説明

チップ

【課題】検体中の成分を簡便で迅速に検出する。
【解決手段】チップ100は、基板に、試料中の成分を検出する検出部110が設けられた構成である。検出部110は、基板に設けられ成分を捕捉する捕捉部、捕捉部から上方に向かって設けられ試料が導入される流入路、および捕捉部から基板面内の異なる方向に延在するとともに流入路より幅狭に設けられ、試料が排出される複数の排出路を含む。捕捉部に成分を捕捉する捕捉物質が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チップに関し、特に、微生物を検出するチップに関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロ流体チップに関する技術として、特許文献1に記載のものがある。同文献に記載のマイクロ流体チップにおいては、マイクロチャンネル底面に10種類の生体分子(抗体)がチャンネル延在方向に沿って固定化された構成が示されている。
【特許文献1】特開2007−101221号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところが、上記特許文献1に記載のチップを用いて試料中の成分を検出しようとすると、以下の点で改善の余地があった。
まず、特許文献1のチップにおいては、基板面に水平な一方向に延在する流路中を試料が流れ、試料中の成分を流路の底部に固定化されている抗体により捕捉する構造となっている。このため、試料中の成分の抗体への衝突確率が低いことがあった。これにより、検出対象の成分が抗体に接触せずおよび捕捉されずに検出部を素通りしてしまい、捕捉効率が充分でない場合があった。
【0004】
また、上記捕捉効率を高めるために、試料の流速を低下させると、時間あたりの流量が低下することになるため、試料の処理速度が遅くなってしまう。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明によれば、
基板に、試料中の成分を検出する検出部が設けられたチップであって、
前記検出部が、
前記基板に設けられ、前記成分を捕捉する捕捉部と、
前記捕捉部から上方に向かって設けられ、前記試料が導入される流入路と、
前記捕捉部から基板面内の異なる方向に延在するとともに前記流入路より幅狭に設けられ、前記試料が排出される複数の排出路と、
を含み、
前記捕捉部に前記成分を捕捉する捕捉物質が設けられた、チップが提供される。
【0006】
本発明においては、試料が導入される流入路が捕捉部から上方に向かって配置されている。このため、検出対象の成分を含んだ試料が抗体等の固定化物質に対して検出部の上方から下向きに流れ込むことにより、捕捉部への成分の衝突確率を高めることができる。
また、流入路を捕捉部から上方に向かって配置するとともに、排出路を基板面方向に延在させた構成となっているため、試料が捕捉部の上方からチップに流入した試料が、捕捉部にて試料の流向を基板面方向に変更することになる。このため、試料中の成分と捕捉物質の接触率を高めることができるため、捕捉物質による成分の捕捉率を向上することができる。
【0007】
また、試料が捕捉部の上方から捕捉部に向かって流れ込む構成においては、捕捉部に導入された試料を効率よく捕捉部外に排出することが、試料の処理速度の向上の観点で重要となる。そこで、本発明においては、導入より幅狭の複数の排水路を基板面の異なる方向に配置している。これにより、流出路の抵抗を相対的に高め、捕捉部付近での試料の流速を相対的に遅くすることができる。よって、検体の捕捉率を向上することができる。また、複数の排出路により試料の排出流量を大きくすることができるため、処理速度を高めることができる。
【0008】
なお、これらの各構成の任意の組み合わせや、本発明の表現を方法、装置などの間で変換したものもまた本発明の態様として有効である。
【0009】
たとえば、本発明によれば、前記本発明におけるチップを用いた検出方法が提供される。
【発明の効果】
【0010】
以上説明したように本発明によれば、試料中の成分を簡便で迅速に検出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について、図面を用いて説明する。なお、すべての図面において、同様な構成要素には共通の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0012】
(第一の実施形態)
図1は、本実施形態のチップの構成を示す平面図である。図2は、図1のチップ100の検出部110を拡大して示す平面図である。図3(a)は、図1のチップ100の検出部110の捕捉部周辺の構成を示す平面図であり、図3(b)は図3(a)のA−A'断面図である。
