説明

テストチャート及びその使用方法

【課題】レンズの特性に合わせて空間周波数成分が適切に配置されたテストチャートを提供し、従来のテストチャートよりも映像特性を正確に評価でき、且つ測定器での観測波形の映像特性が判りやすく表示されることを目的とする。
【解決手段】画枠中心部からその周辺部に向かって空間周波数特性が連続的に変化するように描かれたサーキュラゾーンプレートチャート10であって、前記サーキュラゾーンプレートチャート10は水平解像度評価用と垂直解像度評価用にそれぞれ作成され、評価をしやすくするためにTV本マーカー11を所定のTV本単位ごとに設ける。ビデオカメラにより撮影された映像信号を波形モニターで表示し、水平解像度特性の評価、垂直解像度特性の評価、輪郭補正処理のかかり具合いの評価、ビデオカメラのMTFの確認をすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撮像装置の映像特性を評価する為のテストチャート及びその使用方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、レンズとビデオカメラ本体を組み合わせたビデオカメラ(撮像装置)の解像度特性などの映像特性を評価する場合、テストチャートを被写体としてビデオカメラで撮影し、モニター画面で直接観測したり、波形モニターなどの測定器で周波数変換された観測波形を確認することにより空間周波数特性を評価することができる。
【0003】
テストチャートには、評価したい映像特性に応じて様々な種類のものがある。例えば、レジストレーションチャート、トラッキングチャート、インメガチャートやサーキュラゾーンプレートチャート(以下、CZPチャートと言う。)などがある。
このうち、CZPチャートについて説明すると、従来のCZPチャートは画枠中心部の他、複数個の同心円状の模様が描かれており、その空間周波数がリニアに変化する2次元チャートとなっている。この空間周波数特性は中心部が最も低く、周辺部になるに従って空間周波数特性が高くなるように作られている。
【0004】
これに関連して、従来のCZPチャート等を利用してアスペクト比16:9のハイビジョン用テストチャートを作成し、少なくとも2種類の空間周波数特性を与えることのできるテストチャートが開示されている(特許文献1参照)。
【0005】
また、ビデオカメラの撮影範囲に応じて測定パターンを配置し、必要な解像度に応じて最小単位目盛となるような解像度目盛を設けることを特徴としたテストチャートもある(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7−322306号公報
【特許文献2】実開昭61−199601号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ビデオカメラに使用する一般的なレンズは、その中心部から周辺部になるにしたがって諸特性が悪くなる傾向がある。例えば、レンズ中心部に比べその周辺部は収差や歪みが大きくなるので解像度特性が低下したり、広角レンズの場合はレンズ周辺部では被写体像が湾曲することがある。
【0008】
しかしながら、従来のCZPチャートは中心部の空間周波数特性が低く周辺部が高くなっており、これを撮影した場合、レンズの解像度特性が高い中心部なのに空間周波数特性の低い部分でしか観測できず、逆にレンズの解像度特性が低い周辺部で空間周波数特性が高いこととなってしまう。
そして、撮影されたビデオカメラの映像信号を波形モニターなどの測定器で評価しようとすると、前記映像信号はレンズの特性とビデオカメラ本体の特性の両方が加重されたものであるので、測定器の観測波形の変化がレンズの特性によるものなのか、ビデオカメラ本体の特性によるものなのか判らず、正確な評価がしづらいこととなっている。
【0009】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであって、レンズの特性に合わせて空間周波数成分が適切に配置されたテストチャートを提供し、従来のテストチャートよりもビデオカメラ本体の映像特性を正確に評価でき、且つ測定器での観測波形の映像特性が判りやすく表示されることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、請求項1の発明は、画枠中心部からその周辺部に向かって空間周波数特性が連続的に変化するように描かれたテストチャートであって、前記テストチャートは、水平解像度を評価するために、該テストチャートの空間周波数特性が中心部において最も高く、水平方向周辺部へ向かうにつれて低くなるように描かれたことを特徴としている。
【0011】
