説明

ダンピング試験方法、制御装置、油圧システム及びプログラム

【課題】圧力センサを用いることなく、ダンピング試験結果の信頼性を向上し得る、ダンピング試験方法、制御装置、油圧システム及びプログラムを提供する。
【解決手段】油圧システム30は、アクチュエータ11、12、制御装置40を備える。制御装置40は、舵面の理想的速度特性と、舵面にアクチュエータが取り付けられたときの、試験対象となるアクチュエータの圧油の温度及び舵面の作動速度とを取得する。そして、制御装置40は、取得した圧油の温度及び舵面の作動速度を用いて、舵面の理想的速度特性を補正する。更に、制御装置40は、舵面の作動速度を変動させる変動要因の変動幅の予測値を用いて、補正後の理想的速度特性を基準に上限値及び下限値を設定し、そして、試験対象となるアクチュエータをダンピングモードにして舵面を作動させ、圧油の温度及び作動速度を測定し、測定した値が、上限値と下限値との範囲内に含まれるかどうかを判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、航空機の油圧作動式のアクチュエータのダンピング試験を行うための、ダンピング試験方法、それを実施するための制御装置、油圧システム及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、航空機は、多数の動翼(操縦翼面)を備えており、このうち、補助翼(エルロン)及び昇降舵(エレベータ)等の主操縦翼面は、「舵面」と呼ばれている。また、舵面の駆動は、主に、油圧作動式のアクチュエータによって行われている。そして、このようなアクチュエータに対して、航空機の機体側に設置された油圧源から、作動用の圧油が供給される。
【0003】
また、舵面の駆動には、通常、1つの舵面に対して、油圧系統が異なる2本のアクチュエータが用いられている(例えば、特許文献1参照。)。これは、一方のアクチュエータが自身の故障、または機体側の油圧源の機能の喪失又は低下等の理由により機能しなくなっても、油圧系統が異なる他方のアクチュエータによって舵面を駆動できるようにすることで、航空機が飛行不能となるのを回避するためである。
【0004】
但し、舵面に取り付けられた全てのアクチュエータ自身およびコントローラの故障、または油圧源の喪失により機能停止した場合、舵面を制動する能力が失われ、フラッター現象と呼ばれる振動が発生してしまう。このため、各アクチュエータの油圧系統には、機能停止時において、アクチュエータに設けられた二つの油室の間をオリフィスによって連通させるバイパスラインが設けられている。このバイパスラインが使用されると、アクチュエータは、ダンパーとして機能し、フラッター現象の発生を抑制する。
【0005】
以降において、バイパスラインが使用されており、アクチュエータが減衰装置となっている状態を「ダンピングモード」と呼び、反対に、バイパスラインが使用されておらず、アクチュエータが作動する状態を「アクティブモード」と呼ぶ。
【0006】
また、アクチュエータが、ダンピングモードの際に、確実にダンピング機能を発揮するようにするため、航空機においては、定期的にダンピング試験が行われる。この試験の実行のため、各アクチュエータにおいては、油室のポート毎に、試験用の圧力センサが配置されている。そして、試験では、先ず、一方のアクチュエータをダンピングモードとした状態で、他方のアクチュエータによって舵面を一定速度で作動させ、このときの各圧力センサからの信号が取得される。そして、取得された信号に基づいて、試験対象のアクチュエータのダンピング力(例えば、ポート間の差圧)が算出され、算出されたダンピング力に基づいて合否が判定される。
【0007】
ところで、上述した圧力センサは、ダンピング試験でのみ使用され、通常の航空機の運用において使用されることは無い。よって、低コスト化及び油圧系統の小型軽量化の点から、圧力センサを使用しないで、ダンピング試験を行う方法も提案されている。このダンピング試験方法では、アクティブモードにある作動側のアクチュエータによって舵面を作動させたときの、ダンピング側のアクチュエータの作動速度が測定され、測定結果に基づいて、合否判定が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−40199号公報(第1図、第10−14図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上述したダンピング試験方法の場合、各アクチュエータ及び油圧系統における製造公差に起因したバラツキ、作動側のアクチュエータにおける有効作動圧のバラツキ、測定誤差等が、測定結果に影響を及ぼしてしまう。このため、上述したダンピング試験方法には、信頼性の高い試験結果を得ることが難しいという問題がある。
【0010】
一方、各アクチュエータ及び油圧系統の設計において安全マージンを大きくする等の措置を講じれば、上記問題は解決可能とも考えられるが、この場合は、低コスト化及び小型軽量化が阻害されてしまい、圧力センサを用いた場合と同様の結果となる。
【0011】
本発明の目的の一例は、上記問題を解消し、圧力センサを用いることなく、ダンピング試験結果の信頼性を向上し得る、ダンピング試験方法、制御装置、油圧システム及びプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、本発明の一側面におけるダンピング試験方法は、航空機の舵面の駆動に用いられる油圧作動式のアクチュエータのダンピング試験を行うための方法であって、
(a)前記アクチュエータに供給される圧油の温度と前記舵面の作動速度とによって規定された前記舵面の理想的速度特性を取得する、ステップと、
(b)前記舵面に2以上の前記アクチュエータが取り付けられ、且つ、そのうちの前記ダンピング試験の対象となる前記アクチュエータの一対の油室が、オリフィスを介して互いに連通された状態で、非対象となる前記アクチュエータが前記舵面を作動させたときの、対象となる前記アクチュエータの圧油の温度、及び前記舵面の作動速度を取得する、ステップと、
(c)前記(b)のステップで取得した、対象となる前記アクチュエータの圧油の温度、及び前記舵面の作動速度を用いて、前記(a)のステップで取得した前記舵面の理想的速度特性を補正する、ステップと、
(d)前記舵面の作動速度を変動させる要因として予め想定された変動要因における変動幅の予測値を用いて、前記(c)のステップによる補正後の前記理想的速度特性を基準に、前記圧油の温度に応じた、前記舵面の作動速度の上限値及び下限値を設定する、ステップと、