【0013】
図1〜3に示したチップ100は、基板(接合基板101の基板141)に、試料中の成分を検出する検出部110が設けられたチップである。
本実施形態において、接合基板101は、基板141(図3(b))上に上板135(図7)を接合したものである。また、図1においては、1つの接合基板101に複数の検出部110が一列に配置されている。
検出部110は、捕捉部105、流入路103、および複数の排出路107を含む。
【0014】
捕捉部105は、接合基板101中の基板141に設けられ、検出対象の成分(検体)を捕捉する。捕捉部105は液溜状に形成されており、液溜の底部に、検出対象の成分を捕捉する捕捉物質が固定化されている。検出対象成分はたとえば微生物であり、このとき捕捉物質としてたとえば当該微生物に対する親和性を有する抗体が用いられる。
図1に示したチップ100においては、捕捉部105の平面形状が矩形である。捕捉部105の大きさは、たとえば矩形の縦、横を10〜5000μm、高さを10〜1000μmとする。
【0015】
流入路103は、捕捉部105から上方(鉛直上方)に向かって設けられている。流入路103から検出部110に試料が導入される。図3において、流入路103の直径は、たとえば10〜3000μmとする。
【0016】
複数の排出路107は、捕捉部105から基板面内の異なる方向に互いに延在している。複数の排出路107は、捕捉部105から基板面内に放射状に延びている。図1に示したチップ100では、捕捉部105の矩形の各辺に複数の排出路107が設けられている。同じ辺に設けられた排出路107は、当該辺に直交して互いに平行に延びている。また、同じ辺に設けられた排出路107は等間隔で設けられている。
【0017】
また、排出路107は流入路103より幅狭に設けられている。排出路107は、たとえば流路幅1〜500μm程度、流路高(深さ)1〜500μm程度に形成される。捕捉部105に導入された試料は排出路107から捕捉部外部に排出される。排出路107は、基板141と上板135との間に形成されている。
【0018】
また、検出部110は、接続流路109、環状流路111および廃液溜113をさらに含む。
環状流路111は、捕捉部105の外側に捕捉部105の周囲を取り囲んで設けられた環状の流路である。図1に示したチップ100においては、捕捉部105の平面形状に対応して、環状流路111も矩形の環状となっている。環状流路111は、たとえば基板141と上板135との間隙として形成される。
排出路107は、一端で捕捉部105に連通し、他端で環状流路111に連通している。
【0019】
また、環状流路111は、接続流路109を介して廃液溜113に連通している。流入路103から検出部110に導入された液体は、捕捉部105、排出路107、環状流路111および接続流路109をこの順に経由して廃液溜113に排出される。
【0020】
次に、図4〜図7を参照して、図1に示したチップの製造方法を説明する。本実施形態では、上板135としてポリジメチルシロキサン(PDMS)等のシリコンエラストマーを用い、PDMS加工用のモールド材料として、シリコンモールドを用いる方法を例示する。
【0021】
この方法は、以下の工程を含む。
第一工程:マイクロ流路チップ用シリコンモールドの作成
第二工程:PDMS製マイクロ流路チップ(接合基板101)の作成
第三工程:抗体の固相化
以下、各工程を順に説明する。
【0022】
(第一工程)
第一工程では、光リソグラフィー技術を用いて、上板135を形成するためのモールドを準備する。モールドは、シリコンウェーハ上にフォトレジストをパターニングすることにより形成される。また、レジスト材をそのまま流路用モールドとして使用する場合と、耐久性を向上させるため、その後エッチングの工程を行いシリコンそのものに加工を施しモールドとする場合がある。
【0023】
図4(a)〜図4(d)は、シリコンモールドの製造工程を示す断面図である。
まず、図4(a)に示したように、シリコンウェーハ115上に、スピンコート法によりフォトレジスト117を塗布する。フォトレジスト117の材料は上板135の材料等に応じて選択されるが、たとえばSU−8(SU-8 2000 MicroChem社製)等を用いる。
【0024】
