説明

テトラヒドロテトラアザペンタセンおよび誘導体を調製するプロセス

【課題】5,7,12,14−テトラヒドロ−5,7,12,14−テトラアザペンタセン化合物および誘導体の調製方法の提供。
【解決手段】1,2−ジアミノベンゼン化合物と、1,2,4,5−テトラヒドロキシベンゼン化合物とを反応させる。対称形のテトラヒドロテトラアザペンタセン誘導体は、以下の反応式に示されるように、ジアミノベンゼン化合物2当量を用い、テトラヒドロキシベンゼン化合物と反応させることによって調製することができる。B環および/またはD環の窒素原子上に置換基を有する化合物は、アルキル化反応またはクロスカップリンツ反応によって得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、米国特許出願番号(代理人書類番号20100109−US−NP、XERZ 202514US01)に関連する。この出願の開示内容は、本明細書に参考として完全に組み込まれる。
【0002】
本開示は、テトラヒドロテトラアザペンタセンとして知られる化合物およびその誘導体を調製するプロセスに関する。これらのペンタセン類似体は、電子機器(例えば、薄膜トランジスタ)の半導体として特に有用である。これらのペンタセン類似体は、優れた性能特性を有している。
【背景技術】
【0003】
ペンタセンは、高い電界効果移動度を有する、低分子有機半導体で一般的に使用される半導体材料である。
【0004】
高い電界効果移動度を有する最も小さな有機半導体は、ペンタセンに基づくものである。しかし、ペンタセンは溶解度が低く、高価な高真空蒸着プロセスの使用が必要である。可溶性のペンタセン誘導体は、空気にさらされると溶液中で酸化してしまう傾向があり、周囲条件で溶液から機器を製造することができない。広い用途で、移動度を顕著に改良するための新しい技術を開発する必要がある。
【0005】
改良された性質を有するペンタセン類似体を調製する新規プロセスを開発する必要がある。
【発明の概要】
【0006】
本開示は、半導体または半導体材料として有用な5,7,12,14−テトラヒドロテトラアザペンタセンおよび誘導体を調製するプロセスに関する。
【0007】
少なくとも1つの1,2−ジアミノベンゼン化合物と1,2,4,5−テトラヒドロキシベンゼン化合物とを反応させることを含む、5,7,12,14−テトラヒドロ−5,7,12,14−テトラアザペンタセン化合物を調製するプロセスが開示されている。
【0008】
少なくとも1つの1,2−ジアミノベンゼン化合物は、一般的に式(I)の構造を有しており、
【化1】

式(I)
式中、R、R、R、Rは、独立して、水素、アルキル、置換アルキル、アルケニル、置換アルケニル、アルキニル、置換アルキニル、アリール、置換アリール、ヘテロアリール、置換ヘテロアリール、ケトニル、アリールアルキル、ハロゲンからなる群から選択される。R’およびR”は、独立して、水素、アルキル、置換アルキル、アリール、置換アリールから選択される。
【0009】
ある実施形態では、R’およびR”は、両方とも水素である。他の実施形態では、R’およびR”は、互いに異なっている。あるさらなる実施形態では、RとRは、同じである。他の実施形態では、RとRは、同じである。さらに他の場合、R、R、R、Rは、同じである。
【0010】
1,2,4,5−テトラヒドロキシベンゼン化合物は、式(II)の構造を有しており、
【化2】

