説明

チアゾリジンジオン反応性バイオマーカーを用いる治療物質の同定法

本発明は、治療物質、特にチアゾリジンジオンと類似する活性を有する治療物質を、チアゾリジンジオンによる処置に対して反応性のバイオマーカーに基づいてスクリーニングする方法に関する。そのような治療物質は、例えば、II型糖尿病、インスリン耐性、肥満、耐糖能障害、メタボリック症候群(シンドロームX)、循環器疾患、アテロ−ム性動脈硬化症および脂質代謝異常の治療に有用であり得る。さらに、本発明は、ある個体に前述の治療物質による処置が有効であるかどうかを試験する方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は医薬研究ツールの分野に属する。特に、本発明は、チアゾリジンジオンによる処理に反応性のバイオマーカーに基づく、治療物質、特にチアゾリジンジオンに類似する活性を有する治療物質のスクリーニング法を提供する。そのような治療物質は、例えばII型糖尿病、肥満、耐糖能障害、メタボリック症候群(シンドロームX)、循環器疾患、多嚢胞性卵巣症候群、アテロ−ム性動脈硬化症および脂質代謝異常の治療に有用であり得る。それら治療物質の免疫調節性および抗炎症性作用を通して、チアゾリジンジオンおよび他のPPAR-ガンマアゴニストが、インスリン耐性に無関係の疾患、例えば自己免疫性疾患(例えば、多発性硬化症)、アトピー性疾患(例えば、喘息、アトピー性皮膚炎)および他の炎症性疾患(例えば、乾癬、潰瘍性大腸炎)の治療に有効であると判明する可能性がある。さらに、本発明は前述の治療物質による処置が個体に有効であるかどうかを試験する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
II型糖尿病、耐糖能障害、肥満、メタボリック症候群、循環器疾患およびアテロ−ム性動脈硬化症は全て互いに関連する疾患である。
【0003】
メタボリック症候群は最も危険な循環器疾患(CVD)危険因子群:糖尿病または糖尿病前症、腹部肥満または肥満、コレステロールの変化および高血圧の複合状態である。腹部肥満または肥満は、メタボリック症候群の罹患率を上げる主な要因である。肥満は、原因としてインスリン耐性が関係している低度の炎症状態をもたらす、いくつかの急性期タンパク質および炎症性サイトカインの増加した循環レベルと関連している。インスリン耐性はメタボリック症候群患者の大多数に見られ、また循環器疾患およびII型糖尿病の危険と強く関連している。
【0004】
脂肪組織(adipose tissue)または脂肪細胞(fat cell)は、総称して「アディポカイン」と称する広範なタンパク質因子を分泌または放出する。これらのアディポカインは、脂質代謝、インスリン感受性、別の補体系、血管の止血、血圧調節および血管新生、ならびにエネルギー平衡の調節に関与する。さらに、炎症(TNF-アルファ、IL-1、IL-6、IL-8、IL-10、トランスフォーミング増殖因子、神経成長因子)および急性期反応(プラスミノーゲン活性化因子インヒビター1(PAI-1)、ハプトグロビン、血清アミロイドA)に関与するアディポカインの新たな報告が続いている。増加したレベルのPAI-1は、血栓形成促進性状態の一因となり、一方、低レベルのアディポネクチンはメタボリック危険因子の悪化と相関する。
【0005】
インスリン耐性はII型糖尿病に生じる主な特徴の1つでもある。グリタゾン(glitazone)類およびチアゾリジンジオン(TZD)類を含むペルオキシソーム増殖因子活性化レセプターガンマ(PPARガンマ)アゴニストは、強力なインスリン増感剤である。
【0006】
サブタイプPPAR-アルファ、PPAR-ベータ(PPAR-デルタとも呼ばれる)およびPPAR-ガンマを含むPPARは、特異的DNA応答エレメントと結合する核内レセプタースーパーファミリーのメンバーであり、リガンド結合に応答していくつかの遺伝子の活性化が起こる)。PPARはレチノイドXレセプター(RXR)とともにヘテロ二量化し、特異的DNA応答エレメント(PPRE)と結合する。PPARへのリガンド結合により、そのレセプターはコンホメーションが変化し、その結果、遺伝子の転写が活性化される。PPARはエネルギーの貯蔵に関与する代謝経路の重要な調節因子であり、従って肥満のような疾患に対する潜在的な治療標的であることが示唆されている(Kliewer, et al., Recent Progress in Hormone Research, 2001, 56: 239-263)。PPAR-ガンマは、グルコースの調節および脂質ホメオスタシス、ならびにアディポサイト分化において重要な役割を持つことが知られている(Willson, et al., Journal of Medicinal Chemistry, 2000, 43: 527-550)。
【0007】
PPAR-アルファ、ベータおよびガンマの生理学的役割と組織発現を以下の表に示す。
【表1】

【0008】
PPARアゴニストの潜在的な治療適応は以下の通りである。
【表2】

【0009】
チアゾリジンジオン(例えばロシグリタゾン(Rosiglitazone)、トログリタゾン(Troglitazone)、ピオグリタゾン(Pioglitazone)およびMCC-555)および非チアゾリジンジオンPPAR-ガンマアゴニスト(例えばRWJ-348260)は、内臓および肝臓脂肪量の減少を伴う大規模な体脂肪の再分配を引き起こし、その結果、インスリン感受性が増大する。チアゾリジンジオンのグルコース低減効果は、インスリン耐性、II型糖尿病および関連疾患の治療に有用な薬物としてよく知られるメトホルミンによって達成される効果と類似している。チアゾリジンジオンは、凝血原状態を改善し、内皮機能不全の改善に有効性を示し、炎症性サイトカインを減少させ、アディポネクチンレベルを増加させる。チアゾリジンジオンの新たな事実が浮上しており、そこではチアゾリジンジオンの大きな利点に、血漿脂質および全身性炎症マーカーに直接影響すること、アテローム発生/アテロ−ム性動脈硬化症を改善すること、および糖尿病対象の冠動脈再狭窄を防止することがある可能性が示唆されている。しかしながら、特定のチアゾリジンジオンに対する患者の反応にはかなりばらつきがあり、20-30%の患者はノンレスポンダーに分類される。
【発明の開示】
【0010】
上述の疾患の処置において治療潜在能力を有する物質を同定するための効率的かつ高感度のスクリーニング方法を提供することが、本発明の目的である。特に、チアゾリジンジオンと類似する機能活性を有する物質をスクリーニングできる方法およびそのようなスクリーニング方法に有用なバイオマーカーを提供することが目的である。
【0011】
本発明のさらなる目的は、ある個体がチアゾリジンジオンに類似する機能活性を有する物質による処置に反応性であるかどうかを予測できる方法を提供することである。
【0012】
この目的は特許請求の範囲の対象事項によって達成する。
【0013】
本発明は一局面において、治療物質を同定する方法であって、細胞と候補物質を接触させる工程、および、Fn14、HMGA1、アペリン(Apelin)、それらのフラグメントおよびそれらの変異体からなる群から選択される少なくとも1つのペプチドおよび/またはタンパク質のレベルを測定する工程を含む方法に関する。
【0014】
好ましくは、本発明の方法に用いる細胞は、チアゾリジンジオンによる処置に反応性であり、および/またはPPAR-ガンマレセプターを発現する。特に好ましい実施態様において、その細胞は、アディポサイト、脂肪組織またはアディポサイトと同様の分泌特性を持つ細胞型、特に単球およびマクロファージである。
【0015】
候補物質は化合物または化合物の組成物であり得る。
【0016】
好ましくは、治療物質は、少なくとも1つのチアゾリジンジオンの機能特性を有する物質、またはチアゾリジンジオンに類似する活性を有する物質である。
【0017】
好ましい実施態様において、細胞が候補物質と接触していない場合に対して細胞が候補物質と接触した場合の、前記少なくとも1つのペプチドおよび/またはタンパク質のレベルの増加、および/または同少なくとも1つのペプチドおよび/またはタンパク質のレベルの減少は、その候補物質が、疾患、特にPPAR-ガンマレセプターに関連する疾患の処置に有用な治療物質であることを示す。さらに好ましい実施態様において、細胞が候補物質と接触していない場合に対して細胞が候補物質と接触した場合の、前記少なくとも1つのペプチドおよび/またはタンパク質のレベルの増加は、その候補物質が、少なくとも1つのチアゾリジンジオンの機能特性を有すること、および/または、チアゾリジンジオンにより治療可能な疾患および/またはPPAR-ガンマレセプターと関連する疾患の処置に有用であることを示す。
【0018】
本発明の方法の特定の実施態様において、前記接触はサンプル中インビトロで、または生物内で起こる。
【0019】
本発明の方法のさらなる実施態様において、前記少なくとも1つのペプチドおよび/またはタンパク質のレベルを、参照におけるその少なくとも1つのペプチドおよび/またはタンパク質のレベルと比較する。ここで、その参照において細胞は好ましくは:(i)候補物質と接触していない、および/または(ii)チアゾリジンジオンまたはチアゾリジンジオンと候補物質の組み合わせと接触している、および/または(iii)候補物質、チアゾリジンジオンまたはチアゾリジンジオンと候補物質の組み合わせと異なる期間および/または異なる濃度において接触している。
【0020】
本発明の方法の一実施態様において、前記接触は、候補物質を生物に投与することにより生物内で起こり、前記少なくとも1つのペプチドおよび/またはタンパク質のレベルを、少なくとも1つのさらなる生物におけるその少なくとも1つのペプチドおよび/またはタンパク質のレベルと比較する。ここでそのさらなる生物は:(i)候補物質が投与されていない、および/または(ii)チアゾリジンジオンまたはチアゾリジンジオンと候補物質の組み合わせを投与した、および/または(iii)候補物質、チアゾリジンジオンまたはチアゾリジンジオンと候補物質の組み合わせとの接触が異なる期間行われた、および/または(iv)異なる用量の候補物質を投与した、および/または(v)候補物質を異なる投与方法によって投与した。
【0021】
本発明はさらなる局面において、少なくとも1つのチアゾリジンジオンの機能特性を有する物質による処置に、ある生物が反応性であるかどうかを判定する方法であって、生物に前記物質を投与する工程、およびその生物から得たサンプル中のFn14、HMGA1、アペリン、それらのフラグメントおよびそれらの変異体からなる群から選択される少なくとも1つのペプチドおよび/またはタンパク質のレベルを測定する工程を含む方法に関し、ここでそのサンプルは好ましくは、血液、血清、血漿、尿、脂肪組織、CSF、骨髄、脳組織、白血球、血管内皮細胞、小膠細胞からなる群から選択される。
【0022】
本発明のこの局面による方法において、前記物質が投与されていない生物に対して同物質が投与された生物における、前記少なくとも1つのペプチドおよび/またはタンパク質のレベルの増加、および/または、同少なくとも1つのペプチドおよび/またはタンパク質のレベルの減少は、前記物質が疾患、特にPPAR-ガンマレセプターに関連する疾患の治療に有効であることを示す。好ましくは、前記物質が投与されていない生物に対して同物質が投与された生物における、前記少なくとも1つのペプチドおよび/またはタンパク質のレベルの増加は、前記物質がチアゾリジンジオンにより治療可能な疾患および/またはPPAR-ガンマレセプターに関連する疾患の処置に有効であることを示す。
【0023】
特定の実施態様において、前記少なくとも1つのペプチドおよび/またはタンパク質のレベルを、少なくとも1つのさらなる生物のその少なくとも1つのペプチドおよび/またはタンパク質のレベルと比較する。ここでそのさらなる生物は:(i)前記物質を投与していない、および/または(ii)チアゾリジンジオンまたはチアゾリジンジオンと前記物質の組み合わせを投与した、および/または(iii)前記物質、チアゾリジンジオンまたはチアゾリジンジオンと前記物質の組み合わせに異なる期間接触させた、および/または(iv)異なる用量の前記物質を投与した、および/または(v)前記物質を異なる投与方法によって投与した。
【0024】
本発明のあらゆる局面による好ましい実施態様において、前記測定は、Fn14および/またはその少なくとも1つのフラグメントおよび/またはそれらの少なくとも1つの変異体、および/またはHMGA1および/またはその少なくとも1つのフラグメントおよび/またはそれらの少なくとも1つの変異体、および/またはアペリンおよび/またはその少なくとも1つのフラグメントおよび/またはそれらの少なくとも1つの変異体のレベルを測定することを含む。
【0025】
