説明

チーズ食品

【課題】熟成チーズは淡泊な味わいの非熟成チーズに比べて、コクのある深い味わいと独特の豊かな風味を有するが、熟成工程を経ない非熟成チーズに比べて製造に時間がかかり、しかも一般に硬質ないし半硬質であるため他の食材へ混合したり、パン等への塗布する際の取り扱い性が悪かった。本発明は熟成チーズ様の風味、味を有していながら非熟成チーズのようなスプレッド性を有するチーズ食品を提供することを目的とする。
【解決手段】 本発明のチーズ食品は、非熟成チーズ中に、乳由来の油脂を酵素で分解した油脂酵素分解物及びカゼイ酵素分解物を含むことを特徴とする。本発明において油脂酵素分解物を0.05〜5.0重量%、カゼイン酵素分解物を0.05〜7.5重量%含有するものが好ましく、乳由来の油脂酵素分解物は酸価8〜150に油脂を分解したものが好ましく、カゼイン酵素分解物は平均分子量250〜800のものが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はチーズ食品に関する。
【背景技術】
【0002】
原料乳に乳酸菌とレンネットカゼインを加え、乳を固まらせて得た凝乳からホエーを除去した後、熟成工程を経て得られる白カビチーズ、ブルーチーズ、ゴーダチーズ、チェダーチーズ、エダムチーズ、パルメジャーノ等の熟成チーズは、熟成工程を経ないカッテージチーズ、クリームチーズ等の淡泊な味わいの非熟成チーズに比べ、コクのある深い味わいと独特の豊かな風味が魅力のナチュラルチーズである。しかしながら熟成チーズは数週間から数年という熟成時間を必要とするため製造に時間がかかり、しかも一般に硬質ないし半硬質であるため、他の食材に混合したり、塗布する際等の取り扱い性が悪いという問題があった。このような熟成チーズの取り扱い性を改善し、伸展性等に優れたチーズ食品として、硬質または半硬質チーズに油脂と水を特定の割合で配合して加熱処理したチーズ組成物(特許文献1)、ナチュラルチーズに溶融塩、乳化剤、水を加えて加熱して均質に混合乳化したチーズスプレッド類(特許文献2)等が提案されている。
【0003】
【特許文献1】特開昭62−130648号公報
【特許文献2】特開平5−95757号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら特許文献1記載のチーズ組成物は、チーズに油脂や水を加えたことにより、チーズ本来の味が薄くなり、プロテアーゼ処理を行ってもチーズ味の向上効果は十分でないとともに、アミノ酸の味や苦みが生じるという問題がある。特許文献2記載のチーズスプレッドもナチュラルチーズに対して60〜100重量%もの水を配合することでスプレッド性を付与しているため、チーズの味や風味が蛋白となって油脂感が損なわれ、さっぱりとして濃厚感に乏しい味となるという問題があった。本発明は上記課題を解決するためになされたもので、製造に時間を要する熟成工程を経ることなく熟成チーズ様の風味、味を有していながら非熟成チーズのようなスプレッド性を有するチーズ食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
即ち本発明は、
(1)非熟成チーズ中に、乳由来の油脂を酵素で分解した油脂酵素分解物及びカゼイン酵素分解物を含むことを特徴とするチーズ食品、
(2)乳由来の油脂を酵素で分解した油脂酵素分解物を0.05〜5.0重量%、カゼイン酵素分解物を0.05〜7.5重量%含有する上記(1)のチーズ食品、
(3)乳由来の油脂を酵素で分解した油脂酵素分解物が、酸価8〜150に油脂を分解した酵素分解物である上記(1)又は(2)のチーズ食品、
(4)カゼイン酵素分解物が、平均分子量250〜800の分解物である上記(1)〜(3)のいずかのチーズ食品、
を要旨とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明のチーズ食品は、柔らかく非熟成チーズのようなスプレッド性を有するため、パン等の食品に塗ったり、他の食材との混合が容易である。また本発明のチーズ食品は、熟成チーズのような長い熟成工程を経たり、熟成チーズを配合したりすることなく、熟成チーズ様の深い味わいと豊かな風味を有し、低コストで提供される優れたチーズ食品である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明において用いる油脂酵素分解物は、乳由来の油脂をリパーゼ等の油脂分解酵素で分解して得られる、モノグリセリド、ジグリセリド、未分解トリグリセリドと、油脂から遊離した脂肪酸との混合物であるが、酸価8〜150に分解されたものが好ましく、特に酸価30〜130に分解されたものが好ましい。油脂分解に用いるリパーゼとしては、食品に用いる事ができるリパーゼであれば何でも良く、カビや酵母などの微生物由来のものが挙げられる。乳由来の油脂としては乳脂、バター、発酵バター等が用いられる。また乳由来の油脂の味を損なわない範囲の量の牛脂、豚脂、魚油等の動物油脂、ナタネ油、コーン油、大豆油、サフラワー油、綿実油、ヤシ油、パーム油、米糠油等の植物油脂、これら動植物油脂の硬化油、エステル交換油、あるいはこれらの油脂を分別して得られる液体油、固形脂や、これら油脂の2種以上の混合油脂を、乳由来の油脂と混合して用いても良い。
【0008】