式(II)
式中、RおよびRは、独立して、水素、アルキル、アルケニル、アルキニル、置換アルキル、置換アルケニル、置換アルキニル、アリール、置換アリール、ハロゲンからなる群から選択され;R、R、R、Rは、独立して、水素、アルキル、置換アルキルからなる群から選択される。
【0011】
ある実施形態では、RおよびRは、両方とも水素である。他の場合、RとRは、互いに異なっている。さらにその他の場合、RとRは、同じである。
【0012】
少なくとも1つの1,2−ジアミノベンゼン化合物と、1,2,4,5−テトラヒドロキシベンゼン化合物とを合わせ、混合物を作成してもよく、次いで、この混合物を不活性環境下で加熱し、5,7,12,14−テトラヒドロ−5,7,12,14−テトラアザペンタセン化合物を作成する。この混合物を、約110℃〜約
250℃の温度で加熱してもよく、この混合物を約30分〜約12時間加熱してもよい。
【0013】
または、少なくとも1つの1,2−ジアミノベンゼン化合物と、1,2,4,5−テトラヒドロキシベンゼン化合物とを合わせ、混合物を作成してもよく、次いで、この混合物を不活性環境下で加熱し、5,7,12,14−テトラヒドロ−5,7,12,14−テトラアザペンタセン化合物を作成する。この混合物を、300℃を超える温度で加熱してもよく、この混合物を約30秒〜約10分間加熱してもよい。
【0014】
または、少なくとも1つの1,2−ジアミノベンゼン化合物と、1,2,4,5−テトラヒドロキシベンゼン化合物とを溶媒に溶解させて溶液を作成し、この溶液を加熱し、5,7,12,14−テトラヒドロ−5,7,12,14−テトラアザペンタセン化合物を作成する。この溶液を約80℃〜約180℃の温度で加熱してもよく、この溶液を約30分〜約12時間加熱してもよい。
【0015】
溶媒は、カルボン酸(例えば、酢酸、メタン酸、エタン酸、オクタデカン酸、プロパン酸、ベンゼンカルボン酸、プロパン二酸、ブタン二酸など)、およびこれらの組み合わせ;極性の非プロトン性溶媒(例えば、NMP、DMF、DMA、DMSOなど)、およびこれらの組み合わせであってもよい。
【0016】
このプロセスは、さらに、5,7,12,14−テトラヒドロ−5,7,12,14−テトラアザペンタセン化合物を単離し、洗浄し、5,7,12,14−テトラヒドロ−5,7,12,14−テトラアザペンタセン化合物を乾燥させることをさらに含んでいてもよい。
【0017】
少なくとも1つの1,2−ジアミノベンゼン化合物と1,2,4,5−テトラヒドロキシベンゼン化合物とのモル比は、2:1〜約2.5:1である。
【0018】
ある特定の実施形態では、1モル単位の1,2,4,5−テトラヒドロキシベンゼン化合物を、約1モル単位の第1の1,2−ジアミノベンゼン化合物と反応させて中間体を生成させ、次に、この中間体を約1モル単位の第2の1,2−ジアミノベンゼン化合物と反応させて5,7,12,14−テトラヒドロ−5,7,12,14−テトラアザペンタセン化合物を作成する。第1の1,2−ジアミノベンゼン化合物と第2の1,2−ジアミノベンゼン化合物は異なっている。
【0019】
また、いくつかの実施形態では、5,7,12,14−テトラヒドロ−5,7,12,14−テトラアザペンタセン(TH−TAP)と、窒素原子に対して選択的な、側鎖を生成する試薬とを反応させることを含む、5,7,12,14−四置換−5,7,12,14−テトラアザペンタセンを調製するプロセスも開示されている。側鎖を生成する試薬は、本明細書でさらに記載されるように、式(B)の構造を有していてもよい。
【0020】
ある実施形態では、TH−TAPと、側鎖を生成する試薬とを反応させ、中間体を生成させる。次いで、このプロセスは、この中間体を還元して5,7,12,14−四置換−5,7,12,14−テトラアザペンタセンを得ることをさらに含む。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は、本開示の例示的なプロセスを用いて製造された化合物のH核磁気共鳴スペクトルである。
【図2】図2は、本開示の例示的なプロセスを用いて製造された化合物の高解像度質量分析スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本明細書に開示されている要素、プロセス、装置のもっと完全な理解は、添付の図面を参照することによって得ることができる。これらの図面は、簡便さ、および本開示の説明しやすさに基づく、単なる概略的な図であり、したがって、そのデバイスまたは要素の相対的な大きさおよび寸法を示したり、および/または例示的な実施形態の範囲を規定したり、または限定したりすることを意図したものではない。
【0023】
明確にするために以下の記載で特定の用語を用いているが、これらの用語は、図面を説明するために選ばれた実施形態の特定の構造のみを指すことを意図しており、本開示の範囲を定義したり、限定したりすることを意図したものではない。図面および以下の記載において、同様の数字による表示は、同様の機能を有する構成要素を指すと理解されるべきである。
【0024】
ある量と組み合わせて使用される修飾語「約」は、記載されている値を含み、文脈によって示されている意味を有する(例えば、特定の量の測定に関連する、ある程度の誤差を少なくとも含む)。本文中のある範囲で用いられる場合、修飾語「約」は、2個の端点の絶対値によって定義される範囲も開示していると考えるべきである。例えば、「約2〜約10」の範囲は、「2〜10」の範囲も開示している。
【0025】
本開示は、5,7,12,14−テトラヒドロ−5,7,12,14−テトラアザペンタセン化合物および誘導体を調製するプロセスに関する。これらの化合物は、一般的に、式(A)を有し、
【化3】

