【0013】
更に、前記ダシ抽出液を、前記ダシ抽出液の固形分が0.3〜1.5質量%となるように、飲料用アルコール類に添加することが好ましい。
【0014】
ダシ抽出方法の1つとしては、前記ダシ原料を、60〜100℃の水、又は60〜100℃の水とエタノールとの混合溶媒に、1〜120分間浸漬して、前記ダシ抽出液を調製することが好ましい。
【0015】
また、ダシ抽出方法のもう1つとしては、前記ダシ原料を用い、40〜80℃の水、又は40〜80℃の水とエタノールとの混合溶媒を用いてカラム抽出することにより、前記ダシ抽出液を調製することが好ましい。
【0016】
更に、ダシ抽出方法のもう1つとしては、前記ダシ原料を用い、40〜90℃の水、又は40〜90℃の水とエタノールとの混合溶媒を用いてドリップ抽出することにより、前記ダシ抽出液を調製することが好ましい。
【0017】
更にまた、前記混合溶媒中のアルコール濃度が20%(W/V)以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、鰹節、マグロ節、昆布、椎茸、アガリクス等のダシ原料から調製されたダシ抽出液を添加することにより、香りと味の両面の嗜好性に優れた、新規なアルコール飲料を提供することができる。
【0019】
また、これらのダシ抽出液には、鰹節、マグロ節であればアンセリン、タウリン等のアミノ酸や核酸、昆布であればアルギン酸やフコイダン、椎茸やアガリクスであればβ―グルカン等の生理活性機能が知られる成分が豊富に含まれることから、これらの生理活性機能の付与も期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明に用いられるダシ原料は、特に制限されないが、例えば、あさり、シジミ、ホタテ等の貝類、エビ、カニ等の甲殻類、サバ節、イワシ節、マグロ節、鰹節等の節類、煮干、野菜類、昆布、椎茸、アガリクス等のキノコ類等が挙げられ、好ましくは鰹節、マグロ節、昆布、椎茸、アガリクスが用いられ、特に好ましくは、鰹節の中でも本枯節が用いられる。
【0021】
上記ダシ原料の抽出法としては、水又は、水とエタノールとの混合溶媒を用いた加熱抽出が好ましい。上記混合溶媒中のエタノール含量は20%(W/V)以下であることが好ましい。エタノール含量が20%を超えると、水溶性の呈味成分と比較して脂溶性の香気成分が多く抽出されてしまい、これをアルコール飲料に添加した場合、更に香気が強調されてしまい、風味のバランスが悪くなるため、好ましくない。特に鰹節の場合、脂肪の抽出率が高くなり、脂肪酸化臭や生臭みなどにより、風味が著しく損われる。
【0022】
抽出条件については、ダシ原料に応じて適宜決定すればよいが、例えばダシ原料1質量部に対して抽出溶媒3〜30質量部、好ましくは10〜20質量部を加えて、60〜100℃、好ましくは80〜100℃で1〜120分間抽出すればよい。特に鰹節の場合、花削りであれば抽出温度については、ダシ原料1質量部に対して抽出溶媒10〜30質量部、好ましくは10〜20質量部を加えて、80〜100℃、好ましくは90〜100℃で1〜3分間抽出することが好ましく、粗砕品や厚削りの場合はダシ原料1質量部に対して抽出溶媒3〜30質量部、好ましくは10〜20質量部を加えて、60〜100℃、好ましくは90〜100℃で10〜40分間抽出することが好ましい。
【0023】
また、ダシ原料の抽出法としては、カラム抽出を用いてもよい。例えば、ダシ原料をカラムに充填し、40〜80℃、好ましくは50〜70℃の抽出溶媒をSV=0.1〜2.5h‐1、好ましくはSV=0.4〜2.0h‐1、より好ましくは0.8〜1.2h‐1の流量でカラム下部より通液し、ダシ原料1質量部に対して1〜4質量部、好ましくは1〜2質量部を回収することにより、より高濃度のダシ抽出液を得ることができる。
【0024】
更に、ダシ原料の抽出法としては、ドリップ抽出を用いてもよい。例えば、ダシ原料をドリップ抽出用タンクに充填し、40〜90℃、好ましくは60〜90℃、より好ましくは60〜70℃の抽出溶媒をSV=0.4〜20h‐1、好ましくはSV=0.4〜2.5h‐1、より好ましくは0.8〜1.2h‐1の流量でタンク上部より通液し、ダシ原料1質量部に対して1〜20質量部、好ましくは1〜2質量部を回収することにより、より高濃度のダシ抽出液を得ることができる。
【0025】
上記ダシ抽出液を添加する飲料用アルコール類としては、例えば清酒、ワイン等の醸造酒、ウォッカ、ウィスキー、スピリッツ、焼酎等の蒸留酒、リキュール(リキュール類を含む)等の混成酒等が挙げられるが、本発明においては、焼酎、リキュール(リキュール類を含む)が特に好ましく用いられる。
【0026】
ダシ抽出液の添加量は、ダシ抽出液由来の固形分がアルコール飲料中に0.3〜1.5質量%含有されるようにすることが好ましく、0.5〜1.0質量%含有されるようにすることがより好ましい。ダシ抽出液の添加量が上記範囲よりも少ない場合は、ダシの風味があまり感じられず、また、ダシ抽出液の添加量が上記範囲よりも多い場合は、ダシの風味が酒類の風味よりも強くなり、アルコール飲料としての風味が損われるため好ましくない。
【実施例】
【0027】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明の内容はこれらに限定されるものではない。
【0028】
<実施例1>
市販の鰹節を用いて、表1に示す条件でダシの抽出を行った。得られたダシ抽出液をそれぞれ、市販の焼酎(甲類、アルコール度25%)に、ダシ抽出液3容量部に対して焼酎1容量部となるように混合して、アルコール飲料を調製した。得られたアルコール飲料を 6名のパネラーにより試飲して、味、香りについて4段階で評価した。評価は、各項目共に、良いほうから◎、○、△、×として、全パネラーの平均で表した。この結果を表1に示す。









































