説明

テトラヒドロピランを溶媒とする含硫黄クロロベンゼン化合物のグリニャール試薬の製造方法

【課題】含硫黄クロロベンゼン化合物とマグネシウムを用いてグリニャール試薬を製造する際の含硫黄クロロベンゼン化合物の反応性の低さを改善し、反応速度及びグリニャール試薬の収率を改善すること、及び生成物の取得を容易にする。
【課題手段】含硫黄クロロベンゼン化合物とマグネシウムをテトラヒドロピラン中で反応させるグリニャール試薬の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含硫黄クロロベンゼン化合物とマグネシウムをテトラヒドロピラン中で反応させるグリニャール試薬の製造方法、該方法で製造されたグリニャール試薬とテトラヒドロピランとの組成物、及び該方法で製造されたグリニャール試薬を用いた反応生成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下記一般式(2)
【化1】

(式中、Rは水素原子、アルキル基またはアリール基を表し、nは1〜5の整数を表す。)で示されるグリニャール試薬は有機合成上重要な試薬であり、医農薬(特開平10−168082号公報(特許文献1)、特開平2−188599号公報(特許文献2))や機能材料などの合成原料として用いられる。
【0003】
このようなグリニャール試薬を得る方法としては、一般的には芳香族臭化物、芳香族ヨウ化物または芳香族塩化物とマグネシウムをエーテル系の溶媒中で反応せて合成する。これらの中でも、芳香族臭化物及び芳香族は芳香族塩化物に比べて反応性が高く、好適に用いられる。
しかし、芳香族臭化物または芳香族ヨウ化物を用いる合成方法では、マグネシウムとの反応性が高い反面、芳香族塩化物を用いる方法に比べ分子量が大きくなるので原料の使用量(質量)も多くなるうえ、原料の単価が高いので製造コストが高くなるというような問題がある。
【0004】
一方、芳香族塩化物を用いる合成方法では、芳香族臭化物または芳香族ヨウ化物を用いる方法に比べて原料の使用量が少なく、また原料の単価が低いという利点があるが、マグネシウムとの反応性が低いため、反応時間が長く、またグリニャール試薬の収率が低いなどの問題がある。
【0005】
芳香族塩化物とマグネシウムからグリニャール試薬を合成する方法としては、塩化マグネシウムとカリウムから得られる活性化マグネシウムを使用する方法(特開平9−227575号公報:特許文献3)、エーテル系溶媒と炭化水素溶媒の混合溶媒を使用する方法(特開2003−96082号公報:特許文献4)などがある。
【0006】
しかし、前者の活性化マグネシウムを使用する方法の場合は、カリウムを使用するため安全性に問題がある。
また、後者の混合溶媒を使用する方法の場合、エーテル系溶媒中でのみ生成するグリニャール試薬に炭化水素溶媒を加えるため、グリニャール試薬の安定性が低下し、かつ濃度が低くなる問題がある。
【0007】
このような従来公知のグリニャール試薬製造工程においては、エーテル系溶媒としては一般的にテトラヒドロフランが主に用いられている。このように、溶媒にテトラヒドロフランを使用して合成したグリニャール試薬を、引き続き次工程としてカルボニル化合物やエステルなどと反応させる場合、反応生成物を抽出分離するためには水を加える必要がある。しかし、テトラヒドロフランは水と混和するため、生成物の分離工程が煩雑化したり収率が低下するという問題がある。
【0008】
【特許文献1】特開平10−168082号公報
【特許文献2】特開平2−1885992号公報
【特許文献3】特開平9−227575号公報
【特許文献4】特開2003−96082号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、含硫黄クロロベンゼン化合物とマグネシウムを原料としてグリニャール試薬を製造する際の含硫黄クロロベンゼン化合物の反応性の低さを改善し、反応速度及びグリニャール試薬の収率を改善すること、及び生成物の取得を容易にすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意努力した結果、含硫黄クロロベンゼン化合物を原料とするグリニャール試薬製造工程において溶媒にテトラヒドロピランを用いて反応を行うことにより、本発明を完成させた。
【0011】
すなわち、本発明は以下のグリニャール試薬の製造方法に関するものである。
[1]下記式(1)
【化1】

(式中、Rは水素原子、アルキル基またはアリール基を表し、nは1〜5の整数を表す。)
で示される含硫黄クロロベンゼン化合物とマグネシウムをテトラヒドロピラン中で反応させて、下記式(2)
【化2】

