説明

チャック機構、搬送装置及び周波数調整装置

【課題】搬送装置において、ガイドレールに対してキャリアを適切な位置に保持して搬送するためのチャック機構を提供する。
【解決手段】キャリアの端面と磁気結合して駆動機構によって所定の方向(x軸方向)に移送されるチャック機構であって、駆動機構に固定されるアームベース、アームベースの支点に対して回転可能に保持され、上記端面に対向配置されるマグネット部、及び支点に対するマグネット部の回転を弾性力によって規制する弾性部材を備えたチャック機構である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板を搭載するキャリアを搬送する搬送装置、そこで使用されるチャック機構、及びその搬送装置を用いた周波数調整装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図7に圧電素子等の周波数調整装置に用いられる従来の搬送装置を示す。図7において、周波数調整装置は、チャック機構60及び駆動機構20からなる搬送装置、及びガイドレール70に誘導され処理対象基板を搭載するキャリア40、並びにキャリア40の下方からイオンビームを照射するイオンガン50からなる。
なお、本明細書では、キャリア40の搬送方向をx軸、x軸に垂直であって基板面を定義する軸をy軸、x軸及びy軸に垂直な方向をz軸とする。
【0003】
駆動機構20はガイドレール70に平行に(即ち、x軸方向に)配置されたボールネジからなり、このボールネジに沿ってチャック機構60が移送される。チャック機構60はアームベース61及びマグネット部63からなる。キャリア40の端面41は磁性体からなり、マグネット部63と結合することができる。また、キャリア40には多数の基板45を整列保持するための開口部が設けられている(図6参照)。
【0004】
図6は一般的な周波数調整装置を示す図である。周波数調整装置は、仕込取出し室51及び処理室52からなり、基板45を搭載したキャリア40は仕込取出し室51から処理室52に搬入される。処理室52は上記の構成に加えて、コンタクト53、マスク54、シャッタ55、制御部56等からなる測定手段を含む。この測定手段によって各基板45(圧電素子等)の動作周波数が測定され、その周波数が所望の値となるように、イオンガン50から基板45の列にイオンビームが照射される。
【0005】
図7に示すように、チャック機構60がキャリア40を牽引してx軸方向に搬送することにより、基板45の列が順次イオンガン50によって処理される。
【0006】
このようなチャック機構ないし搬送装置は周波数調整装置に限らず、例えば特許文献1に示すように、種々の搬送システムにおいて使用され得るものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平3−124625号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、図7のような搬送装置においては、ガイドレール70とキャリア40との摺動性を担保するために、ガイドレール70を構成する寸法(例えば内幅)とキャリア40の寸法(例えば外幅)に遊びを持って設計される。
【0009】
ここで、この遊びの範囲でキャリア40がガイドレール70に対して斜めに傾いて進入してきた場合を想定する。図8はこの場合を誇張して示すものである。図示するように、マグネット部63とキャリア端面41とは平行となっていないため、両者は実質的に点で接触・結合することになる。そして、この状態でチャック機構60がキャリア40を牽引しようとすると、その結合力の弱さからキャリア40はマグネット部63から離脱してしまう。
また、離脱しなかったとしても、キャリア40はガイドレール70の遊びの範囲で斜めを向いた状態で、即ち、基板45の列がy軸に平行に揃わない状態で牽引されることになる。イオンガン50はy軸方向にイオンビーム照射位置が並ぶように設定されているので、基板45がy軸に対して平行でない場合には正確な周波数調整ができない。
【0010】
また、上記はキャリア40がx−y平面内で傾く場合を述べたが、x−z平面内又はy−z平面内で傾く場合も同様の問題が起こる。
このように、従来の搬送装置では、正しい向きで進入しないキャリアを搬送できない、あるいは、搬送できたとしても正しい角度に規制して搬送することができないという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1の側面は、キャリア(40)の端面と磁気結合して駆動機構(20)によって所定の方向(x軸方向)に移送されるチャック機構(10)であって、駆動機構に固定されるアームベース(11)、アームベースの支点に対して回転可能に保持され、上記端面に対向配置されるマグネット部(13)、及び支点に対するマグネット部の回転を弾性力によって規制する弾性部材(14)を備えたチャック機構である。
【0012】
ここで、支点を構成する支点部材(12、121)がアームベース上に固定され、マグネット部(13)は、磁性体を有するマグネットバー(131)、支点部材に取り付けられる軸受(132)、及びマグネットバーと軸受を結合するハウジング(133)からなる。さらに、軸受を球面軸受とするのが望ましい。
【0013】
また、弾性部材(14)が引張り荷重を受ける第1及び第2の弾性体(141、142)からなり、第1及び第2の弾性体の各一端がハウジングの対称位置に取り付けられ、各他端がアームベースに取り付けられるようにした。