本発明によると、「Fn14、そのフラグメントおよびそれらの変異体」なる用語は、本明細書に記載のFn14タンパク質、そのフラグメントまたはそれらの変異体の配列を含むいずれかのタンパク質またはペプチドに関する。本発明の好ましい実施態様において、Fn14タンパク質、そのフラグメントまたはそれらの変異体は、本発明の方法に用いる細胞によって天然にコードされる、つまり組換え技術が介入していない、Fn14タンパク質に相当する、または由来する。あるいは、本発明の方法に用いる細胞は、その細胞とは異種のFn14タンパク質、そのフラグメントまたはそれらの変異体をコードし得る。好ましくは、Fn14タンパク質、そのフラグメントまたはそれらの変異体は、ヒトまたはネズミのFn14に相当または由来し、好ましくは配列表の配列番号1または2に記載のアミノ酸配列を含むFn14タンパク質に相当する、または由来する。Fn14のフラグメントは好ましくはFn14タンパク質、好ましくはネズミFn14、より好ましくは配列表の配列番号2に示す配列の、アミノ酸残基28から84、28から83、28から87または28から88に相当する、またはホモロジー比較において前述のアミノ酸残基に対応するFn14タンパク質のアミノ酸残基に相当する。特に好ましい実施態様において、Fn14のフラグメントは、配列表の配列番号7から10からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する。
【0026】
本発明によると、「HMGA1、そのフラグメントおよびそれらの変異体」なる用語は、本明細書に記載のHMGA1タンパク質、そのフラグメントまたはそれらの変異体の配列を含むいずれかのタンパク質またはペプチドに関する。本発明の好ましい実施態様において、HMGA1タンパク質、そのフラグメントまたはそれらの変異体は、本発明の方法に用いる細胞によって天然にコードされる、つまり組換え技術が介入していない、HMGA1タンパク質に相当する、または由来する。あるいは、本発明の方法に用いる細胞は、その細胞とは異種のHMGA1タンパク質、そのフラグメントまたはそれらの変異体をコードし得る。好ましくは、HMGA1タンパク質、そのフラグメントまたはそれらの変異体は、ヒトまたはネズミのHMGA1に相当または由来し、好ましくは配列表の配列番号3または4に記載のアミノ酸配列を含むHMGA1タンパク質に相当するまたは由来する。HMGA1のフラグメントは好ましくはHMGA1タンパク質、好ましくはネズミHMGA1、より好ましくは配列表の配列番号4に示す配列の、アミノ酸残基73から95に相当する、またはホモロジー比較において前述のアミノ酸残基に対応するHMGA1タンパク質のアミノ酸残基に相当する。特に好ましい実施態様において、HMGA1のフラグメントは、配列表の配列番号11に記載のアミノ酸配列を有する。
【0027】
本発明によると、「アペリン、そのフラグメントおよびそれらの変異体」なる用語は、本明細書に記載のアペリンタンパク質、そのフラグメントまたはそれらの変異体の配列を含むいずれかのタンパク質またはペプチドに関する。本発明の好ましい実施態様において、アペリンタンパク質、そのフラグメントまたはそれらの変異体は、本発明の方法に用いる細胞によって天然にコードされる、つまり組換え技術が介入していない、アペリンタンパク質に相当する、または由来する。あるいは、本発明の方法に用いる細胞は、その細胞とは異種のアペリンタンパク質、そのフラグメントまたはそれらの変異体をコードし得る。好ましくは、アペリンタンパク質、そのフラグメントまたはそれらの変異体は、ヒトまたはネズミのアペリンに相当または由来し、好ましくは配列表の配列番号5または6に記載のアミノ酸配列を含むアペリンタンパク質に相当する、または由来する。アペリンのフラグメントは好ましくは、アペリンタンパク質、好ましくはネズミアペリン、より好ましくは配列表の配列番号6に示す配列の、アミノ酸残基23から48、27から41または65から77に相当する、またはホモロジー比較において前述のアミノ酸残基に対応するアペリンタンパク質のアミノ酸残基に相当する。特に好ましい実施態様において、アペリンのフラグメントは、配列表の配列番号12から14からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する。
【0028】
本発明のあらゆる局面による方法において、前記少なくとも1つのペプチドおよび/またはタンパク質のレベルの測定は好ましくは、その少なくとも1つのペプチドおよび/またはタンパク質の相対または絶対量の測定を含む。
【0029】
本発明の方法の好ましい実施態様において、前記少なくとも1つのペプチドおよび/またはタンパク質のレベルの測定は、必要に応じて分離法と組み合わせた質量スペクトル分析法を用いて行い、ここで分離方法は、好ましくは以下からなる群から選択される:ゲル電気泳動、液体クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー、毛細管クロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー、質量スペクトル分析法、沈殿技術、液相抽出技術、濾過および他の分子サイズ識別技術。
【0030】
質量スペクトル分析法は好ましくは、MALDI質量スペクトル分析法、ESI質量スペクトル分析法、SELDI質量スペクトル分析法、FAB質量スペクトル分析法およびMS/MS質量スペクトル分析法からなる群から選択される。
【0031】
本発明によると、チアゾリジンジオンは好ましくは、ロシグリタゾン、ピオグリタゾン、トログリタゾン、MCC-555、MK-0767、TZD18、バラグリタゾン(Balaglitazone)、ファルグリタザル(Farglitazar)およびダルグリタゾン(Darglitazone)からなる群から選択され、疾患は好ましくは、II型糖尿病、耐糖能障害、肥満、メタボリック症候群、循環器疾患およびアテロ−ム性動脈硬化症を含む群から選択される。
【0032】
[発明の詳細な説明]
本発明の方法に用いる細胞
本発明によると「細胞」なる用語は、原核および真核細胞、特に細菌細胞、酵母細胞、哺乳類細胞、齧歯類細胞、ヒト細胞、動物細胞(例えばマウス、ラット、ハムスター、モルモット、スナネズミ、ウサギ、ゼブラフィッシュ、ショウジョウバエ、ブタ、イヌ、ネコおよび類人猿の細胞など)を含む、あらゆる種類の細胞に関する。細胞は、例えば、内臓脂肪、腹部脂肪または他の組織の脂肪、筋肉、血液、腸、膵臓または肝臓組織などの組織に由来し得る。本発明の方法における使用において、細胞は生物および/または組織内に存在し得る、また、培養細胞および細胞株であり得る。
【0033】
本発明によって用いられる好ましい細胞は、血液グルコースレベル調節に関与する細胞および/またはII型糖尿病の病理に関与する細胞である。好ましくは、細胞はPPAR-レセプター、特にPPAR-ガンマを発現する、および/またはチアゾリジンジオンによる処理に対して反応性である。本発明によって用いられる特に好ましい細胞は、脂肪細胞、特にアディポサイトである。
【0034】
本発明の特定の実施態様において、細胞は、分子生物学的方法を用いて修飾された細胞であり得る。例えば、Fn14、HMGA1、アペリン、それらのフラグメントおよびそれらの変異体からなる群から選択される少なくとも1つのペプチドおよび/またはタンパク質のレベルに対する候補物質の効果を試験するために、前述の群から選択されるペプチドまたはタンパク質をコードする核酸を、同核酸によってコードされた前記ペプチドまたはタンパク質を生来発現しない、または含まない細胞、具体的にはFn14、HMGA1およびアペリンをそれぞれ生来発現しない細胞または細胞膜へ導入してもよい。あるいは、本発明の方法において得られるシグナルを増大させるために、前記核酸を既に含有している細胞へ、前記核酸のさらなるコピーまたは複数コピーを導入してもよい。
【0035】
細胞と候補物質との接触
「細胞と候補物質との接触」なる表現は、インビトロにてサンプル中に、またはインビボにて生物内に存在し得る少なくとも1つの細胞と、候補物質とが接触するという状態を意味する。
【0036】
本発明によると「候補物質」なる用語は、本発明の方法において試験可能ないずれかの物質を意味し、ここで物質なる用語は化合物および組成物を含む。
【0037】
本発明による「化合物」なる用語は、有機分子(炭素を含有する)、好ましくは小有機分子、または無機分子(炭素を含有しない)、化学的に、酵素学的にまたは組換えにより合成された分子(例えば核酸配列、修飾核酸配列、アミノ酸配列、修飾アミノ酸配列、ペプチド、タンパク質など、ならびにそれらの誘導体)、合成分子あるいは天然に見られる分子または天然に見られる物質もしくは生物から単離された分子(例えば植物、酵母、動物または微生物の抽出物に見られるもの)、ならびに変化した構造を有する、または配列に欠失、挿入および変異およびそれらの組み合わせを含む配列を有する天然に見られる分子など、あらゆる種類の分子に関する。好ましくはその小分子は、2000ダルトン以下、より好ましくは1000ダルトン以下の分子量を有する。
【0038】
本発明による組成物は、2以上の試験化合物、特に化合物のライブラリーを含んでいてもよく、または少なくとも1つの試験化合物および追加成分、例えば、生理食塩水、希釈剤、溶剤、pH緩衝剤、モル浸透圧濃度または粘度調整剤、保存用添加物、染色剤、香味料または香料、充填物質、抗菌剤、抗真菌剤または他の保存剤、光、特に日光、UV光、熱、凍結、または他の環境因子から化合物または組成物を保護する物質、表面または容器への化合物の凝集または固着を防ぐ成分、胃酸耐性カプセルのような特定適用経路に必要な製剤物質、または経皮適用のための硬膏剤、静脈内、皮下、皮内などの注射用もしくは注入用の滅菌もしくは等張液、または吸入用エアロゾルを調製するのに適する製剤物質などを含んでいてもよい。さらに、組成物の構成成分のタンパク質分解または他の形態の分解もしくは修飾を防ぐ成分が組成物中に存在していてもよい。
【0039】
「化合物のライブラリー」なる表現は、天然起源、例えば、微生物、植物、酵母、動物などからの精製、多くの遺伝子産物を得る分子生物学的方法、核酸またはアミノ酸配列のランダムまたは有向合成、コンビナトリアルケミストリー、合理的薬物設計などによって得ることができる多数の化合物を意味する。
【0040】
物質に関する「候補」なる表現は、本発明の方法において試験するのに有用なあらゆる物質を意味する。一般に、本発明の方法において、ペプチドおよび/またはタンパク質のレベルを変化させる能力について候補物質を試験する場合、試験する前は、試験する候補物質がそのような能力を有するかどうかは未知であろう。しかしながら、他の実施態様においては、試験すべき候補物質がそのような能力を持っているかどうかについての示唆または情報が存在する場合もある。例えばこれには、本発明とは異なるアッセイにて候補物質が既に試験されている場合、および別のアッセイにて得られた結果を確認するため、候補物質の活性についての量的な情報を得るため、候補物質を別の系および/または環境において試験するため、および/または候補物質を別の物質と比較するため、および/または候補物質を異なる濃度および/または異なる期間および/または異なる方法により投与して比較するために、本発明の方法により候補物質を試験する場合などがある。また、例えば以下のような場合も、試験すべき候補物質が本発明の方法においてペプチドおよび/またはタンパク質のレベルを変化させる能力を有するかどうかについての示唆または情報が存在し得る:試験する物質の構造もしくは化学組成が既知である場合、および上記の能力を有するか否かが既知であるまたは予想される別の物質の構造または組成と類似するまたは関連する場合。
【0041】
少なくとも1つのペプチドおよび/またはタンパク質のレベルの測定
本発明による「少なくとも1つのペプチドおよび/またはタンパク質のレベルの測定」なる表現は、前記少なくとも1つのペプチドおよび/またはタンパク質の非存在または存在および/または絶対および/または相対量の測定に関する。「Fn14、HMGA1およびアペリン、それらのフラグメントおよびそれらの変異体からなる群から選択される少なくとも1つのペプチドおよび/またはタンパク質」なる表現は、前記の群の単一メンバー、または前記の群の少なくとも2の、好ましくは少なくとも3、4、5、6、7、8、9または10またはそれ以上のメンバーの組み合わせに関する。本発明による「少なくとも1つのペプチドおよび/またはタンパク質のレベルの測定」なる表現はまた、前記ペプチドおよび/またはタンパク質が検出されない、または前記ペプチドおよび/またはタンパク質が検出限界を下回る場合も含み、これらは、候補物質がそのペプチドおよび/またはタンパクのレベルを増加させない、または検出限界を下回るまでそのペプチドおよび/またはタンパク質のレベルを減少させるという状態を示している可能性がある。
【0042】
チアゾリジンジオン
本発明による「チアゾリジンジオン」なる用語は、ロシグリタゾン、ピオグリタゾン、トログリタゾン、MCC-555、MK-0767、TZD18、バラグリタゾン、ファルグリタザル、シグリタゾン(Ciglitazone)、ダルグリタゾン、LSN862、PAT5A、FK614を含むがこれらに限定されない。トログリタゾンおよび他の「グリタゾン類」はチアゾリジン-2,4-ジオンの化学的分類に属する。新規の薬剤は、薬理学的効果を改善するための修飾を有する、置換されたチアゾリジンジオン構造を共有する。構造活性相関(SAR)に基づいて、いくつかの新規な非チアゾリジンジオンのPPARアゴニストが開発されており、これらは改善された抗糖尿病活性を有し、ムラグリタザル(muraglitazar)/BMS-298585、RWJ-348260、nTZDpaなどがある。
