説明

チオシアネート系抗菌防カビ剤

【課題】従来の抗菌防カビ剤に代わる、安全で有効な抗菌防カビ剤を提供する。
【解決手段】式R−(CH−SCN(ア)で示されるモノテルペン誘導体のチオシアン酸エステルを含有することを特徴とする抗菌防カビ剤。(nは1〜12の整数を、Rはモノテルペノイルオキシ基を示す。)例えば下記の化合物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モノテルペン誘導体のチオシアン酸エステルを含有することを特徴とする抗菌防カビ剤に関する。
【背景技術】
【0002】
工業用製品、工業用材料、農業・園芸用製品、土壌、さらには各種衛生用製品において、有害な細菌や真菌の発生、増殖、拡散による様々な弊害を防止するために、抗菌防カビ剤を添加することで、カビや各種有害細菌の発生、増殖、拡散を防止することは一般的に広く行われている。この際使用される種々の抗菌防カビ剤は、目的に応じて、無機系金属化合物、第四級アンモニウム塩化合物、有機窒素系化合物、有機窒素硫黄系化合物、有機ハロゲン系化合物などが広く用いられている。
また、天然の材料あるいはその成分を、そのまま使用、もしくは若干の加工を施して、抗菌防カビ剤として使用されている。例えば、芥子油やその主成分のイソチオシアン酸アリル、ヒバ油やその主成分のヒノキチオール、キトサンなどが知られている。天然材料の抗菌防カビ剤は、安全性が高く、環境に優位であるが、工業的に実用されているものは例が少ない。抗菌防カビ性をもつ天然材料が知られながら、実用化されていない原因としては多岐にわたり考えられるが、主な原因の1つとして、通常使用するための一般的な加工や希釈により、効果が著しく低下したり、さらには、実質的に効果がなくなることが考えられる。
本発明者らは、先にモノテルペン誘導体のチオシアン酸エステルが水中生物付着に対して優れた防止効果を発揮することを見出し、特願2002−47100号として出願した。本発明では、さらに上記モノテルペン誘導体のチオシアン酸エステルが抗菌防カビ効果を有することを見出し、本発明に至った。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特願2002−47100号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来、使用されてきた抗菌防カビ剤の中には、人体や環境への悪影響が懸念されているものも多く、規制の対象となっているものもある。その一方で、天然由来の抗菌防カビ性をもつ化合物は、安全性は高いものの、効果が十分であるとはいえない。本発明は、これら従来の抗菌防カビ剤に代わる、安全で有効な抗菌防カビ剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、抗菌防カビ剤として、より有効で環境に優位な化合物を開発すべく鋭意研究を重ねた結果、天然材料成分より加工した、モノテルペン誘導体のチオシアン酸エステルが抗菌防カビ性に対して有効であることを見出し、本発明を完成した。
【0006】
即ち、本発明は、式(ア);
【化1】

(ア)
(式中、nは1〜12の整数を、Rは
【化2】


のいずれかを示す)で示される、モノテルペン誘導体のチオシアン酸エステルを含有することを特徴とする抗菌防カビ剤に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の抗菌防カビ剤である、式(ア)で示されるモノテルペン誘導体のチオシアン酸エステルは、抗菌防カビ性能が高く、有害な細菌や真菌の発生、増殖、拡散による様々な弊害を防止するために極めて有用である。しかも、本発明の抗菌防カビ剤は、環境に与える負荷が少ない。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の抗菌防カビ剤は、有効成分として、式(ア)で示される化合物(モノテルペン誘導体のチオシアン酸エステル)を含有する。式(ア)で示される化合物のメチレン基の数nは1〜12、好ましくは2〜10の整数である。nが13以上のチオシアン酸エステルは、合成が困難である。
【0009】
式(ア)で示される化合物は、モノテルペンにメチレン側鎖を形成した後、チオシアン酸塩を反応させることにより作製することができる。例えば、水酸基含有モノテルペンに、強アルカリを作用させ水酸基含有モノテルペンの水酸基をイオン化することで、1,n−ジハロゲノアルカンを反応させることができ、メチレン側鎖を形成することができる。水酸基含有モノテルペンに1,n−ジハロゲノアルカンを反応させメチレン側鎖を形成したモノテルペン誘導体にチオシアン酸塩を反応させることで、式(ア)で示される化合物を製造することができる。
【0010】
【化3】

