説明

チタニア−金属複合体及びその製造方法、並びにその複合体分散液を用いた造膜方法

銅、マンガン、ニッケル、コバルト、鉄、亜鉛又はその化合物の少なくともいずれか1つが存在する状態で、4価チタンの塩溶液と塩基性溶液とを反応させてチタン及び該金属の水酸化物を形成し、その後チタンの水酸化物を酸化剤でペルオキソ化して、ペルオキソ基を有するチタン酸化物微粒子を有する水液又は分散液を製造し、これを使用して有機染料又は顔料の被膜に隣接して単独で被膜を形成、または有機染料もしくは顔料と共に被膜を形成することにより、塗料、印刷物、建材、繊維もしくは有機高分子樹脂製品等の退色又は変色による色化粧性の低下を防止すると共に、表面汚染、親水性能を発揮する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、樹脂あるいは有機染料等の有機材料が、太陽光等により光酸化反応を起こして変色あるいは退色することを抑制あるいは低減させることができるチタニア−金属複合体及びその製造方法に関するものである。
また、本発明は、上記チタニア−金属複合体を含有する水液又は分散液を用いて、無機又は有機材料よりなる基材に被膜を形成する造膜方法に関するものである。
さらに、本発明は、有機のみならず無機材料よりなる基材表面における油分等の汚れ物質を除去する、セルフクリーニング機能を有する親水被膜を形成する造膜方法に関するものである。
【背景技術】
従来から、有機染料及び顔料を用いて種々の基材(例えば、印刷物、建材、繊維、有機高分子樹脂製品等)上に施した色化粧性被膜等の退色や変色等が問題となっていた。これらの色の劣化の要因としては、光酸化反応、光還元反応、熱反応等が挙げられており、その対策として、種々の方法が考えられている。
例えば、有機染料及び顔料や有機高分子樹脂シートの表面の劣化を防止するには、その材中に光酸化反応を起こすエネルギーを吸収する紫外線吸収剤を混入したり、その基材表面に酸化防止膜を造膜する等の方法が採られていた。
一方、有機のみならず無機材料よりなる種々の基材表面における油分等の汚れ物質を除去するのは手間がかかるため、防汚機能あるいはセルフクリーニング機能を有する被膜を形成する方法も開発されている。この方法としては、例えば、本発明者等が開発したアナターゼ型酸化チタンを使用した光触媒機能を生かした基板等が着目されている。
しかし、本発明者等が開発したアナターゼ型酸化チタンを含有する水液又は分散液には、光触媒機能を有する過酸化チタン以外に、銅、錫、鉄、亜鉛、インジウム、銀、カルシウム、アルミニウム、ニッケル、ケイ素あるいはセレン等の各種金属化合物が含有されているため、上記水液又は分散液を樹脂あるいは有機染料等の有機材料に使用した場合には、それらが太陽光等により変色あるいは退色する等の劣化が発生することは回避できなかった。
また、基板表面のセルフクリーニング効果だけを目的とした造膜方法としては、基板上にシリカ及びシリカ化合物を造膜して、基板表面を親水化することによって汚れ物質を流水除去する技術が知られている。
[解決すべき課題]
しかしながら、光触媒機能を有するアナターゼ型酸化チタン等の造膜表面は、吸着性が強く、汚染分解対象物質を吸着した上で、それを太陽光等の励起波長で分解する。この造膜は、無機基板への適用は比較的たやすいが、有機基板への適用は有機基板表面を分解して劣化させるため、1層目にプライマー、2層目に光触媒機能膜を形成することで対応していた。そのため、本来相反する有機基板の光酸化反応に起因する劣化防止と、光触媒反応を利用した防汚機能を両立させることは不可能とされてきた。
[発明の目的]
本発明の第1の目的は、太陽光や各種電磁波等による有機物の分子結合解離を低減することができるチタニア−金属複合体及びその製造方法を提供することにある。
本発明の第2の目的は、上記チタニア−金属複合体分散液を用いた造膜方法、及びその造膜方法により上記チタニア−金属複合体を含有する被膜が形成された各種基材を提供することにある。
本発明の第3の目的は、無機・有機の基体に関わらず、基体表面に造膜することにより、基体表面の化粧性を損なう色の退色、基体表面の光酸化劣化を防止し、造膜表面の汚染物を除去するセルフクリーニング機能を有するチタニア−金属複合体及びその製造方法、並びにその複合体分散液を用いた造膜方法、及びその造膜方法により上記チタニア−金属複合体を含有する被膜が形成された各種基材を提供することにある。
【発明の開示】
本発明者等は、上記銅、錫、鉄、亜鉛、インジウム、銀、カルシウム、アルミニウム、ニッケル、ケイ素あるいはセレン等の各種金属化合物がドープされている光触媒機能を有する過酸化チタン含有水液に関する研究開発の過程において、特定の金属又はその化合物がドープされた過酸化チタン含有水液を、樹脂あるいは有機染料等の有機材料に使用した場合に、太陽光等に起因する変色あるいは退色等の性能劣化や光触媒酸化分解を回避できることを見出したものである。
すなわち、本発明は、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛の金属又はその化合物と、光触媒活性を有するアナターゼ型やブルッカイト型やルチル型の二酸化チタンとの複合体や、光触媒活性を有さないアモルファス型二酸化チタンとの複合体とその製造方法を提供するものである。
上記金属又はその化合物を添加することにより、光触媒活性を示さなくなり、又、アモルファス型二酸化チタンとの複合体を加熱して結晶型がアナターゼ型に転移しても光触媒活性を発現することはない。一方、チタニア−金属複合体を含有する分散液は、その溶媒が水、アルコール等の有機溶媒、又は有機高分子樹脂を含有する塗料であっても、塗膜後は塗膜の劣化防止と共に、それが塗膜された基材の劣化や有機染料や顔料の退色防止など、太陽光や蛍光灯、各種電磁波によって引き起こされる光酸化による劣化を低減する効果がある。
また、本発明は、チタニア−金属複合体の製造方法を提供するものであり、銅、マンガン、ニッケル、コバルト、鉄、亜鉛又はその化合物の少なくともいずれか1つが存在する状態で、4価チタンの塩溶液と塩基性溶液とを反応させてチタン及び該金属の水酸化物を形成し、その後チタンの水酸化物を酸化剤でペルオキソ化することを特徴とするものであり、この水液中のチタン酸化物には、該金属化合物の少なくともいずれか1つがドープされているものである。
【図面の簡単な説明】
図1は、本発明に係るチタニア−金属複合体の製造方法の一例の概要を示す図であり、図2は、本発明に係るチタニア−金属複合体を含有する分散液を有機材料基板表面に適用した例を示す図である。図3は、本発明に係るチタニア−金属複合体を含有する分散液を用いて、有機染料又は顔料の劣化防止性能に優れた被膜を形成するための各種態様を示す図であり、図4は、光触媒機能を有する被膜の存在下で、劣化防止性能に優れた有機材料構造体及び有機材料被膜を有する構造体の各種態様を示す図である。
図5は、評価試験2の結果であるサンプル基板(サンプル基板6〜10及び対照基板2)の色残存率を示すグラフであり、図6は、評価試験2の結果であるサンプル基板(サンプル基板6’〜10’及び対照基板2’)の色残存率を示すグラフである。図7は、評価試験3の結果であるサンプル基板(サンプル基板11〜16及び対照基板3)の色残存率を示すグラフであり、図8は、[実施例8]で用いた造膜サンプル基板を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
(A)第1の発明…チタニア−金属複合体及びその製造方法
(A−1)チタニア−金属複合体
本発明に係るチタニア−金属複合体は、ペルオキソ基を有するチタン酸化物微細粒子を含有し、かつ銅、マンガン、ニッケル、コバルト、鉄、亜鉛又はその化合物の少なくともいずれか1つを共存するものであり、その性状は、微粒子又は粉末である。また、その水液又は分散液は、銅、マンガン、ニッケル、コバルト、鉄、亜鉛又はその化合物の少なくともいずれか1つが存在する状態で、4価チタンの塩溶液と塩基性溶液とを反応させて、チタン及び該金属の水酸化物を形成し、その後、チタンの水酸化物を酸化剤でペルオキソ化することにより調製されるものである。なお、その水液又は分散液に含有されるペルオキソ基を有するチタン酸化物微細粒子は、アモルファス型及びアナターゼ型のいずれでもよいし、両者が混在するものでもよい。
