説明

チロシンキナーゼ阻害剤治療に対する反応を予測するために生体試料を分類する方法

EGFR下流のシグナル成分の遺伝子コピー数は、第2/第3次ゲフィチニブ治療で不十分な結果の、非小細胞肺癌(NSCLC)患者を識別する。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2009年7月9日に出願された米国仮出願番号61/224,281(その全体が参照により本明細書中に組み込まれている。)の優先権を主張する。
【0002】
エキソン19と21におけるEGFR突然変異、および高いEGFRコピー数は、NSCLC患者におけるEGFRチロシンキナーゼ阻害剤(TKI)に対する感度の増加に関係し、KRAS突然変異、MET発現、およびEGFR T790M突然変異は、抵抗に関連している。臨床前モデルでは、EGFR下流マーカーは、EGFRの感度または抵抗において重要であった。本研究では、発明者らは、ゲフィチニブで治療された患者の結果に対する、異常なPTENおよびPIK3CA遺伝子コピー数の影響について調査した。
【0003】
方法:ホルマリン固定パラフィンを埋め込んだ組織、および81人のゲフィチニブNSCLC患者からの細胞ペレットを、EGFR、PTEN、PIK3CA、動原体(cen)3、7および10に特異的なプローブによる蛍光原位置ハイブリッド形成(in situ hybridization)(FISH)によって分析した。72の試料が、6つのプローブすべてにおいて結果を生じた。患者は、過去に少なくとも1つの化学療法レジメンで治療されたか、または化学療法に不適格であると考えられた。FISHシグナルを、試料当たり40個以上の細胞で計測して、各遺伝子座のコピー数を得た。種々の分類子は、ゲノムのコピー数に由来し、また、一連の遮断値を適用して、目的反応(OR)、無増悪生存率(PFS)および粗生存率(OS)によって患者を分類した。試料のうち55のEGFR突然変異状態(エキソン19および21)が得られた。
【0004】
結果:PTENの損失(PTENの2未満のコピーを有する細胞の20%以上)、および低いcen7コピー数(平均cen7コピー/4個未満の細胞)はそれぞれ、低いOSと有意に関連し、また、高いPIK3CAコピー数(PIK3CAの2より多いコピーを有する細胞の40%以上)、および低いEGFRコピー数(EGFRの2より多いコピーを有する75%未満の細胞)は、低いOSの傾向を示した。PTENと高いPIK3CAコピー数を合わせた損失、または高いPIK3CAコピー数、PTENの損失と、低いEGFRコピー数もしくは低いcen7コピー数のいずれかとの3つの方法の組合せは、低いOSと低いPFSに有意に関係していた。22人の患者(31%)は、高いPIK3CAコピー数、PTENの損失、および低いcen7コピー数の腫瘍を有していた。また、これらの患者は、他の50人の患者での、第373日目と比較して、中間の第132日目のOS(p<0.0001のカプラン−マイヤー分析、ログランクテスト)、第128日目と比較して、中間の第62日目のPFS(p=0.0007)、および22%と比較して、0%のOR(p=0.015、両側のフィッシャーの正確な検定)を示した。EGFR突然変異を有しない37人の患者では、分類子は、依然として有意であった(中間OS:第128日目対第380日目、p<0.0001、中間PFS:第62日目対第102日目、p=0.019)。PIK3CA、PTENおよびcen7 FISH状態、性別、組織学およびEGFR突然変異状態を含む多変量解析では、3つのFISHパラメーターはすべて、依然として、有意にOSと関係していた。
【0005】
結論:これらのデータは、ゲフィチニブが、比較的高いPTENの損失およびPIK3CAの増加、低いレベルのEGFRまたはcen7を有する腫瘍、ならびに十分な研究グループまたはEGFR突然変異のないサブグループのいずれかにおいて、比較的効果がないことを示す。後の研究で確認されれば、EGFR TKI’sとの併用で選択される薬剤を潜在的に含む代替治療を、腫瘍にこのプロファイルがある患者に考慮する必要がある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の方法は、EGFR受容タンパク質の小分子阻害剤である、ゲフィチニブなどのチロシンキナーゼ阻害剤に対する反応を示す、個別のコピー数プロファイルによって、癌患者または癌の疑いのある患者の組織試料を分類するのに使用する、臨床検査室分析である。本発明は、好ましくは、2または3つのヒト染色体遺伝子座:10q23.3、3q26.3と染色体7、好ましくはその動原体または遺伝子座7p12のいずれかでコピー数を決定するのに染色体ハイブリッド形成プローブを使用する、蛍光原位置ハイブリッド形成(FISH)に基づいた原位置ハイブリッド形成分析の使用である。肺組織試料中の細胞におけるこれらの遺伝子座のコピー数の決定を用いて、チロシンキナーゼ阻害剤に対する抵抗または反応のいずれかを示す、コピー数プロファイルを有するものとして、試料を分類することができる。