【0043】
チアゾリジンジオンの少なくとも1つの機能特性を有する物質
本発明による「少なくとも1つのチアゾリジンジオンの機能特性」なる表現は、チアゾリジンジオンのあらゆる機能活性に関する。そのような機能活性は、以下のもののレベルへの作用を含む:Fn14、HMGA1およびアペリン、それらのフラグメントおよびそれらの変異体からなる群から選択される少なくとも1つのペプチドおよび/またはタンパク質、または、チアゾリジンジオンについての他のバイオマーカー(例えば、PPAR、特にPPAR-ガンマ、PPAR、特にPPAR-ガンマへの結合、インスリン耐性の改善、筋細胞によるグルコース摂取の増加、脂肪分解または肝臓の糖新生の抑制などによって調節されるタンパク質)。チアゾリジンジオンの機能活性のさらなる例には、抗糖尿病、抗II型糖尿病、抗肥満、抗メタボリック症候群、抗耐糖能障害、抗アテロ−ム性動脈硬化症および抗冠動脈心疾患活性がある。ある物質がチアゾリジンジオンの機能特性を有する場合、この機能特性を示すレベルは、チアゾリジンジオンと類似する、または異なる、つまり匹敵する、より高い、またはより低い可能性がある。
【0044】
チアゾリジンジオンと類似する活性を有する物質
本発明による「チアゾリジンジオンと類似する活性を有する物質」なる表現は、特に治療、特にII型糖尿病、肥満、耐糖能障害、メタボリック症候群(シンドロームX)、循環器疾患、アテロ−ム性動脈硬化症および/または脂質代謝異常の治療において、チアゾリジンジオンの代わりとなり得る物質に関する。この場合、チアゾリジンジオンと類似する活性を有する物質は、通常、チアゾリジンジオンのいくつかの機能特性を有するであろう、好ましくはチアゾリジンジオンの全ての機能特性を、好ましくは同じまたは匹敵するレベルで有するであろう。
【0045】
チアゾリジンジオンにより治療可能な疾患/PPAR-ガンマレセプターと関連する疾患
「チアゾリジンジオンにより治療可能な疾患」なる表現は、チアゾリジンジオンにより治療することができるあらゆる病態に関し、II型糖尿病、インスリン耐性、肥満、耐糖能障害、メタボリック症候群(シンドロームX)、循環器疾患、アテロ−ム性動脈硬化症および脂質代謝異常を含むがこれらに限定されない。「PPAR-ガンマレセプターと関連する疾患」なる表現は、チアゾリジンジオンのようなPPAR-ガンマのリガンドにより治療可能な疾患を含み、前述の疾患を含むがそれらに限定されない。
【0046】
「疾患の処置」なる用語は、治療、持続期間の短縮、寛解、予防、進行もしくは悪化の減速もしくは抑制、または疾患もしくはその症状の発症の防止もしくは遅延を含む。「治療薬(therapeutic agentまたはtherapeutic)」は、治療効果を有し、疾患の治療または処置に有用な物質に関する。
【0047】
ペプチド、タンパク質、それらのフラグメントおよびそれらの変異体
「ペプチド」なる用語は、2以上の、好ましくは3以上の、好ましくは4以上の、好ましくは6以上の、好ましくは8以上の、好ましくは10以上の、好ましくは13以上の、好ましくは16以上の、好ましくは21以上の、好ましくは50、特に60または特に70ほどの、ペプチド結合により共有結合した連続アミノ酸を含む物質に関する。「タンパク質」なる用語は、大きなペプチド、好ましくは少なくとも71アミノ酸残基を有するペプチドを意味するが、しかし一般には「ペプチド」と「タンパク質」なる用語は同義語であり、本出願において同義語として用いる。本発明による「ペプチド」および「タンパク質」なる用語にはまた、アミノ酸残基のみならず、糖またはリン酸塩構造物のような非アミノ酸構成物も含有する物質も含まれ、またペプチド結合のみを含有する物質ならびに例えばエステル、チオエーテルまたはジスルフィド結合などの他の結合を含有する物質も含まれる。
【0048】
「タンパク質のフラグメント」なる用語は、完全長タンパク質と比較して1以上のアミノ酸残基の欠失を有するペプチドまたはタンパク質に関する。特に、「タンパク質のフラグメント」はそのフラグメントが由来するタンパク質を明確に同定するのに十分な長さを有する。好ましい実施態様において、タンパク質のフラグメントは、4以上の、好ましくは6以上の、好ましくは8以上の、好ましくは10以上の、好ましくは15以上の、好ましくは20以上の、好ましくは40以上の、かつ好ましくは100ほどの、具体的には80、60、50、40、30または20の連続アミノ酸配列を有する。
【0049】
本明細書において用いられるペプチドまたはタンパク質の「変異体」または「配列の変異体」は、その変異体が由来するペプチドまたはタンパク質と、1以上のアミノ酸の置換、欠失、付加、挿入および/または修飾において異なる、ペプチドまたはタンパク質またはそれらの配列を含む。「変異体」および「誘導体」なる用語は、本明細書において同義語として用いる。
【0050】
好ましくは、ペプチドまたはタンパク質の変異体は、その変異体が由来するペプチドまたはタンパク質の機能特性を有する。従って、変異体は実質的に、その変異体が由来するペプチドまたはタンパク質と同じ構造、機能、抗原性、免疫原性などを示し得る。
【0051】
本発明によるペプチドまたはタンパク質変異体は、自身が由来するペプチドまたはタンパク質配列に対して少なくとも約80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%またはそれ以上の同一性を示すものを含む。
【0052】
「同一率」なる用語は、比較すべき2配列間において最適なアライメントを行った後に得られる、同一なヌクレオチドまたはアミノ酸残基の比率を表すことを意図しており、この比率は純粋に統計学的であり、2配列間の差異はランダムにそれらの全長に渡って分布している。2つのヌクレオチドまたはアミノ酸配列間の配列比較は、従来的にこれらの配列を最適にアライメントした後にそれらを比較することにより行い、その比較は、局所領域の配列類似性を同定し比較するために、セグメントまたは「比較窓(window of comparison)」ごとに行う。比較のための配列の最適なアライメントは、手作業で行うほかに、SmithおよびWatermanの局所ホモロジーアルゴリズム(local homology algorithm)(1981, Ads App. Math. 2, 482)、NeddlemanおよびWunschの局所ホモロジーアルゴリズム(1970, J. Mol. Biol. 48, 443)、PearsonおよびLipmanの類似性検索法(similarity search method)(1988, Proc. Natl Acad. Sci. USA 85, 2444)、またはこれらのアルゴリズムを用いるコンピュータープログラム(GAP、BESTFIT、FASTA、BLAST P、BLAST NおよびTFASTA(Wisconsin Genetics Software Package、Genetics Computer Group、575 Science Drive、Madison、Wis.))によって作製してもよい。
【0053】
2つの核酸またはアミノ酸配列間の同一率は、最適な方法によりアライメントしたこれらの2配列を比較することによって決定し、この方法において、比較すべき核酸またはアミノ酸配列は、これらの2配列間のアライメントに最適な参照配列と比較して付加または欠失を含み得る。同一率は、2配列間でヌクレオチドまたはアミノ酸配列が同一である同一な位置の数を決定し、この数を比較した位置の数で割り、得られた結果に100をかけてこれらの2配列間の同一性の百分率を得ることによって計算する。
【0054】
好ましくは、変異体は保存的置換を含有する。「保存的置換」は、あるアミノ酸が、ペプチド化学の分野の当業者がペプチドまたはタンパク質の二次構造、電荷および疎水性親水性の指標となる性質などの特徴が実質的に変化しないと予測するような、同様の特性を有する別のアミノ酸により置換されているものである。アミノ酸置換は一般に、残基の極性、電荷、溶解性、疎水性、親水性および/または両親媒性の類似性に基づいてなされ得る。例えば、負電荷アミノ酸にはアスパラギン酸およびグルタミン酸が含まれ;正電荷アミノ酸にはリシンおよびアルギニンが含まれ;同様の親水性値を有する無電荷の頭部基を有するアミノ酸には、ロイシン、イソロイシンおよびバリン;グリシンおよびアラニン;アスパラギンおよびグルタミン;およびセリン、スレオニン、フェニルアラニンおよびチロシンが含まれる。保存的変化を示し得る他のアミノ酸グループには以下が含まれる:(1)ala、pro、gly、glu、asp、gln、asn、ser、thr;(2) cys、ser、tyr、thr;(3) val、ile、leu、met、ala、phe;(4)lys、arg、his;および(5)phe、tyr、trp、his。変異体はまた、非保存的変化も含み得る。
【0055】
本明細書に記載のペプチドまたはタンパク質はまた、あらゆる天然および非天然の修飾、特に化学的または物理的修飾を含み得る。「天然の修飾」なる用語は、天然のペプチドまたはタンパク質に見られる、翻訳後修飾、光、酸素または酸もしくはアルカリ溶液への曝露による修飾、化学的修飾、酵素学的修飾などのようなあらゆる修飾に関する。
【0056】
可能性のある修飾の例には以下が含まれるがこれらに限定されない:グリコシル化、リン酸化、硫酸化(sulphatation)、ピログルタミン酸修飾、システイン−ジスルフィド架橋、メチル化、アセチル化、アシル化、ファルネシル化、ホルミル化、ゲラニルゲラニル化、ビオチン化、ステアロイル化(stearoylation)、パルミチル化、リポイル化(lipolyation)、C-マンノシル化、ミリストイル化、アミド化、脱アミド、メチル化、脱メチル、カルボキシル化、ヒドロキシル化、ヨウ素化、酸化、ペグ化、プレニル化、ADP-リボシル化、脂質の、ホスファチジルイノシトールの、グリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)-アンカーの、ピリドキサールリン酸の付加、カルボキシアミドメチルシステインを生じる、カルボキシメチルシステインを生じる、またはピリジルエチルシステインを生じるシステイン残基の修飾、リポ酸(liponic acid)を生じるリシン残基の修飾、ピログルタミン酸を生じるグルタミン酸の修飾など。
【0057】
本明細書に記載のペプチドまたはタンパク質の修飾は、異常なアミノ酸、化学的または酵素学的に修飾されたアミノ酸などを含んでもよく、以下を含むがこれらに限定されない:アルファアミノブタン酸、ベータアミノブタン酸、ベータアミノイソブタン酸、ベータアラニン、ガンマブタン酸、アルファアミノアジピン酸、4-アミノ安息香酸、アミノエチルシステイン、アルファアミノペニシラン酸、アリシン、4-カルボキシグルタミン酸、シスタチオニン、カルボキシグルタミン酸、カルボキシアミドメチルシステイン、カルボキシメチルシステイン、システイン酸、シトルリン、デヒドロアラニン、ジアミノブタン酸、デヒドロアミノ-2-ブタン酸、エチオニン、グリシン-プロリンジペプチド、4-ヒドロキシプロリン、ヒドロキシリジン、ヒドロキシプロリン、ホモセリン、ホモシステイン、ヒスタミン、イソバリン、リジノアラニン、ランチオニン、ノルバリン(norvaline)、ノルロイシン、オルニチン、2-ピペリジン(pipiridine)-カルボン酸、ピログルタミン酸、ピロリジン(pyrrolysine)、プロリン-ヒドロキシプロリンジペプチド、サルコシン、4-セレノシステイン、シンデシン(syndesine)、チオプロリン(thioproline)など。
【0058】
本明細書に記載のペプチドまたはタンパク質は、それらの検出を促進するために特に標識化によって修飾されていてもよく、または保存中もしくは使用中の安定性を改変するために修飾されていてもよい。
【0059】
「ペプチドおよび/またはタンパク質の分泌」は、細胞の細胞内領域から、または細胞膜の表面から(例えば膜タンパク質および/またはペプチドの細胞外ドメインのタンパク質分解性の放出=切断(shedding)によって)のペプチドおよび/またはタンパク質の放出を導くあらゆる種類の作用機序を意味する。ペプチドまたはタンパク質の放出の作用機序の例には以下がある:(i)古典的分泌経路を介する細胞膜を横切るタンパク質転位分泌、(ii)非古典的分泌経路を介する細胞膜を横切るタンパク質転位分泌(インターロイキン1ベータ、繊維芽細胞増殖因子1および2、FGF-1およびFGF-2、ガレクチンのような古典的N末端シグナルペプチドを欠くタンパク質またはペプチド)、(iii)タンパク質分解性の放出がなされる細胞外ドメインを有する膜タンパク質、切断として知られるプロセス(TNF-アルファ、アミロイドタンパク前駆体、TNF-アルファレセプター)および(iv)制御的膜内切断(Rip):ガンマセクレターゼなどの酵素および補助因子の活性を必要とするプロセス(アミロイドタンパク前駆体、CD44)。
