チェーンガイド及びチェーンテンショナ装置
【課題】 チェーンとの接触面の強度が高くて摺動抵抗が小さく、高速で走行するチェーンが接触しても摩耗しにくく、低騒音で、振動の少ないチェーンガイド並びにそれを用いたチェーンテンショナ装置を提供する。
【解決手段】 チェーン1と接触するローラ12を、チェーン1の走行方向に沿って設けられた対向する側板部材9に支持される支持軸13と、この支持軸13の両端を支持する側板部材9の支持凹所14との間に、制振材17を収容することにより、支持軸13の振動を側板部材9に伝わり難くした。
【解決手段】 チェーン1と接触するローラ12を、チェーン1の走行方向に沿って設けられた対向する側板部材9に支持される支持軸13と、この支持軸13の両端を支持する側板部材9の支持凹所14との間に、制振材17を収容することにより、支持軸13の振動を側板部材9に伝わり難くした。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、無端状に架け渡されたチェーンを押圧してチェーンに弛みが生じないように張力を付与するチェーンガイドおよびチェーンテンショナ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
チェーンテンショナ装置は、駆動スプロケットと従動スプロケットに無端状に架け渡されたチェーンの途中部分に、チェーンに接触するチェーンガイドを設置し、チェーンガイドの少なくとも一つをチェーンの走行方向と略直角方向に押し付けることによって、高速で走行するチェーンに弛みが生じないように張力を付与するものであり、エンジンの動弁駆動装置のタイミングチェーン等に使用されている。
【0003】
チェーンガイドは、チェーンと接触しながら案内するものであるから、チェーンとの間で摩擦による摺動抵抗が発生し、騒音やメカニカルロスが大きくなるという問題が生じる。
【0004】
このチェーンガイドの騒音やメカニカルロスを抑制する技術として、特許文献1あるいは特許文献2に記載のものが知られている。これらの文献に記載のチェーンガイドは、チェーンの走行方向に沿って湾曲形状に形成され、チェーンと接触する摺動面部にローラを配設し、高速で走行するチェーンをローラが転がりながら押圧することによって、摺動抵抗を減少させるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−236157号公報
【特許文献2】特開2010−180900号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、これらの文献に記載されたチェーンガイドにおいては、チェーンとローラとは強い摩擦力で接触するため、チェーンと接触するローラの強度向上と共に、摺動抵抗の軽減が要求される。
【0007】
また、チェーンは、チェーンガイド上を振動しながら高速移動するため、その振動がチェーンガイドを介して、エンジンへと伝わるため、その音響値が大きくなって、騒音の問題が生じる。
【0008】
このような振動に耐えるためには、高強度のチェーンガイドが必要となり、サイズが大型化するため、重量が重くなるという問題がある。
【0009】
また、振動を抑制する手段としては、一般的にチェーンテンショナが取付けられているが、タイミングチェーンの振動周波数が高く、振動を十分に吸収できないという問題もあった。
【0010】
そこで、この発明は、低騒音で、振動の少ないチェーンガイド並びにそれを用いたチェーンテンショナ装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記の課題を解決するために、この発明は、無端状に架け渡されたチェーンと接触する複数のローラと、この複数のローラの支持軸の両端を支持するチェーンの走行方向に沿って設けられた対向する側板部材とからなるチェーンガイドにおいて、前記ローラの支持軸と、この支持軸の両端を支持する側板部材の支持凹所との間に、制振材を収容したことを特徴とする。
【0012】
前記制振材は、支持軸の両端外周に嵌めることによって設けることができる。
【0013】
前記支持軸の両端外周には、制振材を嵌める段差を設けてもよい。
【0014】
前記制振材は、支持軸の外周ではなく、側板部材の支持凹所の内周に設けてもよい。
【0015】
前記制振材は、支持軸の外周の全周に設ける必要はなく、荷重方向にのみ設けるようにしてよい。
【0016】
前記制振材は、支持軸の外周又は支持凹所の内周の少なくとも一方に接着しておくことが好ましい。
【0017】
制振材の材質としては、水素添加ニトリルゴム(HNBR)やフッ素ゴムを用いることができる。また、制振材を、支持軸の外周又は支持凹所に接着する場合には、加硫接着が好ましい。
【0018】
また、制振材は、軸方向の剛性が、径方向の剛性よりも強いことが好ましい。
【0019】
前記ローラは、支持軸と、この支持軸の外周面に設けられた外輪を備えるころ軸受とによって構成することが好ましい。なお、この発明において、ころ軸受とは、針状ころ軸受、円筒ころ軸受を含む概念で使用する。
【0020】
また、前記外輪の外周には、鉄製外環を被せてもよい。
【0021】
前記ころ軸受は、両端に内向きの鍔部を有する鋼製の外輪と、この外輪内に組込まれる保持器付きのころとからなるものを使用することができる。
【0022】
前記鋼製の外輪は、プレス成形によって形成されるが、削り出し成形によって形成してもよい。
【0023】
前記外輪又は鉄製外環の材質としては、例えば、SUJ2、SCM等の硬化処理が行えるものが好ましい。
【0024】
硬化処理は、耐久性の点から、硬化深さを0.05μm以上にすることが好ましい。
【0025】
前記外輪又は鉄製外環の肉厚は、変形を防止、強度を向上させるために、1mm以上が好ましい。
【0026】
また、前記外輪又は鉄製外環の表面は、窒化処理を施してもよい。
【0027】
前記外輪又は鉄製外環の真円度は、振動を軽減し、静粛性を図るために、20μm以下が望ましい。
【0028】
