説明

ダブルラッシェル経編布帛

【課題】コース方向とウエール方向との伸縮性が略同等で椅子張地に使用して座り心地のよいダブルラッシェル経編地を得る。
【解決手段】複数種類の地糸によってダブルラッシェル経編布帛のベース編地を構成する。その複数種類の全ての地糸A1・A2・B1・B2をコース方向への移動方向が互いに逆向きとなる2つの群P・Qに分け、それぞれコース方向Xに1S(ウエール)以上移動してニードルループ11を形成する。複数種類の全ての地糸をポリエチレンテレフタレート繊維糸条とポリトリメチレンテレフタレート繊維糸条の何れか一方または双方の繊維糸条によって構成する。ポリエチレンテレフタレート繊維糸条とポリトリメチレンテレフタレート繊維糸条は、それぞれ複数種類の中の何れかの地糸に使用する。ベース編地に占めるポリエチレンテレフタレート繊維の比率を15〜65重量%とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベース編地を構成する地糸と、その地糸と一体になってニードルループを形成しつつベース編地に対する垂直方向に突き出たシンカーループを構成する隆起糸とから成るダブルラッシェル経編布帛に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリトリメチレンテレフタレート繊維は、伸縮性に富むことから、椅子張地、特に、車両座席用椅子張地に使用されるダブルラッシェル経編布帛等の織編布帛に好適と考えられている(例えば、特許文献1、2参照)。
【0003】
中でも、ポリエチレンテレフタレートを芯成分ポリマーとし、ポリトリメチレンテレフタレートを鞘成分ポリマーとする芯鞘複合繊維は、ポリトリメチレンテレフタレートの融点がポリエチレンテレフタレートよりも低く、芯鞘複合繊維相互間の熱融着が可能であることから、それを椅子張地に使用するときは、弛緩して形崩れや弛み皺が発生せず、絶えず張りのある緊張状態に保たれるものと期待されている(例えば、特許文献3、4、5参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2006−057192号公報
【特許文献2】特開2006−002305号公報
【特許文献3】特開2005−113279号公報
【特許文献4】特開2005−344225号公報
【特許文献5】特開2006−097170号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
然るに、ポリトリメチレンテレフタレート繊維は、ゴム糸やポリウレタン繊維(スパンデックス)のような弾性繊維ではなく、ポリエチレンテレフタレート繊維その他の一般の繊維に比して伸縮性に富むが故にセット性を欠き、それを使用したダブルラッシェル経編布帛は、ウエール方向に比してコース方向に伸び易く、そのコース方向とウエール方向の伸縮性がアンバランスなことからして、椅子張地として使用するときは身体に馴染み難く、座り心地の点で十分満足し得るものとは言い難い。
勿論、ポリトリメチレンテレフタレート繊維が熱融着性を有することから、ポリエチレンテレフタレートを芯成分ポリマーとしポリトリメチレンテレフタレートを鞘成分ポリマーとする芯鞘複合繊維糸条を使用したダブルラッシェル経編布帛では、それを高温加熱して熱セットすることも考えられるが、その場合には、ダブルラッシェル経編布帛が硬く仕上がって椅子張地に好適とは言い難くなる。
【0006】
そこで本発明は、ポリトリメチレンテレフタレート繊維糸条に比して伸縮性を欠くものの、セット性の点で優れたポリエチレンテレフタレート繊維糸条を併用してポリトリメチレンテレフタレート繊維糸条の伸縮性を抑え、ポリトリメチレンテレフタレート繊維糸条のセット性を補完し、コース方向とウエール方向との伸縮性を略同等にし、可撓で座り心地がよく、椅子張地に好適なダブルラッシェル経編地を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るダブルラッシェル経編布帛は、(a) ベース編地を構成する複数種類の地糸A1・A2・B1・B2と、複数種類の地糸の中の何れかの地糸のニードルループ11と一体になってニードルループ14を形成しつつベース編地から隆起したシンカーループ13を構成する隆起糸C・Dとから成るダブルラッシェル経編布帛において、(b)