【0060】
標識
本発明によると、分子は1以上の検出のための標識によって標識化されていてもよい。1より多い標識が存在する場合、それらの標識は異なるまたは同じである可能性、同じまたは異なる分類のものである可能性、標識化された分子内の異なるまたは同じ位置にある可能性などがある。
【0061】
本明細書に用いられる「標識」なる用語は、以下のように機能するあらゆる部分を意味する:(i)検出可能シグナルを生ずる;(ii)第2の標識と相互作用して第1または第2の標識により生じる検出可能シグナルを修飾する、例えばFRET(蛍光共鳴エネルギー移動);(iii)電荷、疎水性、形状または他の物理的パラメーターによって移動度、例えば電気泳動の移動度に作用する;または(iv)捕獲部分を提供する、例えば親和性、抗体/抗原またはイオン性複合体形成。
【0062】
様々な構造分類の標識が標識として適切である、例えば安定性または放射性の同位体標識、同重体標識、フルオロフォア標識、標識としての蛍光性タンパク質、発光性標識、酵素標識、毒素標識、色素標識、標識としての金属性、磁性またはポリマー性粒子、ビオチン、キチン、マルトース、グルタチオンなど、または他の有機もしくは無機分子。
【0063】
好ましくは、天然分子量とは異なる分子量を有する同位体(例えば酸素-18、窒素-15、重水素、トリチウム、炭素-14、硫黄-35、リン-32、リン-33など)を、同位体標識化分子の調製に用いることができる(特にこれらの元素の他の同位体はタンパク質、ペプチド、核酸配列などのような分子の塊を天然に構成しているので)。同位体は分子に直接組み込むことができる、例えば、ペプチドまたはタンパク質の場合、同位体標識化アミノ酸をペプチドまたはタンパク質合成に用いることによって可能である。さらに、同位体は、例えば同位体標識化代謝物の存在下で細胞を成長させ、これらの細胞または細胞培養物の上清から標識化されたペプチドまたはタンパク質を単離することによって、ペプチドまたはタンパク質に組み込むことができる。同位体は、同位体標識化代謝物を用いるインビトロ翻訳などの他の方法によってもペプチドまたはタンパク質のような分子に組み込むことができる。同位体標識化代謝物は、アミノ酸、炭水化物、脂肪酸、無機塩(例えばリン酸塩、硫酸など)または他の同位体標識化物質などであり得る。同位体標識化ペプチドまたはタンパク質は、質量スペクトル分析法を用いる測定法に特に適する。
【0064】
質量スペクトル分析検出法に特に適する別の種類の標識は、同重体標識である。異なる種類の同重体標識は、これらの標識が無傷であり質量スペクトル分析器において断片化されていない限り、同じ分子量を持つ。この場合、異なる同重体標識により標識化された分子の混合物は、サンプルの分析の前に存在する質量差はごく限られているので、質量スペクトル分析法を用いてより簡便に分析ができるという利点がある。標識の実体を判定し、それによってその同重体標識により標識化された分子の実体を同定するために、同重体標識の断片化を行ってもよい。好ましくはこれらの標識は、質量スペクトル分析器における標識の断片化により生じたフラグメントが、ペプチドまたはタンパク質のような非標識化分子の断片化によっては通常生じない質量を有するように、構成する。そのような質量の例は114および120ダルトンの間の質量である。好ましくは、同重体標識の非存在下で同じ質量スペクトル分析法により分析した同種のサンプル中に生じる質量と同じ質量が断片化によって生じない同重体標識を用いる。
【0065】
標識として用いることができる放射性同位体の例には、ヨウ素-125、カルシウム-45、クロム-51、トリチウム、炭素-14、硫黄-35、リン-32、リン-33などがある。さらに、核酸配列および/またはアミノ酸配列と結合可能な他のあらゆる既知の放射性同位体または安定性同位体を標識として用いてもよい。
【0066】
蛍光性標識の例は、フルオロフォアである、例えばAlexa Fluor(登録商標)350、405、430、488、500、514、532、546、555、568、594、610、633、635、647、660、680、700およびAlexa Fluor(登録商標)750、アミノメチルクマリン(AMCA)、メトキシクマリン酢酸、ビメイン(Bimane)、BODIPY 493/503、530/550、558/568、564/570、576/589、581/591、630/650およびBODIPY 650/665、BODIPY FL、BODIPY TR;BODIPY TMR、カスケードブルー(Cascade Blue)色素、カスケードイエロー(Cascade Yellow)色素、シアニン色素(Cy3、Cy5、Cy5.5、Cy7など)、ダンシル(Dansyl)、ダポキシル(Dapoxyl)色素、ジアルキルアミノクマリン、エオシン、エリスロシン、フルオレセイン(FITC)、フルオレセイン-EX、2',4',5',7'-テトラブロモスルホンフルオレセイン、ナフトフルオレセイン、2',7'-ジクロロ-フルオレセイン、4',5'-ジクロロ-2',7'-ジメトキシ-フルオレセイン、6-カルボキシ-2',4,4',5',7,7'-ヘキサクロロフルオレセインサクシニミジルエステル(6-HEX、SE)、5-カルボキシフルオレセイン(5FAM)、5,6-カルボキシフルオレセイン(5(6)FAM)、ヒドロキシクマリン、マラカイトグリーン、マリーナブルー(Marina Blue)色素、メトキシクマリン、7-ニトロ-4-ベンゾフラザニル(NBD)、オレゴングリーン(Oregon Green)(登録商標)488、オレゴングリーン(Oregon Green)(登録商標)514、パシフィックブルー(Pacific Blue)、パシフィックブルー色素、PyMPO、ピレン、QSY 7、QSY 9、QSY 21、QSY 35、ローダミン(Rhodamine)6G、ローダミングリーン(Rhodamine Green)、ローダミングリーン色素、ローダミンレッド(Rhodamine Red)色素、ローダミンレッド、ローダミンレッド-X(RRX)、X-ローダミン、テトラメチルローダミン(TMR、TRITC)、リサミンローダミンB、テキサスレッド(Texas Red)、テキサスレッド色素、テキサスレッド-Xなど。これらのフルオロフォアのほとんどはMolecular Probes、Eugene、OR、USAから入手可能であり、また多くはタンパク質またはペプチド標識化を目的とするキットとして入手できる。さらに、蛍光性タンパク質またはそれらのフラグメントまたは誘導体(例えば緑、赤、青またはウミシイタケの蛍光性タンパク質など)も標識として用いることができる。別の実施態様において、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)に適する対応対の蛍光性標識を用いることが可能である。
【0067】
酵素標識の例には、西洋わさびペルオキシダーゼ、アルカリホスファタ−ゼ、ルシフェラーゼ、ガラクトシダーゼなどがある。適切な毒素標識は、微生物毒素、毒性ペプチドまたは毒性小有機分子、合成毒素または医療目的に用いる毒素などのあらゆる種類の毒素である。適切な色素標識の例はジゴキシゲニンである。
【0068】
標識としての粒子の例には、様々な粒径の粒子があり、好ましくは0.1から100μmの間の粒径のものである。金属粒子は様々な物質から作製されたものでよく、好ましくは重元素、例えば金、銀、白金または他の適切な金属またはそれらの合金または混合物である。磁性粒子の例は好ましくは、あらゆる種類の磁性物質または磁化可能な物質(例えば、鉄、好ましくはFeO、Fe2O3、Fe3O4などのような酸化鉄など)から作製されたものである。ポリマー粒子の例は、ポリマー such as ポリアクリルアミド、アガロース、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリテトラフルオロエチレン、蛍光性ポリスチレンミクロスフェアなどのようなポリマーから作製された粒子である。ビオチン、キチン、マルトースまたはグルタチオンなどのような、当分野にて既知の他の様々な標識も用いることができる。
【0069】
標識化された、アミン反応性試薬(イソチオシアン酸、サクシニミジルエステルおよびカルボン酸、塩化スルホニル、アルデヒド、アリール化試薬など)、チオール反応性試薬(ヨードアセトアミド、マレイミド、ハロゲン化アルキルおよびアリール化剤など)は、標識を分子に結合させるために用いることができる。さらに、アルコール部分(例えばセリン、スレオニンに、または炭水化物部分に存在するアルコール部分)は、過ヨウ素酸を用いて酸化して、後に様々なアミンまたはヒドラジン誘導体により修飾することができるアルデヒドを生成することによって標識化できる。チロシンのアルコール部分は場合により塩化スルホニルまたはイソチオシアン酸と反応させてもよい。炭水化物のアルコール部分はさらにジクロロトリアジンとの反応により標識化してもよい。リボヌクレオチドおよび他の炭水化物部分を約350/466 nmの励起/発光極大を有する蛍光性エステルへ変換するのに、N-メチルイサトイン酸無水物(N-methylisatoic anhydride)を、用いてもよい。
【0070】
さらに、特定の核酸またはアミノ酸配列を含む標識(以後、標識-配列と称する)を用いることができる。核酸配列を含む標識-配列は例えば、例えば標識-配列に特異的なプローブのハイブリダイゼーション、またはポリメラーゼ連鎖反応、好ましくは定量的ポリメラーゼ連鎖反応、好ましくはリアルタイムポリメラーゼ連鎖反応などを用いる標識-配列の検出による、標識化物質の検出に用いることができる。アミノ酸配列を含む標識-配列の例は、hisタグ、flagタグ、mycタグ、または、例えば抗体、グルタチオンS-トランスフェラーゼ、ストレプトアビジン、キチン結合タンパク質、マルトース結合タンパク質、種々のレクチンなどの完全タンパク質またはそれらのフラグメントである。これらの標識は、抗体の使用、またはこれらの標識へのリガンド結合の使用、例えばプロテインA、プロテインG、プロテインY、プロテインA/G、グルタチオン、ビオチン、キチン、マルトースまたは他の糖などによって検出することができる。標識-配列は一般に、標識化ペプチドまたはタンパク質を、その標識-配列に特異的な結合剤によって捕獲する方法に、利用することもできる。捕獲プロセス中または後に、標識化ペプチドまたはタンパク質を定量化することができる。標識-配列はN末端またはC末端に位置し得る、またはアミノ酸配列の内部に存在し得る、または核酸配列の3'末端もしくは5'末端に、または内部に位置し得る。
【0071】
抗体
「抗体」なる用語は、抗体のいずれかのアイソタイプ(例えば、IgG、IgA、IgM、IgE、IgYなど)を含み、また、由来する抗体と同じエピトープに結合する抗体フラグメントを含む。抗体フラグメントは、組換えにより、または抗体のタンパク質切断により調製し得る。そのようなフラグメントの非限定的な例には、ペプチドリンカーなどのリンカーにより連結している、または連結していない少なくとも1つのV[L]および/またはV[H]ドメインを含有する、Fab、F(ab')2、Fab'、Fvおよび単鎖抗体(scFv)などがある。scFvは共有結合または非共有結合して2以上の結合部位を有する抗体を形成し得る。さらに、「抗体」なる用語には、ポリクローナル、オリゴクローナル、モノクローナル、ヒト化または組換え抗体が含まれる。抗体は、精製状態または抗血清の形態、細胞培養物の上清としての腹水の形態、凍結乾燥形態にて存在し得る、あるいは、例えばELISAプレート、チップ、メンブランの表面に、またはアガロース、金属または他のビーズもしくは粒子などの表面に結合していてもよい。
【0072】
特異的結合
本発明によると、「結合」なる用語は好ましくは特異的結合に関する。「特異的結合」は、抗体などの物質が、特異的なエピトープなどの標的へ、別の標的への結合と比較してより強く結合することを意味する。ある物質が解離定数(KD)の第1の標的へ結合する(この解離定数は第2の標的についての解離定数よりも低い)場合、その物質は第2の標的と比較して第1の標的とより強く結合する。好ましくは、その物質が特異的に結合する標的についての解離定数(KD)は、その物質が特異的に結合しない標的についての解離定数(KD)よりも、10倍以上、好ましくは20倍以上、より好ましくは50倍以上、さらにより好ましくは100倍、200倍、500倍または1000倍以上低い。
【0073】
生物
「生物」なる表現は、植物、動物、好ましくは哺乳類を含むあらゆる種類の多細胞生物を意味し、ヒト、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、スナネズミ、ウサギ、ゼブラフィッシュ、ショウジョウバエ、ブタ、イヌ、ネコ、類人猿などを含む。「個体」なる表現は、「生物」なる用語と互換的に用いる。
【0074】
核酸
