説明

ダンプ車のベッセル上昇走行防止装置

【課題】 いわゆる帆立て事故を確実に防止できるようにしたダンプ車のベッセル上昇走行防止装置を提供する。
【解決手段】ベッセル上昇時にダンプ車の走行を停止させるベッセル上昇走行停止装置において、ベッセル12が上昇したことを検知するベッセル上昇検知センサー21、210と、変速機がニュートラル以外になったことを検知するニュートラルスイッチ23、230と、ベッセル上昇検知センサー及びニュートラルスイッチの信号を受け、ベッセルの上昇時に変速機がニュートラル以外になったときにエンジンを強制停止させるエンジン停止装置と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はダンプ車のベッセル上昇走行防止装置に関し、特にいわゆる帆立て事故を確実に防止できるようにした装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ダンプ車ではベッセル(荷台)に土砂等の搭載物を搭載して運搬し、目的の場所でベッセルを上昇させて搭載物を降ろすという作業が行なわれるが、ベッセルを上昇させたままダンプ車を走行させてしまうと、ベッセルが低い建屋、あるいは電線や各種配管等に衝突する、いわゆる帆立て事故が懸念される。
【0003】
そこで、ベッセルを上昇させた状態でダンプ車が所定距離、例えば約10m走行すると、燃料の供給を遮断してエンジンを停止させるとともに、ブレーキを制動状態にロックするようにしたベッセル上昇走行停止装置が提案されている(特許文献1)。
【0004】
また、ベッセルの上昇が検知された後、所定の時間が経過したときにベッセルが上昇したままの場合にアクセルペダルをロックしてダンプ車が走行できないようにしたベッセル上昇走行停止装置も提案されている(特許文献2)。
【0005】
しかし、従来のベッセル上昇走行停止装置ではベッセルを上昇させた状態においてもダンプ車を所定距離だけ走行させることができるので、帆立て事故が発生してベッセルが建屋等に引っ掛かった状態でダンプ車の走行が停止されると、ダンプ車が引っ掛かった建屋等から脱出できない。
【0006】
これに対し、本件出願人らは、ベッセルの上昇時にアクセルペダルを非踏込み状態にロックする一方、ベッセルが水平に戻った時にアクセルペダルのロックを解除してアクセルペダルを踏込むことができるようにしたベッセル上昇走行停止装置を提案するに至った(特許文献3)。
【0007】
特許文献3記載のベッセル上昇走行停止装置ではベッセルが上昇すると、直ちにアクセルペダルを非踏込み状態にロックするので、帆立て事故を確実に防止できることが期待される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭58ー214424号公報
【特許文献2】実開昭63−162658号公報
【特許文献3】特開平10−151981号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、ダンプ車はエンジンがアイドリング回転数であっても乗用車などに比較してエンジン出力が大きく、運転者が変速機を不注意でニュートラル以外の状態に操作すると、「のろのろ」と緩慢に前進することがある。
【0010】
しかるに、特許文献3記載のベッセル上昇走行停止装置ではアクセルペダルが非踏込み状態にロックされていても、運転者の不注意又は誤って変速機をニュートラル以外に操作してしまうと、エンジンがアイドル状態であっても、その大きなエンジン出力に起因してダンプ車が緩慢に前進し、帆立て事故が懸念される。
【0011】
この発明は、かかる問題点に鑑み、運転者の不注意でダンプ車が緩慢に前進して帆立て事故が起こることのないようにしたダンプ車のベッセル上昇走行停止装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
そこで、本発明に係るダンプ車のベッセル上昇走行停止装置は、ベッセル上昇時にダンプ車の走行を停止させるベッセル上昇走行停止装置において、ベッセルが上昇したことを検知するベッセル上昇検知センサーと、変速機がニュートラル以外になったことを検知するニュートラルスイッチと、上記ベッセル上昇検知センサー及びニュートラルスイッチの信号を受け、上記ベッセルの上昇時に変速機がニュートラル以外になったときにエンジンを停止させるエンジン停止装置と、を備えたことを特徴とする。
【0013】
本発明の特徴の1つはベッセルが上昇したときに変速機がニュートラル以外に操作されたときには、エンジンを強制的に停止させるようにした点にある。
【0014】
