説明

チタン酸アルミニウム系セラミックスの製造方法

【課題】チタン酸アルミニウム、チタン酸アルミニウムマグネシウムなどのチタン酸アルミニウム系セラミックスの成形体を製造するとき、原材料混合物の成形体に対するチタン酸アルミニウム系セラミックスの成形体の収縮率を小さくすることができ、得られたチタン酸アルミニウム系セラミックスの成形体の熱膨張係数を小さくする方法を提供する。
【解決手段】チタン源物質およびアルミニウム源物質を含む原材料混合物を焼成してチタン酸アルミニウム系セラミックスを製造する方法であって、前記アルミニウム源物質のBET比表面積が0.1m2/g以上5m2/g以下である方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チタン酸アルミニウム系セラミックスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
チタン酸アルミニウム系セラミックスは、構成元素としてチタンおよびアルミニウムを含み、X線回折スペクトルにおいてチタン酸アルミニウムの結晶パターンを有するセラミックスであって、耐熱性に優れたセラミックスとして知られている。かかるチタン酸アルミニウム系セラミックスは従来からルツボのような焼結用の冶具などを構成する材料として用いられてきた。また近年では、ディーゼルエンジンから排出される排気ガスに含まれる微細なカーボン粒子を捕集するためのセラミックスフィルターを構成する材料として、産業上の利用価値が高まっている。
【0003】
かかるチタン酸アルミニウム系セラミックスの製造方法としては、チタニアなどのチタン源となる化合物の粉末およびアルミナなどのアルミニウム源となる化合物の粉末を混合して得られる粉末状の原材料混合物を、焼成する方法が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】WO2005/105704号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来の方法では、原材料混合物の成形体を焼成してセラミックスの成形体を得るとき、原材料混合物成形体に対するセラミックス成形体の収縮率が大きくなることがあり、得られたセラミックスの熱膨張係数が大きくなることがあった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、チタン源物質およびアルミニウム源物質を含む原材料混合物を焼成してチタン酸アルミニウム系セラミックスを製造する方法であり、前記アルミニウム源物質のBET比表面積が0.1m2/g以上5m2/g以下、好ましくは0.3m2/g以上3m2/g以下である方法を提供する。
【0007】
本発明の方法において、前記原材料混合物を成形して原材料成形体を得、得られた原材料成形体を焼成することが好ましい。
【0008】
また、本発明では、チタニア換算のチタン源物質の使用量は、チタニア換算のチタン源物質の使用量およびアルミナ換算のアルミニウム源物質の使用量の合計100質量部あたり、30質量部以上70質量部以下であることが好ましく、また、チタン源物質のBET比表面積が0.1m2/g以上100m2/g以下であることも好ましい。
【0009】
前記原材料混合物は、さらにマグネシウム源物質を含むことが好ましく、マグネシア換算のマグネシウム源物質の使用量は、チタニア換算のチタン源物質の使用量およびアルミナ換算のアルミニウム源物質の使用量の合計100質量部あたり、0.1質量部以上10質量部以下であることが好ましい。
【0010】
前記原材料混合物は、シリコン源物質を含むことも好ましく、前記シリコン源物質は長石またはガラスフリットであることが好ましい。また前記ガラスフリットの屈服点は700℃以上であることが好ましい。
【0011】