次に、コンタクトリソグラフィーを用いて、フォトレジスト117上にマイクロ流路のパターンを描画したフォトマスク119を配置し、チップ100のマイクロ流路デザインをフォトレジスト117に露光・転写する(図4(b))。そして、現像により、シリコンウェーハ115上の所定の位置に選択的にフォトレジスト117を残す(図4(c))。そして、フォトレジストが残ったままのシリコン基板をモールドとして用いる。ただし、フォトレジストは強度的に脆弱な場合があるため、強度が必用な場合は、その後、フォトレジスト117をマスクとしてシリコンウェーハ115をエッチングし、シリコンモールド121を得てもよい(図4(d))。
【0025】
(第二工程)
第二工程では、第一工程で得られたシリコンモールド121を用いて上板135を作製し、PDMS製マイクロ流路チップ(接合基板101)を作製する。
【0026】
図5(a)〜図5(d)および図6(a)〜図6(e)は、接合基板101の作成手順を示す断面図である。
まず、第一工程で準備したシリコンモールド121を、シャーレ123等の所定の容器内に接着し、固定する(図5(a))。そして、クロスリンカー(化学架橋剤)および高分子(PDMS)を含む溶液をシャーレ123に注入する(図5(b))。シャーレ123に注入する溶液として、たとえばシリコンエラストマー作製キット等を用いることができ、具体的には、シルガード184(東レ・ダウコーニング社製)が用いられる。
【0027】
そして、シャーレ123を60〜70℃程度のオーブン内で約2〜3時間加熱する。この間、PDMSは架橋し、固形状の下層PDMS125となる。その後、シリコンモールド121の凸部の排出路107の端部に対応する位置つまりリザーバ部分に、針129が挿入されたチューブ127を垂直に挿入する(図5(c))。
【0028】
続いて、下層PDMS125上に上層PDMS131を形成する。図5(b)と同様にして、クロスリンカー(化学架橋剤)および高分子(PDMS)を含む溶液をシャーレ123に注入し(図5(d))、オーブン加熱することにより、下層PDMS125と上層PDMS131とが一体化し、流入路としてのチューブ127が固定されたPDMS層133を得る(図6(a))。
【0029】
次いで、チューブ127内の針129を除去し(図6(b))、PDMS層133をシャーレ123およびシリコンモールド121から取り出して、上板135を得る(図6(c))。得られた上板135と基板141とを接着することにより、マイクロ流路を有する接合基板101を得る(図6(e))。なお、基板141の材料は上板135の材料と同じでも異なってもよい。基板141の材料の具体例として、シリコン、ガラス、PDMSやポリスチレン等の樹脂が挙げられる。
【0030】
(第三工程)
第三工程では、第二工程で得られた接合基板101に、捕捉物質として機能する抗体を固定化する。図7(a)〜図7(c)は、抗体の固定化手順を示す図である。図7(a)〜図7(c)の各図において、右図は検出部110近傍の構成を示す平面図であり、左図は右図の排出路107に沿った断面を示す図である。
【0031】
まず、図7(a)に示したように、抗体を含んだリン緩衝溶液(たとえばPBS(Phosphate buffered saline)を接合基板101の捕捉部105に注入する。抗体を含んだPBSを検出部に充填した状態で、接合基板101を10分〜数時間程度放置し、抗体を固相化する(図7(b))。さらに、抗体を含んだPBSを排水しPBSのみを用いて数回洗浄を行う(図7(c))。こうして、基板141上に抗体層139が形成される。
【0032】
なお、図7(c)では、抗体が基板141上に層状に固定化された構成を例示したが、捕捉部105において検出対象物質を実用上支障ない程度に検知できる程度の抗体が捕捉部105に固定されていればよく、層をなしていなくてもよい。
【0033】
以上の手順により、図1に示したチップ100が得られる。なお、以上の方法では、抗体が捕捉部105から排出路107にわたって固定化されるが、抗体は捕捉部105の少なくとも一部の領域に設けられていればよい。また、抗体は捕捉部105の底面に物理的吸着により固定化していてもよいし、化学結合により固定化されていてもよい。
【0034】
得られたチップ100は、液体試料中の検出対象成分の有無または量を検出するセンサーとして用いることができる。
チップ100の捕捉部105に捕捉された成分を検知する装置の構成に特に制限はなく、たとえば汎用の蛍光顕微鏡を用いることができる。
【0035】
また、たとえば細菌数の計測にのみ用いる場合においては、蛍光検出装置を図8に示す構成としてもよい。図8においては、励起用光源からの出射光が、ダイクロイックミラー、鏡および対物レンズを経由してセンサーチップ(チップ100)の捕捉部105に照射される。捕捉部105からの出射光は、対物レンズを経由して鏡で反射し、ダイクロイックミラーを通過し、光学フィルターにより不要な光を排除し、結像レンズにより結像され、電荷結合素子(Charge Coupled Device:CCD)により検知される。
