説明

チャック装置

【課題】工作機械の高速回転時においてもナットのチャック本体に対する芯ずれを抑え、工具の芯振れを防止可能なチャック装置を提供する。
【解決手段】工作機械の回転主軸に固定され、先端部にテーパ穴20を有するチャック本体2と、テーパ穴20に挿嵌され、工具Tを把持するよう縮径可能なコレット3と、チャック本体2に螺着可能で、コレット3を締め付けるナット4とを備え、工作機械の主軸回転時にナット4のチャック本体2側に対する径方向への当接により相対移動を抑制する芯ずれ防止手段が、ナット4の螺着部40よりも後端側の内周面あるいは外周面に形成された第一ナット後端側テーパ面4aと、ナット4の螺着時に第一ナット後端側テーパ面4aと当接する、チャック本体2に形成されたチャック本体側テーパ面2aとによって構成されるチャック装置1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械の回転主軸に工具を取り付けるためのチャック装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
マシニングセンタやフライス盤等の工作機械の回転主軸には、一般的にチャック装置を介して工具が取り付けられる。チャック装置の一例として、特許文献1に記載されているものを図6に示す。このチャック装置101のように、チャック本体102、コレット103及びナット104からなるものはよく知られている。ここで、ナット104はコレット103を締め付けて工具Tを把持するために、チャック本体102に螺着されるものである。
【0003】
ナット104はコレット103を締め付けて縮径させる役割を有するので、径方向内側に力を及ぼす構造にする必要がある。特許文献1に記載の発明は、このような課題を受けて、コレット103に形成したテーパ面103aとナット104に形成したテーパ面104aとが螺着時に当接するよう構成されている。すなわち、コレット103とナット104とがテーパ面で当接することにより、コレット103を軸方向に押圧するとともに、径方向内側に締め付けることができるようにしたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−219310
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図6に示した工具Tの把持状態において、ナット104はチャック本体102に対して螺着部のみで固定されている。しかし、ねじ構造には少なからず隙間が存在するため、ナット104はチャック本体102に対して径方向に相対移動し得る。このような相対移動が生じれば、ナット104がチャック本体102に対して芯ずれし、その結果、工具Tが芯振れするおそれがある。
【0006】
ナット104の締め付けによって、ある程度の回転速度までは、螺着力によって上記の相対移動を防止し、締め付け時の状態を維持できる。しかし、高速回転時に遠心力が増大すれば、螺着力だけでは相対移動を防止できないため締め付け時の状態を維持できず、ナット104がチャック本体102に対して芯ずれし、工具Tが芯振れする。昨今、工作機械は高速加工化が進み、主軸回転数の高速化、送り速度の高速化、及び加工精度の要求も高まる状況の下、芯振れによる工具寿命の極端な低下を抑止するためにも、上述のようなナット104の芯ずれに起因する工具Tの芯振れを防止する必要性が高まっている。
【0007】
この対策として、図7に示すように、ナット104の後端部を延長させたガイド部105を設ける手段は周知である。しかし、隙間嵌めによる部品作製時の誤差等によりガイド部105とチャック本体102の間に隙間が存在する場合には、ナット104の芯ずれを防止することができない。隙間がないとしても、ガイド部105が遠心力により拡径すれば、ナット104がチャック本体102に対して芯ずれするのは免れない。
【0008】
本発明は以上の課題に鑑みてなされたもので、ナット締め付け時におけるナットのチャック本体に対する芯ずれだけではなく、工作機械の高速回転時においてもナットのチャック本体に対する芯ずれを抑え、工具の芯振れを防止可能なチャック装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るチャック装置の第一特徴構成は、工作機械の回転主軸に固定され、先端部にテーパ穴を有するチャック本体と、前記テーパ穴に挿嵌され、工具を把持するよう縮径可能なコレットと、前記チャック本体に螺着可能で、前記コレットを締め付けるナットとを備え、前記工作機械の主軸回転時に前記ナットの前記チャック本体側に対する径方向への当接により相対移動を抑制する芯ずれ防止手段を前記ナットと前記チャック本体とに亘って設けた点にある。