【0029】
【表1】

【0030】
枯節粗砕品を用いた例1〜4については、いずれも高い官能評価であったが、抽出後固形分0.5%(アルコール飲料に対して0.375%)では、ダシの風味がやや弱く感じられ、抽出後の固形分が2.0質量%(アルコール飲料に対して1.5質量%)ではダシの風味が酒類の風味よりもやや強く感じた。これらのアルコール飲料を摂取した後の所見として、通常の飲用している焼酎よりも頭痛や吐き気などのいわゆる悪酔いの症状が軽く感じられた。また、枯節の原体の形状が異なる例8、9においても同様の結果となった。
【0031】
一方、アルコールを添加してダシの抽出を行った例6、7では、エタノール25%の抽出溶媒を用いた場合には、味も弱く、香りも生臭みが強く美味しくなかった。
【0032】
抽出温度を下げた例5においては、鰹節の味はまずまずであったものの、生臭みが強く美味しくなかった。荒節粗砕品を用いた例10では、荒節の薫臭、風味が強く、焼酎の味が弱まってしまうため、官能評価としてはやや低くなった。
【0033】
<実施例2>
市販のマグロ節、昆布、椎茸、アガリクスを用いて、表2に示す条件でダシの抽出を行った。得られたダシ抽出液をそれぞれ市販の焼酎(甲類、アルコール度25%)に、ダシ抽出液3容量部に対して焼酎1容量部となるように混合して、アルコール飲料を調製した。得られたアルコール飲料を6名のパネラーにより試飲して、実施例1と同様に味、香りについて4段階で評価した。この結果を表2に示す。































【0034】
【表2】

【0035】
マグロ節、昆布を利用した例11、12では、非常に高い評価であり、椎茸、アガリクスについても、評価はやや低いが、通常に飲用可能なレベルであった。これらのアルコール飲料を摂取した後の所見として、通常の飲用している焼酎よりも頭痛や吐き気などのいわゆる悪酔いの症状が軽く感じられた。
【0036】
<実施例3>
市販の本枯節を用いて、カラム抽出を行いダシの抽出を行った。まず、粗砕した本枯節320gを80mlの水で湿潤させた後、カラムに充填し、カラムを加温して60℃で30分間保温した後、60℃の温水をSV=1.0h‐1でカラム下部より通液して、抽出液を回収し、固形分16質量%のダシ抽出液320mlを得た。
【0037】
得られたダシ抽出液を、市販の焼酎(甲類、アルコール度25%)に、ダシ抽出液0.2容量部に対して焼酎1容量部、水2.8容量部となるように混合して、アルコール飲料を調製した。得られたアルコール飲料を6名のパネラーにより試飲して、実施例1と同様に味、香りについて4段階で評価した。この結果を表3に示す。




