式(A)
式中、R、R、R、R、R、R、R、R10、R11、R13は、それぞれ独立して、水素、アルキル、置換アルキル、アルケニル、置換アルケニル、アルキニル、置換アルキニル、アリール、置換アリール、ヘテロアリール、置換ヘテロアリール、ケトニル、アリールアルキル、ハロゲンから選択され;R、R、R12、R14は、それぞれ独立して、水素、アルキル、置換アルキル、アルケニル、置換アルケニル、アルキニル、置換アルキニル、アリール、置換アリール、ヘテロアリール、置換ヘテロアリール、ケトニル、アリールアルキルから選択される。命名法の「テトラヒドロ」部分は、置換基がそれぞれの窒素原子に存在することを示す。
【0026】
一般的に、これらの化合物は、2モル単位の式(I)の少なくとも1つの1,2−ジアミノベンゼン化合物と、1モル単位の式(II)の1,2,4,5−テトラヒドロキシベンゼン化合物とを反応させることを含むプロセスによって作られてもよく、
【化4】

式中、R、R、R、R、R、Rは、独立して、水素、アルキル、置換アルキル、アルケニル、置換アルケニル、アルキニル、置換アルキニル、アリール、置換アリール、ヘテロアリール、置換ヘテロアリール、ケトニル、アリールアルキル、ハロゲンからなる群から選択され;R’およびR”は、独立して、水素、アルキル、置換アルキル、アリール、置換アリールからなる群から選択され;R、R、R、Rは、独立して、水素、アルキル、置換アルキルからなる群から選択される。
【0027】
用語「アルキル」は、完全に炭素原子と水素原子とで構成されており、完全に飽和であり、直鎖であっても分枝鎖であってもよい、式−C2n+1を有する置換基を指す。
【0028】
用語「アルケニル」は、少なくとも1つの炭素−炭素二重結合を含み、この二重結合が芳香族環の一部分ではない置換基を指す。置換基は、直鎖、分枝鎖または環状であってもよい。例示的なアルケニル置換基としては、エテニル(−CH=CH)、フェニルビニル(−CH=CH−C)が挙げられる。
【0029】
用語「アルキニル」は、少なくとも1つの炭素−炭素三重結合を含み、この三重結合が芳香族環の一部分ではない置換基を指す。置換基は、直鎖、分枝鎖または環状であってもよい。三重結合は、二重結合とは考えず、二重結合は、三重結合とは考えない。二重結合と三重結合を含む置換基は、アルキニル置換基と考えるべきであり、アルケニル置換基と考えるべきではない。例示的なアルキニル置換基としては、フェニルアセチレニル(−C≡C−C)が挙げられる。
【0030】
用語「アリール」は、完全に炭素原子と水素原子とで構成されている芳香族置換基を指す。アリールは、ある数値範囲の炭素原子と組み合わせて記載される場合、置換された芳香族置換基を含むと解釈するべきではない。例えば、句「炭素原子を6〜10個含むアリール」は、フェニル基(炭素原子6個)またはナフチル基(炭素原子10個)のみを指すと解釈すべきであり、メチルフェニル基(炭素原子7個)を含むと解釈すべきではない。
【0031】
用語「ヘテロアリール」は、炭素原子と、水素原子と、1個以上のヘテロ原子とから構成される芳香族置換基を指す。炭素原子およびヘテロ原子は、置換基の環式環または骨格に存在する。ヘテロ原子は、O、S、Nから選択される。例示的なヘテロアリール置換基としては、チエニル、ピリジニル、イミダゾリルが挙げられる。
【0032】
用語「ケトニル」は、酸素原子に二重結合によって結合し、アルキル基または置換アルキル基に単結合によって結合した炭素原子を含む置換基、すなわち、−(C=O)−Rを指す。例示的なケトニル置換基は、メチルカルボニル(−COCH)である。
【0033】
用語「アリールアルキル」は、アルキレン置換基に接続した芳香族置換基を指す。アルキレン置換基は、完全に飽和な炭素原子で構成され、2個の異なる原子と単結合を形成する能力を有する。アリールアルキル基も置換されていてもよい。例示的なアリールアルキル置換基としては、ベンジル(−CH−C)が挙げられる。
