説明

チタン銅

【課題】めっき密着性に優れたチタン銅を提供する。
【解決手段】1.0〜4.5質量%のTiを含有し残部がCuおよび不可避的不純物から構成される銅合金に25〜500質量ppmのAlを添加することにより、めっき密着性に優れたチタン銅が得られる。このチタン銅の表面Al濃度を0.05〜1.0質量%に調整することにより、めっき密着性はさらに向上する。このチタン銅は、Fe、Sn、Ni、Ag、Mn、ZnおよびCrのなかの一種以上を、合計で0.3質量%以下含有することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
めっき密着性に優れるチタン銅に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子機器の各種端子、コネクタ、リレー、スイッチ等の素材には、電気伝導性とばね性が要求される。従来、コスト面を重視する用途では安価な「黄銅」が適用され、ばね特性が重視される用途では「りん青銅」が適用され、ばね特性と耐食性が重視される用途では「洋白」が適用されていた。ところが、近年の電子機器類およびその部品の小型化、薄肉化傾向に伴い、これらの素材では強度を満足できなくなり、ベリリウム銅やチタン銅などの高強度を有する高級ばね材の需要が増えている。
JIS−C1990に代表される「チタン銅」の製造プロセスでは、溶体化処理によりTiをCu中に固溶させた後、冷間圧延を行い、その後、時効処理を行う。この時効処理においてCuTiあるいはCuTiの微細粒子が析出し、耐力やばね限界値等の強度特性が向上する。
その後、チタン銅条はプレス加工され、コネクタ、リレー、スイッチ等の電子部品に組み込まれる。通常、チタン銅条の電気接点部には、電気接点としての信頼性を高めるために、プレス加工の前または後の工程でめっきが施される。めっきの種類としてはNi下地Auめっき等がある。
【0003】
従来のチタン銅に関する研究については高強度化を目的としたものが中心であり、例えば、NiおよびAlを添加する技術(特許文献1)、AlおよびMgを添加する技術(特許文献2)、Cr、Zr、NiおよびFeを添加する技術(特許文献3)等が提案されている。一方、チタン銅条のめっき特性に関する研究はほとんど報告されていない。
【特許文献1】特開昭50−53228号公報
【特許文献2】特開昭50−110927号公報
【特許文献3】特開2002−356726号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
チタン銅のめっき材には、りん青銅等のめっき材と比較し、めっき層と母材(銅合金条)との密着強度が弱いという欠点がある。この密着強度の差は比較的小さなものであり、従来は実用上問題になるものではなかった。しかし近年の電子部品の小型化に伴い、電気接点部における金属材料間の接触面積が小さくなっている。その結果、接点の電気特性により高い信頼性(より安定した接触抵抗等)が求められるようになり、チタン銅のめっき密着性改善が必要になった。本発明の課題は、めっき密着性に優れるチタン銅を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
発明者らは、チタン銅に微量のAlを添加し、時効およびその後の酸洗研磨を適当な条件で行うと、チタン銅表面にAlが適度な濃度で偏析し、めっき密着性が向上することを見出した。
【0006】
すなわち、本発明は、
(1) 1.0〜4.5 質量%のTiおよび25〜500質量ppmのAlを含有し、残部がCuおよび不可避的不純物からなり、めっき密着性に優れることを特徴するチタン銅,
(2) 表面のAl濃度が0.05〜1.0質量%であることを特徴とする上記(1)のチタン銅,
(3)Fe、Sn、Ni、Ag、Mn、ZnおよびCrのなかの一種以上を、合計で0.3質量%以下含有することを特徴とする上記(1)又は(2)のチタン銅,
を提供する。
【発明の効果】
【0007】
電子機器の各種端子、コネクタ、リレーまたはスイッチ等の素材として好適な、めっき密着性に優れるチタン銅を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下に本発明の限定理由を説明する。
Ti濃度
Ti濃度は合金に求める強度および導電率に応じて調整する。Tiが1.0質量%未満になると充分な強度が得られず、Tiが4.5質量%を超えると導電率が著しく低下する。従って、Ti濃度は1.0〜4.5質量%、好ましくは1.5〜3.5質量%とする。
Al濃度
チタン銅にAlを添加すると、めっき密着性が向上する。Alが25質量ppm以上になると、めっき密着性改善効果が発現する。一方、Alが500質量ppmを超えるとかえってめっき密着性が低下し、また導電率等の他の特性に対するAlの悪影響も生じる。そこで、Al濃度を25〜500質量ppmに規定する。
より好ましいAl濃度は50〜250質量ppmである。Alを50ppm以上に調整することでめっき密着性改善効果がさらに安定し、250ppm以下とすることで他の特性に対するAlの影響がさらに小さくなる。さらに好ましいAl濃度は50〜100質量ppmである。