この発明に係るチェーンガイドを、無端状に架け渡されたチェーンの途中部分に、少なくとも2個配置し、一個のチェーンガイドを、一端側が回転軸によって支持され、他端側が押圧装置によって揺動してチェーンに張力を付与するように構成し、他の一個のチェーンガイドを、両端が固定されてチェーンに押し付けられるように構成することにより、メカニカルロスの少ない優れたチェーンテンショナ装置にすることができる。
【発明の効果】
【0029】
この発明のチェーンガイドは、ローラの支持軸と、この支持軸の両端を支持する側板部材の支持凹所との間に、制振材を収容しているので、ローラの振動が制振材によって吸収されるので、チェーンガイドの側板部材に振動が伝わり難く、低振動・低騒音である。
また、ローラの支持軸の外周に、ころ軸受が配置することにより、摺動抵抗が小さくなり、十分な強度を有する。
【0030】
また、ころ軸受の外輪の外周に、鉄製外環を被せることにより、強度がさらに向上する。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】この発明に係るチェーンガイドの一実施形態を示す斜視図である。
【図2】図1のチェーンガイドをチェーン側から見た平面図である。
【図3】図1のチェーンガイドの正面図である。
【図4】図1のチェーンガイドからローラを取り除いた状態を示す平面図の実施形態を示す正面図である。
【図5】図4のA−A線で断面図である。
【図6】図5の部分拡大図である。
【図7】この発明に係るチェーンガイドの一実施形態を示す横断面図である。
【図8】図7のチェーンガイドの支持軸を側板部材の支持凹所に嵌め入れた状態を示す部分拡大図である。
【図9】この発明に係るチェーンガイドの他の実施形態を示す横断面図である。
【図10】この発明に係るチェーンガイドの他の実施形態を示す横断面図である。
【図11】この発明に係るチェーンガイドの他の実施形態を示す横断面図である。
【図12】図11のチェーンガイドの支持軸を側板部材の支持凹所に嵌め入れた状態を示す部分拡大図である。
【図13】この発明に係るチェーンガイドの他の実施形態を示す横断面図である。
【図14】この発明に係るチェーンガイドの他の実施形態を示す横断面図である。
【図15】この発明に係るチェーンガイドの他の実施形態を示す横断面図である。
【図16】この発明に係るチェーンガイドを使用するチェーンテンショナ装置の一例を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
この発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付し、説明の重複を避けるためにその説明は繰返さない。
【0033】
この発明の実施形態にかかるチェーンガイドは、例えば、エンジンの動弁駆動系のタイミングチェーンに張力を付与するために使用される。
【0034】
タイミングチェーン1は、図16に示すように、クランク軸に取付けられるクランクスプロケット2と、動弁機構の第1カムシャフトに取り付けられる第1カムスプロケット3及び第2カムシャフトに取り付けられる第2カムスプロケット4の間に無端状に巻き掛けられている。
【0035】
クランクスプロケット2と第1カムスプロケット3間、及びクランクスプロケット2と第2カムスプロケット4の間のタイミングチェーン1には、それぞれタイミングチェーン1が弛まないように第1チェーンガイド5aと第2チェーンガイド5bを配設している。
【0036】
第1チェーンガイド5aは、長手方向の一端側が回転軸6によってエンジンに回転自在に支持され、他端側を押圧装置7によって揺動するように構成され、タイミングチェーン1に張力を付与している。
【0037】
第2チェーンガイド5bは、長手方向の両端が取付け軸8によってエンジンに対して固定され、張力が付与されたタイミングチェーン1が弛まないように案内している。
【0038】
第1チェーンガイド5aと第2チェーンガイド5bは、第1チェーンガイド5aが押圧装置7によって揺動するのに対し、第2チェーンガイド5bが揺動しないでエンジンに対して固定される点で相違するのみで、タイミングチェーン1を案内する基本構造は同一であるので、以下、チェーンガイド5と総称して説明することにする。なお、チェーンガイド5は、チェーンレバーとも称される。
【0039】
チェーンガイド5は、タイミングチェーン1に沿うように湾曲形状に形成された一対の側板部材9と、この側板部材間をつなぐ柱部材10を備える。
【0040】
さらに、前記側板部材9の長手方向両端には、貫通孔11が設けられている。この貫通孔11に軸(図示しない)を挿入し、例えば、エンジンカバーの内壁に取り付けられる。
【0041】
なお、前記第1チェーンガイド5aのように、長手方向の一端側を回転軸によってエンジンに回転自在に支持し、他端側を押圧装置7によって揺動させて、タイミングチェーン1に張力を付与する場合には、側板部材9の貫通孔11は、長手方向の一端側にのみ設ければよい。
【0042】
第1チェーンガイド5aを押圧する押圧装置7は、バネやネジにより押圧するメカニカル方式のものでも、油圧により押圧する油圧式でもよい。
【0043】
前記一対の側板部材9は、幅方向に所定の間隔を有し、側板部材9間にタイミングチェーン1と接触する複数のローラ12が配列される。このローラ12の配列は、湾曲形状の側板部材9に対して、均一なピッチでもよいし、タイミングチェーン1の走行方向の入口側にローラ12が多く配列されるように、ピッチを異ならせてもよい。
【0044】
側板部材9の対向壁面には、ローラ12の支持軸13の両端を支持する支持凹所14が設けられている。
【0045】
支持凹所14は、図4、図5及び図6に示すように、前記タイミングチェーン1側の端面に開口する挿入凹所14aと、この挿入凹所14aに連続し、前記支持軸13の端部が嵌まる円弧形状の固定凹所14bとからなり、前記ローラ12の支持軸13の両端を、前記挿入凹所14aから前記固定凹所14b内に挿入して、前記側板部材9の両端を支持している。
【0046】
前記支持凹所14は、図5に示すように、側板部材9の湾曲形状に沿って複数配列され、支持凹所14と支持凹所14の間に柱部材10が配置されている。
【0047】
前記挿入凹所14aは、図6の拡大図に示すように、開口部aが広く、固定凹所14bに至る位置まで徐々に狭くなって行くテーパ状に形成され、挿入凹所14aと固定凹所14bとが連なる位置の挿入口bの幅寸法が、円弧形状の固定凹所14bの径φより小さく形成されている。
