説明

ダンパ装置

【課題】 比較的簡便な構成を採りながら、作動液の温度低下に起因する減衰力の増大を効果的に抑制できるダンパ装置を提供する。
【解決手段】 温度感応遮断弁35は、ピボットスクリュー51を介して第2インナヨーク42に回動自在に支持された弁体52と、弁体52を図中反時計回りに回動させる形状記憶スプリング53と、弁体52を図中時計回りに常時付勢するバイアススプリング54とから構成されている。弁体52は、反時計回りに回動した際にインナヨーク32のバイパス流路44を閉鎖する3つの閉鎖片52aと、形状記憶スプリング53およびバイアススプリング54の一端がそれぞれ係合する一対のスプリング係合片52b,52cと、回動範囲の規制に供されるストッパ片52dとを有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用サスペンションを構成するテレスコピック式のダンパ装置に係り、詳しくは、比較的シンプルな構成を採りながら、作動液の温度低下に起因する減衰力の増大を効果的に抑制する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
サスペンションは、自動車の走行安定性や乗り心地を左右する重要な要素であり、車体に対して車輪を上下動自在に支持させるためのリンク(アームやロッド類)と、その撓みにより路面からの衝撃等を吸収するスプリングと、車体の上下振動を減衰させるダンパとを主要構成要素としている。サスペンション用のダンパとしては、作動液が充填された円筒状のシリンダとこのシリンダ内で摺動するピストンが先端に装着されたピストンロッドとを備え、ピストン(ピストンロッド)の移動に伴って作動液を複数の液室間で移動させる構造を採ったテレスコピック式(以下、筒型と記す)が広く採用されている。ピストンには作動液が流通するオリフィスが形成されており、このオリフィスを作動液が通過する際の抵抗によって減衰力が生起される。
【0003】
近年、筒型ダンパの作動特性を改善するものとして、自動車の運動状態に応じて減衰力を可変制御する減衰力可変ダンパが種々開発されている。減衰力可変ダンパとしては、オリフィス面積を変化させるロータリバルブをピストンに設け、このロータリバルブをアクチュエータによって回転駆動する機械式のものが主流であったが、構成の簡素化や応答性の向上等を実現すべく、作動液に磁気粘性流体を用い、ピストンに設けられた磁気流体バルブによって磁気粘性流体の粘度を制御するMRF式のものが出現している(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2006−77787号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に、筒型ダンパでは、温度が低下することによって作動液の粘度が高くなることから、冬期の走行開始直後等において減衰力が無視できない程度に大きくなり、乗り心地や操縦安定性が低下する問題があった。そこで、特許文献1の減衰力可変ダンパでは、温度センサによって検出した磁気粘性流体の温度が所定値以下であった場合、減衰力制御が行われない停車時に磁気流体バルブを通電/発熱させ、その温度が速やかに許容範囲となるように磁気粘性流体を積極的に昇温させている。しかしながら、この方法を採用する場合、磁気粘性流体の温度を検出する温度センサやそのリード線等をダンパ本体に設置する必要がある他、制御プログラムが複雑になることや電力消費が増大する等の問題があった。また、磁気粘性流体を加熱するための磁気流体バルブへの通電は停車時にのみ行えるため、イグニッションキーがオンされた直後に運転者が自動車を発進させた場合、磁気粘性流体の昇温が十分に行われず減衰力が大きい状態が維持されてしまう問題もあった。
【0005】
本発明は、このような背景に鑑みなされたもので、比較的シンプルな構成を採りながら、作動液の温度低下に起因する減衰力の増大を効果的に抑制できるダンパ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1の発明は、その内部に作動液が充填され、車体側部材と車輪側部材とのどちらか一方に連結されるシリンダと、前記シリンダ内で軸方向に移動するとともに、当該シリンダを一側液室と他側液室とに区画するピストンと、前記ピストンがその先端に装着され、車体側部材と車輪側部材とのどちらか他方に連結されるピストンロッドとを備えたダンパ装置であって、前記ピストンには、前記一側液室と他側液室との間で前記作動液を流通させるバイパス流路と、当該作動液の温度に応じて当該流路を開閉する温度感応遮断弁とが設けられたことを特徴とする。