(式中の符号は前記式(1)と同じ意味を表す。)で示されるグリニャール試薬を製造することを特徴とするグリニャール試薬の製造方法。
[2]前記式(2)で示されるグリニャール試薬とテトラヒドロピランを含むことを特徴とするテトラヒドロピラン組成物。
[3]前記[1]に記載の製造方法で製造されたグリニャール試薬を用いてテトラヒドロピラン中で求核付加反応を行うことを特徴とするグリニャール反応生成物の製造方法。
[4]グリニャール反応の後、水を加え、反応により生成した化合物をテトラヒドロピラン層へ抽出する前記[3]に記載のグリニャール反応生成物の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、原料単価が安価な芳香族塩化物、特に含硫黄クロロベンゼン化合物とマグネシウムを用いてグリニャール試薬を製造する際の、含硫黄クロロベンゼン化合物の反応性の低さを改善し、反応時間の長さ及びグリニャール試薬の収率を改善することができる。また、本発明の製造方法で製造したテトラヒドロピランとグリニャール試薬からなるテトラヒドロピラン組成物をカルボニル化合物及びエステル等と反応させる場合には、反応生成物の単離が容易であり、収率の低下等を抑える事が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に本発明の具体的内容について詳細に説明する。
1.グリニャール試薬の製造方法
本発明は、第一に、含硫黄クロロベンゼン化合物とマグネシウムをテトラヒドロピラン中で反応させることを特徴とするグリニャール試薬の製造方法に関する。
【0014】
[含硫黄クロロベンゼン化合物]
本発明で使用される含硫黄クロロベンゼン化合物としては、クロロチオフェノール化合物、アルキルチオクロロベンゼン化合物、アリールチオクロロベンゼン化合物等を用いることができる。
【0015】
具体的には、クロロチオフェノール化合物としては、2−クロロチオフェノール、3−クロロチオフェノール、4−クロロチオフェノールなどを用いることができる。
アルキルチオクロロベンゼン化合物におけるアルキル基は特に限定されないが、直鎖もしくは分岐鎖または環状の炭素数12以下のアルキル基が含まれ、具体的な化合物としては、2−クロロチオアニソール、3−クロロチオアニソール、4−クロロチオアニソール、2−エチルチオクロロベンゼン、3−エチルチオクロロベンゼン、4−エチルチオクロロベンゼン、2−プロピルチオクロロベンゼン、2−プロピルチオクロロベンゼン、3−イソプロピルチオクロロベンゼン、4−プロピルチオクロロベンゼン、3−イソプロピルチオクロロベンゼン、4−イソプロピルチオクロロベンゼン、2−ブチルチオクロロベンゼン、3−ブチルチオクロロベンゼン、4−ブチルチオクロロベンゼン、2−t−ブチルチオクロロベンゼン、3−t−ブチルチオクロロベンゼン、4−t−ブチルチオクロロベンゼン、2−ヘキシルチオクロロベンゼン、3−ヘキシルチオクロロベンゼン、4−ヘキシルチオクロロベンゼン、2,3―ジメチルチオクロロベンゼン、2,4−ジメチルチオクロロベンゼン、2,5−ジメチルチオクロロベンゼン、2,6−ジメチルチオクロロベンゼン、3,4−ジメチルチオクロロベンゼン、3,5−ジメチルチオクロロベンゼン、3,6−ジメチルチオクロロベンゼン、4−(テトラヒドロ−2H−ピラン−2−イル)チオクロロベンゼンなどを用いることができる。
【0016】