【0034】
用語「置換された」は、記載されている置換基の上にある少なくとも1つの水素原子が、ハロゲン、−OH、−CN、−NO、−COOH、−SOH、−SiR(Rはアルキル)のような別の官能基で置換されていることを指す。例示的な置換アルキル基は、アルキル基の1個以上の水素原子が、ハロゲン原子(例えば、フッ素、塩素、ヨウ素、臭素)と置き換わったペルハロアルキル基である。アリール基またはヘテロアリール基は、上に列挙した官能基で置換されていてもよく、同様に、アルキルまたはアルコキシで置換されていてもよい。例示的な置換アリール基としては、メチルフェニル(CH−C−)、メトキシフェニルが挙げられる。例示的な置換ヘテロアリール基としては、ドデシルチエニルが挙げられる。
【0035】
一般的に、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基は、それぞれ独立して、炭素原子を1〜30個含む。同様に、アリール基は、独立して、炭素原子を6〜30個含む。
【0036】
式(II)のテトラヒドロキシベンゼン化合物の特定の実施形態では、RとRは同じであり、RとRは同じであり、RとRは、互いに異なっている。
【0037】
式(II)のテトラヒドロキシベンゼンは、例えば、以下のスキーム1に示されるように、2,5−ジヒドロキシ−1,4−ベンゾキノンを還元することによって作られてもよい。
【化5】

スキーム1
【0038】
ある実施形態では、式(I)および(II)の2種類の出発物質の固体混合物を不活性雰囲気(例えば、窒素(N)またはアルゴン)中で加熱することによって、反応を行う。
【0039】
他の実施形態では、式(I)のジアミノベンゼンと、式(II)のテトラヒドロキシベンゼンとを溶媒に溶解し、加熱する。
【0040】
いくつかの実施形態では、ジアミノベンゼン化合物と、テトラヒドロキシベンゼン化合物とを、溶媒が存在しない状態で混合する場合には、300℃より高い温度(約300℃〜約500℃、約300℃〜約450℃を含む)で約30秒〜約10分加熱する。このような加熱は、トーチを用いて行ってもよい。または、ジアミノベンゼン化合物と、テトラヒドロキシベンゼン化合物とを、溶媒が存在しない状態で混合する場合には、約110℃〜約250℃の温度(約150℃〜約200℃を含む)で約30分〜約12時間加熱する。溶媒に溶解する場合、ジアミノベンゼン化合物と、テトラヒドロキシベンゼン化合物とを、約80℃〜約110℃の温度で加熱する。ジアミノベンゼン化合物と、テトラヒドロキシベンゼン化合物とを約30分〜約12時間加熱する。この加熱は、例えば、乾燥機で行ってもよい。
【0041】
上述のように、加熱する前に、ジアミノベンゼン化合物と、テトラヒドロキシベンゼン化合物とを溶媒に溶解してもよい。例示的な溶媒としては、カルボン酸(例えば、酢酸、メタン酸、エタン酸、オクタデカン酸、プロパン酸、(Z)−9−オクタデカン酸、ベンゼンカルボン酸、プロパン二酸、ブタン二酸など)、およびこれらの組み合わせ;極性の非プロトン性溶媒(例えば、NMP、DMF、DMA、DMSOなど)、およびこれらの組み合わせが挙げられる。
【0042】
反応後、テトラアザペンタセン化合物をアセトンまたは種々の他の溶媒(例えば、メタノール、トルエン、THF、ジエチルエーテル)で洗浄し;例えば、減圧乾燥機で乾燥させてもよい。乾燥は、典型的には、約60℃の温度で約8時間〜約12時間行ってもよい。昇華または酸を通すことによって、生成物をさらに精製してもよい。
【0043】
特定の実施形態では、R、R、R、R、R、R、R、R、R、R、R’、R”は、すべて水素である。これらの実施形態では、ジアミノベンゼン化合物は、式(1)を有しており、テトラヒドロキシベンゼン化合物は、式(2)を有している。
【化6】

