説明

チタン酸アルミニウム焼結体の製造方法

【課題】チタン酸アルミニウムの特性を損なう添加剤を添加することなく、チタン酸アルミニウムの合成と焼結とを一工程で行うことができる、チタン酸アルミニウム焼結体の製造方法を提供する。
【解決手段】チタン酸アルミニウム焼結体の製造方法は、加熱によりチタン酸アルミニウムを生成するチタン源及びアルミニウム源を含む原料粉末から被焼成体を成形し、マイクロ波を透過する断熱材で囲まれた内部空間に被焼成体を収容し、マイクロ波を照射することにより被焼成体を自己発熱させると共に、電気またはガスで内部空間を加熱する外部加熱装置、及び、マイクロ波を吸収して内部空間内で自己発熱する発熱体、の何れかを備える補助加熱手段により、被焼成体と内部空間との温度差を低減させながら被焼成体を焼成することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チタン酸アルミニウム焼結体の製造方法に関するものであり、特に、チタン酸アルミニウムの合成と焼結とを一工程で行うチタン酸アルミニウム焼結体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
チタン酸アルミニウムは融点が1860℃と高く耐熱性に優れ、熱膨張率が小さいことから、高温下で使用される材料として適している。加えて、チタン酸アルミニウムは溶融金属に対する耐食性が高いため、アルミニウムやマグネシウムなどの金属を溶融させる坩堝や、溶融金属を収容・運搬する容器等の材料として使用されている。
【0003】
ここで、チタン酸アルミニウム焼結体の一般的な製造方法は、予めチタン酸アルミニウムを合成し、合成されたチタン酸アルミニウムの粉末を粉砕し粒度を調整した上で、所定形状に成形し、焼成するというものである。
【0004】
一方、チタン酸アルミニウムの合成と焼結とを一工程で行う製造方法も提案されている(例えば、特許文献1,2参照)。このような製造方法によれば、チタン酸アルミニウムの合成工程、及び、合成粉末を粉砕し粒度を調整する工程がないため、少ない工程数で焼結体を製造できる利点がある。
【0005】
特許文献1,2に例示される、チタン酸アルミニウムの合成と焼結とを一工程で行う従来の製造方法では、チタン源である二酸化チタンとアルミニウム源である酸化アルミニウムに、二酸化珪素、酸化鉄、酸化ジルコニウム等の多くの添加剤を添加した原料を使用し、所定形状に成形した後、焼成を行っている。このような添加剤は、チタン酸アルミニウムが750℃〜1300℃で分解しやすい性質を有するため、この分解を抑制する目的で添加されている。また、チタン酸アルミニウムは熱膨張率の異方性が高く、これにより粒子間に発生するマイクロクラックが低熱膨張性をもたらしているのであるが、粒子がある程度以上の大きさに成長すると、マイクロクラックのサイズが大となり機械的強度が低下する。そのため、上記のような添加剤は、チタン酸アルミニウムの粒子成長を調整する目的でも添加されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、二酸化珪素や酸化鉄などは、アルミニウムやマグネシウムによって還元され易い。そのため、これらを添加することにより、溶融金属に対して耐食性が高いというチタン酸アルミニウムの優れた特性が損なわれ、用途が制限されてしまうという問題があった。
【0007】
そこで、本発明は、上記の実情に鑑み、チタン酸アルミニウムの特性を損なう添加剤を添加することなく、所定形状の被焼成体を成形し、チタン酸アルミニウムの合成と焼結とを一工程で行うことにより、亀裂の発生が抑制された焼結体を製造することができる、チタン酸アルミニウム焼結体の製造方法の提供を課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するため、本発明にかかるチタン酸アルミニウム焼結体の製造方法は、「加熱によりチタン酸アルミニウムを生成するチタン源及びアルミニウム源を含む原料粉末から被焼成体を成形し、マイクロ波を透過する断熱材で囲まれた内部空間に前記被焼成体を収容し、マイクロ波を照射することにより前記被焼成体を自己発熱させると共に、電気またはガスで前記内部空間を加熱する外部加熱装置、及び、マイクロ波を吸収して前記内部空間内で自己発熱する発熱体、の何れかを備える補助加熱手段により、前記被焼成体と前記内部空間との温度差を低減させながら前記被焼成体を焼成する」ものである。