(a)
式(a)で示される化合物は、モノテルペンにメチレン側鎖を形成した後、チオシアン酸塩を反応させてチオシアン酸エステルを合成し、さらに、これを異性化することにより作製することができる。例えば、水酸基含有モノテルペンに強アルカリを作用させ水酸基含有モノテルペンの水酸基をイオン化することで、1,n−ジハロゲノアルカンを反応させることができ、メチレン側鎖を形成することができる。水酸基含有モノテルペンに1,n−ジハロゲノアルカンを反応させ、メチレン側鎖を形成したモノテルペン誘導体にチオシアン酸塩を反応させて、モノテルペン誘導体のチオシアン酸エステルを作製し、このモノテルペン誘導体のチオシアン酸エステルを高温で加熱することにより異性化して式(a)で示される化合物を製造することができる。
【0011】
水酸基含有モノテルペンとしては、ゲラニオール、β−シトロネロール、リナロール、メントール、α−テルピネオール、または、ボルネオールを使用する。
水酸基含有モノテルペンとして、ゲラニオールを使用することにより式(ク)および式(h)で示される(イソ)チオシアン酸エステルを、β−シトロネロールを使用することにより式(ケ)および式(i)で示される(イソ)チオシアン酸エステルを、リナロールを使用することにより式(コ)および式(j)で示される(イソ)チオシアン酸エステルを、メントールを使用することにより式(サ)および式(k)で示される(イソ)チオシアン酸エステルを、α−テルピネオールを使用することによりで式(シ)および式(l)で示される(イソ)チオシアン酸エステルを、ボルネオールを使用することにより式(ス)および式(m)で示される(イソ)チオシアン酸エステルを製造することができる。

(ク)

(ケ)

(コ)

(サ)

(シ)