【0044】
ここで、得られたテトラヒドロテトラアザペンタセン化合物は、5,7,12,14−テトラヒドロ−5,7,12,14−テトラヒドロアザペンタセンであり、TH−TAPと省略されてもよく、式(3)で示される。
【化7】

式(3)
【0045】
TH−TAPの誘導体も望ましい場合がある。例えば、A環およびE環(すなわち、末端のフェニル環)の置換基は、溶解度の助けとなる場合があり、発色団を伸ばして半導体の性質を調節し、および/または固体状態の充填状態に影響を与える場合がある。式(I)の化合物中のR、R、R、Rのうち、少なくとも1つが水素ではないときに、これらの置換が起こる。特定の実施形態では、R、R、R、Rのうち、少なくとも1つは、アルキル、アリール、アルケニル、アルキニルから選択される。
【0046】
他の実施形態では、窒素原子が置換されている。このような置換は、溶解度の助けとなる場合があり、発色団を伸ばして半導体の性質を調節し、固体状態の充填状態に影響を与え、および/または化合物の酸化安定性を高める場合がある。R’およびR”のうち、少なくとも1つが水素ではないときに、これらの置換が起こる。特定の実施形態では、R’およびR”のうち、少なくとも1つが置換アルキルおよび置換アリールから選択される。
【0047】
C環(すなわち、中央のフェニル環)の置換が望ましい場合もある。式(II)の化合物中のRおよびRのうち、少なくとも1つが水素ではないときに、これらの置換が起こる。特定の実施形態では、RおよびRのうち、少なくとも1つが、アルキル、アリール、アルケニル、アルキニルから選択される。
【0048】
対称形のテトラヒドロテトラアザペンタセン誘導体は、以下の反応(1)に示されるように、式(I)を有するジアミノベンゼン化合物2当量を用い、式(II)を有するテトラヒドロキシベンゼン化合物と反応させることによって調製してもよい。
【化8】

反応(1)
【0049】
A環とE環の置換基が異なることが望ましい場合には、反応(2)および(3)を利用してもよい。第1に、反応(2)に示されるように、第1のジアミノベンゼン1当量と、テトラヒドロキシベンゼンとを反応させる。言い換えると、第1のジアミノベンゼン化合物とテトラヒドロキシベンゼン化合物とのモル比は約1:1である。
【化9】

反応(2)
【0050】
次に、反応(3)において、反応(2)で製造された中間体生成物を、第2のジアミノベンゼン化合物と反応させる。第2のジアミノベンゼン化合物は、第1のジアミノベンゼン化合物とは異なっている。
【化10】

反応(3)
【0051】
反応(4)において、C環が置換され、すなわち、RおよびRの片方または両方が水素ではない。この結果は、テトラヒドロキシベンゼン化合物上の適切な置換基によって達成されてもよい。
【化11】

反応(4)
【0052】
反応(5)において、B環および/またはD環の1個以上の窒素原子が置換される。この結果は、ジアミノベンゼンの1個のアミン基または両方のアミン基を置換することによって達成されてもよい。
【化12】