すなわち、Tiの元素番号の後に続くバナジウム、クロムの後に続くマンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛の金属又はその化合物と、光触媒活性を有するアナターゼ型やブルッカイト型やルチル型の二酸化チタンとの複合体や、光触媒活性を有さないアモルファス型二酸化チタンとの複合体は、上記金属化合物を添加することで光触媒活性を示さなくなり、又、アモルファス型二酸化チタンとの複合体を加熱して、結晶型がアナターゼ型に転移しても光触媒活性を発現することはない。
これらの現象は、前記複合金属同士の電位差によって発現すると考えられる。その結果、前記チタニア−金属複合体を含有する分散液は、その溶媒が水、アルコール等の有機溶媒、又は有機高分子樹脂を含有する塗料であっても、塗膜後は塗膜自体の劣化防止と共に、塗膜された基材の劣化や有機染料や顔料の退色防止など、太陽光や蛍光灯、各種電磁波によって引き起こされる光酸化による劣化を低減する効果がある。
(A−2)チタニア−金属複合体の製造方法
本発明に係るチタニア−金属複合体の製造方法としては、一般的な二酸化チタン粉末の製造方法である塩酸法や硫酸法による製造方法を適用しても良いし、各種の液体分散チタニア溶液の製造方法を適用しても良い。また、上記金属又はその化合物とは、以下に述べる各種のチタニア分散液のペルオキソ化以前又は以後を問わず複合化することができる。その方法例としては、従来から知られているゾル−ゲル法と、以下の3通りの方法がある。
(A−2−1)第1の製造方法
4価チタンの塩溶液とアンモニア水溶液とを反応させて、チタンの水酸化物を形成し、この水酸化物を酸化剤でペルオキソ化し、これにより超微細粒子のアモルファス型過酸化チタンを形成し、さらに加熱処理することによりアナターゼ型過酸化チタンに転移させ、この過程のいずれかにおいて上記金属又はその化合物を混合する。
(A−2−2)第2の製造方法
4価チタンの塩溶液をペルオキソ化し、これとアンモニア水溶液とを反応させて水酸化物を形成して超微細粒子のアモルファス型過酸化チタンを形成し、さらに加熱処理することによりアナターゼ型過酸化チタンに転移させ、この過程のいずれかにおいて上記金属又はその化合物を混合する。
(A−2−3)第3の製造方法
4価チタン粉末又はチタン酸化物粉末と、過酸化水素と、アンモニア水溶液とを反応させて、チタンの水酸化物形成とペルオキソ化とを同時に行って超微細粒子のアモルファス型過酸化チタンを形成し、さらに加熱処理することによりアナターゼ型過酸化チタンに転移させ、この過程のいずれかにおいて上記金属又はその化合物を混合する。
なお、酸化剤によるペルオキソ化では、過酸化チタンはアモルファス型となっているが、これを本発明のチタニア−金属複合体水液又は分散液として使用できることは言うまでもない。また、これを加熱するとチタンはアナターゼ型に転換するが、これも本発明の水液又は分散液として使用できることは言うまでもない。
(A−2−4)ゾル−ゲル法による製造方法
チタンアルコキシドに水やアルコール等の溶媒、酸あるいは塩基触媒を混合撹拌して加水分解させる。これによって、超微粒子の酸化チタンのゾル溶液が生成される。この加水分解の前もしくは後に、上記金属又はその化合物を混合する。なお、このようにして得られるチタン酸化物は、ペルオキソ基を修飾したアモルファス型である。
また、上記チタンアルコキシドとしては、一般式Ti(OR´)(ただし、R´はアルキル基)で表示される化合物、又は上記一般式中の1つあるいは2つのアルコキシド基(OR´)がカルボキシル基あるいはβ−ジカルボニル基で置換された化合物あるいはそれらの混合物が好ましい。
具体的に上記チタンアルコキシドを例示すると、Ti(O−isoC、Ti(O−nC、Ti(O−CHCH(C)C、Ti(O−C1735、Ti(O−isoC[CO(CH)CHCOCH、Ti(O−nC[OCN(COH)、Ti(OH)[OCH(CH)COOH]、Ti(OCHCH(C)CH(OH)C、Ti(O−nC(OCOC1735)等が挙げられる。
(A−3)第1の製造方法について
続いて、上記第1の製造方法について詳述する。すなわち、図1に示したように、4塩化チタン等の4価チタンの塩溶液とアンモニア水等の塩基性溶液とを、銅、マンガン、ニッケル、コバルト、鉄、亜鉛又はそれらの化合物の少なくともいずれか1つが共存する状態で混合し、4価のチタン塩と塩基性溶液とを反応させて、該金属の水酸化物及びチタンの水酸化物を生成させる。
その際の反応液の濃度及び温度については、特に限定されるわけではないが、希薄溶液及び常温で実施するのが好ましい。この反応は中和反応であり、酸性から中性、すなわちpH7に調整することが望ましい。このようにして得られた水酸化物を純水で洗浄した後、過酸化水素水でペルオキソ化すれば、アモルファス型のペルオキソ基を持つチタン酸化物微細粒子を含有する水液又は分散液、すなわち本発明に係るチタニア−金属複合体を含有する水液又は分散液を製造することができる。
また、ペルオキソ化する際の酸化剤としては、過酸化水素が望ましく、その濃度は特に制限されることはないが、30〜40%のものがよい。なお、酸化剤については、過酸化水素に制限されるものではなく、前述したとおりチタンのペルオキソ化物、すなわち過酸化チタンが形成できるものであれば各種のものが使用できる。前記のように水酸化チタンと過酸化水素とを混合することによりペルオキソ化反応が次第に進行し、アモルファス型過酸化チタンの分散液が形成される。その酸化に先だっては冷却するのが好ましい。その際の冷却は水酸化チタンが1〜5℃になるように行うのが好ましい。
(A−4)4価のチタン塩
本発明に係るチタニア−金属複合体水液又は分散液の製造に使用する4価のチタン塩としては、アンモニア水、苛性ソーダ溶液等の塩基性溶液と反応させた際に、オルトチタン酸(HTiO)とも呼称される水酸化チタンのゲルを形成できるものであれば各種のチタン化合物が使用でき、それには、例えば4塩化チタン、硫酸チタン、硝酸チタンあるいは燐酸チタン等のチタンの水溶性無機酸塩がある。それ以外にも蓚酸チタン等の水溶性有機酸塩も例示できる。なお、これらの各種チタン化合物の中では、水溶性に特に優れ、かつ製造された被膜形成水液又は分散液中にチタン化合物中のチタン以外の成分が残留しない点で、4塩化チタンが好ましい。
また、4価チタン塩溶液の濃度は、反応時の濃度が、水酸化チタンのゲルが形成できる範囲であれば特に制限されるものではないが、比較的希薄な溶液がよい。具体的には、4価チタン塩溶液の濃度は、5〜0.01wt%が好ましく、0.9〜0.3wt%がより好ましい。
(A−5)塩基性溶液
また、上記4価チタンの塩溶液と反応させる塩基性溶液は、4価チタンの塩溶液と反応して水酸化チタンのゲルを形成できるものであれば、各種のものが使用可能であり、それにはアンモニア水、苛性ソーダ水溶液、炭酸ソーダ水溶液あるいは苛性カリ水溶液等が例示できるが、アンモニア水が好ましい。
また、塩基性溶液の濃度は、反応時の濃度が、水酸化チタンのゲルが形成できる範囲であれば特に制限されるものではないが、比較的希薄な溶液がよい。具体的には、塩基性溶液の濃度は、10〜0.01wt%が好ましく、1.0〜0.1wt%がより好ましい。特に、塩基性溶液にアンモニアを使用した場合の濃度は、10〜0.01wt%が好ましく、1.0〜0.1wt%がより好ましい。
(A−6)酸化剤
その後形成された水酸化チタンを酸化する酸化剤としては、酸化後、ペルオキソ化物が形成できるものであれば各種の酸化剤が制限なく使用できるが、製造された被膜形成液中に、金属イオンあるいは酸イオン等の残留物の生じない過酸化水素が望ましい。
(A−7)ドープさせる金属化合物
4塩化チタン等の4価チタンの塩溶液と共存させる、銅、マンガン、ニッケル、コバルト、鉄又は亜鉛の各化合物としては、それぞれ以下のものが例示できる。
Ni化合物:Ni(OH)、NiCl
Co化合物:Co(OH)NO、Co(OH)、CoSO、CoCl
Cu化合物:Cu(OH)、Cu(NO、CuSO、CuCl
Cu(CHCOO)
Mn化合物:MnNO、MnSO、MnCl
Fe化合物:Fe(OH)、Fe(OH)、FeCl
Zn化合物:Zn(NO、ZnSO、ZnCl