複数種類の全ての地糸A1・A2・B1・B2が、コース方向Xに隣り合うウェールとウェールとの間隔Sで示される1S(ウエール)以上移動してニードルループ11を形成しており、(c) 複数種類の全ての地糸A1・A2・B1・B2がコース方向への移動方向が互いに逆向きとなるP群とQ群との2つの群P・Qに分けられており、(d) 複数種類の全ての地糸A1・A2・B1・B2が、ポリエチレンテレフタレート繊維糸条とポリトリメチレンテレフタレート繊維糸条の何れか一方または双方の繊維糸条によって構成されており、(e) 複数種類の何れかの地糸にポリエチレンテレフタレート繊維糸条が使用され、(f) 複数種類の何れかの地糸にポリトリメチレンテレフタレート繊維糸条が使用されており、(g) ベース編地に占めるポリエチレンテレフタレート繊維の比率が15〜65重量%であることを第1の特徴とする。
【0008】
本発明に係るダブルラッシェル経編布帛の第2の特徴は、上記第1の特徴に加えて、(h) 少なくとも何れかの地糸が、ポリエチレンテレフタレート繊維とポリトリメチレンテレフタレート繊維によって構成されており、(i) その地糸を構成するポリエチレンテレフタレート繊維とポリトリメチレンテレフタレート繊維が、ポリエチレンテレフタレートを芯成分ポリマーとし、ポリトリメチレンテレフタレートを鞘成分ポリマーとする芯鞘複合繊維を構成しており、(j) その鞘成分ポリマーが芯成分ポリマーに比して多い点にある。
【0009】
本発明に係るダブルラッシェル経編布帛の第3の特徴は、上記第2の特徴に加えて、(k) 少なくとも何れかの地糸が、ポリエチレンテレフタレートを芯成分ポリマーとし、ポリトリメチレンテレフタレートを鞘成分ポリマーとする芯鞘複合繊維糸条とポリエチレンテレフタレート繊維糸条との混繊糸である点にある。
【0010】
本発明に係るダブルラッシェル経編布帛の第4の特徴は、上記第3の特徴に加えて、(l) 全ての地糸A1・A2・B1・B2がポリエチレンテレフタレートを芯成分ポリマーとし、ポリトリメチレンテレフタレートを鞘成分ポリマーとする芯鞘複合繊維糸条とポリエチレンテレフタレート繊維糸条の混繊糸であり、(m) ベース編地に占めるポリエチレンテレフタレート繊維糸条の使用率が20〜40重量%であり、(n) 全ての地糸A1・A2・B1・B2の形成するニードルループ12が開き目である点にある。
【0011】
本発明に係るダブルラッシェル経編布帛の第5の特徴は、上記第1、第2、第3、第4の何れかの特徴に加えて、隆起糸C・Dの形成するシンカーループ13の先端が切断されてカットパイルを形成している点にある。
【0012】
本発明に係るダブルラッシェル経編布帛の第6の特徴は、上記第1、第2、第3、第4の何れかの特徴に加えて、ベース編地が二枚重ねになっており、その一方のベース編地と他方のベース編地が、隆起糸C・Dの構成するシンカーループ13によって連結されて二重経編地を構成している点にある。
【0013】
本発明に係るダブルラッシェル経編布帛の第7の特徴は、上記第1、第2、第3、第4、第5、第6の何れかの特徴に加えて、ダブルラッシェル経編布帛のウエール方向Yの伸び率(M)とコース方向(X)の伸び率(N)との比率(100×M/N)が100%±15%である点にある。
【0014】
本発明に係るダブルラッシェル経編布帛の第8の特徴は、上記第1、第2、第3、第4、第5、第6、第7の何れかの特徴に加えて、コース方向への移動方向が互いに逆向きとなるP群とQ群との2つの群の何れか一方の群Qの地糸B1(B2)のコース方向への移動距離LQ が、隣り合うウェールとウェールとのウェール間隔Sを単位として示される1〜2Sであり、他方の群Pの地糸A1(A2)のコース方向への移動距離LP が、その一方の群Qのコース方向への移動距離LQ よりも1〜3S多い点にある。
【発明の効果】
【0015】
本発明では、ポリエチレンテレフタレート繊維糸条(以下、PET繊維糸条と言う。)は、コース方向Xに1S(ウエール)以上移動してニードルループ11を形成している。このため、ダブルラッシェル経編布帛をウエール方向Yに緊張するときは、隣り合うウエールSとウエールSの間でジグザグに曲折しつつウエール方向Yに続いていたPET繊維糸条が、その曲折形態からウエール方向Yに真っ直ぐな直線形態に変形しようとする。