【0009】
チタン源及びアルミニウム源は、チタン酸アルミニウムを生成するものであれば特に限定されない。例えば、「チタン源」としては、酸化チタン(四価)、酸化チタン(三価)、酸化チタン(二価)、水酸化チタン、チタンアルコキシド、塩化チタン、硫酸チタン、金属チタンを使用することができ、「アルミニウム源」としては、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、アルミニウムアルコキシド、硝酸アルミニウム、金属アルミニウムを使用することができる。特に、「チタン源」を四価の酸化チタン(二酸化チタン)とし、「アルミニウム源」を酸化アルミニウムとすれば、次の化学式に示すように、1対1のモル比で化学量論的にチタン酸アルミニウムを生成する。そのため、成分調整が容易であると共に、チタン酸アルミニウムとなるために消費されない成分が不純物として残存したり、取り扱いの厄介なガスが発生したりすることがなく、好適である。
Al + TiO → AlTiO
【0010】
ガス窯や電気炉などを使用して焼成する場合、外部からの熱は被焼成体の表面から内部に向かって伝導する。そのため、被焼成体における温度分布は不均一となり、チタン酸アルミニウムの生成も不均一に進行するため、焼結体に亀裂が生じやすい。
【0011】
これに対し、マイクロ波による焼成の場合は、被焼成体がマイクロ波を吸収して全体的に発熱するため、被焼成体における温度分布が均一となりやすい。加えて、本発明では、補助加熱手段によって被焼成体と被焼成体が置かれた空間との温度差を低減させているため、自己発熱した被焼成体の表面からの放熱が抑制される。これにより、被焼成体において温度分布が均一な状態が保持され易く、チタン酸アルミニウムの生成及び焼結が均一に進行する。本発明者らは、検討の結果、補助加熱手段を併用したマイクロ波焼成により、特に添加剤を添加しなくても、チタン酸アルミニウムの分解を抑制し、亀裂の発生の抑制された焼結体を製造できることを見出し、本発明に至ったものである。
【0012】
従って、上記構成の本発明によれば、二酸化珪素や酸化鉄など、チタン酸アルミニウムの優れた特性を損なう添加剤を添加することなく、チタン酸アルミニウムの分解を抑制することができ、チタン酸アルミニウムの合成と焼結とを一工程で行うことにより、亀裂の発生が抑制された焼結体を製造することができるができる。
【0013】
本発明にかかるチタン酸アルミニウム焼結体の製造方法は、上記構成に加え、「前記チタン源として二酸化チタンが使用されると共に、前記アルミニウム源として酸化アルミニウムが使用され、前記補助加熱手段は、ナトリウムを含有する酸化アルミニウムで形成された前記発熱体である」ものとすることができる。
【0014】
マイクロ波を吸収して自己発熱する発熱体を補助加熱手段として用いる場合、マイクロ波を吸収して発熱する特性が、発熱体と被焼成体とで同程度であれば、被焼成体と発熱体とがほぼ同じ温度のまま、ほぼ同じ速度で昇温する。その結果、被焼成体と発熱体が存在する空間で、温度勾配が生じにくい。検討の結果、ナトリウムを含有する酸化アルミニウムは、二酸化チタンと酸化アルミニウムを原料とする被焼成体と、マイクロ波を吸収して発熱する特性が、約750℃に達するまでは同程度であることが分かった。
【0015】
従って、上記構成の本発明によれば、被焼成体と発熱体が同程度に自己発熱し、被焼成体が置かれた空間内に温度勾配が生じにくいため、被焼成体における温度分布がより均一となる。
【0016】
本発明にかかるチタン酸アルミニウム焼結体の製造方法は、上記構成に加え、「前記原料粉末は、酸化イットリウムを含有する」ものとすることができる。
【0017】
上述のように、本発明によれば、添加剤を添加することなく、純度の高いチタン酸アルミニウム焼結体を、亀裂の発生を抑制して製造することが可能である。ところが、上述のように得られたチタン酸アルミニウム焼結体は、詳細は後述するように、嵩密度が高くなく、緻密なチタン酸アルミニウム焼結体を得たい場合には、改善の余地があった。
【0018】
検討の結果、原料粉末に酸化イットリウムを添加することにより、チタン酸アルミニウム焼結体を緻密化できることが分かった。ここで、酸化イットリウムはアルミニウムやマグネシウムによっては還元されにくいため、溶融金属に対して優れた耐食性を示すチタン酸アルミニウムの特性を損なうおそれがない。