その水液又は分散液中の過酸化チタン濃度(共存する銅、マンガン、ニッケル、コバルト、鉄又は亜鉛の化合物を含む合計量)は、0.05〜15wt%が好ましく、0.1〜5wt%がより好ましい。また、銅、マンガン、ニッケル、コバルト、鉄、亜鉛又はその化合物の含有量については、チタンと前記金属成分とのモル比で、1:0.01〜1:0.5が好ましく、1:0.03〜1:0.1がより好ましい。
(A−8)チタニア−金属複合体を用いる効果
本発明に係る銅、マンガン、ニッケル、コバルト、鉄、亜鉛又はそれらの化合物の少なくともいずれか1つをドープしたチタニアが造膜された基材は、紫外線(太陽光)や光酸化反応を引き起こす短波長側の電磁波に起因する基材表面の酸化劣化の促進を防止もしくは低減することが可能になる。
これら光酸化反応は、電磁波により空気中や有機物中の酸素や水分から・OH(水酸化ラジカル)、(一重項酸素)が生成され、これらが基材内外部で酸化劣化を起こすといわれている。
本発明に係るチタニア−金属複合体は、このラジカルの不安定な活性状態を安定化させることができるため、有機物質や無機物質からなる基材表面が、紫外線(太陽光)やラジカル生成可能な電磁波によって光酸化劣化するのを防止、もしくは低下させることが可能になり、有機物樹脂劣化、色劣化(退色)や基材の劣化を防止し、無機物の表面の酸化劣化を低減することができる。
(B)第2の発明…上記水液又は分散液を用いた造膜方法(有機材料構造体)
(B−1)チタニア−金属複合体水液又は分散液を用いた造膜方法
本発明に係る有機材料構造体は、その表面に、銅、マンガン、ニッケル、コバルト、鉄、亜鉛又はそれらの化合物の少なくともいずれか1つがドープされたチタン酸化物微細粒子(チタニア−金属複合体)を含有する被膜を有するものか、あるいは該粒子を内部に分散して有するものである。
前者は、図2のA、Bに示したように、上記(A)で説明したチタニア−金属複合体を含有する水液又は分散液を、有機材料基体表面に積層又は浸透させることにより作製できる。また、後者は、図2のCに示したように、上記(A)で説明したチタニア−金属複合体を含有する水液又は分散液を、有機材料中に分散した後、所望の形状に成形することにより作製できる。
(B−2)退色又は有機物の劣化変色を防止する機能を有する造膜方法
上記(A)で説明したチタニア−金属複合体を含有する水液又は分散液は、以下のような形態で利用することにより、紫外線等に起因する有機染料あるいは顔料の退色、あるいは有機物の劣化変色を抑制することができる。なお、以下の態様について図示すると、図3に示したようになる。
▲1▼有機染料あるいは顔料又はそれらを含む有機高分子樹脂と混合して、基体表面に被膜を形成する。
▲2▼基体表面に本発明に係るチタニア−金属複合体水液又は分散液の被膜(以下、劣化防止被膜という)を形成し、その表面に有機染料あるいは顔料又はそれらを含む有機高分子樹脂の被膜を形成する(図3のA)。
▲3▼基体表面に2種類の劣化防止被膜を形成し、その表面に有機染料あるいは顔料又はそれらを含む有機高分子樹脂の被膜を形成する(図3のB)。
▲4▼基体表面に有機染料あるいは顔料又はそれらを含む有機高分子樹脂の被膜を形成し、その表面に1種又は2種類の劣化防止被膜を形成する(図3のC)。
▲5▼基体表面に本発明の2種類の水液を含有する被膜を形成し、その表面に有機染料あるいは顔料又はそれらを含む有機高分子樹脂の被膜を形成する(図3のD)。
(B−3)退色・変色防止機能と光触媒機能を併有させるための造膜方法
上記(A)で説明したチタニア−金属複合体を含有する水液又は分散液は、以下のような形態で利用することにより、基体に光触媒機能を有する被膜(以下、光触媒機能膜という)を形成した場合においても、有機材料基体又はそれに形成された有機染料又は顔料の被膜の退色あるいは変色等の劣化を回避又は抑制することができる。
すなわち、有機基材表面に光触媒機能を持たせる場合、光触媒半導体酸化金属を直接造膜するとチョーキングを起こすため、従来は、シリカ化合物やアモルファス型過酸化チタンが使用されていた。
しかしながら、それらはシリカ化合物に有機基を有していたり、アモルファス型過酸化チタンも太陽光でアナターゼ型に転移して有機基板表面でチョーキング現象を起こすため、耐久性に問題があった。
そこで、有機基板と光触媒機能膜の間に、本発明に係るチタニア−金属複合体の水液又は分散液を用いて中間膜を形成し、有機基材を保護するブロック機能を発現させることができる。すなわち、本発明に係るチタニア−金属複合体の水液又は分散液は、透明性と固着造膜力に優れているため、基材の劣化防止、退色低減と同時に光触媒機能による基材の酸化分解を防止することができる。
この中間膜のチタニアは、太陽光等でアナターゼ型に転位しても光触媒能を発現することはない。なお、中間膜の厚さとしては、0.05μm〜2.0μmが好ましく、0.1μm〜1.0μmがより好ましい。
なお、退色・変色防止機能と光触媒機能を併有させるための造膜方法としては、以下の3つの態様があるが、これらを図示すると図4に示したようになる。
▲1▼有機材料基体表面に劣化防止被膜を積層形成し、その表面に光触媒機能膜を形成する(図4のA)。
▲2▼有機材料基体表面に劣化防止被膜を浸透形成し、その表面に光触媒機能膜を形成する(図4のB)。
▲3▼基体表面に有機染料又は顔料の被膜を形成し、その表面に劣化防止被膜を積層形成した後、さらにその表面に光触媒機能膜を形成する(図4のC)。
以上のとおりであるから、これらの態様においては、劣化防止被膜は、いずれも光触媒機能膜と有機材料基体表面、又は有機染料もしくは顔料の被膜との中間に形成されている。
(B−4)劣化防止被膜の形成方法
上記のような劣化防止被膜を形成するには、その造膜積層手段は特に制限されることはなく、例えばロールコート、グラビアコート、蒸着、スピンコート、ディップコート、バーコート、吹付コート等が例示できる。また、浸透形成する場合には、吹付コートあるいはディップコート等が例示できる。被膜形成後は、常温又は加熱乾燥するのがよく、その温度は60〜200℃がよい。加熱手段についても特に制限されることはなく、例えば恒温乾燥機あるいは電磁ヒーター等が例示できる。
なお、形成される被膜の厚さは、乾燥処理後の厚さで0.01〜0.5μmが好ましく、0.1〜0.2μmがより好ましい。
(B−5)被膜を形成する対象物
本発明に係るチタニア−金属複合体を含有する水液又は分散液を使用して被膜を形成する対象物としては、太陽光あるいは電磁波発生装置等による紫外線あるいは可視光線により退色あるいは劣化変色されるものであれば特に制限されることなく適用することができ、それには、色塗装表面、外装着色化粧料、あるいは有機高分子樹脂等が例示できる。
例えば、無機基材としては、ガラス、金属、タイル等のセラミック板、石やコンクリート等、多くの建築、土木、工作物、機器等の特に外部側で効果的に利用できる。また、有機基材としては、木材や紙なども可能であるが、特に有機高分子樹脂シート材表面や有機高分子樹脂が混入されたペンキ塗装表面や左官材、吹付け材表面で効果的に利用することができる。
より具体的に例示すると、樹脂シートとしては、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ABS樹脂、塩化ビニル樹脂等の成形品やシート材表面に用いることができる。
また、塗装材としては、アルキド樹脂、アクリル樹脂、アミノ樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、アクリルシリコン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、紫外線硬化樹脂、フェノール樹脂、塩化ビニル樹脂、合成樹脂エマルジョン等の合成樹脂を含有するいわゆるペンキ塗装材、左官材、吹付け材表面に効果的に利用することができる。さらに、プラスチック製品、建材、車輌、航空機、機器等の表面にも有効である。
これらの基材の表面に造膜する場合の膜厚としては、0.01〜1.0μmが好ましく、0.05〜0.3μmがより好ましい。また、有機高分子樹脂等が混入された塗膜材の場合は、1.0μm〜100μmが好ましく、10μm〜50μmがより好ましい。
