説明

ダム堆砂の排砂方法

【課題】ダム堆砂を排砂するための有効適切な排砂方法を提供する。
【解決手段】貯砂ダム10の湖底面に函体を沈設して仮設立坑14を設置する工程と、排砂トンネル13の先端部から仮設立坑に向けて推進工法により推進管31を築造して先端部を函体に対して切り離し可能に連結する工程と、排砂トンネル内から排砂管12を推進管内に挿入する工程と、函体と推進管とを切り離して仮設立坑を撤去する工程と、排砂管の先端部をダム湖の水面上に浮上させる工程と、ダム湖の湖面上において排砂管の先端部に土砂吸引装置を接続して沈設する工程と、土砂吸引装置により堆砂を吸引して排砂管12を通して排砂トンネル13の先端部に放流する工程からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダム湖の湖底面に堆積した堆砂を排出するための排砂方法に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、ダム湖に多量の堆砂が生じると上流部の河床上昇や貯水容量の減少などの問題が発生するため、多くのダムで堆砂の排出が必要とされている。
【0003】
ダム湖からの堆砂の排砂方法としては、たとえば特許文献1〜4に示されるように、湖面上から浚渫を行う、ダム堤体に排砂管を貫通させて堆砂を下流側に流出させる、堆砂を吸引管により吸引してサイホン作用を利用して排出する、といった様々な手法が提案されている。
【0004】
図15は吸引方式による排砂方法の一例を示すもので、貯砂ダム1のダム湖底面に排砂管2を沈設してその基端部にバルブ室3を設け、バルブを開放することにより水位差を利用したサイホン作用によって排砂管2の先端の吸引孔4から堆砂5を水とともに吸い込み、連絡トンネル6から排砂トンネル7を通して下流側まで搬送するようにしたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平1−142114号公報
【特許文献2】特許第4114512号公報
【特許文献3】特許第4411418号公報
【特許文献4】特許第4511416号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記のような従来の各種の排砂方法は、図15に示したものも含めて、利水上の障害が生じるものであったり、排砂のための設備の築造が困難であったり、あるいは排砂設備を築造するために膨大な費用と工期を要する、といった問題があり、十分に有効な手法はいまだに確立されていないというのが実状である。
【0007】
上記事情に鑑み、本発明はダム堆砂を排砂するための有効適切な排砂方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、本体ダムの上流に設けられた貯砂ダムの湖底面に堆積した堆砂を該貯砂ダムの近傍まで設けられた排砂トンネルの先端部に放流して該排砂トンネルを通して前記本体ダムの下流側まで排砂するための方法であって、前記貯砂ダムの湖底面に函体を沈設して仮設立坑を設置する工程と、前記排砂トンネルの先端部から前記仮設立坑に向けて推進工法により推進管を築造し、該推進管の先端部を前記仮設立坑の底部に到達せしめて前記函体に対して切り離し可能に連結する工程と、少なくとも先端部が可撓性を有するとともに先端が封止された排砂管を前記排砂トンネルの先端部から前記推進管内に挿入して、該排砂管の先端を前記函体の手前位置まで到達せしめる工程と、前記函体と前記推進管とを切り離して前記仮設立坑の全体を前記ダム湖の水面上に浮上させて撤去する工程と、前記排砂トンネルの先端部から前記排砂管を前記ダム湖内に繰り出してその先端部を前記ダム湖の水面上に浮上させる工程と、前記ダム湖の湖面上において前記排砂管の先端部に土砂吸引装置を接続して該土砂吸引装置を前記ダム湖の湖底面に沈設する工程と、前記土砂吸引装置により前記ダム湖の湖底面から堆砂を吸引して前記排砂管を通して前記排砂トンネルの先端部に放流する工程とからなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の排砂方法によれば、仮設立坑の施工は必要であるもののダム湖の水面上からの作業と排砂トンネル内からの作業のみで排砂管を支障なく施工することが可能であり、従来においては不可欠であった締め切り工の設置と水面下での作業を省略可能であるから、排砂のための設備を安全かつ効率的に施工することが可能であって貯砂ダムからの排砂作業を低コストかつ短期間で実施することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の排砂方法の実施形態を工程順に示す図である。