これにより、ベッセルの上昇時において、運転者の不注意又は誤って変速機をニュートラル以外に操作すると、エンジンが強制的に停止され、大きなエンジン出力に起因してダンプ車が緩慢に前進することはなく、帆立て事故が起こることはない。
【0015】
エンジン停止装置はベッセルの上昇時に、変速機がニュートラル以外になったときにエンジンを停止させることができればよく、例えばエンジンの動作を制御するエンジン制御ユニットへの駆動電圧の印加を遮断する回路から構成されることができる。
【0016】
また、エンジン停止装置は、エンジンを停止させるストップモータと、該ストップモータを作動させる回路とから構成されることもできる。
【0017】
例えば、道路整備を行なう場合、あるいはベッセルが何らかの理由で建屋等に引っ掛かったような場合にはベッセルを上昇させたままダンプ車を走行させることができるのが望ましい。
【0018】
そこで、エンジン停止装置によるエンジンの停止を解除する解除スイッチを更に備えるのがよい。ここで、単にエンジン停止装置による制御を単にON・OFFするのみでは運転者の不注意や慣れ等に起因してエンジン停止装置の制御をOFFとしたままの状態で作業を行なうおそれがある。そこで、解除スイッチにはプッシュボタン式スイッチ又はトグル式スイッチを設け、エンジン停止装置による制御を一時的に解除できるようにするのがよい。
【0019】
ベッセル上昇検知センサーはベッセルの上昇を検知できればどのようなセンサーでもよいが、近接センサーを採用するとダンプ車の車体や各種附属品等に起因して誤動作するおそれがある。そこで、機械的なスイッチ、例えばリミットスイッチを用いるのが好ましい。また、エンジンストップモータは横断歩道などでの停止時にエンジンを一時的に停止させる公知の方式、例えばアイドリング時のエンジンストップモータを使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係るベッセル上昇走行防止装置を備えたダンプ車を示す概略図である。
【図2】上記ダンプ車のベッセル上昇状態を示す概略図である。
【図3】上記ベッセル上昇走行防止装置の好ましい実施形態における回路構成の例を示す図である。
【図4】他の実施形態における回路構成の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を図面に示す具体例に基づいて詳細に説明する。図1ないし図3は本発明に係るダンプ車のベッセル上昇走行防止装置の好ましい実施形態を示す。図1及び図2に示されるように、ダンプ車10では車室11の背後にベッセル12が設けられ、該ベッセル12の後端部にはブラケット13が設けられ、該ブラケット13は車体フレーム14の後端部に回動可能に取付けられている。
【0022】
また、車体フレーム14の中央近傍には油圧シリンダ15の後端部が揺動可能に取付けられ、該油圧シリンダ15のピストンロッドの先端はベッセル12の底面のほぼ中央に揺動可能に取付けられており、ピストンロッドが伸長することによってベッセル12がブラケット取付部位回りに揺動されて図2に示すように傾斜されて上昇され、ピストンロッドが収縮することによってベッセル12が逆方向に揺動されて図1に示されるように水平状態に下降するようになっている。
【0023】
このダンプ車10には本例のベッセル上昇走行防止装置20が装備されている。このベッセル上昇走行防止装置20において、車体フレーム14には後方部位にリミットスイッチ(ベッセル上昇検知センサー)21が取付けられ、該リミットスイッチ21はセンシング部分が髭状をなし、ベッセル12の傾斜角度が所定角度以下の時にはON、所定角度以上の時にはOFFするようになっている。
【0024】
エンジン停止装置20の回路構成の1例を図3に示す。図において、22はエンジンを始動させるイグニッションスイッチ、23は変速機がニュートラル以外になったときにOFFとなるニュートラルスイッチ、24はエンジンの動作を制御するエンジン制御ユニット(ECU)、25はイグニッションスイッチ22からの駆動電圧をエンジン制御ユニット24に印加しその印加を遮断するリレー接点、25Aはニュートラルスイッチ24によって駆動電圧を印加されその印加を遮断され、リレー接点25を切換え操作するリレーコイルである。
【0025】
また、26はイグニッションスイッチ22からの駆動電圧をエンジン制御ユニット24に印加しその印加を遮断するリレー接点、26Aはリミットスイッチ21によって駆動電圧を印加されその印加を遮断され、リレー接点26を切換え操作するリレーコイルである。
【0026】
さらに、27は例えば‘ダンプ中、走行禁止です’等の警報データを格納したROMと、警報データを警報音として再生する再生回路とから構成される警報発生器、28はベッセルの上昇中(ダンプ中)に変速機がニュートラル以外に操作されたときにおけるエンジン停止動作を解除するトグル式の解除スイッチであり、以上のようにしてエンジン停止回路29が構成されている。
