説明

テトラゾリウム化合物を色原体として用いる試料中の測定対象物質の測定方法及び測定試薬、非特異的発色を抑制する方法、並びに非特異的発色抑制剤

【課題】本発明の課題は、テトラゾリウム化合物を色原体として用いた試料中の測定対象物質の測定において、デヒドロアスコルビン酸によるテトラゾリウム化合物の非特異的発色を抑制し、試料中の測定対象物質の濃度を正確に測定することが出来る測定方法及び測定試薬を提供することである。また、本発明の課題は、テトラゾリウム化合物の非特異的発色を抑制する方法を提供することであり、テトラゾリウム化合物の非特異的発色抑制剤を提供することである。
【解決手段】本発明は、テトラゾリウム化合物を色原体として用いる試料中の測定対象物質の測定方法において、試料中に含まれるアスコルビン酸を消去するためのアスコルビン酸酸化酵素と共に、テトラゾリウム化合物の非特異的発色の抑制剤として、ホウ酸又はその塩を測定反応液中又は測定試薬中に存在又は含有させることを特徴とする、試料中の測定対象物質の測定方法及び測定試薬、テトラゾリウム化合物を色原体として用いる試料中の測定対象物質の測定において、ホウ酸又はその塩の存在下で測定を行うことにより、テトラゾリウム化合物の非特異的発色を抑制する方法、ホウ酸又はその塩よりなる、テトラゾリウム化合物を色原体として用いる試料中の測定対象物質測定時のテトラゾリウム化合物の非特異的発色抑制剤である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テトラゾリウム化合物を色原体として用いる試料中の測定対象物質の測定方法及び測定試薬、テトラゾリウム化合物の非特異的発色を抑制する方法、テトラゾリウム化合物の非特異的発色抑制剤に関するものである。
本発明は、特に、化学、生命科学、分析化学及び臨床検査等の分野において有用なものである。
【背景技術】
【0002】
血液等の試料中の測定対象物質を測定し、その変動を見ることは、疾患の診断、治療、早期発見や予防に不可欠であり、様々な測定方法が開発されている。
このような測定方法の一つとして、電子受容体と測定対象物質の間に酵素等によって酸化反応を起こさせ、生成した電子受容体の還元体の測定を行い、生体試料中に含まれる測定対象物質を測定する方法を挙げることができる。
例えば、電子受容体としてニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)又はニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADP)を用い、その還元体である還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NADH)又は還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADPH)にジアホラーゼや1−メトキシ−5−メチルフェナジニウムメチルサルフェイト等の電子伝達体と色原体であるテトラゾリウム化合物を作用させ、生成するホルマザン色素を比色測定する方法を挙げることができる。
【0003】
しかしながら、前記のテトラゾリウム化合物を色原体として用いた試料中の測定対象物質の測定においては、試料に含まれるアスコルビン酸により影響を受け易いことも知られている。すなわち、試料に含まれる種々の妨害物質によってテトラゾリウム化合物が還元されてしまい、NADHまたはNADPHが存在しなくとも、ホルマザン色素を生成してしまい、試料中の測定対象物質の測定値に正の誤差を与えてしまうことが知られていた(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
なお、この試料中のアスコルビン酸の影響を抑制する方法としては、例えば、アスコルビン酸酸化酵素等のアスコルビン酸酸化剤によって、アスコルビン酸をデヒドロアスコルビン酸に変化させることにより、アスコルビン酸を消去する方法(例えば、特許文献2参照。)等が提案されている。
【0005】
【特許文献1】特開昭64−45374号公報