また、これらの造膜手法としては、公知の方法は全て適用可能であり、例えば、スプレーコーティング法、ディップコーティング法、フローコーティング法、スピンコーティング法、ロールコーティング法、刷毛塗り、スポンジ塗り等が適用できるが、造膜の膜硬度、基材との密着性等の物理的性能を向上させるためには、基材及び塗膜剤の許容熱温度の範囲で加熱することが望ましい。
(B−6)無機材や樹脂材への混入
本発明に係るチタニア−金属複合体は、有機高分子樹脂表面に造膜する方法だけでなく、樹脂材の中に混入させることにより、同様の機能特性をもつ樹脂シートや成形品、ペンキ塗料や吹付け材、左官材を得ることができる。
使用できる樹脂としては、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ケトン樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、セルロース等が挙げられる。また、これらの樹脂にシリコーン、アミン、エポキシ変性樹脂等の物質を添加することができる。
また、タイルの釉薬やホーロー鉄板の化粧用フリット、Si化合物を主成分とする板ガラスやガラス繊維のそれぞれの製造工程においても添加し、混合することができる。
なお、これらの無機材や樹脂材と本発明に係るチタニア−金属複合体との混合比は、チタニア−金属複合体を微細粉末として混入するか、溶液として混入するかによって適宜選択される。
(B−7)応用用途
本発明に係るチタニア−金属複合体を含有する水液又は分散液を用いて、上記の作用効果を得ることができる適用対象としては、以下に列挙するような種々の物が挙げられる。
▲1▼建材(内外装材):ガラス・金属・タイル・コンクリート・塗装・樹脂・シール材・木材・吹付材・テント地等
▲2▼設備機器:空調機・空調屋外機・クーリングタワー・厨房・衛生機器・照明器具等
▲3▼ガラス基材:カメラ・メガネ・コンタクトメガネ・レンズ・ミラー・ガラス食器・ショーケース・グラスファイバー(カメラ用)等
▲4▼自動車・航空機・列車:ボディ・ガラス等
▲5▼その他:碍子・帯電防止基板表面(テレビ、ガラス・アクリル樹脂・ポリカーボネート樹脂シート・フェイス等)
(C)第3の発明…添加剤の付与…防汚性能の付与
(C−1)添加剤の付与
上述したように、有機化合物を光酸化分解することを防止又は低減することのできるアモルファス型及び/又はアナターゼ型酸化チタンと、銅、マンガン、ニッケル、コバルト、鉄、亜鉛又はそれらの化合物との複合体は、光触媒機能を有することなく紫外線等からの有機基板の劣化を守り、造膜表面の化粧性を向上することができるが、さらに、表面の汚れを寄せ付けない防汚性能を付与するには、その造膜表面に親水性を付与し、撥水性基板の造膜を容易にするために、レベリング性(界面活性)を向上させる添加剤を付与することが望ましい。
それには各種のシリコーンオイルを使用することができる。アルキルシリケート、ポリエーテルタイプ、又、変性シリコーンオイルとして、ポリエーテル変性、アルキル変性タイプのものが使用できるが、なかでも、それら複合した構造を有するポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン系の塗料用添加剤(レベリング剤)が特に優れている。
また、これらの混合比は、アモルファス型及び/又はアナターゼ型酸化チタンと銅、マンガン、ニッケル、コバルト、鉄、亜鉛又はそれらの化合物との複合体と添加剤が、1:0.02〜1:20が好ましく、1:0.05〜1:10がより好ましい。また、前記酸化チタンはペルオキソ基が修飾した過酸化チタンが好ましい。
また、これらの溶液で造膜する場合は、加熱乾燥後、膜厚として0.01〜1.0μm程度が好ましく、0.05〜0.3μmがより好ましい。
この水液又は分散液は、ガラス、金属、セラミック板や、アクリル板、PP板、ポリカーボネート板等の有機基板には光触媒能を有さないため、ブロック層を必要とすることなく1層コートで防汚コートができる。また、前記発明の特性を付与した有機高分子樹脂及びそれらのシート材として、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂等の有機樹脂に混入することもできる。
(C−2)レベリング剤及び分散剤
本発明に係るチタニア−金属複合体に、造膜を容易にするレベリング剤や分散剤を添加することで均一に造膜でき、基材に均一に分散させることができる。このレベリング剤や分散剤としては、レジン系、シリコーン、シラン化合物、ゴム系シリコーン、シリコーンパウダー、有機変性シリコーンやシリコーンオイル等の複合物が望ましい。これらは、シリコーンポリマーの界面活性効果を利用したもので、分子中にアルキルシリケート構造や、ポリエーテル構造を有するもの、又はアルキルシリケート構造とポリエーテル構造の両方を有するものが望ましい。
ここで、アルキルシリケート構造とは、シロキサン骨格のシラン原子にアルキル基が付加した構造をさす。具体的には、ポリジメチルシロキサンに代表されるシロキサン結合(−Si−O−)を主鎖とするものが好適であるが、それらに限定されるものではない。
また、エーテル構造とは、ポリアルキレンオキサイド等の、アルキレン基をエーテル結合で結合した構造をさす。具体的には、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリテトラメチレンオキサイド、ポリエチレンオキサイド−ポリプロピレンオキサイドブロック共重合体、ポリエチレンポリテトラメチレングリコール共重合体、ポリテトラメチレングリコール−ポリプロピレンオキサイド共重合体等の構造を有するものが挙げられる。その中でも、ポリエチレンオキサイド−ポリプロピレンオキサイドブロック共重合体は、そのブロック度や分子量により、濡れ性を制御できる観点からもさらに好適であるが、それらに限定されるわけではない。
分子中にアルキルシリケート構造とポリエーテル構造の双方を有する有機物質が特に好ましい。具体的には、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン等のポリエーテル変性ポリシロキサン系塗料用添加剤が使用でき、これらは既に公知の方法で製造することができ、例えば、特開平4−242499号公報の合成例1,2,3,4や特開平9−165318号公報の参考例記載の方法等により製造することができる。
例えば、両末端メタリルポリエチレンオキサイド−レンオキサイド−ポリプロピレンオキサイドブロック共重合体とジヒドロポリジメチルシロキサンとを反応させて得られるポリエチレンオキサイド−ポリプロピレンオキサイドブロック共重合体変性ポリジメチルシロキサンが好適である。
レベリング剤としては、TSF4445、TSF4446(以上、GE東芝シリコーン(株)製)、SH200(東レ・ダウコーニング・シリコーン(株)製)、KPシリーズ(信越化学工業(株)製)等を用いることができる。
また、分散剤としては、DC3PA、ST869A(以上東レ・ダウコーニング・シリコーン(株)製)等を用いることができる。その他、塗料用以外でも、これらの性能が付与できるものであれば適宜使用することができる。
また、アミノ基、エポキシ基、メタクリロキシ基を有するシラン化合物、いわゆるシランカップリング剤が添加されたコーティング剤タイプとして組み立てることも可能である。このコーティング材は、〔Si−O〕結合物を大量に含有するため、膜硬度や基板との密着性を向上することが可能になる。
なお、本発明に係るチタニア−金属複合体と各添加剤の混合比(wt%)は、1:0.02〜1:20が好ましく、1:0.05〜1:10がより好ましい。
(C−3)チタニア−金属複合体と添加剤を組合せる効果
本発明に係るチタニア−金属複合体と、アルキルシリケート構造又はポリエーテル構造、もしくはその両方の構造を有するシリコーンや変性シリコーンの添加剤を組合せた塗膜の造膜表面では、励起光を受けても光触媒機能は発現せず、いわゆる、有機化合物分解による防汚、抗菌、ガス分解、水浄化は認められない。したがって、この塗膜液を用いて造膜することにより、基材の光酸化劣化を防止することが可能となる。