【0019】
従って、上記構成の本発明によれば、チタン酸アルミニウムの優れた特性を損なうことなく、緻密なチタン酸アルミニウム焼結体を製造することができる。
【発明の効果】
【0020】
以上のように、本発明の効果として、チタン酸アルミニウムの特性を損なう添加剤を添加することなく、所定形状の被焼成体を成形し、チタン酸アルミニウムの合成と焼結とを一工程で行うことにより、亀裂の発生が抑制された焼結体を製造することができる、チタン酸アルミニウム焼結体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】試料1を発熱材で囲んで焼成した場合の(a)マイクロ波照射時間に伴う温度変化曲線、(b)焼成前後のX線回折パターンである。
【図2】試料2を発熱材で囲んで焼成した場合の(a)マイクロ波照射時間に伴う温度変化曲線、(b)焼成前後のX線回折パターンである。
【図3】発熱材を設けることなく焼成した場合の(a)試料1のマイクロ波照射時間に伴う温度変化曲線、(b)試料2のマイクロ波照射時間に伴う温度変化曲線である。
【図4】試料3〜5を発熱材で囲んで焼成した場合のマイクロ波照射時間に伴う温度変化曲線である。
【図5】酸化イットリウムの添加量に対する焼結体の嵩密度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の第一実施形態のチタン酸アルミニウム焼結体の製造方法(以下、単に「製造方法」と称することがある)について説明する。
【0023】
本実施形態の製造方法は、加熱によりチタン酸アルミニウムを生成するチタン源及びアルミニウム源を含む原料粉末を使用して被焼成体を成形する成形工程と、マイクロ波を透過する断熱材で囲まれた内部空間に被焼成体を収容し、マイクロ波を照射することにより被焼成体を自己発熱させると共に、補助加熱手段により被焼成体と内部空間との温度差を低減させながら、被焼成体を焼成する焼成工程とを具備している。また、本実施形態では、補助加熱手段として、ナトリウムを含有する酸化アルミニウムで形成された発熱体を使用している。
【0024】
より詳細に説明すると、成形工程では、チタン源及びアルミニウム源を含む原料粉末を水を媒液として湿式混合し、鋳込み成形により被焼成体を得る。或いは、チタン源及びアルミニウム源を含む原料粉末を乾式混合し、乾式加圧成形により被焼成体を成形しても良い。
【0025】
焼成工程では、マイクロ波を透過する断熱材で囲まれた空間内で被焼成体を焼成する。このような断熱材としては、アルミナ繊維や発泡アルミナで形成されたボードを例示することができる。照射されるマイクロ波の周波数は、0.9GHz〜100GHzとすることができる。周波数が100GHzを超える場合は高価なマイクロ波発振器が必要となり、周波数が0.9GHz未満の場合は吸収率が低下する。小型のマイクロ波発振器を用いて、上記の被焼成体を有意にマイクロ波加熱するためには、マイクロ波の周波数は0.9GHz〜10GHzとすることが望ましい。
【0026】
また、発熱体は、上記の断熱材を内張りするように設けられた発熱壁とすることができる。或いは、被焼成体を収容可能なボックスを、発熱体で形成しても良い。
【0027】
焼成温度は、チタン酸アルミニウムの合成温度である1300℃以上で、且つ、チタン酸アルミニウムの融点である1860℃を超えない温度とする必要があり、1400℃〜1700℃とすることが望ましい。
【0028】
次に、第一実施形態の具体的な実施例について説明する。本実施例では、チタン源として二酸化チタンを、アルミニウム源として酸化アルミニウム(コランダム)を使用している。また、二酸化チタンには複数の結晶構造があるが、ここでは、準安定型のアナターゼ、及び、安定型のルチルを、それぞれチタン源とした実施例を示す。
【0029】
試料1及び試料2の被焼成体を、次のように作製した。試料1ではチタン源がアナターゼ(関東化学製)であり、試料2ではチタン源がルチル(関東化学製)である点を除けば、試料1及び試料2について、同一の方法で被焼成体を作製した。
【0030】