(e)前記(a)〜(d)のステップの実行後に、対象となる前記アクチュエータの前記一対の油室を、前記オリフィスを介して連通させた状態で、非対象となる前記アクチュエータによって前記舵面を作動させ、対象となる前記アクチュエータの圧油の温度、及び前記舵面の作動速度を測定する、ステップと、
(f)前記(e)のステップで測定された作動速度が、前記(e)のステップで測定された圧油の温度における、前記(d)のステップで設定された前記上限値と前記下限値との範囲内に含まれるかどうかを判定する、ステップと、
を有することを特徴とする。
【0013】
以上の特徴によれば、圧力センサを用いないでダンピング試験を行った場合に、その結果の信頼性を低下させる要因、例えば、各アクチュエータ及び油圧系統における製造公差に起因したバラツキ、作動側のアクチュエータにおける有効作動圧のバラツキ、測定誤差等、が除去される。従って、本発明によれば、圧力センサを用いることなく、ダンピング試験結果の信頼性を向上させることができる。
【0014】
上記本発明におけるダンピング試験方法は、前記(d)のステップにおいて、
予め想定された前記変動要因が、非対象となる前記アクチュエータにおける前記圧油の温度変化に起因した圧力変動、非対象となる前記アクチュエータに供給される前記圧油の供給経路における流路抵抗に起因した圧力変動、対象となる前記アクチュエータの圧油の温度を測定する際の測定誤差、及び前記舵面の作動速度を測定する際の測定誤差を含む、態様であるのが好ましい。この態様であれば、より確実に、結果の信頼性を低下させる要因を最小限まで除去できる。
【0015】
また、上記本発明におけるダンピング試験方法では、前記(c)のステップにおいて、
前記舵面の理想的速度特性を表す線が、対象となる前記アクチュエータの圧油の温度及び前記舵面の作動速度によって規定される点を通るように、前記理想的速度特性を補正する、のが好ましい。この場合、各アクチュエータ及び油圧系統における製造公差に起因したバラツキの補正を確実に行うことができる。
【0016】
更に、上記本発明におけるダンピング試験方法では、前記航空機が前記アクチュエータに圧油を供給するために複数の油圧系統を備えている場合に、前記(b)のステップ及び前記(e)のステップにおいて、非対象となる前記アクチュエータの駆動は、当該アクチュエータに圧油を供給する油圧系統において、予め設定された油圧ポンプのみを稼働させ、且つ、当該油圧系統からの圧油の供給を受ける他のアクチュエータの動作を停止させて、行われている、のが好ましい。この場合は、異なる油圧ポンプ間における発生圧力のバラツキ、及び油圧系統からの供給圧力のバラツキによる、試験結果への悪影響が回避される。
【0017】
また、上記目的を達成するため、本発明の一側面におけるプログラムは、航空機の舵面の駆動に用いられる油圧作動式のアクチュエータのダンピング試験を、コンピュータによって実行するための、プログラムであって、
前記コンピュータに、
(a)前記アクチュエータに供給される圧油の温度と前記舵面の作動速度とによって規定された前記舵面の理想的速度特性を取得する、ステップと、
(b)前記舵面に2以上の前記アクチュエータが取り付けられ、且つ、そのうちの前記ダンピング試験の対象となる前記アクチュエータの一対の油室が、オリフィスを介して互いに連通された状態で、非対象となる前記アクチュエータが前記舵面を作動させたときの、対象となる前記アクチュエータの圧油の温度、及び前記舵面の作動速度を取得する、ステップと、
(c)前記(b)のステップで取得した、対象となる前記アクチュエータの圧油の温度、及び前記舵面の作動速度を用いて、前記(a)のステップで取得した前記舵面の理想的速度特性を補正する、ステップと、
(d)前記舵面の作動速度を変動させる要因として予め想定された変動要因における変動幅の予測値を用いて、前記(c)のステップによる補正後の前記理想的速度特性を基準に、前記圧油の温度に応じた、前記舵面の作動速度の上限値及び下限値を設定する、ステップと、
(e)前記(a)〜(d)のステップの実行後に、対象となる前記アクチュエータの前記一対の油室を、前記オリフィスを介して連通させた状態で、非対象となる前記アクチュエータによって前記舵面を作動させ、対象となる前記アクチュエータの圧油の温度、及び前記舵面の作動速度を測定する、ステップと、
(f)前記(e)のステップで測定された作動速度が、前記(e)のステップで測定された圧油の温度における、前記(d)のステップで設定された前記上限値と前記下限値との範囲内に含まれるかどうかを判定する、ステップと、
を実行させることを特徴とする。
【0018】
上記本発明におけるプログラムは、前記(d)のステップにおいて、
予め想定された前記変動要因が、非対象となる前記アクチュエータにおける前記圧油の温度変化に起因した圧力変動、非対象となる前記アクチュエータに供給される前記圧油の供給経路における流路抵抗に起因した圧力変動、対象となる前記アクチュエータの圧油の温度を測定する際の測定誤差、及び前記舵面の作動速度を測定する際の測定誤差を含む、態様であるのが好ましい。
【0019】
また、上記本発明におけるプログラムでは、前記(c)のステップにおいて、
前記舵面の理想的速度特性を表す線が、対象となる前記アクチュエータの圧油の温度及び前記舵面の作動速度によって規定される点を通るように、前記理想的速度特性を補正する、のが好ましい。
【0020】
更に、上記本発明におけるプログラムでは、前記航空機が前記アクチュエータに圧油を供給するために複数の油圧系統を備えている場合に、
前記(b)のステップ及び前記(e)のステップにおいて、非対象となる前記アクチュエータの駆動は、当該アクチュエータに圧油を供給する油圧系統において、予め設定された油圧ポンプのみを稼働させ、且つ、当該油圧系統からの圧油の供給を受ける他のアクチュエータの動作を停止させて、行われている、のが好ましい。
【0021】
更に、上記目的を達成するため、本発明の一側面における制御装置は、航空機の舵面に取り付けられた油圧作動式の2以上のアクチュエータを制御する制御装置であって、前記2以上のアクチュエータそれぞれに対してダンピング試験を実行する、試験実行部を備え、
前記試験実行部は、
前記アクチュエータに供給される圧油の温度と前記舵面の作動速度とによって規定された前記舵面の理想的速度特性を取得し、