【0007】
また、請求項2の発明は、請求項1に記載のダンパ装置において、前記温度感応遮断弁は、前記バイパス流路に臨んで設置された弁体と、前記バイパス流路を閉鎖する方向に前記弁体を付勢する形状記憶スプリングと前記バイパス流路を開放する方向に前記弁体を付勢するバイアススプリングとを構成要素とすることを特徴とする。
【0008】
また、請求項3の発明は、請求項1または請求項2に記載のダンパ装置において、前記作動液が磁性流体または磁気粘性流体であり、前記ピストンには、前記作動液に磁界を印可する磁界印可手段が設けられたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
請求項1のダンパ装置によれば、例えば、自動車が走行を開始して作動液の温度が低い間はピストンの流路が開放されて減衰力の上昇が抑制され、作動液の温度が十分に上昇すると温度感応遮断弁によって流路が閉鎖されて適正な減衰力が得られる。また、請求項2のダンパ装置によれば、温度感応遮断弁をシンプルかつコンパクトに構成でき、製造コストの低減や設計自由度の向上が実現される。また、請求項3のダンパ装置によれば、シンプルな構成を取りながら、高い応答性をもって減衰力を可変制御することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、図面を参照して、本発明を4輪自動車のリヤサスペンションに適用した一実施形態を詳細に説明する。
図1は実施形態に係るリヤサスペンションの斜視図であり、図2は実施形態に係るダンパの縦断面図であり、図3は図2中のIII部拡大図であり、図4は実施形態に係るピストンの下面図であり、図5は実施形態に係るピストンの展開斜視図である。
【0011】
《実施形態の構成》
図1に示すように、本実施形態のリヤサスペンション1は、いわゆるH型トーションビーム式サスペンションであり、左右のトレーリングアーム2,3や、両トレーリングアーム2,3の中間部を連結するトーションビーム4、懸架ばねである左右一対のコイルスプリング5、左右一対のダンパ6等から構成されており、左右のリヤホイール7,8を懸架している。ダンパ6は、MRF(Magneto-Rheological Fluid:磁気粘性流体)を作動流体とする減衰力可変型ダンパであり、トランクルーム内等に設置されたECU9によってその減衰力が可変制御される。
【0012】
<ダンパ>
図2に示すように、本実施形態のダンパ6は、モノチューブ式(ド・カルボン式)であり、MRFが充填された円筒状のシリンダ12と、このシリンダ12に対して軸方向に摺動するピストンロッド13と、ピストンロッド13の先端に装着されてシリンダ12内を上部液室(一側液室)14と下部液室(他側液室)15とに区画するピストン16と、シリンダ12の下部に高圧ガス室17を画成するフリーピストン18と、ピストンロッド13等への塵埃の付着を防ぐカバー19と、フルバウンド時における緩衝を行うバンプストップ20とを主要構成要素としている。
【0013】
シリンダ12は、下端のアイピース12aに嵌挿されたボルト21を介して、車輪側部材であるトレーリングアーム2の上面に連結されている。また、ピストンロッド13は、上下一対のブッシュ22とナット23とを介して、その上部ねじ軸13aが車体側部材であるダンパベース(ホイールハウス上部)24に連結されている。
【0014】
<ピストン>
ピストン16は、MLV(Magnetizable Liquid Valve:磁気流体バルブ)と一体となっており、図3〜図5に示すように、その外周面がシリンダ12の内壁面に摺接するアウタヨーク31と、アウタヨーク31の内側に配置されたインナヨーク32と、アウタヨーク31とインナヨーク32との間に介装された6個のギャップスペーサ33と、インナヨーク32の軸方向中央部に外嵌したMLVコイル(磁界印可手段)34と、インナヨーク32の下面に設けられた温度感応遮断弁35とを主要構成要素としている。
【0015】
アウタヨーク31は、フェライト等の強磁性体を素材としており、図5に示すように、概ね円筒状を呈しているが、その内周側には、軸方向中央に形成された比較的小径のストレート面31aと、このストレート面31aに連続するかたちで形成された上下のテーパ面31b、31cとを有している。両テーパ面31b、31cは、一定の拡径率をもって、アウタヨーク31の端部に向かって拡径している。
【0016】