チタン源の二酸化チタンについては、イオン交換水を媒液として濃度75質量%に調整し、ボールミルで24時間湿式粉砕してスラリーを調製した。その際、分散剤としてテトラメチルアンモニウムオキシド(キシダ化学製、TMAH)を二酸化チタンに対して0.6質量%添加した。一方、アルミニウム源のコランダム(住友化学工業製、AKP−20、純度99.99%)については、同様にイオン交換水を媒液として濃度80質量%に調整し、ボールミルで24時間湿式粉砕してスラリーを調製した。その際、分散剤としてセルナD−350(中京油脂製)をコランダムに対して0.6質量%添加した。二酸化チタンのスラリーとコランダムのスラリーとを、二酸化チタンと酸化アルミニウムとのモル比が1対1となるように混合し、混合スラリーとした。混合スラリーを真空脱泡した後、石膏型を用いた鋳込み成形により、サイズ50mm×50mm×厚さ6mmの成形体(被焼成体)を成形した。
【0031】
焼成には、アルミナ繊維製の断熱材で形成したボックスを使用し、更に、マイクロ波を吸収して自己発熱する発熱体で断熱材を内張りし、内部側に発熱壁を備える断熱ボックスを形成した。発熱体としては、ナトリウムを酸化物(NaO)換算で0.5mol%含有する酸化アルミニウムを使用した。マイクロ波焼成炉(美濃窯業製)の炉内に発熱壁を備える断熱ボックスをおき、その内部に被焼成体を収容した上で、4台のマイクロ波発振器から周波数2.45GHzのマイクロ波を、最大出力3kW(4台の合計)で照射した。被焼成体の温度が1500℃に達した時点で、その温度を15分間保持した。被焼成体及び発熱壁の温度は、高温型放射温度計を使用して測定した。
【0032】
マイクロ波の照射時間に対する被焼成体の温度変化を、試料1について図1(a)に示し、試料2について図2(a)に示す。また、何れの試料についても、発熱壁の温度変化をあわせて図示している。図1(a)及び図2(a)から明らかなように、何れの試料についても、ほぼ一定の割合で昇温している。また、何れの試料も、400℃から約1500℃に到達するまでの所要時間が2700秒〜3000秒であり、非常に速やかに昇温していることが分かる。
【0033】
そして、試料1及び試料2の何れにおいても、被焼成体と発熱壁とは、約750℃に達するまではほぼ等しい速度で昇温している。このことから、発熱壁で囲まれた空間では温度勾配がほとんどなく、被焼成体からの放熱が抑えられていたと考えられた。
【0034】
試料1及び試料2について、それぞれ焼成前後でX線回折により結晶相の同定を行った。測定には、粉末X線回折装置(マックサイエンス製、MXP3VA)を使用し、銅管球、電圧40kV、電流20mA、ステップスキャン法にてステップ0.02度、2度/minの条件で測定した。試料1のX線回折パターンを図1(b)に、試料2のX線回折パターンを図2(b)に示す。何れの試料においても、焼成前はチタン源(試料1ではアナターゼ、試料2ではルチル)及びアルミニウム源(コランダム)のピークを示し、焼成後はチタン酸アルミニウムのピークのみが検出された。このことから、マイクロ波照射による一つの焼成工程で、チタン源及びアルミニウム源からチタン酸アルミニウムが生成したことが確認された。従って、添加剤を全く添加することなく、チタン酸アルミニウムの分解を抑制してチタン酸アルミニウムを合成すると共に、チタン酸アルミニウム焼結体を製造することができた。
【0035】
そして、試料1及び試料2の何れについても、得られた焼結体には亀裂や割れは観察されなかった。なお、得られた焼結体についてアルキメデス法で嵩密度を測定した結果、何れの試料も約2.7g/cm(相対密度約73%)であった。
【0036】
ここで、マイクロ波照射による焼成工程において、発熱体による補助加熱を行わない場合は、上記とは異なり、昇温速度は一定とはならない。また、チタン源がアナターゼである場合とルチルである場合とでは、異なる発熱挙動を示す。更に、得られた焼結体も、形状は保持しているものの亀裂が多く発生する。以下、対比のために、上記と同様に作製した試料1及び試料2の被焼成体について、発熱壁のない断熱ボックス内で焼成した場合について説明する。
【0037】
試料1及び試料2の被焼成体を、発熱壁のない断熱ボックス内で焼成した場合について、マイクロ波の照射時間に対する被焼成体の温度変化を、それぞれ図3(a)及び図3(b)に示す。図3(a)から明らかなように、チタン源がアナターゼである試料1では、750℃〜900℃で急激に温度が上昇している。X線回折による結晶相の同定の結果、この大きな発熱は、アナターゼからルチルへの相転移によるものであると考えられた。このことから、チタン源としてアナターゼを使用し、発熱体のない状態でマイクロ波照射による焼成を行った場合は、750℃〜900℃でアナターゼの粒子のみが局部的に大きく発熱する。そのため、被焼成体における温度上昇が一定ではなくなり、焼結体に亀裂が生じやすいと考えられた。