前記舵面に2以上の前記アクチュエータが取り付けられ、且つ、そのうちの前記ダンピング試験の対象となる前記アクチュエータの一対の油室が、オリフィスを介して互いに連通された状態で、非対象となる前記アクチュエータが前記舵面を作動させたときの、対象となる前記アクチュエータの圧油の温度、及び前記舵面の作動速度を取得し、
取得した、対象となる前記アクチュエータの圧油の温度、及び前記舵面の作動速度を用いて、前記舵面の理想的速度特性を補正し、
更に、前記舵面の作動速度を変動させる要因として予め想定された変動要因における変動幅の予測値を用いて、補正後の前記理想的速度特性を基準に、前記圧油の温度に応じた、前記舵面の作動速度の上限値及び下限値を設定し、
そして、対象となる前記アクチュエータの前記一対の油室を、前記オリフィスを介して連通させた状態で、非対象となる前記アクチュエータによって前記舵面を作動させ、対象となる前記アクチュエータの圧油の温度、及び前記舵面の作動速度を測定し、
測定した作動速度が、測定した圧油の温度における、前記上限値と前記下限値との範囲内に含まれるかどうかを判定する、ことを特徴とする。
【0022】
加えて、上記目的を達成するため、本発明の一側面における油圧システムは、航空機の舵面の駆動に用いられる油圧システムであって、前記舵面に取り付けられた油圧作動式の2以上のアクチュエータと、前記2以上のアクチュエータそれぞれの制御及びダンピング試験を実行する制御装置とを備え、
前記制御装置は、
前記アクチュエータに供給される圧油の温度と前記舵面の作動速度とによって規定された前記舵面の理想的速度特性を取得し、
前記舵面に2以上の前記アクチュエータが取り付けられ、且つ、そのうちの前記ダンピング試験の対象となる前記アクチュエータの一対の油室が、オリフィスを介して互いに連通された状態で、非対象となる前記アクチュエータが前記舵面を作動させたときの、対象となる前記アクチュエータの圧油の温度、及び前記舵面の作動速度を取得し、
取得した、対象となる前記アクチュエータの圧油の温度、及び前記舵面の作動速度を用いて、前記舵面の理想的速度特性を補正し、
更に、前記舵面の作動速度を変動させる要因として予め想定された変動要因における変動幅の予測値を用いて、補正後の前記理想的速度特性を基準に、前記圧油の温度に応じた、前記舵面の作動速度の上限値及び下限値を設定し、
そして、対象となる前記アクチュエータの前記一対の油室を、前記オリフィスを介して連通させた状態で、非対象となる前記アクチュエータによって前記舵面を作動させ、対象となる前記アクチュエータの圧油の温度、及び前記舵面の作動速度を測定し、
測定した作動速度が、測定した圧油の温度における、前記上限値と前記下限値との範囲内に含まれるかどうかを判定する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
以上のように、本発明におけるダンピング試験方法、制御装置、油圧システム及びプログラムによれば、圧力センサを用いることなく、ダンピング試験結果の信頼性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】図1は、本発明の実施の形態における油圧システムが航空機に搭載された状態を示す図である。
【図2】図2は、本発明の実施の形態における制御装置及び油圧システムの概略構成を示す構成図である。
【図3】図3は、本発明の実施の形態におけるダンピング試験方法を示すフロー図である。
【図4】図4は、本発明の実施の形態において設定された舵面の理想的速度特性の一例、及び図3に示した各処理の具体例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
(実施の形態)
以下、本発明の実施の形態におけるダンピング試験方法、制御装置、油圧システム及びプログラムについて、図1〜図4を参照しながら説明する。最初に、本実施の形態における油圧システム、及びそれが搭載された航空機について図1を用いて説明する。図1は、本発明の実施の形態における油圧システムが航空機に搭載された状態を示す図である。
【0026】
図1においては、航空機100の胴体101の後端部分と水平尾翼102及び103とが示されており、航空機100の他の部分の図示は省略されている。また、図1に示すように、水平尾翼102には、舵面を構成する動翼として昇降舵104が設けられている。同様に、水平尾翼103には、舵面を構成する動翼として昇降舵105が設けられている。
【0027】
また、図1に示すように、昇降舵104及び105それぞれには、当該昇降舵を駆動するために、油圧作動式の2以上のアクチュエータが取り付けられている。図1の例では、昇降舵104には、2つのアクチュエータ11及び12が取り付けられ、同様に、昇降舵105には、2つのアクチュエータ21及び22が取り付けられている。
【0028】
そして、アクチュエータ11、12、21、22は、本実施の形態における油圧システム30を構成している。また、油圧システム30は、これらアクチュエータに加え、更に、油圧系統10及び20と、制御装置(図2参照、図1において図示せず。)とを備えている。
【0029】
油圧系統10は、左側の水平尾翼102に取り付けられたアクチュエータ11、及び右側の水平尾翼103に取り付けられたアクチュエータ21への圧油の供給に利用される。また、油圧系統10は、アクチュエータ11及び21と接続された油圧回路13と、油圧源となるポンプユニット14とを備えている。
【0030】
一方、油圧系統20は、左側の水平尾翼102に取り付けられたアクチュエータ12、及び右側の水平尾翼103に取り付けられたアクチュエータ22への圧油の供給に利用される。油圧系統20は、アクチュエータ12及び22と接続された油圧回路23と、油圧源となるポンプユニット24とを備えている。
【0031】
また、油圧系統10において、ポンプユニット14は、航空機のエンジンによって駆動されるエンジン駆動油圧ポンプ15と、電動機によって駆動される電動機駆動油圧ポンプ16とを備えている。同様に、油圧系統20においても、ポンプユニット24は、航空機のエンジンによって駆動されるエンジン駆動油圧ポンプ25と、電動機によって駆動される電動機駆動油圧ポンプ26とを備えている。更に、後述の図2に示すように、ポンプユニット14は、供給する圧油の温度を測定するための温度センサ116を備えている。ポンプユニット24も、同様の温度センサ126を備えている。
【0032】