【特許文献2】特公昭56−39198号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者は、テトラゾリウム化合物を色原体として用いた試料中の測定対象物質の測定において、測定試薬にアスコルビン酸を消去するためのアスコルビン酸酸化酵素を存在させた場合、テトラゾリウム化合物の非特異的発色が起こり、試料中の測定対象物質の測定値に正の誤差を与えてしまうことを見出した。すなわち、テトラゾリウム化合物を色原体として用いた試料中の測定対象物質の測定においては、測定試薬にアスコルビン酸を消去するためのアスコルビン酸酸化酵素を存在させることにより、試料中のアスコルビン酸をデヒドロアスコルビン酸に変化させた場合でも、このデヒドロアスコルビン酸によって、テトラゾリウム化合物の非特異的発色が起こることを見出した。
【0007】
したがって、本発明の課題は、テトラゾリウム化合物を色原体として用いた試料中の測定対象物質の測定において、デヒドロアスコルビン酸によるテトラゾリウム化合物の非特異的発色を抑制し、試料中の測定対象物質の濃度を正確に測定することが出来る測定方法及び測定試薬を提供することである。
また、本発明の課題は、テトラゾリウム化合物の非特異的発色を抑制する方法を提供することであり、テトラゾリウム化合物の非特異的発色抑制剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記の課題の解決を目指して鋭意検討を行った結果、テトラゾリウム化合物を色原体として用いる試料中の測定対象物質の測定であって、アスコルビン酸酸化酵素によって試料中に含まれるアスコルビン酸を消去する測定において、ホウ酸又はその塩を測定反応液中に存在させることにより、デヒドロアスコルビン酸によるテトラゾリウム化合物の非特異的発色を抑制し、試料中の測定対象物質の濃度を正確に測定できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の発明を提供する。
(1) テトラゾリウム化合物を色原体として用いる試料中の測定対象物質の測定方法であって、アスコルビン酸酸化酵素によって試料中に含まれるアスコルビン酸を消去する測定方法において、テトラゾリウム化合物の非特異的発色の抑制剤として、ホウ酸又はその塩を測定反応液中に存在させることを特徴とする、試料中の測定対象物質の測定方法。
(2) テトラゾリウム化合物の非特異的発色が、デヒドロアスコルビン酸によるものである、前記(1)記載の試料中の測定対象物質の測定方法。
(3) テトラゾリウム化合物を色原体として用いる試料中の測定対象物質の測定試薬であって、アスコルビン酸酸化酵素によって試料中に含まれるアスコルビン酸を消去する測定試薬において、テトラゾリウム化合物の非特異的発色の抑制剤として、ホウ酸又はその塩を含有させることを特徴とする、試料中の測定対象物質の測定試薬。
(4) テトラゾリウム化合物の非特異的発色が、デヒドロアスコルビン酸によるものである、前記(3)記載の試料中の測定対象物質の測定試薬。
(5) テトラゾリウム化合物を色原体として用いる試料中の測定対象物質の測定において、ホウ酸又はその塩の存在下で測定を行うことにより、テトラゾリウム化合物の非特異的発色を抑制する方法。
(6) テトラゾリウム化合物の非特異的発色が、デヒドロアスコルビン酸によるものである、前記(5)記載のテトラゾリウム化合物の非特異的発色を抑制する方法。
(7) ホウ酸又はその塩よりなる、テトラゾリウム化合物を色原体として用いる試料中の測定対象物質測定時のテトラゾリウム化合物の非特異的発色抑制剤。
(8) テトラゾリウム化合物の非特異的発色が、デヒドロアスコルビン酸によるものである、前記(7)記載のテトラゾリウム化合物の非特異的発色抑制剤。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、テトラゾリウム化合物を色原体として用いた試料中の測定対象物質の測定において、テトラゾリウム化合物の非特異的発色抑制剤として、ホウ酸又はその塩を、測定反応液中又は測定試薬中に存在又は含有させることにより、デヒドロアスコルビン酸によるテトラゾリウム化合物の非特異的発色を抑制し、試料中の測定対象物質の濃度を正確に測定することができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