本発明において、前記原材料混合物に対し、さらに振動ミルを用いた混合を行うことが好ましく、振動ミルを用いた混合に際して、粉砕メディアとして粒子径1mm以上100mm以下のアルミナボールまたはジルコニアボールを用いることが好ましい。また前記振動ミルを、2mm以上20mm以下の振幅幅で振動させることも好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の方法によれば、原材料混合物の成形体を焼成してチタン酸アルミニウム系セラミックスの成形体を製造するとき、原材料混合物の成形体に対するチタン酸アルミニウム系セラミックスの成形体の収縮率を小さくすることができ、得られたチタン酸アルミニウム系セラミックスの成形体の熱膨張係数を小さくすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の方法では、1種以上のチタン源物質および1種以上のアルミニウム源物質を含む原材料混合物が用いられる。前記原材料混合物は更に、1種以上のマグネシウム源物質および/または1種以上のシリコン源物質を含むものであることが好ましい。
【0014】
本発明においてチタン源物質とは、チタン元素を含む物質をいい、例えば酸化チタンが挙げられる。酸化チタンとしては、例えば酸化チタン(IV)、酸化チタン(III)、酸化チタン(II)などが挙げられ、酸化チタン(IV)が好ましく用いられる。酸化チタン(IV)は結晶であってもよく、アモルファスであってもよい。酸化チタン(IV)が結晶である場合、結晶型としてはアナターゼ型、ルチル型、ブルッカイト型などが挙げられ、好ましくはアナターゼ型、ルチル型である。
【0015】
チタン源物質として、空気中で焼成することによりチタニア(酸化チタン)に導かれる物質も挙げられる。かかる物質としては、例えばチタニウム塩、チタニウムアルコキシド、水酸化チタニウム、窒化チタン、硫化チタン、チタンなどが挙げられる。
【0016】
チタニウム塩として具体的には、三塩化チタン、四塩化チタン、硫化チタン(IV)、硫化チタン(VI)、硫酸チタン(IV)などが挙げられる。チタニウムアルコキシドとして具体的には、チタン(IV)エトキシド、チタン(IV)メトキシド、チタン(IV)tert-ブトキシド、チタン(IV)イソブトキシド、チタン(IV)n-プロポキシド、チタン(IV)テトライソプロポキシドおよびこれらのキレート化物などが挙げられる。
【0017】
チタン源物質としては、チタンと他の金属元素とを含む複合酸化物が挙げられる。チタンと他の金属元素とを含む複合酸化物としては、チタン酸アルミニウム、チタン酸アルミニウムマグネシウム等が挙げられる。
【0018】
本発明で用いるチタン源物質のBET比表面積は、通常0.1m2/g以上100m2/g以下であり、好ましくは、0.2m2/g以上50m2/g以下である。チタン源物質の表面には、アルミナ、シリカ、ジルコニア、水酸化アルミニウムなどの無機酸からなる薄い表面層がコートされていてもよい。
【0019】
なおチタン源物質は、原料由来或いは製造工程で混入する不可避不純物を含むものであってもよい。
【0020】
本発明おいてアルミニウム源物質とは、物質に含まれる金属元素の実質的に全てがアルミニウムである物質をいう。ただし原料由来或いは製造工程で混入する不可避不純物が含まれていてもよい。アルミニウム源物質としては、例えばアルミナ(酸化アルミニウム)が挙げられる。アルミナは結晶であってもよく、アモルファスであってもよい。アルミナが結晶である場合、その結晶型は、γ型、δ型、θ型、α型などが挙げられる。アルミニウム源物質は好ましくはα型のアルミナである。
【0021】
またアルミニウム源物質として、空気中で焼成することによりアルミナに導かれる物質、例えばアルミニウム塩、アルミニウムアルコキシド、水酸化アルミニウム、金属アルミニウムなども挙げられる。
【0022】
アルミニウム塩は、無機酸との塩(無機塩)であってもよいし、有機酸との塩(有機塩)であってもよい。アルミニウム無機塩として具体的には、例えば硝酸アルミニウム、硝酸アンモニウムアルミニウムなどの硝酸塩、炭酸アンモニウムアルミニウムなどの炭酸塩などが挙げられる。アルミニウム有機塩としては、例えば蓚酸アルミニウム、酢酸アルミニウム、ステアリン酸アルミニウム、乳酸アルミニウム、ラウリン酸アルミニウムなどが挙げられる。
【0023】
アルミニウムアルコキシドとして具体的には、例えばアルミニウムイソプロポキシド、アルミニウムエトキシド、アルミニウムsec-ブトキシド、アルミニウムtert-ブトキシドなどが挙げられる。
【0024】
水酸化アルミニウムは結晶であってもよく、アモルファスであってもよい。水酸化アルミニウムが結晶である場合、その結晶型は、例えばギブサイト型、バイヤライト型、ノロソトランダイト型、ベーマイト型、擬ベーマイト型などが挙げられる。アモルファスの水酸化アルミニウムとしては、例えばアルミニウム塩、アルミニウムアルコキシドなどの水溶性アルミニウム化合物の水溶液を加水分解して得られるアルミニウム加水分解物が挙げられる。