また、請求項2の発明は、画枠中心部からその周辺部に向かって空間周波数特性が連続的に変化するように描かれたテストチャートであって、前記テストチャートは、垂直解像度を評価するために、該テストチャートの空間周波数特性が中心部において最も高く、垂直方向周辺部へ向かうにつれて低くなるように描かれたことを特徴としている。
【0012】
また、請求項3の発明は、請求項1記載のテストチャートにおいて、その作成方法としてサーキュラゾーンプレートチャートを使用し、該サーキュラゾーンプレートチャートを中心部から左右に二等分する垂直線で切断し、切断された左側の左辺と、他方の右辺を接合して作成したことを特徴としている。
同様に、請求項4の発明は、請求項2記載のテストチャートにおいて、その作成方法としてサーキュラゾーンプレートチャートを使用し、該サーキュラゾーンプレートチャートを中心部から上下に二等分する水平線で切断し、切断された上側の上辺と、他方の下辺を接合して作成したことを特徴としている。
【0013】
また、請求項5の発明は、請求項3又は4記載のテストチャートにおいて、TV本マーカーを所定のTV本単位ごとに設けたことを特徴としている。
【0014】
また、請求項6記載の発明は、請求項1〜5のいずれか1項に記載のテストチャートの使用方法であって、前記テストチャートを撮像装置を用いて撮影し、該撮像装置から出力された映像信号を測定器により周波数変換させ表示した観測波形を用いて解像度特性の評価をすることを特徴としている。
【0015】
さらに、請求項7の発明は、請求項6記載のテストチャートの使用方法において、映像信号を測定器により周波数変換させ表示した観測波形と、前記映像信号に対して被写体の輪郭部分を強調する補正処理を行い、該処理信号を測定器により周波数変換させ表示した観測波形とを比較し、前記補正処理のかかり具合いを評価することを特徴としている。
【0016】
また、請求項8の発明は、請求項1〜5のいずれか1項に記載のテストチャートの使用方法であって、前記テストチャートを撮像装置を用いて撮影し、その映像信号を測定器により周波数変換させ表示した観測波形を用いてMTFを調べることを特徴としている。
【発明の効果】
【0017】
本発明によると、テストチャートの空間周波数成分をレンズの特性に合わせて配置することによってレンズの収差や歪みなどの解像度の影響を少なくし、従来のテストチャートよりもビデオカメラ本体の映像特性を正確に評価でき、且つ測定器での観測波形の映像特性が判りやすく表示されることによって撮像装置の総合的な評価の比較ができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】従来のCZPチャートと、該チャートを撮影した信号を測定器により波形表示した図であり、(a)は従来のCZPチャート、(b)はチャートの水平方向の観測波形、(c)はチャートの垂直方向の観測波形を示している。
【図2】従来のCZPチャートを改造して作成した水平解像度観測用チャートと、該チャートを撮影した信号を測定器により波形表示した図であり、(a)は前記水平解像度観測用チャート、(b)はチャートの観測波形、(c)は輪郭を強調する補正を行った場合の観測波形を示している。
【図3】従来のCZPチャートを改造して作成した垂直解像度観測用チャートと、該チャートを撮影した信号を測定器により波形表示した図であり、(a)は前記垂直解像度観測用チャート、(b)はチャートの観測波形、(c)は輪郭を強調する補正を行った場合の観測波形を示している。
【図4】観測波形を輪郭補正する場合の基本波形の変化を示す図で、(a)は輪郭補正前の基本波形、(b)は輪郭補正後の波形を示している。
【図5】水平解像度観測用チャートの観測波形を用いて簡易的なMTF曲線を求めた一例を示す図であり、(a)は水平解像度観測用チャート、(b)はチャートの観測波形を示している。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明に係るテストチャートの実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、本発明の実施の形態ではビデオカメラについて説明するが、これに限らずテレビカメラ等その他の撮像装置にも適用することができる。また、測定器として波形モニターを使用する。図1(a)は従来のCZPチャート10であり、図1(b)は中央部水平方向の1ラインを選択した場合の波形モニターによる観測波形であり、図1(c)は中央部垂直方向の1ラインを選択した場合の波形モニターによる観測波形である。
【0020】
ここで観測波形の見方を説明すると、横軸は解像度(TV本)を示し、縦軸は輝度をパーセンテージ表示している。輝度は白色が一番高くなる。
図1(a)の従来のCZPチャート10において、例えば画面中央部の水平方向の1ライン上に着目すると、白色と黒色の被写体が交互に存在し、中央部において白黒の交互に存在する周期が最も長く(空間周波数が低い)、周辺部に向かうにつれて周期が短く(空間周波数が高い)なっている。