本発明によると、核酸は好ましくはデオキシリボ核酸(DNA)またはリボ核酸(RNA)である。本発明によると核酸は、ゲノムDNA、cDNA、mRNA、組換えにより産生される分子および化学的に合成される分子を含む。本発明によると、核酸は、1本鎖または2本鎖および直鎖または共有結合により環状に閉じた分子として存在し得る。
【0075】
本発明によると核酸の「変異体」は、単一のまたは複数のヌクレオチド置換、欠失および/または付加が、その核酸内に存在することを意味する。好ましくは、核酸の「変異体」はその核酸に相補的である。さらに、「変異体」なる用語はまた、ヌクレオチド塩基上、糖鎖上、またはリン酸塩上における核酸の誘導体化を含む。「変異体」なる用語はまた、ヌクレオチドおよび天然に存在しないヌクレオチド類似体を含有する核酸を含む。
【0076】
本発明において記載の核酸は、好ましくは単離されている。「単離核酸」なる用語は、本発明によると、核酸が、(i)例えばポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によってインビトロにて増幅されたこと、(ii)クローニングによって組換えにより産生されたこと、(iii)例えば切断およびゲル電気泳動分画によって精製されたこと、または(iv)例えば化学的合成によって合成されたことを意味する。単離核酸は、組換え体DNA技術による操作に利用することができる核酸である。
【0077】
2つの核酸配列が、好ましくはポリヌクレオチド間の特異的ハイブリダイゼーションが可能な条件(ストリンジェント条件)下において起こるハイブリダイゼーションによってハイブリダイズし、互いと安定な二本鎖を形成することが可能である場合、その核酸配列はもう一方の核酸配列と「相補的」である。ストリンジェント条件は、例えば「Molecular Cloning:A Laboratory Manual」、J. Sambrookら編、第2版、Cold Spring Harbor Laboratory press、Cold Spring Harbor、New York、1989または「Current Protocols in Molecular Biology」、F.M. Ausubelら編、John Wiley & Sons, Inc.、New Yorkに記載されており、参照すると例えば、ハイブリダイゼーションバッファー(3.5 x SSC、0.02%フィコール(Ficoll)、0.02%ポリビニルピロリドン、0.02%牛血清アルブミン、2.5 mM NaH2PO4(pH 7)、0.5%SDS、2 mM EDTA)における65℃でのハイブリダイゼーションなどである。SSCは0.15M塩化ナトリウム/0.15Mクエン酸ナトリウム、pH 7である。ハイブリダイゼーション後、DNAが移ったメンブランを例えば2×SSC中室温で、次いで0.1-0.5×SSC/0.1×SDS中68℃までの温度で洗浄する。
【0078】
本発明によると、相補的核酸は、少なくとも40%、特に少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%および好ましくは少なくとも95%、少なくとも98%または少なくとも99%同一のヌクレオチドを有する。
【0079】
本発明によると、核酸は、単独で、または他の核酸、特に異種性の核酸と組み合わさって存在してもよく、また前記他の核酸と機能的に連結していてもよい。好ましい実施態様において、核酸は、その核酸に対して相同性または異種性であり得る発現制御配列と機能的に連結している。コード配列と発現制御配列は、そのコード配列の発現または転写がその発現制御配列の制御下または影響下にあるように互いに共有結合する場合、互いに「機能的に」連結している。コード配列が機能タンパク質に翻訳されるとすれば、そのコード配列に機能的に連結した発現制御配列が存在し、その発現制御配列の誘導によりコード配列のフレームシフトは引き起こされずにコード配列の転写が起こるわけであり、さもなくばコード配列が所望のタンパク質またはペプチドに翻訳されることは不可能である。
【0080】
「発現制御配列」なる用語は、本発明によると、プロモーター、エンハンサーおよび遺伝子の発現を調節する他の調節領域を含む。本発明の特定の実施態様において、発現制御配列は調節することができる。制御配列の正確な構造は種または細胞型の関数として変動しうるが、転写および翻訳の開始にそれぞれ関与する、TATAボックス、キャッピング配列、CAAT配列などのような5'非転写および5'非翻訳配列を一般に含む。より具体的には、5'非転写制御配列は、機能的に連結した遺伝子の転写調節のためのプロモーター配列を含むプロモーター領域を含む。発現制御配列はまた、エンハンサー配列または上流アクチベーター配列を含み得る。
【0081】
本発明によると、核酸はさらに、レポーター遺伝子またはいずれかの「タグ」を表す別の核酸と組み合わさって存在し得る。
【0082】
好ましい実施態様において、本発明による組換え核酸分子は、必要に応じてプロモーターを有する、核酸の発現を調節するベクターである。「ベクター」なる用語は、本明細書において最も一般的な意味にて用いられ、例えば、原核および/または真核生物細胞への核酸の導入、必要に応じてゲノムへの核酸の組み込みを可能にする、その核酸のためのいずれかの中間媒体を含む。この種のベクターは好ましくは、細胞において複製される、および/または発現される。中間媒体は、例えばエレクトロポレーション、微粒子銃、リポソーム投与、アグロバクテリアを用いる転移、またはDNAまたはRNAウイルスによる挿入に用いるのに適応したものであり得る。ベクターは、プラスミド、ファージミド、バクテリオファージまたはウイルスゲノムを含む。
【0083】
本発明において記載の核酸は、宿主細胞のトランスフェクションに用いることができる。本明細書において核酸は、組換えDNAおよびRNAの両方を意味する。組換えRNAは、DNAテンプレートのインビトロ転写により調製してもよい。さらに、組換えRNAは、用いる前に、配列安定化、キャッピングおよびポリアデニル化により修飾してもよい。本発明によると、「宿主細胞」なる用語は、外来性核酸により形質転換またはトランスフェクトできるいずれかの細胞に関する。宿主細胞は、原核および真核細胞、例えば、細菌、酵母細胞、植物細胞、動物細胞、哺乳類細胞、特にヒト細胞、細胞株、初代細胞、幹細胞などを含む。
【0084】
本発明によると、「発現」なる用語は、最も一般的な意味にて用いられ、RNAの、またはRNAおよびペプチドまたはタンパク質の産生を含む。発現は、核酸の部分発現も含む。さらに、発現は一時的にまたは安定に行われ得る。哺乳類細胞の好ましい発現系は、G418に対する耐性を与える(従ってトランスフェクト細胞株が安定に選択できる)遺伝子などの選択マーカー、およびサイトメガロウイルス(CMV)のエンハンサー-プロモーター配列を含有する、pcDNA3.1およびpRc/CMV(Invitrogen, Carlsbad, CA)を含む。
【0085】
処置に対する反応性
「処置に対して反応性」なる表現は、特定物質、化合物または組成物の投与のような特定の処置に応答した細胞または生物の反応に関する。細胞の反応は、特に、細胞の生化学の変化、例えば特定のペプチドまたはタンパク質(Fn14、HMGA1、アペリン、それらのフラグメントまたは変異体など)のレベルの変化に関する。生物の反応は、特に、処置から得た生物の利益に関する。生物が、例えば、少なくとも1つのチアゾリジンジオン(thazolidinedione)の機能特性を有する物質による処置に対して反応性である場合、その物質は好ましくは上記のようなチアゾリジンジオンにより治療可能な疾患の処置に有効である。
【0086】
投与
本発明によると、物質は、注射または注入を含む、あらゆる従来のルートによって投与され得る。投与は、例えば、経口、静脈内、腹腔内、筋肉内、皮下、舌下、経皮、またはガスもしくはエアロゾルの吸入により行うことができる。
【0087】
物質は好ましくは有効量にて投与する。「有効量」は、単独で、またはさらなる投与によって、またはさらなる医療的もしくは非医療的処置と共に、所望の反応または所望の効果を達成する量を意味する。非医療的処置は例えば、運動、特別な食事制限、例えば体重増加を防止するため、もしくは体重を減じるための食事制限、または特定の栄養分もしくは食品成分(例えば、糖質、繊維、ビタミンCのような抗酸化物質など)の摂取を制限するまたは増加させるための食餌療法などである。所望の反応は、例えば疾患の治療を含む。
【0088】
物質の有効量は、処置すべき症状、疾患の重篤度、患者の個々のパラメーター(年齢、生理学的状態、大きさや体重など)、治療期間、共に行う治療の種類(もしあるならば)、具体的な投与ルートおよび同様の条件に依拠するであろう。
【0089】
投与する物質の用量は、例えば投与の種類、患者の症状、望ましい投与期間などの様々なパラメーターに依拠し得る。初期用量では患者の反応が不十分な場合、より多い用量(または、より局所化した別の投与ルートにより可能となる、効果的により多い用量)を用いてもよい。
【0090】
投与する物質は、好ましくは滅菌されている。さらに、その物質は一般に、製薬的に適合性の量を製薬的に適合性の組成物によって投与する。「製薬的に適合性」なる用語は、活性成分の作用と相互作用しない非毒性物質を意味する。この種の調製物は通常、塩、緩衝物質、保存剤、担体、および必要であれば他の治療的活性化合物を含有し得る。医薬に用いる場合、塩は製薬的に適合性でなければならない。しかしながら、製薬的に適合性でない塩は、製薬的に適合性の塩の調製に用いられる場合もあり、本発明に含まれる。薬理学的に、および製薬的に適合性のこの種の塩は、以下の酸から調製されるものを含むがこれらに限定されない:塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸、マレイン酸、酢酸、サリチル酸、クエン酸、ギ酸、マロン酸、コハク酸など。製薬的に適合性の塩は、ナトリウム塩、カリウム塩またはカルシウム塩のようなアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩として調製してもよい。
【0091】
本発明による投与物質は、製薬的に適合性の担体を含み得る。「担体」なる用語は、投与しやすくするために活性成分と組み合わせた、天然または合成の有機または無機成分を意味する。投与組成物の成分は通常、所望の薬効を実質的に障害する相互作用を起こさないようなものである。
【0092】
投与物質は、塩としての酢酸、クエン酸、ホウ酸およびリン酸のような適切な緩衝物質を含み得る。
【0093】
投与物質はまた、必要であれば、塩化ベンザルコニウム、クロロブタノール、パラベンおよびチメロサールのような適切な保存剤を含み得る。
【0094】
その物質は、例えば、カプセル、錠剤、ドロップ(lozenge)、溶液剤、懸濁剤、シロップ、エリキシル剤の形態にて、または乳剤またはエアロゾルの形態にて投与してもよい。
【0095】
非経口投与に適する物質は通常、好ましくはレピシエントの血液と等張の、活性化合物の水性または非水性滅菌調製物を含む。適合性の担体および溶剤の例は、リンゲル溶液および等張塩化ナトリウム溶液である。さらに、通常滅菌されている固定油を、溶液または懸濁液培地として用いる。
【0096】
参照
本発明によると、参照サンプルまたは参照生物、または参照生細胞のような「参照」は、本発明の方法において試験サンプルまたは試験生物もしくは生細胞から得られた結果との相互に関連づけ比較するために用いることができる。試験するのに用いる系と参照値を得るために「参照」をアッセイするのに用いる系とは通常、処置する方法など特定の変数が類似するが異なっている。
【0097】
「参照値」は、ある参照から、十分に多数のその参照を測定することによって、経験的に決定することができる。好ましくは参照値は、少なくとも2、好ましくは少なくとも3、好ましくは少なくとも5、好ましくは少なくとも8、好ましくは少なくとも12、好ましくは少なくとも20、好ましくは少なくとも30、好ましくは少なくとも50または好ましくは少なくとも100の参照を測定することによって決定する。
【0098】
サンプル
本発明によると、試験に用いる細胞は、試験サンプルおよび参照サンプルを含む「サンプル」内に存在し得る。
【0099】
本発明によると、「サンプル」なる用語は、本発明による方法における試験に用い得る細胞を含むあらゆる物質を含む。サンプルまたはサンプルに用いる細胞は、あらゆる生物、好ましくはヒトおよび動物から得ることができる。好ましくは生物は、小さな実験動物、例えばラット、マウス、ハムスター、モルモット、スナネズミ、ウサギ、ゼブラフィッシュ、ショウジョウバエ、またはより大きな哺乳類、好ましくはブタ、ミニブタ、イヌ、ネコ、類人猿またはヒトなどである。
【0100】
さらに、サンプルとして、またはサンプルを得るために、内臓脂肪、腹部脂肪もしくは他の組織の脂肪、筋肉、血液、骨、腸、膵臓もしくは肝臓組織などの組織を、またはインビトロ培養初代細胞もしくは細胞株(例えば脂肪、筋肉、血液、腸、膵臓または肝臓細胞)、初代細胞もしくは細胞株からの細胞培養培地、インビトロ培養細胞、インビトロ培養組織、組織培養培地もしくは細胞培養培地を、用いることができる。