ここで、第1及び第2の弾性体の弾性軸が軸受の回転中心を通るように第1及び第2の弾性体が配置されたることが望ましい。
さらに、マグネットバーを水平に保持する力を加えるための第3の弾性体(143)を含んでいてもよい。
【0014】
本発明の第2の側面は、上記第1の側面のチャック機構(10)、及び駆動機構(20)を備えた搬送装置である。
さらに、キャリアの移動をx軸方向に規整するためのガイドレール(31、32)を備え、チャック機構の一部(例えば、ベアリング114)がガイドレールを摺動するように構成してもよい。
【0015】
本発明の第3の側面は、上記第2の側面の搬送装置(10、20)、及びキャリア上の基板にイオンビームを照射するためのイオンガン(50)を備えた周波数調整装置である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明実施例の周波数調整装置を示す図である。
【図2】本発明実施例を説明する図である。
【図3】本発明実施例のチャック機構の鳥瞰図である。
【図4】本発明実施例のチャック機構の分解図である。
【図5】本発明実施例のガイドレールの鳥瞰図である。
【図6】一般的な周波数調整装置を説明する図である。
【図7】従来の周波数調整装置を示す図である。
【図8】従来技術を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1は本発明実施例の搬送装置を示す図である。搬送装置は、キャリア40の端面41と磁気結合するチャック機構10、及びチャック機構10をx軸方向に移動させる駆動機構20(例えば、ボールネジ)を備える。図7の従来の搬送装置とは、チャック機構が異なる。またさらに、ガイドレールにも改良が加えられる。なお、チャック機構10並びにガイドレール以外の構成は図7のものと同様であるのでその説明を省略する。また当然に、図1の搬送装置は図6の周波数調整装置において使用できるものである。
【0018】
図1に示すように、チャック機構10は、駆動機構20に固定されるアームベース11、アームベース11に固定された支点部材12、支点部材12を支点として(仮に何も干渉するものがなければ)回転可能に保持され、キャリア40の端面41に対向して配置されるマグネット部13、及びマグネット部13の回転を弾性力によって規制してマグネット部13の長手方向をy軸方向に保持するための弾性部材14を備える。
【0019】
ここで、例えば図2のように、キャリア40がガイドレール31及び32に対して斜めに進入してきた場合を想定する。もちろん、図面におけるキャリア40のx軸に対する傾きは、説明の便宜上、実際の傾きよりも誇張して示してある。
まず、(a)のように、マグネット部13とキャリア端面41の引力により、マグネット部13が支点部材12に関して回転し、マグネット部13とキャリア端面41が面で結合する。この時、2つの弾性部材14は通常よりも伸びている。
次に、(b)のように、弾性部材14の縮む力によりマグネット部13の長手方向端面は当初の位置、即ち、y軸に平行な位置に戻る。これにより、キャリア40は当初予定していたようにガイドレール31及び32に正しく収容される。
【0020】
次に、チャック機構10について詳細を説明する。
図3に本発明のチャック機構10の鳥瞰図を示す。アームベース11は第1〜第3のベース111〜113からなる。なお、各ベースの分割又は結合は適宜定めればよい。支点部材12はz軸方向に伸長するベアリングシャフト121からなり、第2のベース112に対して固定されている。ベアリング114は一方のガイドレール31に組み込まれて摺動するものとする。これにより、アームベース11のz方向への沈みが抑制される。
【0021】
マグネット部13はマグネットバー131、ベアリングシャフト121に取り付けられる球面軸受132(図3には不図示、図4参照)、マグネットバー131と球面軸受132を結合するハウジング133及び取付け部材134からなる。この構成により、マグネット部13は、何も干渉するものがないと仮定すると全方向に回転可能に保持されることになる。
【0022】
弾性部材14は引張り荷重を受ける第1及び第2の引張りバネ141及び142からなり、第1及び第2の引張りバネ141及び142の各一端がハウジング133を挟んでその対称位置に取り付けられ、各他端がアームベース11(第2のベース112)に取り付けられている。ここで、第1及び第2の引張りバネ141及び142の弾性軸は、球面軸受132の回転中心を通るように向けられるのが望ましい。そのような引張りバネの配置により、引張りバネの力を最も効率良く回転の規制に作用させることができる。
なお、最も好適な例として上記を示したが、第1及び第2の引張りバネの取付け位置及び角度は適宜選択可能である。
【0023】
図4は図3のチャック機構10の分解図である。マグネットバー131はマグネット取付け板131a、マグネット131b、及びマグネット押え131cからなる。球面軸受132はハウジング133とベアリングシャフト121の間に介在する。ここで球面軸受132を軸受として使用することにより、マグネットバー131がベアリングシャフト121に対して全方向に回転可能となる。
なお、マグネットバー131をベアリングシャフト121に対して全方向でなくx−y平面内のみでの回転としたい場合は、球面軸受の替わりに筒形の軸受を用いればよい。
【0024】