反応(5)
【0053】
窒素原子の置換基が同じである場合、B環とD環が対称形の誘導体が調製される。窒素原子の置換基が異なる場合、非対称な位置異性体の混合物が調製される。
【0054】
上の反応(1)〜(5)の考え方を組み合わせ、テトラアザペンタセン骨格のすべての位置に置換基を有する化合物を製造してもよい。製造される化合物によっては、モル過剰量のジアミノベンゼン化合物を加え、反応を完結させる。いくつかの実施形態では、少なくとも1つのジアミノベンゼン化合物とテトラヒドロキシベンゼン化合物とのモル比は、2:1〜約2.5:1である。
【0055】
B環および/またはD環の窒素原子上に置換基を有する化合物も、TH−TAPを官能基化することによって調製することができる。一般的に言えば、式(A)のN置換された化合物は、TH−TAPと、側鎖を生成する反応剤とを反応させ、N置換されたTH−TAP化合物を得ることによって作られる。側鎖を生成する反応剤は、A環、C環またはE環のいずれかの炭素原子ではなく、窒素原子と選択的に反応する。例えば、反応(6)、(7)、(8)、(9)に示されるように、N置換された化合物は、アルキル化反応またはクロスカップリンツ反応によって得ることができ、
【化13】

反応(6)
【化14】

反応(7)
【化15】

反応(8)
【化16】

反応(9)
反応(6)〜(8)において、各Rは、独立して、アルキル、置換アルキル、アリール、置換アリール、ヘテロアリール、または置換ヘテロアリールであり、反応(9)において、Rは、トリアルキルシリルであってもよい。反応(8)の窒素原子上のすべての置換基が、アルケニルまたは置換アルケニル置換基と考えてもよいことを注記しておく。反応(9)の窒素原子上のすべての置換基は、アルキニルまたは置換アルキニル置換基と考えられるだろう。
【0056】
一般的に、側鎖を生成する反応剤は、式(B)を有しており、
X−L−R15
式(B)
式中、Xは、ハロゲンまたは水素であり;R15は、アルキル、置換アルキル、アルケニル、置換アルケニル、アルキニル、置換アルキニル、アリール、置換アリール、ヘテロアリール、置換ヘテロアリール、ケトニル、アリールアルキルから選択され;Lは、二価の結合部分である。用語「二価の結合部分」は、2個の異なる原子と単結合を形成し、これらの2個の異なる原子を互いに接続することができる任意の部分を指す。式(B)で有用であり得る例示的な二価の結合部分としては、カルボニル(−C(=O)−)、単結合(すなわち、式は、X−R15になる)、エテニル(−CH=CH−)、アセチレニル(−C≡C−)が挙げられる。
【0057】
ある実施形態では、側鎖を生成する反応剤は、N置換されたTH−TAP化合物を得るために、還元される。例えば、反応(10)において、TH−TAPを酸塩化物と反応させ、ケトニル置換基を有するN置換された化合物を得ることができる。所望な場合、得られた中間体を還元し、アルキル置換基または置換アルキル置換基を得てもよい。任意の適切な還元剤を用いてもよく、LiAlHは、単なる例である。
【化17】