そして、全ての地糸A1・A2・B1・B2がコース方向Xへの移動方向が互いに逆向きとなる2つの群P・Qに分けられ、その一方の群Pの地糸A1(A2)がジグザグに形成するシンカーループ12aと他方の群Qの地糸B1(B2)がジグザグに形成するシンカーループ12bが、コース方向Xにおいて向かい合っていてウエール方向Yに弾性変形するパンタグラフ構造を構成し、PET繊維糸条がセット性に富むことからしてパンタグラフ構造の原形が維持される。このため、ダブルラッシェル経編布帛がウエール方向Yでの緊張から解放されるときは、伸縮性に富むポリトリメチレンテレフタレート繊維糸条(以下、PTT繊維糸条と言う。)とセット性に富むPET繊維糸条に促されて、シンカーループがジグザグに曲折した原形が回復される。
【0016】
特に、コース方向Xへの移動方向が互いに逆向きとなる一方の群Qの地糸B1(B2)のコース方向Xへの移動距離LQ を1〜2S(ウェール)とし、他方の群Pの地糸A1(A2)のコース方向Xへの移動距離LP を、その一方の群Qの移動距離LQ よりも1〜3S(ウェール)多くすると、それらのシンカーループ12b・シンカーループ12aの構成するパンタグラフ構造が左右対称形にならず、ウエール方向Yに緊張するとき、コース方向Xへの移動距離LQ の少ない一方の群Qの地糸B1(B2)のシンカーループ12bがウエール方向Yに一直線状に並ぶとしても、コース方向Xへの移動距離LP の多い他方の群Pの地糸A1(A2)のシンカーループ12aは、尚もウエール方向Yにジグザグに曲折した形状を保持するので、それら2つの群P・QのA1・A2・B1・B2の移動距離LP ・LQ が等しく、それらのシンカーループ12a・12bが左右対称形のパンタグラフ構造を構成する場合に比してダブルラッシェル経編布帛の形状安定性がよく、ウエール方向Yでの緊張から解放されたとき原形を回復し易くなる。
【0017】
又、全ての地糸A1・A2・B1・B2の形成するニードルループ12が開き目であれば、ウエール方向Yにジグザグに曲折して続く地糸A1・A2・B1・B2のシンカーループ12の部分だけではなく、そのニードルループ11の部分も膨張した輪奈形状から窄んだ直線形状に変化し易い。
そしてPET繊維糸条がPTT繊維糸条に比して伸縮性を欠き、それ故にPTT繊維糸条に比してセット性に富むが故に、本発明のダブルラッシェル経編布帛が伸縮するとしても、PTT繊維糸条だけで編成されたダブルラッシェル経編布帛ほどには伸縮しない。
【0018】
このようにウエール方向Yにジグザグに曲折して続くPET繊維糸条のシンカーループ12とニードルループ11が、伸縮性に富むPTT繊維糸条に促されてウエール方向Yに弾性的に伸縮し、PET繊維糸条も、そのセット性からして2つの群P・Qのシンカーループ12a・12bが構成するパンタグラフ構造を弾性的に維持する結果と思われるところ、本発明のダブルラッシェル経編布帛は、ウエール方向Yでの伸縮性とコース方向Xでの伸縮性が略同等になり、その両者のバランスがとれて、椅子張地に使用するときは、身動きに追随してウエール方向Yにもコース方向Xにも略同等に伸縮挙動し、その感触が座り心地のよいものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明を効果的に実施するためには、ベース編地に占めるPET繊維糸条の使用率を20〜40重量%とし、ダブルラッシェル経編布帛のウエール方向Yの伸び率(M)とコース方向(X)の伸び率(N)との比率(100×M/N)が100%±15%になるようにする。
【0020】
2つの群P・Qのシンカーループ12a・12bの構成するパンタグラフ構造が左右バランスを保って弾性的に伸縮変形するようにするために、そのコース方向への移動方向が互いに逆向きとなる一方の群Pの地糸A1(A2)と他方の群Qの地糸B1(B2)の繊維素材、単繊維繊度、総繊度などの物性品質に関する仕様を同じにする。
【0021】