【0038】
【表3】

【0039】
実施例1同様、高い官能評価であり、これらのアルコール飲料を摂取した後の所見として、通常の飲用している焼酎よりも頭痛や吐き気などのいわゆる悪酔いの症状が軽く感じられた。
【0040】
<実施例4>
市販の本枯節を用いて、ドリップ抽出を行いダシの抽出を行った。まず、粗砕した本枯節320gを80mlの水で湿潤させた後、カラムに充填し、カラムを加温して60℃で30分間保温した後、60℃の温水をSV=1.0h‐1でカラム上部より通液して、抽出液を回収し、固形分16質量%のダシ抽出液320mlを得た。
【0041】
得られたダシ抽出液を、市販の焼酎(甲類、アルコール度25%)に、ダシ抽出液0.2容量部に対して焼酎1容量部、水2.8容量部となるように混合して、アルコール飲料を調製した。得られたアルコール飲料を6名のパネラーにより試飲して、実施例1と同様に味、香りについて4段階で評価した。この結果を表4に示す。


































【0042】
【表4】

【0043】
実施例1同様、高い官能評価であり、これらのアルコール飲料を摂取した後の所見として、通常の飲用している焼酎よりも頭痛や吐き気などのいわゆる悪酔いの症状が軽く感じられた。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明によれば、鰹節、マグロ節、昆布、椎茸、アガリクス等のダシ原料から得られた抽出液を含有し、香りと味の両面の嗜好性に優れ、また、これらのダシに含まれる生理機能性の付与が期待され、更に飲んだ後の体調もよく、「健康によく、かつ美味しくたくさん飲める」という新しいタイプのアルコール飲料を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダシ原料から、水又は水とエタノールとの混合溶媒を用いて抽出して得られたダシ抽出液を、飲料用アルコール類に添加することを特徴とするダシ入りアルコール飲料の製造方法。
【請求項2】
前記ダシ原料が鰹節、マグロ節、昆布、椎茸、アガリクスから選ばれた少なくとも1種以上である、請求項1記載のダシ入りアルコール飲料の製造方法。
【請求項3】
前記飲料用アルコール類が焼酎又はリキュールである請求項1又は2に記載のダシ入りアルコール飲料の製造方法。
【請求項4】
前記ダシ抽出液を、前記ダシ抽出液の固形分が0.3〜1.5質量%となるように、飲料用アルコール類に添加する請求項1〜3のいずれか1つに記載のダシ入りアルコール飲料の製造方法。
【請求項5】
前記ダシ原料を、60〜100℃の水、又は60〜100℃の水とエタノールとの混合溶媒に、1〜120分間浸漬して、前記ダシ抽出液を調製する請求項1〜4のいずれか1つに記載のダシ入りアルコール飲料の製造方法。
【請求項6】
前記ダシ原料を用い、40〜80℃の水、又は40〜80℃の水とエタノールとの混合溶媒を用いてカラム抽出することにより、前記ダシ抽出液を調製する請求項1〜4のいずれか1つに記載のダシ入りアルコール飲料の製造方法。
【請求項7】
前記ダシ原料を用い、40〜90℃の水、又は40〜90℃の水とエタノールとの混合溶媒を用いてドリップ抽出することにより、前記ダシ抽出液を調製する請求項1〜4のいずれか1つに記載のダシ入りアルコール飲料の製造方法。
【請求項8】
前記混合溶媒中のアルコール濃度が20%(W/V)以下である請求項1〜7のいずれか1つに記載のダシ入りアルコール飲料の製造方法。

【公開番号】特開2006−204202(P2006−204202A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−21370(P2005−21370)
【出願日】平成17年1月28日(2005.1.28)
【出願人】(390033145)焼津水産化学工業株式会社 (80)
【Fターム(参考)】