説明

ティンパニの音程調節装置

【課題】アマチュア演奏家であっても、演奏中の音程調節が簡単な操作で確実に行えるティンパニの音程調節装置を提供する。
【解決手段】音名に対応した音程選択釦7aを備えた音程操作器70を付設し、チューニングロッド9の上下固定位置に対応した設定値を、音程選択釦7aに割り当てて記憶させる記憶手段14と、複数のチューニングロッド9を上下に動作制御する駆動手段10とを備え、音程選択釦7aを選択操作することで、操作された音程選択釦7aに対応した設定値にもとづいてヘッド5の張り具合を可変させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケトル本体開口に張設したヘッドの張り具合を、ヘッドの周縁部に連結させた複数のチューニングロッドを上下に動作させることで可変させて、音程調節を可能としたティンパニの音程調節装置の改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のティンパニは、音程(音高)を調節するためにヘッドの張り具合の調節を可能としたものがある。調節の仕方により、手締め式、ハンドル式、ペダル式に分類される。
【0003】
これらのうち手締め式、ハンドル式のものは操作に時間がかかるため、演奏前などの調律で操作するにすぎず、演奏中に音程を変化させることはほとんどできないが、ペダル式のものは演奏中でも踏むだけで瞬間的にヘッドの張り具合を変えることができるため、もっとも多く利用されている。
【0004】
このようなペダル式のものによれば、1つのティンパニで8〜10半音の音域内で演奏することができる。通常、ティンパニはヘッドサイズの異なる4,5台で一組の演奏楽器を構成し、各ティンパニは同程度の長さの音域を有するため、重複音域を考慮しても、全体では2オクターブの音域を有している。そのため、その音域内での楽曲の主旋律の演奏も可能である。
【0005】
図4は、従来のペダル式ティンパニの音程可変機構の一例を模式的に示した図で、(a)は全体の模式図、(b)はヘッド緊張機構を示す一部断面を含む拡大側面図ある。この音程可変機構100は、ペダル102を踏むほどヘッドが張って高い音に、緩めるほど張りが弱くなって低い音になる機構になっている。また、ヘッド103の張りを保持するためにペダルを踏みつづける必要はなく、踏んだときの位置に静止される構造となっている。
【0006】
ペダル式ティンパニは、本体ベース(不図示)近傍に設けられたペダル102の踏み込み操作に連動して動作することによりケトル101に張設したヘッド103の張力を変化させる音高調節装置104を備えており、この音高調節装置104はスライディングシャフト105に取り付けられ、さらにテンションロッド106およびチューニングロッド107を介してヘッド緊張機構108に連結されている。ペダル102の踏み込み操作によって、スライディングシャフト105を上下動させることによりヘッド緊張機構108を動作させ、それによってヘッド103の張力を変化させるようになっている。図中の117は音高調節装置に接続したシリンダである。
【0007】
ヘッド緊張機構108の一例を、図4(b)の拡大側面図に示している。図中、109は本体ベース(不図示)に取り付けられ立設された中空のフレームで、6〜8本のフレーム109によって上方でケトル101を支持している。本図には、その1本のフレーム109に対応したヘッド緊張機構108を図示する。
【0008】
フレーム109はその上端においてケトル支持リング110に固定されており、その固定箇所付近にはチューニングジョイント側板111が一端111aにおいて軸承されている。また、その他端に設けた回転軸にはチューニングロッド107がその上端部107aにおいて上下動自在に係合している。さらにその中央に設けた回転ナット113にはチューニングボルト114が下端部において螺合している。ボルト114の上端部には取付金具115を介してフープ116が取り付けられており、ヘッド103はケトル支持リング110に懸架支持されたケトル101の上縁を経てフープ116に把持されて緊張されている。
【0009】
すなわち、ケトル101の全周にわたる複数のチューニングロッド107をペダル102の踏み込み操作によって同時に上下動させれば、各チューニングロッド107に対応したヘッド緊張機構108によって、全周よりヘッド103の緊張の度合を自在に変更することができる。