【0010】
第一特徴構成のごとく、ナットのチャック本体側に対する径方向への相対移動を抑制する芯ずれ防止手段をナットとチャック本体とに亘って設けると、この芯ずれ防止手段と螺合部での螺着という2つの手段でナットをチャック本体に対して固定できるので、ナットの芯ずれ防止効果が向上する。
【0011】
第二特徴構成は、前記芯ずれ防止手段は、前記ナットの螺着部よりも後端側の内周面あるいは外周面に形成された第一ナット後端側テーパ面と、前記ナットの螺着時に前記第一ナット後端側テーパ面と当接する、前記チャック本体に形成されたチャック本体側テーパ面とによって構成される点にある。
【0012】
第二特徴構成によれば、第一ナット後端側テーパ面とチャック本体側テーパ面が螺着時に当接し、径方向外側に存在する部材(チャック本体あるいはナット)の当接部近傍が拡径可能となる。この拡径により当該部材に元の形状に戻ろうとする径方向内側への弾性力が生じ、ナットのチャック本体に対する芯ずれを防止できる。また、テーパ面での当接によりくさび効果が得られ、ナットの螺着の緩み及び移動を防止することができる。さらに、新たな部材を追加する必要がないので、コスト上昇の抑制、部品点数の削減という観点からも有利なものとなる。
【0013】
第三特徴構成は、前記芯ずれ防止手段は、前記ナットの螺着部よりも後端側の内周面あるいは外周面に形成された第二ナット後端側テーパ面と、前記ナットが螺着状態で、かつ前記チャック本体に取付可能なリング部材を取り付けた際に、前記第二ナット後端側テーパ面と当接するよう当該リング部材に形成されたリング部材側テーパ面とによって構成される点にある。
【0014】
第三特徴構成によれば、第二ナット後端側テーパ面とリング部材側テーパ面が螺着時に当接し、径方向外側に存在する部材(ナットあるいはリング部材)の当接部近傍が拡径可能となる。この拡径により当該部材に元の形状に戻ろうとする径方向内側への弾性力が生じ、ナットのチャック本体に対する芯ずれを防止できる。また、テーパ面での当接によりくさび効果が得られ、ナットの螺着の緩み及び移動を防止することができる。
【0015】
第四特徴構成は、前記ナットが螺着部よりも先端側で前記チャック本体と相対回転可能に嵌合するよう、当該ナットと当該チャック本体とに亘って嵌合部を設けた点にある。
【0016】
第四特徴構成のように、ナットがチャック本体に対して相対回転可能に嵌合するよう構成すれば、ナットの螺着を妨げることなく、ナットが径方向に相対移動するのを防止することができる。このようなナットのチャック本体に対する径方向への相対移動を防止する手段を螺着部の先端側にも設けることにより、チャック装置全体としての芯振れ防止機能が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第1実施形態に係るチャック装置の縦断面図である。
【図2】本発明の第2実施形態に係るチャック装置の縦断面図である。
【図3】本発明の第3実施形態に係るチャック装置の縦断面図である。
【図4】本発明の第4実施形態に係るチャック装置の縦断面図である。
【図5】本発明の第5実施形態に係るチャック装置の縦断面図である。
【図6】従来のチャック装置の縦断面図である。
【図7】従来のチャック装置の縦断面図である。
【0018】
以下、本発明に係るチャック装置の実施形態について説明する。
[第1実施形態]
図1は本発明の第1実施形態に係るチャック装置1の縦断面図を示したものである。図(a)はナット4をチャック本体2に螺着する前の状態を、図(b)はナット4の螺着が完了し、工具Tを把持している状態を示している。
【0019】
チャック本体2の先端部にはテーパ穴20が設けられている。このテーパ穴20にコレット3が挿嵌され、図示しない固定手段によってチャック本体2に固定される。コレット3には図示しない縦方向の割り溝が形成されており、縮径可能な構造となっている。ナット4は螺着部40を有しており、螺着部21が設けられたチャック本体2に螺着することができる。工具Tは、ナット4に締め付けられたコレット3によって把持される。
【0020】
本実施形態では、チャック本体2の螺着部21よりも後端側(図中左側)にチャック本体側テーパ面2aが、ナット4の螺着部40よりも後端側の内周面に第一ナット後端側テーパ面4aが設けられている。これらのテーパ面はナット4がチャック本体2に螺着されたときに当接するよう構成されている。