【0048】
前記円弧形状の固定凹所14bの径φは、前記支持軸13の径より小さく形成され、前記支持軸13が固定凹所14bに圧入固定されるようになっている。
【0049】
また、この支持凹所14は、図1及び図2に示すように、側板部材9に非貫通状態で形成されている。これにより、挿入された支持軸13の軸方向の移動が規制されている。
【0050】
前記側板部材9及び柱部材10は、この実施形態では、例えば、ジアミノンブタンとアジピン酸の重縮合によるポリマーであるポリアミド(PA)46やポリアミド(PA)66を用いた樹脂成形により一体に成形される。また、機械的強度を増すために、ガラス繊維や炭素繊維をPA46、PA66に複合させたものを用いることもできる。
【0051】
側板部材9と柱部材10を樹脂で形成することにより、軽量化が図れる。また、側板部材9と柱部材10と形成する樹脂は、摩擦熱を放熱するために、高熱伝導性のものを用いることもできる。
【0052】
なお、側板部材9と柱部材10は、樹脂以外でも、例えば、アルミニウム、マグネシウムなどの軽金属を用いて鋳造やダイカストによって形成することもできる。
【0053】
前記ローラ12は、図7、図9、図10、図11、図13及び図14に示す各実施形態では、前記支持軸13と、鋼製の外輪12aを有するころ軸受とからなる。
【0054】
図15の実施形態のように、鋼製の外輪12aの外周面に、鉄製外環12dを被せて、鉄製外環12dがタイミングチェーン1に接触するようにしてもよい。
【0055】
前記ローラ12の支持軸13と、この支持軸13の両端を支持する側板部材9の支持凹所14との間には、制振材17が収容して、支持軸13からの振動が側板部材9に伝わり難くしている。
【0056】
図7に示す実施形態では、前記制振材17は、リング状に形成され、支持軸13の両端外周に嵌められている。
【0057】
また、図9に示す実施形態では、両端外周に、リング状の制振材17を嵌める段差18を有する段付きの支持軸13を使用している。
【0058】
また、図11に示す実施形態では、前記制振材17を支持軸13の外周ではなく、側板部材9の支持凹所14の内周に設けている。より具体的には、支持凹所14の円弧形状の固定凹所14bの内面に制振材17を接着している。
【0059】
このように、制振材17は、支持軸13の外周の全周に設ける必要はなく、荷重方向にのみ設けるようにしてよい。
【0060】
また、図13に示す実施形態は、支持軸13の両端に、支持軸13の両端外周と端面を覆うキャップ形状の制振材17を嵌めたものであり、この例では支持軸13の端面も制振材17によって覆われるので、制振効果が向上する。
【0061】
また、図14に示す実施形態は、断面がL字形の制振材17を支持凹所14に取付けた例であり、この例でも支持軸13の端面が制振材17によって覆われるので、制振効果が向上する。
【0062】
前記制振材17は、支持軸13の外周又は支持凹所14の少なくとも一方に接着しておくことが好ましい。
【0063】
前記制振材17の材質としては、水素添加ニトリルゴム(HNBR)やフッ素ゴムが好ましい。また、制振材17を、支持軸13の外周又は支持凹所14に接着する場合には、加硫接着が好ましい。
【0064】
また、制振材17は、軸方向の剛性が、径方向の剛性よりも強いことが好ましい。
【0065】
前記ころ軸受は、両端に内向きの鍔部を有する鋼製の外輪12aと、この外輪12a内に組込まれる保持器12b付きのころ12cとからなるラジアルころ軸受である。
【0066】
前記外輪12aは、プレス成形あるいは削り出し成形によって形成することができる。
【0067】
プレス成形によって外輪12aを形成する場合には、両端の内向きの鍔部は、保持器12bところ12cを組み込んだ後に、縁曲げ加工を行い、組立後に熱処理することが好ましい。
【0068】
外輪12a又は鉄製外環12dの材質としては、SUJ2、SCM等、熱処理により硬化処理が行えるものを使用している。
【0069】
外輪12a又は鉄製外環12dを熱処理によって硬化させる場合、硬化深さは0.05μm以上あることが好ましい。
【0070】
また、外輪12a又は鉄製外環12dの表面は、窒化処理を施してもよい。
【0071】
前記外輪12a又は鉄製外環12dの真円度は、振動を軽減し、静粛性を図るために、20μm以下が望ましい。
【0072】
また、外輪12a又は鉄製外環12dの肉厚は、1mm以上が強度的に好ましい。
【0073】
ころ12cは、保持器12bにより周方向に対して所定間隔に保持されている。保持器12bとしては、柱部の形状がV型をしているV型保持器を使用している。保持器12bを用いることにより、ころ12cのスキューを防ぐとともに、ころ12cの端面が外輪12aの鍔部と直接触れることを避け、また、側板部材9の摩耗を防ぐことができる。なお、保持器12bを用いない総ころ構造の転がり軸受で構成してもよい。
【0074】
次に、ローラ12を対向する側板部材9に対して組み付けるには、まず、図5に示すように、支持軸13を嵌めたローラ12を用意し、図7や図9の実施形態の場合には、支持軸13の外周に制振材17を嵌める。そして、ローラ12の支持軸13の両端を、側板部材9の対向壁面に形成した支持凹所の挿入凹所14aに臨ませて、挿入凹所14a内に落とし込むことにより、挿入凹所14aから固定凹所14b内に挿入する。この実施形態では、開口部aは広く、挿入凹所14aはテーパ状に形成されているので、支持軸13を挿入する際には、容易に支持軸13を開口部aから挿入口bを経て円弧状の固定凹所14bに案内することができる。
【0075】
そして、前記の実施形態によれば、円弧状の固定凹所14bの径φは、支持軸13の径より小さく形成しているので、支持軸13は圧入されて固定凹所14bに取り付けられる。この結果、支持軸13の回転を抑制することができる。また、固定凹所14bに連なる挿入口bの幅は、円弧状の固定凹所14bの径φより小さく形成されているので、挿入口bが支持軸13の抜け止め機能をはたしている。更に、支持凹所14は側板部材9を非貫通状態で形成されているので、挿入される支持軸13の軸方向の移動を規制することができる。