また、他の例として、表面プラズモン共鳴センサーを検出装置として用いることも可能である。
【0036】
次に、本実施形態の作用効果を説明する。
本実施形態においては、流入路103が基板の法線方向に延在して捕捉部105の上部から捕捉部105に液体試料が導入されるとともに、捕捉部105に導入された試料が、流入路103より細い複数の排出路107から基板面内方向に排出される構成となっている。このため、以下の作用効果が得られる。
【0037】
まず、流入路103を垂直方向に配置し、検体を含んだ試料が抗体等の固定化物質に対して鉛直方向から流入することで、基板141上に固定化された捕捉物質に、試料中の成分を効率よく接触させることができる。このため、捕捉部105における捕捉効率を高め、検出効率を向上させることができる。
さらに、捕捉部105において、試料の流れの主方向を基板に鉛直な方向から水平な方向へと直角に変える構成となっている。このため、捕捉部105における検出対象成分と固定化物質との接触効率が高まり、捕捉率が向上する。
【0038】
また、流入路103を捕捉部105の上部に配置した構造とすることにより、基板141と上板135との圧着後、捕捉物質を流入路103より検出部110に導入して捕捉部105に配置する加工法を容易に行うことが可能となる。また、基板141と上板135との接着部において、これらの間に捕捉物質の層が介在しないため、接着強度を高めることができる。
【0039】
また、本実施形態では、流入路103より細い複数の排出路107が設けられ、これらの排出路107が捕捉部105の端部から互いに異なる基板面内の複数方向に延びた構成となっている。このため、捕捉部105の内部から外部に排出される試料の流量を効果的に増し、処理速度を高めることができる。また、試料を捕捉部105の上部から導入する場合にも、排出路107の入口付近等に気泡や不純物が付着して排出路107が詰まるのを抑制し、捕捉部105からの試料の排液を確実に行うことができる。
また、排出路107を流入路103より細くすることにより、排出路107の抵抗をあげ、捕捉部105に固定化された抗体付近での試料の流速を遅くして、検出対象成分の捕捉率を向上させることができる。
【0040】
こうした作用効果は、複数の排出路107が放射状に設けられた構成において顕著に発揮される。
ここで、複数の排出路107が放射状に設けられているとは、複数の排出路107が捕捉部105から面内の異なる方向に広がっていることをいう。排出路107の平面配置は捕捉部105の形状等により決めてよく、たとえば図9(a)に示すように基板面内で捕捉部105の中心に対して線対称な配置であってもよいし、図9(b)に示すように基板面内で捕捉部105の中心に対して点対称な配置であってもよい。
【0041】
上記図9(a)および図9(b)は、捕捉部105および排出路107の構成例を示す平面図である。このうち、図9(a)は、図1〜図3に示したチップ100の構成に対応している。図9(a)のように、捕捉部105の矩形の各辺に複数の排出路107が連通する構成とすることにより、液体を各辺からより一層効率よく排出することができる。
【0042】
また、捕捉部105の平面形状は、矩形には限られず、たとえば正多角形としてもよい。また、図9(b)に示したように、円形としてもよい。図9(b)では、円形の流入路103の外周に排出路107が等間隔で配置され、各排出路107は捕捉部105との接続部において接線に垂直な方向に延びている。
【0043】
また、背景技術の項で前述した特許文献1に記載のチップでは、複数の流路が基板面に平行に配置されており、各流路の延在方向に対して直交して、生体分子が帯状に固定化されている。このようなチップは、構造上、2枚の基板を貼り合わせて製造することになる。具体的には、下の基板に生体分子を固定化した後、流路が加工された上の基板を接着することになる。このため、プラズマクリーナー等を用いた表面処理を施すことが困難であり、上下基板の接着性が低い場合があった。また、加熱等により接着強度を高めようとすると、固定化された生体分子が変性する懸念があった。また、基板の貼り合わせ以外の方法でチップを製造しようとすると、製造工程が煩雑であった。
【0044】
これに対し、本実施形態においては、捕捉部から鉛直方向に延びる流入路が設けられたチップ構成のため、接合基板101を形成した後、捕捉物質を捕捉部に固定化することが容易な構成となっている。このため、製造安定性に優れたチップを安定的に得ることができる。
【0045】