アリールチオクロロベンゼン化合物におけるアリール基も特に限定されず、ハロゲン、上記と同様なアルキル基などで置換されていてもよいフェニル基が含まれ、具体的な化合物としては、2−フェニルチオクロロベンゼン、3−フェニルチオクロロベンゼン、4−フェニルチオクロロベンゼン、4−(2−メチルフェニルチオ)クロロベンゼン、4−(3−メチルフェニルチオ)クロロベンゼン、4−(4−メチルフェニルチオ)クロロベンゼン、4−(4−クロロフェニルチオ)クロロベンゼン、4−(4−フルオロフェニルチオ)クロロベンゼン、4−ペンタフルオロフェニルチオクロロベンゼンなどを用いることができる。
【0017】
[マグネシウム]
本発明で用いられるマグネシウムは顆粒のマグネシウム、具体的にはマグネシウム削片、マグネシウムダスト、マグネシウム粉末などの形態のものが好ましい。
本発明においては、マグネシウムは含硫黄クロロベンゼン化合物に対して過剰量用いる。当モルでは反応が実質的に完結せず、また2倍モル量以上では反応を促進させるなどの利点がなくなってしまい、更に反応終了時に未反応のマグネシウムを除去しなければならないという問題がある。
マグネシウムは、含硫黄クロロベンゼン化合物に対して少なくとも1mol当量用いる。好適にはアルキルヨウ化物に対して1.01〜1.5mol当量、さらに好ましくは1.05〜1.35mol当量用いる。
【0018】
[反応活性化剤]
本反応では、反応活性化剤としてハロゲン化合物を用いることができる。反応活性化剤とは、マグネシウムの表面を改質し、マグネシウムとクロロナフタレン化合物との反応性を向上させるものである。
無機ハロゲン化合物としてはヨウ素、臭素、ヨウ化臭素、ヨウ化塩素などを用いることができ、これらの中でもヨウ素が好適である。
有機ハロゲン化合物の例としては、ジブロモメタン、ジヨードメタン、1,2−ジブロモエタン、1,2−ジヨードエタン、1−クロロ−2−ブロモエタン、1−クロロ−2−ヨードエタンまたは1−ブロモ−2−ヨードエタンなどが挙げられ、これらの中でも1,2−ジブロモエタンが好適である。
【0019】
これらのハロゲン化合物を使用する場合の使用量は、マグネシウムに対して0.01〜0.3mol当量使用され、好適には0.05〜0.15mol当量使用される。使用するハロゲン化合物が少ないと十分な反応開始効果が得られず、グリニャール試薬の生成速度が遅くなってしまう場合がある。また、使用するハロゲン化合物の量が多いと、マグネシウムが損失したり、副反応が起こるなどの可能性があり好ましくない。
【0020】
[溶媒]
反応溶媒としてはテトラヒドロピランを用いる。
テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジエチレングリコールジメチルエーテル(ジグライム)などのエーテル系溶媒、トルエン、キシレンなどの炭化水素系溶媒との混合溶媒も使用することができるが、回収、再利用をする観点からテトラヒドロピラン単独で用いることが望ましい。テトラヒドロピランは通常、蒸留、脱水剤処理をして使用され、マグネシウムに対して2〜50倍重量、好適には5〜30倍重量用いられる。
【0021】
[グリニャール試薬の生成]
本反応は、通常窒素、アルゴンなどの不活性雰囲気下で行われる。
通常、テトラヒドロピランとマグネシウムからなる溶液にハロゲン化合物を添加した後、含硫黄クロロベンゼン化合物を一度または時間をかけて添加する方法、テトラヒドロピランとマグネシウムからなる溶液にハロゲン化合物と含硫黄クロロベンゼン化合物を同時に添加する方法、またはテトラヒドロピラン、マグネシウム、含硫黄クロロベンゼン化合物からなる溶液にハロゲン化合物を添加する方法から適宜選択される。
【0022】
反応温度は、通常0℃以上、添加する反応液の還流温度以下で行われ、好ましくは25℃以上、反応液の還流温度である。
【0023】
2.グリニャール反応生成物の製造方法