【0010】
このようにペダル式ティンパニは、ペダル踏み込み操作が弦楽器(ギター、バイオリン、チェロなど)の左手操作のごとく作用して、このようなペダル操作だけでヘッド緊張機構を動作させてヘッドの張り具合を調節し、8〜10半音の音域内で自在に音程の変更を可能としている。それによって、演奏中においても1台のティンパニで複数音程の打音を奏でることを可能としている。
【0011】
次の文献など種々の文献には、ペダル式ティンパニの音高調節装置の改良発明が多く提案されている。
【特許文献1】特開昭54−37711号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ところで、上記ペダル式ティンパニにおいて、半音ごとの音名、ド、ド♯、レなどのそれぞれに対応したペダルの踏み込み位置は、弦楽器の左指の弦の押さえ位置と同様に、1点しか存在しないが、プロ演奏家などの熟練者はその位置を練習によって体得している。
【0013】
しかしながら、ペダル式ティンパニのペダル操作は足によるものであるため、手操作に比べてはるかにその操作加減が困難であり、また弦楽器における左手操作が目視によって弦の押さえ位置を確認できることとは異なり、足の踏み込み位置を視認することはほとんど不可能であるため、ペダルの踏み込み加減を十分に体得していないアマチュア演奏家にとって、演奏中に音程変更することはきわめて困難である。
【0014】
しかも、1組のティンパニは複数台で構成され、演奏曲によってはそれらを個別にかつ頻繁にペダル操作しなければならないため、熟練の演奏家でも、ときには体得したペダルの踏み込み位置が狂ってしまうこともある。
【0015】
本発明は、このような事情を考慮して提案されたもので、その目的は、アマチュア演奏家であっても、演奏中の音程調節が簡単な操作で確実に行えるティンパニの音程調節装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するために、請求項1に記載のティンパニの音程調節装置は、ケトル開口にヘッドを張設し、ヘッドの張り具合を、ヘッドの周縁部に連結させた複数のチューニングロッドを上下に動作させることで可変させて、音程調節を可能としたティンパニの音程調節装置において、音程選択釦を備えた音程操作器を付設し、チューニングロッドの上下固定位置に対応した設定値を、音程選択釦に割り当てて記憶させる記憶手段と、複数のチューニングロッドを上下に動作制御する駆動手段とを備え、音程選択釦を選択操作することで、記憶手段に記憶させた設定値を読み出して、駆動手段を制御し、ヘッドの張り具合を可変させることを特徴とする。
ここで、音程には、周波数で判断可能な音の高さの意味を含んでいる。
【0017】
請求項2に記載の発明装置では、駆動手段は、上記チューニングロッドに連結されたボールネジ機構と、ボールネジ機構を動作させるサーボモータと、サーボモータ制御回路とを備えており、音程操作器の音程選択釦の選択操作によって、記憶手段から読み出した設定値にもとづいてサーボモータを回転駆動させて、ボールネジ機構の上下動作をさせて、チューニングロッドの上下位置を制御する構成にしている。
【0018】
請求項3に記載の発明装置は、駆動手段を駆動して、チューニングロッドの上下位置を制御する手動レバーと、この手動レバーでボールネジ機構を動作、停止を繰り返しながら、所望の停止位置で上記音程選択釦を所定操作することにより、その停止位置を所定操作された音程選択釦に対応した設定値に変換して記憶手段に記憶させるようにした手動設定手段とをさらに備えている。
【0019】
請求項4に記載の発明装置は、音を入力し周波数を測定して音程を判別し、その判別信号を出力するチューニングメーターが接続され、かつ、音程選択釦を所定操作することにより、駆動手段を駆動して、チューニングロッドの上下位置を一定速度で制御開始し、ボールネジ機構が動作開始した後に、チューニングメーターがヘッドの打音を測定しながら判別、出力した音程の判別信号を入力すると同時に、駆動手段の駆動を停止して、その停止位置を所定操作された音程選択釦に対応した設定値に変換して記憶手段に記憶させるようにした自動設定手段をさらに備えている。
【0020】
請求項5に記載の発明装置では、音程操作器は選択された音程を示す音程表示手段をさらに備えている。
【発明の効果】
【0021】