(ス)
【0012】
【化4】

(h)
【0013】
【化5】

(i)
【0014】
【化6】

(j)
【0015】
【化7】

(k)
【0016】
【化8】

(l)
【0017】
【化9】

(m)
【0018】
1,n−ジハロゲノアルカンとしては、1,2−ジブロモエタン、1,6−ジブロモヘキサン、1,10−ジブロモデカンなどのジブロモアルカン、1,10−ジクロロデカンなどのジクロロアルカンなどをあげることができる。1,n−ジハロゲノアルカンのnは1〜12の整数であり、アルキレン基の炭素数を示す。すなわち、モノテルペン誘導体の(イソ)チオシアン酸エステルの、メチレン基の数nに相当する。
【0019】
強アルカリとしては、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属、カルシウムなどのアルカリ土類金属、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属水酸化物、酸化銀などの塩基性金属酸化物などをあげることができる。
チオシアン酸塩としては、例えば、チオシアン酸カリウム、チオシアン酸ナトリウム、チオシアン酸リチウムなどのチオシアン酸のアルカリ金属塩などを用いることができる。
【0020】
水酸基含有モノテルペンのイオン化を行うときには、反応溶媒を使用しなくてもよいし、反応溶媒を使用することもできる。反応溶媒としては、ジエチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル類を用いることができる。反応温度は、溶媒の沸点以下、通常、好ましくは0〜100℃、より好ましくは10〜75℃とすることができる。0℃未満では、水酸基含有モノテルペンのイオン化がおこりにくくなり、100℃をこえると、副反応がおこりやすくなる。
【0021】
イオン化した水酸基含有モノテルペンに1,n−ジハロゲノアルカンを作用させメチレン側鎖の導入を行う反応には、メタノール、エタノールなどのアルコール類を溶媒として用いることができる。反応温度は、溶媒の沸点以下、通常、好ましくは0〜100℃、より好ましくは20〜80℃とすることができる。0℃未満では、イオン化した水酸基含有モノテルペンと1,n−ジハロゲノアルカンとの反応がおこりにくくなり、100℃をこえると、副反応がおこりやすくなるためである。反応溶媒として使用するメタノールおよびエタノールの沸点を反応温度とすることが好ましい。
【0022】
水酸基含有モノテルペンに1,n−ジハロゲノアルカンを作用させメチレン側鎖を形成したモノテルペン誘導体とチオシアン酸塩の反応は、反応溶媒を使用することにより行うことができる。反応溶媒としては、アセトンなどのケトン、あるいは、N,N−ジメチルホルムアミドなどのアミド類を用いることができる。反応温度は、溶媒の沸点以下、通常、好ましくは−60〜180℃、より好ましくは20〜80℃とすることができる。−60℃未満では、メチレン側鎖を形成したモノテルペン誘導体とチオシアン酸塩との反応がおこりにくくなり、180℃をこえると、副反応がおこりやすくなる。反応溶媒としてアセトンを使用する場合は、アセトンの沸点を反応温度とすることが好ましい。
【0023】
モノテルペン誘導体のチオシアン酸エステルの異性化は、反応溶媒を使用することにより行うことができる。反応溶媒としては、N,N−ジメチルホルムアミドなどのアミド類を用いることができる。反応温度は、通常、好ましくは30〜180℃、より好ましくは50〜120℃とすることができる。30℃未満では、異性化がおこりにくくなり、180℃を越えると、副反応が起こりやすくなる。
【0024】
得られた式(ア)および式(a)で示される化合物は、カラムクロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィーなどを用いて精製することができる。
【0025】
本発明の抗菌防カビ剤には、式(ア)で示される化合物を2種類以上含有できる。本発明の抗菌防カビ剤には、式(ア)で示される化合物を、0.00001〜100重量%含有することが可能である。適当な製剤が調製できる限り特に濃度に上限はないが、少ないと抗菌防カビ効果がほとんど認められない傾向がある。式(ア)で示される化合物を、0.0001〜50重量%で含有することが好ましく、0.01〜50重量%で含有することがより好ましい。
【0026】