【0027】
次に、動作について説明する。ダンプ車10のベッセル12が水平状態にある場合、リミットスイッチ21はONとなっており、リレーコイル26Aは駆動電圧が印加されてリレー接点26の切片は接点a側に接続され、イグニッションスイッチ22から駆動電圧がリレー接点26を経てエンジン制御ユニット24に印加され、エンジンは通常の動作を行うことができる。
【0028】
今、ベッセル12が上昇されて所定の角度以上に上昇すると、リミットスイッチ21がOFFとなり、リレーコイル26Aへの電圧印加が遮断され、リレー接点26の切片は接点b側に接続され、リレー接点26からエンジン制御ユニット24への経路は遮断されることとなる。
【0029】
同時に、警報発生器27から‘ダンプ中、走行禁止です’等の警報音が発生され、運転者に注意が促される。
【0030】
このとき、変速機がニュートラルに操作されていると、ニュートラルスイッチ23はONとなっており、リレーコイル25Aは駆動電圧が印加されてリレー接点25の切片は接点a側に接続され、イグニッションスイッチ22から駆動電圧がリレー接点25からエンジン制御ユニット24に印加されているので、エンジンは回転を継続できる。
【0031】
しかし、変速機がニュートラル以外、例えば1速や2速あるいは後退に操作されると、ニュートラルスイッチ23はOFFとなり、リレーコイル25Aへの駆動電圧の印加は遮断され、リレー接点25の切片は接点b側に接続され、リレー接点25からのエンジン制御ユニット24への通電も遮断されるので、エンジンは強制停止される。
【0032】
以上のようにベッセル12が上昇しているときに、変速機がニュートラル以外に操作されると、エンジン制御ユニット24への駆動電圧の印加が遮断されてエンジンは強制的に停止される。
【0033】
こうしてエンジンを強制停止している際に、道路整備等、必要に応じてベッセル12を上昇させた状態でダンプ車10を走行させたい場合には解除スイッチ28を操作する。
【0034】
すると、解除スイッチ28がONとなり、イグニッションスイッチ22から駆動電圧が解除スイッチ28を経てエンジン制御ユニット24に印加されるので、エンジンを作動させてダンプ車10を走行させることができる。
【0035】
他方、ダンプ車10のベッセル12が所定の角度以下に低下されると、リミットスイッチ21がONとなり、リレー接点26の切片が接点a側に接続され、駆動電圧がエンジン制御ユニット24に印加されるので、ニュートラルスイッチ23のON・OFFに関係なく、エンジンを作動させてダンプ車10を走行させることができることとなる。
【0036】
図4は第2の実施形態を示す。本例のベッセル上昇走行防止装置200において、210はセンシング部分が髭状をなし、ベッセル12が傾斜角度が所定角度以下の時にはON、所定角度以上の時にはOFFとなるリミットスイッチ(ベッセル上昇検知センサー)、230は変速機がニュートラル以外になったときにOFFとなるニュートラルスイッチ、310はエンジンストップモータのカプラーで、端子T1と端子T2が接続されたときにモータをフリーにしてエンジンの回転を許容し、端子T1と端子T2の接続が遮断されて端子T1と端子T5が接続されたときにモータをロックしてエンジンの回転をロックするようになっている。
【0037】
また、250は駆動電圧をリレーコイル300Aに印加しその印加を遮断するリレー接点、250Aはニュートラルスイッチ230によって駆動電圧を印加されその印加を遮断され、リレー接点250を切換え操作するリレーコイル、260は駆動電圧を警報発生器270とリレー接点250に印加し印加を遮断するリレー接点、260Aはリミットスイッチ210によって駆動電圧を印加されその印加を遮断され、リレー接点260を切換え操作するリレーコイルである。
【0038】
さらに、270は例えば‘ダンプ中、走行禁止です’等の警報データを格納したROMと、警報データを警報音として再生する再生回路とから構成する警報発生器、280はダンプ中におけるエンジン停止動作を解除するトグル式の解除スイッチ、300は接点aでエンジンストップモータをロックし接点bでロックを解除するリレー接点であり、以上のようにしてエンジン停止回路290が構成されている。
【0039】
次に、動作について説明する。ダンプ車10のベッセル12が水平状態にある場合、リミットスイッチ210はONとなっており、リレーコイル260Aの切片は電圧が印加され、リレー接点260の切片は接点a側に接続され、警報発生器270及びリレー接点250には駆動電圧が印加されていない。
