説明

ダストの電気抵抗率の測定方法

【課題】電気集塵装置の入口煙道において、実際に排気される実ガス中で、ダストの電気抵抗率を正しく把握できるダストの電気抵抗率の測定方法を提供する。
【解決手段】測定器の中心電極と主電極の間にダストを充填し、この電極間に電圧を加えて電極間に流れる電流から電気抵抗率を測定するダストの電気抵抗率の測定方法において、前記測定器のダスト充填部分を電気集塵装置の入口煙道の系内に臨ませ、測定器の裏面をフィルタを介して吸引ポンプに接続し、前記吸引ポンプで所定差圧で吸引することにより、前記測定器のダストに前記入口煙道の排ガスを浸透させ、前記電極間に流れる電流から電気抵抗率を測定することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダストの電気抵抗率の測定方法に係り、特に、火力発電所等の石炭焚きボイラなどから排出され電気集塵装置(EP)の入口煙道ダクトへ、流通される排ガス中に含まれるダストの電気抵抗率を測定する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
火力発電所等の排ガス中に含まれるダストの電気抵抗率は、電気集塵装置の集塵性能に大きく影響を及ぼすので、集塵される前の電気集塵装置の入口煙道などにおいて、正しく把握する必要がある。電気抵抗率が正確に把握されると集塵性能の推定が可能となり、電気集塵装置の最適運転が行え、また、新規の電気集塵装置については最適サイジングを選定することが出来る。
【0003】
電気抵抗率の測定方法は、実験室測定方法として、JIS B 9915−1989「ダストの見掛け電気抵抗率の測定方法」(以下、JIS法と称する)で制定されている。また、特許文献1に、集塵装置入口ダクト内において排ガス通気状態のダストの電気抵抗値を測定する技術が開示されており、特許文献2に、石炭焚きボイラのような燃焼炉における排ガス中に含まれるダストの電気抵抗を、現場において測定する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭61−142451号公報
【特許文献2】特開平11−169633号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、JIS法では、ダストを実験室に持ち帰り恒温・恒湿槽内で測定しているが、実験室への移送中の温度変化などによるダストの性状変化や、実機EP内と異なる実験室内のガス中成分の影響などから、実機EP内での電気抵抗率と差異が生じる恐れがある。また、特許文献1では、コロナ放電を流す条件で電気抵抗率を測定しているので、抵抗値の高い領域で例えば逆電離現象が生じる場合には正確な抵抗値が得られない恐れがあり、また、集塵されるダストの厚さが不均一になる等により正確に測定できない恐れがある。特許文献2では、煙道外に排ガスを抽気して捕集したダストで電気抵抗率を測定しているので、前記JIS法と異なり、実ガス中成分の影響を受ける実際の煙道での電気抵抗率が測定できるが、ダスト捕集部、嵩密度調整部等により装置が大がかりになる問題があった。
【0006】
本発明は、上記従来技術の問題点を解消し、電気集塵装置の入口煙道において、実際の排ガス中で、簡便な装置でダストの電気抵抗率を正しく把握できるダストの電気抵抗率の測定方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため本発明は、測定器の中心に配置した円柱状の中心電極とその周囲に配置した円環状の主電極の間にダストを充填し、この電極間に電圧を加えて電極間に流れる電流から電気抵抗率を測定するダストの電気抵抗率の測定方法において、
前記測定器のダスト充填部分を電気集塵装置の入口煙道の系内に臨ませ、測定器の裏面をフィルタを介して吸引ポンプに接続し、前記吸引ポンプで所定差圧で吸引することにより、前記測定器のダストに前記入口煙道の排ガスを浸透させ、前記電極間に流れる電流から電気抵抗率を測定することを特徴とする。
【0008】
また、上記に記載のダストの電気抵抗率の測定方法において、前記吸引ポンプで吸引する所定差圧は、0.2〜0.4kg/cmであることを特徴とする。また、上記に記載のダストの電気抵抗率の測定方法において、前記吸引ポンプで吸引する所定差圧は、約0.3kg/cmであることを特徴とする。また、上記記載のダストの電気抵抗率の測定方法において、前記測定器のダスト充填部分を電気集塵装置の入口煙道の系内に電気抵抗率の測定値が安定するまで保持させて、ダストの電気抵抗率を測定することを特徴とする。
【0009】
また、上記に記載のダストの電気抵抗率の測定方法は、前記ダスト充填部分を電気集塵装置の入口煙道の系内に1時間以上保持させて、ダストの電気抵抗率を測定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、電気集塵装置の入口煙道において、実際に排気される実ガス中で、ダストの電気抵抗率を正確に測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明実施例の測定場所の説明図。