一方、本発明に係るチタニア−金属複合体に上記の添加剤を加えることにより、光触媒有機分解ではない防汚、抗菌、親水機能が発現する。その作用機作については、本発明者等が別途出願した特願2000−374750号公報において詳述されている。すなわち、この現象は光触媒反応ではなく、光酸化劣化を起こす紫外線や太陽光や電磁波を受光することで、有機材中や造膜表面上で発現する光酸化反応と連動して、防汚、抗菌、親水、防錆機能が発現すると考えられる。
すなわち、添加剤が付与された本発明に係るチタニア−金属複合体は、光触媒機能を有さないばかりか、有機結合を紫外線等の電磁波による分子結合解離エネルギー(光酸化力)から守る機能を有しているため、造膜の耐久性が向上し、それによって基材の寿命や、長時間に渡って劣化等からくる化粧性の低下を防ぎ、保護する効果が得られる。それにより、造膜された無機・有機の基材表面において、基材劣化と退色が防止され、その造膜表面では防汚、抗菌、親水、防錆機能が発現する。この両方の機能が発現する効果は、有機基材、特に有機高分子樹脂基材もしくは塗装材表面で大変効果的に利用することができる。
従来、有機物は紫外線に弱く、これらの基材は商品価値としての機能性や化粧性が低下するのを防ぐことが大きな技術的課題であったが、本発明に係るチタニア−金属複合体に上記の添加剤を加えることにより、この両方の機能が発現するという効果が得られるため、無機と共に有機高分子樹脂シート及び有機高分子樹脂を含むペンキ、左官材等、長年の懸案を解決する機能を持つ画期的な無機・有機基材として利用することができる。
(C−4)適用対象
この技術を利用して防汚の商品価値を高めることができる分野としては、建築や土木、工作物等で外部基材の汚れの最大原因となるシーリング材がある。シーリング材は、外部基材の熱や地震による伸縮変位を吸収するためには必需品であるため、大多数の建築や土木、工作物のジョイント部分に使用されている。
これらシーリング材には、シリコーン系、変性シリコーン系、ポリサルファイド系、ポリウレタン系、ブチルゴム系等があるが、耐候性、耐久性、接着性等、高性能のものほど汚染に起因する低分子量のシリコーオイルや表面帯電物が流出し、外部基材の汚れの最大原因となっている。これらの部位にも、本発明技術を有効に使用することができる。
(C−4−1)第1の工法
シーリング材に、本発明に係る添加剤を加えたチタニア−金属複合体水液又は分散液を塗布する第1の工法は、シーリング材表面に直接、該チタニア−金属複合体とレベリング性能・分散性能を有するアルキルシリケート構造又はポリエーテル構造を有するもの、又はその両方の構造を有するシリコーン又は変性シリコーン溶液が添加された塗膜材(シラン化合物が添加されていても良い)を塗布し、造膜するものである。
(C−4−2)第2の工法
シーリング材に、本発明に係る添加剤を加えたチタニア−金属複合体水液又は分散液を塗布する第2の工法は、シーリング材表面と前記塗膜材のプライマーとして、汚染物質の流出や帯電物質の露出を低減するために、膜化するシリコーンやシラン化合物等の塗膜材を中間膜とするものである。
中間膜として用いるシリコーンとしては、シリコーンコーティング剤として使用できるものであれば、耐候耐熱コーティング剤、強化コーティング剤、撥水コーティング剤用及び塗料添加用シリコーン等が使用できる。市販品としては、SR2410、SE1980(以上、東レ・ダウコーニング・シリコーン(株)製)等を用いることができる。
また、シラン化合物としては、メトキ基、エトキ基、アミノ基、エポキシ基、メタクリル、メタクリロキシ基を有し、シラン系オリゴマーやポリシロキサン成分を有するものを使用することができる。市販品としては、ドライシールM、ドライシールW(以上、東レ・ダウコーニング・シリコーン(株)製)、アクアシール200S、500S(以上、住友精化(株)製)等を用いることができる。
これら中間膜の膜厚は、0.05μm〜50μmが好ましく、0.1μm〜20μmがより好ましい。また、塗布方法としては、コーキング材を工事作業現場にて充填後実施するため、刷毛塗りやスプレー工法を使用することができる。
【実施例】
以下、上記第1の発明〜第3の発明の作用・効果を示す実施例や、退色あるいは変色性能評価試験等について説明する。
[実施例1]…チタニア−金属複合体水液又は分散液の製造方法に関する実施例
この[実施例1]は、本発明に係るチタニア−金属複合体を含有する水液又は分散液の製造方法を適用して、種々の金属をドープした複合体を調製したものである。
(実施例1−1)…銅ドープアモルファスタイプ
純水500mlに97%CuCl・2HO(日本化学産業(株)製)0.463gを完全に溶かした溶液に、さらに50%四塩化チタン溶液(住友シチックス(株)製)10gを添加し、純水を加えて1000mlにした溶液を準備する。これに25%アンモニア水(高杉製薬(株)製)を10倍希釈したアンモニア水を滴下してpH7.0に調整して水酸化銅と水酸化チタンとの混合物を沈殿させた。
この沈殿物を純水で上澄み液中の導電率が0.8mS/m以下になるよう洗浄を継続し、導電率が0.8mS/mになったところで洗浄を終了すると、0.81wt%濃度の水酸化物の含有液が340g作製された。次いで、この含有液を1〜5℃に冷却しながら35%過酸化水素(タイキ薬品工業(株)製)を25g添加し16時間撹拌すると緑色の透明な銅がドープされた0.90wt%濃度のアモルファス型過酸化チタンの分散液365gが得られた。これを純水で希釈して0.85wt%の銅がドープされたアモルファス型過酸化チタン分散液385gを調製した。
(実施例1−2)…ニッケルドープアモルファスタイプ
純水500mlにNiCl・6HO(日本化学産業(株)製)0.594gを完全に溶かした溶液に、さらに50%四塩化チタン溶液(住友シチックス(株)製)10gを添加し純水を加え1000mlにした溶液を準備する。これに25%アンモニア水(高杉製薬(株)製)を10倍希釈したアンモニア水を滴下してpH7.0に調整して水酸化ニッケルと水酸化チタンとの混合物を沈殿させた。
この沈殿物を純水で上澄み液中の導電率が0.8mS/m以下になるよう洗浄を継続し、導電率が0.65mS/mになったところで洗浄を終了すると、0.77wt%濃度の水酸化物の含有液が343g作製された。次いで、この含有液を1〜5℃に冷却しながら35%過酸化水素(タイキ薬品工業(株)製)を25g添加し16時間撹拌すると淡黄色の透明なニッケルがドープされた0.87wt%濃度のアモルファス型過酸化チタンの分散液374gが得られた。これを純水で希釈して0.85wt%のニッケルがドープされたアモルファス型過酸化チタンの分散液381gを調製した。
(実施例1−3)…コバルトドープアモルファスタイプ
純水500mlにCoCl・6HO(関東化学(株)製)0.626gを完全に溶かした溶液に、さらに50%四塩化チタン溶液(住友シチックス(株)製)10gを添加し純水を加え1000mlにした溶液を準備する。これに25%アンモニア水(高杉製薬(株)製)を10倍希釈したアンモニア水を滴下してpH7.0に調整して水酸化コバルトと水酸化チタンとの混合物を沈殿させた。
この沈殿物を純水で上澄み液中の導電率が0.8mS/m以下になるよう洗浄を継続し、導電率が0.68mS/mになったところで洗浄を終了すると、0.72wt%濃度の水酸化物の含有液が341g作製された。次いで、この含有液を1〜5℃に冷却しながら35%過酸化水素(タイキ薬品工業(株)製)を25g添加し16時間撹拌すると暗緑色の半透明なコバルトがドープされた0.85wt%のアモルファス型過酸化チタンの分散液364gが得られた。
(実施例1−4)…マンガンドープアモルファスタイプ
純水500mlにMnCl・4HO(小宗化学薬品(株)製)0.521gを完全に溶かした溶液に、さらに50%四塩化チタン溶液(住友シチックス(株)製)10gを添加し純水を加え1000mlにした溶液を準備する。これに25%アンモニア水(高杉製薬(株)製)を10倍希釈したアンモニア水を滴下してpH7.0に調整して水酸化マンガンと水酸化チタンとの混合物を沈殿させた。
この沈殿物を純水で上澄み液中の導電率が0.8mS/m以下になるよう洗浄を継続し、導電率が0.65mS/mになったところで洗浄を終了すると、0.77wt%濃度の水酸化物の含有液が343g作製された。次いで、この含有液を1〜5℃に冷却しながら35%過酸化水素(タイキ薬品工業(株)製)を25g添加し16時間撹拌すると黒褐色の半透明なマンガンがドープされた0.87wt%のアモルファス型過酸化チタンの分散液367gが得られた。これを純水で希釈して0.85wt%のマンガンがドープされたアモルファス型過酸化チタンの分散液375gを調製した。