【0076】
次に、対向する側板部材9の支持凹所14に、ローラ12の支持軸13を嵌め入れた状態で、図1、図3、図4、図7及び図8に示すように、ローラ12の外周面の外輪12a又は鉄製外環12dが、側板部材9の端面よりも低い。これにより、タイミングチェーン1が、側板部材9の対向壁面間で案内されて、走行するタイミングチェーン1が側板部材9の対向壁面から外れることを防止している。
【0077】
また、前記ローラ12の外周と側板部材9の端面までの高さは、図7又は図8に示すように、タイミングチェーン1を構成するプレート1aを連結する連結ピン1bの位置よりも低くすることが望ましい。前記ローラ12の外周と側板部材9の端面までの高さが、タイミングチェーン1を構成するプレート1aを連結する連結ピン1bの位置よりも高い位置にあると、連結ピン1bが側板部材9の対向壁面に当たるので、好ましくない。
【0078】
次に、図10は、この発明の他の実施形態のチェーンガイド5を示す横断面図である。この実施形態につき、上述した実施形態と共通する構成については同一の符号を付して説明を省略し、異なる構成について以下に説明する。この実施形態では、図8に示すように、支持軸13の中心部に油穴15を設け、タイミングチェーン1と反対側の位置に油が排出される排出穴15aを設ける。そして、側板部材9に油穴15と連なる穴16を設ける。このように、油穴15を設けることにより、軸受内部に油が供給できる。また、熱を逃がすこともできる。油穴15の排出穴15aの方向は、上記のように、タイミングチェーン1と反対方向にするのが好ましく、これにより、軸受け内部へ油の供給がスムーズに行われる。さらに、油穴15aにより支持軸13が中空になることにより、軽量化も図れる。
【0079】
また、この発明の各実施形態のチェーンガイド5は、エンジンのタイミングチェーンの他、様々な駆動チェーンに張力を付与することができ、しかもメカニカルロスを低減することができる。
【0080】
そして、この発明のチェーンガイド5を使用するチェーンテンショナ装置は、図16に示すように、一端の貫通孔11に回転軸6を挿通し、他端側を押圧装置7によって揺動する第1チェーンガイド5aと、両端が取付け軸8によってエンジンに対して固定した第2チェーンガイド5bとによって構成される。このチェーンテンショナ装置によれば、エンジンのタイミングチェーンのメカニカルロスの低減並びに軽量化が図られ、燃料消費率を向上させることができる。第1チェーンガイド5aや第2チェーンガイド5bを、エンジンブロックに取付ける場合、エンジンブロックと、第1チェーンガイド5aや第2チェーンガイド5bの側板部材9との間に制振材を入れることが好ましい。
【0081】
なお、タイミングチェーン1は、ローラーチェーンでも、サイレントチェーンのいずれでも使用することができる。
【0082】
また、以上の実施形態では、側板部材9と柱部材10とを一体に形成した例を示したが、両者を分割して別体に形成してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0083】
この発明によるチェーンガイドは、エンジンなど駆動チェーンに張力を与える機構において有効に利用される。
【符号の説明】
【0084】
1 タイミングチェーン
2 クランクスプロケット
3 第1カムスプロケット
4 第2カムスプロケット
5 チェーンガイド
5a 第1チェーンガイド
5b 第2チェーンガイド
6 回転軸
7 押圧装置
8 取付け軸
9 側板部材
10 柱部材
11 貫通孔
12 ローラ
12a 外輪
12b 保持器
12c ころ
12d 鉄製外環
13 支持軸
14 支持凹所
14a 挿入凹所
14b 固定凹所
15 油穴
15a 排出穴
16 穴
17 制振材
18 段差
【技術分野】
【0001】
この発明は、無端状に架け渡されたチェーンを押圧してチェーンに弛みが生じないように張力を付与するチェーンガイドおよびチェーンテンショナ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
チェーンテンショナ装置は、駆動スプロケットと従動スプロケットに無端状に架け渡されたチェーンの途中部分に、チェーンに接触するチェーンガイドを設置し、チェーンガイドの少なくとも一つをチェーンの走行方向と略直角方向に押し付けることによって、高速で走行するチェーンに弛みが生じないように張力を付与するものであり、エンジンの動弁駆動装置のタイミングチェーン等に使用されている。
【0003】
チェーンガイドは、チェーンと接触しながら案内するものであるから、チェーンとの間で摩擦による摺動抵抗が発生し、騒音やメカニカルロスが大きくなるという問題が生じる。
【0004】
このチェーンガイドの騒音やメカニカルロスを抑制する技術として、特許文献1あるいは特許文献2に記載のものが知られている。これらの文献に記載のチェーンガイドは、チェーンの走行方向に沿って湾曲形状に形成され、チェーンと接触する摺動面部にローラを配設し、高速で走行するチェーンをローラが転がりながら押圧することによって、摺動抵抗を減少させるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−236157号公報
【特許文献2】特開2010−180900号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、これらの文献に記載されたチェーンガイドにおいては、チェーンとローラとは強い摩擦力で接触するため、チェーンと接触するローラの強度向上と共に、摺動抵抗の軽減が要求される。
【0007】
また、チェーンは、チェーンガイド上を振動しながら高速移動するため、その振動がチェーンガイドを介して、エンジンへと伝わるため、その音響値が大きくなって、騒音の問題が生じる。
【0008】
このような振動に耐えるためには、高強度のチェーンガイドが必要となり、サイズが大型化するため、重量が重くなるという問題がある。
【0009】
また、振動を抑制する手段としては、一般的にチェーンテンショナが取付けられているが、タイミングチェーンの振動周波数が高く、振動を十分に吸収できないという問題もあった。
【0010】