本発明において地糸を構成するPET繊維糸条とPTT繊維糸条を、ポリエチレンテレフタレートを芯成分ポリマーとしポリトリメチレンテレフタレートを鞘成分ポリマーとする芯鞘複合繊維糸条(以下、PTT・PET芯鞘複合繊維糸条と言う。)とするのは、PTT繊維糸条とPET繊維糸条が互いに他方の短所を長所によって補完するようにするためである。そのためには、芯成分であるポリエチレンテレフタレートの占める比率を50%以下とし、そのポリトリメチレンテレフタレートに比して少量となるポリエチレンテレフタレート芯成分ポリマーの不足分を補填するために、PTT・PET芯鞘複合繊維糸条にPET繊維糸条を混繊する。
【0022】
尚、本発明において「PTT・PET芯鞘複合繊維糸条」とは、ポリエチレンテレフタレートをを芯成分ポリマーとしポリトリメチレンテレフタレートを鞘成分ポリマーとする芯鞘複合繊維に成る糸条を意味し、それにはポリエチレンテレフタレートを芯成分ポリマーとしポリトリメチレンテレフタレートを鞘成分ポリマーとする芯鞘複合モノフィラメント糸と、ポリエチレンテレフタレートを芯成分ポリマーとしポリトリメチレンテレフタレートを鞘成分ポリマーとする多数の芯鞘複合繊維に成るマルチフィラメント糸と紡績糸が包含され、ポリエチレンテレフタレート繊維に成る芯糸とポリトリメチレンテレフタレート繊維に成る鞘糸になる芯鞘複合糸条であるカバリング糸は、本発明に言う「PTT・PET芯鞘複合繊維糸条」には包含されない。
【0023】
ダブルラッシェル経編布帛は、二枚重ねに編成される上下のベース編地とベース編地の間を隆起糸C・Dで連結して二重構造に編成され、その一方のベース編地と他方のベース編地の間を連結している隆起糸C・Dのシンカーループ13を、その上下のベース編地とベース編地の間でカットすることによって、ベース編地から隆起糸C・Dがカットパイルとなって突き出た2枚のパイル地が上下二重になって得られる。
その二重構造を成すダブルラッシェル経編布帛における隆起糸C・Dは、通常「連結糸」と称される。カットパイルを形成している隆起糸C・Dは、通常「パイル糸」と称される。本発明では、その連結糸とパイル糸を総称するために「隆起糸」なる用語を使用している。
【0024】
ダブルラッシェル経編布帛がコース方向Xやウエール方向Yに伸縮しても、ベース編地から隆起したシンカーループ13を構成している隆起糸C・Dは、そのシンカーループ13においてコース方向Xやウエール方向Yにおける伸長応力や収縮応力からは解放されているので、ダブルラッシェル経編布帛の伸縮性には関与しない。従って、隆起糸C・Dの繊維素材、単繊維繊度、総繊度など物性品質は、任意に設定される。
PET繊維糸条、PTT繊維糸条およびPTT・PET芯鞘複合繊維糸条は、モノフィラメント糸または捲縮加工マルチフィラメント糸として構成するとよい。
【実施例】
【0025】
以下、実施例と比較例によって本発明の構成と効果を具体的に説明する。
実施例と比較例において、ダブルラッシェル経編布帛の伸び率は、次の手順で測定し算定される。
(1) ダブルラッシェル経編布帛からコース方向Xの寸法300mm・ウエール方向Yの寸法80mmのサイズのコース方向伸び率測定用試験片と、コース方向Xの寸法80mm・ウエール方向Yの寸法300mmのサイズのウエール方向伸び率測定用試験片を、それぞれ5枚採取する。
(2) 縦長の各試験片の長さ方向の中心点から上下にそれぞれ距離50mmの位置に標点を記入する。
(3) 縦長の各試験片の長さ方向の両端に掴み幅80mmの治具を取り付け、その治具の重量を含む10kgfの荷重を掛けて各試験片を縦長に吊るして10分間経過時点での上下の標点間の距離を測定する。
(4) 10分間経過時点での上下の標点間の距離(単位;mm)と吊るす前の上下の標点間の距離(100mm)との差を、吊るす前の上下の標点間の距離(100mm)で除した値に100を掛けてウエール方向Yの伸び率とコース方向Xの伸び率を算定する。
(5) コース方向伸び率測定用とウエール方向伸び率測定用との各5枚の伸び率算定値の中の最大値と最小値を除く3枚の試験片の伸び率算定値の平均値をもって、コース方向伸び率およびウエール方向伸び率とする。
【0026】
実施例と比較例において、PET繊維糸条、PTT繊維糸条およびPTT・PET芯鞘複合繊維糸条のセット性は、それらを使用して成るダブルラッシェル経編布帛の次の手順で測定し算定される伸び回復率によって評価される。
(1) ダブルラッシェル経編布帛からコース方向Xの寸法300mm・ウエール方向Yの寸法80mmのサイズのコース方向伸び回復率測定用試験片と、コース方向Xの寸法80mm・ウエール方向Yの寸法300mmのサイズのウエール方向伸び回復率測定用試験片を、それぞれ5枚採取する。