(1) テトラゾリウム化合物
本発明においては、テトラゾリウム化合物を色原体として使用して、試料中の測定対象物質の測定を行う。
本発明において、テトラゾリウム化合物としては、例えば、テトラゾリウムブルー〔TB〕、ニトロテトラゾリウムブルー〔ニトロ−TB〕、テトラゾリウムバイオレット〔TV〕、ニトロブルーテトラゾリウム〔NBT〕、3−(4,5−ジメチル−2−チアゾリル)−2,5−ジフェニル−2Hテトラゾリウム〔MTT〕、2−(4−ヨ−ドフェニル)−3−(4−ニトロフェニル)−5−(2,4−ジスルフェニル)−2H−テトラゾリウム塩〔WST−1〕、2−(4−ヨ−ドフェニル)−3−(2,4−ジニトロフェニル)−5−(2,4−ジスルフェニル)−2H−テトラゾリウム塩〔WST−3〕、2−(2−メトキシ−4−ニトロフェニル)−3−(4−ニトロフェニル)−5−(2,4−ジスルフェニル)−2H−テトラゾリウム塩〔WST−8〕、2,3,5−トリフェニルテトラゾリウム、3−(4,5−ジメチルチアゾ−ル−2−フェニル)−5−(3−カルボキシメトキシフェニル)−2−(4−スルフォフェニル)−2H−テトラゾリウム塩〔MTS〕等の公知のものを挙げることができる。
【0012】
本発明において、テトラゾリウム化合物は、市販品をそのまま用いることができる。また、テトラゾリウム化合物の濃度は、特に限定されないが、試料と測定試薬を混合した後の測定反応液中において、3μM〜30mMの範囲にあることが好ましく、10μM〜10mMの範囲が特に好ましい。
【0013】
(2) アスコルビン酸酸化酵素
本発明において、アスコルビン酸を消去するためのアスコルビン酸酸化酵素としては、いずれの由来のものも使用でき、例えば、カボチャ、キュウリなどの植物由来のもの、細菌若しくはカビなどの微生物由来のもの等を挙げることができる。
なお、このアスコルビン酸酸化酵素には、植物等のアスコルビン酸酸化酵素の遺伝子を大腸菌等の微生物等に組み込む遺伝子組み換え技術により調製したもの、又は遺伝子の改変等により性質を改良した微生物等から調製したアスコルビン酸酸化酵素等も含まれる。
本発明において、アスコルビン酸酸化酵素は、市販品をそのまま用いることができる。また、アスコルビン酸酸化酵素の濃度は、その由来によっても異なり、特に限定されないが、試料と測定試薬を混合した後の測定反応液中において、0.1〜50単位/Lの範囲にあればよい。
【0014】
(3) ホウ酸又はその塩
本発明のテトラゾリウム化合物を色原体として用いる試料中の測定対象物質の測定においては、デヒドロアスコルビン酸によるテトラゾリウム化合物の非特異的発色抑制剤として、ホウ酸又はその塩を、測定反応液中又は測定試薬中に存在又は含有させることにより、試料中の測定対象物質の測定を行う。
ここで、ホウ酸又はその塩としては、例えば、ホウ酸、ホウ酸ナトリウム、ホウ酸カリウム、ホウ酸リチウム、ホウ酸マグネシウム、ホウ酸カルシウム、又はホウ酸アンモニウム等を挙げることができる。
このホウ酸又はその塩の濃度は、試料と測定試薬を混合した後の測定反応液中において、50mM〜1Mの範囲にあることが好ましく、100mM〜1Mの範囲がより好ましく、200mM〜1Mの範囲が特に好ましい。また、ホウ酸又はその塩の濃度は、1Mを超えて含有させても問題はないが、その量までで充分な効果が得られる。
【0015】
また、本発明の測定方法及び測定試薬が、1ステップ法(1試薬系)である場合には、測定試薬に含ませるホウ酸又はその塩の濃度は、上記の範囲のものとすればよく、2ステップ法(2試薬系)以上の複数ステップ法(複数試薬系)である場合には、試料と各試薬を試料中の測定対象物質を測定する際の各々の添加量の比で混合した時に、この混合後の測定反応液中のホウ酸又はその塩の濃度が上記の範囲となるように、測定試薬中の濃度を定めればよい。