請求項1、2に記載のティンパニの音程調節装置によれば、音程選択釦に割り当てたチューニングロッドの上下固定位置に対応した設定値でもって、複数のチューニングロッドを上下に動作制御する構成であるため、音程選択釦を選択操作するだけでヘッドの張り具合を可変させて音程調節をすることができる。
【0022】
請求項3に記載のティンパニの音程調節装置によれば、上記設定値を、手動レバーによるボールネジ機構の動作制御と、音程選択釦の所定操作とにより記憶するようにしているので、ヘッドの調律が適正に、簡易にかつ短時間で行える。
【0023】
請求項4に記載のティンパニの音程調節装置によれば、音程選択釦を所定操作してボールネジ機構を動作させながらヘッドを叩きつづけ打音を出していれば、チューニングメーターが音名を判別し、判別したタイミングの位置を操作した音程選択釦に割り付けて設定値として記憶できるので、各音程選択釦に対し適正な音高を確実に割り付けることができる。また、チューニングメーターを動作させておけばヘッドを叩きつづけるだけで設定値を自動設定できるので、演奏家や調律師でなくとも短時間で調律することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下に、本発明の実施の形態について、添付図面とともに説明する。
【0025】
図1は本発明の音程調節機能付きティンパニTを模式的に示した外観斜視図、図2は音程調節装置Aの要部ブロック図、図3は同ティンパニTに付設した操作ボックス7の外観斜視図である。
【0026】
本ティンパニTは、キャスタ(不図示)を備えた本体ベース1と、本体ベース1に取り付けられ立設された複数の中空のフレーム2、2・・・と、本体ベース1によってフレーム2を介して支持されたケトル3と、ケトル3の開口にヘッド緊張機構4によって張設されたヘッド5と、フレーム2が固定されケトル3の周縁部を支持するケトル支持リング6とを備え、また音程調節装置Aとして、ヘッド5周縁の適所には複数の音程操作釦7a、7a・・・を有した操作ボックス7を付設し、さらに本体ベース1の近傍には後述するサーボモータ12やその制御回路13を内蔵したコントローラボックス8を付設している。
【0027】
また、図4(b)にも示したように、フレーム2内にはヘッド緊張機構4に連結されたチューニングロッド9が貫通され、そのチューニングロッド9の下端は、本体ベース1内のテンションロッド18に連結されている。なお、チューニングロッド9は図示するすべてのフレーム2に内装されているが、図1では一部のフレームについてのみチューニングロッド9を図示している。
【0028】
本体ベース1内では複数のテンションロッド18、18・・・は、ベース1内に配設したボールネジ機構11に連結されており、このボールネジ機構11が、ベース1内に収容したサーボモータ12によって動作可能に接続されている。
【0029】
また、コントローラボックス8には、サーボモータ制御回路13、記憶手段14、設定手段15などが内蔵されている。
【0030】
一方、操作ボックス7はコントローラボックス8に接続され、サーボモータ12、制御回路13、ボールネジ機構11で構成される駆動手段10に対し操作信号を出力する。ボックス上面には、半音ごとの音名に対応した音程選択釦7aが配設され、これらが音程操作器70を構成する。また、上記サーボモータ12を直接回転させる手動レバー7b、後述する自動調律モードに切り替えるための自動調律切替スイッチ7c、調律時の設定完了ランプ7fを備えている。
【0031】
後述するように自動調律モードは、音程選択釦7aの所定操作での各釦7aへの設定が許可されたモードであり、そのような自動調律モードに切り替えるために自動調律切替スイッチ7cが設けられている。また、このスイッチ7cが演奏中に誤操作されないように、図示するような防止した保護カバー7eを設けている。
【0032】
なお、手動レバー7bも、演奏中に操作すれば、その後の音程選択釦7aの所定操作でサーボモータ12が動作した位置に設定が変更されてしまうおそれがあるが、手動レバー7bが簡易に動作しない機構となっているため、保護カバーを設けていない。
【0033】
音程選択釦7aは、そのティンパニTの全音域に含まれる半音ごとの音名に対応したもので、図例では、音列にしたがって、F、F#、G、G#、A、A#、B、C、C#、D、D#の各釦が設けられている。なお、音名が表示されていることが望ましい。
【0034】