【0021】
前記チャートをビデオカメラで撮影した映像信号を波形モニターで表示すると図1(b)のようになる。輝度の高いレベル(白)と低いレベル(黒)が交互に表示されるので、周波数が連続的に変化するバースト状の波形(連続波)が表示される。その波の数は同一ラインの中央部の空問周波数がもっとも低いので、それに対応して中央部の周波数が最も低く(波の数が少ない)表示され、左右の周辺部に向かうにつれて周波数が高く(波の数が多い)表示される。
【0022】
また、観測波形の振幅はレンズとビデオカメラ本体の周波数特性に依存して変化する。具体的には、理想的なレンズとビデオカメラ本体の場合、被写体の空間周波数に関係なく、白と黒を忠実に再現できるので、同一ライン上の中央部から左右の周辺部の全域に亘って同じ振幅の波形を表示することになる。
【0023】
しかし、実際のレンズやビデオカメラ本体は周波数に対して固有の再現特性を持っており、一般的には、低い周波数の被写体に対しては忠実に再現できるが、周波数がしだいに高くなるにつれて再現しきれなくなる特性がある。どの辺の周波数で再現しきれなくなるかは、レンズやビデオカメラ本体のそれぞれの性能に依存することになる。
【0024】
さらに、レンズについては収差や歪みの影響でレンズ中央部おいては解像度特性が良く、その周辺部にゆくにつれて解像度特性が悪くなる特性も加わるので、ビデオカメラから出力される映像信号はこれらの特性が全て加重(レンズ特性+ビデオカメラ本体の特性)された波形となる。
【0025】
従来のCZPチャート10はレンズの特性の悪い周辺部に観測・測定したいチャート部分(空間周波数の高いチャート部分)が配置されてしまうので、周辺部での特性劣化(波形振幅の減少)がレンズ特性によるものなのか、ビデオカメラ本体の特性によるものなのかが良く判らず、正確な映像特性の評価ができない。また、従来のCZPチャート10上には解像度の目安となるTV本の目盛りがないので、波形モニター上においてどの部分が何TV本解像度に相当するかも良く判らない。
【0026】
そこで、本発明ではレンズ特性の良い中心部に観測・測定したいチャート部分を配置することとした。テストチャートの作成方法は、水平方向の解像度を測定したい場合には図1(a)の従来のCZPチャート10を左右に二等分する垂直線であるA−A線で切断し、切断された左側の画像の左辺と、他方の右辺を接合して作成する(図2(a))。これにより空間周波数が中心部から周辺部に向かうにつれてしだいに低くなるようなチャートとなるので、レンズ特性による解像度特性の劣化の影響を極力少なくすることができ、ビデオカメラ本体の特性を評価することができる。
【0027】
また、図2(a)のようにCZPチャート10に所定TV本ごとに垂直の黒色マーカー線11を描くと、ビデオカメラの映像信号を波形モニターで観測した場合、図2(b)の波形のようにマーカー線11に対応したTV本の部分だけ下向きに鋭く尖った波形となり、波形のどの部分が何TV本の解像度に相当するか判りやすい。
【0028】
撮影映像によっては被写体の輪郭部分(被写体の輝度が急激に変化する部分)に対して所定の信号処理を施し、輪郭部分を強調する処理(波形の振幅を大きくする処理)を行うことがある。これを輪郭補正処理といい、波形モニターの基本波形は図4(a)から図4(b)のように変化する。
【0029】
この輪郭補正処理を本発明のCZPチャート10に対して行った場合、図2(c)のような観測波形となる。チャートには白と黒が交互に描かれているので、所定の空問周波数の領域では輪郭があるものと判断され、波形が強調されその振幅が大きくなる。図2(c)の観測波形では、図2(b)の観測波形と比べて、左右の200TV本付近を中心にその振幅が強調されて大きくなっているのが判る。これが水平方向での輪郭補正処理信号の掛かり具合いとして評価される。
【0030】
同様に、垂直方向の解像度を測定したい場合には図1(a)の従来のCZPチャート10を上下に二等分する水平線であるB−B線で切断し、切断された上側の画像の上辺と、他方の下辺を接合して作成する。図3(a)は作成したチャートを90度回転させた図である。ビデオカメラの映像信号を波形モニターで観測した場合は図3(b)となり、輪郭補正処理を行った場合の波形は図3(c)となる。
【0031】
本発明に係るテストチャートをビデオカメラで撮影し、レンズ(サジタル像面)+ビデオカメラ本体の簡易的な総合MTFを調べることもできる。