なお、チタン銅へのAlを添加する試みは、特許文献1、2等にも見られるが、その目的は高強度化であり、これら文献の実施例で開示されている合金のAl濃度は、本発明が提唱するAl濃度より高い。すなわち、従来の研究は本発明の動機付けとなるものではない。
【0009】
表面のAl濃度
チタン銅中のAlはチタン銅表面に偏析する。めっき密着性向上は、この偏析したAlによるものである。したがって、Al添加チタン銅においてAlの表面偏析状態を制御することにより、良好なめっき密着性がさらに安定して得られる。本発明では、GDS(グロー放電発光分光分析装置)により測定した表面のAl濃度に基づき、Alの偏析状態を評価する。好ましい表面Al濃度は0.05〜1.0質量%である。
その他の添加元素
高強度のために、TiとAl以外の元素を添加できる。ただし、酸化皮膜の生成挙動に影響を及ぼすような活性元素を添加すると、本発明の効果が減少するため、Ca、Mg、Zr、P、B、Siといった活性元素の添加は避けるべきである。Alによるめっき密着性改善効果を阻害せず高強度化に有効な元素として、Fe、Sn、Ni、Ag、Mn、Zn、Crがある。とくにFeはチタン銅の強度改善に有効な元素である。これらの合計添加量は0.3質量%以下とする。0.3質量%を越える添加は、Alによるめっき密着性改善効果を阻害する。より好ましい添加量は0.15〜0.25質量%である。合計添加量を0.15%以上にすることで強度改善効果が明瞭になり、0.25質量%以下にすることで良好なめっき密着性がより安定的に得られる。
【実施例】
【0010】
以下、実施例により、発明の実施様態を説明する。
高周波真空溶解炉にて、電気銅を溶解して所定量のTi、Alさらにその他の元素を添加した後、この溶湯を金型に鋳込み厚さ30mm、幅60mm、長さ120mmのインゴットを作製した。インゴットの成分組成を表1に示す。これらインゴットを以下の工程で加工した。
【0011】
(工程1)950℃で3時間加熱した後、厚さ8mmまで熱間圧延した。
(工程2)熱間圧延板表面の酸化スケールをグラインダーで研削、除去した。
(工程3)板厚0.3mmまで冷間圧延した。
(工程4)溶体化処理として、800℃で10秒間、大気中で加熱し、水中で急冷した。
(工程5)酸洗処理として30質量%硫酸−1質量%過酸化水素水溶液に60秒間浸漬した後、#600エメリー紙を用い表面を機械研磨した。この機械研磨は酸洗時の腐食で生じた微細な表面凹凸が消え、均一な表面光沢が得られるまで行った。
(工程6)板厚0.2mmまで冷間圧延した。
(工程7)時効処理として電気炉を用い420℃で3時間加熱した。炉内の雰囲気はArガスとし、Arガスの露点を−25℃と−10℃の2水準で変化させた。
(工程8)酸洗処理として30質量%硫酸−1質量%過酸化水素水溶液に30秒間浸漬した後、#1200エメリー紙を用い表面を機械研磨した。この機械研磨は、酸洗時の腐食で生じた微細な表面凹凸が消え、均一な表面光沢が得られるまで行った。
(工程9)めっき前処理として、アルカリ水溶液中で試料をカソードとして電解脱脂を行なった後、10質量%硫酸水溶液に10秒間浸漬した。
(工程10)次の条件で厚み1μmのNi下地めっきを施した。
めっき浴組成: 硫酸ニッケル250g/L、塩化ニッケル45g/L、ホウ酸g/L。
めっき浴温度:50℃。電流密度:5A/dm。攪拌:5m/分。Niめっき厚みは、電着時間により調整。
(工程11)次の条件で厚み0.2μmのAuめっきを施した。
めっき浴組成:シアン化カリウム7g/L、シアン化金カリウム12g/L、界面活性剤5g/L。
めっき浴温度:60℃。電流密度:1A/dm。攪拌:5m/分。Auめっき厚みは、電着時間により調整。
このように作製した試料について、表面のAl濃度およびめっき密着性を評価した。
【0012】
(1)表面のAl濃度
工程8上がりの試料(めっき前試料)をアセトン中で超音波脱脂した後、GDS(グロー放電発光分光分析装置)により、Al濃度プロファイルを求めた。図1にAl濃度プロファイルの一例として、後述する発明例3および比較例1のデータを示す。測定条件は次の通りである。
・装置:JOBIN YBON社製 JY5000RF−PSS型
・Current Method Program:CNBinteel−12aa−0。
・Mode:Constant Electric Power=40W。
・Ar−Presser:775Pa。
・Current Value:40mA(700V)。
・Flush Time:20 sec。
・Preburne Time:2 sec。
・Determination Time:Analysis Time=30se、Sampling Time=0.020sec/point。
【0013】
(2)めっき密着性