また、音程選択釦7aは半音ごとに対応したものに限られず、全音階(F、G、A、B、C、D)、全音音階(半音ではなく全音ごとに区切った音)に対応させたものでもよい。また、半音よりも細分化した音に対応させたものでもよい。また、ヘッド5等が改良されティンパニが1オクターブ以上の音域に対応できるようになったとしても、適用は可能である。その場合には、音高の異なる同一の音名が存在するが、ピアノの鍵盤のように音高にしたがって順に並べれば問題はない。
【0035】
さらに、それぞれの音程選択釦7aに対応して表示ランプ7dが設けられており、音程選択釦7aが選択され音程が変更されると、それに対応した表示ランプ7dが点灯するようになっている。音程表示手段としてはこのようなものに限られず、選択された音程の音名を文字表示できるような表示パネルでもよい。
【0036】
また、図2、図3に示すように、後述する自動調律を行うためにチューニングメーター20を本ティンパニTに付加接続している。このチューニングメーター20は、市販のものが使用できるが、少なくともヘッド5の打音の周波数を測定して半音ごとの音名を判別し、その音名判別信号をティンパニTに出力できる構成を必要とする。チューニングメーター20には例えば、音名に対応する周波数を検出したときに針が「0」に振れて音名ごとに異なるランプを点灯させるものがあるが、そのランプ点灯信号を音名判別信号に使用すればよい。なお、図3の21はチューニングメーター20がヘッド5の打音を検出するための外付けマイクである。
【0037】
次に、駆動手段10によるチューニングロッド9の上下位置の制御について説明する。
【0038】
上述するように、複数のチューニングロッド9、9・・・に連結された複数のテンションロッド18、18・・・がボールネジ機構11の上端に接続されており、サーボモータ12の回転駆動によって、プーリー16、ベルト17を介して接続されたボールネジ機構11のボールネジを上下動させ、それによりテンションロッド18を介してチューニングロッド9を連動させ、上下位置を制御する。
【0039】
サーボモータ12は制御回路13によって回転駆動され、その制御回路13は不図示のCPUや種々のプログラムによって制御される。
【0040】
一方、記憶手段14には、音程操作器70の各音程選択釦7aに対応した設定値が記憶されており、音程選択釦7aが操作されたときには、プログラムが動作して該当の音程選択釦7aに対応した設定値を読み出し、それにもとづいてサーボモータ12を制御し、サーボモータ12に接続されたボールネジ機構11を動作させ、チューニングロッド9をその設定値に対応した固定位置まで移動させる。
【0041】
この設定値は設定手段15によって記憶させるもので、通常、演奏前などヘッド5の調律が必要なときに設定変更される。
【0042】
また設定値は、音程選択釦7aごとのチューニングロッド9の上下固定位置に対応するもの、つまりサーボモータ12の制御用の絶対値に相当するもので、プログラムはこの絶対値にもとづいて、ボールネジ機構11の現在位置を考慮したうえで、サーボモータ12に対する制御パラメータを算出し、その制御パラメータでもってサーボモータ12を制御する。
【0043】
このように、半音ごとの音名に対応してチューニングロッド9制御用の正しい設定値を記憶保存していれば、演奏家は音程選択釦7aを選択操作するだけでヘッド5の張り具合を可変させて音程変更をすることができる。そのため、アマチュア演奏家でもプロ並みに音程変更しながら演奏することができる。
【0044】
また、ある音程で音を出した後、その音の余韻を残した(ヘッド5が振動している)状態で音程選択釦7aを操作して音程変更すれば、音の発生中にヘッド5の張り具合が連続的に変動するため、変更前の音程から変更後の音程までの音をアナログ的になめらかに変化させることができる。つまり、グリッサンド奏法も可能である。
【0045】
ついで、各音程に対応した設定値の登録、変更について説明する。
【0046】
設定値の設定操作は、ヘッド5の張り具合を変えながらヘッド5を叩いて音を出し、音名に対応する位置(設定値)を音程選択釦に割り付ける作業で、つまり調律に相当する。調律には、手動、自動の2通りが選択可能であり、それらに対応して、手動設定手段15a、自動設定手段15bが動作して設定値を登録、変更する。
【0047】