反応(10)
【0058】
異なる置換基を有するN置換された化合物は、所望な場合、側鎖を生成する試薬に比べて過剰のTH−TAP化合物を用い、反応(6)〜(10)を順に行うことによって製造することができる。
【0059】
本開示の化合物は、高い移動度、優れた溶解度、良好な酸化安定性を示す。この化合物は、特に、電子機器、特定的には、薄膜トランジスタに適している。より特定的には、この化合物は、印刷した有機エレクトロニクスの半導体材料として用いるのに適している。
【0060】
この化合物は、ペンタセンの空気中での安定性が数分間であるのに対し、固体状態で数ヶ月間、空気中での安定性を示し、溶液中では数週間の安定性を示す。
【0061】
以下の実施例は、本開示の方法にしたがって製造された電子機器を示す。この実施例は、単なる説明であり、ここに記載した材料、条件またはプロセスパラメータに関し、本開示を限定することを意図したものではない。すべての部は、他の意味であると示されていない限り、重量%である。
【実施例】
【0062】
(実施例1)
TH−TAPを調製した。1,2−フェニレンジアミン(8.37グラム、77mmol、2.2当量)、1,2,4,5−テトラヒドロキシベンゼン(5.0グラム、35.2mmol、1当量)を、すり鉢とすりこぎを用いて粉砕し、コハク色の瓶に移し、アルゴンを流した。この瓶を密閉し、180℃の浴に1時間置いた。この物質は決して溶解しなかった。この物質をプロパントーチで5〜10分間加熱した。未精製の生成物を濾過によって集め、アセトンで洗浄した。この固体をソックスレー抽出(テトラヒドロフラン、1,2−ジクロロベンゼン)したが、多くの物質は得られなかった。ジメチルスルホキシド(DMSO)抽出によって、紫色固体を得た。エタノール抽出によって、非常に少量の物質を得た。
【0063】
この紫色固体をソックスレー円筒濾紙から回収し、減圧下で一晩乾燥させた。360℃で第1のゾーン、340℃で第2のゾーンを有する真空トレインサブリメーションによって、緑色の金属光沢のある固体を得た。
【0064】
この金属光沢のある緑色固体をDMSO−d6に溶解した後、プロトン核磁気共鳴分光法(すなわち、H NMR)を周波数300MHzで行った。この溶液は、蛍光の赤色がかった桃色であった。シグナルは弱く、H NMRスペクトル(図1)は、7ppmより大きいところ、および小さいところの化学シフトに芳香族プロトンを示していた。
【0065】
示差走査熱量測定(DSC)を行い、350℃までの温度では、なんら熱的事象は観察されなかった。また、熱重量測定を行い、300℃で1%未満の消失があり、450℃で4%未満の消失があることが示された。主要な生成物の消失は、約550℃で始まった。これらの結果は、これらの化合物が高い熱安定性を有することを示している。
【0066】
100%純粋な5,7,12,14−テトラヒドロ−5,7,12,14−テトラアザペンタセン(C1814)の元素分析の計算値は、炭素75.5wt%、水素4.93wt%、窒素19.57wt%である。観察されたサンプルは、炭素を75.2wt%、水素を4.2wt%、窒素を19.9wt%含んでいた。
【0067】
マトリックス支援レーザー脱離/イオン化法は、飛行時間質量分析計を用いて行った(MALDI−TOF)。5,7,12,14−テトラヒドロテトラアザペンタセンの質量の計算値は、286.1218Daである。MALDI−TOFを用いた質量の測定値は、285.8100であった。図2は、MALDI−TOFスペクトルである。
【0068】
(実施例2)
また、TH−TAPも以下に示すように調製することができる。1,2−フェニレンジアミン(799ミリグラム、7.39mmol、2.1eq)、ピロカテコール(500mg、3.52mmol、1eq)を、すり鉢とすりこぎを用いて粉砕し、コハク色の瓶に移し、十分にアルゴンを流した。このコハク色の瓶の蓋をしめ、180℃の乾燥機で4時間加熱した。このバイアルの側面に、緑色残渣が存在し、暗色(黒色)の残渣が底部に存在した。このサンプルを真空トレインサブリメーションで精製し、360℃で第1のゾーン(サンプル)、340℃で第2のゾーンがあり、緑色の金属光沢のある固体を得た。
【0069】
(実施例3)
2,3,9,10−テトラメチル−5,7,12,14−テトラヒドロテトラアザペンタセンを調製した。この化合物は、以下の式(4)として示される。
【化18】

式(4)
【0070】
1,2,4,5−テトラヒドロキシベンゼン(2.0グラム、14.1mmol)、4,5−ジメチル−1,2−フェニレンジアミン(3.83グラム、28.2mmol)を、すり鉢とすりこぎを用いて粉砕し、アルゴン雰囲気下、しっかりと密閉したバイアルに入れた。このバイアルを180℃の乾燥機で4時間加熱し、次いで、空気中で開放し、冷却した。得られた物質をアセトンで数回洗浄し、濾過し、乾燥させた。
【0071】
単離したサンプルの一部(2グラム)を、30分間かけてトリフルオロ酢酸(175mL)にゆっくりと加え、45分かけて溶解させた。得られた溶液を濾過し、不溶性の不純物を除去した。濾液(暗青色の混合物)を、氷冷した脱イオン水(700mL)にゆっくりと加えた。得られた沈殿を濾過によって集め、脱イオン水で再び懸濁させ、濾過し、50℃の減圧乾燥機で乾燥させ、生成物を黒紫色の固体として得た(1.52グラム)。
【0072】
(実施例4)
9,10−ジメチル−5,7,12,14−テトラヒドロアザペンタセンを調製した。この化合物は、以下の式(5)として示される。
【化19】