例えば、2ステップ法(2試薬系)の場合、混合後の測定反応液中のホウ酸又はその塩の濃度が上記濃度範囲となるように、ホウ酸又はその塩を第1試薬又は第2試薬のいずれかに含ませればよい。
また、混合後の測定反応液中のホウ酸又はその塩の濃度が上記濃度範囲に入るのであれば、ホウ酸又はその塩は第1試薬と第2試薬の両方に含ませてもよい。
【0016】
(4) 測定における他の構成成分
本発明においては、前記の各成分の他に、脱水素酵素、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド又はニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸等の電子受容体、電子伝達体等の測定反応に使用する成分、公知の防腐剤、又は安定化剤等を必要に応じて適宜使用することができる。
本発明に使用される脱水素酵素とは、電子受容体と測定対象物質又は測定対象物質から生成した物質の間に酸化反応を起こし、電子受容体の還元体を生成させる反応を触媒する酵素のことをいう。例えば、グルコース脱水素酵素、グルコース−6−リン酸脱水素酵素、3α−ヒドロキシステロイド脱水素酵素、乳酸脱水素酵素、L−グルタミン酸脱水素酵素又はロイシン脱水素酵素等の公知の脱水素酵素を挙げることができる。
また、本発明に使用される電子伝達体としては、例えば、ジアホラーゼ、フェナジンメトサルフェイト(PMS)、1−メトキシフェナジニウムメチルサルフェイト(1−メトキシPMS)又は9−ジメチルアミノベンゾ−α−フェナゾキソニウムクロライド(メルドラブルー)等の物質を挙げることができる。これらの電子伝達体は、市販品をそのまま使用することができる。
【0017】
(5) 測定時のpH
本発明において、試料中の測定対象物質測定時のpH範囲は、テトラゾリウム化合物を色原体として用いた測定において通常使用する酵素等の至適pHや安定性により適宜設定すればよい。
また、前記のpH範囲となるように使用する緩衝液としては、前記のpH範囲に緩衝能がある従来公知の緩衝液を適宜使用することができる。
このような緩衝液として使用できるものとしては、例えば、リン酸、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、グリシルグリシン、MES、Bis−Tris、ADA、ACES、Bis−Trisプロパン、PIPES、MOPSO、MOPS、BES、HEPES、TES、DIPSO、TAPSO、POPSO、HEPPS、HEPPSO、Tricine、Bicine、TAPS、CHES、CAPSO、若しくはCAPS又はこれらの塩等の各緩衝剤からなる緩衝液を挙げることができる。
【0018】
(6) 試薬等の構成、及び構成成分の濃度等
本発明の測定方法及び測定試薬は、1ステップ法(1試薬系)で実施、構成してもよく、又は2ステップ(2試薬)以上の複数ステップ法(複数試薬系)で実施、構成してもよい。
また、本発明の測定方法及び測定試薬が1ステップ法(1試薬系)である場合は、前記した各構成成分の濃度、及びpH等は前記の範囲のものとすればよく、複数ステップ法(複数試薬系)である場合には、測定対象物質を測定する際の各々の添加量の比で混合した時に、この混合後の測定反応液中の前記構成成分の濃度及びpHが、前記した各構成成分の濃度範囲、及びpH範囲等となるように各試薬の構成成分の濃度等を定めればよい。
【0019】
(7) 試料
本発明において、試料とは、試料中の測定対象物質の測定を行おうとするもののことであり、このようなものであれば特に限定されない。
このような試料としては、例えば、ヒト又は動物の血液、血清、血漿、尿、大便、精液、髄液、唾液、汗、涙、腹水、羊水、脳等の臓器、毛髪や皮膚や爪や筋肉若しくは神経等の組織及び細胞等の抽出液等が挙げられる。
【0020】
(8) 測定対象物質