【0021】
螺着時にチャック本体2とナット4とが、チャック本体側テーパ面2aと第一ナット後端側テーパ面4aとで当接すると、ナット後端部41が拡径し、ナット後端部41には元の形状に戻ろうとする径方向内側への弾性力が生じる。この弾性力により、ナット後端部41はチャック本体2に押し付けられるため、高速回転時にナット後端部41に大きな遠心力が作用する場合でも、ナット4のチャック本体2に対する芯ずれを抑えることができる。
【0022】
また本実施形態では、コレット3の先端付近に形成されたコレット側テーパ面3eと、ナット4の螺着部40よりも先端側に形成されたナット先端側テーパ面4eとが、ナット4の螺着時に当接するよう構成されている。このようにコレット3とナット4とがテーパ面で当接することにより、ナット4はコレット3に対してくさび効果で強力に固定され、芯ずれを抑えることができる。また、テーパ面に働く力は軸方向と径方向に作用するので、ナット4を螺着しつつ、コレット3を効率的に縮径することができる。
【0023】
以上のようにナット4は、螺着部40の後端側ではチャック本体2に対する芯ずれが抑えられ、先端側ではコレット3に対する芯ずれが抑えられる構成となっている。すなわち、軸方向に離れた2箇所でナット4の芯ずれが防止可能な構成としているため、チャック装置全体として工具Tの芯振れ防止機能が向上し、高速回転時の使用にも耐え得るものとなっている。さらに、新たな部材を追加する必要がないので、コスト上昇の抑制、部品点数の削減という観点からも有利な効果が得られる。
【0024】
[第2実施形態]
図2は本発明の第2実施形態に係るチャック装置1の縦断面図を示したものである。ナット後端部41の外周面に第一ナット後端側テーパ面4bが形成されており、チャック本体突出部22の内周面にチャック本体側テーパ面2bが形成されている。これらのテーパ面はナット4がチャック本体2に螺着されたときに当接するよう構成されている。以上の点を除けば、本実施形態は第1実施形態と同じである。
【0025】
第1実施形態ではナット後端部41が拡径することによりナット4の芯ずれ防止効果が生じていたが、本実施形態では肉厚の配分で径方向外側にあるチャック本体突出部22が拡径したり、ナット後端部41が縮径したりし、ナット後端部41が径方向内側に押し付けられる。このため、ナット後端部41が径方向外側に相対移動してナット4に芯ずれが生じるのを防止する。
【0026】
なお、チャック本体2とナット後端部41の間に径方向の空間が存在する形態を図2に示しているが、テーパ面の当接時にチャック本体突出部22に押し付けられることによって、ナット後端部41がチャック本体2と接するように構成してもよい。
【0027】
[第3実施形態]
図3は本発明の第3実施形態に係るチャック装置1の縦断面図を示したものである。本実施形態では、ナット4の螺着部40よりも後端側の外周面に第二ナット後端側テーパ面4cが設けられている。また、チャック本体2に螺着可能なリング部材5の内周面にリング部材側テーパ面5cが設けられている。ナット4をチャック本体2に螺着した状態で、リング部材5をチャック本体2に螺着すると第二ナット後端側テーパ面4cとリング部材側テーパ面5cとが当接するよう構成されている。
【0028】
当接の過程の現象と効果は第2実施形態と同様であるので、説明を省略する。なお、チャック本体2とナット後端部41の間に径方向の空間が存在する形態を図3に示しているが、テーパ面の当接時にリング部材先端部50に押し付けられることによって、ナット後端部41がチャック本体2と接するように構成してもよい。
【0029】
[第4実施形態]
図4は本発明の第4実施形態に係るチャック装置1の縦断面図を示したものである。本実施形態は、第3実施形態のテーパ形状を逆にしたものである。すなわち、ナット4の内周面に第二ナット後端側テーパ面4dが設けられており、リング部材5の外周面にリング部材側テーパ面5dが設けられている。ナット4をチャック本体2に螺着した状態で、リング部材5をチャック本体2に螺着すると、これらのテーパ面が当接するよう構成されている。
【0030】
第二ナット後端側テーパ面4dとリング部材側テーパ面5dとが当接すると、ナット後端部41は拡径し、径方向内側への弾性力が生じる。この弾性力は、リング部材5を通してナット4をチャック本体2に押し付けるため、ナット4の芯ずれを防止することができる。