本実施形態は、たとえばバクテリア(細菌)、菌類等の微生物の検出に好適に用いられる。微生物の検出に用いたときの利点として、たとえば以下のことが挙げられる。以下においては、バクテリアを検出する場合を例に説明する。
(i)検出感度の向上
イムノクロマト法、酵素固定化免疫測定法(Enzyme-Linked Immuno Sorbent Assay:ELISA)法、ラテックス凝集法、DNAプローブ法等に比べて、バクテリアを微小な領域で捕捉することで、捕捉部におけるバクテリアの密度を高め、検出感度を向上させることができる。
(ii)全量検査が可能
イムノクロマト法、ELISA法、ラテックス凝集法、DNAプローブ法といった他方法では、全試料のうち抽出した試料についてしか検査することができないが、本実施形態のチップ101は試料を継続的に流入して検出対象の成分を捕捉する構造のため、試料の全量を用いた検査が可能である。このことにより検査の統計学的信頼性が向上する。
(iii)検出速度の高速化
バクテリアを流路中で捕捉し、直接検出することで、培養法、ポリメラーゼ連鎖反応(Polymerase Chain Reaction:PCR)法のような時間を要する工程が不要となり、測定全体に要する時間が高速化される。
(iv)標識試薬および捕捉物質(たとえば、抗体)の消費量の減少
抗体を固定化する領域が微小であるので、イムノクロマト法、ELISA法、ラテックス凝集法、DNAプローブ法等の方法に比べて、抗体の使用量が少なくてすむ。
さらに、検出対象の成分が微小領域に集中しているので、標識試薬として用いる蛍光試薬も少なくてすむ。
(v)生死菌の判別が可能
捕捉した成分を検知する際に、たとえば市販の蛍光染色試薬を用いて、生死菌の判別が可能となる。生死菌の判別が可能となることにより、たとえば食品衛生検査や抗菌剤の感受性試験等への応用が可能となる。
【0046】
以下の実施形態においては、第一の実施形態と異なる点を中心に説明する。
【0047】
(第二の実施形態)
第一の実施形態においては、PDMSをシリコンモールドにより加工して、チップ100の接合基板101を製造する方法を例示したが、樹脂の射出成型による接合基板101を製造してもよい。
【0048】
図10(a)、図10(b)、図11(a)および図11(b)は、本実施形態における接合基板の製造工程を示す断面図である。
【0049】
まず、マイクロ流路を配置した金型151に樹脂を射出し、基板153(図10(a))および上板155(図10(b))を成型する。その後、得られた両板(図11(a))を圧着または接着して、マイクロ流路チップ(接合基板157、図11(b))を得る。
その後の工程は、第一の実施形態で前述した第三工程に準じて行い、捕捉部105に抗体を固相化する。
【0050】
本実施形態における樹脂の射出成型による加工法は、第一の実施形態に記載の方法に比べて、たとえば量産する際の製造コストを低減する点でさらに効果的である。
【0051】
(第三の実施形態)
本実施形態は、接合基板101のさらに別の製造方法に関する。本実施形態では、フォトリソグラフィー技術を用いて接合基板を得る。
【0052】
図12(a)〜図12(d)、図13(a)および図13(b)は、本実施形態における接合基板の製造工程を示す断面図である。
【0053】
まず、図12(a)に示したように、基板161上にレジスト163を成膜し(図12(a))、フォトマスク165を用いて(図12(b))レジスト163を選択的に除去する(図12(c))。こうして所定の形状に加工されたレジスト163をマスクとして、基板161をエッチング等により加工する(図12(d))。
【0054】
また、要求される加工精度や加工形状により、リソグラフィー、切削または射出成型等の加工法を選択し、上板169の成型を行う。
【0055】
そして、基板161上の所定の位置に上板169を配置して(図13(a))、圧着することにより、接合基板171を得る(図13(b))。
その後の工程は、第一の実施形態で前述した第三工程に準じて行い、捕捉部105に抗体を固相化する。
【0056】
以上、図面を参照して本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【0057】
たとえば、基板を含むチップの素材として使用可能な材料の例としては、ガラス、石英ガラス、シリコンおよび樹脂が挙げられる。
【0058】
また、以上の実施形態においては、バクテリアを検出する場合を主に例示したが、検出対象はバクテリアには限られず、ウイルス等の他の微生物としてもよい。また、タンパク質、核酸等の生体高分子や他の生体分子、生体分子に対する親和性を有する化合物等も対象となる。
【0059】