【0025】
なかでも、好ましいアルミニウム源物質は、アルミナ、水酸化アルミニウムである。
【0026】
本発明で用いるアルミニウム源物質のBET比表面積は、0.1m2/g以上5m2/g以下であり、好ましくは、0.3m2/g以上3m2/g以下、さらに好ましくは0.4m2/g以上2m2/g以下である。BET比表面積が小さいと、チタン酸アルミニウム化の反応時にチタン源物質との反応が不十分であるため、反応性が低下する傾向を示す。一方、BET比表面積が大きすぎると、粒子間の空隙率が大きくなり、その結果、原材料混合物のかさが高くなり、チタン酸アルミニウム化の際に空隙が消滅するように焼結が進行するため収縮率が増加する。収縮率が大きいと焼結後のチタン酸アルミニウム系セラミックス成形体にワレやヒビが生じやすくなる他、寸法精度が悪くなる。
【0027】
本発明において収縮率とは、焼成前の原材料成形体と焼成後のチタン酸アルミニウム系セラミックス成形体との寸法変化率を意味し、後記する実施例に詳述する方法によって算出される。
【0028】
アルミニウム源物質を晶析によって作製する場合(例えば水酸化アルミニウム)、アルミニウム源物質の比表面積は晶析条件(アルミニウムが過飽和状態である水溶液(以下、過飽和水溶液ともいう)を作製するための溶媒及び溶質の種類、過飽和水溶液におけるアルミニウム濃度、種子が添加された過飽和水溶液における種子の濃度、アルミニウム源物質を晶出させる時の反応温度及び反応時間、など)を制御することによって調整することができる。例えば、通常、アルミニウム源物質としての水酸化アルミニウムは、バイヤー法によって合成することができるが、特に、比表面積の小さな水酸化アルミニウムは、種子として、平均二次粒子径が1〜70μmの水酸化アルミニウムを、アルミニウムが過飽和状態である水溶液(以下、過飽和水溶液ともいう)に添加することによって得ることができる。過飽和水溶液において、アルミニウム濃度は、アルミナ換算で50g/L以下であることが好ましい。なお、過飽和水溶液において、アルミニウム濃度を、アルミナ換算で50g/L以下とするには、過飽和水溶液の液温を高くすることが好ましく、50℃以上沸点以下とすることが好ましい。種子が添加された過飽和水溶液において、種子の濃度は、低いほうが好ましく、特に10g/L以上300g/L以下であることが好ましい。
【0029】
またアルミニウム源物質を焼成によって得る場合(例えばアルミナ)、アルミニウム源物質の比表面積は焼成前の原料のBET比表面積や焼成温度を制御することによって調整することができ、通常、焼成温度が高いほどアルミニウム源物質の比表面積が小さくなる。
【0030】
さらに、最終の粒度調整時の粉砕条件を制御することにより、アルミニウム源物質の比表面積を調整することができ、弱粉砕条件とすることによってアルミニウム源物質の比表面積を小さくできる。
【0031】
またアルミニウム源物質の二次粒子径は、反応性の観点から10μm以上100μm以下が好ましく、さらには20μm以上70μm以下がより好ましい。
【0032】
チタン源物質およびアルミニウム源物質の使用量は、チタニア〔TiO2〕およびアルミナ〔Al23〕に換算した結果に基づいて決定される。チタニア換算のチタン源物質の使用量とアルミナ換算のアルミニウム源物質の使用量との合計量(以下、全チタニア・アルミナ量と呼ぶ)100質量部に対して、チタニア換算のチタン源物質の使用量が、通常30質量部以上70質量部以下、好ましくは40質量部以上60質量部以下である。アルミナ換算のアルミニウム源物質の使用量は通常30質量部以上70質量部以下であり、好ましくは40質量部以上60質量部以下である。
【0033】
本発明においてマグネシウム源物質とは、マグネシウム元素を含む物質をいう。マグネシウム源物質としては、例えばマグネシア(酸化マグネシウム)が挙げられる。マグネシウム源物質としては、空気中で焼成することによりマグネシアに導かれる物質も挙げられる。空気中で焼成することによりマグネシアに導かれる物質としては、例えばマグネシウム塩、マグネシウムアルコキシド、水酸化マグネシウム、窒化マグネシウム、金属マグネシウムなどが挙げられる。
【0034】