なお、図1において、エンジン駆動油圧ポンプは「P1」と表示され、電動機駆動油圧ポンプは「P2」と表示されている。また、一般に航空機においては、エンジン駆動油圧ポンプは常に稼働されるが、電動機駆動油圧ポンプは必要に応じて稼働される。
【0033】
続いて、本実施の形態1における制御装置及び油圧システムの構成について図2を用いて説明する。図2は、本発明の実施の形態における制御装置及び油圧システムの概略構成を示す構成図である。なお、図2においては、図1に示したアクチュエータのうち、アクチュエータ11及び12のみが図示されている。アクチュエータ21及び22は、図2には図示されていないが、これらの構成及び接続態様は、アクチュエータ11及び12と同様である。
【0034】
図2に示すように、油圧システム30は、図1に示した、アクチュエータ11及び12(アクチュエータ21及び22は図示せず)と、油圧系統10及び20とに加えて、制御装置40を備えている。また、油圧システム30は、更に、アクチュエータコントローラ50も備えている。
【0035】
アクチュエータ11は、円筒状の筐体110と、筐体110の内部で往復動作を行うピストン112と、ピストン112に連動して動作するピストンロッド111とを備えている。筐体110内部はピストン112によって2つの空間に分けられ、これら2つの空間は、一対の油室113及び114となる。
【0036】
そして、ポンプユニット14から、油圧回路13を介して、油室113及び114のうちの一方に圧油が供給され、他方から圧油が排出されると、ピストン112及びピストンロッド111が移動し、結果、昇降舵104が作動する。また、アクチュエータ11には、ピストン112の移動量を測定するための変位センサ115が設けられている。
【0037】
また、アクチュエータ12は、アクチュエータ11と同様に、筐体120と、ピストン121と、ピストンロッド122とを備えている。更に、アクチュエータ12にも、変位センサ125が設けられている。なお、アクチュエータ12の構成及び機能は、アクチュエータ11のそれらと同様であるため、アクチュエータ12についての更なる説明は省略する。
【0038】
油圧系統10は、図1を用いて説明したように、ポンプユニット14と、油圧回路13とを備えている。油圧回路13には、制御弁17が設けられている。制御弁17は、後述するアクチュエータコントローラ50からの指示に応じて、アクチュエータ11に供給される圧油の量の調整、及び供給先となる油室の切り替え等を行う。
【0039】
また、油圧回路13には、アクチュエータ11の油室113と油室114とを直接連通させることが可能なバイパスライン18が設けられている。更に、バイパスライン18上には、切替弁19が設けられている。切替弁19は、バイパスライン18が遮断された状態(遮断状態)と、油室113と油室114とがオリフィス19aを介して連通された状態(連通状態)とに切り替えることができる。
【0040】
そして、油圧系統10に何ら異常が生じていない場合は、切替弁19は、アクチュエータコントローラ50からの指示に応じて、バイパスライン18を遮断状態とする。これにより、アクチュエータ11はアクティブモードとなる。一方、アクチュエータ11自身およびコントローラ50の故障、または油圧系統10に何らかの異常が生じ、アクチュエータ11が機能しなくなった場合は、切替弁19は、アクチュエータコントローラ50からの指示に応じて、バイパスライン18を連通状態とする。これにより、アクチュエータ11は、ダンピングモードとなり、減衰装置として機能する。
【0041】
また、油圧系統20は、図1を用いて説明したように、ポンプユニット24と、油圧回路23とを備えている。油圧回路23には、制御弁27が設けられている。更に、油圧回路23には、アクチュエータ12の油室123と油室124とを直接連通させることが可能なバイパスライン28が設けられている。バイパスライン28上には、切替弁29が設けられている。また、制御弁27及び切替弁29は、アクチュエータコントローラ51からの指示に応じて動作を行う。
【0042】
油圧系統20に設けられた、制御弁27、バイパスライン28、切替弁29は、それぞれ、油圧系統10に設けられた、制御弁17、バイパスライン18、切替弁19と同様に構成され、且つ、同様に機能する。なお、このように油圧系統20の構成及び機能は、油圧系統10のそれらと同様であるため、油圧系統20についての更なる説明は省略する。
【0043】
制御装置40は、航空機100(図1参照)のコクピットからの指示に応じて、アクチュエータコントローラ50及び51を介して、各アクチュエータの制御を行う装置である。本実施の形態では、制御装置40は、「フライトコントローラ」と呼ばれる、航空機100に搭載されたコンピュータである。
【0044】
アクチュエータコントローラ50は、制御装置40からの指示に応じて、制御弁17及び切替弁19を動作させるための制御信号を生成し、これを制御弁17及び切替弁19に出力する。同様に、アクチュエータコントローラ51は、制御装置40からの指示に応じて、制御弁27及び切替弁29を動作させるための制御信号を生成し、これを制御弁27及び切替弁29に出力する。
【0045】
また、制御装置40は、各アクチュエータに対してダンピング試験を実行する試験実行部41と、ダンピング試験に必要な情報を記憶する記憶部42とを備えている。本実施の形態では、試験実行部41は、共通の舵面に取り付けられている2以上のアクチュエータに対し、順に試験対象に設定して、ダンピング試験を実行する。
【0046】
更に、試験実行部41は、アクチュエータの油室の圧力を測定する圧力センサを用いることなくダンピング試験を実行する。そして、試験実行部41は、このとき、各アクチュエータ及び油圧系統における製造公差に起因したバラツキ、試験対象とならない作動側のアクチュエータにおける有効作動圧のバラツキ、測定誤差、等による試験結果への悪影響を抑制するため、以下の処理を実行する。
【0047】
具体的には、試験実行部41は、先ず、舵面の理想的速度特性を取得する。舵面の理想的速度特性は、アクチュエータに供給される圧油の温度と舵面の作動速度とによって規定されている。また、本実施の形態では、舵面の理想的速度特性は、予め記憶部42に格納されている。なお、舵面の理想的速度特性の具体例については、図4を用いて後述する。
【0048】