そこで、この発明は、低騒音で、振動の少ないチェーンガイド並びにそれを用いたチェーンテンショナ装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記の課題を解決するために、この発明は、無端状に架け渡されたチェーンと接触する複数のローラと、この複数のローラの支持軸の両端を支持するチェーンの走行方向に沿って設けられた対向する側板部材とからなるチェーンガイドにおいて、前記ローラの支持軸と、この支持軸の両端を支持する側板部材の支持凹所との間に、制振材を収容したことを特徴とする。
【0012】
前記制振材は、支持軸の両端外周に嵌めることによって設けることができる。
【0013】
前記支持軸の両端外周には、制振材を嵌める段差を設けてもよい。
【0014】
前記制振材は、支持軸の外周ではなく、側板部材の支持凹所の内周に設けてもよい。
【0015】
前記制振材は、支持軸の外周の全周に設ける必要はなく、荷重方向にのみ設けるようにしてよい。
【0016】
前記制振材は、支持軸の外周又は支持凹所の内周の少なくとも一方に接着しておくことが好ましい。
【0017】
制振材の材質としては、水素添加ニトリルゴム(HNBR)やフッ素ゴムを用いることができる。また、制振材を、支持軸の外周又は支持凹所に接着する場合には、加硫接着が好ましい。
【0018】
また、制振材は、軸方向の剛性が、径方向の剛性よりも強いことが好ましい。
【0019】
前記ローラは、支持軸と、この支持軸の外周面に設けられた外輪を備えるころ軸受とによって構成することが好ましい。なお、この発明において、ころ軸受とは、針状ころ軸受、円筒ころ軸受を含む概念で使用する。
【0020】
また、前記外輪の外周には、鉄製外環を被せてもよい。
【0021】
前記ころ軸受は、両端に内向きの鍔部を有する鋼製の外輪と、この外輪内に組込まれる保持器付きのころとからなるものを使用することができる。
【0022】
前記鋼製の外輪は、プレス成形によって形成されるが、削り出し成形によって形成してもよい。
【0023】
前記外輪又は鉄製外環の材質としては、例えば、SUJ2、SCM等の硬化処理が行えるものが好ましい。
【0024】
硬化処理は、耐久性の点から、硬化深さを0.05μm以上にすることが好ましい。
【0025】
前記外輪又は鉄製外環の肉厚は、変形を防止、強度を向上させるために、1mm以上が好ましい。
【0026】
また、前記外輪又は鉄製外環の表面は、窒化処理を施してもよい。
【0027】
前記外輪又は鉄製外環の真円度は、振動を軽減し、静粛性を図るために、20μm以下が望ましい。
【0028】
この発明に係るチェーンガイドを、無端状に架け渡されたチェーンの途中部分に、少なくとも2個配置し、一個のチェーンガイドを、一端側が回転軸によって支持され、他端側が押圧装置によって揺動してチェーンに張力を付与するように構成し、他の一個のチェーンガイドを、両端が固定されてチェーンに押し付けられるように構成することにより、メカニカルロスの少ない優れたチェーンテンショナ装置にすることができる。
【発明の効果】
【0029】
この発明のチェーンガイドは、ローラの支持軸と、この支持軸の両端を支持する側板部材の支持凹所との間に、制振材を収容しているので、ローラの振動が制振材によって吸収されるので、チェーンガイドの側板部材に振動が伝わり難く、低振動・低騒音である。
また、ローラの支持軸の外周に、ころ軸受が配置することにより、摺動抵抗が小さくなり、十分な強度を有する。
【0030】
また、ころ軸受の外輪の外周に、鉄製外環を被せることにより、強度がさらに向上する。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】この発明に係るチェーンガイドの一実施形態を示す斜視図である。
【図2】図1のチェーンガイドをチェーン側から見た平面図である。
【図3】図1のチェーンガイドの正面図である。
【図4】図1のチェーンガイドからローラを取り除いた状態を示す平面図の実施形態を示す正面図である。
【図5】図4のA−A線で断面図である。
【図6】図5の部分拡大図である。
【図7】この発明に係るチェーンガイドの一実施形態を示す横断面図である。
【図8】図7のチェーンガイドの支持軸を側板部材の支持凹所に嵌め入れた状態を示す部分拡大図である。
【図9】この発明に係るチェーンガイドの他の実施形態を示す横断面図である。
【図10】この発明に係るチェーンガイドの他の実施形態を示す横断面図である。
【図11】この発明に係るチェーンガイドの他の実施形態を示す横断面図である。
【図12】図11のチェーンガイドの支持軸を側板部材の支持凹所に嵌め入れた状態を示す部分拡大図である。
【図13】この発明に係るチェーンガイドの他の実施形態を示す横断面図である。
【図14】この発明に係るチェーンガイドの他の実施形態を示す横断面図である。
【図15】この発明に係るチェーンガイドの他の実施形態を示す横断面図である。
【図16】この発明に係るチェーンガイドを使用するチェーンテンショナ装置の一例を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
この発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付し、説明の重複を避けるためにその説明は繰返さない。
【0033】
この発明の実施形態にかかるチェーンガイドは、例えば、エンジンの動弁駆動系のタイミングチェーンに張力を付与するために使用される。
【0034】
タイミングチェーン1は、図16に示すように、クランク軸に取付けられるクランクスプロケット2と、動弁機構の第1カムシャフトに取り付けられる第1カムスプロケット3及び第2カムシャフトに取り付けられる第2カムスプロケット4の間に無端状に巻き掛けられている。
【0035】
クランクスプロケット2と第1カムスプロケット3間、及びクランクスプロケット2と第2カムスプロケット4の間のタイミングチェーン1には、それぞれタイミングチェーン1が弛まないように第1チェーンガイド5aと第2チェーンガイド5bを配設している。
【0036】
第1チェーンガイド5aは、長手方向の一端側が回転軸6によってエンジンに回転自在に支持され、他端側を押圧装置7によって揺動するように構成され、タイミングチェーン1に張力を付与している。