工程11上がりの試料につき、そのめっき密着性をJIS H8504(2005年)に規定された次の2種類の方法で実施した。”曲げ試験方法”は端子・コネクタ用銅合金条のめっき密着性評価方法として一般的に用いられている方法であり、”半田付け試験方法”は、昨今のめっき密着性改善ニーズに対応すべく今回新たに採用したより厳しい試験方法である。
(2−1)曲げ試験方法
幅10mmの試料を90°に曲げて元に戻した後(曲げ半径0.4mm、Good Way方向)、光学顕微鏡(倍率10倍)を用いて曲げ部を観察し、めっき剥離の有無を判定した。めっき剥離が認められない場合を○、めっき剥離が生じた場合を×と評価した。
【0014】
(2−2)半田付け試験方法
黄銅のSnめっき板を試料表面(Auめっき面)に半田付けし、この黄銅Snめっき板を試料表面から引き剥がした。この場合、試料のめっき密着性が良好であれば、半田層中で剥離(破壊)が生じ、試料側の剥離面は灰色を呈する。一方、試料のめっき密着性が不十分な場合は、めっきと母材(チタン銅)との境界で剥離が生じ、試料側の剥離面は銅色を呈する。
試料側の剥離面を光学顕微鏡(倍率10倍)を用いて観察し、全体の面積に占める銅色の部分の面積を求めた。この面積率が5%以下の場合を○、5〜30%の場合を△、30%を超える場合を×と評価した。なお、本試験ではJIS H8504に記載されている”めっき面の表面研磨”は行わず、めっき面をアセトンで洗浄するだけに止めた。
【0015】
【表1】

【0016】
各試料の評価結果を表1に示す。発明例No.1〜32では、25〜500ppmのAlを添加し、露点−25℃のArガス中で時効を行い、その後上記条件で酸洗・研磨を行ったところ、表面のAl濃度が0.05〜1.0質量%の範囲に収まり、良好なめっき密着性が得られた。
【0017】
比較例1〜3は、従来の一般的なチタン銅に相当するものである。Alは25ppm未満であり、酸洗・研磨後の表面Al濃度も0.01質量%以下と低い。これらでは曲げ試験法(従来の試験法)ではめっき剥離が生じなかったが、半田付け試験法(厳しい試験法)においてめっき剥離が生じた。
【0018】
比較例4〜7は25ppm以上のAlを添加したが、時効の雰囲気ガスとして用いたArの露点が−10℃と悪かったため、酸洗・研磨後の表面のAl濃度が0.05質量%に達しなかったものである。これらでは半田付け試験法において若干のめっき剥離(△)が生じた。この結果より、(1)合金にAlを添加するだけでもめっき密着性改善効果は得られるが(比較例1〜3との比較)、より良好なめっき密着性を安定的に得るためには表面のAl濃度の制御も必要なこと、(2)合金が含有するAlを効果的に表面に濃化させるためには、時効での表面酸化を抑える必要があること、がわかる。なお、表面Al濃化が抑制された理由は、時効時の酸化損耗により表面近傍におけるAl濃度が低下したためと考えられた。
【0019】
比較例8はAlが25ppm未満と低いことに加え、露点−10℃のArガス中で時効を行ったものであり、曲げ試験法、半田付け試験法ともめっき剥離が生じた。
比較例9〜12は、Alが500ppmを超え、酸洗・研磨後の表面のAl濃度が0.1質量%を超えたものであり、曲げ試験法、半田付け試験法ともめっき剥離が生じた。高強度化のために多量のAlを添加したチタン銅(特許文献1、2等)のめっき密着性は、比較例9〜12のめっき剥離性のレベルに相当する。
比較例13は、TiとAl以外の元素の合計添加量が0.3質量%を超えたものであり、25ppm以上のAlを添加したもの関わらず、半田付け試験法でめっき剥離が生じた。
【0020】
比較例14は、りん青銅(JIS H3130で規定されたC5210)のめっき密着性を評価した結果である。りん青銅ではAl濃度が低くても良好なめっき密着性が得られており、めっき密着性改善がチタン銅の課題であることが示されている。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】発明例No.3および比較例No.1における表面のAl濃度プロファイルである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1.0〜4.5 質量%のTiおよび25〜500質量ppmのAlを含有し、残部がCuおよび不可避的不純物からなり、めっき密着性に優れることを特徴するチタン銅。
【請求項2】
表面のAl濃度が0.05〜1.0質量%であることを特徴とする請求項1のチタン銅。
【請求項3】
Fe、Sn、Ni、Ag、Mn、ZnおよびCrのなかの一種以上を、合計で0.30質量%以下含有することを特徴とする請求項1または2のチタン銅。

【図1】
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【公開番号】特開2007−254803(P2007−254803A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−79375(P2006−79375)
【出願日】平成18年3月22日(2006.3.22)
【出願人】(591007860)日鉱金属株式会社 (545)
【Fターム(参考)】