また、本実施の形態において、「舵面の作動速度」とは、例えば、舵面を駆動する、アクティブモードにあるアクチュエータの作動速度、即ち、アクティブモードにあるアクチュエータのピストンの移動速度を意味する。更に、「アクチュエータの作動速度」は、共通の舵面に取り付けられている2以上のアクチュエータのうち、幾つかがアクティブモードにあり、残りがダンピングモードにある場合は、アクティブモードにあるアクチュエータの作動速度であっても良いし、アクティブモードにあるアクチュエータの作動速度とダンピングモードにあるアクチュエータの作動速度との平均値であっても良い。
【0049】
続いて、試験実行部41は、舵面にアクチュエータが取り付けられたとき、例えば、航空機の製造時又はオーバーホール時における、試験対象となるアクチュエータの圧油の温度、及び舵面の作動速度を取得する。
【0050】
具体的には、予め、舵面に2以上のアクチュエータが取り付けられ、且つ、そのうちの試験対象となるアクチュエータがダンピングモードとされた状態で、他のアクチュエータによって、舵面の作動が行われる。そして、ダンピングモードにあるアクチュエータの圧油の温度と、舵面の作動速度とが測定される。測定は、アクチュエータ毎に、それぞれをダンピングモードに設定して行われる。また、測定された値は、記憶部42に格納される。その後、試験実行部41は、記憶部42から、試験対象となるアクチュエータがダンピングモードにあるときに測定された、圧油の温度及び舵面の作動速度を取得する。
【0051】
例えば、アクチュエータ11及び12が、ダンピング試験の対象となる場合であれば、航空機の製造時又はオーバーホール時といった、アクチュエータ11及び12が昇降舵104に取り付けられたときの、これらの圧油の温度と作動速度とが順に測定される。そして、試験実行部41は、アクチュエータ11が試験対象となるときは、アクチュエータ11がダンピングモードにあるときに測定された圧油の温度と作動速度とを取得する。
【0052】
試験実行部41は、上述した、舵面の理想的速度特性と、製造時等における測定値とを取得すると、製造時等における測定値を用いて、舵面の理想的速度特性を補正する。この補正により、理想的速度特性は、各アクチュエータ及び油圧系統における製造公差に起因したバラツキ、例えば、制御弁の性能のバラツキ、オリフィスの性能のバラツキを考慮したものとなる。よって、これらのバラツキによる、試験結果への悪影響が回避される。なお、具体的な補正処理については、図4を用いて後述する。
【0053】
続いて、試験実行部41は、補正が終了すると、補正後の理想的速度特性を基準にして、試験対象となるアクチュエータにおける圧油の温度に応じて、舵面の作動速度の上限値及び下限値を設定する。また、試験実行部41は、このとき、舵面の作動速度を変動させる要因として予め想定された変動要因における変動幅の予測値を用いて、設定を行う。なお、本実施の形態では、変動幅の予測値の値は、記憶部42に格納される。
【0054】
変動要因としては、非対象となる作動側のアクチュエータにおける圧油の温度変化に起因した圧力変動、同じく作動側のアクチュエータに供給される圧油の供給経路における流路抵抗に起因した圧力変動(フィルタの目詰まり等)等が挙げられる。更に、変動要因としては、対象となるアクチュエータの圧油の温度を測定する際の測定誤差、及び舵面の作動速度を測定する際の測定誤差、といった各種測定誤差も、挙げられる。また、各変動要因における変動幅は、過去の統計から求めることができる。上限値及び下限値の具体例については、図4を用いて後述する。
【0055】
続いて、試験実行部41は、試験対象となるアクチュエータをダンピングモードに設定した状態で、作動側のアクチュエータによって舵面を作動させ、その際、試験対象となるアクチュエータの圧油の温度、及び舵面の作動速度を測定する。本実施の形態では、試験実行部41は、変位センサ115と温度センサ116とからの信号に基づいて、圧油の温度及び作動速度を測定する。
【0056】
その後、試験実行部41は、測定した作動速度が、測定した圧油の温度における、上限値と下限値との範囲内に含まれるかどうかを判定し、含まれる場合は、試験対象となったアクチュエータはダンピング試験に合格していると判断する。一方、含まれない場合は、試験実行部41は、試験対象となったアクチュエータはダンピング試験に合格していないと判断する。
【0057】
このように、ダンピング試験の合否判定は、先に設定された上限値及び下限値に基づいて行われる。また、上限値及び下限値は、舵面の作動速度を変動させる変動要因を考慮して設定されているので、作動側のアクチュエータにおける有効作動圧のバラツキ、測定誤差等による試験結果への悪影響は、抑制される。
【0058】
次に、本実施の形態におけるダンピング試験方法について図3及び図4を用いて説明する。図3は、本発明の実施の形態におけるダンピング試験方法を示すフロー図である。図4は、本発明の実施の形態において設定された舵面の理想的速度特性の一例、及び図3に示した各処理の具体例を示す図である。
【0059】
なお、図3において、ステップS1〜S6は、制御装置40が主体となって実行されるステップであるが、ステップA1及びA2は、主体が限定されないステップである。また、以下の説明においては、適宜図1及び図2を参酌する。
【0060】
最初に、図3に示すように、航空機100(図1参照)の各舵面について理想的速度特性が設定される(ステップA1)。図4の例では、舵面の理想的速度特性は、横軸をアクチュエータに供給される圧油の温度とし、縦軸を舵面の作動速度として、設定されている。ステップA1で設定された理想的速度特性は、制御装置40の記憶部42に格納される。また、ステップA1は、航空機100のアクチュエータにダンピング機能を必要とする全ての舵面について行われる。
【0061】
ステップA1は、制御装置40とは別の装置、例えば、設計用のコンピュータ等によって行われる。また、舵面の理想的速度特性の設定は、航空機100(図1参照)の仕様に基づいた計算によって行うことができる。更に、計算によって得られた理想的速度特性に対して、実験で得られた値に基づいて補正が行われていても良い。
【0062】
この場合の実験は、例えば、実際の舵面を模したモデルを作成し、このモデルに2以上のアクチュエータを取り付け、そして、1つのアクチュエータをダンピングモードとし、他のアクチュエータをアクティブモードとして行われる。そして、圧油の温度を変えながら、舵面の作動速度の測定が行われる。
【0063】