本発明は、第二に、このようにして得られたグリニャール試薬を、次工程で増炭素反応するために用いたグリニャール反応生成物の製造方法に関する。
【0024】
[被求核付加剤]
本発明にて得られるグリニャール試薬は、以下の被求核付加剤と反応させて増炭生成物であるグリニャール生成物を与える。
このような被求核付加剤としては、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ブチルアルデヒド、クロトンアルデヒド、3−フェニルプロピオンアルデヒド、ベンズアルデヒド、アニスアルデヒド、p−クロロベンズアルデヒド、p−メチルベンズアルデヒド、テレフタルアルデヒドなどのアルデヒド化合物、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、シクロヘキサノン、アセトフェノン、ベンゾフェノンなどのケトン化合物、蟻酸メチル、酢酸メチル、安息香酸エチル、アニス酸メチルなどのエステル化合物、蟻酸、酢酸、安息香酸、アニス酸、などのカルボン酸化合物、蟻酸クロライド、酢酸クロライド、安息香酸クロライド、アニス酸クロライドなどの酸クロライド化合物、N,N‘−ジメチル酢酸アミド、N,N‘−ジエチルベンズアミドなどのアミド化合物、アセトニトリル、アクリロニトリル、ベンゾニトリル、テレフタロニトリルなどのニトリル化合物、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、ε−カプロラクトンなどのラクトン化合物、プロピレンチオド、ブチレンチオド、イソブチレンチオドスチレンチオド、ビスチオフェノールAなどのエポキシ化合物、オキセタンなどの4員環状化合物などを用いることができる。
【0025】
また、二酸化炭素、二硫化炭素などのC1化合物、酸素、硫黄などの分子状化合物、含硫黄有機化合物として、ジメチルスルホン、ジエチルスルホン、ジフェニルスルホンなどのスルホン化合物、含窒素有機化合物として、メチルイソシアネート、フェニルエソシアネートなどのイソシアネート化合物、ニトロソベンゼン、p−ジニトロベンゼン、p−ニトロソトルエンなどのニトロソ化合物なども用いることができる。
上記の中でも、アルデヒド化合物、ケトン化合物、エステル化合物、カルボン酸化合物、クロライド化合物、アミド化合物、ニトリル化合物、ラクトン化合物およびエポキシ化合物は工業的に特に有用であり、本発明でも好適に使用することができる。
【0026】
通常、アルデヒド、ケトンなどのカルボニル化合物、またはエステル化合物などの反応原料のテトラヒドロピラン溶液に、前工程で製造したグリニャール試薬を添加し、求核付加反応によりアルキル基を導入させる。逆に、グリニャール試薬の中に反応原料を添加してもよい。
【0027】
[溶媒]
本工程においても、溶媒としてテトラヒドロピランとテトラヒドロフラン、ジオキサンまたはジグライムなどのエーテル系溶媒、トルエン、キシレンなどの炭化水素系溶媒との混合溶媒を使用することもできるが、回収、再利用をする観点からテトラヒドロピラン単独で用いることが望ましい。
【0028】
反応終了後に反応液に水を加え、生成物を抽出分離する。テトラヒドロピランは水と分離するので、容易に生成物を取得することができる。
また、テトラヒドロピランは蒸留回収後、脱水処理をして再使用することができ、これにより溶媒の使用量を低減することができる。
【0029】
上述したことをまとめて、本発明で適用できる反応例としてグリニャール試薬の原料に含硫黄クロロベンゼン化合物(Phは含硫黄置換基で置換されたフェニル基を示す)を用いた場合の反応を以下の化学式に示す。
【化1】