【図2】同じく測定器の断面と測定状態を示す説明図。
【図3】同じく裏面が吸引パイプに接続された測定器の斜視図。
【図4】同じく測定器の内部構造を示す斜視図。
【図5】同じくダストが充填された測定器の斜視図。
【図6】同じく吸引ポンプの差圧とダストの電気抵抗率の関係の説明図。
【図7】同じく測定器の煙道系内の保持時間と電気抵抗率の関係の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図に基づいて本発明の実施例を説明する。本実施例のダストの電気抵抗率の測定は、円心円筒電極法によるものである。図1において、1は火力発電所等の石炭焚きボイラ、2は電気集塵装置(乾式EP)、3はボイラ1から排出された排ガス4を電気集塵装置2に送る入口煙道ダクトで、電気集塵装置2によりボイラ1から排出される排ガス4からダストが捕集されてホッパー2aに集積され、浄化された排ガス5が煙突(図示せず)から外部に排出される。
【0013】
6はダストの電気抵抗率を測定する測定器、7は測定器の裏面に接続された吸引パイプ、8は吸引パイプの先に接続された吸引ポンプで、吸引パイプ7の途中に圧力調整弁9が設けられている。測定器6は入口煙道3の横から測定座3aを介して入り込んで入口煙道の系内に臨ませて配置され、その裏面が吸引パイプ7を介して系外の吸引ポンプに接続されている。
【0014】
図2において測定器6を詳細に説明する。測定器6は図3、図4に示すように円盤状で中央に貫通孔を有して、その中心に絶縁材のガラスフィルタ63を介して中心電極61が配置され、中心電極61の周りに離間した状態で円環状の主電極62が配置されている。両電極61、62で囲まれる円環状の空間64はダストを充填する(後述)ダスト充填部となる。前記ガラスフィルタ63は、約16〜40μm程度の多数の細孔が設けられたフィルタであり、前記貫通孔を塞ぐように配置され、その中央に中心電極61が取付けられ、絶縁材とフィルタの機能を兼ねている。ガラスフィルタ63の裏面には前記吸引パイプ7が接続され、その先には前記圧力調整弁9と吸引ポンプ8が接続される。
【0015】
前記吸引パイプ7は、外周を保温材で覆われ内部にヒーターが備えられて、排ガスと同等の温度に維持されている。これは、測定器6から吸引パイプ7側への伝熱により測定器6の温度が排ガス温度より低くなるのを防止して、測定器に充填されたダストの温度を排ガス4の温度に維持するためである。
【0016】
測定に際しては、先ず、図5に示すように測定器6のダスト充填部64にダスト65が充填される。このダストは、例えば電気集塵装置2のホッパー2aに捕集されたダストを、実際の入口煙道ダクト3内の排ガスの温度と同一温度に設定された恒温ボックスに保管しておき、ダストが外気に触れない状態でこの恒温ボックス内でダストをダスト充填部64内に充填するか、またはダスト充填部64を煙道内に保持しながら吸引ポンプによる吸引を継続して、ダストが所定量捕集されるのを待って測定しても良い。
【0017】
すなわち、測定器6を電気集塵装置2の煙道3の系内に臨むように測定座3aから気密を保った状態で挿入し、排ガス4の矢印の流れに対し、ダスト充填部分64のダスト65が対向する向きに配置する。吸引パイプ7は測定座3aを通じて外側に導出される。次いで、この状態で測定器6の裏面からフィルタ63と吸引パイプ7を介して所定の差圧でポンプ8で吸引する。排ガス4の矢印方向の流れと吸引ポンプ8の動作とによって、ダスト65に含まれるガスが移動し、排ガス4がダスト65内に効率的に浸透していく。
【0018】
次いで、両電極61、62間に電圧を加えてダスト65の電気抵抗率が測定される。前述のように本実施例の測定は、円心円筒電極法により、中心電極61と主電極62の間にダストを充填し、両電極間に電圧を加えて主電極に流れる電流から超絶縁計(図示せず)を用いて抵抗値を求める。ダストの電気抵抗率は、上記抵抗値と中心電極61の半径、主電極62の半径及び厚さから算出することができる。また、ダストの電気抵抗率はダストの充填密度によって変化するので、測定中はダストの充填密度の均一化と、ダストを実際の排ガスの環境におくことを目的として、圧力調整弁9で圧力調整しながら吸引ポンプ8で測定器6のダスト65内を所定の差圧で実際の排ガスで通気している。
【0019】
図6は、JIS法と同じに雰囲気条件(温度、水分量)で測定した吸引ポンプの差圧とダストの電気抵抗率の関係を示し、併せて、JIS法による測定値も示したものである。圧力調整弁9で調整された差圧を横軸にとり、ダストの電気抵抗率を縦軸にとっている。図6によれば、ポンプ吸引差圧を0.2kg/cm以下にすると測定誤差が大となり、0.2kg/cm以上にすると測定誤差が小となる。これは0.2kg/cm以上で、ダストの充填密度が均一化され測定誤差が小さくなるためである。ポンプ吸引差圧が高いほど、ダストの充填密度が高くなり電気抵抗率は小さくなる。