本発明において、測定対象物質としては、電子受容体の存在下で、該測定対象物質に対して、脱水素酵素が使用できるもの、又は該測定対象物質より生成した物質に対して、電子受容体の存在下で、脱水素酵素が使用できるものであれば、特に限定されないが、例えば、胆汁酸、ブドウ糖、1,5−アンヒドログルシトール、フルクトース、トリグリセライド、リン脂質、総コレステロール、HDLコレステロール、LDLコレステロール、遊離脂肪酸、尿素窒素、尿酸、アラニンアミノトランスフェラーゼ、アスパルテートアミノトランスフェラーゼ、アルカリホスファターゼ、コリンエステラーゼ、クレアチニン等を挙げることができる。
【0021】
(9) 測定対象物質の測定方法又は測定試薬
本発明は、テトラゾリウム化合物を色原体として用いる試料中の測定対象物質の測定方法であって、アスコルビン酸酸化酵素によって試料中に含まれるアスコルビン酸を消去する測定方法において、テトラゾリウム化合物の非特異的発色の抑制剤として、ホウ酸又はその塩を測定反応液中又は測定試薬中に存在させた、試料中の測定対象物質の測定方法又は測定試薬である。したがって、基本的な測定対象物質の測定方法については、電子受容体と脱水素酵素を試料に作用させ、生成した電子受容体の還元体をテトラゾリウム化合物を色原体として用いて測定する、公知の測定方法に準じて行うことができる。
試料中の測定対象物質を測定する場合には、例えば、試料とアスコルビン酸酸化酵素及びホウ酸又はその塩を含有する試薬とを混合する。この試料と試薬との混合物を、電子受容体、脱水素酵素、テトラゾリウム化合物を含有する試薬と混合し、酵素反応を行い、生成した電子受容体の還元体とテトラゾリウム化合物を発色反応させる。この発色前後の反応液の吸光度を測定し、テトラゾリウム化合物による吸光度の変化量を求めること等により、試料中の測定対象物質の濃度を測定することができる。
なお、測定は、レートアッセイ法及びエンドポイント法のいずれの方法でも行うことができる。
【0022】
(10) テトラゾリウム化合物の非特異的発色を抑制する方法
本発明における、テトラゾリウム化合物の非特異的発色を抑制する方法は、試料中の測定対象物質の測定において、ホウ酸又はその塩の存在下で測定を行うことによるものである。
この試料中の測定対象物質の測定において、ホウ酸又はその塩の存在下で測定を行うことにより、デヒドロアスコルビン酸によるテトラゾリウム化合物の非特異的発色を抑制でき、精度が高い測定対象物質の測定値を得ることができる。
また、本発明におけるデヒドロアスコルビン酸によるテトラゾリウム化合物の非特異的発色を抑制する方法を実施する際の試薬の構成成分や試料や条件等は、前記した通りである。
【0023】
(11) テトラゾリウム化合物の非特異的発色抑制剤
本発明における、ホウ酸又はその塩よりなる、テトラゾリウム化合物の非特異的発色抑制剤は、試料中の測定対象物質測定時に使用するものである。
この試料中の測定対象物質の測定時に、ホウ酸又はその塩よりなる、テトラゾリウム化合物の非特異的発色抑制剤を使用することにより、デヒドロアスコルビン酸によるテトラゾリウム化合物の非特異的発色を抑制でき、精度が高い測定対象物質の測定値を得ることができる。
また、本発明におけるテトラゾリウム化合物の非特異的発色抑制剤を、試料中の測定対象物質測定時に使用する際の試薬の構成成分や試料や条件等は、前記した通りである。
【0024】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【実施例1】
【0025】
(本発明によるテトラゾリウム化合物の非特異的発色抑制効果の確認−1)
ホウ酸又はその塩を、テトラゾリウム化合物を色原体として用いた測定試薬に含有させた場合のテトラゾリウム化合物の非特異的発色の抑制効果を確かめた。
【0026】
1.測定試薬の調製
(1)胆汁酸測定用第1試薬の調製
下記の試薬成分をそれぞれ記載の濃度になるように純水に溶解し、pHを7.2(20℃)に調整し、ホウ酸濃度の異なる4種類の胆汁酸測定用第1試薬を調製した。(なお、テトラゾリウム化合物の非特異的な発色のみを測定するため、胆汁酸測定のために必要な酵素である3α−ヒドロキシステロイド脱水素酵素は含有させなかった。)