【0040】
すると、リレー接点300の切片は接点b側に接続されており、エンジンストップモータはフリーになっているので、エンジンは動作することができる。
【0041】
ベッセル12が上昇されて所定の角度以上になると、リミットスイッチ210がOFFとなり、リレーコイル260Aへの駆動電圧の印加が遮断されてリレー接点260の切片が接点b側に接続され、電源電圧が警報発生器270及びリレーコイル250Aに印加される。すると、警報発生器270から‘ダンプ中、走行禁止です’等の警報音が発生され、運転者に注意が促される。
【0042】
このとき、変速機がニュートラルになっていると、ニュートラルスイッチ230はONとなっており、リレーコイル250Aに駆動電圧が印加され、リレー接点250の切片は接点a側に接続され、リレー接点250からリレーコイル300A及び解除スイッチ280の経路では駆動電圧は印加されず、リレー接点300の切片は端子b側に接続され、ストップモータはフリーとなっているので、エンジンは回転を継続できる。
【0043】
他方、ベッセル12の上昇中に変速機がニュートラル以外の1速、2速又は後退に操作されると、ニュートラルスイッチ230はOFFとなり、リレーコイル250Aへの駆動電圧の印加が遮断され、リレー接点250Aの切片は接点b側に接続され、リレー接点250Aからリレーコイル300A及び解除スイッチ280の経路で駆動電圧が印加され、リレー接点300の切片は端子a側に接続され、エンジンストップモータはロックされ、エンジンは回転を強制停止される。
【0044】
以上のようにベッセル12が上昇しているときに、変速機がニュートラル以外に操作されると、エンジンストップモータがロックされてエンジンは強制的に停止される。
【0045】
他方、道路整備等、ベッセル12を上昇させたままでダンプ車10を走行させたい場合には解除スイッチ280を操作すると、リレー接点260、リレー接点250、リレーコイル300A及び解除スイッチ280の経路が遮断され、リレー接点300Aの切片は接点b側に戻り、エンジンストップモータはフリーとなるので、エンジンを作動させてダンプ車10を走行させることができる。
【0046】
ダンプ車10のベッセル12が所定の角度以下に低下されると、リミットスイッチ210がONとなり、リレー接点260の切片が接点a側に接続され、エンジンストップモータがフリーとなるので、エンジンを作動させてダンプ車10を走行させることができることとなる。
【0047】
ベッセル12が水平状の状態ではリレー接点260の切片が接点a側に接続されているので、ニュートラルスイッチ230のON・OFFに関係なく、エンジンストップモータはフリーとなり、エンジンを作動させてダンプ車10を走行させることができる。
【符号の説明】
【0048】
10 ダンプ車
12 ベッセル
20 ベッセル上昇走行停止装置
21 リミットスイッチ(ベッセル上昇検知センサー)
22 イグニッションスイッチ
23 ニュートラルスイッチ
24 エンジン制御ユニット
28 解除スイッチ
29 エンジン停止回路
200 ベッセル上昇走行停止装置
210 リミットスイッチ(ベッセル上昇検知センサー)
230 ニュートラルスイッチ
280 解除スイッチ
290 エンジン停止回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベッセル上昇時にダンプ車の走行を停止させるベッセル上昇走行停止装置において、
ベッセル12が上昇したことを検知するベッセル上昇検知センサー21、210と、
変速機がニュートラル以外になったことを検知するニュートラルスイッチ23、230と、
上記ベッセル上昇検知センサー21、210及びニュートラルスイッチ23、230の信号を受け、上記ベッセル12の上昇時に変速機がニュートラル以外になったときにエンジンを停止させるエンジン停止装置と、
を備えたことを特徴とするダンプ車のベッセル上昇走行防止装置。
【請求項2】
上記エンジン停止装置は、エンジン制御ユニットへの駆動電源の通電を遮断する回路29から構成されている請求項1記載のダンプ車のベッセル上昇走行防止装置。
【請求項3】
上記エンジン停止装置は、エンジンを停止させるストップモータと、該ストップモータを作動させる回路290とから構成されている請求項1記載のダンプ車のベッセル上昇走行防止装置。
【請求項4】
上記エンジン停止装置によるエンジンの停止を解除する解除スイッチ28、280を更に備えた請求項2又は3記載のダンプ車のベッセル上昇走行防止装置。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate