説明

チルドまたは冷凍保存された米飯の食感保持方法

【課題】チルドまたは冷凍保存された米飯の良好な食感を保持する方法および該方法に使用される米飯用改良剤を提供する。
【解決手段】プロテアーゼ、グルコマンナンおよび乳酸塩を米飯の炊飯時に添加することを特徴とするチルドまたは冷凍保存された米飯の食感保持方法、並びにプロテアーゼ、グルコマンナンおよび乳酸塩を含有することを特徴とするチルドまたは冷凍米飯用食感改良剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チルドまたは冷凍保存された米飯の食感保持方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、チルドまたは冷凍保存される米飯について、再加熱後の米飯が炊き立ての風味や食感を有するように様々な工夫がなされている。
【0003】
例えば、半生状態の米を水とともに冷凍することを特徴とする冷凍米飯の製造方法(特許文献1参照)、米に約1.2重量倍の水を加えて炊飯器などの常圧釜で常法により炊飯し、得られた米飯を蒸し器などで蒸気加熱して、米粒の含有水分を均一化し、次いで、米飯の米粒の表面に、水をスプレーなどで均一に付着させた後、約20分程度、室温に放置し、次いで、必要により適宜の形状に成形した後、米飯を−40℃エアーなどで−20℃付近まで急速冷凍させることを特徴とする冷凍米飯の製造方法(特許文献2参照)、炊飯米あるいは調理米飯に水を噴霧したのち凍結することを特徴とする電子レンジ用冷凍米飯の製造方法(特許文献3参照)、原料米を糊化度が80%〜96%となる状態に炊く炊飯工程と、該炊飯工程を経た米飯をバラ状急速凍結する1次冷凍工程と、該1次冷凍工程後の米飯の表面に水をコーティングさせる加水工程と、該加水工程後の米飯を再度バラ状急速凍結する2次冷凍工程とを含んでいることを特徴とする冷凍米飯の製造方法(特許文献4参照)、有機酸塩と澱粉分解酵素を含有することを特徴とするチルドまたは冷凍米飯用改良剤(特許文献5参照)、(a)プロテアーゼおよび(b)ペクチンまたはタマリンドシードガムを含有することを特徴とするチルドまたは冷凍米飯用改良剤(特許文献6参照)などが開示されている。
【0004】
しかしながら、上記技術では、チルドまたは冷凍米飯の食感の改善において必ずしも十分な効果が得られていないのが実状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平1−256355号公報
【特許文献2】特開平6−237715号公報
【特許文献3】特開平3−254651号公報
【特許文献4】特開2005−192475号公報
【特許文献5】特開2006−075104号公報
【特許文献6】特開2008−245582号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、チルドまたは冷凍保存された米飯の良好な食感を保持する方法および該方法に使用される米飯用改良剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題に対して鋭意検討を行った結果、プロテアーゼ、グルコマンナンおよび乳酸塩を米飯の炊飯時に添加すると、上記課題が解決されることを見出し、この知見に基づいて本発明を成すに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、
(1)プロテアーゼ、グルコマンナンおよび乳酸塩を米飯の炊飯時に添加することを特徴とするチルドまたは冷凍保存された米飯の食感保持方法、
(2)更に大豆多糖類を添加することを特徴とする前記(1)に記載のチルドまたは冷凍保存された米飯の食感保持方法、
(3)プロテアーゼ、グルコマンナンおよび乳酸塩を含有することを特徴とするチルドまたは冷凍米飯用食感改良剤、
(4)更に大豆多糖類を含有することを特徴とする前記(3)に記載のチルドまたは冷凍米飯用食感改良剤、
から成っている。
【発明の効果】
【0009】