【0037】
第2チェーンガイド5bは、長手方向の両端が取付け軸8によってエンジンに対して固定され、張力が付与されたタイミングチェーン1が弛まないように案内している。
【0038】
第1チェーンガイド5aと第2チェーンガイド5bは、第1チェーンガイド5aが押圧装置7によって揺動するのに対し、第2チェーンガイド5bが揺動しないでエンジンに対して固定される点で相違するのみで、タイミングチェーン1を案内する基本構造は同一であるので、以下、チェーンガイド5と総称して説明することにする。なお、チェーンガイド5は、チェーンレバーとも称される。
【0039】
チェーンガイド5は、タイミングチェーン1に沿うように湾曲形状に形成された一対の側板部材9と、この側板部材間をつなぐ柱部材10を備える。
【0040】
さらに、前記側板部材9の長手方向両端には、貫通孔11が設けられている。この貫通孔11に軸(図示しない)を挿入し、例えば、エンジンカバーの内壁に取り付けられる。
【0041】
なお、前記第1チェーンガイド5aのように、長手方向の一端側を回転軸によってエンジンに回転自在に支持し、他端側を押圧装置7によって揺動させて、タイミングチェーン1に張力を付与する場合には、側板部材9の貫通孔11は、長手方向の一端側にのみ設ければよい。
【0042】
第1チェーンガイド5aを押圧する押圧装置7は、バネやネジにより押圧するメカニカル方式のものでも、油圧により押圧する油圧式でもよい。
【0043】
前記一対の側板部材9は、幅方向に所定の間隔を有し、側板部材9間にタイミングチェーン1と接触する複数のローラ12が配列される。このローラ12の配列は、湾曲形状の側板部材9に対して、均一なピッチでもよいし、タイミングチェーン1の走行方向の入口側にローラ12が多く配列されるように、ピッチを異ならせてもよい。
【0044】
側板部材9の対向壁面には、ローラ12の支持軸13の両端を支持する支持凹所14が設けられている。
【0045】
支持凹所14は、図4、図5及び図6に示すように、前記タイミングチェーン1側の端面に開口する挿入凹所14aと、この挿入凹所14aに連続し、前記支持軸13の端部が嵌まる円弧形状の固定凹所14bとからなり、前記ローラ12の支持軸13の両端を、前記挿入凹所14aから前記固定凹所14b内に挿入して、前記側板部材9の両端を支持している。
【0046】
前記支持凹所14は、図5に示すように、側板部材9の湾曲形状に沿って複数配列され、支持凹所14と支持凹所14の間に柱部材10が配置されている。
【0047】
前記挿入凹所14aは、図6の拡大図に示すように、開口部aが広く、固定凹所14bに至る位置まで徐々に狭くなって行くテーパ状に形成され、挿入凹所14aと固定凹所14bとが連なる位置の挿入口bの幅寸法が、円弧形状の固定凹所14bの径φより小さく形成されている。
【0048】
前記円弧形状の固定凹所14bの径φは、前記支持軸13の径より小さく形成され、前記支持軸13が固定凹所14bに圧入固定されるようになっている。
【0049】
また、この支持凹所14は、図1及び図2に示すように、側板部材9に非貫通状態で形成されている。これにより、挿入された支持軸13の軸方向の移動が規制されている。
【0050】
前記側板部材9及び柱部材10は、この実施形態では、例えば、ジアミノンブタンとアジピン酸の重縮合によるポリマーであるポリアミド(PA)46やポリアミド(PA)66を用いた樹脂成形により一体に成形される。また、機械的強度を増すために、ガラス繊維や炭素繊維をPA46、PA66に複合させたものを用いることもできる。
【0051】
側板部材9と柱部材10を樹脂で形成することにより、軽量化が図れる。また、側板部材9と柱部材10と形成する樹脂は、摩擦熱を放熱するために、高熱伝導性のものを用いることもできる。
【0052】
なお、側板部材9と柱部材10は、樹脂以外でも、例えば、アルミニウム、マグネシウムなどの軽金属を用いて鋳造やダイカストによって形成することもできる。
【0053】
前記ローラ12は、図7、図9、図10、図11、図13及び図14に示す各実施形態では、前記支持軸13と、鋼製の外輪12aを有するころ軸受とからなる。
【0054】
図15の実施形態のように、鋼製の外輪12aの外周面に、鉄製外環12dを被せて、鉄製外環12dがタイミングチェーン1に接触するようにしてもよい。
【0055】
前記ローラ12の支持軸13と、この支持軸13の両端を支持する側板部材9の支持凹所14との間には、制振材17が収容して、支持軸13からの振動が側板部材9に伝わり難くしている。
【0056】
図7に示す実施形態では、前記制振材17は、リング状に形成され、支持軸13の両端外周に嵌められている。
【0057】
また、図9に示す実施形態では、両端外周に、リング状の制振材17を嵌める段差18を有する段付きの支持軸13を使用している。
【0058】
また、図11に示す実施形態では、前記制振材17を支持軸13の外周ではなく、側板部材9の支持凹所14の内周に設けている。より具体的には、支持凹所14の円弧形状の固定凹所14bの内面に制振材17を接着している。
【0059】
このように、制振材17は、支持軸13の外周の全周に設ける必要はなく、荷重方向にのみ設けるようにしてよい。
【0060】
また、図13に示す実施形態は、支持軸13の両端に、支持軸13の両端外周と端面を覆うキャップ形状の制振材17を嵌めたものであり、この例では支持軸13の端面も制振材17によって覆われるので、制振効果が向上する。
【0061】
また、図14に示す実施形態は、断面がL字形の制振材17を支持凹所14に取付けた例であり、この例でも支持軸13の端面が制振材17によって覆われるので、制振効果が向上する。
【0062】
前記制振材17は、支持軸13の外周又は支持凹所14の少なくとも一方に接着しておくことが好ましい。
【0063】
前記制振材17の材質としては、水素添加ニトリルゴム(HNBR)やフッ素ゴムが好ましい。また、制振材17を、支持軸13の外周又は支持凹所14に接着する場合には、加硫接着が好ましい。
【0064】
また、制振材17は、軸方向の剛性が、径方向の剛性よりも強いことが好ましい。
【0065】