(2) 縦長の各試験片の長さ方向の中心点から上下にそれぞれ距離50mmの位置に標点を記入する。
(3) 縦長の各試験片の長さ方向の両端に掴み幅80mmの治具を取り付け、その治具の重量を含む10kgfの荷重を掛けて各試験片を縦長に吊るし、10分間経過時点で除重し、水平なテーブルに放置して10分間経過時点での上下の標点間の距離を測定する。
(4) テーブルに放置して10分間経過時点での上下の標点間の距離(単位;mm)と吊るす前の上下の標点間の距離(100mm)との差を、その吊るす前の上下の標点間の距離(100mm)で除した値に100を掛けてウエール方向Yの伸び回復率とコース方向Xの伸び回復率を算定する。
(5) コース方向伸び回復率測定用とウエール方向伸び回復率測定用との各5枚の伸回復び率算定値の中の最大値と最小値を除く3枚の試験片の伸び回復率算定値の平均値をもって、コース方向伸び回復率およびウエール方向伸び回復率とする。
【0027】
[実施例]
[表1]と[表2]に示す4種類の地糸A1・A2・B1・B2をコース方向への移動方向が互いに逆向きとなるP群とQ群との2つの群P・Qに分け、第1筬(L1 )と第2筬(L2 )と第3筬(L3 )と第4筬(L4 )と第5筬(L5 )と第6筬(L6 )との合計6枚の筬をパック側からフロント側へと順次配備したダブルラッシェル経編機の第1筬(L1 )に群Pの地糸A1(PTT・PET芯鞘複合繊維捲縮加工マルチフィラメント糸とPET繊維捲縮加工マルチフィラメント糸との混繊糸)を導入し、第5筬(L5 )に群Qの地糸B2(PTT・PET芯鞘複合繊維捲縮加工マルチフィラメント糸とPET繊維捲縮加工マルチフィラメント糸との混繊糸)を導入し、第6筬(L6 )に群Qの地糸A2(PTT・PET芯鞘複合繊維捲縮加工マルチフィラメント糸とPET繊維捲縮加工マルチフィラメント糸との混繊糸)を導入し、図2に示す編組織に従って2種類の地糸A1・B1によって上側のベース編地と、2種類の地糸A2・B2によって下側のベース編地を二枚重ねに編成しつつ、[表1]と[表2]に示す2種類の隆起糸C(PTT・PET芯鞘複合繊維捲縮加工マルチフィラメント糸)と隆起糸D(PET繊維捲縮加工マルチフィラメント糸)を第3筬(L3 )と第4筬(L4 )にそれぞれ導入し、図2に示す編組織に従って構成される隆起糸C・Dのシンカーループによって上側のベース編地と下側のベース編地を連結してダブルラッシェル経編布帛を二重構造に編成し、それら上下のベース編地とベース編地の間で隆起糸C・Dのシンカーループを切断し、その隆起糸C・Dのシンカーループによってカットパイルが形成された2枚のダブルラッシェル経編パイル布帛を得る。
【0028】
図2において、第1筬(L1 )は、3−2/1−1/0−1/2−2/………と続く編組織を形成する。第2筬(L2 )は、0−1/1−1/2−1/1−1/………と続く編組織を形成する。第3筬(L3 )は、1−2/0−1/1−0/2−1/………と続く編組織を形成する。第4筬(L4 )は、1−2/0−1/1−0/2−1/………と続く編組織を形成する。第5筬(L5 )は、1−1/0−1/1−1/2−1/………と続く編組織を形成する。第6筬(L6 )は、2−2/3−2/1−1/0−1/………と続く編組織を形成する。
【0029】
[比較例1]
[表1]と[表2]に示す4種類の地糸A1・A2・B1・B2をP群とQ群との2つの群P・Qに分け、第1筬(L1 )と第2筬(L2 )と第3筬(L3 )と第4筬(L4 )と第5筬(L5 )と第6筬(L6 )との合計6枚の筬をパック側からフロント側へと順次配備したダブルラッシェル経編機の第1筬(L1 )に地糸A1(PTT・PET芯鞘複合繊維捲縮加工マルチフィラメント糸とPET繊維捲縮加工マルチフィラメント糸との混繊糸)を導入し、第2筬(L2 )に地糸B1(PTT・PET芯鞘複合繊維捲縮加工マルチフィラメント糸とPET繊維捲縮加工マルチフィラメント糸との混繊糸)を導入し、第5筬(L5 )に地糸B2(PTT・PET芯鞘複合繊維捲縮加工マルチフィラメント糸とPET繊維捲縮加工マルチフィラメント糸との混繊糸)を導入し、第6筬(L6 )に地糸A2(PTT・PET芯鞘複合繊維捲縮加工マルチフィラメント糸とPET繊維捲縮加工マルチフィラメント糸との混繊糸)を導入し、図3に示す編組織に従って2種類の地糸A1・B1によって上側のベース編地と、2種類の地糸A2・B2によって下側のベース編地を二枚重ねに編成しつつ、[表1]と[表2]に示す2種類の隆起糸C(PTT・PET芯鞘複合繊維捲縮加工マルチフィラメント糸)と隆起糸D(PET繊維捲縮加工マルチフィラメント糸)を第3筬(L3 )と第4筬(L4 )にそれぞれ導入し、図3に示す編組織に従って構成される隆起糸C・Dのシンカーループによって上側のベース編地と下側のベース編地を連結してダブルラッシェル経編布帛を二重構造に編成し、それら上下のベース編地とベース編地の間で隆起糸C・Dのシンカーループを切断し、その隆起糸C・Dのシンカーループによってカットパイルが形成された2枚のダブルラッシェル経編パイル布帛を得る。
【0030】
図3において、第1筬(L1 )は、5−5/0−0/0−0/5−5/………と続く編組織を形成する。第2筬(L2 )は、0−1/1−1/1−0/0−0/………と続く編組織を形成する。第3筬(L3 )は、1−2/0−1/1−0/2−1/………と続く編組織を形成する。第4筬(L4 )は、1−2/0−1/1−0/2−1/………と続く編組織を形成する。第5筬(L5 )は、0−0/0−1/1−1/1−0/………と続く編組織を形成する。第6筬(L6 )は、5−5/5−5/0−0/0−0/………と続く編組織を形成する。
【0031】
[比較例2]
[表1]と[表2]に示す4種類の地糸A1・A2・B1・B2をP群とQ群との2つの群P・Qに分け、第1筬(L1 )と第2筬(L2 )と第3筬(L3 )と第4筬(L4 )と第5筬(L5 )と第6筬(L6 )との合計6枚の筬をパック側からフロント側へと順次配備したダブルラッシェル経編機の第1筬(L1 )に地糸A1(PTT・PET芯鞘複合繊維捲縮加工マルチフィラメント糸とPET繊維捲縮加工マルチフィラメント糸との混繊糸)を導入し、第2筬(L2 )に地糸B1(PTT・PET芯鞘複合繊維捲縮加工マルチフィラメント糸とPET繊維捲縮加工マルチフィラメント糸との混繊糸)を導入し、第5筬(L5 )に地糸B2(PTT・PET芯鞘複合繊維捲縮加工マルチフィラメント糸)を導入し、第6筬(L6 )に地糸A2(PTT・PET芯鞘複合繊維捲縮加工マルチフィラメント糸)を導入し、図4に示す編組織に従って2種類の地糸A1・B1によって上側のベース編地と、2種類の地糸A2・B2によって下側のベース編地を二枚重ねに編成しつつ、[表1]と[表2]に示す2種類の隆起糸C(PETモノフィラメント糸)と隆起糸D(PTT・PET芯鞘複合繊維捲縮加工マルチフィラメント糸)を第3筬(L3 )と第4筬(L4 )にそれぞれ導入し、図4に示す編組織に従って構成される隆起糸C・Dのシンカーループによって上側のベース編地と下側のベース編地を連結して二重構造のダブルラッシェル経編布帛を得る。
【0032】
図4において、第1筬(L1 )は、4−5/4−4/3−2/3−3/4−5/3−3/2−3/1−1/1−0/1−1/2−3/2−2/1−0/2−2/3−2/4−4/………と続く編組織を形成する。第2筬(L2 )は、1−0/1−1/2−3/2−2/1−0/2−2/3−2/4−4/4−5/4−4/3−2/3−3/4−5/3−3/2−3/1−1/………と続く編組織を形成する。第3筬(L3 )は、0−1/1−2/2−1/1−0/………と続く編組織を形成する。第4筬(L4 )は、0−1/1−2/2−1/1−0/………と続く編組織を形成する。第5筬(L5 )は、0−0/0−1/1−1/1−0/………と続く編組織を形成する。第6筬(L6 )は、2−2/4−3/2−2/0−1/………と続く編組織を形成する。
【0033】
[比較例3]