本発明の方法により得られる米飯は、例えば5℃で48時間チルド保存した後或いは−20℃で一週間冷凍保存した場合であっても、その食感が保持されている。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明において用いられるプロテアーゼとしては、特に制限されるものではなく、如何なる由来のものであってもよく、例えば、アスペルギルス属、ムコール属、リゾープス属、ペニシリウム属、ストレプトコッカス属、ラクトバチルス属、バシルス属などに属する各種微生物から採取することのできるプロテアーゼ;植物から採取することのできるブロメライン、パパインなどのプロテアーゼ;および動物の臓器などから採取されるトリプシン、ペプシンなどのプロテアーゼが挙げられ、好ましくはアスペルギルス(Aspergillus)属菌起源の中性プロテアーゼである。アスペルギルス属菌起源の中性プロテアーゼとしては、例えば、プロテアーゼP「アマノ」3G(起源:Aspergillus melleus;天野エンザイム社製)、デナチームAP(起源:Aspergillus oryzae;ナガセケムテックス社製)スミチームFP(起源:Aspergillus oryzae;新日本化学工業社製)、スミチームNPL−180(起源:Aspergillus oryzae;新日本化学工業社製)などが商業的に製造・販売されており、本発明ではこれらを用いることができる。
【0011】
本発明において用いられるグルコマンナンは、コンニャク芋に含まれる多糖類であり、D−グルコースとD−マンノースがほぼ1:1.6のモル比で、β−1,4結合により多数結合した複合多糖類(難消化性多糖類)であって、その分子量は約100万〜200万である。グルコマンナンとしては、通常、コンニャク芋を乾燥、粉末化して得られるコンニャク粉、コンニャク粉を精製したコンニャク精粉等を用いることができる。風味や色の点から、グルコマンナンとしては除蛋白したコンニャク粉が特に好ましい。このような除蛋白したコンニャク粉としては、例えば、レオレックスRS(商品名;清水化学社製)等が商業的に製造・販売されており、本発明ではこれを用いることができる。
【0012】
本発明において用いられる乳酸塩としては、例えば、乳酸のナトリウム塩、カルシウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩など挙げられ、好ましくは乳酸カルシウムである。乳酸カルシウムとしては、例えば、PURACAL PP/USP(商品名;ピューラック・ジャパン社製)等が商業的に製造・販売されており、本発明ではこれを用いることができる。
【0013】
本発明においては、上記プロテアーゼ、グルコマンナンおよび乳酸塩に加えて、大豆多糖類が好ましく用いられる。
【0014】
該大豆多糖類は、ラムノース、フコース、アラビノース、キシロース、ガラクトース、グルコース、ウロン酸等からなる水溶性の多糖類の混合物をいい、大豆から豆腐を製造するときの「オカラ」や、大豆から蛋白質を抽出した残渣等を原料として、アルカリ処理、加水分解処理等を施して製造される。該製造方法としては、例えば、大豆から豆乳を分離した残渣(オカラ)を親水性有機溶媒を含むアルカリ性水溶液で抽出し、固形物を採取する方法(特公昭60−31841号公報)、大豆皮から温水又はアルカリ水溶液で抽出して製造する方法(特開昭60−146828号公報)、大豆植物繊維を微細化し、繊維中の蛋白質を分解した後、水溶性多糖を分画し製造する方法(特開平3−067595号公報)、蛋白質を含有する水溶性大豆食物繊維を蛋白質の等電点付近の酸性条件下で加水分解して製造する方法(特開平3−236759号公報)等が挙げられる。該大豆多糖類としては、例えば、ソヤファイブ−S−ZR100(商品名;不二製油社製)等が商業的に製造・販売されており、本発明ではこれを用いることができる。
【0015】
本発明の方法では、米飯の炊飯時に上記プロテアーゼ、グルコマンナンおよび乳酸塩ならびに好ましくは大豆多糖類(以下、これらを単に本発明の添加成分という)が添加される。具体的には、例えば生米またはその洗米と本発明の添加成分を炊飯器に入れ、そこへ水を加えて炊飯する方法、炊飯器に生米またはその洗米を入れ、そこへ予め水に本発明の添加成分を分散させて加え炊飯する方法などが挙げられる。炊飯に用いられる水の量に特に制限はなく、例えば生米質量の1.6〜1.8倍の加水量で炊飯することができる。
【0016】
本発明の添加成分の添加量に特に制限はないが、生米100質量%に対し通常プロテアーゼが0.0001〜0.15質量%、好ましくは0.0009〜0.045質量%であり、グルコマンナンが通常0.0005〜0.3質量%、好ましくは0.003〜0.075質量%であり、乳酸塩が通常0.005〜1.5質量%、好ましくは0.03〜0.45質量%である。また、本発明の方法において、さらに大豆多糖類を添加する場合、大豆多糖類の添加量は、生米100質量%に対し通常0.0005〜0.3質量%、好ましくは0.003〜0.075質量%である。