【0101】
サンプルは、当分野にて既知の方法、例えば静脈穿刺(血液、血清、血漿)、尿の直接採取またはカテーテルを用いた尿の採取によって得ることができる。組織または細胞は、生検または手術中採取によって得ることができる。血液細胞は、例えば、赤血球、マクロファージ、リンパ球、B細胞、T細胞などのような血液細胞の個別の集団について、例えば密度勾配遠心分離またはFACS (蛍光標示式細胞分取)などの当分野にて既知の方法を用いて選別することができる。あらゆる種類の上記物質またはそれらの組み合わせを本発明によって用いることができる。サンプルは、血液、血清、血漿、尿または組織サンプルであり得る。さらに、サンプルまたは細胞は、健康な個体、特に健康なヒトから、またはPPAR-ガンマレセプターに関連する疾患、好ましくはチアゾリジンジオンにより治療可能な疾患、例えばII型糖尿病、インスリン耐性、肥満、メタボリック症候群、耐糖能障害、アテロ−ム性動脈硬化症および冠動脈心疾患からなる群から選択される疾患を有する個体、特にヒトから、得ることができる。さらに、サンプルまたは細胞は、チアゾリジンジオンにより治療できない、および/またはPPARガンマレセプターと関連する別の疾患を有する個体から得てもよく、従ってそのサンプルまたは細胞は、試験サンプルとその別の疾患とを区別するためのネガティブコントロールとして用いることができる。さらなる実施態様において、試験サンプルは健康な個体から取得し、一方、参照サンプルは上述の疾患に罹患した個体から取得する、あるいはその逆である。
【0102】
ペプチドおよび/またはタンパク質のレベルを測定する方法
細胞と候補物質の接触工程がインビトロでサンプル中にて起こる場合、本発明の方法におけるペプチドおよび/またはタンパク質のレベルは、サンプルまたはその画分(例えば細胞上清、または核もしくはミトコンドリアのような特定の細胞オルガネラなど)中にて測定することができる。細胞と候補物質の接触工程が生物内にて起こる場合、本発明の方法におけるペプチドおよび/またはタンパク質のレベルは、接触後の生物から得られるあらゆるサンプル中にて測定することができる。
【0103】
一般にペプチドおよびタンパク質を検出し分析するのに適切な方法はすべて、本発明の方法において用いることができる。好ましくは質量スペクトル分析法、タンパク質チップアッセイ、免疫学的および分子生物学的方法を用いる。
【0104】
好ましくは、100kDaまで、好ましくは80kDaまで、70kDaまで、60kDaまで、50kDaまで、40kDaまで、30kDaまで、20kDaまで、10kDaまで、および好ましくは5kDaまでの分子量のペプチドまたはタンパク質を、本発明の方法にて測定する。
【0105】
本発明の方法の特定の実施態様において、測定の障害となる可能性のある高分子量タンパク質および他の生体高分子を、測定前に生物サンプルから除去する。そのためにとりわけ適切な方法は、未変性または変性ゲル電気泳動、2-Dゲル電気泳動、液体クロマトグラフィー、例えばアニオンもしくはカチオン交換クロマトグラフィー、金属キレートアフィニティークロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー、毛細管クロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー、質量スペクトル分析法、沈殿技術、例えば三塩化酢酸(trichloric acetic acid)または三フッ酸(trifluoric acid)またはエタノール沈殿、免疫沈降、液相抽出技術、濾過および他の分子サイズ識別技術、例えばゲル濾過、例えば3、5、10、30または50キロダルトンのサイズ排除限界を有するメンブランを用いる限外濾過、密度勾配遠心分離および密度によって分子を識別する他の方法などである。
【0106】
サンプルはペプチドおよびタンパク質のレベルを測定するために複数の画分に分離してもよく、および/または、別のサンプルおよび/またはサンプルの別の画分は異なる測定装置および方法を用いて分析してもよい。
【0107】
とりわけ適切な質量スペクトル分析法は、マトリックス支援レーザー脱離イオン化法(matrix assisted laser desorption ionisation)(MALDI)、連続またはパルス状エレクトロスプレーイオン化法(continuous or pulsed electrospray ionization)(ESI)、SELDI質量スペクトル分析法、FAB質量スペクトル分析法およびMS/MS質量スペクトル分析法、およびイオンスプレーまたは熱スプレーまたはマッシブクラスター衝撃(massive cluster impact)(MCI)のような関連法である。イオン供給源は、線形または非線形反射飛行時間(linear or non-linear reflection time-of-flight)(TOF)、シングルまたはマルチプル四重極(single or multiple quadrupole)、シングルまたはマルチプル磁場型(single or multiple magnetic sector)、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析(fourier transform ion cyclotron resonance)(FTICR)、イオントラップ、およびそれらの組み合わせ、例えばイオントラップ/飛行時間などの検出フォーマットと適合させることができる。イオン化において、多数のマトリックス/波長の組み合わせ(MALDI)または溶媒の組み合わせ(ESI)を用いることができる。他の適切な質量スペクトル分析法は、例えば、高速原子衝撃(FAB)質量スペクトル分析法、表面増強レーザー脱離/イオン化(Surface Enhanced Laser Desorption/Ionisation)(SELDI)質量スペクトル分析法、同位体コードアフィニティータグ(isotope coded affinity tag)(ICAT)質量スペクトル分析法またはアフィニティー質量スペクトル分析法である。
【0108】
さらに、とりわけ適切な免疫学的方法は、酵素結合免疫測定法(ELISA)、サンドイッチ、直接、間接または競合ELISAアッセイ、酵素結合免疫スポット(エリスポット)アッセイ(ELISPOT)、ラジオイムノアッセイ(RIA)、フローサイトメトリーアッセイ(FACS=蛍光活性化細胞選別(fluorescence activated cell sorting))、免疫組織化学、ウェスタンブロット、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)アッセイ、例えば抗体、抗体フラグメント、レセプター、リガンドまたはペプチドもしくはタンパク質に特異的な他の結合物質を用いるタンパク質チップアッセイである。
【0109】
核磁気共鳴法(NMR)、蛍光定量法、比色分析法、放射測定法、ルミノメトリー(luminometry)または他の分光測定法、液体クロマトグラフィー、毛細管クロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー、表面プラズモン共鳴(SPR)測定(BIAcore)、一または二次元ゲル電気泳動などのようなさらなる方法を、ペプチドおよびタンパク質の検出に用いることができる。
【0110】
ペプチド/タンパク質パターン
本発明の方法におけるペプチドおよび/またはタンパク質のレベルの測定は、タンパク質/ペプチドパターンの作成(それらのパターンは少なくとも2つの別個のシグナルを含む)、および好ましくは作成されたタンパク質/ペプチドパターンの比較を含んでもよい。タンパク質/ペプチドパターンの比較は、本発明の方法において試験するべきペプチドおよび/またはタンパク質の量の差異を反映し得る。
【0111】
そのようなタンパク質/ペプチドパターンは好ましくは、2以上、好ましくは4以上、より好ましくは6以上、8以上、10以上、15以上、さらにより好ましくは20以上、30以上、40以上、50以上、60以上、70以上、80以上、90以上、100以上、120以上、140以上、160以上、180以上、200以上、250以上、300以上、400以上、500以上の、ペプチドおよび/またはタンパク質についてのシグナルを含む。シグナル数が、アッセイ系の解像限界および相関関係を計算するコンピュータの能力を超えない限り、シグナルの上限には特に制限はない。上限は例えば、本発明の方法に用いるアッセイ系に応じて、20、40、60、80、100、150、200、250、300、400、450、500、1000、2000、5000または10000シグナル以下であり得る。本発明の方法の特定の実施態様において、サンプル中のペプチドおよび/またはタンパク質の一部分または画分のみをタンパク質/ペプチドパターンの作成に用いる。これらの実施態様において、ペプチドおよび/またはタンパク質は、タンパク質/ペプチドパターンを作成する前に、クロマトグラフ分離のような分離手段にかけてもよい。そのようなパターンの評価において、好ましくは相関関係を計算するための少なくとも1つの以下の数学的方法を用いる:「ピアソンの積率相関(Pearson Product-Moment Correlation)」、「スピアマンの順位相関(Spearman's Rank-Order Correlation)」、「ケンドールのタウ(Kendall's Tau)」、「ケンドールの一致係数(Kendall's Coefficient of Concordance)」、「グッドマンとクラスカルのガンマ(Goodman and Kruskal's Gamma)」、「マンハッタン距離(Manhattan distance)」、「ユークリッド距離(Euclidean distance)」および「最小全域木の直径(Minimal Spanning Tree Diameter)」。最も好ましくは「スピアマンの順位相関」を用いる。
【0112】
以下の実施例によって本発明を詳細に記載するが、それらは単に説明のために用いるのであって、決して限定することを意味するものではない。詳細な説明と実施例によって、当業者は本発明に同様に含まれるさらなる態様を容易に実施できる。
【実施例】
【0113】
実施例1:脂肪細胞分化、刺激およびサンプル調製
線維芽細胞株3T3-L1(American Tissue Type Collection, Manassas, VA, USA)の細胞をダルベッコ変法イーグル培地(1mM Na-ピルビン酸、4mM L-グルタミンを補足したダルベッコ変法イーグル培地;以後DMEMを称する)に10% v/vウシ胎仔血清(FCS)を加えた培地にて培養した。コンフルエントから2日後の3T3-L1細胞を、10%FCSを含み、1μg/mLイソブチル-1-メチルキサンチン(IBMX)、0.25μmol/Lデキサメタゾンおよび1μg/mLインスリンを補足したDMEMにて3日間培養すると、アディポサイト(脂肪細胞)へ分化した。10%FCSを含み、1μg/mLインスリンのみを補足したDMEMにさらに2日間おいた後、光学顕微鏡によりモニターして90%以上の細胞が脂肪滴を蓄積するまで、10%FCSを含むDMEMにおいて細胞を維持した。10日目に、1μMトログリタゾンによる第1の刺激を、後に第2の刺激も行わない細胞(ネガティブコントロール)を除いた全ての細胞に加えた。初めの刺激は細胞を40時間インキュベートして行った。細胞をリン酸緩衝生理食塩水によりリンスし、第2の刺激のために、培養培地をFCSを含まないDMEM(ネガティブコントロール)、FCSを含まないが1μMトログリタゾン(Calbiochem, Darmstadt, Germany)または10 nMインスリン(組換え体、ヒトインスリン、Sigma, Muenchen, Germany)を含む、または1μMトログリタゾンおよび10nMインスリンの両方を含むDMEMへ置換した。8時間インキュベーションした後、その条件培地を回収し、300 x gにて10分間遠心分離し、Minisart 0,2μmフィルターユニット(Sartorius, Goettingen, Germany)を用いて滅菌濾過した。各サンプルから、トリグリセリドとトータルタンパク質測定用のアリコートを−20℃にて保存し、乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)活性測定用の別アリコートを6℃にて保存した。各サンプルの残りを、濃縮HCl(5μl/mL)を用いて約2から3のpH値にまで酸性化し、−80℃にて保存し、ペプチドマップの作成、およびタンパク質およびペプチドの配列決定に用いた(実施例3から5を参照のこと)。
【0114】
実施例2:トータルタンパク質、LDH活性、アディポネクチン、トリグリセリドおよびMCP-1の測定