(実施例1−5)…鉄ドープアモルファスタイプ
純水500mlにFeCl・6HO、0.712gを完全に溶かした溶液に、さらに50%四塩化チタン溶液(住友シチックス(株)製)10gを添加し純水を加え1000mlにした溶液を準備する。これに25%アンモニア水(高杉製薬(株)製)を10倍希釈したアンモニア水を滴下してpH7.0に調整して水酸化鉄と水酸化チタンとの混合物を沈殿させた。この沈殿物を純水で上澄み液中の導電率が0.8mS/m以下になるよう洗浄を継続し、導電率が0.744mS/mになったところで洗浄を終了すると、0.47wt%濃度の水酸化物の含有液が420g作製された。
次いで、この含有液を1〜5℃に冷却しながら35%過酸化水素(タイキ薬品工業(株)製)を25g添加し16時間撹拌すると濃黄褐色の透明な鉄がドープされた0.44wt%のアモルファス型過酸化チタンの分散液440gが得られた。これを限外ろ過濃縮装置で濃縮し、濃度を0.85wt%した前記分散液を220g調製した。
(実施例1−6)…亜鉛ドープアモルファスタイプ
純水500gにZnCl(塩化亜鉛)0.359gを完全に溶かした溶液に、さらに50%四塩化チタン溶液(住友シチックス株式会社製)10gを添加し純水を加え1000gにした溶液を準備する。これに25%アンモニア水(高杉製薬株式会社製)を10倍希釈したアンモニア水を滴下してpH7.0に調整して水酸化亜鉛と水酸化チタンの混合物を沈殿させた。この沈殿物を純水で上澄み液の導電率が0.8mS/m以下になるまで洗浄する。導電率が0.713mS/mになったので洗浄を終了すると0.48wt%濃度の水酸化物が409g作製された。
次に、これを1〜5℃に冷却しながら35%過酸化水素水(タイキ薬品工業株式会社製)を25g添加し16時間撹拌すると黄褐色の透明な亜鉛がドープされたアモルファス型過酸化チタン水溶液430gが得られた。
また、上記で作成した亜鉛がドープされたアモルファス型過酸化チタン水溶液100g計量し、100℃で5時間過熱すると淡黄色の亜鉛がドープされたアナターゼ型過酸化チタンゾルが0.96wt%濃度で48g得られた。
(実施例1’−1〜1’−5)
実施例1−1〜1−5で調製した各金属ドープアモルファス型過酸化チタンの分散液を、100℃にて5時間加熱し、対応するアナターゼ型過酸化チタンの分散液を作製し、これを実施例1’−1〜1’−5とした。
[実施例2]…ポリカーボネート樹脂板に塗布
この[実施例2]は、上記[実施例1]で調製した実施例1−1〜1−5をポリカーボネート樹脂板に塗布して、以下の評価試験を実施したものである。
すなわち、70mm×150mm厚さ6mmの市販のポリカーボネート樹脂板(帝人化成(株)製)を準備し、アルコールで表面の汚れを除去し、この基板に実施例1−1〜1−5の水液を0.4g/100cmの塗布量でそれぞれスプレー塗布した。塗布後、表面を乾燥した後、恒温乾燥機を用いて120℃で15分間加熱して実施例2−1〜2−5の構造体を作製した。これらの各構造体をサンプル基板1〜5とした。なお、比較対照用に70mm×150mm厚さ6mmの何等被覆の形成されていない市販のポリカーボネート樹脂板(帝人化成(株)製)を準備し、これを対照基板1とした。
[評価試験1]
サンプル基板1〜5と対照基板1とを、アークカーボン灯によるサンシャインウエザーメーター耐候促進試験装置に入れて、紫外線を含む可視光線による樹脂黄変及び基板表面の劣化状態を観測した。試験時間を1000時間、2000時間、及び3000時間とした。
(評価方法及び評価基準)
評価は目視で行った。下記の評価基準に基づいて観測し評価した。
+++ :黄変が激しい
++ :かなり黄変
+ :やや黄変
− :ほとんど黄変せず
(試験結果)
この[評価試験1]の結果は、表1に示した通りである。
表1から明らかなように、有機高分子樹脂であるポリカーボネート樹脂板における、紫外線を含む電磁波による樹脂劣化(黄変)に対する耐候性は、サンプル基板1、4>サンプル基板3、5>サンプル基板2の順に低くくなることがわかった。一方、本発明に係るチタニア−金属複合体を含有する水液の被膜が形成されていない対照基板1は、サンプル基板1〜5に比べて耐候性が極端に低いこともわかった。
また、各金属がドープされたアモルファス型に代えてアナターゼ型過酸化チタン分散液を使用して作製した基板について同様の評価試験を行ったところ、光触媒機能が発現することなく、同様の結果が得られた。
【表1】

[実施例3]…タイルに塗布
この[実施例3]は、上記[実施例1]で調製した実施例1−1〜1−5を白色内装タイルに塗布して、以下の評価試験を実施したものである。
すなわち、97mm×97mm厚さ4mmの白色内装タイル(ダントー(株)製)を準備し、予め500℃で仮焼して表面の有機分を除去し、除去後タイルにアモルファス型の過酸化チタンを含有する実施例1−1〜1−5の水液を0.4g/100cmの塗布量でそれぞれスプレー塗布した。塗布後、80℃で15分間加熱乾燥し、それぞれに、市販の赤インク(パイロット社製)を純水で20倍に希釈した有機染料水溶液を0.2g/100cmの塗布量で均一に塗布して常温にて乾燥して、実施例3−1〜3−5の構造体を作製した。これらの各構造体をサンプル基板6〜10とした。なお、比較対照用に実施例3と同一のタイルを用意し、これを500℃で仮焼して表面の有機分を除去し、実施例3と同様に有機染料水溶液を塗付して常温にて乾燥して対照基板2とした。
[実施例3’]
実施例3と同じ白色内装タイルを準備し、塗布する水液をアナターゼ型の過酸化チタンを含有する実施例1’−1〜1’−5の水液とした点を除き、実施例3と同様に処理して実施例3’−1〜3’−5の構造体を作製した。これらの各構造体をサンプル基板6’〜10’とした。
なお、比較対照用に実施例3の場合と同様に対照基板2’を用意した。それは金属がドープされていないアナターゼ型の過酸化チタンを含有する水液を用いた点を除き実施例3’と同様に調製した。
[評価試験2]
各サンプル基板6〜10及び対照基板2、並びに各サンプル基板6’〜10’及び対照基板2’を、ブラックライト15W(ナショナル社製)の下に10cmの間隔をとって置き、155時間照射し、紫外線(400nm以下)による退色評価を行った(紫外線強度360nm、1200μm/cm)。
さらに、サンプル基板6、7及び対照基板2については、九州において、直射日光を5時間照射して同様の評価を行った。
(評価方法及び評価結果)
色彩計(ミノルタ社製:CR−200)を使用して、有機染料の退色を評価した。その評価は照射前後の色差を測定して、それぞれの基板の色残存率を測定しグラフ化した。その測定結果については、サンプル基板6〜10及び対照基板2に関し、図5に図示した。
その結果によれば、色残存率は、サンプル基板6>サンプル基板10>サンプル基板9>サンプル基板7>サンプル基板8の順に低くくなることがわかった。さらに、太陽光のもとでの試験結果も同様の傾向にあることがわかった。
また、サンプル基板6’〜10’及び対照基板2’の測定結果は、図6に示した。その結果によれば、アナターゼ型の過酸化チタンを含有する水液を使用した場合にも、アモルファス型の水液を使用した場合と同様の傾向を示しており、劣化防止性能が優れていることがわかる。
[実施例4]…白色タイルに層状に塗布
この[実施例4]は、上記[実施例1]で調製した実施例1−1〜1−5を白色内装タイルに層状に塗布して、以下の評価試験を実施したものである。
【実施例4−1】
97mm×97mm厚さ4mmの白色内装タイル(ダントー(株)製)を準備し、予め500℃で仮焼して表面の有機分を除去し、除去後タイルに1層目に実施例1−1の水液を0.2g/100cmの塗布量で、2層目に実施例1−2の水液を0.2g/100cmの塗布量で、それぞれスプレー塗布した。塗布後、常温乾燥し、市販の赤インク(パイロット社製)を純水で20倍に希釈した有機染料水溶液を0.2g/100cmの塗布量で均一に塗布して常温にて乾燥させ、実施例4−1の構造体を作製した。これをサンプル基板11とした。