インナヨーク32も、アウタヨーク31と同様に強磁性体を素材としているが、上部を形成する第1インナヨーク41と下部を形成する第2インナヨーク42とに2分割され、ギャップスペーサ33を介してアウタヨーク31を挟持した状態で、3本のスクリュー43によって締結/一体化されている。図5に示すように、第1インナヨーク41は、アウタヨーク31のテーパ面31bに間隙sをもって対峙するテーパ面41aと、ピストンロッド13の下部ねじ軸13bが挿通される貫通孔41bとを有している。一方、第2インナヨーク42は、アウタヨーク31のテーパ面31cに間隙sをもって対峙するテーパ面42aと、ピストンロッド13の下部ねじ軸13bがねじ込まれるねじ孔42bとを有している。インナヨーク32には、上部液室14と下部液室15を連通すべく、120°角度間隔で3つのバイパス流路44が軸方向に貫通している。
【0017】
ギャップスペーサ33は、非磁性体であるアルミニウム合金(ジュラルミン)を素材とした円柱状のものであり、アウタヨーク31とインナヨーク32との間隙を保つべく等角度間隔(120°間隔)で上下に3本ずつ配置されている。なお、ギャップスペーサ33は、接着等によってアウタヨーク31に固着されるとともに、ピストン16の両インナヨーク41,42に形成された係合凹部41c、42cに係合する。
【0018】
MLVコイル34は、導線を円筒状に巻き回して樹脂モールドしたものであり、第2インナヨーク42の上部に嵌着されている。MLVコイル34の外周面は、アウタヨーク31のストレート面31aに間隙sをもって対峙している。これにより、インナヨーク32およびMLVコイル34とアウタヨーク31との間には、MRFが流通する環状流路45が形成されることになる。なお、MLVコイル34には、図示しない配線を介して、ECU9からの励磁電流が供給される。
【0019】
図4に示すように、温度感応遮断弁35は、ピボットスクリュー51を介して第2インナヨーク42に回動自在に支持された弁体52と、弁体52を図中反時計回りに回動させる形状記憶スプリング53と、弁体52を図中時計回りに常時付勢するバイアススプリング54とから構成されている。弁体52は、反時計回りに回動した際にインナヨーク32のバイパス流路44を閉鎖する3つの閉鎖片52aと、形状記憶スプリング53およびバイアススプリング54の一端がそれぞれ係合する一対のスプリング係合片52b,52cと、回動範囲の規制に供されるストッパ片52dとを有している。形状記憶スプリング53は、形状記憶合金(本実施形態では、チタン−ニッケル合金)を素材とするスプリングであり、所定温度(例えば、30〜40℃)以上になることによって縮み、バイアススプリング54のばね力に打ち勝って弁体52を回動させる。図4中、符号55で示す部材は、形状記憶スプリング53およびバイアススプリング54の他端をインナヨーク32に係止する係止ピンであり、第2インナヨーク42に圧入/一体化されている。また、符号56で示す部材は、弁体52の回動時にストッパ片52dが当接する一対のストッパピンであり、これらも第2インナヨーク42に圧入/一体化されている。
【0020】
《実施形態の作用》
自動車が走行を開始すると、ECU9は、前後Gセンサ、横Gセンサ、および上下Gセンサから得られた車体の加速度や、車速センサから入力した車体速度、車輪速センサから得られた各車輪の回転速度等に基づき各車輪についてダンパ6の目標減衰力を設定した後、MLVコイル34に対して励磁電流を供給する。すると、図6に示すように、ピストン16内に磁界が形成され、環状流路45を流通するMRFの粘度が変化し、ダンパ6の減衰力が増大あるいは減少する。なお、本実施形態においては、アウタヨーク31のストレート面31a近傍の肉厚が大きく、かつ、アウタヨーク31とインナヨーク32とがテーパ面31c,41a,42aをもって対峙していることから、磁気飽和が起こり難くなって比較的強い磁界を形成することができるようになる。
【0021】
運転者が冬季等に自動車を長時間停車させた場合、ダンパ6内ではMRFの温度が低下してその粘度が上昇する。そのため、走行直後に上述した手順で減衰力制御が行われると、環状流路45をMRFが流通し難いことから、実際の減衰力が目標減衰力より大きくなる虞がある。ところが、本実施形態では、MRFの温度が低い場合には、図4に示すように、バイアススプリング54のばね力によって温度感応遮断弁35の弁体52が反時計回りに回動させられ、バイパス流路44が閉鎖片52aによって塞がれない状態となる。その結果、MRFは、図6中に破線の矢印で示すように、バイパス流路44を介して上部液室14と下部液室15との間を自由に流通することになり、ダンパ6の減衰力が有意に小さくなって乗り心地等の悪化が防止される。