本発明の抗菌防カビ剤は、式(ア)で示される化合物だけでなく、他の成分を含有することもできる。本発明の抗菌防カビ剤は、他の成分として、抗菌防カビ性を示す化合物、すなわち、抗菌防カビ剤の有効成分として作用する化合物を含有することができる。式(ア)で示される化合物以外の抗菌防カビ剤の有効成分として作用する化合物として、銀、銅、亜鉛などの金属、および、その化合物、また、それらを活性炭、アパタイト、ゼオライト、4価金属リン酸塩などに担持させたものなどの無機系の抗菌防カビ剤、エタノール、ブタノールなどのアルコール系化合物、クレゾール、4−クロロ−3,5−キシレノール、o−フェニルフェノールなどのフェノール系化合物、ホルマリン、グルタールアルデヒドなどのアルデヒド系化合物、ソルビン酸、安息香酸、サリチル酸などのカルボン酸およびその塩系化合物、p-オキシ安息香酸プロピル、p−オキシ安息香酸ペンチルなどのエステル系化合物、サリチルアニリド、3,4’,5−トリブロモサリチルアニリドなどのアミド系化合物、ベンザルコニウムクロリド、セチルピリジニウムクロリドなどの第四級アンモニウム塩系化合物、ピリジウム、キノリノール、リバノールなどの窒素環系化合物、チアベンダゾール、ベンズイソチアゾロンなどの窒素硫黄環系化合物、イソチオシアン酸メチル、メチレンビスチオシアネートなどのチオシアン酸系化合物、芥子油やその主成分のイソチオシアン酸アリル、ヒバ油やその主成分のヒノキチオール、キトサンなどの天然由来の抗菌防カビ剤などを使用することができる。
【0027】
本発明の抗菌防カビ剤は、その用途に応じて、固体担体吸着体、溶液、乳剤などの各種形態に調製することができる。本発明の抗菌防カビ剤は、その形態に応じて、各種の他の成分を含有することができる。各形態の抗菌防カビ剤の調製は、通常行われる一般的な処方にて行うことができる。
【0028】
本発明の固体担体吸着体の形態に調製した抗菌防カビ剤は、例えば、式(ア)で示される化合物を各種固体担体に含浸吸着させることにより得られる。固体担体としては、例えば、活性炭、ゼオライト、シリカゲル、アルミナ、カオリン、セルロースなどを挙げることができる。固体担体吸着体の形態に調製した抗菌防カビ剤は、固体担体の種類により吸着量に違いがあるため上限が異なるが、式(ア)で示される化合物を、0.00001〜80重量%含有することが可能である。少ないと抗菌防カビ効果がほとんど認められない傾向があり、多いと担体に吸着しきれない傾向がある。式(ア)で示される化合物を、0.0001〜50重量%で含有することが好ましく、0.01〜40重量%で含有することがより好ましい。
【0029】
本発明の溶液の形態に調製した抗菌防カビ剤は、例えば、式(ア)で示される化合物を各種溶剤に溶解させることにより得られる。溶剤としては、例えば、メタノール、アセトン、トルエン、ジメチルスルホキシド、酢酸エチル、N,N−ジメチルホルムアミドなどを挙げることができる。溶液の形態に調製した抗菌防カビ剤は、式(ア)で示される化合物を、0.00001〜90重量%含有することが可能である。少ないと抗菌防カビ効果がほとんど認められない傾向があり、多いと効果があまり増大しない傾向がある。式(ア)で示される化合物を、0.0001〜50重量%で含有することが好ましく、0.01〜40重量%で含有することがより好ましい。
【0030】
本発明の乳剤の形態に調製した抗菌防カビ剤は、例えば、式(ア)で示される化合物を各種溶剤に溶解させ、さらに界面活性剤を添加する定法により得られる。溶剤としては、メタノール、アセトン、トルエン、ジメチルスルホキシドなどを使用することができる。界面活性剤としては、非イオン性、陰イオン性、陽イオン性、および両イオン性のものを適宜使用することができる。例えば、アルキルフェノール、高級アルコール、アルキルナフトール、高級脂肪酸、脂肪酸エステル、ジアルキルリン酸アミンなどに対してエチレンオキシドおよび/あるいはプロピレンオキシドを重合させたもの;ラウリル硫酸ナトリウムなどのアルキル硫酸エステル塩;2−エチルヘキセンスルホン酸ナトリウムなどのアルキルスルホン酸塩;ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムなどのアリールスルホン酸塩などを使用することができる。乳剤の形態に調製した抗菌防カビ剤は、式(ア)で示される化合物を、0.00001〜50重量%含有することが可能である。少ないと抗菌防カビ効果がほとんど認められない傾向があり、多いと効果があまり増大しない傾向がある。式(ア)で示される化合物を、0.0001〜50重量%で含有することが好ましく、0.01〜40重量%で含有することがより好ましい。
【0031】