【実施例4−2】
実施例4−1の構造体、すなわちサンプル基板11の1層目と、2層目とを逆転して水液を塗布し、その後、実施例4−1と同様に有機染料水溶液を均一に塗布して常温にて乾燥させ、実施例4−2の構造体を作製した。これをサンプル基板12とした。
【実施例4−3】
実施例4−1と同様のタイル及び作製手順で、実施例1−1の水液50gと、実施例1−4の水液50gとを混合して、タイルに0.4g/100cmの塗布量でプレー塗布した。塗布後常温乾燥し、これに実施例4−1と同様に有機染料水溶液を塗布して実施例4−3の構造体を作製した。これをサンプル基板13とした。
【実施例4−4】
実施例4−1と同様のタイル及び作製手順で、実施例1−1の水液50gと、実施例1−4の水液50gとを混合した水液100gに、実施例4−1と同一の有機染料水溶液を10%混合して0.4g/100cmの塗布量で塗布し、常温乾燥させて実施例4−4の構造体を作製した。これをサンプル基板14とした。
【実施例4−5】
実施例4−1と同様のタイル及び作製手順で、実施例1−1の水液50gに、実施例4−1と同様の有機染料水溶液を10%混合して0.4g/100cmの塗布量で塗布し、常温乾燥させて実施例4−5の構造体を作製した。これをサンプル基板15とした。
【実施例4−6】
実施例1−4の水液で、実施例4−5の構造体と同様の作製方法で実施例4−6の構造体を作製した。これをサンプル基板16とした。
(対照基板3)
実施例4−1と同一のタイルを用意し、これを500℃で仮焼して表面の有機分を除去し、2g/100cmの有機染料水溶液を塗布して、常温にて乾燥して対照基板3とした。
[評価試験3]
各サンプル基板11〜16及び対照基板3を、ブラックライト15W(ナショナル社製)の下に10cmの間隔をとって置き、155時間照射し、紫外線(400nm以下)による退色評価を行った(紫外線強度360nm、1200μm/cm)。
(評価方法及び評価結果)
色彩計(ミノルタ社製:CR−200)を使用して、有機染料の退色を評価した。その評価方法は、照射前後の色差を測定して評価した。結果は図7に示すとおりである。
その結果によれば、サンプル基板11〜16は、サンプル基板15以外、対照基板に比べて赤色の退色率が低く、退色防止効果があることがわかった。また、その順序は、サンプル基板13>サンプル基板12>サンプル基板11>サンプル基板16>サンプル基板14>対照基板3となり、実施例4の構造体ではサンプル基板の退色効果は対照基板の2倍以上であることがわかった。また、太陽光の下でも同様の傾向があることがわかった。
【実施例5】
以下のとおり2種の構造体を作製した。
【実施例5−1】
実施例3と同じタイルを準備し、予め500℃で仮焼して表面の有機分を除去し、除去後、タイルに1層目に有機顔料(ポリアゾ顔料:PC−IT1070):住化カラー(株)社製)を0.2g/100cmの塗布量で塗布乾燥させ、2層目に実施例1−4の水液を0.2g/100cmの塗布量で塗布乾燥させ、さらに3層目に1−1の水液を0.2g/100cmの塗布量で塗布乾燥させ、乾燥後100℃で15分間加熱して実施例5−1の構造体、すなわちサンプル基板17を作製した。
【実施例5−2】
実施例3と同じタイルを準備し、予め500℃で仮焼して表面の有機分を除去し、除去後、タイルに1層目に、実施例1−1の水液と実施例1−4の水液とを1:1の比率で混合した水液を0.2g/100cmの塗布量で塗布乾燥させ、2層目に有機顔料(ポリアゾ顔料:PC−IT1070):住化カラー(株)社製)を0.2g/100cmの塗布量で塗布乾燥させ、乾燥後100℃で15分間加熱して実施例5−2の構造体、すなわちサンプル基板18を作製した。
[評価試験4]
(評価方法及び評価結果)
この有機顔料を使用した評価試験でも、評価試験3と同様の評価を行ったところ、有機染料を使用した場合と同様の性能が発現した。
【実施例6】
評価試験1で作製したサンプル基板1〜5及び対照基板1の上に、アナターゼ型過酸化チタン水分散液(サスティナブル・テクノロジー(株)製B50)を0.4g/100cmの塗布量でそれぞれスプレー塗布した。塗布後、150℃で15分加熱乾燥して実施例6−1〜6−5の構造体、及び対照基板4を作製した。これらの各構造体をサンプル基板17〜21とした。
[評価試験5]
(評価方法)
この評価試験では、評価試験1と同様の評価を実施した。
(評価基準)
樹脂基板表面に光触媒機能が直接影響を及ぼすと、基板表面は酸化分解によって剥離又は白濁するので、その変化(ブロック効果)を目視で評価した。
+++ :白濁及び剥離が見られる
++ :白濁が激しい
+ :やや白濁
− :変化せず
(評価結果)
樹脂基板表面への光触媒機能のブロック効果については、表2に示す。その結果によれば、サンプル17、20>サンプル基板21>サンプル基板18、19の順に低くなることがわかった。樹脂基板の上に直接アナターゼ型酸化チタン被膜を形成した対照基板4には、全くブロック性能はなかった。
【表2】

[実施例7]…造膜溶液…防汚評価試験
この[実施例7]は、上記第3の発明に関するもので、上記[実施例1]で調製した実施例1−1〜1−6に、添加剤としてポリエーテル変性シリコーンを添加して調製した造膜溶液を、ガラス板及びポリカーボネート樹脂板に塗布して、以下の評価試験を実施したものである。
(造膜溶液作成例1)
実施例1−1で作成した銅をドープしたアモルファス型過酸化チタン水分散液0.85%wt%に、ポリエーテル変性シリコーン(東レ・ダウコーニーング・シリコーン(株)製:SH3746)を0.4wt%添加してよく撹拌し、造膜溶液作製例1とした。
(造膜溶液作成例2〜6)
同様に、実施例1−2〜1−6で作成した各金属がドープされたアモルファス型過酸化チタン水液に、ポリエーテル変性シリコーン(東レ・ダウコーニーング・シリコーン(株)製:SH3746)を0.4wt%添加してよく撹拌し、造膜溶液として、それぞれ造膜溶液作製例2〜6とした。
そして、上記造膜溶液作成例1〜6の各溶液を、各100mm×100mm厚さ4mmの透明フロートガラス1枚と、各70mm×150mm厚さ4mmの透明ポリカーボネート板1枚に、刷毛塗り2回(想定膜厚:厚さ0.08μm)を行い、常温で乾燥した。これらサンプル基板ガラス6枚とポリカーボネート板6枚を恒温恒湿装置で80℃−15分加熱乾燥し、ガラスをサンプル基板22〜27とし、ポリカーボネート板をサンプル基板28〜33とした。
また、該金属をドープしないアナターゼ型過酸化チタン分散液を同様に造膜したものを対照基板5、6とした。但し、対照基板6は光触媒分解ブロックプライマー層として造膜溶液作成例1を1回、刷毛塗りとした。
[評価試験6]…防汚機能評価試験1
(評価方法)
サンプル基板22〜33に市販サラダ油(日新製油(株)製)を1滴づつ3ヶ所に点滴し、7月上旬から8月上旬の1ヶ月間、九州佐賀県の屋外で曝露した。
(評価基準)
各基板上のサラダ油の痕跡が見えなくなる日数を目視確認した。痕跡の確認は水道水を散布し、表面親水にてサラダ油の消去とした。
(評価結果)
各サンプル基板のサラダ油による撥水がなくなる日数は、表3に示すような結果となった。
【表3】

同様の評価をサンプル基板28〜33及び対照基板6で実施したが、ほぼ同様の傾向を示した。
本来、各金属ドープチタニア膜は光触媒性能を有しておらず、対照基板5、6のみ光触媒性能を有しているが、光触媒分解と同等以上の有機物の離脱が見られ、これら該金属ドープチタニアは防汚性能を有していることが分かった。
また、対照基板6のポリカーボネート板は、そのまま2ヶ月放置してもチョーキングすることもなく、基板は透明のままであった。これにより、造膜溶液作成例1は光触媒分解機能をブロックする機能を有することが認められた。
[実施例8]…防汚機能評価試験2
造膜サンプル基板として、ポリプロピレンクラフトシート:市販 450mm×600mm×2mm(発砲タイプ、赤色:塩素フリー)を用意し、図8に示すように3分割して、それぞれA,B,C部とした。
*A部造膜:造膜溶液作成例1で作成した溶液を、スプレーコートで0.16g/100cm造膜して、常温で乾燥した。