マグネシウム塩として具体的には、塩化マグネシウム、過塩素酸マグネシウム、リン酸マグネシウム、ピロリン酸マグネシウム、蓚酸マグネシウム、硝酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、酢酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、クエン酸マグネシウム、乳酸マグネシウム、ステアリン酸マグネシウム、サリチル酸マグネシウム、ミリスチン酸マグネシウム、グルコン酸マグネシウム、ジメタクリル酸マグネシウム、安息香酸マグネシウムなどが挙げられる。
【0035】
マグネシウムアルコキシドとして具体的にはマグネシウムメトキシド、マグネシウムエトキシドなどが挙げられる。
【0036】
マグネシウム源物質として、マグネシウムと他の金属元素を含む物質も用いることもできる。このような物質としては、例えばマグネシアスピネル〔MgAl24〕やチタン酸アルミニウムマグネシウムを挙げることができる。
【0037】
なおマグネシウム源物質は、原料由来或いは製造工程で混入する不可避不純物を含むものであってもよい。
【0038】
前記原材料混合物がさらにマグネシウム源物質を含む場合、マグネシア〔MgO〕換算のマグネシウム源物質の使用量は、全チタニア・アルミナ量100質量部あたり、通常0.1質量部以上10質量部以下であり、好ましくは8質量部以下である。
【0039】
シリコン源物質とは、シリコン元素を含む物質を言う。シリコン源物質としては、例えば二酸化ケイ素、一酸化ケイ素などの酸化ケイ素(シリカ)が挙げられる。また空気中で焼成することによりシリカに導かれる物質をシリコン源物質として用いることもできる。かかる物質としては、例えばケイ酸、炭化ケイ素、窒化ケイ素、硫化ケイ素、四塩化ケイ素、酢酸ケイ素、ケイ酸ナトリウム、オルトケイ酸ナトリウム、長石、ケイ素及びアルミニウムを含む複合酸化物、ガラスフリットなどが挙げられる。工業的に入手が容易である点で、長石、ガラスフリットなどが好ましい。シリコン源物質としてガラスフリットを用いる場合、製造されるチタン酸アルミニウム系セラミックスの耐熱分解性を向上させるという観点から、屈服点が700℃以上のガラスフリットを用いることが好ましい。
【0040】
シリカ換算のシリコン源物質の使用量は、全チタニア・アルミナ量100質量部あたり、0.1質量部以上20質量部以下であることが好ましく、より好ましくは1質量部以上10質量部以下である。
【0041】
本発明の方法では、前記チタン源物質と、前記アルミニウム源物質とを混合することによって原材料混合物を得ることができる。本発明の方法では、前記チタン源物質と、前記アルミニウム源物質と、前記マグネシウム源物質および/またはシリコン源物質とを混合することによって、原材料混合物を得ることが好ましい。
【0042】
混合の際には、通常用いられる混合機を用いることができ、例えば、ナウター混合機、レーディゲミキサー混合機のような攪拌混合機、フラッシュブレンダーなどのエアー混合機、ボールミル、振動ミルなどを用いることができる。混合方法は、乾式混合、湿式混合のいずれでもよい。
【0043】
乾式雰囲気で混合するには、例えばチタン源物質、アルミニウム源物質等の原材料を混合し、液体溶媒中に分散させること無く、粉砕容器内で撹拌すればよく、通常は粉砕メディアの共存下に粉砕容器内で撹拌する。
【0044】
粉砕容器としては通常、ステンレス鋼などの金属材料で構成された容器が用いられ、内表面がフッ素樹脂、シリコン樹脂、ウレタン樹脂などでコーティングされていてもよい。粉砕容器の内容積は、原材料混合物および粉砕メディアの合計容積に対して通常1容量倍以上4容量倍以下、好ましくは1.2容量倍以上3容量倍以下である。
【0045】
粉砕メディアとしては、例えば粒子径1mm以上100mm以下、好ましくは5mm以上50mm以下のアルミナボール、ジルコニアボールなどが挙げられる。粉砕メディアの使用量は、原材料混合物の使用量に対して通常1質量倍以上1000質量倍以下、好ましくは5質量倍以上100質量倍以下である。
【0046】