またこれらの他に、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、ゼラチン、アルギン酸ソーダなどの増粘剤の様な各種補助剤、さらに必要に応じて、ジブチルヒドロキシトルエンなどの酸化防止剤やベンゾレゾルシノールなどの紫外線吸収剤などの様な安定化剤を適量配合することができる。
【0032】
本発明の式(ア)で示される抗菌防カビ剤および各種形態に調製した抗菌防カビ剤は、各種製品に使用できる。例えば、ポリ塩化ビニル、ポリウレタン、ポリエチレン、ポリプロピレン、アクリル樹脂、ナイロン、ポリエチレンテレフタレート、シリコン、エポキシ樹脂などの各種樹脂材料から形成される、住宅および医療施設用の内・外装材、建築建材および土木建材、家電製品、雑貨、玩具などの抗菌防カビ;繊維および繊維製品、皮革への噴霧あるいは浸漬処理による抗菌防カビ;塗料、接着材、ラテックスなどのエマルジョン製品、顔料、炭酸カルシウムなどのスラリー製品、および、ジョイントセメント中の細菌および真菌の成長抑制;外装塗料などの塗料皮膜における細菌および真菌の生育防止;紙製被覆材などの細菌および真菌の生育防止;建築建材用および土木建材用などの木材の防腐;切削油の防腐;界面活性剤の抗菌防カビ;工場の製造設備およびビル空調などにおける冷却塔の抗菌防カビ;パルプ・製紙工場および砂糖などの食品製造・加工工場などのスライム生成や堆積防止;食品工場などの衛生;下水およびし尿処理場などの消臭抗菌;工業用淡水供給システムなどにおける微生物蓄積の防止;油田切削油、泥水中および二次石油回収プロセスにおける微生物汚染および堆積の防止;プールなどにおける微生物汚染の防止;農業用配合物、電着システム、医療機器、化粧品、トイレタリー製品などの微生物汚染の防止;写真処理における微生物蓄積の防止などに使用することができる。
【0033】
以下実施例及び比較例により本発明を説明するが、本発明の範囲はこれに限定されるものではない。
【0034】
実施例1
<モノテルペン誘導体のチオシアン酸エステルの製造>
冷却管、温度計及び攪拌機を設置した三口フラスコにゲラニオール88mlおよびジエチルエーテル50mlを仕込み、そこに細かく切断したナトリウム10gを加えた。そこに、ヨウ化カリウム2gを添加した後、1,10−ジブロモデカン100mlを約1時間かけて滴下し、さらに、エタノール300mlを約3時間かけて滴下し、還流条件下にて10時間反応させた。反応生成物を、エーテル抽出した後、カラムクロマトグラフィーによって精製し、中間体(モノテルペン誘導体)(1)を60g得た。
同様の装置に中間体(1)を50g、チオシアン酸カリウム15gおよびN,N−ジメチルホルムアミド200mlを仕込み、80℃にて25時間反応させた。反応生成物を、エーテル抽出した後、カラムクロマトグラフィーによって精製し、モノテルペン誘導体のチオシアン酸エステル(1)を39g得た。
【0035】
<チオシアン酸エステルの異性化によるイソチオシアン酸エステルの製造>
モノテルペン誘導体のチオシオン酸エステルの製造に用いられたと同様の装置にモノテルペン誘導体のチオシアン酸エステル(1)を39gおよびN,N−ジメチルホルムアミド200mlを仕込み、100℃にて25時間異性化反応させた。反応生成物をエーテル抽出した後、カラムクロマトグラフィーによって精製し、モノテルペン誘導体のイソチオシアン酸エステル(1)を26g得た。
ついで、得られたチオシアン酸エステル(1)あるいはイソチオシアン酸エステル(1)を用いて、表2に示す配合割合により乳剤を調製した。
【0036】
<抗菌防カビ性能の評価>
細菌:試験菌体を肉汁寒天培地にて30℃、24時間培養後、生理食塩水を用いて菌数を約10 cfu/mlとした接種用菌液を調製した。上記菌液を接種した肉汁寒天平板培地を作製し、その中央にペーパーディスク(直径10mm, 厚さ1.1mm)をおき、得られたチオシアン酸エステル(1)(あるいはイソチオシアン酸エステル)の乳剤の80μlをペーパーディスクに染み込ませ試験培地とした。試験培地を30℃で、24時間培養後、培地上の菌体の発育状況を調査した。
【0037】
カビ:試験菌体を麦芽エキス寒天培地にて28℃、5日間培養後、そのカビ胞子を、グリセリンを1%添加した生理食塩水に懸濁させ、接種用懸濁液を調製した。上記懸濁液を接種した麦芽エキス寒天平板培地を作製し、その中央にペーパーディスク(直径10mm, 厚さ1.1mm)をおき、得られたチオシアン酸エステル(1)の乳剤の80μlをペーパーディスクに染み込ませ試験培地とした。試験培地を28℃で、1週間培養後、培地上のカビの発育状況を調査した。試験の結果を表3に示す。コントロールとして、抗菌防カビ剤を配合していない乳剤の場合の結果を示す。