[表1]と[表2]に示す4種類の地糸A1・A2・B1・B2をP群とQ群との2つの群P・Qに分け、第1筬(L1 )と第2筬(L2 )と第3筬(L3 )と第4筬(L4 )と第5筬(L5 )と第6筬(L6 )との合計6枚の筬をパック側からフロント側へと順次配備したダブルラッシェル経編機の第1筬(L1 )に地糸A1(PET繊維捲縮加工マルチフィラメント糸)を導入し、第2筬(L2 )に地糸B1(PET繊維捲縮加工マルチフィラメント糸)を導入し、第5筬(L5 )に地糸B2(PET繊維捲縮加工マルチフィラメント糸)を導入し、第6筬(L6 )に地糸A2(PET繊維捲縮加工マルチフィラメント糸)を導入し、図2に示す編組織に従って2種類の地糸A1・B1によって上側のベース編地と、2種類の地糸A2・B2によって下側のベース編地を二枚重ねに編成しつつ、[表1]と[表2]に示す2種類の隆起糸C(PET繊維捲縮加工マルチフィラメント糸)と隆起糸D(PET繊維捲縮加工マルチフィラメント糸)を第3筬(L3 )と第4筬(L4 )にそれぞれ導入し、図2に示す編組織に従って構成される隆起糸C・Dのシンカーループによって上側のベース編地と下側のベース編地を連結してダブルラッシェル経編布帛を二重構造に編成し、それら上下のベース編地とベース編地の間で隆起糸C・Dのシンカーループを切断し、その隆起糸C・Dのシンカーループによってカットパイルが形成された2枚のダブルラッシェル経編パイル布帛を得る。
【0034】
[考察]
[表1]と[表2]に示す実施例と比較例1のダブルラッシェル経編布帛のベース編地のPET繊維糸条の使用率は共に28重量%であり、両者の伸び回復率は略同じになっている。実施例と比較例1のダブルラッシェル経編布帛のベース編地のPET繊維糸条の使用率が、比較例3のダブルラッシェル経編布帛のベース編地のPET繊維糸条の使用率(100重量%)よりも遥かに少ないにも拘らず、実施例と比較例1の伸び回復率は比較例3のダブルラッシェル経編布帛の伸び回復率と略同じになっている。
このことからして、PET繊維糸条に代えてPTT繊維糸条をダブルラッシェル経編布帛のベース編地の地糸に使用する場合、それをPET繊維糸条と併用するときは、伸び回復率に関しては格別問題になることはないことが分かる。
【0035】
一方、ダブルラッシェル経編布帛のベース編地の伸び率に関し、実施例のダブルラッシェル経編布帛のウエール方向Yの伸び率Mとコース方向Xの伸び率Nは略同等であり、それらの伸び率(M・N)の比率は110%であるが、比較例1〜3ではウエール方向Yの伸び率Mとコース方向Xの伸び率Nとの比率(57〜74%)は実施例に比して低い。
比較例3のウエール方向Yの伸び率Mとコース方向Xの伸び率Nとの比率(74%)が実施例に比して低いことから、ウエール方向Yの伸び率Mとコース方向Xの伸び率Nを同等にするためには、PET繊維糸条に代えてPTT繊維糸条を使用することが有効であることが分かる。
又、比較例1・2のウエール方向Yの伸び率Mとコース方向Xの伸び率Nとの比率(57〜66%)が実施例に比して低いことから、ウエール方向Yの伸び率Mとコース方向Xの伸び率Nを同等にするためにPET繊維糸条に代えてPTT繊維糸条を使用する場合において、本発明(実施例)が有効であることが分かる。
尚、比較例2のダブルラッシェル経編布帛において、地糸A1と地糸B1は、開口部がそれら地糸A1と地糸B1の編目で囲まれたポーラスなメッシュ(ネット)状のベース編地を構成しており、ダブルラッシェル経編布帛の伸縮性(伸び回復率)には殆ど関与していない。
【0036】
上記の通り、実施例と比較例1〜3のダブルラッシェル経編布帛の比較において、本発明によると、コース方向とウエール方向との伸縮性が略同等で、椅子張地に使用して座り心地のよいダブルラッシェル経編地が得られることが確認された。
【0037】
【表1】

【0038】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明に係るダブルラッシェル経編布帛の拡大図である。
【図2】ダブルラッシェル経編布帛の編組織図である。
【図3】ダブルラッシェル経編布帛の編組織図である。
【図4】ダブルラッシェル経編布帛の編組織図である。
【符号の説明】
【0040】
11:地糸のニードルループ
12:地糸のシンカーループ
13:隆起糸のシンカーループ
14:隆起糸のニードルループ
X :コース方向
Y :ウエール方向
A :地糸
B :地糸
C :隆起糸
D :隆起糸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a) ベース編地を構成する複数種類の地糸(A1・A2・B1・B2)と、複数種類の地糸の中の何れかの地糸のニードルループ(11)と一体になってニードルループ(14)を形成しつつベース編地から隆起したシンカーループ(13)を構成する隆起糸(C・D)とから成るダブルラッシェル経編布帛において、