粉砕は、例えば粉砕容器内に原材料混合物および粉砕メディアを投入したのち、粉砕容器を振動させたり、回転させたり、或いはその両方により行われる。粉砕容器を振動または回転させることにより、原材料混合物が粉砕メディアと共に撹拌されて混合されると共に、粉砕される。粉砕容器を振動または回転させるためには、例えば振動ミル、ボールミル、遊星ミル、ピンミルなどの高速回転粉砕機、などの通常の粉砕機を用いることができ、工業的規模での実施が容易である点で、振動ミルが好ましく用いられる。粉砕容器を振動させる場合、その振幅は通常2mm以上20mm以下、好ましくは12mm以下である。粉砕は、連続式で行ってもよいし、回分式で行ってもよいが、工業的規模での実施が容易である点で、連続式で行うことが好ましい。粉砕に要する時間は通常1分以上6時間以下、好ましくは1.5分以上2時間以下である。
【0047】
原材料混合物を乾式にて粉砕するにあたっては、粉砕助剤、解膠剤などの1種以上の添加剤を加えてもよい。粉砕助剤としては、例えばメタノール、エタノール、プロパノールなどのアルコール類、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコールなどのグリコール類、トリエタノールアミンなどのアミン類、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸などの高級脂肪酸類、カーボンブラック、グラファイトなどの炭素材料などが挙げられる。
【0048】
添加剤を用いる場合、その合計使用量は、原材料混合物の使用量100質量部あたり通常0.1質量部以上10質量部以下、好ましくは0.5質量部以上5質量部以下、さらに好ましくは0.75質量部以上2質量部以下である。
【0049】
一方、湿式混合では、例えば、これらの原材料混合物を混合し、液体溶媒中に分散させることで行うことができる。混合は通常の液体溶媒中で攪拌処理のみでもよいし、粉砕メディアの共存下に粉砕容器内で攪拌してもよい。
【0050】
粉砕容器には、乾式混合用の容器と同様の容器を用いることができる。粉砕容器の内容積は、原材料混合物、粉砕メディア、および液体溶媒の合計容積に対して通常1容量倍以上4容量倍以下、好ましくは1.2容量倍以上3容量倍以下である。
【0051】
湿式混合の溶媒としては、水、イオン交換水、メタノール、エタノール、ブタノール、プロパノールなどの1級アルコール類や、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコールなどの2級アルコール類などの有機溶剤を用いることができる。なかでも、不純物が少ないため、イオン交換水が好ましい。溶媒の使用量は、前記原材料混合物量100質量部に対して通常20質量部以上1000質量部以下、好ましくは30質量部以上300質量部以下である。
【0052】
粉砕メディアとしては、乾式混合の場合と同様の粉砕メディアを使用することができ、その使用量は、原材料混合物の使用量に対して通常1質量倍以上1000質量倍以下、好ましくは5質量倍以上100質量倍以下である。
【0053】
原材料混合物を湿式にて粉砕するにあたっては粉砕助剤を添加してもよく、粉砕は、例えば粉砕容器内に原材料混合物、粉砕メディア、液体溶媒、および粉砕助剤を投入したのち、粉砕容器を振動させたり、回転させたり、或いはその両方により行われる。粉砕容器を振動または回転させることにより、原材料混合物が粉砕メディアと共に撹拌されて混合されると共に、粉砕される。粉砕容器は乾式粉砕と同様の容器を用いることができ、粉砕条件(粉砕容器の振幅幅、粉砕に要する時間等)は乾式粉砕と同様とすることができる。
【0054】
湿式で混合するに際して溶媒には分散剤を添加してもよい。分散剤としては、例えば硝酸、塩酸、硫酸などの無機酸、シュウ酸、クエン酸、酢酸、リンゴ酸、乳酸などの有機酸、メタノール、エタノール、プロパノールなどのアルコール類、ポリカルボン酸アンモニウムなどの界面活性剤などが挙げられる。分散剤を使用する場合、その使用量は溶媒100質量部あたり通常0.1質量部以上20質量部以下、好ましくは0.2質量部以上10質量部以下である。
【0055】
混合後、溶媒を除去(例えば、留去)することにより、均一に混合された原材料混合物を得ることができる。
【0056】
溶媒を除去するにあたり、温度、圧力条件は限定されず、室温にて原材料混合物を風乾してもよいし、真空乾燥してもよいし、加熱乾燥をしてもよい。また、乾燥条件も限定されず、静置乾燥でもよいし、流動乾燥でもよい。加熱乾燥をする際の温度は特に規定しないが、通常50℃以上250℃以下である。加熱乾燥に用いられる機器として、例えば棚段乾燥機、スラリードライヤー、スプレードライヤーなどが挙げられる。