ホウ酸 0mM、100mM、200mM、又は400mM
PIPES 100mM
ピルビン酸 10mM
アスコルビン酸酸化酵素 0.5単位/mL
【0027】
(2)胆汁酸測定用第2試薬の調製
下記の試薬成分をそれぞれ記載の濃度になるように純水に溶解し、pHを3.0(20℃)に調整し、胆汁酸測定用第2試薬を調製した。
グリシン 10mM
EDTA 1mM
ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド 3mM
WST−1 300μM
1−メトキシ−5−メチルフェナジニウムメチルサルフェイト 15μM
【0028】
2.試料の調製
ヒト血清にアスコルビン酸を、添加濃度が10、30又は50mg/dLになるように添加したものを試料とした。
【0029】
3.試料の測定
前記2の各試料について、前記1で調製した4種類の胆汁酸測定用第1試薬及び胆汁酸測定用第2試薬にて測定を行い、テトラゾリウム化合物の非特異的発色による測定値への誤差を確認した。
本発明の測定試薬における測定は、日立製作所社製7170S形自動分析装置にて行い、前記2で調製した試料の各8μLに各々前記1で調製した胆汁酸測定用第1試薬160μLを添加して、混和後37℃で5分間反応させた後、前記1で調製した胆汁酸測定用第2試薬80μLを添加し、37度で5分間反応させた。胆汁酸測定用第2試薬添加直前と添加5分後の主波長450nm及び副波長700nmにおける吸光度を測定し、その差を求めた。
また、胆汁酸濃度が既知の試料(標準液)について、前記1で調製した胆汁酸測定用第1試薬に、胆汁酸測定のために必要な酵素である3α−ヒドロキシステロイド脱水素酵素を含有させた胆汁酸測定用第1試薬、及び前記1で調製した胆汁酸測定用第2試薬を用いて、前記の通り測定を行い、この標準液の測定値(吸光度差)と前記の3種類の試料の測定値(吸光度差)を比較することにより、前記3種類の試料の測定値(吸光度差)を胆汁酸濃度に換算した値を各々求めた。
【0030】
4.測定結果
試料の測定結果を表1に示した。
【0031】
【表1】

【0032】
なお、本実施例においては、測定試薬に胆汁酸測定に必要な脱水素酵素である3α−ヒドロキシステロイド脱水素酵素を含有させていないため、各試料の測定値は本来「0μM」となるべきである。すなわち、各試料の測定で得られた測定値は全てテトラゾリウム化合物の非特異的発色により生じた正誤差である。
本実施例1においては、第1試薬にアスコルビン酸をデヒドロアスコルビン酸に変化させて消去するためのアスコルビン酸酸化酵素が含有されているが、表1から明らかなように、第1試薬にホウ酸を含有させていない場合は、本来「0μM」となるべき各試料の測定値に正誤差が生じてしまっていることが分かる。すなわち、このことは、テトラゾリウム化合物が、試料中のアスコルビン酸がアスコルビン酸酸化酵素によって変化したデヒドロアスコルビン酸によって、非特異的発色を起こしていることを示している。
これに対して、第1試薬にホウ酸を含有させた場合は、この測定値の正誤差が減少し改善されていることが分かる。
【0033】
これらのことより、テトラゾリウム化合物を色原体として用いた試料中の測定対象物質の測定方法において、デヒドロアスコルビン酸によるテトラゾリウム化合物の非特異的発色は、測定試薬にホウ酸又はその塩を含有させることにより抑制することが可能であり、その結果、正確な測定値を得ることができることが確かめられた。
【実施例2】
【0034】
(本発明によるテトラゾリウム化合物の非特異的発色抑制効果の確認−2)
ホウ酸又はその塩を、テトラゾリウム化合物を色原体として用いた測定試薬に含有させた場合のデヒドロアスコルビン酸によるテトラゾリウム化合物の非特異的発色の抑制効果を確かめた。
【0035】
1.測定試薬の調製
(1)胆汁酸測定用第1試薬の調製
実施例1の1の(1)で調製した胆汁酸測定用第1試薬をそのまま使用した。
【0036】
(2)胆汁酸測定用第2試薬の調製
実施例1の1の(2)で調製した胆汁酸測定用第2試薬をそのまま使用した。
【0037】