また、以上の実施形態においては、検出対象を捕捉して基板上に固定化する捕捉物質として、微生物に対する抗体を代表例に挙げたが、検出対象の成分に対して相互作用するものであればこれには限られず、たとえば検出対象の成分に対する特異的相互作用を有する物質が挙げられる。このような物質は、検出対象の成分に応じて適宜選択されるが、たとえば人工抗体(Molecular imprint)が挙げられる。
【0060】
また、以上の実施形態においては、マイクロ流路チップの加工法として、上記のPDMS法、射出成型法およびフォトリソグラフィー法を代表例に挙げたが、これらの加工法には限られず、加工精度や製造コストに応じて適宜選択されるが、たとえばホットエンボス法が挙げられる。
【実施例】
【0061】
(実施例1)
本実施例では、2つの方法で大腸菌の検出実験を行った。
図14(a)および図14(b)は、本実施例における検出方法を説明する斜視図である。
【0062】
図14(b)では、第一の実施形態に記載の方法に準じて、マイクロ流路チップを作製した。チップの構成を以下に示す。
基板141の材料:ガラス
上板135の材料:PDMS
流入路103の直径:300μm
捕捉部105の大きさ:2mm
排出路107:幅20μm、深さ10μm
捕捉物質:抗体(抗大腸菌抗体;Goat IgG; GeneTex社)
検出対象成分:大腸菌
検出方法:蛍光顕微鏡観察
【0063】
このマイクロ流路チップの捕捉部に大腸菌を含んだリン酸緩衝液の試料(106個/mL)を注入し、抗原抗体反応による大腸菌の捕捉を行った後、リン酸緩衝液により捕捉部を洗浄した。
【0064】
また、比較のため、捕捉部を流路の一部に配置したチップを用いて、上記方法に準じて大腸菌の検出を行った。図14(a)は、捕捉部を流路の一部に配置した場合の検出方法を説明する図である。
【0065】
図15(a)は、図14(a)に示したチップの捕捉部の蛍光顕微鏡観察結果を示す図である。図15(a)より、図14(a)に示したチップを用いた場合、捕捉部に捕捉された大腸菌が少ないことがわかる。
【0066】
一方、図15(b)は、図14(b)に示したチップの捕捉部の蛍光顕微鏡観察結果を示す図である。図14(b)に示したチップを用いた場合、図15(a)に比べて非常に多くの大腸菌が捕捉されていることが図15(b)よりわかる。また、図15(b)より計数された捕捉された大腸菌数は約150個であった。
図14(b)に示したチップを用いることにより、一方向に延在する流路の一部に捕捉部を設けて流路に試料を流す図14(a)の方法に比べて、捕集効率が著しく高まることがわかる。
【0067】
(実施例2)
本実施例では、図14(b)に示したチップを用いて、複合蛍光染色法と蛍光観察による大腸菌検出と生死判定を行った。
チップによるバクテリアの捕捉は、実施例1に記載の方法に準じて行った。試料として、大腸菌を含んだリン酸緩衝液(107個/mL)を用いた。また、バクテリアに対する抗体として抗大腸菌抗体、Goat IgGを用いた。本実施例においても、試料を注入し、抗原抗体反応による大腸菌の捕捉を行った後、リン酸緩衝液により捕捉部を洗浄した。
【0068】
その後、複合蛍光染色法を用いて、特異的に捕捉された大腸菌の生死と個体数を判別した。複合蛍光染色試薬として、LIVE/DEAD BacLight(商標) Bacterial Viability Kits(Invitrogen社製)を用いた。
【0069】
複合蛍光染色試薬を含む緩衝溶液をチップの捕捉部に導入した。複合蛍光染色試薬は、緑色蛍光のSYTO9色素と赤色蛍光のよう化プロビジウム色素を含んでおり、これらは膜透過性に違いがある。SYTO9は生死菌両方の膜を透過し緑色に染色する。一方、よう化プロビジウムは死菌のダメージを受けた膜のみを透過し赤色に染色する。また、両方の色素がバクテリア中に存在すると、SYTO9の蛍光は減衰する。従って、細菌が生存していれば、複合蛍光試薬は緑色に蛍光し、細菌が死亡しているなら、複合蛍光試薬は、赤色に蛍光する。分子化学反応に、10分要した後、バクテリア抗体グレーティング部の蛍光顕微鏡観察を行った。
【0070】
図16(a)〜図16(c)は、観察結果を示す図である。図16(a)は、すべての菌の観察結果を示し、図16(b)および図16(c)は、それぞれ、図16(a)の画像解析により生菌および死菌を抽出した結果を示す。
【0071】
図16(a)〜図16(c)より、本実施形態においても、大腸菌を短時間で感度よく検出することができた。また、蛍光固体の色、個数、場所を検出することで、抗体により特異的に捕捉された細菌の個体数、生死を一度に検出することができる。
【0072】