【0022】
一方、自動車の走行に伴ってダンパ6が伸縮作動を繰り返すと、シリンダ12とピストン16との間の摩擦熱やピストン16の移動に伴う攪拌熱によってMRFの温度が次第に上昇する。そして、MRFの温度が所定温度に達すると、温度感応遮断弁35では、図7中に矢印で示すように、形状記憶スプリング53が縮んで弁体52を反時計回りに回動させる。その結果、バイパス流路44が弁体52の閉鎖片52aによって塞がれ、MRFが環状流路45のみを流通して所期の減衰力制御が行われることになる。
【0023】
以上述べたように、本実施形態のダンパ6では、比較的シンプルな構成を採りながら、複雑な制御やMRF加熱用の電力を必要とすることなく、MRFの温度低下に起因する減衰力の増大を効果的に抑制できようになった。
【0024】
以上で具体的実施形態の説明を終えるが、本発明は上記実施形態に限定されることなく幅広く変形実施することができる。例えば、上記実施形態は4輪自動車のリヤサスペンションを構成する減衰力可変式ダンパに本発明を適用したものであるが、本発明は、フロントサスペンション用の減衰力可変式ダンパにも適用できるし、MRF式以外の減衰力可変式ダンパや、固定減衰力式ダンパ(コンベンショナルダンパ)にも適用可能である。また、上記実施形態の温度感応遮断弁ではそれぞれ独立した形状記憶スプリングとバイアススプリングとによって弁体を駆動するようにしたが、形状記憶スプリングやバイアススプリングを弁体と一体に形成してもよいし、形状記憶スプリングを用いず、ワックス式の温度感応アクチュエータ等によって弁体を駆動するようにしてもよい。その他、ダンパやピストンの具体的構造等についても、本発明の趣旨を逸脱しない範囲であれば適宜変更可能である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】実施形態に係るリヤサスペンションの斜視図である。
【図2】実施形態に係るダンパの縦断面図である。
【図3】図2中のIII部拡大図である。
【図4】実施形態に係るピストンの下面図である。
【図5】実施形態に係るピストンの展開斜視図である。
【図6】実施形態の作用を示すダンパの要部縦断面図である。
【図7】実施形態の作用を示すピストンの下面図である。
【符号の説明】
【0026】
2 トレーリングアーム(車輪側部材)
6 ダンパ
12 シリンダ
13 ピストンロッド
14 上部液室(一側液室)
15 下部液室(他側液室)
16 ピストン
22 ダンパベース(車体側部材)
31 アウタヨーク
32 インナヨーク
34 MLVコイル(磁界印可手段)
35 温度感応遮断弁
44 バイパス通路
45 環状流路
52 弁体
53 形状記憶スプリング
54 バイアススプリング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
その内部に作動液が充填され、車体側部材と車輪側部材とのどちらか一方に連結されるシリンダと、
前記シリンダ内で軸方向に移動するとともに、当該シリンダを一側液室と他側液室とに区画するピストンと、
前記ピストンがその先端に装着され、車体側部材と車輪側部材とのどちらか他方に連結されるピストンロッドと
を備えたダンパ装置であって、
前記ピストンには、前記一側液室と他側液室との間で前記作動液を流通させるバイパス流路と、当該作動液の温度に応じて当該流路を開閉する温度感応遮断弁とが設けられたことを特徴とするダンパ装置。
【請求項2】
前記温度感応遮断弁は、
前記バイパス流路に臨んで設置された弁体と、
前記バイパス流路を閉鎖する方向に前記弁体を付勢する形状記憶スプリングと
前記バイパス流路を開放する方向に前記弁体を付勢するバイアススプリングと
を構成要素とすることを特徴とする、請求項1に記載のダンパ装置。
【請求項3】
前記作動液が磁性流体または磁気粘性流体であり、
前記ピストンには、前記作動液に磁界を印可する磁界印可手段が設けられたことを特徴とする、請求項1または請求項2に記載のダンパ装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2008−175248(P2008−175248A)
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−7609(P2007−7609)
【出願日】平成19年1月17日(2007.1.17)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】