2.試料の調製
ヒト血清にデヒドロアスコルビン酸を、添加濃度が10、30又は50mg/dLになるように添加したものを試料とした。
【0038】
3.試料の測定
前記2の各試料について、前記1で調製した4種類の胆汁酸測定用第1試薬及び胆汁酸測定用第2試薬にて実施例1の3と同様にして測定を行い、テトラゾリウム化合物の非特異的発色による測定値への誤差を確認した。
【0039】
4.測定結果
試料の測定結果を表2に示した。
【0040】
【表2】

【0041】
なお、本実施例においては、測定試薬に胆汁酸測定に必要な脱水素酵素である3α−ヒドロキシステロイド脱水素酵素を含有させていないため、各試料の測定値は本来「0μM」となるべきである。すなわち、各試料の測定で得られた測定値は全てテトラゾリウム化合物の非特異的発色により生じた正誤差である。
表2から明らかなように、第1試薬にホウ酸を含有させていない場合は、試料中のデヒドロアスコルビン酸の影響を受けて、本来「0μM」となるべき各試料の測定値に正誤差が生じていることが分かる。更に、試料中の添加デヒドロアスコルビン酸濃度が高くなるにつれて、各試料の測定値が上昇しており、正誤差の程度が大きくなっていることが分かる。
これに対して、第1試薬にホウ酸を含有させた場合は、この測定値の正誤差が減少し改善されていることが分かる。
【0042】
これらのことより、テトラゾリウム化合物を色原体として用いた試料中の測定対象物質の測定方法において、ホウ酸又はその塩の存在下で測定を行うことにより、デヒドロアスコルビン酸による測定値への誤差が生じることを抑制でき、その結果、デヒドロアスコルビン酸によるテトラゾリウム化合物の非特異的発色を抑制することが可能となり、正確な測定値を得ることができることが確かめられた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
テトラゾリウム化合物を色原体として用いる試料中の測定対象物質の測定方法であって、アスコルビン酸酸化酵素によって試料中に含まれるアスコルビン酸を消去する測定方法において、テトラゾリウム化合物の非特異的発色の抑制剤として、ホウ酸又はその塩を測定反応液中に存在させることを特徴とする、試料中の測定対象物質の測定方法。
【請求項2】
テトラゾリウム化合物の非特異的発色が、デヒドロアスコルビン酸によるものである、請求項1記載の試料中の測定対象物質の測定方法。
【請求項3】
テトラゾリウム化合物を色原体として用いる試料中の測定対象物質の測定試薬であって、アスコルビン酸酸化酵素によって試料中に含まれるアスコルビン酸を消去する測定試薬において、テトラゾリウム化合物の非特異的発色の抑制剤として、ホウ酸又はその塩を含有させることを特徴とする、試料中の測定対象物質の測定試薬。
【請求項4】
テトラゾリウム化合物の非特異的発色が、デヒドロアスコルビン酸によるものである、請求項3記載の試料中の測定対象物質の測定試薬。
【請求項5】
テトラゾリウム化合物を色原体として用いる試料中の測定対象物質の測定において、ホウ酸又はその塩の存在下で測定を行うことにより、テトラゾリウム化合物の非特異的発色を抑制する方法。
【請求項6】
テトラゾリウム化合物の非特異的発色が、デヒドロアスコルビン酸によるものである、請求項5記載のテトラゾリウム化合物の非特異的発色を抑制する方法。
【請求項7】
ホウ酸又はその塩よりなる、テトラゾリウム化合物を色原体として用いる試料中の測定対象物質測定時のテトラゾリウム化合物の非特異的発色抑制剤。
【請求項8】
テトラゾリウム化合物の非特異的発色が、デヒドロアスコルビン酸によるものである、請求項7記載のテトラゾリウム化合物の非特異的発色抑制剤。

【公開番号】特開2009−39015(P2009−39015A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−205961(P2007−205961)
【出願日】平成19年8月7日(2007.8.7)
【出願人】(000131474)株式会社シノテスト (28)
【Fターム(参考)】