【0020】
図6から、ポンプ吸引差圧を0.2〜0.4kg/cmの範囲で、本実施例の測定値が、同じ条件で測定したJIS法の測定値と同等になることが分かる。実用上は、ポンプ吸引差圧を上記差圧範囲の中間である0.3kg/cmにすると、測定点がJIS法の測定値の中間値となりその範囲から外れ難くなるため、より好ましい。
【0021】
図7は、測定器の煙道系内の保持時間とダストの電気抵抗率の関係の説明図である。測定器6を上記煙道3の系内に臨むように保持した時間を横軸にとり、ダストの電気抵抗率を縦軸にとっている。測定結果によれば、系内保持時間が1時間を過ぎるとダストの電気抵抗率がほぼ安定し、変化が少なくなる。これは、系内保持時間が1時間までは充填ダストへの排ガスの浸透及び測定器6の温度変化が継続し、1時間付近で安定するためと考えられる。したがって、1時間以上の経過状態でダストの電気抵抗率を測定すると、正確な測定ができることになる。
【0022】
図6と図7とから、本実施例では吸引ポンプの差圧を0.2〜0.4kg/cmの範囲(好ましくは0.3kg/cm)で、系内保持時間が1時間以上の状態でダストの電気抵抗率を測定すると、JIS法と同等の測定精度を得ることができる。さらに、測定器6に充填されるダストは、例えば、電気集塵装置2のホッパー2aに捕集されたダストを気密状態で排ガスの温度と同一温度で保管したものか、あるいは、煙道中に飛散してくるダストをそのまま捕集して用いるので、外気に触れて変成していない状態のダストを利用することで、測定値をより正確なものとすることが可能となる。
【0023】
上記ダストの電気抵抗率の測定は、例えば電気集塵装置の新設のとき、または既存の電気集塵装置で石炭の種類(産地)が変わるなどのときに行なわれる。そして測定結果は、新設の際は装置の適切サイジングの選定に利用でき、既存の電気集塵装置では効率運転の条件設定に利用できる。
【符号の説明】
【0024】
1…ボイラ、2…電気集塵装置、3…入口煙道、4…排ガス、6…測定器、7…吸引パイプ、8…吸引ポンプ、9…圧力調整弁、61…中心電極、62…主電極、63…フィルタ、64…ダスト充填部、65…充填ダスト。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定器の中心電極と主電極の間にダストを充填し、この電極間に電圧を加えて電極間に流れる電流から電気抵抗率を測定するダストの電気抵抗率の測定方法において、
前記測定器のダスト充填部分を電気集塵装置の入口煙道の系内に臨ませ、測定器の裏面をフィルタを介して吸引ポンプに接続し、前記吸引ポンプで所定差圧で吸引することにより、前記測定器のダストに前記入口煙道の排ガスを浸透させ、前記電極間に流れる電流から電気抵抗率を測定することを特徴とするダストの電気抵抗率の測定方法。
【請求項2】
請求項1に記載のダストの電気抵抗率の測定方法において、前記吸引ポンプで吸引する所定差圧は、0.2〜0.4kg/cmであることを特徴とするダストの電気抵抗率の測定方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載のダストの電気抵抗率の測定方法において、前記吸引ポンプで吸引する所定差圧は、約0.3kg/cmであることを特徴とするダストの電気抵抗率の測定方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のダストの電気抵抗率の測定方法において、前記測定器のダスト充填部分を電気集塵装置の入口煙道の系内に電気抵抗率の測定値が安定するまで保持させて、ダストの電気抵抗率を測定することを特徴とするダストの電気抵抗率の測定方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のダストの電気抵抗率の測定方法において、前記測定器のダスト充填部分を電気集塵装置の入口煙道の系内に1時間以上保持させて、ダストの電気抵抗率を測定することを特徴とするダストの電気抵抗率の測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−133319(P2011−133319A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−292543(P2009−292543)
【出願日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【出願人】(000005452)株式会社日立プラントテクノロジー (1,767)
【Fターム(参考)】