次に、舵面にアクチュエータを取り付けた後、いずれかのアクチュエータをダンピングモードとし、他のアクチュエータによって舵面を作動させ、そのときの、ダンピングモードにあるアクチュエータの圧油の温度と、舵面の作動速度とが、測定される(ステップA2)。ステップA2で測定された温度と作動速度も、制御装置40の記憶部42に格納される。また、ステップA2においても、圧油の温度及び作動速度の測定は、変位センサ115及び温度センサ116(図2参照)を用いて行われる。更に、ステップA2は、航空機100が備えるダンピング機能を有するアクチュエータ毎に実行される。
【0064】
ステップA2は、制御装置40によって行われても良いし、制御装置40以外の装置によって行われても良い。例えば、航空機の製造時又はオーバーホール時において、アクチュエータは舵面に取り付けられているが、制御装置40は未だ航空機に搭載されていない場合(又は搭載されていても動作できない場合)が想定される。この場合は、制御装置40以外の装置によって、アクチュエータの作動と、温度及び作動速度の測定とが行われる。
【0065】
次に、試験実行部41は、記憶部42にアクセスする。そして、試験実行部41は、記憶部42から、ステップA1で設定された理想的速度特性を取得(ステップS1)する。続いて、試験実行部41は、記憶部42から、試験対象となるアクチュエータがダンピングモードにあるときにステップA2で測定された圧油の温度及び作動速度を取得する(ステップS2)。
【0066】
次に、試験実行部41は、ステップS2で取得した圧油の温度及び舵面の作動速度を用いて、ステップS1で取得した舵面の理想的速度特性を補正する(ステップS3)。例えば、ステップS2で取得された圧油の温度及び舵面の作動速度が、図4において、A点を規定しているとする。この場合、図4に示すように、試験実行部41は、舵面の理想的速度特性を表す線がA点を通るように、当該線を縦軸方向に平行移動させる。
【0067】
また、ステップS3において、補正は、1つの測定データのみに基づいて行われているが、本実施の形態はこれに限定されるものではない。例えば、ステップA2において、各アクチュエータについて、油温を変えて、複数回の測定が行われており、記憶部42には、アクチュエータ毎に複数の測定データが記憶されているとする。この場合、試験実行部41は、例えば、複数の測定データから、圧油の温度及び舵面の作動速度の平均値を算出し、平均値で規定された点を通るように、舵面の理想的速度特性を表す線を平行移動させる。
【0068】
次に、試験実行部41は、予め想定された変動要因における変動幅の予測値を用い、補正後の理想的速度特性を基準にして、試験対象となるアクチュエータにおける圧油の温度に応じて、舵面の作動速度の上限値及び下限値を設定する(ステップS4)。
【0069】
例えば、変動要因として、作動側のアクチュエータにおける圧油の温度変化に起因した圧力変動、作動側のアクチュエータに供給される圧油の供給経路に起因した圧力変動、及び測定誤差が想定されているとする。そして、各変動要因における変動幅(%)の予測値が、それぞれ、C1[%/100]、C2[%/100]、C3[%/100]であるとする。このとき、補正後の理想的速度特性における作動速度をA(温度は任意)、これと上限値及び下限値との差を△Aとすると、上限値(A+△A)は、下記の数1によって表され、下限値(A−△A)は、下記の数2によって表される。
【0070】
(数1)
上限値(A+△A)=A×(1+C1)×(1+C2)×(1+C3)
【0071】
(数2)
下限値(A−△A)=A×(1−C1)×(1−C2)×(1−C3)
【0072】
試験実行部41は、温度毎に、上記(数1)及び(数2)を用いて、上限値及び下限値を算出する。これにより、図4に示すように、補正後の理想的速度特性に対して、上限と下限とが設定される。なお、C1、C2、C3の具体的な値は、過去の統計から求めることができる。
【0073】
次に、上限値及び下限値が設定された後、試験実行部41は、試験対象となるアクチュエータをダンピングモードに設定した状態で、作動側のアクチュエータによって舵面を作動させ、その際、試験対象となるアクチュエータの圧油の温度、及び舵面の作動速度を測定する(ステップS5)。
【0074】
具体的には、試験実行部41は、先ず、アクチュエータコントローラを介して、試験対象となるアクチュエータに対応する切替弁を作動させ、試験対象となるアクチュエータの一対の油室を、オリフィスを介して連通させる。そして、試験実行部41は、アクチュエータコントローラを介して、同一の舵面に取り付けられている別のアクチュエータを動作させ、舵面を作動させる。
【0075】
このとき、本実施の形態では、試験対象でないアクチュエータの駆動は、当該アクチュエータに圧油を供給する油圧系統において、予め設定された油圧ポンプのみを稼働させて行われているのが好ましい。例えば、1つの油圧系統に、エンジン駆動油圧ポンプと電動機駆動油圧ポンプとが設けられている場合(図1参照)は、いずれか一方だけを使用するのが好ましい。また、この場合、使用する油圧ポンプは、ステップA2において使用されている油圧ポンプと同一であるのが特に好ましい。このような態様とすれば、異なる油圧ポンプ間における発生圧力のバラツキによる、試験結果への悪影響が回避される。
【0076】
更に、ステップS5の実行時において、作動対象となるアクチュエータに圧油を供給する油圧系統は、当該油圧系統からの圧油の供給を受ける他のアクチュエータに圧油を供給せず、他のアクチュエータの動作が停止されているのが好ましい。このような態様とすれば、油圧系統からの供給圧力のバラツキによる、試験結果への悪影響が回避される。なお、このように他のアクチュエータへの圧油の供給を停止することは、ステップA2においても好ましい。
【0077】
その後、試験実行部41は、ステップS5で測定した圧油の温度に対応する上限値及び下限値を特定し(図4参照)、そして、ステップS5で測定した作動速度が、特定した上限値と下限値との間に存在するかどうかを判定する(ステップS6)。
【0078】
ステップS6の判定の結果、測定した作動速度が、上限値と下限値との間に存在する場合は、試験実行部41は、試験対象となったアクチュエータがダンピング試験に合格していると判断する。一方、ステップS6の判定の結果、測定した作動速度が、上限値と下限値との間に存在していない場合は、試験実行部41は、試験対象となったアクチュエータがダンピング試験に合格していないと判断する。
【0079】