当分野にて知られる標準法に従って、または、処置群間の測定値の差異が、サンプル量の差異(トータルタンパク質の測定値)、細胞の生存率の差異(LDH活性の測定値)または細胞の分化程度の差異(アディポネクチンおよびトリグリセリドの測定値)によることを妨げるために用いたアッセイキットの使用説明書に従って、以下のアッセイを行った。
【0115】
トータルタンパク質の測定を「Roti(登録商標)-Quant」、Bradford型タンパク質アッセイ(Roth, Karlsruhe, Germany)を用いて行った。無血清DMEMをネガティブコントロールとして用いた。全てのサンプルを同じタンパク質濃度に調整し、これらのサンプルから得られる質量スペクトル分析結果を直接比較できるようにした。
【0116】
細胞溶解によって放出された細胞質酵素LDHを、「細胞毒性検出キット(Cytotoxicity Detection Kit (LDH)」(Roche Molecular Biochemicals, Mannheim, Germany)を用いて測定した。刺激した細胞(トログリタゾン、インスリンまたは両方により)および対照細胞(刺激なし)の無血清細胞培養物の上清を分析した。無血清培地をネガティブコントロールとして用いた。LDHアッセイの結果から、全4処置群の脂肪細胞は一様に生存可能であり、行ったどの刺激にも脂肪細胞に対する毒性作用はないことが示された。
【0117】
脂肪細胞への分化が首尾よく進んだことを確認するために、トリグリセリドおよびアディポネクチンを測定し、光学顕微鏡を用いて細胞を脂肪小滴の細胞内蓄積について外観検査した。たいてい70から80%の細胞が脂肪細胞へ分化していた。市販購入できるAdiponection ELISA(B-Bridge International Inc., Sunnyvale, CA, USA)を用いてアディポネクチンを測定した。対照細胞(未分化3T3-L1細胞)のDMEM培地または条件DMEM培地をネガティブコントロールとして用いた。「Fluitest(登録商標)TG」トリグリセリドアッセイ(Biocon Diagnostik, Voehl/Marienhagen, Germany)を用いてトリグリセリドを測定した。このアッセイは、「トリンダー(Trinder)反応」に基づく酵素学的比色分析アッセイである。DMEM培地をネガティブコントロールとして用いた。図2Aに示すように、全4処置群のサンプルはほぼ同じ濃度のアディポネクチンを含有しており、このことは全4処置群の細胞は同じ分化レベルを有することを示している。このことは、トリグリセリドアッセイから得られた結果によっても確認された(データは示さず)。
【0118】
単球走化性タンパク質1(MCP-1)は、炎症性および免疫調節性サイトカインのCCケモカインファミリーに属し、インスリンによって上方制御され、これはインスリンの既知の炎症促進活性の1つである。従って、インスリンおよび/またはトログリタゾンのMCP-1分泌に対する効果を測定すると、トログリタゾンの全抗炎症性活性を決定できる。刺激および非刺激の、分化した3T3-L1脂肪細胞の細胞培養上清中のMCP-1の測定を、サンドイッチELISA(R&D Systems GmbH, Wiesbaden, Germany)を用いて行った。DMEM培地をネガティブコントロールとして用いた。図2Bに示すように、MCP-1濃度はインスリン単独によって増加する。しかしながら、トログリタゾン単独またはインスリンとの組み合わせでは、MCP-1の濃度は非刺激分化脂肪細胞レベル未満まで減少し、このことはトログリタゾンの抗炎症効果を示している。これらの結果により、インスリンおよびトログリタゾンは、試験した脂肪細胞に対してそれぞれ期待した炎症性および抗炎症性活性を示すことが確認され、このことは一般にこの方法にて細胞刺激が達成できることを示している。
【0119】
実施例3:サンプルの液体クロマトグラフィー
ペプチドおよびタンパク質の分離はSource 5RPC、4,6 x 150 mm逆相クロマトグラフィーカラム(Amersham Biosciences Europe GmbH, Freiburg, Germany)を用いて行った。バッファーAは0.06%(v/v)トリフルオロ酢酸(TFA)/蒸留水、バッファーBは0.05%(v/v)TFAおよび80%(v/v)アセトニトリル/蒸留水とした。マクロフローセルを備えたHP 1100 HPLC(ともにAgilent Technologies, Boeblingen, Germany提供)を用いて33℃でクロマトグラフィーを行った。クロマトグラフィーの前に、サンプル(全容積5.5mL)を4℃、15000 x gにて10分間遠心分離し、そうしてサンプルから得られた最終5mLの上清をクロマトグラフィーカラムに送り込んだ。出発物質をより少なくするのが望ましい場合は、サンプルから得た上清をトリフルオロ酢酸の0.1%(v/v)ストック溶液を用いて希釈した。クロマトグラフィー過程でバッファーAおよびBを種々の割合で混合して用いた。クロマトグラフィーの条件は以下の通りであり、以下ではバッファーBのみの百分率量を示しており、バッファーAの百分率量は100%からバッファーBの百分率(v/v)を差し引いたものである:
− 5%バッファーBを1分間;
− 44分の間にバッファーBを5から50%へと線形勾配させる;
− 4分の間にバッファーBを50から100%へと線形勾配させる;
− 100%バッファーBを4分間。
【0120】
フロー速度は500μL/分であり、バッファーBを5から100%へ勾配させている間にそれぞれ内容量0.25 mLの96の画分を採取する。
【0121】
実施例4:サンプルの質量スペクトル分析
質量スペクトル分析において、ペプチドの典型的な陽イオンスペクトルを、MALDI-TOF(マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間)質量スペクトル分析器を用いて測定した。MALDIサンプルの調製において、α-シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸をマトリックスとして用い、6-デスオキシ-L-ガラクトースを共マトリックス(co-matrix)として用い、それらは0.1%TFAを含有するアセトニトリルに溶解させた。逆相クロマトグラフィーにより分画し、凍結乾燥したサンプルを、15μLのマトリックス溶液(アセトニトリル、水、トリフルオロ酢酸(TFA)およびアセトン(49:49:1:1の容積比)からなる混合溶媒に10g/L α-シアノ-4-ヒドロキシケイ酸および10 g/L L(-)フコースを溶解させたもの)に溶解させた。このサンプル溶液0.3μL(=元のサンプル100μLと当量)をMALDI担体プレートに移し、乾燥サンプルをVoyager-DE STR MALDI質量スペクトル分析器(PerSeptive Biosystems)にて分析した。測定はディレイド・エクストラクション(delayed extraction)(商標)を用いてリニアモードにて行った。MALDI-TOF質量スペクトル分析器は、例えば本明細書に記載のペプチドおよびタンパク質のようなペプチドおよび/またはタンパク質の定量化に用いることができる(ただし、これらのペプチドおよび/またはタンパク質が質量スペクトル分析器のダイナミック測定レンジ内の濃度で存在し、よって検出器の飽和が回避される場合)。図3Aから3Cはこの実施例の結果を示す。Fn14のフラグメント(アミノ酸残基28から88)を表すペプチドの濃度は、非刺激細胞に対して刺激細胞の上清において増加し、トログリタゾン刺激細胞と比較してインスリン刺激細胞の上清においてより増加し、インスリンおよびトログリタゾンにより刺激した細胞の上清において最も増加した。Fn14のアミノ酸残基28から87を表す同様のフラグメントは、4群全てにおいて、初めのFn14フラグメントに関して得られた結果と非常に似た結果を示した。図3Bは、高移動度タンパク質A1(HMGA)のアミノ酸残基73から93を表すフラグメントの濃度は、非刺激対照と比較して刺激した全ての処置群の上清において増加したことを示す。しかしながら、非刺激細胞に対して、トログリタゾンによる刺激ではこのフラグメントは最高濃度となり、インスリンによる刺激ではより低い増加となり、インスリンおよびトログリタゾンの組み合わせでは最も低い増加となった。図3Cは、アペリンのフラグメントであるアペリン-13の濃度は、非刺激細胞と比較して全ての刺激細胞の上清においてわずかながら増加したことを示す。トログリタゾンおよびインスリンにより刺激した細胞の上清において、アペリン-13の濃度は、トログリタゾン単独またはインスリン単独のいずれかにより刺激した細胞と比較してわずかにより増加している。
【0122】
実施例5:ペプチドの同定
個々のペプチドおよび/またはタンパク質の濃度差の検出は、サブトラクティブペプチドディスプレイマップおよび相関分析の計算によって行った。ペプチドディスプレイマップに現れる選択タンパク質およびペプチドは、ESI-qTOFシーケンシング(PE Applied Biosystems, Framingham, USA)により解析する。ペプチドイオンは質量スペクトル分析器においてそれらの特異的なm/z(質量/電荷)値に基づいて当業者に既知の方法によって選択した。次いで、衝突エネルギー(20−40eV)を衝突ガス、例えばヘリウムまたは窒素に供給することによりこれらの選択イオンを断片化し、生じたペプチドおよび/またはタンパク質の質量スペクトル分析フラグメントを総合解析ユニットの質量スペクトル分析器において検出し、対応するm/z値を測定した(タンデム質量スペクトル分析の原理)。ペプチドおよび/またはタンパク質の破砕挙動により、ペプチドおよび/またはタンパク質の明確な同定が可能となる。質量スペクトル分析は、例えばQuadrupol-TOF(飛行時間)シーケンシング(QStar-Pulsarモデル)またはESI-qTOFシーケンシング(両方ともにPE Applied Biosystems, Framingham, USAより)によって行うことができる。得られたペプチド/タンパク質フラグメントのスペクトルは、プロダクトイオンスキャン(product ion scan)モードのナノスプレー(nanoSpray)(スプレー電圧950V、衝突エネルギー20-40eV)を用いて検出する。サンプルにつき200スキャンまで蓄積される。BioAnalystプログラムパッケージのBayesian再構築ツール(PE Applied Biosystems)を用いて荷電状態の逆重畳積分を行い、Voyager 5.1ソフトウェア(PE Applied Biosystems)によって脱アイソトープ化(deisotoping)を行う。質量スペクトルをMASCOTジェネリックファイルフォーマットにて保存し、MASCOT19データベース検索エンジン(Matrix Science, London, UK)に供する。検索するベータベースは、例えばSwissProt(バージョン39.6, www.expasy.ch)およびMSDB(バージョン010721, EBI, Europe)でもよい。さらに、このペプチド配列決定法により、リン酸化、アセチル化またはヒドロキシル化などのアミノ酸修飾の同定が可能である。上記の方法および手段を用いることにより、実施例4に記載のアミノ酸配列およびペプチド起源を同定した。
【図面の簡単な説明】
【0123】
【図1】図1は、ヒト(hum)およびネズミ(mur)のFn14配列のアライメントを示す。ヒト配列のアミノ酸残基1から27はシグナル配列を表すと予想され(下線)、アミノ酸残基81から101は膜貫通領域を表すと予想される(下線)。Fn14のN末端は細胞外に位置し、一方C末端は細胞内に位置する。
【0124】
【図2】図2は、3T3-L1細胞(脂肪細胞に分化した3T3細胞=3T3-L1細胞)の細胞培養物の上清において測定した、アディポネクチン(パネルA)およびMCP-1(パネルB)の濃度を示す。細胞は、刺激しなかったもの(左の箱型図)、または1μMトログリタゾンにより40時間刺激した(第1の刺激)後、1μMトログリタゾン(チアゾリジンジオン)、10 nMインスリンまたは両方により8時間刺激したもの(右の3つの箱型図;第2の刺激)のいずれかである。
【0125】
【図3A】図3は、刺激しなかった、または1μMトログリタゾン単独により40時間刺激した後1μMトログリタゾン、10nMインスリンまたは両方により8時間第2の刺激を行った、3T3-L1細胞(脂肪細胞へ分化したもの)の細胞培養物の上清から、実施例3に従って調製したサンプルにおいて測定した、特定のペプチドフラグメントのシグナル強度を示す。サンプルは、実施例4に従って質量スペクトル分析法を用いて測定した。y軸は、x軸上に示したように処理した実験群のサンプル中の、示したペプチドの質量スペクトル分析シグナル強度を表す。A.Fn14のアミノ酸残基28から88、およびアミノ酸残基28から87をそれぞれ示すペプチドフラグメントについての結果。
【0126】