好ましい実施形態では、これらの遺伝子座の正常なコピー数と比較して、10q23.3の相対的損失、3q26.3の相対的増加、および染色体7の比較的低いコピー数を有すると決定された組織試料は、これらの阻害剤に対する抵抗を示す、10q23.3の損失、3q26.3の増加、および低いコピー数の染色体7のコピー数プロファイルを有するものとして分類される。試料が、これらの遺伝子座の他のコピー数プロファイルを有するものとして分類される場合、プロファイルは、これらの阻害剤に対する感度または反応を示す。別の好ましい実施形態では、コピー数プロファイルは、2つの遺伝子座、10q23.3および3q26.3である。本発明は、EGFR経路における遺伝子のチロシンキナーゼ阻害剤のすべての形態で有用であると考えられる。また、コピー数プロファイル分類が、組織試料のEGFR突然変異状態に依存しないので、本発明は重要である。
【0007】
また、コピー数プロファイルが、特定の染色体異常(すなわち、10q23.3の損失、または3q26.3の増加)を有するものとして、比較的広範囲の割合の評価が可能な試料中の細胞において統計的に有意であったので、本発明は有利である。10q23.3の損失において、細胞の範囲は、相対的損失を示す、評価された細胞の約13%から約35%であり、好ましくは約20%である。3q26.3の増加においては、細胞の範囲は、相対的増加を示す、評価された細胞の約20%から約62.5%であり、好ましくは約40%である。染色体7コピー数の測定では、染色体7コピー数のロバスト統計結果が、評価された細胞の約2.7から約5.1の範囲、好ましくは、細胞当たり約4のコピーであることを示した。
【0008】
本発明で使用するに適した原位置ハイブリッド形成染色体プローブには、共通の譲受人で同時係属する、米国特許出願「Diagnostic methods for determining treatment」(L.E.MorrisonおよびJ.S.Coon、2007年5月8日出願、US20070275403A1として公表。その全体が参照により本明細書中に組み込まれている。)に記載された、EGFRおよび染色体7動原体プローブが含まれる。PIK3CA遺伝子座のコピー数の決定に使用するのに適した原位置ハイブリッド形成染色体プローブは、同時係属し共通の譲受人である米国特許出願、シリアル番号12/268,797「Prognostic Test for Early Stage Non Small Cell Lung Cancer」(L.E.MorrisonおよびJ.S.Coon、2008年11月11日出願。その全体が参照により本明細書中に組み込まれている。以下「Morrison II」とする。)に記載の方法を使用して製造することができる。ここで、「Morrison II」は、PIK3CAの遺伝子座で核酸配列を有するヒト挿入DNAを含む、クローンから開始する。また、Morrison II出願は、本明細書で使用するPTEN遺伝子座とハイブリッド形成するように設計された、適切なプローブを記載する。本明細書中の有用なプローブは、DNA系プローブに限定されず、ペプチド核酸系プローブを含む。本発明のコピー数プロファイルを決定するために使用する原位置ハイブリッド形成法は、同時係属中の米国特許出願に記載されている。各染色体遺伝子座のコピー数は、好ましくは、マニュアル式の、またはデジタル画像ソフトウエアに基づく方法を用いた、標準FISH画像解析によって決定する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
EGFRのチロシンキナーゼ活性阻害剤、またはチロシンキナーゼ阻害剤と同様に機能する薬剤による治療に関して生体試料を分類する方法であり、
(a)ヒト患者から生体試料を得る段階と、
(b)1組の染色体ハイブリッド形成プローブと生体試料を、試料中に染色体がある場合、プローブの染色体のハイブリッド形成を可能にするのに十分な条件下において、接触させる段階であって、(i)1つのプローブが、試料中の細胞におけるヒト染色体7のコピー数を検出するように設計され、(ii)1つのプローブが、試料中の細胞におけるヒト染色体遺伝子座10q23.3のコピー数を検出するように設計され、かつ、(iii)1つのプローブが、試料中の細胞におけるヒト染色体遺伝子座3q26.3のコピー数を検出するように設計される、段階と、
(c)ヒト染色体7、ヒト染色体遺伝子座10q23.3、およびヒト染色体遺伝子座3q26.3の各々のコピー数を決定する段階と、
(d)正常なコピー数に対し、10q23.3の損失、3q26.3の増加および染色体7の損失のコピー数プロファイル、または他のコピー数プロファイルのいずれかを有するかについて、段階(c)の結果に基づいて試料を分類する段階と
を含む、方法。
【請求項2】
生体試料が肺生検試料である、請求項1の方法。
【請求項3】
生体試料が、過去に非小細胞肺癌を有すると診断された患者からのものである、請求項1の方法。
【請求項4】
プローブのうちの1つが、遺伝子座10q23.3のPTEN遺伝子中に存在する少なくとも1つの核酸配列とハイブリッド形成するように設計される、請求項1の方法。
【請求項5】
プローブのうちの1つが、遺伝子座3q26.3のPIK3CA遺伝子中に存在する少なくとも1つの核酸配列とハイブリッド形成するように設計される、請求項1の方法。
【請求項6】
プローブのうちの1つが、ヒト染色体7動原体において少なくとも1つの核酸配列とハイブリッド形成するように設計される、請求項1の方法。
【請求項7】
プローブのうちの1つが、遺伝子座10q23.3のPTEN遺伝子中に存在する少なくとも1つの核酸配列とハイブリッド形成するように設計され、プローブのうちの1つが、遺伝子座3q26.3のPIK3CA遺伝子中に存在する少なくとも1つの核酸配列とハイブリッド形成するように設計され、かつ、プローブのうちの1つが、ヒト染色体7動原体において少なくとも1つの核酸配列とハイブリッド形成するように設計される、請求項1の方法。
【請求項8】
各々のプローブが、蛍光標識され、かつ同時に検出することができる、請求項1の方法。
【請求項9】
プローブのうちの1つが、遺伝子座7p12のヒトEGFR遺伝子において少なくとも1つの核酸配列とハイブリッド形成するように設計される、請求項1の方法。
【請求項10】
プローブのうちの1つが、遺伝子座10q23.3のPTEN遺伝子中に存在する少なくとも1つの核酸配列とハイブリッド形成するように設計され、かつ、プローブのうちの1つが、遺伝子座3q26.3のPIK3CA遺伝子中に存在する少なくとも1つの核酸配列とハイブリッド形成するように設計される、請求項9の方法。
【請求項11】
コピー数を決定する段階(c)が、試料中の少なくとも40個の細胞を評価することを含む、請求項1の方法。
【請求項12】
10q23.3の損失のコピー数プロファイルが、細胞の20%以上がPTENの2未満のコピーを有するという決定を含む、請求項1の方法。
【請求項13】
10q23.3の損失のコピー数プロファイルが、試料中の評価可能な細胞における染色体7の平均コピー数が4未満であるという決定を含む、請求項1の方法。
【請求項14】
10q23.3の損失のコピー数プロファイルが、試料中の評価可能な細胞の40%以上がPIK3CAの2より多いコピーを有するという決定を含む、請求項1の方法。
【請求項15】
EGFRのチロシンキナーゼ活性阻害剤、またはチロシンキナーゼ阻害剤と同様に機能する薬剤による治療に関して生体試料を分類する方法であり、該方法は、
(a)ヒト患者から生体試料を得る段階と、
(b)1組の染色体ハイブリッド形成プローブと生体試料を、試料中に染色体がある場合、プローブの染色体へのハイブリッド形成を可能にするのに十分な条件下において、接触させる段階であって、(i)1つのプローブが、試料中の細胞におけるヒト染色体遺伝子座10q23.3のコピー数を検出するように設計され、かつ、(ii)1つのプローブが、試料中の細胞におけるヒト染色体遺伝子座3q26.3のコピー数を検出するように設計される、段階と、
(c)ヒト染色体遺伝子座10q23.3、およびヒト染色体遺伝子座3q26.3の各々のコピー数を決定する段階と、
(d)正常なコピー数に対し、10q23.3の損失、および3q26.3の増加のコピー数プロファイル、または他のコピー数プロファイルのいずれかを有するかについて、段階(c)の結果に基づいて試料を分類する段階と
を含む、方法。
【請求項16】
生体試料が肺生検試料である、請求項15の方法。
【請求項17】
生体試料が、過去に非小細胞肺癌を有すると診断された患者からのものである、請求項15の方法。
【請求項18】
プローブのうちの1つが、遺伝子座10q23.3のPTEN遺伝子中に存在する少なくとも1つの核酸配列とハイブリッド形成するように設計される、請求項15の方法。
【請求項19】
プローブのうちの1つが、遺伝子座3q26.3のPIK3CA遺伝子中に存在する少なくとも1つの核酸配列とハイブリッド形成するように設計される、請求項15の方法。
【請求項20】
プローブのうちの1つが、遺伝子座10q23.3のPTEN遺伝子中に存在する少なくとも1つの核酸配列とハイブリッド形成するように設計され、かつ、プローブのうちの1つが、遺伝子座3q26.3のPIK3CA遺伝子中に存在する少なくとも1つの核酸配列とハイブリッド形成するように設計される、請求項15の方法。
【請求項21】
10q23.3の損失のコピー数プロファイルが、細胞の20%以上がPTENの2未満のコピーを有するという決定を含む、請求項15の方法。
【請求項22】
10q23.3の損失のコピー数プロファイルが、試料中の評価可能な細胞の40%以上がPIK3CAの2より多いコピーを有するという決定を含む、請求項15の方法。

【公表番号】特表2012−532611(P2012−532611A)
【公表日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−519759(P2012−519759)
【出願日】平成22年7月9日(2010.7.9)
【国際出願番号】PCT/US2010/041512
【国際公開番号】WO2011/006058
【国際公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【出願人】(507301202)アボット・ラボラトリーズ (4)
【Fターム(参考)】