ステップS1〜S6の実行により、試験対象とされたアクチュエータについてのダンピング試験は、終了する。また、本実施の形態では、ステップS1〜ステップS6は、航空機100が備えるダンピング機能を有する全てのアクチュエータそれぞれに対して実行される。
【0080】
以上のように、本実施の形態では、圧力センサを用いないでダンピング試験を行った場合に、その結果の信頼性を低下させる要因が除去される。従って、本実施の形態によれば、圧力センサを用いることなく、ダンピング試験結果の信頼性を向上させることができる。更に、この結果、航空機の油圧システムにおける低コスト化及び小型軽量化を促進することも可能となる。
【0081】
また、本実施の形態におけるプログラムは、コンピュータに、図3に示すステップS1〜S6を実行させるプログラムであれば良い。このプログラムをコンピュータにインストールし、実行することによって、本実施の形態における制御装置40とダンピング試験方法とを実現することができる。
【0082】
また、コンピュータとしては、いわゆる「フライトコントローラ」とよばれる、航空機に搭載されたコンピュータが挙げられる。この場合、フライトコントローラのCPU(Central Processing Unit)は、試験実行部41として機能し、処理を行なう。また、フライトコントローラが備えるメモリ等の記憶装置が、記憶部42として機能する。なお、本実施の形態におけるプログラムは、記録媒体に記録された状態で流通しても良いし、インターネット上でデータとして流通しても良い。
【0083】
また、記録媒体の具体例としては、CF(Compact Flash)及びSD(Secure Digital)等の汎用的な半導体記憶デバイス、フレキシブルディスク(Flexible Disk)等の磁気記録媒体、又はCD−ROM(Compact Disk Read Only Memory)などの光学記録媒体が挙げられる。
【産業上の利用可能性】
【0084】
以上のように、本発明によれば、航空機の舵面にとりつけられたアクチュエータを対象として、圧力センサを用いることなく、ダンピング試験を実行でき、更に、ダンピング試験の結果の信頼性を向上させることもできる。よって、本発明は、アクチュエータに対してダンピング試験が要求されている、全ての航空機に有用である。
【符号の説明】
【0085】
10、20 油圧系統
11、12、21、22 アクチュエータ
13、23 油圧回路
14、24 ポンプユニット
15、25 エンジン駆動油圧ポンプ
16、26 電動機駆動油圧ポンプ
17、27 制御弁
18、28 バイパスライン
19、29 切替弁
19a、29a オリフィス
30 油圧システム
40 制御装置
41 試験実行部
42 記憶部
50、51 アクチュエータコントローラ
100 航空機
101 胴体
102、103 水平尾翼
104、105 昇降舵(舵面)
110、120 筐体
111、121 ピストンロッド
112、122 ピストン
113、114、123、124 油室
115、125 変位センサ
116、126 温度センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
航空機の舵面の駆動に用いられる油圧作動式のアクチュエータのダンピング試験を行うための方法であって、
(a)前記アクチュエータに供給される圧油の温度と前記舵面の作動速度とによって規定された前記舵面の理想的速度特性を取得する、ステップと、
(b)前記舵面に2以上の前記アクチュエータが取り付けられ、且つ、そのうちの前記ダンピング試験の対象となる前記アクチュエータの一対の油室が、オリフィスを介して互いに連通された状態で、非対象となる前記アクチュエータが前記舵面を作動させたときの、対象となる前記アクチュエータの圧油の温度、及び前記舵面の作動速度を取得する、ステップと、
(c)前記(b)のステップで取得した、対象となる前記アクチュエータの圧油の温度、及び前記舵面の作動速度を用いて、前記(a)のステップで取得した前記舵面の理想的速度特性を補正する、ステップと、
(d)前記舵面の作動速度を変動させる要因として予め想定された変動要因における変動幅の予測値を用いて、前記(c)のステップによる補正後の前記理想的速度特性を基準に、前記圧油の温度に応じた、前記舵面の作動速度の上限値及び下限値を設定する、ステップと、
(e)前記(a)〜(d)のステップの実行後に、対象となる前記アクチュエータの前記一対の油室を、前記オリフィスを介して連通させた状態で、非対象となる前記アクチュエータによって前記舵面を作動させ、対象となる前記アクチュエータの圧油の温度、及び前記舵面の作動速度を測定する、ステップと、
(f)前記(e)のステップで測定された作動速度が、前記(e)のステップで測定された圧油の温度における、前記(d)のステップで設定された前記上限値と前記下限値との範囲内に含まれるかどうかを判定する、ステップと、
を有することを特徴とする、ダンピング試験方法。
【請求項2】
前記(d)のステップにおいて、
予め想定された前記変動要因が、非対象となる前記アクチュエータにおける前記圧油の温度変化に起因した圧力変動、非対象となる前記アクチュエータに供給される前記圧油の供給経路における流路抵抗に起因した圧力変動、対象となる前記アクチュエータの圧油の温度を測定する際の測定誤差、及び前記舵面の作動速度を測定する際の測定誤差を含む、請求項1に記載のダンピング試験方法。
【請求項3】
前記(c)のステップにおいて、
前記舵面の理想的速度特性を表す線が、対象となる前記アクチュエータの圧油の温度及び前記舵面の作動速度によって規定される点を通るように、前記理想的速度特性を補正する、請求項1または2に記載のダンピング試験方法。
【請求項4】
前記航空機が前記アクチュエータに圧油を供給するために複数の油圧系統を備えており、
前記(b)のステップ及び前記(e)のステップにおいて、非対象となる前記アクチュエータの駆動は、当該アクチュエータに圧油を供給する油圧系統において、予め設定された油圧ポンプのみを稼働させ、且つ、当該油圧系統からの圧油の供給を受ける他のアクチュエータの動作を停止させて、行われている、
請求項1〜3のいずれかに記載のダンピング試験方法。
【請求項5】
航空機の舵面の駆動に用いられる油圧作動式のアクチュエータのダンピング試験を、コンピュータによって実行するための、プログラムであって、
前記コンピュータに、
(a)前記アクチュエータに供給される圧油の温度と前記舵面の作動速度とによって規定された前記舵面の理想的速度特性を取得する、ステップと、