手動調律は、調律者がヘッド5を叩きその打音を聴きながら所望の音名や音程を判断して、音程選択釦7aの所定操作により設定値を記憶するものである。なお、音名や音程の判断は、調律者自身の聴覚のみで行うほか、調律済みの楽器(例えばピアノ)、チューニングメーターなどを使用してもよい。
【0048】
調律者は、手動レバー7bを操作することによって、それに接続された駆動手段10が駆動して、チューニングロッド9の上下位置を移動させてヘッド5の張り具合を変動させていき、適所で手動レバー7bを止めてチューニングロッド9の位置を固定させ、その状態でヘッド5を叩いてその打音を調律者が判別する。このような操作、動作を繰り返しながら所望の音名に対応した音を判別したときに、該当する音程選択釦7aの所定操作(例えば長押し、2度押しなど)をすると、手動設定手段15aが動作して、停止されたチューニングロッド9の停止位置に対応する制御用の絶対値を設定値として、その音程選択釦7aに対応させて記憶手段14に記憶保存する。
【0049】
また、各音名選択釦7aに対する設定の確認が容易に行えるように、各音程選択釦7aの所定操作で設定登録が完了すると、設定完了ランプ7fを点灯させるようにしている。
【0050】
このような操作を繰り返しながら、全音程選択釦7aに対する設定値を記憶手段14に記憶保存させる。
【0051】
この手動設定手段15aによれば、簡易な操作だけで、各音程選択釦7aに対し適正な音高を割り付けることができるので、演奏の合間などに、ヘッドの気温や湿度による変化にも即対応でき、調律が短時間で行える。また、手動でヘッド5の張り具合を手動レバー7bで直接動作する構成であるため、音程選択釦7aに設定値を初期設定するときや、気温変化などで大幅な変更が必要なときの調律に向いている。
【0052】
一方、自動調律は、接続されたチューニングメーター20が判別した音名判別信号にもとづいて設定値を記憶するものである。この調律方法では、調律したい音名にあわせて、ヘッド5の張り具合をあらかじめその音名のチューニングメーター20の針の振れる範囲に調節しておく必要があるが、調律前に設定したい音名の音程選択釦7aを操作しておけば、ヘッド5の張り具合を少なくともその音程選択釦7aの現在設定値に合わせることができるため、概ねメーターの針の振れる範囲内に事前調節しておくことができる。つまり、この自動調律は、演奏の合間など設定前後で設定値に極端な狂いのない場合の調律に向いている。
【0053】
調律者は、設定したい音程選択釦7aを操作して直前に設定されたヘッド5の張り具合に事前調節しておき、自動調律切替スイッチ7cを操作して自動調律モードにした後(事前調節と自動調律モードへの切替操作は逆順でもよい)、さらに同じ音程選択釦7aを所定操作すると、自動設定手段15bは、移動開始信号を駆動手段10に送出してチューニングロッド9の上下位置を一定速度で移動させ、ヘッド5の張り具合が変動されていくが、そのチューニングロッド9の上下移動開始とともに調律者がヘッド5を叩きつづけると、チューニングメーター20が操作された音程選択釦7aに対応した音名に対応した周波数を検出し、自動設定手段15bは、その音名に対応した判別信号を受信すると、駆動手段10を停止させてチューニングロッド9の移動を停止させる。自動設定手段15bは、停止されたチューニングロッド9の停止位置に対応する制御用の絶対値を設定値として、その音程選択釦7aに対応させて記憶手段14に記憶保存する。
【0054】
自動設定手段15bが稼動中は、設定完了ランプ7fが点滅し、その音程選択釦7aに対する設定が完了すれば、設定完了ランプ7fは消灯する。
【0055】
また、上記音程選択釦7aの所定操作後には、いったんメーターの針の振れる範囲の最下限(低周波数つまりヘッド5の張り具合の緩い位置)にチューニングロッド9を動作させておき、その位置から一定速度でヘッド5を締めていくことが望ましい。
【0056】
なお、上記音程選択釦7aの所定操作は長押しなどの特殊操作でもよいが、すでに自動調律モードになっているため、通常の1回操作でもよい。
【0057】
この自動設定手段15bによれば、打音がチューニングメーター20の針の振れる範囲内であれば、確実に各音程選択釦7aに対し適正な音高を確実に割り付けることができる。また、チューニングメーター20を動作させておけばヘッド5を叩きつづけるだけで設定値を自動設定できるので、演奏家や調律師でなくとも短時間で調律することができる。また、設定完了ランプ7fで設定完了を視認できるので、設定登録作業を確実に行える。
【0058】