【図3B】図3は、刺激しなかった、または1μMトログリタゾン単独により40時間刺激した後1μMトログリタゾン、10nMインスリンまたは両方により8時間第2の刺激を行った、3T3-L1細胞(脂肪細胞へ分化したもの)の細胞培養物の上清から、実施例3に従って調製したサンプルにおいて測定した、特定のペプチドフラグメントのシグナル強度を示す。サンプルは、実施例4に従って質量スペクトル分析法を用いて測定した。y軸は、x軸上に示したように処理した実験群のサンプル中の、示したペプチドの質量スペクトル分析シグナル強度を表す。B.高移動度タンパク質A1(HMGA1)のアミノ酸残基73から95を示すペプチドフラグメントについての結果。
【0127】
【図3C】図3は、刺激しなかった、または1μMトログリタゾン単独により40時間刺激した後1μMトログリタゾン、10nMインスリンまたは両方により8時間第2の刺激を行った、3T3-L1細胞(脂肪細胞へ分化したもの)の細胞培養物の上清から、実施例3に従って調製したサンプルにおいて測定した、特定のペプチドフラグメントのシグナル強度を示す。サンプルは、実施例4に従って質量スペクトル分析法を用いて測定した。y軸は、x軸上に示したように処理した実験群のサンプル中の、示したペプチドの質量スペクトル分析シグナル強度を表す。C.アペリンのアミノ酸残基65から77を示すペプチドフラグメントについての結果。
【0128】
【図4】図4は本明細書に記載の配列を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
治療物質を同定する方法であって、細胞と候補物質を接触させる工程、およびFn14、HMGA1、アペリン、それらのフラグメントおよびそれらの変異体からなる群から選択される少なくとも1つのペプチドおよび/またはタンパク質のレベルを測定する工程を含む方法。
【請求項2】
前記細胞がチアゾリジンジオンによる処置に対して反応性である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記細胞がPPAR-ガンマレセプターを発現する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記細胞がアディポサイトである、請求項1から3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
候補物質が化合物または化合物の組成物である、請求項1から4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
治療物質が、少なくとも1つのチアゾリジンジオンの機能特性を有する物質、またはチアゾリジンジオンに類似する活性を有する物質である、請求項1から5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
細胞が候補物質と接触しない場合に対して細胞が候補物質と接触した場合における、前記少なくとも1つのペプチドおよび/またはタンパク質のレベルの増加、および/または同少なくとも1つのペプチドおよび/またはタンパク質のレベルの減少が、候補物質が、疾患、特にPPAR-ガンマレセプターに関連する疾患の処置に有用な治療物質であることを示す、請求項1から6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
細胞が候補物質と接触しない場合に対して細胞が候補物質と接触した場合における、前記少なくとも1つのペプチドおよび/またはタンパク質のレベルの増加が、候補物質が、少なくとも1つのチアゾリジンジオンの機能特性を有すること、および/またはチアゾリジンジオンにより治療可能な疾患および/またはPPAR-ガンマレセプターに関連する疾患の処置に有用であることを示す、請求項1から7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記の接触が、サンプル中インビトロで、または生細胞中インビボで、もしくは生物中インビボで起こる、請求項1から8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記少なくとも1つのペプチドおよび/またはタンパク質のレベルを、参照における該少なくとも1つのペプチドおよび/またはタンパク質のレベル、または該少なくとも1つのペプチドおよび/またはタンパク質についてのあらかじめ測定された参照値と比較する、請求項1から9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
前記参照において、細胞が、(i)候補物質と接触していない、および/または(ii)チアゾリジンジオンまたはチアゾリジンジオンと候補物質の組み合わせと接触している、および/または(iii)候補物質、チアゾリジンジオンまたはチアゾリジンジオンと候補物質の組み合わせと、異なる期間および/または異なる濃度において接触している、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記接触が生物おいて該生物に候補物質を投与することによって起こり、前記少なくとも1つのペプチドおよび/またはタンパク質のレベルを、以下の少なくとも1つのさらなる生物における同少なくとも1つのペプチドおよび/またはタンパク質のレベルと比較する、請求項1から10のいずれかに記載の方法:(i)候補物質を投与していない、および/または(ii)チアゾリジンジオンまたはチアゾリジンジオンと候補物質の組み合わせを投与した、および/または(iii)候補物質、チアゾリジンジオンまたはチアゾリジンジオンと候補物質の組み合わせとの接触が異なる期間行われた、および/または(iv)異なる用量の候補物質を投与した、および/または(v)候補物質を異なる投与方法によって投与した。
【請求項13】
ある生物が少なくとも1つのチアゾリジンジオンの機能特性を有する物質による処置に対して反応性であるかどうかを判定する方法であって、該物質を該生物に投与する工程、および該生物から得られたサンプル中の、Fn14、HMGA1、アペリン、それらのフラグメントおよびそれらの変異体からなる群から選択される少なくとも1つのペプチドおよび/またはタンパク質のレベルを測定する工程を含む方法。
【請求項14】
前記サンプルが、血液、血清、血漿および尿からなる群から選択される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記物質を投与していない生物に対する同物質を投与した生物における、前記少なくとも1つのペプチドおよび/またはタンパク質のレベルの増加および/または同少なくとも1つのペプチドおよび/またはタンパク質のレベルの減少が、該物質が、疾患、特にPPARガンマレセプターに関連する疾患の処置に有効であることを示す、請求項13または14に記載の方法。
【請求項16】
前記物質を投与していない生物に対して同物質を投与した生物における、前記少なくとも1つのペプチドおよび/またはタンパク質のレベルの増加が、該物質が、チアゾリジンジオンにより治療可能な疾患および/またはPPAR-ガンマレセプターに関連する疾患の処置に有効であることを示す、請求項13から15のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
前記少なくとも1つのペプチドおよび/またはタンパク質のレベルを、以下の少なくとも1つのさらなる生物における同少なくとも1つのペプチドおよび/またはタンパク質のレベルと比較する、請求項13から16のいずれかに記載の方法:(i)前記物質を投与していない、および/または(ii)チアゾリジンジオンまたはチアゾリジンジオンと該物質の組み合わせを投与した、および/または(iii)該物質、チアゾリジンジオンまたはチアゾリジンジオンと該物質の組み合わせに異なる期間接触させた、および/または(iv)異なる用量の該物質を投与した、および/または(v)該物質を異なる投与方法により投与した。
【請求項18】
前記の測定が、Fn14および/または少なくとも1つのそのフラグメントおよび/または少なくとも1つのそれらの変異体、および/またはHMGA1および/または少なくとも1つのそのフラグメントおよび/または少なくとも1つのそれらの変異体、および/またはアペリンおよび/または少なくとも1つのそのフラグメントおよび/または少なくとも1つのそれらの変異体のレベルを測定することを含む、請求項1から17のいずれかに記載の方法。
【請求項19】
Fn14のフラグメントが、Fn14タンパク質のアミノ酸残基28から84、28から83、28から87または28から88に相当し、好ましくは配列表の配列番号7から10からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する、請求項1から18のいずれかに記載の方法。
【請求項20】
HMGA1のフラグメントが、HMGA1タンパク質のアミノ酸残基73から95に相当し、好ましくは配列表の配列番号11に記載のアミノ酸配列を有する、請求項1から18のいずれかに記載の方法。
【請求項21】
アペリンのフラグメントが、アペリンタンパク質のアミノ酸残基23から48、27から41、または65から77に相当し、好ましくは配列表の配列番号12から14からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する、請求項1から18のいずれかに記載の方法。
【請求項22】
前記少なくとも1つのペプチドおよび/またはタンパク質のレベルの測定に、該少なくとも1つのペプチドおよび/またはタンパク質の相対量または絶対量の測定が含まれる、請求項1から21のいずれかに記載の方法。
【請求項23】
前記少なくとも1つのペプチドおよび/またはタンパク質のレベルの測定を、質量スペクトル分析法、または分離法と組み合わせた質量スペクトル分析法を用いて行う、請求項1から22のいずれかに記載の方法。
【請求項24】
前記分離法が、ゲル電気泳動、液体クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー、毛細管クロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー、質量スペクトル分析、沈殿技術、液相抽出技術、濾過および他の分子サイズ識別技術、密度勾配遠心分離および密度によって分子を識別する他の方法からなる群から選択される、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
質量スペクトル分析法が、MALDI質量スペクトル分析法、ESI質量スペクトル分析法、SELDI質量スペクトル分析法、FAB質量スペクトル分析法およびMS/MS質量スペクトル分析法からなる群から選択される、請求項23または24の方法。
【請求項26】
チアゾリジンジオンが、ロシグリタゾン、ピオグリタゾン、トログリタゾン、MCC-555、MK-0767、TZD18、バラグリタゾン、ファルグリタザル、シグリタゾンおよびダルグリタゾンからなる群から選択される、請求項2から25のいずれかに記載の方法。
【請求項27】
疾患が、II型糖尿病、インスリン耐性、耐糖能障害、肥満、メタボリック症候群、循環器疾患およびアテロ−ム性動脈硬化症からなる群から選択される、請求項7から12および15から26のいずれかに記載の方法。
【請求項28】
Fn14が配列表の配列番号1または2に記載のアミノ酸配列を含む、請求項1から27のいずれかに記載の方法。
【請求項29】
HMGA1が、配列表の配列番号3または4に記載のアミノ酸配列を含む、請求項1から27のいずれかに記載の方法。
【請求項30】
アペリンが、配列表の配列番号5または6に記載のアミノ酸配列を含む、請求項1から27のいずれかに記載の方法。
【請求項31】
配列表の配列番号7から13からなる群から選択されるアミノ酸配列を有するペプチドまたはそれらの変異体。
【請求項32】
配列表の配列番号7から13からなる群から選択されるアミノ酸配列を有するペプチドをコードする核酸またはそれらの変異体。
【請求項33】
請求項32の核酸またはそれらの変異体を含む組換え核酸。
【請求項34】
配列表の配列番号7から14からなる群から選択されるアミノ酸配列を有するペプチドと特異的に結合する抗体またはそれらの変異体。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図4】
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【公表番号】特表2009−516155(P2009−516155A)
【公表日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−532651(P2008−532651)
【出願日】平成18年9月26日(2006.9.26)
【国際出願番号】PCT/EP2006/009324
【国際公開番号】WO2007/039184
【国際公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【出願人】(508097582)ディジラブ・インコーポレイテッド (1)
【氏名又は名称原語表記】Digilab, Inc.
【Fターム(参考)】