【実施例】
【0030】
以下に本発明について代表的な例を示し具体的に説明するが、本発明はこれらに何ら制限されるものではない。
なお、実施例における各成分の分析はガスクロマトグラフ装置(アジレント製,6890N)を用い、分析カラムとしてJ&W製DB−1カラム(長さ30m,直径0.32mm,膜厚1μm)を用いた。また、難揮発物質の分析には高速液体クロマトブラフ装置(SHIMADZU社製,LC−2010HT)を用い、分析カラムとしてRP−18(ODS)フルエンドキャップ処理済(関東化学製)を用いた。
【0031】
[実施例1]
アルゴン雰囲気下、容量50mlのナスフラスコに撹拌子、マグネシウム0.29g(12mmol)、テトラヒドロピラン10ml、1,2−ジブロモエタン0.11g(0.6mmol)、3−クロロチオアニソール1.59g(10mmol)を加え室温で加えた後、緩やかに撹拌した。還流下で12時間撹拌した後、室温に冷却し、3−メチルチオフェニルマグネシウムクロライド(グリニャール試薬)のテトラヒドロピラン溶液を得た。
反応液を一部サンプリングし、メタノール中に加え、ガスクロマトグラフィ(GC)で定量したところ、3−クロロチオアニソール0.7%、チオアニソール99.1%であった。反応により生成した3−メチルチオフェニルマグネシウムクロライドはメタノールと反応しチオアニソールとなる。
【0032】
[実施例2]
アルゴン雰囲気下、容量50mlのナスフラスコに撹拌子、マグネシウム0.29g(12mmol)、テトラヒドロピラン10ml、1,2−ジブロモエタン0.11g(0.6mmol)、4−フェニルチオクロロベンゼン2.22g(10mmol)を加え室温で加えた後、緩やかに撹拌した。還流下で15時間撹拌した後、室温に冷却し、4−フェニルチオフェニルマグネシウムクロライド(グリニャール試薬)のテトラヒドロピラン溶液を得た。
反応液を一部サンプリングし、メタノール中に加え、GCで定量したところ、4−フェニルチオクロロベンゼン2.3%、ジフェニルスルフィド97.0%であった。反応により生成した4−フェニルチオフェニルマグネシウムクロライドはメタノールと反応しジフェニルスルフィドとなる。
【0033】
[実施例3]
グリニャール試薬の調製
アルゴン雰囲気下、容量300mlのナスフラスコに撹拌子、マグネシウム2.91g(120mmol)、テトラヒドロピラン20mlを加え、室温で緩やかに撹拌した。更に1,2−ジブロモエタン1.13g(6mmol)を加え5分加熱撹拌し、還流下で4−クロロチオアニソール15.9g(100mmol)のテトラヒドロピラン80ml溶液を添加した。還流下で18時間撹拌した後、室温に冷却し4−メトキシフェニルマグネシウムクロライド(グリニャール試薬)のテトラヒドロピラン溶液を得た。反応液を一部サンプリングし、メタノール中に加え、GCで定量したところ4−メチルチオフェニルマグネシウムクロライド(チオアニソールとして定量)の収率は98%であった。4−メチルチオフェニルマグネシウムクロリド98mmol換算として、グリニャール反応に使用する。
【0034】
グリニャール反応と生成物の単離
アルゴン雰囲気下、容量300mlのナスフラスコに撹拌子、4−メチルチオベンズアルデヒド14.0g(92mmol)、テトラヒドロピラン50mlを加え室温で撹拌した。氷冷下カニューレを用いてさきに調製したグリニャール試薬を10分かけて添加した。反応温度を室温に昇温しさらに3時間反応させた。水100mlを加え、10%塩酸水溶液でpH=4前後に調製した。反応液を分液し、水100ml、続いて飽和食塩水でテトラヒドロピラン層を洗い、硫酸マグネシウムで乾燥させた。一晩乾燥後、テトラヒドロピランを留去し、真空ポンプで残存するテトラヒドロピランを除いた。4,4‘―ジメチルチオベンズヒドロール粗生成物22.1g(粗収率87%)を得た。
【0035】
[実施例4]
実施例3で調製した4−メチルチオフェニルマグネシウムクロライドのテトラヒドロピラン溶液(98mmol換算)をアルデヒド、ケトン、エステルに添加し、3時間室温で反応させた後、GCまたは液体クロマトグラフィ(HPLC)で定量した。結果を表1に示す。収率は原料基準である。
【0036】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明によれば、原料単価が安価な芳香族塩化物、特に含硫黄クロロベンゼン化合物とマグネシウムを用いてグリニャール試薬を製造する際の、芳香族塩化物の反応性の低さを改善し、反応時間の長さ及びグリニャール試薬の収率を改善することができる。
また、本発明の製造方法で製造したテトラヒドロピランとグリニャール試薬からなるテトラヒドロピラン組成物をカルボニル化合物及びエステル等と反応させる場合には、反応生成物の単離が容易であり、収率の低下等を抑える事ができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)
【化1】

(式中、Rは水素原子、アルキル基またはアリール基を表し、nは1〜5の整数を表す。)
で示される含硫黄クロロベンゼン化合物とマグネシウムをテトラヒドロピラン中で反応させて、下記式(2)
【化2】

(式中の符号は前記式(1)と同じ意味を表す。)で示されるグリニャール試薬を製造することを特徴とするグリニャール試薬の製造方法。
【請求項2】
前記式(2)で示されるグリニャール試薬とテトラヒドロピランを含むことを特徴とするテトラヒドロピラン組成物。
【請求項3】
請求項1に記載の製造方法で製造されたグリニャール試薬を用いてテトラヒドロピラン中で求核付加反応を行うことを特徴とするグリニャール反応生成物の製造方法。
【請求項4】
グリニャール反応の後、水を加え、反応により生成した化合物をテトラヒドロピラン層へ抽出する請求項3に記載のグリニャール反応生成物の製造方法。

【公開番号】特開2008−169158(P2008−169158A)
【公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−4801(P2007−4801)
【出願日】平成19年1月12日(2007.1.12)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】