上記の自動調律は、事前調節のための1回目の音程選択釦7aの操作と、設定変更動作のための2回目の音程選択釦7aの操作(所定操作)とを必要とするが、自動調律モードに切り替えた後に音程選択釦7aを1回操作するだけで、事前調節と設定変更動作との両方をさせるようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】音程調節機能付きティンパニ装置の外観斜視図。
【図2】本発明のティンパニの音程調節装置の要部ブロック図。
【図3】操作ボックスの外観図。
【図4】従来のペダル式ティンパニの音程可変機構の一例を模式的に示した図で、(a)は全体の模式図、(b)はヘッド緊張機構を示す一部断面を含む拡大側面図。
【符号の説明】
【0060】
T 音程調節機能付きティンパニ
A ティンパニの音程調節装置
1 本体ベース
2 フレーム
3 ケトル
4 ヘッド緊張機構
5 ヘッド
70 音程操作器
7a 音程操作釦
7b 手動レバー
7c 自動調律切替スイッチ
9 チューニングロッド
11 ボールネジ機構
12 サーボモータ
13 制御回路
14 記憶手段
15a 手動設定手段
15b 自動設定手段
20 チューニングメーター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケトル開口にヘッドを張設し、該ヘッドの張り具合を、ヘッドの周縁部に連結させた複数のチューニングロッドを上下に動作させることで可変させて、音程調節を可能としたティンパニの音程調節装置において、
音程選択釦を備えた音程操作器を付設し、上記チューニングロッドの上下固定位置に対応した設定値を、上記音程選択釦に割り当てて記憶させる記憶手段と、上記複数のチューニングロッドを上下に動作制御する駆動手段とを備え、
上記音程選択釦を選択操作することで、上記記憶手段に記憶させた設定値を読み出して、上記駆動手段を制御し、ヘッドの張り具合を可変させることを特徴とするティンパニの音程調節装置。
【請求項2】
請求項1において、
上記駆動手段は、上記チューニングロッドに連結されたボールネジ機構と、該ボールネジ機構を動作させるサーボモータと、サーボモータ制御回路とを備えており、上記音程操作器の音程選択釦の選択操作によって、上記記憶手段から読み出した設定値にもとづいて上記サーボモータを回転駆動させて、上記ボールネジ機構の上下動作をさせて、上記チューニングロッドの上下位置を制御する構成にしているティンパニの音程調節装置。
【請求項3】
請求項2において、
上記駆動手段を駆動して、上記チューニングロッドの上下位置を制御する手動レバーと、この手動レバーで上記ボールネジ機構を動作、停止を繰り返しながら、所望の停止位置で上記音程選択釦を所定操作することにより、その停止位置を所定操作された音程選択釦に対応した設定値に変換して上記記憶手段に記憶させるようにした手動設定手段とをさらに備えていることを特徴とするティンパニの音程調節装置。
【請求項4】
請求項2において、
音を入力し周波数を測定して音程を判別し、その判別信号を出力するチューニングメーターが接続され、かつ、
上記音程選択釦を所定操作することにより、上記駆動手段を駆動して、上記チューニングロッドの上下位置を一定速度で制御開始し、上記ボールネジ機構が動作開始した後に、上記チューニングメーターが上記ヘッドの打音を測定しながら判別、出力した音程の判別信号を入力すると同時に、上記駆動手段の駆動を停止して、その停止位置を上記所定操作された音程選択釦に対応した設定値に変換して上記記憶手段に記憶させるようにした自動設定手段をさらに備えていることを特徴とするティンパニの音程調節装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかにおいて、
上記音程操作器は、選択された音程を示す音程表示手段をさらに備えていることを特徴とするティンパニの音程調節装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−70581(P2008−70581A)
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−248987(P2006−248987)
【出願日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【出願人】(506312412)
【Fターム(参考)】