【0057】
なお、湿式で混合するにあたり、用いたアルミニウム源物質等の原材料混合物の種類によっては溶媒に溶解することもあるが、溶媒に溶解したアルミニウム源物質等の原材料混合物は溶媒留去により、再び固形分となって析出する。
【0058】
得られた粉末状の原材料混合物は成形して原材料成形体としてもよい。成形してから焼成を行うことで、焼成中の成形体の収縮を抑えられ、成形体の割れを防止できる。成形に用いる成形機としては、一軸プレス、押出成形機(一軸押出成形機など)、打錠機、造粒機などが挙げられる。
【0059】
原材料混合物を成形して、原材料成形体を得る場合、原材料混合物に造孔剤、バインダー、潤滑剤や可塑剤、分散剤、溶媒などを添加することができる。
【0060】
造孔剤としては、例えばグラファイトなどの炭素材、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメタクリル酸メチルなどの樹脂類、でんぷん、ナッツ殻、くるみ殻、コーンなどの植物系材料、氷、ドライアイスなどが挙げられる。
【0061】
バインダーとしては、例えばメチルセルロース、カルボキシルメチルセルロース、ナトリウムカルボキシルメチルセルロースなどのセルロース類、ポリビニルアルコールなどのアルコール類、リグニンスルホン酸塩などの塩、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックスなどのワックス、EVA、ポリエチレン、ポリスチレン、液晶ポリマー、エンジニアリングプラスチックなどの熱可塑性樹脂などが挙げられる。なお、物質によっては造孔剤とバインダーの両方の役割を担うものがある。造孔剤とバインダーの両方の役割を担う物質としては、成形時には粒子同士を接着して成形体を保形させることができ、その後の焼成時にその物質自身が燃焼して空孔を形成させることができる物質が挙げられ、具体的にはポリエチレンなどが挙げられる。
【0062】
潤滑剤としては、例えば、グリセリンなどのアルコール系潤滑剤、カプリル酸、ラウリン酸、パルミチン酸、アラギン酸、オレイン酸、ステアリン酸などの高級脂肪酸、ステアリン酸アルミニウムなどのステアリン酸金属塩などが挙げられる。かかる潤滑剤は、通常可塑剤としても機能する。
【0063】
溶媒は、通常イオン交換水、メタノール、エタノールなどのアルコール類が用いられる。
【0064】
前記原材料混合物或いはその成形体を焼成して、チタン酸アルミニウムやチタン酸アルミニウムマグネシウムなどのチタン酸アルミニウム系セラミックスの焼成体を得る場合、焼成温度は通常1300℃以上、好ましくは1400℃以上である。一方、生成されるチタン酸アルミニウム系セラミックスの焼成体を加工し易いものにするため、焼結温度は、通常1650℃以下、好ましくは1600℃以下、より好ましくは1550℃以下とする。焼成温度までの昇温速度は特に限定されるものではないが、通常は1℃/時間以上500℃/時間以下であり、より好ましくは2℃/時間以上500℃/時間以下である。また焼成途中で、一定温度にて保持する過程を設けてもよい。
【0065】
焼成は通常、大気中で行われるが、原材料混合物の成分や成分量比によっては、窒素ガス、アルゴンガスなどの不活性ガス中で焼成してもよいし、一酸化炭素ガス、水素ガスなどのような還元性ガス中で焼成してもよい。また焼成雰囲気中の水蒸気分圧を低くして焼成してもよい。
【0066】
焼成は通常、管状電気炉、箱型電気炉、トンネル炉、遠赤外線炉、マイクロ波加熱炉、シャフト炉、反射炉、ロータリー炉、ローラーハース炉などの通常の焼成炉を用いて行われる。焼成は回分式で行ってもよいし、連続式で行ってもよい。また焼成は静置式で行ってもよいし、流動式で行ってもよい。
【0067】
焼成時間は、前記混合物が、チタン酸アルミニウム系セラミックスに遷移するのに要する時間以上であれば良く、前記混合物の量、焼成炉の形式、焼成温度、焼成雰囲気などにより異なるが、通常は10分以上72時間以下である。
【0068】
かくしてチタン酸アルミニウム系セラミックスの焼成体を得ることができる。
【0069】