【0038】
なお、抗菌防カビ性能評価は、ペーパーディスク周辺におけるコロニーの出現の有無、すなわち、阻止円の形成を目視により評価した。なお、抗菌防カビ性能の評価は、阻止円の直径により5段階で評価し、「5」は阻止円直径が40mm以上、「4」は30〜39mm、「3」は20〜29mm、「2」は10〜19mm、「1」は阻止円を形成しなかったことを示す。
【0039】
実施例2〜7、9、参考例8、10
実施例1と同様の装置に、表1に示す所定量の各モノテルペン(A)およびジエチルエーテル50mlを仕込み、そこに細かく切断したナトリウム10gを加えた。そこに、ヨウ化カリウム2gを添加した後、表1に示す所定量の各ジブロモアルカン(B)を約1時間かけて滴下し、さらに、エタノール300mlを約3時間かけて滴下し、還流条件下にて10時間反応させた。反応生成物を、エーテル抽出した後、カラムクロマトグラフィーによって精製し、中間体(モノテルペン誘導体)(2)〜(10)を得た。得られた中間体の収量を表1に示す。
【0040】
同様の装置に中間体(2)〜(10)を50g、表1に示す量のチオシアン酸カリウム(C)およびN,N-ジメチルホルムアミド200mlを仕込み、80℃にて25時間反応させた。反応生成物を、エーテル抽出した後、カラムクロマトグラフィーによって精製し、モノテルペン誘導体のチオシアン酸エステル(2)〜(10)を得た。得られたモノテルペン誘導体のチオシアン酸エステル(2)〜(10)の収量を表1に示す。
【0041】
実施例1と同様の装置にモノテルペン誘導体のチオシアン酸エステル(2)〜(10)の表1に示す収量分およびN,N−ジメチルホルムアミド200mlを仕込み、100℃にて25時間反応させた。反応生成物をエーテル抽出した後、カラムクロマトグラフィーによって精製し、モノテルペン誘導体のイソチオシアン酸エステル(2)〜(10)を得た。得られたモノテルペン誘導体のイソチオシアン酸エステル(2)〜(10)の収量を表1に示す。
【0042】
ついで、得られたチオシアン酸エステル(2)〜(10)およびイソチオシアン酸エステル(2)〜(10)を用いて、表2に示す配合割合により乳剤を調製し、チオシアン酸エステル(3)、(5)、(7)、(9)およびイソチオシアン酸エステル(2)、(4)、(6)、(8)、(10)より調整した乳剤について実施例1と同様にして抗菌防カビ性能の評価を行った。
結果を表3に示す。
【0043】
<比較例1>
実施例1におけるモノテルペン誘導体のチオシアン酸エステルに代えて、市販抗菌剤である2-ピリジンチオール-1-オキサイド亜鉛を用いて、表2に示す配合割合により乳剤を調製し、実施例1と同様にして抗菌防カビ性能の評価を行った。
結果を表3に示す。
【0044】
<比較例2>
実施例1におけるモノテルペン誘導体のチオシアン酸エステルに代えて、市販防カビ剤であるチアベンダゾールを用いて、表2に示す配合割合により乳剤を調製し、実施例1と同様にして抗菌防カビ性能の評価を行った。
結果を表3に示す。
【0045】
表3に示す結果からも明らかなように、チオシアン酸エステルを配合してなる(1)、(3)、(5)、(7)、(9)、イソチオシアン酸エステルを配合してなる(2)、(4)、(6)、(8)、(10)より調製した乳剤の全ての検体(実施例1〜7、9、参考例8、10)について、比較例1および2と同等、あるいは、それ以上の抗菌防カビ性を示すことが確認された。
【0046】
【表1】

【0047】
【表2】

【0048】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(ア);
【化1】

(ア)
(式中、nは1〜12の整数を、Rは
【化2】

のいずれかを示す)で示される、モノテルペン誘導体のチオシアン酸エステルを含有することを特徴とする抗菌防カビ剤。

【公開番号】特開2009−185053(P2009−185053A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−97475(P2009−97475)
【出願日】平成21年4月13日(2009.4.13)
【分割の表示】特願2003−309046(P2003−309046)の分割
【原出願日】平成15年9月1日(2003.9.1)
【出願人】(000233619)株式会社ニチリン (69)
【Fターム(参考)】