【0031】
なお、チャック本体2とリング部材先端部50の間に径方向の空間が存在する形態を図4に示しているが、テーパ面の当接時にナット後端部41に押し付けられることによって、リング部材先端部50がチャック本体2と接するように構成してもよい。
【0032】
第3実施形態及び第4実施形態において、リング部材5はチャック本体2に螺着可能な構成としたが、チャック本体2に固定できれば他の取付形態でも構わない。また、リング部材5にガイド部を設け、固定に際して他部材との隙間をなくすなど、リング部材5の芯ずれをより確実に抑制する形態を選択してもよい。
【0033】
[第5実施形態]
図5は本発明の第5実施形態に係るチャック装置1の縦断面図を示したものである。チャック本体2の螺着部21よりも先端側に形成された嵌合部23と、ナット4の螺着部40よりも先端側に形成された嵌合部42が、相対回転可能に嵌合するように設けられている。この点を除けば、本実施形態は第1実施形態と同じである。
【0034】
チャック本体2とナット4とが相対回転可能なように隙間嵌めあるいは締まり嵌めを選択し嵌合すると、嵌合部においてナット4の径方向への相対移動が拘束されるため、ナット4のチャック本体2に対する芯ずれを防止することができる。この結果、ナット4は螺着部40の先端側と後端側の2箇所でチャック本体2に対する芯ずれが抑えられ、工具Tの芯振れ防止機能を向上させることができる。なお、このような嵌合部の構成を第2実施形態〜第4実施形態に適用することも可能である。
【0035】
また、以上の実施形態では、ナット4の螺着時に当接する両テーパ面が面接触する構成としたが、当接時に当接部が拡径あるいは縮径などの弾性変形をするような構成であれば、他の接触形態であってもよい。例えば、一方を断面視で円弧状の端部を有するものとし、もう一方のテーパ面と線接触する構成としてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0036】
工作機械の回転主軸が高速回転時においてもナットのチャック本体に対する芯ずれを抑え、工具の芯振れを防止可能なチャック装置を提供する。
【符号の説明】
【0037】
1 チャック装置
2 チャック本体
3 コレット
4 ナット
5 リング部材
2a,2b チャック本体側テーパ面
3e コレット側テーパ面
4a,4b 第一ナット後端側テーパ面
4c,4d 第二ナット後端側テーパ面
4e ナット先端側テーパ面
5c,5d リング部材側テーパ面
20 テーパ穴
21 螺着部(チャック本体側)
22 チャック本体突出部
23 嵌合部(チャック本体側)
40 螺着部(ナット側)
41 ナット後端部
42 嵌合部(ナット側)
50 リング部材先端部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
工作機械の回転主軸に固定され、先端部にテーパ穴を有するチャック本体と、
前記テーパ穴に挿嵌され、工具を把持するよう縮径可能なコレットと、
前記チャック本体に螺着可能で、前記コレットを締め付けるナットとを備え、
前記工作機械の主軸回転時に前記ナットの前記チャック本体側に対する径方向への当接により相対移動を抑制する芯ずれ防止手段を前記ナットと前記チャック本体とに亘って設けたチャック装置。
【請求項2】
前記芯ずれ防止手段は、
前記ナットの螺着部よりも後端側の内周面あるいは外周面に形成された第一ナット後端側テーパ面と、
前記ナットの螺着時に前記第一ナット後端側テーパ面と当接する、前記チャック本体に形成されたチャック本体側テーパ面とによって構成される請求項1に記載のチャック装置。
【請求項3】
前記芯ずれ防止手段は、
前記ナットの螺着部よりも後端側の内周面あるいは外周面に形成された第二ナット後端側テーパ面と、
前記ナットが螺着状態で、かつ前記チャック本体に取付可能なリング部材を取り付けた際に、前記第二ナット後端側テーパ面と当接するよう当該リング部材に形成されたリング部材側テーパ面とによって構成される請求項1に記載のチャック装置。
【請求項4】
前記ナットが螺着部よりも先端側で前記チャック本体と相対回転可能に嵌合するよう、当該ナットと当該チャック本体とに亘って嵌合部を設けた請求項1〜3のいずれか一項に記載のチャック装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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