【0038】
また、図3(a)及び図3(b)から分かるように、何れの試料においても約1000℃以降で昇温速度が大きくなっている。X線回折による結晶相の同定の結果、1000℃以降の発熱はチタン酸アルミニウムの合成によるものであった。このように、発熱体のない状態で焼成した場合は、発熱壁に囲まれた空間内で焼成した場合(図1(a)及び図2(a)参照)と比べると、全体的に昇温速度が不均一であり、焼結体に亀裂が生じ易いと考えられた。
【0039】
以上のように、発熱体で囲まれた空間内でマイクロ波照射による焼成を行った場合は、被焼成体が全体的に自己発熱すると共に、昇温速度がほぼ一定であるため、亀裂のない焼結体が得られるものと考えられた。そして、ルチルに転移してからチタン酸アルミニウムを生成するアナターゼをチタン源とする場合であっても、ルチルをチタン源とする場合であっても、発熱壁に囲まれた空間内でマイクロ波焼成することにより、同じように、ほぼ一定の速度で昇温させることができることは、大変興味深い。
【0040】
加えて、発熱壁に囲まれた空間内でマイクロ波焼成する場合は、発熱体のない空間内でマイクロ波焼成する場合に比べて、極めて短時間で目的温度まで昇温させることができた。これにより、効率的に焼結体を製造することができると共に、電力消費を削減することができる。そして、昇温速度が大きいにも関わらず、亀裂のない焼結体が製造できることは意義が高い。
【0041】
なお、試料1及び試料2と同一の試料を、対比のために、電気炉内で昇温速度を毎時100℃として加熱し、1500℃で2時間保持して焼成したところ、被焼成体の形状は保持されず粉々になった。これは、外部加熱の場合は表面から内部に向かう熱伝導によって被焼成体が加熱されるため、発熱壁に囲まれた空間内でマイクロ波焼成する場合に比べてかなりゆっくり昇温しても、被焼成体における温度分布が不均一となるためと考えられた。
【0042】
次に、本発明の第二実施形態の製造方法について説明する。第二実施形態の製造方法が第一実施形態の製造方法と相違する点は、チタン源及びアルミニウム源を含む原料粉末が、更に、酸化イットリウムを含有する点である。
【0043】
第二実施形態の具体的な実施例を示す。本実施例では、チタン源としてアナターゼを、アルミニウム源としてコランダムを含む原料粉末に、酸化イットリウムを添加して、被焼成体を作製した。酸化イットリウムの添加量は、合成されるチタン酸アルミニウムに対して、1mol%(試料3)、2mol%(試料4)、及び、3mol%(試料5)とした。
【0044】
具体的には、チタン源のアナターゼ(関東化学製)について、イオン交換水を媒液として濃度75質量%に調整し、ボールミルで24時間湿式粉砕してスラリーを調製した。その際、分散剤としてテトラメチルアンモニウムオキシド(キシダ化学製、TMAH)を二酸化チタンに対して0.6質量%を添加した。一方、アルミニウム源のコランダム(住友化学工業製、AKP−20、純度99.99%)について、同様にイオン交換水を媒液として濃度80質量%に調整し、ボールミルで24時間湿式粉砕してスラリーを調製した。その際、分散剤としてセルナD−350(中京油脂製)をコランダムに対して0.6質量%を添加した。
【0045】
アナターゼのスラリーとコランダムのスラリーとを、二酸化チタンと酸化アルミニウムのモル比が1対1となるように混合し、混合スラリーとした。混合スラリーに所定量の酸化イットリウムを添加し、ボールミルで24時間混合した。その後、酸化イットリウムを含む混合スラリーを真空脱泡し、石膏型を用いた鋳込み成形により、サイズ50mm×50mm×厚さ6mmの成形体(被焼成体)を成形した。
【0046】
焼成には、上記と同様に、発熱壁を備えた断熱ボックスを使用し、被焼成体を収容した上で、4台のマイクロ波発振器で周波数2.45GHzのマイクロ波を、合計の最大出力3kWで照射した。被焼成体の温度が1500℃に達した時点で、その温度を15分間保持した。なお、発熱体としては、上記と同様に、ナトリウムを0.5mol%含有する酸化アルミニウムを使用した。
【0047】
試料3〜試料5について、マイクロ波の照射時間に対する被焼成体の温度変化を、図4に示す。図4から明らかなように、酸化イットリウムを添加した何れの試料も、酸化イットリウムを添加していない試料1と、ほぼ同一の温度変化を示した。