【0017】
また、本発明においては、本発明の添加成分を含有するチルドまたは冷凍米飯用食感改良剤を調製したものを添加することが好ましく行われる。このチルドまたは冷凍米飯用食感改良剤(以下、単に米飯用改良剤ともいう)も本発明に含まれる。
【0018】
本発明の米飯用改良剤の形態に特に制限はないが、プロテアーゼによる効果がより発揮されるため粉末のものが好ましい。その製剤化に際しては、賦形剤として例えば、ブドウ糖、果糖などの単糖類、ショ糖、乳糖、麦芽糖などのオリゴ糖類、デキストリン、粉末水飴などのでん粉分解物、マルトトリオース、マルトテトラオース、マルトペンタオース、マルトヘキサオースなどのマルトオリゴ糖類、ソルビトール、マンニトール、マルチトール、粉末還元水飴などの糖アルコール類、乳清蛋白質などを用いることができ、DE値が約5〜20のデキストリンが好ましく用いられる。ここでDE値とは、「Dextrose equivalent」の略称で、澱粉の加水分解の程度を示す指標であり、DE値が低い程、加水分解の程度が低く分子量が大きいことを意味する。
【0019】
本発明の米飯用改良剤100質量%中のプロテアーゼ、グルコマンナンおよび乳酸塩の含有量に特に制限はないが、プロテアーゼが通常0.1〜5.0質量%、好ましくは0.3〜3.0質量%であり、グルコマンナンが通常0.5〜10質量%、好ましくは1〜5質量%であり、乳酸塩が通常5〜50質量%、好ましくは10〜30質量%である。また、本発明の米飯用改良剤において、更に大豆多糖類を含有する場合、米飯用改良剤100質量%中の大豆多糖類の含有量は、通常0.5〜10質量%、好ましくは1〜5質量%である。また、本発明の米飯用改良剤の形態を粉末とする場合、該米飯用改良剤100質量%中の賦形剤の含有量は、通常約30〜90質量%、好ましくは約50〜70質量%である。
【0020】
本発明になる米飯用改良剤を製造するための装置としては、例えば、V型や二重円錐型に代表される容器回転型混合機、リボン型や縦型攪拌羽根に代表される機械攪拌型混合機など一般に食品工業で使用されている混合機が挙げられ、好ましくはスクリュー式混合機、ナウタミキサー(ホソカワミクロン社製)などである。
【0021】
本発明において米飯用改良剤の添加量に特に制限はないが、生米100質量%に対し通常0.1〜3.0質量%、好ましくは0.3〜1.5質量%である。
【0022】
本発明で用いることのできる炊飯器の種類としては特に制限はなく、例えば電気炊飯器やガス炊飯器や電磁加熱型炊飯器、蒸気式炊飯器、圧力釜炊飯等それらのバッチ式または連続式炊飯器、炊飯設備が挙げられる。
【0023】
本発明における米飯としては、精白米を炊飯して得られる米飯の他に、例えば玄米ご飯、赤飯、おこわ、炊き込み御飯、ピラフ、チャーハン、ドライカレー、すし、おにぎりなどが挙げられる。
【0024】
本発明における冷凍米飯の製造方法としては特に限定されず、例えば、常法により米飯を−5℃以下で凍結・保存することにより製造することができる。また、本発明におけるチルド米飯の製造方法としては特に限定されず、例えば、常法により米飯をチルド温度帯(例えば、1〜15℃)下で保存することにより製造することができる。
【0025】
本発明に係るチルドまたは冷凍米飯は、例えば、チルドすしなどの場合はそのまま食することができるが、通常は常法により調理して食することができる。その調理方法に特に制限はないが、例えば自然解凍などの常温に戻す方法や、電子レンジで加熱調理する方法などが挙げられる。
【0026】
以下、実施例をもって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0027】
[米飯用改良剤の製造]
(1)原材料
1)プロテアーゼ(商品名:スミチームNPL−180;新日本化学工業社製)
2)グルコマンナン(商品名:レオレックスRS;清水化学社製)
3)乳酸カルシウム(商品名:PURACAL PP/USP;ピューラック・ジャパン社製)
4)大豆多糖類(商品名:ソヤファイブ−S−ZR100;不二製油社製)
5)デキストリン(商品名:パインデックス♯2;DE値:11±1;松谷化学工業社製)
【0028】
(2)米飯用改良剤の配合
上記原材料を用いて作製した米飯用改良剤1〜5の配合組成を表1に示した。この内、米飯用改良剤1および2は本発明に係る実施例であり、米飯用改良剤3〜5はそれらに対する比較例である。
【0029】
【表1】