*B部造膜:造膜溶液作成例1で作成した溶液でA部と同様の造膜をし、これを1層目とし、2層目をアナターゼ型化過酸化チタン(サスティナブル・テクノロジー(株)製:B50)水分散液をスプレーで0.2g/100cm造膜して、常温で乾燥した。
*C部(対照):無造膜
上記のようにして、スプレーにて吹付造膜し、常温で乾燥して屋外曝露を開始し、1ヵ月後及び2ヵ月後に防汚性能を評価した。
(評価方法)
大気汚染による降雨防汚性能評価として、ミノルタ色彩計(CR−300)で色差数値評価した。結果は、表4〜表6に示すようになった。
【表4】

【表5】

【表6】

(評価結果)
A部の2ヶ月後ΔLは、開始直後のC部:無造膜(対照)ΔLに最も近傍の数値を示している。これは、A部が元の生地色を最も維持していることを現している。また、赤色基板のC部開始直後、赤色数値Δaは、開始直後の数値に最も近い数値を2ヶ月後A部のΔaが示し、元の生地色を最も維持している。
従って、A部が、サンプル基板の評価開始前の状態が最も保持されていることから、防汚性能が有効に働いていることがわかった。また、B部では光触媒機能によるチョーキング現象は起きていなかった。なお、B部では1層目の造膜溶液作成例1が光触媒分解機能をブロックすることが認められた。
【産業上の利用可能性】
本発明に係るチタニア−金属複合体は、ペルオキソ基を有するチタン酸化物微細粒子に、銅、マンガン、ニッケル、コバルト、鉄、亜鉛又はその化合物の少なくともいずれか1つを共存することを特徴とするものであり、このチタニア−金属複合体を含有する水液又は分散液を、樹脂または有機染料等の有機材料に使用した場合には、太陽光または電磁波発生装置発光等の紫外線または可視光線の有機化合物の分子結合を解離するエネルギーによって生ずる変色または退色等の性能劣化を防止することができる。
特に、この水液又は分散液を使用して、有機染料または顔料の被膜に隣接して単独で被膜を形成、または有機染料もしくは顔料と共に被膜を形成することにより、塗料、印刷物、建材、繊維もしくは有機高分子樹脂製品等の退色又は変色による色化粧性の低下を回避することができる。
さらに、本発明に係るチタニア−金属複合体を含有する水液又は分散液は、ペルオキソ基を有するチタニアを含有しているため、有機・無機を問わず各種の基材に造膜することができるが、水の特性と相容れない疎水・撥水等の基板特性を有する基材に適用する場合には、分散液の中にアルコールや界面活性剤や塗料用レベリング剤を添加することで造膜は容易になり、且つ、防汚、抗菌、防藻、防錆、親水機能を有する表面性能を得ることができる。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅、マンガン、ニッケル、コバルト、鉄、亜鉛、又はそれらの化合物の少なくともいずれか1つがドープされたチタン酸化物微細粒子を含有することを特徴とするチタニア−金属複合体。
【請求項2】
前記チタン酸化物微細粒子が、ペルオキソ基を修飾したアモルファス型及び/又はアナターゼ型であることを特徴とする請求の範囲第1項に記載のチタニア−金属複合体。
【請求項3】
請求の範囲第1項又は第2項に記載のチタニア−金属複合体を含有することを特徴とするチタニア−金属複合体分散液。
【請求項4】
請求の範囲第1項又は第2項に記載のチタニア−金属複合体と、所定の添加剤を含有することを特徴とするチタニア−金属複合体分散液。
【請求項5】
前記添加剤が、アルキルシリケート構造及び/又はポリエーテル構造を有するシリコーン又は変性シリコーンのシリコーンオイルであることを特徴とする請求の範囲第4項に記載のチタニア−金属複合体分散液。
【請求項6】
前記チタニア−金属複合体分散液の溶媒が、水及び/又はアルコールであることを特徴とする請求の範囲第3項〜第5項のいずれかに記載のチタニア−金属複合体分散液。
【請求項7】
4価チタンの塩溶液とアンモニア水溶液とを反応させて、チタンの水酸化物を形成し、この水酸化物を酸化剤でペルオキソ化し、これによりアモルファス型過酸化チタンを形成し、さらに加熱処理することによりアナターゼ型過酸化チタンに転移させ、この過程のいずれかにおいて、銅、マンガン、ニッケル、コバルト、鉄、亜鉛、又はそれらの化合物の少なくともいずれか1つを混合することを特徴とするチタニア−金属複合体を分散させた水液の製造方法。
【請求項8】
4価チタンの塩溶液をペルオキソ化し、これとアンモニア水溶液とを反応させて水酸化物を形成してアモルファス型過酸化チタンを形成し、さらに加熱処理することによりアナターゼ型過酸化チタンに転移させ、この過程のいずれかにおいて、銅、マンガン、ニッケル、コバルト、鉄、亜鉛、又はそれらの化合物の少なくともいずれか1つを混合することを特徴とするチタニア−金属複合体を分散させた水液の製造方法。
【請求項9】
4価チタン粉末又はチタン酸化物粉末と、過酸化水素と、アンモニア水溶液とを反応させて、チタンの水酸化物形成とペルオキソ化とを同時に行ってアモルファス型過酸化チタンを形成し、さらに加熱処理することによりアナターゼ型過酸化チタンに転移させ、この過程のいずれかにおいて、銅、マンガン、ニッケル、コバルト、鉄、亜鉛、又はそれらの化合物の少なくともいずれか1つを混合することを特徴とするチタニア−金属複合体を分散させた水液の製造方法。
【請求項10】
請求の範囲第3項〜第6項のいずれかに記載のチタニア−金属複合体分散液を、基材の表面に塗布することにより、該基材表面に被膜を形成することを特徴とするチタニア−金属複合体分散液を用いた造膜方法。
【請求項11】
請求の範囲第3項〜第6項のいずれかに記載のチタニア−金属複合体分散液を、基材の表面から浸透させることにより、該基材表面に被膜を形成することを特徴とするチタニア−金属複合体分散液を用いた造膜方法。
【請求項12】
請求の範囲第1項又は第2項に記載のチタニア−金属複合体微粒子、又は、請求の範囲第3項〜第6項のいずれかに記載のチタニア−金属複合体分散液を、基材中に混入させたことを特徴とする無機物質からなる基材。
【請求項13】
請求の範囲第3項〜第6項のいずれかに記載のチタニア−金属複合体分散液を用いて、基材の表面に被膜を形成したことを特徴とする無機物質からなる基材。
【請求項14】
請求の範囲第1項又は第2項に記載のチタニア−金属複合体微粒子、又は、請求の範囲第3項〜第6項のいずれかに記載のチタニア−金属複合体分散液を、基材中に混入させたことを特徴とする有機物質からなる基材。
【請求項15】
請求の範囲第3項〜第6項のいずれかに記載のチタニア−金属複合体分散液を用いて、基材の表面に被膜を形成したことを特徴とする有機物質からなる基材。
【請求項16】
前記無機物質からなる基材が、透明あるいは不透明ガラス、金属、セラミック板、石及びコンクリートのいずれかであることを特徴とする請求の範囲第12項又は第13項に記載の無機物質からなる基材。
【請求項17】
前記有機物質からなる基材が、有機高分子樹脂からなるシート材、成形品、塗装表面のいずれかであることを特徴とする請求の範囲第14項又は第15項に記載の有機物質からなる基材。
【請求項18】
前記有機物質からなる基材が、建築・土木用シーリング材であることを特徴とする請求の範囲第15項に記載の有機物質からなる基材。
【請求項19】
請求の範囲第3項〜第6項のいずれかに記載のチタニア−金属複合体分散液を用いて形成した被膜と、請求の範囲第18項に記載のシーリング材との間に、シリコーン、シリコーンオイル及びシラン化合物の少なくともいずれか1つからなる中間膜を形成することを特徴とするチタニア−金属複合体分散液を用いた造膜方法。
【請求項20】
光触媒機能を有する被膜と有機材料基材表面との間に、請求の範囲第3項〜第6項のいずれかに記載のチタニア−金属複合体分散液を用いて中間膜を形成することを特徴とするチタニア−金属複合体分散液を用いた造膜方法。

【国際公開番号】WO2004/041723
【国際公開日】平成16年5月21日(2004.5.21)
【発行日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−549598(P2004−549598)
【国際出願番号】PCT/JP2003/014053
【国際出願日】平成15年11月4日(2003.11.4)
【出願人】(501016054)サスティナブル・テクノロジー株式会社 (12)
【Fターム(参考)】