(b)前記舵面に2以上の前記アクチュエータが取り付けられ、且つ、そのうちの前記ダンピング試験の対象となる前記アクチュエータの一対の油室が、オリフィスを介して互いに連通された状態で、非対象となる前記アクチュエータが前記舵面を作動させたときの、対象となる前記アクチュエータの圧油の温度、及び前記舵面の作動速度を取得する、ステップと、
(c)前記(b)のステップで取得した、対象となる前記アクチュエータの圧油の温度、及び前記舵面の作動速度を用いて、前記(a)のステップで取得した前記舵面の理想的速度特性を補正する、ステップと、
(d)前記舵面の作動速度を変動させる要因として予め想定された変動要因における変動幅の予測値を用いて、前記(c)のステップによる補正後の前記理想的速度特性を基準に、前記圧油の温度に応じた、前記舵面の作動速度の上限値及び下限値を設定する、ステップと、
(e)前記(a)〜(d)のステップの実行後に、対象となる前記アクチュエータの前記一対の油室を、前記オリフィスを介して連通させた状態で、非対象となる前記アクチュエータによって前記舵面を作動させ、対象となる前記アクチュエータの圧油の温度、及び前記舵面の作動速度を測定する、ステップと、
(f)前記(e)のステップで測定された作動速度が、前記(e)のステップで測定された圧油の温度における、前記(d)のステップで設定された前記上限値と前記下限値との範囲内に含まれるかどうかを判定する、ステップと、
を実行させるプログラム。
【請求項6】
前記(d)のステップにおいて、
予め想定された前記変動要因が、非対象となる前記アクチュエータにおける前記圧油の温度変化に起因した圧力変動、非対象となる前記アクチュエータに供給される前記圧油の供給経路における流路抵抗に起因した圧力変動、対象となる前記アクチュエータの圧油の温度を測定する際の測定誤差、及び前記舵面の作動速度を測定する際の測定誤差を含む、請求項5に記載のプログラム。
【請求項7】
前記(c)のステップにおいて、
前記舵面の理想的速度特性を表す線が、対象となる前記アクチュエータの圧油の温度及び前記舵面の作動速度によって規定される点を通るように、前記理想的速度特性を補正する、請求項5または6に記載のプログラム。
【請求項8】
前記航空機が前記アクチュエータに圧油を供給するために複数の油圧系統を備えており、
前記(b)のステップ及び前記(e)のステップにおいて、非対象となる前記アクチュエータの駆動は、当該アクチュエータに圧油を供給する油圧系統において、予め設定された油圧ポンプのみを稼働させ、且つ、当該油圧系統からの圧油の供給を受ける他のアクチュエータの動作を停止させて、行われている、
請求項5〜7のいずれかに記載のプログラム。
【請求項9】
航空機の舵面に取り付けられた油圧作動式の2以上のアクチュエータを制御する制御装置であって、
前記2以上のアクチュエータそれぞれに対してダンピング試験を実行する、試験実行部を備え、
前記試験実行部は、
前記アクチュエータに供給される圧油の温度と前記舵面の作動速度とによって規定された前記舵面の理想的速度特性を取得し、
前記舵面に2以上の前記アクチュエータが取り付けられ、且つ、そのうちの前記ダンピング試験の対象となる前記アクチュエータの一対の油室が、オリフィスを介して互いに連通された状態で、非対象となる前記アクチュエータが前記舵面を作動させたときの、対象となる前記アクチュエータの圧油の温度、及び前記舵面の作動速度を取得し、
取得した、対象となる前記アクチュエータの圧油の温度、及び前記舵面の作動速度を用いて、前記舵面の理想的速度特性を補正し、
更に、前記舵面の作動速度を変動させる要因として予め想定された変動要因における変動幅の予測値を用いて、補正後の前記理想的速度特性を基準に、前記圧油の温度に応じた、前記舵面の作動速度の上限値及び下限値を設定し、
そして、対象となる前記アクチュエータの前記一対の油室を、前記オリフィスを介して連通させた状態で、非対象となる前記アクチュエータによって前記舵面を作動させ、対象となる前記アクチュエータの圧油の温度、及び前記舵面の作動速度を測定し、
測定した作動速度が、測定した圧油の温度における、前記上限値と前記下限値との範囲内に含まれるかどうかを判定する、
ことを特徴とする、制御装置。
【請求項10】
航空機の舵面の駆動に用いられる油圧システムであって、
前記舵面に取り付けられた油圧作動式の2以上のアクチュエータと、前記2以上のアクチュエータそれぞれの制御及びダンピング試験を実行する制御装置とを備え、
前記制御装置は、
前記アクチュエータに供給される圧油の温度と前記舵面の作動速度とによって規定された前記舵面の理想的速度特性を取得し、
前記舵面に2以上の前記アクチュエータが取り付けられ、且つ、そのうちの前記ダンピング試験の対象となる前記アクチュエータの一対の油室が、オリフィスを介して互いに連通された状態で、非対象となる前記アクチュエータが前記舵面を作動させたときの、対象となる前記アクチュエータの圧油の温度、及び前記舵面の作動速度を取得し、
取得した、対象となる前記アクチュエータの圧油の温度、及び前記舵面の作動速度を用いて、前記舵面の理想的速度特性を補正し、
更に、前記舵面の作動速度を変動させる要因として予め想定された変動要因における変動幅の予測値を用いて、補正後の前記理想的速度特性を基準に、前記圧油の温度に応じた、前記舵面の作動速度の上限値及び下限値を設定し、
そして、対象となる前記アクチュエータの前記一対の油室を、前記オリフィスを介して連通させた状態で、非対象となる前記アクチュエータによって前記舵面を作動させ、対象となる前記アクチュエータの圧油の温度、及び前記舵面の作動速度を測定し、
測定した作動速度が、測定した圧油の温度における、前記上限値と前記下限値との範囲内に含まれるかどうかを判定する、
ことを特徴とする、油圧システム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−25329(P2012−25329A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−168098(P2010−168098)
【出願日】平成22年7月27日(2010.7.27)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.COMPACTFLASH
【出願人】(503405689)ナブテスコ株式会社 (737)
【Fターム(参考)】