(実施例3)
本実施例では、大腸菌の抗菌剤感受性試験を行った。具体的には、実施例2で大腸菌を捕捉したチップの捕捉部に、抗菌剤(セファム系抗生物質製剤「パンスポリン」武田薬品工業社製、濃度:10g/L)を投与し、捕捉部に捕捉されている大腸菌の生死の経過観察を行った。観察は実施例2に記載の方法に準じて行った。
【0073】
図17(a)〜図17(c)は、順に、抗菌剤投与直後、2時間後および4時間後の観察結果を示す図である。図17(a)〜図17(c)より、抗菌剤を投与してから時間が経過するにつれ、死菌が増加し生菌が減少する過程を直接把握できることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】実施形態におけるチップの構成を示す平面図である。
【図2】図1のチップの検出部を拡大して示す平面図である。
【図3】図1のチップの検出部の捕捉部周辺の構成を示す図である。
【図4】実施形態におけるシリコンモールドの製造工程を示す断面図である。
【図5】実施形態における接合基板の製造工程を示す断面図である。
【図6】実施形態における接合基板の製造工程を示す断面図である。
【図7】実施形態におけるチップへの抗体の固定化方法を説明する図である。
【図8】実施例における検出装置の構成を示す図である。
【図9】実施形態におけるチップの捕捉部および排出路の構成を示す平面図である。
【図10】実施形態における接合基板の製造工程を示す断面図である。
【図11】実施形態における接合基板の製造工程を示す断面図である。
【図12】実施形態における接合基板の製造工程を示す断面図である。
【図13】実施形態における接合基板の製造工程を示す断面図である。
【図14】実施例におけるチップを用いた検出方法を説明する図である。
【図15】実施例におけるチップの捕捉部の観察結果を示す図である。
【図16】実施例におけるチップの捕捉部の観察結果を示す図である。
【図17】実施例におけるチップの捕捉部の観察結果を示す図である。
【符号の説明】
【0075】
100 チップ
101 接合基板
103 流入路
105 捕捉部
107 排出路
109 接続流路
110 検出部
111 環状流路
113 廃液溜
115 シリコンウェーハ
117 フォトレジスト
119 フォトマスク
120 試料
121 シリコンモールド
123 シャーレ
125 下層PDMS
127 チューブ
129 針
131 上層PDMS
133 PDMS層
135 上板
137 抗体液
139 抗体層
141 基板
151 金型
153 基板
155 上板
157 接合基板
161 基板
163 レジスト
165 フォトマスク
169 上板
171 接合基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板に、試料中の成分を検出する検出部が設けられたチップであって、
前記検出部が、
前記基板に設けられ、前記成分を捕捉する捕捉部と、
前記捕捉部から上方に向かって設けられ、前記試料が導入される流入路と、
前記捕捉部から基板面内の異なる方向に延在するとともに前記流入路より幅狭に設けられ、前記試料が排出される複数の排出路と、
を含み、
前記捕捉部に前記成分を捕捉する捕捉物質が設けられた、チップ。
【請求項2】
請求項1に記載のチップにおいて、
前記複数の排出路が、前記捕捉部から前記基板面内に放射線状に延びている、チップ。
【請求項3】
請求項1または2に記載のチップにおいて、
前記捕捉部の平面形状が矩形であって、
前記矩形の各辺から、複数の前記排出路が辺に直行して延びる、チップ。
【請求項4】
請求項1乃至3いずれかに記載のチップにおいて、
前記検出部が、
前記基板に設けられ、前記捕捉部の外周を取り囲む環状流路と、
前記環状流路に連通する廃液溜と、
をさらに含み、
前記複数の排出路が、前記環状流路に連通する、チップ。
【請求項5】
請求項1乃至4いずれかに記載のチップにおいて、一つの前記基板に前記検出部が複数設けられた、チップ。
【請求項6】
請求項1乃至5いずれかに記載のチップにおいて、前記成分が微生物であって、前記捕捉物質が前記微生物に対する抗体である、チップ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2009−210392(P2009−210392A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−53209(P2008−53209)
【出願日】平成20年3月4日(2008.3.4)
【出願人】(506027941)株式会社ESPINEX (6)
【Fターム(参考)】