【図2】本発明の排砂方法の実施形態を工程順に示す図である。
【図3】本発明の排砂方法の実施形態を工程順に示す図である。
【図4】本発明の排砂方法の実施形態を工程順に示す図である。
【図5】本発明の排砂方法の実施形態を工程順に示す図である。
【図6】本発明の排砂方法の実施形態を工程順に示す図である。
【図7】本発明の排砂方法の実施形態を工程順に示す図である。
【図8】本発明の排砂方法の実施形態を工程順に示す図である。
【図9】本発明の排砂方法の実施形態を工程順に示す図である。
【図10】本発明の排砂方法の実施形態を工程順に示す図である。
【図11】図3におけるXI部の拡大図である。
【図12】図5におけるXII部の拡大図である。
【図13】図5におけるXIII部の拡大図である。
【図14】図6におけるXIV部の拡大図である。
【図15】従来の排砂方法の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施形態を図1〜図14を参照して説明する。
本実施形態の排砂方法は、図示しない本体ダムの上流側に設けられている貯砂ダム10を対象として、そのダム湖底面に堆積した堆砂11を本体ダムの下流側まで排出する場合の適用例であって、最終的には図10に示すように湖底面に設置した排砂管12(これは図15に示した従来の吸引方式による場合における排砂管2に相当するものである)の先端から堆砂11を水とともに吸引して、この貯砂ダム10の近傍まで築造されている排砂トンネル13(これは図15に示した従来の吸引方式による場合の排砂トンネル7に相当するものである)に放流し、その排砂トンネル13を通して堆砂11を本体ダムの下流側まで自然流下させて排砂するようにしたものである。
【0012】
そのため、本実施形態では直径10m程度の排砂トンネル13を貯砂ダム10の近傍位置まで築造したうえで、あるいはその排砂トンネル13が既に築造されている場合にはそれをそのまま利用して、その排砂トンネル13の先端部と湖底面との間をたとえば直径1m程度、延長1km程度の排砂管12により連絡する必要がある。
この場合、上記の排砂トンネル13はNATM工法等の通常のトンネル工法により支障なく築造可能(あるいは上記のように既存の排砂トンネル13がある場合はそれをそのまま利用可能)であるが、湖底面への排砂管12の施工に際しては通常であれば締め切り工を施工して湖底面での作業が不可避であって効率的な作業が望めないことから、本実施形態では締め切り工を省略して排砂管12を以下の工程により施工することを主眼とする。
【0013】
まず、図1〜図3に示すように、施工するべき排砂管12の先端部の位置に対して仮設立坑14を設置する。
すなわち、図1に示すように円形断面の函体15を湖面上に浮かべ、その上部に側壁部を順次継ぎ足して上方に延長しつつ、内部に水を注入して浮力を調整して沈設していき、最終的に図2に示すように湖底面に着底させて頂部が水面上に突出する状態で仮設立坑14を設置する。
さらに、図3に示すように函体15内の底部に埋土16を投入して安定させるとともに、函体15の周囲にも少なくとも後段において排砂管12を施工する範囲には埋土16を行う。その埋土16は湖底面に堆積している排砂対象の堆砂11を浚渫して利用すれば良い。
なお、仮設立坑14内はドライとする必要はなく、内部水位は湖水面と同レベルとしておけば良い。
【0014】
上記の函体15は通常のケーソンと同様に鋼板製あるいはコンクリート製とすることで良いが、この函体15には後段において掘削機30が到達する(図4参照)ので、図11に示すように到達部17の内側には掘削機30を受け入れるためのエントランス部18を設けておくとともに、到達部17を掘削機30自身により切削可能とするために鋼板や鉄筋に代えてたとえば樹脂系の素材を用いて形成しておく。