カゼイン酵素分解物は、カゼイン、カゼインナトリウム等のカゼインタンパク質をプロテアーゼ等の蛋白質分解酵素で分解したものである。カゼインは主としてα−カゼイン、β−カゼイン、κ−カゼインという平均分子量20,000〜25,000のサブユニットの複合体として構成され、平均分子量が75,000〜375,000の乳蛋白である。これらサブユニットの特徴は構成するアミノ酸の一部がリン酸化されていることである。本発明で用いるカゼイン酵素分解物は、リン酸基を含むペプチドとして分子量平均250〜800にカゼインを分解したものが好ましい。またこのカゼイン酵素分解物を部分的に精製したものや、苦味成分を除去したものであっても良い。カゼイン酵素分解物は、例えばタンパク質分解酵素の種類や組み合わせ、分解時間や温度等を調整することにより、リン酸基を含むペプチドの平均分子量が250〜800になるよう調製することができる。また平均分子量は、リン酸基を含むペプチドの分子量と濃度から求めることができる。平均分子量は、例えば目的の分子量分画に適したゲルろ過材を使用したカラムクロマトグラフィーにより分離を行い、溶出した蛋白質を特定の光波長における吸光度、例えば蛋白質の吸光度(一般に光波長280nmにおける吸光度)及び有機リンの吸光度(一般に光波長820nmにおける吸光度)で測定し、分子量ごとの濃度を求める等により確認することができる。分子量が250未満の場合は調味料的なアミノ酸の味が強くなり、分子量が800を超えるとチーズの呈味よりも苦味が強くなってしまう虞がある。
【0009】
本発明のチーズ食品は、原料乳に乳酸菌及び/又はレンネットを加えて発酵させて乳を固まらせ、ホエーを除去して得られる非熟成チーズに、上記油脂酵素分解物、カゼイン酵素分解物を添加混合して得ることができるが、原料乳に油脂酵素分解物及びカゼイン酵素分解物を添加した後、乳酸菌及び/又はレンネットを加えて乳を固まらせホエーを除去する方法により得ることもできる。非熟成チーズとしては、例えばクリームチーズ、カッテージチーズ、マスカルポーネ、リコッタ、プティ・スイス等が用いられる。またこれらの非熟成チーズ中に、フルーツ、干しブドウ等を含有するものも用いることができる。本発明のチーズ食品中の油脂酵素分解物、カゼイン酵素分解物の割合は、油脂酵素分解物0.05〜5.0重量%、カゼイン酵素分解物0.05〜7.5重量%が好ましく、特に油脂酵素分解物0.2〜3.0重量%、カゼイン酵素分解物0.2〜6.0重量%が好ましい。油脂酵素分解物が0.05重量%未満だとチーズのボディー感や、熟成チーズ特有の濃厚なチーズ味に乏しくなり、5.0重量%を超えるとバター的な味に偏ってしまう虞がある。またカゼイン酵素分解物が0.05重量%未満だと熟成チーズの持つ濃厚なチーズ感が得られ難く、7.5重量%を超えると苦味を伴った味となる虞がある。
【0010】
本発明のチーズ食品には、必要に応じて油脂、乳製品、安定剤、食塩、リン酸塩など無機塩類等、味を損なわないものであれば添加する事が出来る。また好みに合わせて香料など他の呈味成分を添加してもよい。
【0011】
本発明のチーズ食品は、そのままで熟成チーズ代替品として利用することができるとともに、パン等の食材に塗布したり、マーガリン、ホイップクリーム、クッキー、スナック菓子、ケーキ、餡、ホワイトソース、スープ、ピザ、カレールー等の他の食品に添加、混合して用いることができる。
【実施例】
【0012】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。尚、カゼイン酵素分解物は、リン酸基を含むペプチドの平均分子量が約1200のもの(以下MW−1200と示す)、約400のもの(以下MW−400と示す)、約200のもの(以下MW−200と示す)を各々調製して使用した。
油脂酵素分解物は40℃に溶解した油脂90重量部に、0.5重量部のリパーゼを溶解した水10重量部を加えて、40℃で攪拌しながら反応させ酸価4の酵素分解物と酸価50の酵素分解物を得た。酸価の測定は「基準油脂分析試験法」(日本油化学会編)の方法に準じて行った。
【0013】
実施例1
マスカルポーネ98重量部に、乳脂酵素分解物(酸価50)1.0重量部とカゼイン酵素分解物(リン酸基を含むペプチドの平均分子量が約400)1.0重量部を加えて80℃にて15分加熱した後、均質化後冷却してプラスチック容器に充填してマスカルポーネタイプのチーズ食品を得た。
【0014】
実施例2〜10、比較例1〜2
クリームに生乳を加えて乳脂肪分を15重量%に調製した原料乳を表1で示した割合で調製し、それに表1で示す乳脂の酵素分解物および表1に示すカゼイン酵素分解物を添加混合し、65℃で30分間加熱殺菌した後、均質化して22℃まで冷却し、これにレンネット0.003重量部と乳酸菌0.005重量部を添加し、pHが4.7となるまで発酵させた。その後カードを粉砕してカードを分離しホエーを除去した後、80℃にて10分加熱した後、均質化してプラスチック容器に充填してクリームチーズタイプのチーズ食品を得た。
【0015】
比較例3
クリームに生乳を加えて乳脂肪分を15重量%に調製した原料乳を表1で示した割合で調製し、それに表1で示す未硬化精製ナタネ油の酵素分解物および表1で示すカゼイン酵素分解物を添加混合し、65℃で30分間加熱殺菌した後、均質化して22℃まで冷却し、これにレンネット0.003重量部と乳酸菌0.005重量部を添加し、pHが4.7となるまで発酵させた。その後カードを粉砕してカードを分離しホエーを除去した後、80℃にて10分加熱した後、均質化してプラスチック容器に充填してクリームチーズタイプのチーズ食品を得た。
【0016】
【表1】