【0048】
何れの試料においても、得られた焼結体に亀裂は発生していなかった。各試料の嵩密度を図5に示す。図5から明らかなように、酸化イットリウムを添加していない試料1では嵩密度は2.73g/cmであったが、酸化イットリウムの添加量の増加に伴って嵩密度は大きくなり、酸化イットリウムを3mol%添加した試料5の嵩密度は3.44g/cmであった。すなわち、酸化イットリウムの添加によって、チタン酸アルミニウム焼結体を緻密化することができた。
【0049】
なお、添加量が2mol%に増加するまでの範囲では、酸化イットリウムの添加量に伴って嵩密度が大きく増加したが、添加量が2mol%の試料と3mol%の試料との間では、嵩密度の差は小さかった。従って、緻密なチタン酸アルミニウム焼結体を得るためには、少なくとも2mol%の酸化イットリウムを添加することが有効であると言うことができる。
【0050】
以上、本発明について好適な実施形態を挙げて説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、以下に示すように、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改良及び設計の変更が可能である。
【0051】
例えば、上記では、照射するマイクロ波の最大出力を3kWとした場合を例示したが、これより小さい出力とすることもできる。発熱体により補助加熱したマイクロ波焼成では、上述のように極めて短時間で焼成工程を行うことができるため、マイクロ波の出力を小さくしても、十分に短い時間で焼成工程を行うことができる。
【0052】
具体例を挙げれば、上記のようにマイクロ波の最大出力を3kWとした場合、被焼成体の温度を常温から1200℃まで昇温させる所要時間は約2500秒、すなわち約42分(400℃まで約500秒、400℃から1200℃まで約2000秒)であったのに対し、マイクロ波の最大出力を2kWとした場合は、被焼成体の温度を常温から1200℃まで昇温させる所要時間は約8500秒、すなわち約142分(400℃まで約2500秒、400℃から1200℃まで約6000秒)であった。これは、外部加熱による焼成の場合に、同程度の温度まで昇温させるためには、通常、数時間から十数時間かける必要があることと比べると、十分に短い時間である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0053】
【特許文献1】特開平5−51252号公報
【特許文献1】特開平5−279116号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱によりチタン酸アルミニウムを生成するチタン源及びアルミニウム源を含む原料粉末から被焼成体を成形し、
マイクロ波を透過する断熱材で囲まれた内部空間に前記被焼成体を収容し、マイクロ波を照射することにより前記被焼成体を自己発熱させると共に、
電気またはガスで前記内部空間を加熱する外部加熱装置、及び、マイクロ波を吸収して前記内部空間内で自己発熱する発熱体、の何れかを備える補助加熱手段により、前記被焼成体と前記内部空間との温度差を低減させながら前記被焼成体を焼成する
ことを特徴とするチタン酸アルミニウム焼結体の製造方法。
【請求項2】
前記チタン源として二酸化チタンが使用されると共に、前記アルミニウム源として酸化アルミニウムが使用され、
前記補助加熱手段は、ナトリウムを含有する酸化アルミニウムで形成された前記発熱体である
ことを特徴とする請求項1に記載のチタン酸アルミニウム焼結体の製造方法。
【請求項3】
前記原料粉末は、酸化イットリウムを含有する
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のチタン酸アルミニウム焼結体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−206922(P2012−206922A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−76057(P2011−76057)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(391016842)岐阜県 (70)
【Fターム(参考)】