本発明の製造方法で得られるチタン酸アルミニウム系セラミックスは、X線回折スペクトルにおいて、チタン酸アルミニウムの結晶パターンを含むが、その他に例えばシリカ、アルミナ、チタニアなどの結晶パターンを含んでいてもよい。チタン酸アルミニウム系セラミックスが、チタン酸アルミニウムマグネシウム(Al2(1-x)MgxTi(1+x)5)である場合、前記xの値は、チタニア換算のチタン源物質の使用量、アルミナ換算のアルミニウム源物質の使用量、およびマグネシア換算のマグネシウム源物質の使用量によって制御することができる。前記xの値は0.01以上であり、好ましくは0.01以上0.7以下、より好ましくは0.02以上0.5以下である。
【実施例】
【0070】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明は以下の実施例の様態のみに限定されるものではない。
【0071】
なお、各実施例、比較例で得られるチタン酸アルミニウム系セラミックス中のチタン酸アルミニウム化率(以下「AT化率」という。)は、粉末X線回折スペクトルにおける2θ=27.4°の位置に現れるピーク〔チタニア・ルチル相(110)面に対応する〕の積分強度(IT)と、2θ=33.7°の位置に現れるピーク〔チタン酸アルミニウム相(230)面およびチタン酸アルミニウムマグネシウム相(230)面に相当する〕の積分強度〔IAT〕を求め、式(1)から算出した。
AT化率(%)=100×IAT/(IAT +IT)・・・(1)
【0072】
また、各実施例、比較例で得られたチタン酸アルミニウム系セラミックスの粒子形状は、走査型電子顕微鏡〔SEM〕により観察した。
【0073】
チタン酸アルミニウム系セラミックス焼成体の熱膨張係数の値〔K-1〕は、実施例及び比較例で得られた焼成体から検体を切り出し、これを200℃/hの速度で600℃まで昇温した。その後、熱機械的分析装置〔TMA〕(SIIテクノロジー(株)社製「TMA6300」)を用いて、室温から1000℃まで600℃/hの速度で昇温させ、その間の熱膨張係数〔K-1〕を測定した。
【0074】
チタン酸アルミニウム系セラミックスの収縮率は、焼成前の原材料成形体の径をA、厚さをHとし、焼成後得られた焼成体の径をA、厚さをHとして、式(2)から求めた。
収縮率(%)=100×((H−H)+(A−A))/2・・・(2)
【0075】
実施例、比較例で原材料物質として用いるアルミニウム源物質のBET比表面積は、BET1点測定法により求めた比表面積のことを指す。また二次粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定装置〔日機装社製Microtrac HRA(X-100)〕により、体積基準で累計百分率50%相当粒子径(D50)として算出した。
【0076】
〔実施例1〕
BET比表面積が15.2m2/gである酸化チタン粉末〔デュポン(株) 製、「R−900」〕4810g、BET比表面積が0.6m2/g、二次粒子径43μmであるαアルミナ粉末4093g、マグネシア粉末〔宇部興産(株) 製、「UC−95S」〕405gおよび屈服点が852℃(カタログ値)であるガラスフリット〔タカラスタンダード(株)製、「CF−0043M2」〕693gを、直径15mmのアルミナボール80kgとともに、内容量50Lのアルミナ製粉砕容器に投入した。原料混合物の合計容量は10Lであった。その後、粉砕容器を振動ミルにより振幅10mm、振動数1200回/分、動力5.5kWにて30分間振動させることにより粉砕容器内の原料混合物を粉砕しながら混合した。この原材料混合物3gを一軸成形機にて、0.3t/cm2の成形圧力にて成形し、直径(A0)約20mm、高さ(H0)約5mmの原材料成形体を得た。この原材料成形体を大気中、箱型電気炉により昇温速度300℃/時間で1450℃まで昇温し、同温度を4時間保持することにより焼成した。その後、室温まで放冷して、実施例1のセラミックス焼成体を得た。また原材料混合物を同条件で焼成し、得られた焼成物について粉末X線回折法で回折スペクトルを求めたところ、AT化率は100%であった。また実施例1のセラミックス焼成体の収縮率と熱膨張率は、それぞれ8.6%、−0.72×10-6〔K-1〕であり、低熱膨張率と低収縮率を達成できた。また得られたチタン酸アルミニウムマグネシウムを(Al2(1-x)MgxTi(1+x)5)と表した場合のxの値は0.20であった。
【0077】
〔比較例1〕