(b) 複数種類の全ての地糸(A1・A2・B1・B2)が、コース方向(X)に隣り合うウェールとウェールとの間隔Sで示される1S(ウエール)以上移動してニードルループ(11)を形成しており、
(c) 複数種類の全ての地糸(A1・A2・B1・B2)がコース方向への移動方向が互いに逆向きとなるP群とQ群との2つの群P・Qに分けられており、
(d) 複数種類の全ての地糸(A1・A2・B1・B2)が、ポリエチレンテレフタレート繊維糸条とポリトリメチレンテレフタレート繊維糸条の何れか一方または双方の繊維糸条によって構成されており、
(e) 複数種類の何れかの地糸にポリエチレンテレフタレート繊維糸条が使用され、
(f) 複数種類の何れかの地糸にポリトリメチレンテレフタレート繊維糸条が使用されており、
(g) ベース編地に占めるポリエチレンテレフタレート繊維の比率が15〜65重量%であるダブルラッシェル経編布帛。
【請求項2】
(h) 少なくとも何れかの地糸が、ポリエチレンテレフタレート繊維とポリトリメチレンテレフタレート繊維によって構成されており、
(i) その地糸を構成するポリエチレンテレフタレート繊維とポリトリメチレンテレフタレート繊維が、ポリエチレンテレフタレートを芯成分ポリマーとし、ポリトリメチレンテレフタレートを鞘成分ポリマーとする芯鞘複合繊維を構成しており、
(j) その鞘成分ポリマーが芯成分ポリマーに比して多い前掲請求項1に記載のダブルラッシェル経編布帛。
【請求項3】
(k) 少なくとも何れかの地糸が、ポリエチレンテレフタレートを芯成分ポリマーとし、ポリトリメチレンテレフタレートを鞘成分ポリマーとする芯鞘複合繊維糸条とポリエチレンテレフタレート繊維糸条との混繊糸である前掲請求項2に記載のダブルラッシェル経編布帛。
【請求項4】
(l) 全ての地糸(A1・A2・B1・B2)がポリエチレンテレフタレートを芯成分ポリマーとし、ポリトリメチレンテレフタレートを鞘成分ポリマーとする芯鞘複合繊維糸条とポリエチレンテレフタレート繊維糸条の混繊糸であり、
(m) ベース編地に占めるポリエチレンテレフタレート繊維糸条の使用率が20〜40重量%であり、
(n) 全ての地糸(A1・A2・B1・B2)の形成するニードルループ(12)が開き目である前掲請求項3に記載のダブルラッシェル経編布帛。
【請求項5】
(o) 隆起糸(C・D)の形成するシンカーループ(13)の先端が切断されてカットパイルを形成している前掲請求項1と2と3と4の何れかに記載のダブルラッシェル経編布帛。
【請求項6】
(p) ベース編地が二枚重ねになっており、その一方のベース編地と他方のベース編地が、隆起糸(C・D)の構成するシンカーループ(13)によって連結されて二重経編地を構成している前掲請求項1と2と3と4の何れかに記載のダブルラッシェル経編布帛。
【請求項7】
(q) ダブルラッシェル経編布帛のウエール方向Yの伸び率(M)とコース方向(X)の伸び率(N)との比率(100×M/N)が100%±15%である前掲請求項1と2と4と5と6の何れかに記載のダブルラッシェル経編布帛。
【請求項8】
(r) コース方向(X)への移動方向が互いに逆向きとなるP群とQ群との2つの群の何れか一方の群Qの地糸(B1・B2)のコース方向への移動距離(LQ )が、隣り合うウェールとウェールとのウェール間隔Sを単位として示される1〜2Sであり、他方の群Pの地糸(A1・A2)のコース方向への移動距離(LP )が、その一方の群Qのコース方向(X)への移動距離(LQ )よりも1〜3S多い前掲請求項1と2と4と5と6と7の何れかに記載のダブルラッシェル経編布帛。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−68152(P2009−68152A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−240487(P2007−240487)
【出願日】平成19年9月18日(2007.9.18)
【出願人】(000148151)株式会社川島織物セルコン (104)
【Fターム(参考)】