【0030】
(3)米飯用改良剤の製造方法
表1に示した原材料の配合割合に基づいて、所定の原材料をロッキングミキサー(型式:RM−30:愛知電機社製)に入れ、揺動かしながら15分間回転させ均一な粉末状の製剤を得た。各製剤の作製量は5000gとした。
【0031】
[チルド米飯の作製と評価]
(1)チルド米飯の作製
生米(商品名:無洗米コシヒカリ;千田みずほ社製)300gに水360gを加えて、室温で30分間静置した後、3gの上記米飯用改良剤1〜5を水150gに各々溶解させたものを加え、電気炊飯器(型式:JNL−T551:タイガー魔法瓶社製)で炊飯した。炊飯時間は約20分、蒸らし時間は約20分とした。次に、炊き上がった米飯を食品用包装容器(蓋のサイズ:110mm×130mm×18mm;蓋の材質:厚さ0.15mmのポリスチレン製シート;本体のサイズ:110mm×130mm×15mm;本体の材質:厚さ0.35mmのポリスチレン及びポリプロピレン製シート)に100gずつ詰め、粗熱を取った後、約5℃の冷蔵庫(型式:503D;日立冷熱社製)内で保存した。また、対照として、米飯用改良剤を添加せずに同様に米飯を作製して保存した。
【0032】
(2)チルド米飯の評価試験
約5℃の冷蔵庫内で24時間及び48時間保存した米飯を、上記食品用包装容器に100gずつ充填された状態で室温に戻し、食感について官能試験を行った。官能試験では、下記表2に示す評価基準に従い20名のパネラーで評価を行ない、評点の平均点を求め、以下の基準にしたがって記号化した。その結果を表3に示す。
◎:極めて良好 平均点3.0以上
○:良好 平均点2.0以上、3.0未満
△:やや悪い 平均点1.0以上、2.0未満
×:悪い 平均点1.0未満
【0033】
【表2】

【0034】
【表3】

【0035】
本発明に係る試験区1および2のチルド保存した米飯は、24時間および48時間の保存後において、粒感、しっとり感、やわらかさといった食感が試験区3〜6の米飯と比較して保持されていた。
【0036】
[冷凍米飯の作製と評価]
(1)冷凍米飯の作製
生米(商品名:無洗米コシヒカリ;千田みずほ社製)300gに水360gを加えて、室温で30分間静置した後、3gの上記米飯用改良剤1〜5を水150gに各々溶解させたものを加え、電気炊飯器(型式:JNL−T551:タイガー魔法瓶社製)で炊飯した。炊飯時間は約20分、蒸らし時間は約20分とした。次に、炊き上がった米飯を食品用包装容器(蓋のサイズ:110mm×130mm×18mm;蓋の材質:厚さ0.15mmのポリスチレン製シート;本体のサイズ:110mm×130mm×15mm;本体の材質:厚さ0.35mmのポリスチレン及びポリプロピレン製シート)に100gずつ詰め、粗熱を取った後、冷凍庫(型式:233FFB;大和冷機工業社製)により約−30℃で急速凍結し、該冷凍庫内で約−20℃で保存した。また、対照として、米飯用改良剤を添加せずに同様に米飯を作製して保存した。
【0037】
(2)冷凍米飯の評価試験
約−20℃の冷凍庫内で1週間保存した米飯を上記食品用包装容器に100gずつ充填された状態で自然解凍して室温に戻した後、食感について官能評価を行った。上述したチルド米飯の評価試験と同様の基準で評価した官能検査結果を表4に示す。
【0038】
【表4】

【0039】
本発明に係る試験区7および8の冷凍保存した米飯は、粒感、しっとり感、やわらかさといった食感が試験区9〜12の米飯と比較して保持されていた。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明の方法を用いて製造した米飯は、コンビニエンスストアー(CVS)やスーパーマーケットで販売されている弁当、赤飯、おこわ、炊き込み御飯、ピラフ、チャーハン、ドライカレー、おにぎりなどのチルド保存された米飯あるいは冷凍保存された米飯に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロテアーゼ、グルコマンナンおよび乳酸塩を米飯の炊飯時に添加することを特徴とするチルドまたは冷凍保存された米飯の食感保持方法。
【請求項2】
更に大豆多糖類を添加することを特徴とする請求項1に記載のチルドまたは冷凍保存された米飯の食感保持方法。
【請求項3】
プロテアーゼ、グルコマンナンおよび乳酸塩を含有することを特徴とするチルドまたは冷凍米飯用食感改良剤。
【請求項4】
更に大豆多糖類を含有することを特徴とする請求項3に記載のチルドまたは冷凍米飯用食感改良剤。