また、掘削機30が到達した後にはその到達部17に推進管31が貫通状態で設置されるので、エントランス部18の内側には止水機構19を設けてそこでの止水性を確保する必要がある。その止水機構19としては、たとえば図11に示すように環状のエアーバッグ20を膨張させることでエントランス部18の内周部を全周にわたって水密裡にシールする構成のものが好適に採用可能であり、そのエアーバッグ20を膨張させるためには水面上から加圧空気を供給するための空気管21を水面上に引き出しておけば良い。
なお、函体15の底部には掘削機30の到達時にその位置決めとなるストッパー22を設けておくと良い。
【0015】
上記の函体15による仮設立坑14を設置した後、図4に示すように、排砂トンネル13の先端部から仮設立坑14の底部に向けて掘削機30を発進させて推進工法による推進管31を施工する。
すなわち、排砂トンネル13の先端部からローラカッタを備えた掘削機30を発進させるとともに、その後方に推進管31を順次連結してジャッキ32により押し出し、それを繰り返して推進管31を前方に延長していく。
そして、掘削機30が仮設立坑14の底部に到達したら、上記のように掘削機30自身で到達部17を切削してエントランス部18から仮設立坑14内に進入させてストッパー22の位置で停止させ、それにより推進管31の先端部を函体15内に貫通させるとともに、図12に示すようにその貫通部を上記の止水機構19により水密裡にシールする。
【0016】
なお、後述するように推進管31の先端部は後段において函体15の外側位置で切り離す必要があり(図6参照)、かつその切り離し部から仮設立坑14内に水の流入を防止する必要があるので、そのための蓋体33を推進管31の先端部に予め装着しておく。
そのための具体的な構成としては、たとえば図12に示すように無底有蓋円筒状の蓋体33を前方にスライド可能な状態で切り離し部に跨る位置に予め装着しておくとともに、その前方にストッパー34を取り付けておき、かつ推進管31の後端部には水を加圧注水するための注水管35(図4参照)を設けておいて、排砂トンネル13内からその注水管35を通して推進管31内に水を加圧注水することにより、蓋体33をストッパー34の位置まで前方にスライドさせることで推進管31を切り離し可能に構成しておくと良い。
【0017】
以上の工程により推進管31を施工した後、図5に示すように排砂トンネル13の先端部から推進管31内に排砂管12を挿入する。排砂管12は後段において排砂トンネル13内から前方に押し出して先端部を水面上に浮上させる必要があるので、そのような押し出しが可能な程度の剛性を有するとともに少なくとも先端部は水面上に浮上可能な程度の可撓性を有する柔軟なパイプ材を使用し、その先端はプラグ36により水密裡に封止しておく。
【0018】
排砂管12の先端を上記の蓋体33の位置まで挿入した後、排砂管12の後端部に図13に示すように環状のシール材37を装着して推進管31の内面との間の隙間を水密裡にシールするとともに、そのシール材37を排砂管12と一体に推進管31に対して摺動可能としておく。
【0019】
そして、上述したように、推進管31の後端部に設けておいた上記の注水管35から推進管31内(すなわち推進管31の内面と排砂管12の外面との間の隙間)に水を加圧注水することにより、その水圧によって蓋体33を図12に示した状態から図14に示すようにストッパー34に突き当たるまで前方にスライドさせ、それにより推進管31をその位置で切り離すと同時に、仮設立坑14に接続されている推進管31を蓋体33により水密裡に封止して仮設立坑14内への水の流入を防止する。
この切り離し操作により推進管31と排砂管12との間の隙間には水が流入するが、その隙間は排砂管12の後端部において上記のシール材37により封止されているので排砂トンネル13内にまで流入することはない。勿論、排砂管12の先端はプラグ36により封止されているので排砂管12内に水が流入することもない。
【0020】
そこで、図6に示すように、仮設立坑14内から排水を行って浮力を調整するとともに、必要に応じて埋土16を搬出するとともにバランサー38を設置して安定姿勢を保持しつつ、図7に示すように仮設立坑14全体をその内部に残置されている掘削機30とともに水面上に浮上させていって、その全体を順次解体し撤去する。
【0021】