弾性部材14の1つとして、マグネットバー131を水平に保持する力を加えるための第3の弾性体143を含むことが望ましい。第3の弾性体143は重力に反発する力を加えることより、マグネットバー131がその重力で下を向くのを防止するものである。図4の実施例では、第3の弾性体143は圧縮バネである。同実施例では、構成を簡素なものとするために、圧縮バネ143がハウジング133全体を支持するようにベアリングシャフト121の外周部に配置されているが、例えば、ハウジング133のマグネットバー131寄りの点を支持するような構成としてもよいし、その点を引張りバネによって上部から吊り下げる等してもよい。
【0025】
上記実施例によると、キャリア40がガイドレール31及び32に対して斜めに傾いて進入してきた場合であっても、キャリア40がチャック機構10から離脱することなく搬送することができる。また、そのような場合であっても、キャリア40が斜めに向いたまま牽引されることがなく、常にキャリア40と各軸との直交を担保することができる。
さらに、上記実施例のキャリア搬送速度は常に支点部材12(ベアリングシャフト121)の速度、即ち、ボールネジ20の駆動速度に一致するので、キャリア搬送速度も正確に制御することができる。
【0026】
また、本発明においては、一方のガイドレール31を基準(即ち、x軸を規定するもの)とし、他方のガイドレール32には図5に示すようにスプリング付きベアリング33を設けた。このスプリング付きベアリング33により、キャリア40がガイドレール31に押し当てられ、マグネット部13の長手方向をy軸方向に整え、キャリア上の基板をx軸及びy軸に平行に整列させることができる。また、第3の弾性体143と上記ガイドレール構成31〜33によってチャック機構10のz方向にかかる力(例えば、重力)を調整することができる。
【0027】
上記の特徴により、本発明のチャック機構を周波数調整装置に用いた場合、キャリア40に搭載された基板45が確実にx軸及びy軸に直交した状態で所望の速度で搬送されるので、各基板上の素子の正確な周波数調整を行うことができる。
【0028】
なお、本発明のチャック機構の代表的使用例として圧電素子等の周波数調整装置を示したが、本発明の搬送装置は、ガイドレール上でキャリアを搬送するためのあらゆる装置に適用することができ、上記と同様の効果を期待できる。
【0029】
上記各実施例においては、最も好適な例として、駆動機構20にボールネジを用いるものを示したが、チャック機構10をx軸方向に移動させることができれば他のモーション技術を用いてもよい。
また、弾性部材14として各種バネを用いたが、ゴム等の他の弾性体を用いてもよい。
上記の説明では、マグネットバー131を磁石、キャリア端面41を磁性体金属としたが、両者が磁気結合できればよい。例えば、どちらか一方を磁石、他方を磁石でない金属としてもよく、また両者を磁石としてもよい。
【符号の説明】
【0030】
10.チャック機構
11.アームベース
12.支点部材
13.マグネット部
14.弾性部材
20.駆動機構
31、32.ガイドレール
33.スプリング付きベアリング
40.キャリア
41.キャリア端面
45.基板
50.イオンガン
51.仕込取出し室
52.処理室
53.コンタクト
54.マスク
55.シャッタ
56.制御部
111.第1のベース
112.第2のベース
113.第3のベース
114.ベアリング
121.ベアリングシャフト
131.マグネットバー
131a.マグネット取付け板
131b.マグネット
131c.マグネット押え
132.球面軸受
133.ハウジング
134.取付け部材
141、142.引張りバネ
143.圧縮バネ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャリアの端面と磁気結合して駆動機構によって所定の方向(x軸方向)に移送されるチャック機構であって、
該駆動機構に固定されるアームベース、
該アームベース上の支点に対して回転可能に保持され、前記端面に対向配置されるマグネット部、及び
該支点に対する該マグネット部の回転を弾性力によって規制する弾性部材
を備えたチャック機構。
【請求項2】
請求項1のチャック機構において、
前記支点を構成する支点部材が前記アームベースに固定され、前記マグネット部が、磁性体を有するマグネットバー、該支点部材に取り付けられる軸受、及び該マグネットバーと該軸受を結合するハウジングからなるチャック機構。
【請求項3】
請求項2のチャック機構において、前記軸受が球面軸受であるチャック機構。
【請求項4】
請求項2のチャック機構において、
前記弾性部材が引張り荷重を受ける第1及び第2の弾性体からなり、該第1及び第2の弾性体の各一端が該ハウジングの対称位置に取り付けられ、各他端が前記アームベースに取り付けられたチャック機構。
【請求項5】
請求項4のチャック機構において、前記第1及び第2の弾性体の弾性軸が前記軸受の回転中心を通るように該第1及び第2の弾性体が配置されたチャック機構。
【請求項6】
請求項4のチャック機構において、さらに、前記マグネットバーを水平に保持する力を加えるための第3の弾性体を含むチャック機構。
【請求項7】
請求項1記載のチャック機構、及び前記駆動機構を備えた搬送装置。
【請求項8】
請求項7の搬送装置であって、さらに、前記キャリアの移動をx軸方向に規整するためのガイドレールを備え、前記チャック機構の一部が該ガイドレールを摺動するように構成された搬送装置。
【請求項9】
請求項7の搬送装置、及び該キャリア上の基板にイオンビームを照射するためのイオンガンを備えた周波数調整装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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