MTF(Modulation Transfer Function)とは、被写体の持つコントラストを像面上でどの程度忠実に再現できるかを表わすものである。通常のMTF曲線は、横軸を画面中心から放射方向(サジタル方向:画面中心部から全方向へ拡散する方向)の距離(mm)とし、縦軸をコントラスト値(%)で表す。なお、レンズの絞りは開放状態にし、空間周波数は特定の値(例えば、10本/mmと30本/mm)に固定した状態で測定することが多い。
MTF曲線の見方は、画面中心部から周辺部まで平行に近いほど高コントラストで画像を結ぶことを示し、右下がりになるほど周辺部でのコントラストが落ちることを示している。
【0032】
このように、MTF曲線はレンズ性能を評価する指標のひとつとして使われている。通常MTF曲線は大掛かりな専用の測定装置を使わなければ測定できないが、本発明のテストチャートを使用しビデカメラで撮影すると、図5のように簡易的なMTF曲線を把握することができる。使用したテストチャートは図2に示したものと同じである。
【0033】
波形モニターの観測波形(図5(b))は、縦軸が輝度(コントラスト)を表し、横軸が画面中央部とその放射方向を表している。測定器に波形モニターを使用しているので、放射方向の一つの水平方向に着目すると、連続波の振幅が画面両端部から中央部に向かって減少しており、個々の振幅の最大値を線で結ぶことにより、簡易的なMTF曲線を得ることができる。なお、図5(b)の観測波形の空間周波数は、特定の値(例えば、10本/mmと30本/mm)に固定しておらず、画面中央部が最も高く、左右の周辺部にゆくにつれて低くなるように空間周波数を変化させている。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明に係るレンズとビデオカメラ本体を組み合わせたビデオカメラ(撮像装置)の映像特性を評価する為のテストチャート及びその使用方法は、解像度特性の低いレンズを使用したビデオカメラの映像特性(特にビデオカメラ本体の映像特性)の評価に好適である。
【符号の説明】
【0035】
10 CZPチャート
11 TV本マーカー


【特許請求の範囲】
【請求項1】
画枠中心部からその周辺部に向かって空間周波数特性が連続的に変化するように描かれたテストチャートであって、
前記テストチャートは、水平解像度を評価するために、該テストチャートの空間周波数特性が中心部において最も高く、水平方向周辺部へ向かうにつれて低くなるように描かれたことを特徴とするテストチャート。
【請求項2】
画枠中心部からその周辺部に向かって空間周波数特性が連続的に変化するように描かれたテストチャートであって、
前記テストチャートは、垂直解像度を評価するために、該テストチャートの空間周波数特性が中心部において最も高く、垂直方向周辺部へ向かうにつれて低くなるように描かれたことを特徴とするテストチャート。
【請求項3】
請求項1記載のテストチャートにおいて、その作成方法としてサーキュラゾーンプレートチャートを使用し、該サーキュラゾーンプレートチャートを中心部から左右に二等分する垂直線で切断し、切断された左側の左辺と、他方の右辺を接合して作成したことを特徴とするテストチャート。
【請求項4】
請求項2記載のテストチャートにおいて、その作成方法としてサーキュラゾーンプレートチャートを使用し、該サーキュラゾーンプレートチャートを中心部から上下に二等分する水平線で切断し、切断された上側の上辺と、他方の下辺を接合して作成したことを特徴とするテストチャート。
【請求項5】
請求項3又は4記載のテストチャートにおいて、TV本マーカーを所定のTV本単位ごとに設けたことを特徴とするテストチャート。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のテストチャートの使用方法であって、前記テストチャートを撮像装置を用いて撮影し、該撮像装置から出力された映像信号を測定器により周波数変換させ表示した観測波形を用いて解像度特性の評価をすることを特徴とするテストチャートの使用方法。
【請求項7】
請求項6記載のテストチャートの使用方法において、映像信号を測定器により周波数変換させ表示した観測波形と、
前記映像信号に対して被写体の輪郭部分を強調する補正処理を行い、該処理信号を測定器により周波数変換させ表示した観測波形と
を比較し、前記補正処理のかかり具合いを評価することを特徴とするテストチャートの使用方法。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のテストチャートの使用方法であって、前記テストチャートを撮像装置を用いて撮影し、その映像信号を測定器により周波数変換させ表示した観測波形を用いてMTFを調べることを特徴とするテストチャートの使用方法。

【図4】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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