【0017】
上記実施例1〜10および比較例1〜3のチーズ食品を、食パンにバターナイフを用いて10gスプレッドして、パネラー20人に試食して貰った。評価を表2に示す。実施例1〜10、比較例1〜3のチーズ食品は、いずれもスプレッド性は良好であった。
【0018】
(表2)

【0019】
※1パネラーによる食パンの試食結果は、各パネラーが食感を、
熟成タイプ様のチーズ味が濃厚である。・・・・・5点
熟成タイプ様のチーズ味がでている。・・・・・・3点
熟成タイプ様のチーズ味ではない・・・・・・・・1点
と評価し、パネラー20人の合計点にて以下のように評価した。
合計点が80点以上 :○
合計点が60点以上、80点未満:△
合計点が60点未満 :×

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非熟成チーズ中に、乳由来の油脂を酵素で分解した油脂酵素分解物及びカゼイ酵素分解物を含むことを特徴とするチーズ食品。
【請求項2】
乳由来の油脂を酵素で分解した油脂酵素分解物を0.05〜5.0重量%、カゼイン酵素分解物を0.05〜7.5重量%含有する請求項1記載のチーズ食品。
【請求項3】
乳由来の油脂を酵素で分解した油脂酵素分解物が、酸価8〜150に油脂を分解した酵素分解物である請求項1又は2記載のチーズ食品。
【請求項4】
カゼイン酵素分解物が、平均分子量250〜800の分解物である請求項1〜3のいずかに記載のチーズ食品。

【公開番号】特開2008−118856(P2008−118856A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−302663(P2006−302663)
【出願日】平成18年11月8日(2006.11.8)
【出願人】(000114318)ミヨシ油脂株式会社 (120)
【Fターム(参考)】