前記ころ軸受は、両端に内向きの鍔部を有する鋼製の外輪12aと、この外輪12a内に組込まれる保持器12b付きのころ12cとからなるラジアルころ軸受である。
【0066】
前記外輪12aは、プレス成形あるいは削り出し成形によって形成することができる。
【0067】
プレス成形によって外輪12aを形成する場合には、両端の内向きの鍔部は、保持器12bところ12cを組み込んだ後に、縁曲げ加工を行い、組立後に熱処理することが好ましい。
【0068】
外輪12a又は鉄製外環12dの材質としては、SUJ2、SCM等、熱処理により硬化処理が行えるものを使用している。
【0069】
外輪12a又は鉄製外環12dを熱処理によって硬化させる場合、硬化深さは0.05μm以上あることが好ましい。
【0070】
また、外輪12a又は鉄製外環12dの表面は、窒化処理を施してもよい。
【0071】
前記外輪12a又は鉄製外環12dの真円度は、振動を軽減し、静粛性を図るために、20μm以下が望ましい。
【0072】
また、外輪12a又は鉄製外環12dの肉厚は、1mm以上が強度的に好ましい。
【0073】
ころ12cは、保持器12bにより周方向に対して所定間隔に保持されている。保持器12bとしては、柱部の形状がV型をしているV型保持器を使用している。保持器12bを用いることにより、ころ12cのスキューを防ぐとともに、ころ12cの端面が外輪12aの鍔部と直接触れることを避け、また、側板部材9の摩耗を防ぐことができる。なお、保持器12bを用いない総ころ構造の転がり軸受で構成してもよい。
【0074】
次に、ローラ12を対向する側板部材9に対して組み付けるには、まず、図5に示すように、支持軸13を嵌めたローラ12を用意し、図7や図9の実施形態の場合には、支持軸13の外周に制振材17を嵌める。そして、ローラ12の支持軸13の両端を、側板部材9の対向壁面に形成した支持凹所の挿入凹所14aに臨ませて、挿入凹所14a内に落とし込むことにより、挿入凹所14aから固定凹所14b内に挿入する。この実施形態では、開口部aは広く、挿入凹所14aはテーパ状に形成されているので、支持軸13を挿入する際には、容易に支持軸13を開口部aから挿入口bを経て円弧状の固定凹所14bに案内することができる。
【0075】
そして、前記の実施形態によれば、円弧状の固定凹所14bの径φは、支持軸13の径より小さく形成しているので、支持軸13は圧入されて固定凹所14bに取り付けられる。この結果、支持軸13の回転を抑制することができる。また、固定凹所14bに連なる挿入口bの幅は、円弧状の固定凹所14bの径φより小さく形成されているので、挿入口bが支持軸13の抜け止め機能をはたしている。更に、支持凹所14は側板部材9を非貫通状態で形成されているので、挿入される支持軸13の軸方向の移動を規制することができる。
【0076】
次に、対向する側板部材9の支持凹所14に、ローラ12の支持軸13を嵌め入れた状態で、図1、図3、図4、図7及び図8に示すように、ローラ12の外周面の外輪12a又は鉄製外環12dが、側板部材9の端面よりも低い。これにより、タイミングチェーン1が、側板部材9の対向壁面間で案内されて、走行するタイミングチェーン1が側板部材9の対向壁面から外れることを防止している。
【0077】
また、前記ローラ12の外周と側板部材9の端面までの高さは、図7又は図8に示すように、タイミングチェーン1を構成するプレート1aを連結する連結ピン1bの位置よりも低くすることが望ましい。前記ローラ12の外周と側板部材9の端面までの高さが、タイミングチェーン1を構成するプレート1aを連結する連結ピン1bの位置よりも高い位置にあると、連結ピン1bが側板部材9の対向壁面に当たるので、好ましくない。
【0078】
次に、図10は、この発明の他の実施形態のチェーンガイド5を示す横断面図である。この実施形態につき、上述した実施形態と共通する構成については同一の符号を付して説明を省略し、異なる構成について以下に説明する。この実施形態では、図8に示すように、支持軸13の中心部に油穴15を設け、タイミングチェーン1と反対側の位置に油が排出される排出穴15aを設ける。そして、側板部材9に油穴15と連なる穴16を設ける。このように、油穴15を設けることにより、軸受内部に油が供給できる。また、熱を逃がすこともできる。油穴15の排出穴15aの方向は、上記のように、タイミングチェーン1と反対方向にするのが好ましく、これにより、軸受け内部へ油の供給がスムーズに行われる。さらに、油穴15aにより支持軸13が中空になることにより、軽量化も図れる。
【0079】
また、この発明の各実施形態のチェーンガイド5は、エンジンのタイミングチェーンの他、様々な駆動チェーンに張力を付与することができ、しかもメカニカルロスを低減することができる。
【0080】
そして、この発明のチェーンガイド5を使用するチェーンテンショナ装置は、図16に示すように、一端の貫通孔11に回転軸6を挿通し、他端側を押圧装置7によって揺動する第1チェーンガイド5aと、両端が取付け軸8によってエンジンに対して固定した第2チェーンガイド5bとによって構成される。このチェーンテンショナ装置によれば、エンジンのタイミングチェーンのメカニカルロスの低減並びに軽量化が図られ、燃料消費率を向上させることができる。第1チェーンガイド5aや第2チェーンガイド5bを、エンジンブロックに取付ける場合、エンジンブロックと、第1チェーンガイド5aや第2チェーンガイド5bの側板部材9との間に制振材を入れることが好ましい。
【0081】
なお、タイミングチェーン1は、ローラーチェーンでも、サイレントチェーンのいずれでも使用することができる。
【0082】
また、以上の実施形態では、側板部材9と柱部材10とを一体に形成した例を示したが、両者を分割して別体に形成してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0083】
この発明によるチェーンガイドは、エンジンなど駆動チェーンに張力を与える機構において有効に利用される。
【符号の説明】
【0084】
1 タイミングチェーン
2 クランクスプロケット
3 第1カムスプロケット
4 第2カムスプロケット
5 チェーンガイド
5a 第1チェーンガイド