引き続いて、図8に示すように、排砂トンネル13内から、排砂管12の後端部を延長しては排砂管12全体をジャッキ39により前方に繰り出していき、排砂管12の先端部を水面上に浮上させる。その際、排砂管12の後端部は上記のシール材37により推進管31に対して水密裡かつ摺動自在に支持されているので、排砂トンネル13内への水の流入を防止しつつ排砂管12の繰り出し作業を支障なく行うことが可能である。
【0022】
図9に示すように排砂管12の先端部を水面上に浮上させたら、水面上での作業によりプラグ36を取り外してそこに土砂吸引装置40を接続するとともにウエイト41を装着し、図10に示すようにウエイト41の調整により排砂管12の先端部を土砂吸引装置40とともに湖底面に沈設する。
また、同じく図10に示すように排砂トンネル13内において排砂管12の後端にバルブ42を装着する。これにより、排砂トンネル13の先端部が図15に示した従来のバルブ室3として機能するものとなるので格別のバルブ室を別途設ける必要はない。
なお、排砂トンネル13の先端部をバルブ室として機能させるうえで必要であれば、排砂トンネル13の先端部の断面を拡径すれば良い
【0023】
以上により排砂管12の施工が完了したので、堆砂11を排砂するためにはバルブ42を開放すれば良い。これにより、堆砂11が水とともに土砂吸引装置40により排砂管12に吸引されて排砂トンネル13の先端部に放流され、排砂トンネル13内を自ずと流下して本体ダムの下流側まで排出される。勿論、バルブ42の開度を調節することに排砂量を適切に調節することができる。
【0024】
以上のように、本実施形態の排砂方法によれば、仮設立坑14の施工は必要であるもののダム湖の水面上からの作業と排砂トンネル13内からの作業のみで排砂管12を支障なく施工することが可能であり、従来においては不可欠であった締め切り工の設置と水面下での作業を省略可能であるから、排砂のための設備を安全かつ効率的に施工することが可能であって貯砂ダム10からの排砂作業を低コストかつ短期間で実施することが可能である。
【符号の説明】
【0025】
10 貯砂ダム
11 堆砂
12 排砂管
13 排砂トンネル
14 仮設立坑
15 函体
16 埋土
17 到達部
18 エントランス部
19 止水機構
20 エアーバッグ
21 空気管
22 ストッパー
30 掘削機
31 推進管
32 ジャッキ
33 蓋体
34 ストッパー
35 注水管
36 プラグ
37 シール材
38 バランサー
39 ジャッキ
40 土砂吸引装置
41 ウエイト
42 バルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
本体ダムの上流に設けられた貯砂ダムの湖底面に堆積した堆砂を、該貯砂ダムの近傍まで設けられた排砂トンネルの先端部に放流して該排砂トンネルを通して前記本体ダムの下流側まで排砂するための方法であって、
前記貯砂ダムの湖底面に函体を沈設して仮設立坑を設置する工程と、
前記排砂トンネルの先端部から前記仮設立坑に向けて推進工法により推進管を築造し、該推進管の先端部を前記仮設立坑に到達せしめて前記函体に対して切り離し可能に連結する工程と、
少なくとも先端部が可撓性を有するとともに先端が封止された排砂管を前記排砂トンネルの先端部から前記推進管内に挿入して、該排砂管の先端を前記函体の手前位置まで到達せしめる工程と、
前記函体と前記推進管とを切り離して前記仮設立坑の全体を前記ダム湖の水面上に浮上させて撤去する工程と、
前記排砂トンネルの先端部から前記排砂管を前記ダム湖内に繰り出してその先端部を前記ダム湖の水面上に浮上させる工程と、
前記ダム湖の湖面上において前記排砂管の先端部に土砂吸引装置を接続して該土砂吸引装置を前記ダム湖の湖底面に沈設する工程と、
前記土砂吸引装置により前記ダム湖の湖底面から堆砂を吸引して前記排砂管を通して前記排砂トンネルの先端部に放流する工程とからなることを特徴とするダム堆砂の排砂方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2012−255276(P2012−255276A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−128205(P2011−128205)
【出願日】平成23年6月8日(2011.6.8)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【Fターム(参考)】