式(5)
【0073】
1,2−フェニレンジアミン(761mg、7.04mmol、1eq)、1,2,4,5−テトラヒドロキシベンゼン(1.00グラム、7.04mmol、1eq)すり鉢とすりこぎを用いて粉砕し、コハク色の瓶に移し、十分にアルゴンを流した。この瓶を密閉し、180℃の乾燥機に3時間置いた。この瓶を室温まで冷却し、この物質を、すり鉢とすりこぎを用いて4,5−ジメチルフェニレンジアミン(958mg、7.04mmol、1eq)とブレンドした。この瓶にアルゴンを流し、密閉し、180℃の乾燥機に3時間置いた。このサンプルを乾燥機から取り出し、室温まで冷却した。このサンプルは、黒い(ちらちら光る緑色の)固体の塊であった。サンプルの重さは2.03グラムであり、収率が92%であることを示す。
【0074】
(実施例5)
式(6)の化合物を調製した。
【化20】

式(6)
【0075】
1,2,4,5−テトラヒドロキシベンゼン(158mg、1.11mmol、1.0eq.)を、すり鉢とすりこぎを用いて微細粉末になるまで粉砕し、次いで、N,N’−ジメチル−o−フェニレンジアミン(303mg、2.22mmol、2.0eq.)の入ったガラスバイアルに加えた。このバイアルに十分にアルゴンを流し、密閉し、次いで、フレームガンでわずかに加熱し、均質な固体を作成した。反応物を4時間で180℃まで加熱し、褐色固体を得た。
【0076】
(実施例6)
式(7)の化合物を調製した。
【化21】

式(7)
【0077】
4ドラムバイアルに、磁気撹拌棒を取り付けた。DMA(2mL)および水(2mL)をバイアルに入れ、この溶媒にアルゴンを1時間バブリングした。PdCl(t−BuPhP)(12ミリグラム、20μmol、0.05mol%)をこのバイアルに加えると、橙色の不均一溶液が生じた。ブロモベンゼン(548mg、3.5mmol、10eq)を加え、得られた二相溶液(底部が橙色)をアルゴン下で5分間撹拌した。TH−TAP(100mg、350μmol、1eq)を加え、懸濁物をアルゴン下で5分間撹拌した。NaOH(210mg、5.24mmol、15eq)を加え、このバイアルを密閉した。反応物が暗青色に変わり、これを100℃まで加熱した(ホットプレートの設定温度は115℃であった)。反応物を4時間放置し、次いで、22℃まで冷却した。サンプルをTHF(10mL)に注ぎ、NH4Clで洗浄した(飽和水溶液、10mL×3回)。有機相を濃縮して生成物を得た。標準的な精製方法を用い、生成物を単離し、精製した。一般的な反応を以下に示す。
【化22】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの1,2−ジアミノベンゼン化合物と、1,2,4,5−テトラヒドロキシベンゼン化合物とを反応させることを含む、5,7,12,14−テトラヒドロ−5,7,12,14−テトラアザペンタセン化合物を調製するプロセス。
【請求項2】
5,7,12,14−テトラヒドロ−5,7,12,14−テトラアザペンタセン(TH−TAP)と、窒素原子に対して選択的な、側鎖を生成する試薬とを反応させることを含む、5,7,12,14−四置換−5,7,12,14−テトラアザペンタセンを調製するプロセス。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−131787(P2012−131787A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−269419(P2011−269419)
【出願日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【出願人】(596170170)ゼロックス コーポレイション (1,961)
【氏名又は名称原語表記】XEROX CORPORATION
【Fターム(参考)】