5b 第2チェーンガイド
6 回転軸
7 押圧装置
8 取付け軸
9 側板部材
10 柱部材
11 貫通孔
12 ローラ
12a 外輪
12b 保持器
12c ころ
12d 鉄製外環
13 支持軸
14 支持凹所
14a 挿入凹所
14b 固定凹所
15 油穴
15a 排出穴
16 穴
17 制振材
18 段差
【特許請求の範囲】
【請求項1】
無端状に架け渡されたチェーンと接触する複数のローラと、この複数のローラの支持軸の両端を支持するチェーンの走行方向に沿って設けられた対向する側板部材とからなるチェーンガイドにおいて、前記ローラの支持軸と、この支持軸の両端を支持する側板部材の支持凹所との間に、制振材を収容したことを特徴とするチェーンガイド。
【請求項2】
前記制振材が前記支持軸の両端外周に嵌められていることを特徴とする請求項1記載のチェーンガイド。
【請求項3】
前記支持軸の両端外周に、制振材を嵌める段差を設けたことを特徴とする請求項1又は2記載のチェーンガイド。
【請求項4】
前記制振材を側板部材の支持凹所の内周に設けたことを特徴とする請求項1記載のチェーンガイド。
【請求項5】
前記制振材を、前記支持軸又は側板部材の支持凹所の少なくとも一方に接着している請求項1〜4のいずれかに記載のチェーンガイド。
【請求項6】
前記制振材の材質が、水素添加ニトリルゴムである請求項1〜5のいずれかに記載のチェーンガイド。
【請求項7】
前記制振材の材質が、フッ素ゴムである請求項1〜5のいずれかに記載のチェーンガイド。
【請求項8】
前記ころ軸受が、両端に内向きの鍔部を有する鋼製の外輪と、この外輪内に組込まれる保持器付きのころとからなる請求項1〜7のいずれかに記載のチェーンガイド。
【請求項9】
前記鋼製の外輪が、プレス成形によって形成されている請求項1〜8のいずれかに記載のチェーンガイド。
【請求項10】
前記鋼製の外輪が、削り出し成形によって形成されている請求項1〜9のいずれかに記載のチェーンガイド。
【請求項11】
前記の外輪の外周に、鉄製外環を被せている請求項1〜10のいずれかに記載のチェーンガイド。
【請求項12】
前記外輪又は鉄製外環の肉厚が、1mm以上である請求項11に記載のチェーンガイド。
【請求項13】
前記外輪又は鉄製外環の真円度が20μm以下である請求項12に記載のチェーンガイド。
【請求項14】
無端状に架け渡されたチェーンの途中部分に、請求項1〜13のいずれかに記載のチェーンガイドが配置されたチェーンテンショナ装置。
【請求項15】
無端状に架け渡されたチェーンの途中部分に、請求項1〜12のいずれかに記載のチェーンガイドが少なくとも2個配置され、一個のチェーンガイドが、一端側が回転軸によって支持され、他端側が押圧装置によって揺動してチェーンに張力を付与するように構成され、他の一個のチェーンガイドが、両端が固定されてチェーンに押し付けられるように構成されているチェーンテンショナ装置。
【請求項1】
無端状に架け渡されたチェーンと接触する複数のローラと、この複数のローラの支持軸の両端を支持するチェーンの走行方向に沿って設けられた対向する側板部材とからなるチェーンガイドにおいて、前記ローラの支持軸と、この支持軸の両端を支持する側板部材の支持凹所との間に、制振材を収容したことを特徴とするチェーンガイド。
【請求項2】
前記制振材が前記支持軸の両端外周に嵌められていることを特徴とする請求項1記載のチェーンガイド。
【請求項3】
前記支持軸の両端外周に、制振材を嵌める段差を設けたことを特徴とする請求項1又は2記載のチェーンガイド。
【請求項4】
前記制振材を側板部材の支持凹所の内周に設けたことを特徴とする請求項1記載のチェーンガイド。
【請求項5】
前記制振材を、前記支持軸又は側板部材の支持凹所の少なくとも一方に接着している請求項1〜4のいずれかに記載のチェーンガイド。
【請求項6】
前記制振材の材質が、水素添加ニトリルゴムである請求項1〜5のいずれかに記載のチェーンガイド。
【請求項7】
前記制振材の材質が、フッ素ゴムである請求項1〜5のいずれかに記載のチェーンガイド。
【請求項8】
前記ころ軸受が、両端に内向きの鍔部を有する鋼製の外輪と、この外輪内に組込まれる保持器付きのころとからなる請求項1〜7のいずれかに記載のチェーンガイド。
【請求項9】
前記鋼製の外輪が、プレス成形によって形成されている請求項1〜8のいずれかに記載のチェーンガイド。
【請求項10】
前記鋼製の外輪が、削り出し成形によって形成されている請求項1〜9のいずれかに記載のチェーンガイド。
【請求項11】
前記の外輪の外周に、鉄製外環を被せている請求項1〜10のいずれかに記載のチェーンガイド。
【請求項12】
前記外輪又は鉄製外環の肉厚が、1mm以上である請求項11に記載のチェーンガイド。
【請求項13】
前記外輪又は鉄製外環の真円度が20μm以下である請求項12に記載のチェーンガイド。
【請求項14】
無端状に架け渡されたチェーンの途中部分に、請求項1〜13のいずれかに記載のチェーンガイドが配置されたチェーンテンショナ装置。
【請求項15】
無端状に架け渡されたチェーンの途中部分に、請求項1〜12のいずれかに記載のチェーンガイドが少なくとも2個配置され、一個のチェーンガイドが、一端側が回転軸によって支持され、他端側が押圧装置によって揺動してチェーンに張力を付与するように構成され、他の一個のチェーンガイドが、両端が固定されてチェーンに押し付けられるように構成されているチェーンテンショナ装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2012−189201(P2012−189201A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−131214(P2011−131214)
【出願日】平成23年6月13日(2011.6.13)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年6月13日(2011.6.13)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】
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