実施例1で使用したαアルミナ粉末に代えて、BET比表面積が6.2m2/gのαアルミナ粉末〔住友化学(株)製、「AES−12」〕を用いた以外は、実施例1と同じ条件にて比較例1のセラミックス焼成体を得た。粉末X線回折法で回折スペクトルを求めたところ、AT化率は100%であった。また比較例1のセラミックス焼成体の収縮率と熱膨張率は、それぞれ11.4%、−0.14×10-6〔K-1〕であり、収縮率が大きくなった。また上記xの値は0.20であった。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明の製造方法で得られるチタン酸アルミニウムまたはチタン酸アルミニウムマグネシウムなどのチタン酸アルミニウム系セラミックスは、産業上様々な用途に用いることができる。用途としては、例えばルツボ、セッター、コウ鉢、炉材などの焼成炉用冶具、ディーゼルエンジン、ガソリンエンジンなどの内燃機関の排気ガス浄化に用いられるフィルターや触媒担体、ビールなどの食品の濾過用フィルター、石油精製時に生じるガス成分、一酸化炭素、二酸化炭素、窒素、酸素などを選択的に透過させるための選択透過フィルター等に用いられるセラミックスフィルター、基板、コンデンサーなどの電子部品などが挙げられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタン源物質およびアルミニウム源物質を含む原材料混合物を焼成してチタン酸アルミニウム系セラミックスを製造する方法であり、前記アルミニウム源物質のBET比表面積が0.1m2/g以上5m2/g以下である方法。
【請求項2】
前記アルミニウム源物質のBET比表面積が0.3m2/g以上3m2/g以下である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記原材料混合物を成形して原材料成形体を得、得られた原材料成形体を焼成する請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
チタニア換算のチタン源物質の使用量は、チタニア換算のチタン源物質の使用量およびアルミナ換算のアルミニウム源物質の使用量の合計100質量部あたり、30質量部以上70質量部以下である請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
チタン源物質のBET比表面積が0.1m2/g以上100m2/g以下である請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記原材料混合物が、さらにマグネシウム源物質を含む請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
マグネシア換算のマグネシウム源物質の使用量は、チタニア換算のチタン源物質の使用量およびアルミナ換算のアルミニウム源物質の使用量の合計100質量部あたり、0.1質量部以上10質量部以下である請求項6に記載の方法。
【請求項8】
原材料混合物が、さらにシリコン源物質を含む請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記シリコン源物質が長石またはガラスフリットである請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記ガラスフリットの屈服点が700℃以上である請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記原材料混合物に対し、さらに振動ミルを用いた混合を行う請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記振動ミルを用いた混合に際して、粉砕メディアとして粒子径1mm以上100mm以下のアルミナボールまたはジルコニアボールを用いる請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記振動ミルを、2mm以上20mm以下の振幅幅で振動させる請求項11または12に記載の方法。

【公開番号】特開2010−138060(P2010−138060A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−204163(P2009−204163)
【出願日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】